生まれ変わったら魔王の兄だった   作:ジーザス

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班別対抗試験②

1週間後。

 

「案の定、俺は後衛になったか」

「不満だった?」

「いや、ミーシャと話ができるからむしろ嬉しい」

 

これは紛れも無い本音だ。ミーシャとの会話はストレスなく、気持ちよく進んでいく。これほどストレスを感じない会話はないだろう。

 

父さんも母さんも悪くないが、いささか早とちりすぎるので頭痛がすることがある。アノスは敵を作るのが至極上手だ。父さんと母さんとは違った頭痛を引き起してくれる。

 

消去法的に考えて、ミーシャが最高の会話相手になるのだった。

 

「なんか恥ずかしい」

「本音は隠さず言うのが吉だよ。隠さなけれならないときもあるけど、今は別段隠す必要もないからね」

 

無表情な中にも照れくさそうなものが垣間見える。こういった表情を見せてくれるのは、素直にありがたいと思える。あらゆる感情を見せるということは、それ相応の友好関係を築けている証拠だ。

 

入学試験から1週間程度続く友人関係で、信頼してもらえるのは友人冥利に尽きるというものだ。

 

さて、現状報告をしておこう。俺たちは現在、サーシャ・ネクロン率いる班と模擬演習を行っているところだ。ディルヘイドの外に広がる〈魔樹の森〉でである。ここでならどれだけ派手に魔法をぶっ放しても、街に被害を出すこともない。遠慮せずに戦えるのだから、演習には持ってこいの土地だ。それに大量の魔力で満ちたこの場所なら、一夜のうちに完全回復してみせる。いくらでも破壊し放題といったところか。

 

「アノスはどうするの?」

「決まっている正面突破さ。そろそろサーシャ・ネクロンも《思念通信(リークス)》で指揮を出し始める頃かな。少し傍受してみよう」

 

創造建築(アイリス)》創り出した3つの城のうちの1つの中で、呑気に敵陣の情報を盗み出す。第三者からしてみれば、卑怯だと言われることだろう。

 

如何に模擬演習であっても、せこいことをすれば文句を言われる。だがこの程度で負けるようでは意味がない。それにこの演習で負けたら面倒なことになる。アノスか俺のどちらか1人でもいれば負けることはないのだが。

 

それでもミーシャとサーシャが《契約(ゼクト)》を交わしているので、負けるわけにはいかないのだ。

 

『サーシャ様、敵陣に3つの城が建てられました』

『おそらく2つは罠ね。この短時間でミーシャは完全な魔王城は建てられない。時間稼ぎをして堅牢にする作戦よ。そうなる前に叩くわ。まずは先発部隊を敵陣へ…「それはどうかな」えっ!?』

 

割り込んだだけで驚かれてしまった。

 

『馬鹿な!こちらの《思念通信(リークス)》が聞こえているのか!?』

「暗号術式が低次元すぎる。秘密を話していますと敵に教えているのと同じだ」

 

普通であれば、《思念通信(リークス)》を傍受するのは不可能だ。だが森に流れる魔力とは違う魔力を感じれば、それをきっかけに大元の発生源まで逆探知できる。そこからは暗号解読をすればいいだけの話だ。

 

もっとも解読した通信が偽物であることも否めないのだが。このようなお巫山戯で、カモフラージュをする必要などないと考えるのが妥当だ。もちろん二重三重の罠を張っているかもしれない。それがないことは1回視ただけでわかっている。聞こえた言葉を聞けば、解読されたり介入される弱さではないと思い込んでいたようだ。

 

本当につくづく甘い。奴等が利用している暗号術式は、【二千年前の神話の時代】で使われた教本に書かれている程度のものだ。今ではそれさえ暗号強度としては最高レベルのようだが。それに俺が《思念術式(リークス)》を見つけた理由は、魔力の波動を察知していたからだ。自然に存在する魔力と魔族が使用する魔力は、波動が大きく異なっている。

 

ここら一帯に満ちている魔力は森そのものだ。そこに魔族が放つ魔力の波動が流れれば、違和感や異物感が混入するのは当然のこと。

 

「アルファスは凄い」

「2000年前なら当たり前の能力だよ。もっとも今の時代では異能として扱われそうだけど」

 

魔王(キング)のアノスが前衛にいる限り、築城士(ガーディアン)であるミーシャと魔導士(メイジ)である俺は、特にすることがない。

 

魔王(キング)が戦闘不能、または《魔王軍(ガイズ)》を維持できなくなれば負けだ。そうならないために、7つのクラスに分けられた配下は魔王(キング)を守りながら戦う。

 

後ろで配下の戦いを見ていればいいはずの魔王(キング)が、前衛に出て戦うなど前代未聞の采配。誰が見ても一瞬は間抜け面をさらすことになるだろう。そんなことを承知の上で、アノスは敢えて自分から前に出る。予定通り敵陣の真正面にアノスが《転移(ガトム)》で現れた。

 

『…まさか〈転移魔法〉?たとえそうであっても魔王(キング)が来たところで、多勢で造り上げたこの城は突破できない』

 

アノスが何をしているのか《遠隔透視(リムネト)》で見ながら、その光景をミーシャの《魔眼》にも流す。本来はその情報量に耐えきれずに失明するものだが、ミーシャの《魔眼》は耐えるだけの魔力を秘めているようだ。見ているだけでもまだまだ余裕がある。これは本格的に将来が楽しみな魔族だ。

 

『無駄よ。反魔法も多重に掛けられているわ』

 

アノスが魔王城に触れようと手を伸ばしたのを見て、サーシャが勝ち誇ったように呟く。どうもこの時代の魔族は、魔法にだけ重きを置いているようだ。

 

「魔法だけを気にするとは。戦闘という意味をまったくわかっていないな」

「魔法で勝てないのにどうするの?」

「簡単な事だ。力で捻じふせればいい」

 

俺の言葉通り、アノスが反魔法を貫いて魔王城を鷲掴みにする。片手で城を持ち上げると、傍受した《思念通信(リークス)》から悲鳴と驚愕の声が聞こえてくる。

 

「地力の差に驚いたか」

「馬鹿力」

「この程度で驚いてたら、あっという間に脳の許容量を突破するよ」

「その時はアルファスに治してもらう」

 

いくらでも治してやるさ。おっと、そうこうしている間にアノスが魔王城をぶん投げている。あの大きさの城を投げ飛ばすのは意外と楽しそうだ。投げることが早々ない今の時代で、体験できる相手は幸せだろう。

 

単純に俺が遊びたいだけなのだが。

 

「遊んでるわりには手加減がすぎるな」

「あれで?」

「アノスがもう少し強く投げていたら、城は跡形もなく崩壊していた。耐えきるだけの強度を、存外に持ち合わせていたことを褒めるべきかな」

 

こちらとは違って大勢で造り上げた魔王城だ。そこらの魔族が創造する魔王城とは、安易に比較できないほど強固な物だろう。だが生憎、ミーシャが築いた3つの城はそれぞれが向こうに劣らぬ堅牢さを持ち合わせている。力を分散させながらも引けを取らない城。ミーシャの潜在能力にはまったく驚かされる。

 

『…《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》を使うわ』

『「ほう」』

 

投げ飛ばされた魔王城から聞こえたサーシャの決意に、俺とアノスは同時に微笑む。《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》は、炎属性魔法の中で、最高の威力と難易度を持つ強力な魔法だ。それに全員の魔法技術の計算が合ってこそ発動できる。

 

【二千年前の神話の時代】では、1人が当然のように使用していた。今の時代では、皇族の実力者が20人集まってようやく成功率2割程度だ。どれだけ魔法技能が低迷しているかがまったくよくわかる。

 

20人の実力者が長い時間をかけて習得できるものだというのに、サーシャ・ネクロンはこの僅かな期間で、実戦で発動できるだけの練度まで高めたのだ。戦況をいち早く取り込む情報収集能力。的確且つ最適な策を打ち出す情報把握力。そしてその総てを可能にし、配下から絶大な信頼を得る指揮能力とカリスマ性。

 

敵にしておくには惜しい人材だ。魔力も申し分ないし何よりあのキャラを俺たち3人は持ち合わせていない。同じ班になれば明るく楽しいメンバーになれる。

 

半壊した魔王城から、魔法陣で描かれた大砲が構築されていく。実力者20人でようやく成功率2割程度になる魔法を、ほんのわずかな時間で展開するとは。存外にサーシャの班員もそれなりの強者揃いなのかもしれない。いや、サーシャの天才的な指揮力に感化されたというべきか。普段なら出せない実力を無意識のうちに引き出す。当然の如く成すその統率力は、俺を凌ぐ可能性がある。

 

魔力によって構築された大砲がこちらに狙いを定める。各自の特性を活かしながらそれぞれの魔力を発動し、それらを十数倍に引き上げる〈集団魔法〉。これが《魔王軍(ガイズ)》の真骨頂。大勢で使用する魔法に適した最高の魔法だ。

 

『みんなの気持ち、私が預かったわ。いくわよぉぉぉぉ!喰らいなさい雑種!《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》!』

「俺がやろう」

『わかった』

 

思念通信(リークス)》で、魔王城の真正面に立っていたアノスに問いかける。その言葉を聞いてアノスが《転移(ガトム)》でその場を離れたのを確認後、サーシャが創造した魔王城から魔法を発動する。

 

「この短期間でよく完成させた。褒美を受け取れ」

 

右人差し指に炎を灯して発射させた。木々を薙ぎ倒しながら飛来する《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》。木々の枝葉をかいくぐって飛翔する炎。先程までアノスが立っていた場所で、その2つが正面衝突を起こした。

 

『相殺された!?』

『いえ!向こうは健在です!』

『ちっ、みんな回避!』

 

そう言いながらも、自分は配下を守るために多重の反魔法を発動させている。魔王(キング)が戦闘不能になれば敗北だというのに。だがその程度の反魔法で俺の魔法が防げるわけがない。サーシャの魔法を紙切れのように貫通した炎が、魔王城に着弾した。爆発による爆風で周囲の木々は根こそぎ吹き飛ぶ。

 

魔王城を構築していた瓦礫の中で、唯一生存しているサーシャの目の前にアノスが《転移(ガドム)》で現れる。自身の魔法が破られたことより、《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》を破られたのが悔しいらしく、サーシャが生存している仲間を探してキョロキョロしている。

 

『…まさか1人で《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》を発動できるなんて』

『違うぞ。我が兄が放ったのは《火炎(グレガ)》だ』

『うそ…炎属性最低魔法に負けるなんて』

『お前らとは地力が違うのだ。それに我が兄は時に俺より強い』

 

そこまで煽てられると照れるな。確かにアノスより優れたものがあるにはある。だが人を動かすのは力ではない。心で動かさなければ配下は付いてこない。アノスにはそれができる。アノスより優れていようと、配下を導く能力が高くない俺は魔王に適さない。

 

『死になさい!』

『断る』

 

遠隔透視(リムネト)》で見ていると、サーシャがアノスに《破滅の魔眼》を向けたようだ。だがミーシャ程度の魔力では、アノスを〈破滅〉することなどできない。相手の魔力が〈破滅〉の概念より強ければ、その効果を発揮することができない。

 

いつかはアノスを越える《魔眼》を持つかもしれないが。アノスが《滅紫の魔眼》を浮かべながら、見下さずにサーシャを見下ろす。

 

『《魔眼》…どうしてそれを』

『お前にできることが俺にできないと思ったか?まあいい。とりあえずこれからお前は俺の班員だ』

『仕方ないか。《契約(ゼクト)》に逆らうことはできないものね』

 

アノスとサーシャは、班別対抗試験前にある約束事をしていた。アノスが勝てばサーシャがアノス班に。サーシャが勝てばアノスがサーシャのもの(・・・・・・・)に。サーシャの要件は、アノスの要件と比べていたくおかしなものだが気にしないでおこう。何があってもアノスが負けるわけがないのだから。

 

『俺のわがままだけではない。妹も仲良くしたいそうだ』

 

アノスの言葉と同時に、俺とミーシャは《転移(ガトム)》で移動する。

 

「サーシャ、怪我してる」

「こ、これぐらい平気よ。そう、ミーシャのために動いたのね。お優しいことだわ」

 

嘲るような声の中にも嬉しさが感じられた。まるで自分以外の誰かが、ミーシャに優しく接する存在がいることが嬉しいとでもいうように。もっと素直に「ありがとう」と言えばいいと思うが。

 

「それもないわけではないが、柄にもない個人的な感情もあったのだ。1つは我が兄に効果がないとはいえ、《破滅の魔眼》を向けたこと。本来ならば串刺しでもよいのだがな。如何せん今の時代は、そういう行為は常軌を逸すると評される。班員になればその不敬も気にしなくて済む」

 

俺としては特に気にしていないのだがな。敵意を向けられるのには慣れているし、あの時に喧嘩を売ったのは俺だ。怒りを買ってもおかしくないことをした。

 

だがアノスはそれを野放しにできなかったらしい。かつて〈暴虐の魔王〉として恐れられたアノス。誰にも見せなかった側面がある。それは意外とアノスがブラコンだったことだ。幼い時から俺の後ろを追いかける無邪気さは、〈暴虐の魔王〉と呼ばれるようになってからも変わらなかった。ついぞ配下・勇者・大精霊・創造神に知られることはなかったが。

 

「まだ私を勧誘した理由はあるんでしょ?」

「そうだな。正直に言うと、お前の《眼》が綺麗だった」

「なっ///」

 

予想外に褒め言葉をもらってサーシャが赤面する。それと同時に《破滅の魔眼》が発動する。ミーシャによるとサーシャの《眼》は、感情が昂ることで自然と浮かぶらしい。

 

制御できない魔法は危険だ。最初のうちは周囲だけで済むが、いつかは自分自身まで〈破滅〉させてしてしまう。制御できない自分への怒り、他者を殺してしまった罪悪感。それらの積み重ねで心は崩壊していく。

 

制御できるだけの腕を手に入れるには、魔力の向上と長期間の感情の昂りを抑える訓練が必要だ。今から始めれば間に合わずに死ぬこともないだろう。

 

「本当だぞ。そこまで綺麗な《眼》を俺は見た事がない。《魔眼》は強力であれば何でも良いというわけではないのだ。聞いているのか?」

「…聞こえないわよ馬鹿」

 

小さく零された言葉が俺たちに届く。褒められることはあっても、《魔眼》を褒められたことはないのだろう。いや、《魔眼》の強力さを褒められることがあっても、色を褒められることはなかったというのが正しいかもしれない。

 

「アノスはたらし?」

「かもな」

「はいそこ。イチャイチャしない」

 

ミーシャと小声で話しているとサーシャに怒られる。

 

「なんだサーシャ。羨ましいのか?」

「勝手に斜め上の解釈をしないで!」

 

からかっただけなのに本気で怒られてしまった。サーシャはからかわれることが嫌なのだろうか。それともからかわれたことがないから、どう反応したらいいのか迷っているのか。どちらにせよからかい甲斐のあることは理解した。するとミーシャが廃墟と化した周囲を見渡しながら言う。

 

「木とか大丈夫?」

「気にしなくていい。自然は壊れても勝手に戻るだけだからね。さてと、試合も終わったことだし教室に戻ろうか」

 

アノスと2人でサーシャ班の生徒を、《治療(エント)》で治してから〈移動魔法〉を使って森を出ることにした。

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