生まれ変わったら魔王の兄だった   作:ジーザス

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判別対抗試験③

教室で残りの授業を終えて帰宅する。どうやら今日の授業内容を少なからず知っていたらしく、店のドアを開けた途端、母さんにアノスと2人揃って抱きしめられた。

 

「初めての試合で勝っちゃうなんて。どうして2人はそんなによくできた子なのかしらぁ〜」

 

頬擦りしながら言う言葉ではないのだが。まあ、母親からの愛情は浴びるほどもらっても負担はない。もらえるうちにありったけもらっておこう。最大限の安全は保証するが、何時いかなる時に危険が及ぶかわからないからな。

 

「ああ、それと今日も客人を連れてきたのだが」

「あらミーシャちゃん、いらっしゃい」

「うん」

「初めましてサーシャ・ネクロンです。以後お見知り置きを」

 

ミーシャの後ろからサーシャが顔を出す。

 

「なっ!」

 

あ、また始まるぞ母さんの早とちりが。

 

「な、な、な、2人がまた新しいお嫁さんを連れてきちゃったよぉぉぉぉぉ!」

「な、なんだとぉ!?」

 

父よ、どんな速度で階段を駆け上がれば工房から店に出てこられるのだ。もはや《転移(ガトム)》並の速度だぞ。

 

「お、お前らなんてことを!父さんだって2人目なんてもらったことないのにぃぃぃぃ!」

 

色々と勘違いがすごい。ここまでくると俺の頭の処理能力では処理しきれないな。

 

「…何なのこれ」

「「我が家だ」」

「2人の家族」

 

サーシャの感想に俺たちはそう答える。いつも通りの父さんと母さんに慣れた様子のミーシャは、柔らかな微笑を浮かべている。空気についていけていないサーシャは、頭の上に?をいくつか浮かべていた。

 

 

 

勝利祝いと断じて違う嫁紹介を兼ねての夕食が始まる。今日も母さん特製のきのこグラタンに舌づつみを打つ。

 

「今日も沢山あるからねぇ〜いくらでも食べてねぇ〜」

 

机の上に並べられた6人分のきのこグラタン。奥のキッチンにはその数倍が置かれている。沢山あるのは非常に嬉しいが、あまりにも作りすぎではなかろうか。

 

「ちょっと聞きたいんだけどね。サーシャちゃんはどちらを選ぶのかな?」

「「ブフォ!」」

「はぁ!?」

 

母さんの変わり具合に、俺たちは口に入っていたきのこグラタンを吹き出す。追撃として気管に入り込んで深く咳き込んでしまう。前回と違うのは、ミーシャが俺の背中を優しくさすってくれたことだ。気管の痛みは抜けなくとも精神的な痛みは大幅に改善された。

 

「どっちから声をかけたのぉ?」

「我が兄に声をかけたのはサーシャからだ」

「きゃ〜。ミーシャちゃんと違って相手が来るのを待つなんてこの浮・気・者。それでサーシャちゃんは2人のどこが好きになったの?」

「浮気は良くないぞ2人とも。2人同時に愛してこそ我が息子だ!」

 

アノスが楽しそうに回答を口にする。それを言ったらサーシャが可哀想になるのだがわかっているのか?いや、人の感情に疎いアノスにそれを求めるのは酷か。間違ったベクトルで解釈するアノスだから、気にしないというよりは気付いていないというのが正しいだろう。

 

浮気は良くなくて、同時に愛せばいい?どちらにせよ浮気のようなものでは?父さん、羨ましくてもズレた言葉を言うものではないぞ。

 

「ちょっと、私何も言ってないのだけど!?」

「応援するわよサーシャちゃん!貴方が2人のどちらを選ぶのかで迷ってても何も言わないわ!むしろ2人とも好きになっていいからね!」

「す、好き!?そ、そんな感情なんかないわよ!」

「恥ずかしがらなくていいわ。今気付いてなくてもいつか気付く日が来るから。その日までお母さんはいつまでも待つわ。あら、お義母さんの間違いだったかしら?きゃ〜」

「ということは、お父さんはお義父さんになるのか!?」

 

あまりの父と母のマシンガントークと勢いに、耐えきれなくなったのかサーシャは机に突っ伏した。ミーシャのとき以上なのだから突然と考えれば当然か。

 

「…あんた達よく耐えられるわね」

「私は2回目だから」

「いつものことだからね」

「いつものことだ」

 

俺たちの答えにも疲労を感じたのか。食事を再開したサーシャの速度は、それからも上がることなく等速運動を続けるのだった。

 

 

 

夕飯を終えて少し時間が経った。時間もそこそこ遅いので、2人をアノスと一緒に送ることにした。ミーシャとサーシャは、俺たちの前で手を繋ぎながら歩いている。その微笑ましい光景からは、昼までの2人の確執が一切感じられない。まるで昔から変わらず仲良く遊んでいる姉妹のようだ。

 

「いいものだな。他種族の驚異に怯えることなく、安心して暮らしている子孫を見られるのは」

「これを求めて俺たちは壁を創ったんだ。こうでなければ昇天してしまう」

「頼むからそれだけは勘弁してくれ。俺だけでなく母さんや父さんまで悲しむ」

 

確かに俺もアノスや母さんと父さんから別れたくはない。アノスは唯一ほぼ完全に血の繋がった家族だ。言ったら悪いが母さんや父さんより繋がりを強く感じてしまう。もちろん母さんや父さんの身に危機が迫れば、全力で駆け付けて守ろう。生命を落とした本当の母さんと父さんの子供たちのためにも、俺たちは今を生きなければならない。

 

母さんは元々子供を産める身体ではなかった。だが奇跡が起きた。母さんに子供ができたのだ。それも2人。医師からはありえないことが起きたと驚かれたほどだ。

 

だが皮肉にも同じ奇跡は二度も起きなかった。子供を産めない身体の母さんに宿った生命は、誕生することなく死んでしまった。それは偶然なのか必然なのか。死んだばかりの子供の身体に、〈根源〉だけになってこの世界に漂っていた俺たちが宿ることになった。

 

失われたばかりの生命に、俺たちは引き寄せられた。産まれてくることを切望していた母さんと父さんの想いに、俺たちの〈根源〉が引き寄せられたのか。

 

〈根源〉の強さに関わらず、器の強度は求められない。どれほど強力な魔族の〈根源〉であっても、器が純血だろうと混血だろうと能力には影響しない。〈根源〉の強さに器が耐えられないことなどないのだ。〈根源〉が器に宿れば、身体はその〈根源〉に最適なものへと変わる。だから〈暴虐の魔王〉が純血に転生しても混血に転生してもさしたる違いはない。

 

「ここまででいいわ。お疲れ様」

 

気が付けば2人の自宅に到着していた。通りを歩く者からすれば、仲の良い姉妹をつける怪しい2人組に見えたかもしれない。

 

「今日は騒がしくて悪かった」

「気にしなくていいわ。楽しい夕食を自宅以外で味わえるなんて思わなかったもの」

「そう言ってもらえると嬉しいな」

「大切にしなさいよ。家族の時間を」

「魔王としてではなく息子として過ごすさ」

 

あれほど親バカな存在はいないだろう。ミーシャの親代わりの父も、俺たちの両親に引けを取らないかもしれないが。

 

「ねえ、2人とも。もし運命が定められているとしたらどうする?」

「いきなりぶっとんだ質問だ。でもまあ決めてるさ」

「そんなのは決まっている」

 

俺たちは一字一句、異なることなく同じタイミングで言葉を紡いだ。

 

「「ぶっ壊せばいい」」

「…相変わらず脳筋ね」

「おぉ〜」

「そろそろ時間だな。ではまた明日だ」

 

2人に手を振って俺とアノスは、2人が呆れと感動を伝えているのを見ながら《転移(ガトム)》で自宅へと帰った。

 

 

 

アノスとアルファスが〈転移魔法〉で去ってから、私はミーシャに聞いてみた。

 

「ミーシャは2人が好きなの?」

「好き」

「考えもしないのね」

「アノスは友達として好き。アルファスはなんだか違う好きな気がする」

 

友達としての好きじゃないなら、それは異性としての好きということかしら。魔法人形でしかないミーシャが、そんな感情を抱くなんておかしな話ね。

 

「どこが好きなの?アルファス・ヴォルディゴードの」

「優しいところ」

「優しいって。そりゃアノス・ヴォルディゴードと比べたら優しいかもだけど」

「サーシャは2人が好き?」

「は、はぁ!?」

 

私がアノスを好き!?ありえないわ。純血であるネクロン家の血を引く私が、混血の雑種を好きになるなんてあるわけないわ。

 

けど…。

 

「…2人は私を見てくれた。見ただけでいろんな物を壊してきた私の《眼》をまっすぐ見てくれた。それにアノスは私の《眼》を綺麗だって言ってくれたわ。アルファスは魔力が高いとしか言わなかったけど」

 

《魔眼》で物を壊して人を殺したことは何度もある。だから私の《魔眼》を褒めてくれる人なんていなかった。見た人はみんないなくなったから。

 

破壊するから付けられた異名の《破滅の魔女》。今では自分から名乗っているけど、本当ならわざわざ言う必要は無いあだ名でしかない。ネクロン家だからとか純血だからってことで名乗ってるだけ。あだ名・肩書・異名・2つ名なんて言い方は一杯あるけど、ほしいと私から願ったものじゃない。いつしか与えられていたもの。

 

「アノスは回りくどいことが言えないから、直接感想をサーシャに言ったんだと思う。アルファスはサーシャの《眼》が綺麗だってわかってたから言わなかった」

「何でアルファスは言わなかったのよ。言えばいいじゃないアノスみたいに」

「言わなくていいことだったのかも。アルファスにとって、サーシャの《魔眼》が綺麗じゃなくても魔力を持っていなくても気にしない。サーシャはサーシャだって認めてたから」

 

喧嘩を売りに行った私を認めていた?《魔眼》じゃなくて私に魔力があると見抜いていたから?純血には使い道があると思ったから?

 

馬鹿馬鹿しい。反吐が出るくらいに人が良いのね。…でも、今まで私を見た人や知ってる人は頭を下げることしかしなかった。でも2人は違う。私と対等であり私より上の存在であることを当然のように言っていた。

 

言葉を交わした時は腹立たしかったけど、今は何故かそれを嬉しく感じる私がいる。〈七魔皇老〉が1人、アイヴィス・ネクロンの直系であるネクロン家のお零れに預かろうとする魔族は大勢いる。

 

でも2人は地位を気にせず話しかけてくれた。地位程度で関係を変えるつもりは無いとばかりに。それが新鮮で驚愕した。普通なら頭を垂れたり、従属するとでも言いそうなのに。純血はともかく混血にそんな扱いをされるなんて、入学して話すまで思ってもみなかった。

 

「ミーシャはアルファスとどうしたいの?」

「一緒にいたい。ずっと」

「本当に好きなのねアルファスのこと」

「大切なこと教えてもらった。それにサーシャと仲直りするきっかけをくれた」

 

寿命が決まっている人生(・・・・・・・・・・・・)であっても夢を見る。まるでそこにアルファスがいるように、ミーシャが夜空を見上げている。私もつられて空を見上げる。

 

長ったらしく書かれた星についての本が私は好きだった。子供向けの絵本には、笑ってしまうような内容が書かれている。「星の輝きは、神話の時代の魔族が子孫の繁栄を願い、その身を魔力に変えた名残。星となって彼方から子孫を見守っている。その光こそ祖先が生きた証である」。

 

子供向けの割にはなかなかに難しい言葉遣いだけど。

 

でも本当は違う。星々の煌めきは、この地から遥か彼方にある場所で何かが起こったあとの残滓。それが光となって私たちが見えているだけ。その光は何年・何百年・何千年かけて此処に届く。私たちが今見ている星の煌めきは、かつて何かが起こったときのものだと。

 

何があって光となるのか。それはかつてからずっと研究されてきた。今でもそれは解明されていない。2人に聞けばわかるのかしら。〈失われた魔法〉のように〈失われた技術〉や〈失われた文明〉みたいなものがあってもおかしくないだろうし。

 

クラスメイトが話しているのを聞いたことがある。2人は【二千年前の神話の時代】から転生してきた魔族なのだと。そしてアノス・ヴォルディゴードは、私たちが知っている魔王アヴォス・ディルヘヴィアではなく、自分こそが真の魔王であると名乗っていると。

 

あれだけの魔力と存在感を知れば、その言葉が嘘ではないのかもしれないと思ってしまう。もちろん私たちより魔力が高いだけで嘘をついている可能性だってある。

 

でも、〈失われた魔法〉の一種である〈転移魔法〉《転移(ガトム)》を使ったり、炎属性最強魔法の《獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)》を、炎属性最低魔法の《火炎(グレガ)》で打ち破る力を持つ。

 

もしかしたら2人は本当に、【二千年前の神話の時代】からの転生者なのかもしれない。まだ確信があると言えるわけじゃないけど。それにこのミーシャを、そこまで惚れさせるアルファス・ヴォルディゴードがどんな存在なのか。詳しく知ってみたいという私がいる。

 

ミーシャに嫌われるためにしてきた数々の言動。今更許してもらえるわけがない。恋するミーシャが幸せになる姿を見てみたい。もうすぐその日(・・・)が来るとわかっていても願いたくなる。

 

私たちの未来(・・・・・・)を2人に託してみるのも悪くないかもしれない。そう思いながら私たちはしばらくの間、いつの間にか繋がれていた手を強く握りしめながら星を眺めていた。

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