IS インフィニット・ストラトス ~よくある転生のお話~ 作:ホワイト・フェザー
旧スイス連邦、トーラス社ナーデルホルン要塞のとある部屋で、ある男性が目を覚ました。
男性の体は包帯だらけで、ところどころ血が滲んでいた。そして両手、両足を皮のベルトで
固定されていた。
その男性の名は、織斑一夏である。
「いってて…」
一夏は体中の痛みに耐えながら冷静に判断をしようとした。
(ここはどこだ? 確か俺は学園で…って動けないし! それに他のみんなは?)
『目が覚めたか、一夏』
首だけ動かして声のした方を見ると、モニターにウィリアムが映っていた。
「ウィル!」
『ふむ、元気そうで何よりだ。本当なら直に話がしたいところなんだが、ちょっと忙しくてな』
「みんなはどこだ! ここは!?」
『一気に言うなって。まずここは旧スイス連邦にあるトーラスのナーデルホルン要塞だ。
お前の言う”みんな”が誰かわからんが、ブリュンヒルデに黒ウサギ部隊、クソ兎に
亡国機業のクズ共は生きているぞ』
一夏は、自分の姉やラウラ達が生きていることにホッとし、自分が日本から遠く離れた場所に
いることに驚き、たったそれだけしか生存者が居ないことに愕然とした。
「ウィル、箒は? 生きているんだろうな?」
『それがな…』
モニターのウィリアムは頭を掻きながら目をそらした。
『俺達が回収した時にはかなり重症でな、今も生死の境をさまよっている状態だ』
「なん…だと……」
幼馴染が死にかけている。それを聞いた一夏はベルトを外そうともがいた。そんな一夏を無視
してウィリアムは話を続ける。
『ま、運が悪かったね! さてそんなことはどうでもいいとして、一夏、まずお前の白式だが、
こちらの方で回収させてもらった。ISコアを取り除いて調査をしている。まあお前に返す
事は無いと思ってくれ』
「そんな…」
『そう落ち込むなって。お前の彼女の鈴がもうすぐ迎えに来るからさ』
「鈴が!? ホントか!?」
『おう、両親連れて来るってさ。明日には到着するだろうよ。それまではゆっくり寝てろ』
いつの間にか放出されていた無色無臭の睡眠ガスにより、一夏は再び眠りについた。
同時刻、何処かの海にて2隻の潜水艦が海中を進んでいた。1隻は亡国機業所属の改タイフーン
型原子力潜水艦、もう1隻は篠ノ之束の人参型潜水艦であった。学園から這々の体で逃げ出した
2隻は並走しており、通信用のケーブルでつながっていた。
「まだかな~、早く~」
束はコンソールを操作しながらブツブツ呟く。千冬とラウラ、クラリッサはその姿を後ろから
眺めていた。別のモニターには改タイフーン級に乗っている亡国機業のスコール、オータム、
織斑マドカの3人の姿が映っていた。
「よし! くーちゃん、聞こえるかな?」
『はい、束様。感度良好です』
モニターに新しく映し出されたのは、幼い少女であった。銀髪の女の子で歳は12か13といった
ところだろう、と千冬は考えていた。
「紹介しよう! 束さんの誇る優秀な助手のくーちゃんだよ! 今秘密基地にいるんだ!」
『どうも、くーです。早速ですが報告致します。まず一夏さんの居場所が特定できました』
「本当か!?」
「嫁は今何処にいるんだ!?」
すぐさま千冬とラウラが食いついた。
『旧スイス連邦にあるトーラス社のナーデルホルン要塞です』
「な、なんてことだ…」
それを聞いたクラリッサは愕然とした。戦争前、隣国スイスにできたトーラスの要塞の事を
情報部の友人から聞いていたからだ。クラリッサは自分が知っている事を皆に話した。
噂では、大量のコジマ兵器でハリネズミ状態だとか。
噂では、常に大吹雪で近づけたものではないとか。
噂では、何処にあるかわからない企業連本部『アライアンス』の次に強力な防衛体制だとか。
噂では、旧ソ連製水素爆弾AN602(ツァーリ・ボンバ)の直撃にも耐えることができるとか。
『マジかよ…なあスコール、ここを襲わなくてよかったな』
『あなたの言う通りね。もしここを襲撃していたら間違いなく死んでいたわね…』
戦争前まだ亡国機業が生きていた頃、この要塞に潜入して秘密を探ってこい、という無茶な
命令を3人は受けていた。スコールが必死に本部を説得したので任務はなくなったが。
「くーちゃん、それ以外になにかわかったことある?」
『…申し訳有りませんがこれ以上はわかりませんでした』
「やっぱハッキングは無理か~。それで箒ちゃんの居場所は?」
『そちらもわかりません…ただ不思議な点が1つ。BFF第2艦隊とGA第4艦隊がギガベース3隻と
共に南極方面へと向かっています。理由は不明ですが…』
「南極へ?」
千冬は束に尋ねた。
「束、もしかして南極に企業連の基地でもあるのか?」
「ある…らしいよ。詳しくは知らないけどね。占領したアルゼンチンに向かっているのかも
しれないし、他に行くかもしれない。なんとも言えないね」
その時、今まで無表情だったくーちゃんがぽかんと口を開けた。そして絶叫した。
『束様、急いで逃げてください! そちらに向かって12発の巡航ミサイルが接近中です!
マッハ5.3で西から飛んできます!!』
「嘘!? 急速潜航!」
この巡航ミサイルを発射したのは、哨戒中のオーメル所属アカディール級潜水艦だった。
アガディール級は、アライアンスからの命令を受けて、指定座標へとミサイルを発射した
のであった。
この時2隻の潜水艦は深度20mにいた。通信ケーブルを切り、2隻とも回避行動をとり始めた。
巡航ミサイルには1ktのコジマ弾頭が搭載されていた。弾頭が爆発するたびに2隻の潜水艦は
大きく上下に跳ねた。水中爆発は潜水艦にはるかに大きなダメージを与えることを、千冬は
知っていた。海面と海底で反射した爆発のエコーが戻ってきた。ブクブクと膨張するコジマ
火球が海面から飛び出るたびにその反動に襲われた。
束の人参型潜水艦にはそこまでダメージはなかった。が、改タイフーン級ではそうはいか
なかった。ただでさえ古い船体を酷使してきたので、艦内各所で照明が割れたり、パイプから
真水が漏れたり、モニターが粉々になったりした。
これで攻撃は終わった。誰もがそう思った時、最後の1発が爆発した。それは改タイフーン
級を叩きのめした。発令所にいた人達は壁に叩きつけられるか、床に投げ出された。副長の
ヴィクトール・クズネツォフ元ロシア海軍少佐は、すぐに立ち上がりどれほどの被害を受けた
のか調べ始めた。艦長のゲオルギー・サプローノフ元ロシア海軍中佐もすぐさま指示を出した。
海軍時代から長年コンビを組んできた2人は、今まで様々な戦闘―非公式なものも含めて―を
生き残ってきたが、今回ばかりは難しそうだった。
機関室と魚雷室の浸水が酷い。下士官食堂付近の機器から大規模な電気火災が発生していた。
サプローノフの命令で緊急浮上を始めたが、艦はすぐに反応しなかった。20基のSLBMとその
発射装置を下ろして軽くなったとはいえ、それでも改タイフーン級は重かった。
「艦長」
クズネツォフは呼んだ。
「プラスの浮力を失いつつあります。艦が沈んでいきます」
サプローノフは近くのコンソールに駆け寄った。内部格納庫の制御装置を弄っている。
「ヴィクトール、潜水艇に乗れ。できるだけ多くの乗組員を連れて」
「艦長?」
改タイフーン級には小型の潜水艇がある。船体上部の扉から発進することができる。
「ぐずぐずするな、急げ。お前には家族がいる。
発令所に煙が充満し始めた。クズネツォフは深度計に目をやった。改タイフーン級は深度
150mまで浮上したものの、その後また下へと戻り始めた。
艦内の何処かで爆発が起きてクズネツォフは投げ出された。衝撃で耳が聞こえなくなった。
「ゲオルギー!!」
思わず階級の事を忘れてクズネツォフは叫んだ。サプローノフは音響補強電話をつかみ、マイクに
向かって怒鳴りながらコンソールを操作していた。が、クズネツォフには何も聞こえなかった。
サプローノフがクズネツォフを見た。
「何をしている、行け!!」
クズネツォフはその唇の動きを呼んだ。発令所内でまだ生きている乗組員を立たせ、担ぎながら、
内部格納庫まで急いで移動した。格納庫には既にスコール、オータム、マドカの幹部3人がいた。
「皆さん、急いで潜水艇に乗ってください! この艦はもう長くありません! 他の者も早く
潜水艇に乗れ!」
怪我をしている乗組員を、他の男達に助けてもらいながら潜水艇に乗せた。他にも生き残った
乗組員達が次々と乗ってきた。幹部3人が乗り込んだのを確認してから、急いで操縦席に駆け
込み、システムを起動させた。
クズネツォフは計器を調べた。サプローノフが格納庫に注水して気圧を均等にし、扉を全開に
してくれていた。今の改タイフーン級の深度は400m。つまり潜水艇の深度も400mという
ことだ。格納庫内の気圧が外と等しいなら、深度600mで潜水艇は内破する。そして改
タイフーン級は今も沈み続けている。
後部から鈍い音がした、と思ったら艦の降下率が急激に増し始めた。浸水が更に進んだ結果、
何処かが壊れたに違いない。潜水艇の船体がきしみ、音を立てた。
「ここまでだ! ハッチを閉めろ。脱出するぞ」
「あと2人乗るスペースはあるか?」
「ゲオルギー!!」
そこに颯爽と現れたのはサプローノフだった。肩に負傷者を担いでいた。
「さあ脱出しよう!」
「了解!」
パネルがグリーンになった瞬間、クズネツォフは固定装置を開放した。潜水艇が浮上し始めた。
深度調節をして浅い深度に上昇する。海上に浮上する気はなかった―コジマ弾頭の爆発により
海が荒れていることを知っているからだ。
サプローノフが手を伸ばしてソナーのスピーカーのスイッチを入れた。様々な音に混じって、
笛を鳴らすような恐ろしい音が聞こえた。水没した改タイフーン級が、100ノット以上で海底へ
落ちていく音だ。やがて玄武岩の海底に激突する、途方も無い轟音がした。クズネツォフは、
無数のかけらに砕け散った改タイフーン級の事を考えた。
操縦を任せて、サプローノフのクズネツォフは後ろへ歩いて行き、生存者の人数を数えた。
幹部の3人を除いてもたったの20人しかいなかった。
「161人いた乗組員のうち、生存者は僅か20人…か」
「皆優秀で素晴らしい男達だった…」
サプローノフは涙を浮かべながらゆっくりと鋼鉄の船体を叩き続けた。
その後、海が落ち着いてから潜水艇は浮上。生き残った乗組員は束が提供した人参型飛行機で
陸へと戻った。スコール達3人は人参型潜水艦に乗り込んだ。
「さてと、これからどうしたものか…」
千冬がそう呟くが、誰も答えられない。その時だった。
『もしも~し。聞こえますか~、敗残兵のみなさ~ん』
「ロンバート!!」
ウィリアムからの通信だった。映像はない。
『実は皆さんに耳寄りな情報があります。なんと篠ノ之箒の居場所で~す!』
続く…
~ウィリアムの部屋~
なのウィ「お、掃除の居場所教えちゃうのか」
ゼロウィ「あれじゃね、教えといておびき寄せて殲滅とか」
ISウィ「かかってこいやぁ!」
作者「と盛り上がっていますが、続きはまた来週! お楽しみに!」