光の国に飛ばされた筈なんだけど目の前に輪っかがある 作:ウルトラネオン
◇ガイ
「ふぅ…。ここも随分酷くなったな」
時は日が沈み、夕暮れになったこの頃。
どでかいクレーターができたこの場所で俺は様々な思いを馳せていた。
イシュタールでカケルが死んでから数千年、人類は大きく発展し遂には宇宙まで旅立つ足掛かりを作ったものの、まだその小ささは拭いきれていなかった。
宇宙人達が普通に星間航行を行っている中、人類は良くて月までの移動が精一杯である。それは宇宙からすれば発展途上くらいの目でしか見られない為、侵略対象に入るのは避けられない。そんな侵略宇宙人に何度も立ち向かい、この地球を守ってきたのだがやはりこの惨状を見ると、少しやるせない気持ちにもなった。
だけど今回ばかりはそこまで落ち込む事は無かった。
「(まさか今回の戦いで死傷者が出なかったのは驚いたな)」
あれだけ激しい戦闘があったのにも関わらず、死傷者は奇跡的にゼロ。街の外観は壊されたものの、本当に守りたい物は守り抜いた。だから、今回に限ってはイシュタールの時のような気持ちにはならなかった。それに―――
「もう会えないと思っていた後輩も復活して、かつての相棒とも関係を戻した…か。本当に、生きてる内に何が起こるか分かったものじゃないな」
諦めていた事、無理だと分かっていた事はほぼ解決した。旅を始める時、大体は沈んだ気持ちになっていたものだが、今回は非常にスッキリとした心持ちで旅を始められそうだ。
「アイツ、大人しくしてるかな…」
アイツ、というのは後輩のカケルの事だ。
何もこの場所だけが守るべき場所じゃない。海の向こうにもまだ幾つかの問題が残っている。俺はウルトラマンとして、地球を守る為にナオミ達の所から旅立とうとしたが後輩が中々粘っていたのだ。
ガイさんが行くなら俺も行く―――と。
無論、それは止めさせた。
そもそも、カケルが復活してからまだ数日も経ってない上でマガタノオロチとの戦いがあったのだ。何かしら体に不調があるだろうし、何より今は休んでいて欲しかった。
アレだけ無理をしたのだ、少しは休んでもバチは当たらないだろうに頑なに付いてこようとしていた。
最も、カケル自身にも少しばかり焦りがあったのだろう。
せっかく会えたジャグラーが地球を飛び出したのだ、余り話もしてもないだろうし置いていかれたと思っているのだろう。
だから俺はこう言ったのだ
『また戻って来る。それまで安静にしてろ、先輩命令な』
と。
そうしたら渋々だが収まってくれた。どちらにしろ、まだこの地球を去るつもりなんてない。色々と面倒な事ややらなきゃならない事がある為、こうして地球を旅するのだ。
どうせ地球は丸いんだ、いつかまた会う日が必ず来る。
「少し不謹慎だが…建物がなくなった事で夕日がここからでも見えるな」
その夕日はとても美しかった。燃える炎のように赤く、それでいて何処か落ち着かせる輝き。片手に持ったラムネを飲み干すと…これまた格別に美味かった。
風呂上がりのラムネも最高だが、こうして夕日を眺めながらのラムネもまたいい物だった。
「―――よし、行くか」
荷物が入っている革袋を背負い、ハット帽を改めて被り直す。懐からハーモニカを取り出して故郷の歌を奏でながら、旅を始めたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
◇ジャグラー
「ここも変わらねえな」
青空が広がり、太陽に似た星の輝きを浴びながら俺は木に持たれ掛かっていた。
現在、地球を離れてある惑星に来ていた。
王立惑星カノン。
かつて信仰の対象だった命の木を切り落とし……全てが始まった因縁深い惑星。
ここに来たのはある事の確認をする為だった。
地球を去る時、ビランキに鬼気迫る勢いで付いてくると必死にせがまれていた。
何処に行くのかとか、私を置いて行かないでとか言っていたが……挙げ句の果てには疲労困憊のカケルを連れてこようとした時は流石に止めたが。
だからビランキには「戻るからカケルと待ってろ」と伝えておいた。ビランキは渋々だったが…。
ともかく、ある事を確認したら地球に戻るつもりだ。まだ全てが終わった訳じゃない、やる事はある。ビランキの事は一旦棚に上げておくとして、カケルの方だ。
…今更なにかを話そうとする訳じゃないが、アイツには借りがある。その借りを返却するまでは少しは面倒を見ようとは思っている。だがその前に。
「ホラホラ!そんな走り方じゃ女王様は守れないわよ!」
遠目にだが、ある人物が多数の人間に訓練を行っていた。その人物は、俺にとってもある意味始まりだった人物。
「………元気にやってるようだな、ミコット」
かつて守ろうとし、取りこぼしかけたがカケルが一命を取りとめたミコットは…今は近衛隊長の任を受けているようだった。
カノンに着く前に、数カ所の惑星に降り立った時に聞いた噂。何でも、自らを蛇心流先導者などと言ってはその技で数々の戦いをくぐり抜けたとの事。その名が宇宙中に知れ渡り、現在は近衛隊長として部隊を引っ張っていく存在となっていたらしい。
その噂を聞き、尚更ミコットが元気にやってるかどうかの姿を確認しておきたかった。
…俺が関わったのはほんの少しの期間だったが、それでもアイツの人生に大きな何かが残っていないかを見に来た。
見た所、特に問題は無さそうだ。
蛇心流先導者というのは流石に聞き捨てならない物があるが…まあそれはいいだろう。
教えた訳でもないが蛇心流が役に立ってるというのならば文句は無い。
ミコットの姿も確認し終えた。もうこの惑星に用はない。
出来る事なら…戦場でその命を落とさないように、と思うくらいだった。
そうして、俺はこの惑星から離れようとした時の事だった。
「動かないで」
俺の首筋に、剣が突き立てられていた。
普通ならばこの状況は戦闘に入る前だ。
だが、俺は笑った。
「随分賑やかな歓迎だな?」
「…動いたら切る」
「ほう?やってみろよ」
俺と背後の人物の間に沈黙が走る。
剣が振るわれるか、避けるが先か。敢えて俺はその場に何もしないでいた。
すると、背後の人物は少し笑い出したのだ。
「…フフッ、フフフフフ」
「なんだ?この状況が面白いのか?」
「そうですよっ。だって、初めて師匠の背後を取れたんですから!」
そう、背後の人物は先程部隊の訓練を行っていたミコットだった。
遠目に見ていたのにも関わらず、俺の事を感知していたようだ。そして、それなりに距離があったのにここまで詰めてきているとは…成長しているようだった。
「甘いな。俺が手を抜いてたから出来たもんだぜ?次はもっと上手くやるんだな」
「…もう、師匠はそう言う」
互いに笑い合う。
本当に笑ったのだ。そこにあったのはただ俺と、ミコットの…他愛ない関係。
「大体なんで何も言わずに去ろうとしてるんですか、一言くらい挨拶してもいいんじゃ?」
「おいおい、俺は指名手配されてるんだぜ?近衛隊長の目の前に立ったら逮捕されるだろ?」
「そんな事しないって、師匠は分かってますよね?」
「冗談だ。……まあ、元気な姿が見れたならそれでいいと思ってな」
「もう…」
ミコットがいじけるように顔を膨らませる。こっちは怒ってるんだぞと表情を見るだけでも伝わるが、特に気にせず話す。
「あれから色々あった。その色々な事が片付いて…ふと思い出したんだ、お前の事をな」
「私はいつまでも想ってましたけどね」
「………まあ、なんだ。これから俺はまた旅立つ。―――長生きしろよ」
「当然です。あ、次こそはちゃんと会いに来てくださいね?いつでも待ってますから」
「ああ、今度はカケルも連れて来るさ」
そう言って俺は魔人態へと変貌する。
飛び立とうとする寸前、ミコットが言葉を紡ぐ。
「師匠、またね」
「―――じゃあな」
俺は飛び出し、カノンを後にする。
あの危なっかしい後輩がいる地球に、俺は向かった。