光の国に飛ばされた筈なんだけど目の前に輪っかがある 作:ウルトラネオン
〜プロダクション 事務室〜
「はぁ…なんでこうなったんだよ…」
季節は初夏を迎えたこの日、目の前のPCとにらめっこしながら俺―――円丸英治は頭を抱えていた。
現在、俺は上からの命令でこのPCの画面に映っている制作したこと無いウルトラマンの事の動向や情報等の調査を行っている。
こちらではちょうど「ウルトラマントリガー エピソードZ」がサブスクで展開及び、一部の映画館で上映し終わって新作ウルトラマンの展開を始めていた。ウルトラマンフィフティのスレが立たれ、それの配信が行われていた時はちょうどマガタノゾーアの戦いの時だった。こちらはこちらで新作ウルトラマン―――ウルトラマンデッカーの広報の仕事を片手間にその配信を眺めていた。
刑務所惑星の時から思っていたが最早フィフティは勿論の事、ウルトラマンは実在するのだと社内は認識していた。
だって刑務所惑星とか…それこそ監督達の頭の中や超全集程度くらいしか記載が無いのだから認めるしかなかった。
当然これは演者や監督にも共有されている。その上でどう反応するかは各々に任せているが今の所はほぼ何もしていない。強いて言うならオーブ関係者ぐらいが少し反応してるくらいか。
ともかく、俺は仕事をこなしつつフィフティの動向を眺めていた。イシュタールの文明や背景感はこんな風なのか、などと感想を抱く。途中、俺達すら知らない女の子が出てきたのは驚いたものの何より驚いたのはフィフティの死亡だった。
俺がSNSにてデッカーの新PVやサイトの更新を行ってた時、マガタノゾーアとの決着が付いていた。やはりここまでは規定通りなんだな、と思っていたらフィフティの唐突な死。
そんな光景に、流石の俺も驚く他なかった。
フィフティが死亡した―――その事実はすぐに社内にも広がった。流石の上司達も、酷く動揺していたのは未だに強く思い出せる。何も、ウルトラマンは完全無欠のヒーローなんかじゃない。それは俺達も分かってるし、初代ウルトラマンなんかはその代表例でもある。
けど、あの終わり方にはあんまりだった。配信の中に起こっていたのは、紛れもない現実。ジャグラーが…フィフティを殺したと言う事実。
ジャグラーはこちらでも多大な人気を誇っている。けれども、フィフティにも人気はあった。ココで制作されたウルトラマンではないが…好きな人は好きなんだろう。私は胃を痛めているが。
そんなフィフティが死んだのだ、流石に社内でもこれをどう扱うか決めあぐねていた。
社内にも、ウルトラマンだし復活するんじゃないかと思う人もいた。
けれども、アレは現実だ。
失った命は帰って来ないし、現にイシュタールの人達も明確な死が映っていた。フィフティが配慮してすぐに配信を切ったのはいいものの、事実が消える事なんてない。
死者の情報を扱うのは、ヒーローを作ってる会社としては避けたい所。作品内でならまだしも、こればかりは違うのだ。
会議の結果、フィフティの話題はこれ以上扱わないようにする事に決めたのだった。
妥当な判断だった。既に、このスレのウルトラマンは我々が制作した訳ではないと広布している。なら、このままゆっくりと…こちらのウルトラマンを作っていく事を専念する事にした。
俺も思う所はあったが…それでも上が決めた事だしそれを覆そうとも思わない。ただ少しばかり寂しさがあったのは否定仕切れなかった。
なんて思ってたら復活しやがった。
いや、さ?唐突に復活した訳じゃなかったのは知ってるよ?
結構日にち経ったし、もう会えないんだと思ってたんだよ?まだデッカーの放送が開始されたばかりのこの時期に復活ておま…。
これには社内も混乱の元だった。いや復活するのかよ、とかやっぱりな、みたいな意見もチラホラ。
いや…うん。俺も嬉しくないって訳じゃないんだよ?けど、こう…ね?情緒不安定になるよ。
まあ復活したならしたで良し、俺も少しは心のつっかえが無くなったと感じていたらすぐにレッドファイトしていた。
俺のこの時の感情と言えば、無茶苦茶だった。
胃は痛いわ、復活してるし良かったなと思うわ、知らない魔王獣出てくるわ、ガイとジャグラーの関係が直りかけてるわで。
もうどれからツッコミ入れたらいいのか分からなった。やっぱりフィフティはおかしい。
お陰様でSNSもウルトラマンの話題でいっぱいだ。デッカーの人気は勿論の事、フィフティの話題も尽きなかった。ちょっとしたニュースになってたのもあるし、演者達も内心では素直に喜んでいたのだ。
そんな状況の中、俺のPCに1つのメールが届いた。
送り主は、スポンサーについている玩具会社からのメールだ。今の時期になんだろ、とメールを開いてみるとそこには目を塞ぎたくなるような事が書かれていた。
要約すると
「今話題のあのウルトラマン、商品化しない?」
との事だった。
出来る訳ねーだろ。
と言いたかったのが本音だ。しかもこちとらただの会社員、最終的な決定権はこちらが持っている訳ではない。あくまでそれのスケジュールを立てたり、他業者の兼ね合いなどを合わせるのが仕事だ。この玩具会社からの連絡も請け負ってはいるが最終的な決定は上司に依存する。
ともかく、俺は上司である上島和人の所に相談するも…。
「いや普通に駄目でしょ」
「ですよね」
当然の反応だった。
よかった、上司はまともな人で本当によかった。
一応他の上司…と言っても、普段お目にかかれない人にも和人さんは聞いてくれたのだが誰もが「駄目でしょ」という考えだった。
要は、本人の預かり知らぬ所で勝手に商品化なんて間違ってるのだ。そもそもウルトラマンはうちで制作してる物だが本物がいるとならば別だ。
そういう旨を、玩具会社に改めて送ると…。
「なら許可取ればよくね?(意訳)」
とかほざいてきやがった。
いや…うん…許可取ればいいよねって話なのかも知れない。少しは遠慮という物はないのだろうか?
許可の云々はやろうと思えばすぐ出来る。配信者にコンタクトを取って事情を話せばいけるかも知れない。けれどなぁ…。
「配信とか見る感じ、絶対ノリノリで受けるだろうなぁ…あの子」
そう、これまで配信を見てきた者だから言えるが…フィフティ―――日空カケルという少年はこういう話は絶対乗ってくる。当然すぐ許可出すだろうし、そうすれば話は早く進む。
正直な話、作り物ではなく本当の命のやり取りをしている人に対してどうかとも思う。
そりゃ売り上げも大事だ。そうじゃないとかつてのようにまた破産、買収なんてされたら今度こそこの会社は終わりなのだ。
だからこそ、こんな風にしたくは無いのだが……。スポンサーだから聞かざるを得ない。
「はぁ…胃が痛い…。なんか思ってた仕事から段々とかけ離れていくなぁ…」
と言いつつも、SNSを用いて配信者に連絡を取る。
取り敢えずは…、本人の許可が得られないかの内容でメッセージを送ろう。
こうして……よし、送信。
取り敢えずは一旦、息をつく。
返信が来るまでは他の仕事をこなしておくか、なんて考えてたら受信ボックスにメールが届いていた。
早くないかと思いつつも、メッセージを読んでみると「取り敢えずは聞いてみる」との事。なんでも、内容が内容なので全員の配信を一度切った後に聞いてすぐ連絡を寄越してくれるそうだ。
でもまあ……あの子は承諾するよな…。
チラッとPCの画面を見れば配信が途絶えていたが、すぐに復帰したようだ。そして再び、受信ボックスにメールが1通。
会ったこともない、しかし身近な存在にごめんよと心の中で謝罪していたがそんな考えが吹き飛んだのはメールの内容を見た瞬間だった。
内容はこうだ。
「本人が言った内容をそのまま伝えます。『駄目です。いつかそっちの地球に帰って来た時に、世に俺のソフビとかフィギュアとかが店に陳列されてたら恥ずかし過ぎて憤死します。絶対駄目です。無断でやったらすっごい怒ります』だそうです。」
……。
…………。
………………。
よし!言い訳出来たぁ!!
俺は喜々として玩具会社に連絡したのだった。