光の国に飛ばされた筈なんだけど目の前に輪っかがある 作:ウルトラネオン
あの日からずっと俺はひたすら勉強に励んでいた。
医療に関する本や資料を集めてはひたすら頭に叩き込んでは復習の繰り返しで、何処か焦る気持ちも持っていたのだ。
時々、佐奈に教えてもらったりもしたがいつしか教えてもらうばかりじゃなく自分でやらなければ意味が無いと想いだし佐奈から教えてもらうのではなく自分自身の力で勉強をしていった。
だけど医療の知識が増えれば増える程、母さんの病の事が余計に分からなくなっていったのだ。どの本を開いても母さんと似たような症状や傾向があってもあの銀色の事に関しては何一つ分かる事はなかった。
本当に俺が助ける事が出来るのだろうか―――そんな不安な気持ちを抱きながらも遂には今年で3年生になっていた。
そんなある日の事。
「カケル君、大丈夫?」
授業が終わって昼休憩の時だった。
最近、一緒に帰る事も少なくなり余り話す機会がなくなっていたがそんな状況でも佐奈は話し掛けて来てくれていた。
自分自身の事で一杯一杯で前と比べて少し自分の事すら疎かになっている俺だがそんな姿を見ていた佐奈は俺の事を心配してくれているのだろうか?
「え?あ、うん…まあぼちぼちかな」
「近況を聞いてるんじゃないよ。今のカケル君目に見えて辛そうにしてるから」
「…やっぱりそう見える?」
「うん、隠す気すらないんじゃないかなと思うくらいには」
そ、そこまで疲労してるのか俺…?
だがまあ佐奈がそう言うならそうなんだろうが…。
「お母さんの事大事なのは分かるけれど、自分の体も大事だよ?」
「…でもさ、そうも言ってられないんだよ。佐奈に話しただろ、俺の母さんの事」
「うん、聞いてるよ。でも、だからこそカケル君自身の体を気にしなきゃ駄目だよ。倒れたら困るのはカケル君のお母さんなんだからね」
う…、痛い所突いてくるなぁ…。
佐奈の言ってる事も分かる。目指す目標も自分の体があるから目指せる物であってそれが傷ついたりしたら目指すどころじゃなくなる。
けれどまだ俺の中ではまだ行けると、そう思えるのだ。
「大丈夫だよ。俺の体の事は俺が1番分かってるから佐奈が心配する程じゃないよ」
「…本当?」
「あぁ…本当だよ」
本心だった。
不思議な事に余り疲労とかそんな物は感じなかったのだ。
といっても流石に眠くなったり腹は減ったりするがそれでも普段の日常生活を送る分には問題なかったからかそこまで気にする事はなかったし何よりそれで目標に一歩近づけるならそれでもいいと思った。
…まあ、本当に疲労を感じたら休みはするが。
「それじゃあさ、久しぶりに一緒に帰らない?」
「……う〜ん、そうだな…」
佐奈からのお誘いだった。
ここの所一緒に帰る事もなかったから久しぶりに帰るのも悪くないなと思えたし、それに佐奈が知っているウルトラマンの事をまた少し聞きたくなったのも少しあったので俺は2つ返事でOKする事にした。
「それでねそれでね!倒れてしまったウルトラマンはハヤタ隊員を犠牲にできないから光の国には帰れないってゾフィーに言うんだよ」
「それでその後は?」
「地球人を好きになったんだと感じたゾフィーはそんなウルトラマンに命を2つ与えたの。1つはウルトラマンに、もう一つはハヤタ隊員に」
「命を与えるだなんて随分太っ腹なんだなぁウルトラマンって」
「それだけ地球人が好きになったんだよウルトラマンは」
「でも正直な話、地球人を好きになる要素なんてなかったように思えるんだがな…」
「それはちゃんとウルトラマンを見たら分かるよ。次の作品のウルトラセブンもジャックもエースも…地球で暮らしていく中で人間を好きになっていったんだよ」
)「皮肉な事に見ていないから分からないなぁ…」
初代ウルトラマンの話。
皆よく知るウルトラマンであり、俺ですらCMとかでも見たことのある人物だ。
まあ見たのはどこぞのケータイショップのCMでだが。
何故命を掛けて地球を守り切ったのか、その後に続いていくウルトラマン達も人間を守り抜いていたのかは見ていないから定かではないが佐奈の言うとおり人間が好きになったからという以外では理由を見つけられなかったのも事実だ。
愛する者…大切な誰かを守る為なら命を掛けてまで守るその姿は自分が見習うべき姿でもあるんだなと少しは感じたのだった。
「それじゃ佐奈に聞きたいんだけどさ、数いるウルトラマン達は1人も変わらずに人間が好きだったの?」
「という訳でもないんだ。人間からウルトラマンになった人もいるから必ずしも人間が好きだっていう理由で守っている訳じゃなかったんだけどそれでも共通する所はあったよ」
「どんな?」
「守りたい、それだけは嘘偽りはなかったよ」
……やはり架空の存在だとしても決して馬鹿に出来る物じゃなかった。ウルトラマンという作品を作った人もきっと大切なメッセージを作品を通して伝えたかったんだと思う。
見てない俺が言うのもなんだが佐奈がそう言ってるんだから恐らく間違いないだろう。
「…見習わなきゃな。俺も似たような事してるし」
「同じなんじゃないかな?大切な人を守りたいって言う点では」
「…佐奈がそう言ってくれるならそうなんだろうな」
話が終わる頃には抱えていた不安も少しは軽くなっていた。
俺のやってる事は決して間違いなんかじゃないんだってそう思えた。
まだまだやれる。
今はまだできない事だらけだけどいつかきっと…。
「佐奈、ありがとな」
「私は何もしてないよ。どちらかと言えばウルトラマンが勇気付けてくれたんじゃないの?」
「ハハ、かもな」
そうして俺達はまた別れて自分の家に足を運ぶ。
少し元気付けられたかな…けれどまだ行ける。
「よし、やるぞ」
帰り道は普段より少し明るく見えた気がしたのだった。
「でさ、そんな事があったんだよ」
「いい子ねぇ。カケルには勿体ないくらい」
「うん…我ながら良い友達が出来たと思ってるよ。心の底からいいと思えたのはこれで2人目だよホント」
ここは母さんが入院している病院。
時間に都合がつけれる時はいつも母さんの面会行っていたのだ。
母さんには俺の近況の話をいつもしていた。
入院しているとはいえ母さんも俺の事を心配してくれているけれども順調よく行っているという事を報告する度に母さんはニッコリ笑っていてくれた。
「そんな子がいてくれるなら母さんも安心だわぁ」
「なんだよ、いかにも「安心して死ねるわぁ」的な言い方」
「そんな訳ないじゃないの。カケルを置いて死ねる訳ないでしょ」
「だね。母さん心配性だし」
俺が笑いながら言うと母さんから軽くチョップを貰う。
あまり痛くはなかったが自然と俺はチョップされた部分に手を当てていたのだ。
「母さんが心配にならないくらい成長してからそんなセリフ吐くのよ」
「でも母さんも俺に心配かけてるじゃん。おあいこだよ」
「あはは…」
そういった俺の言葉は何も反論できなかったのか笑って誤魔化していた。
そんな誤魔化し方通用しないぞとジッと見つめると母さんは降参のポーズを取った。
よし、俺の勝ちだな。
「…と、そろそろ時間だ。もう帰るよ」
「うん、帰りは気をつけてね」
「母さんこそ体を大事にしなよ」
「言われなくてもそうするわよ」
また来るよ、とだけ母さんに伝えて俺は部屋から出た。
もう既に夜中を周っている為、今から家に帰っても遅くになるだろうから今日は何処かでご飯を食べて行くのかそれともいつもどおりに家で自炊するか決めあぐねていたのだった。
「ハァ…ハァ…」
カケルを見送った私は我慢していた苦しみを解放したのだ。
カケルが心配しないようにこんなにも弱々しい姿を見せずに我慢していたが流石に疲れたのか息遣いも荒くなっていた。
カケルは私の事を助けようとしているが恐らくこれは地球の医学じゃ直せない。
そして私の命ももう少しくらいしか持たないだろうと自覚もしていた。苦しみながらも息を整えていこうと頑張っているが中々直らない。
ふと、窓を眺めるとそこにはポツリポツリと光る星の輝きと月明かりだけがあった。なんの変哲もない風景だが…不思議とあの人の事を思い出していた。
「(こればっかりはカケルには言えないわね…)」
カケルには伝えていない真実。何故、カケルの父であるアラルは帰ってこないのか。
「アラル…」
今はもういない彼がくれた大切な…壊れたペンダントを手に握りしめて私は眠りにつく事にしたのだった。