光の国に飛ばされた筈なんだけど目の前に輪っかがある 作:ウルトラネオン
時は流れて季節は秋。
そろそろ卒業が見えてきた頃でもあり、人によっては将来を決めていく季節でもあった。
俺や佐奈も既に決めていて2人とも進学する予定なのだ進路事態に困る事もなく順調に将来の道を進んでいった。
因みに、どうやら佐奈も俺と同じ大学を目指すらしく俺がちょっかいかけて「そんなに俺と一緒にいたいのかぁ〜?」って言ったら真顔で「元々決めていたから、カケル君が真似してるようなものだよ」と返事を返されたのは新しい思い出だ。
そして変わったといえばもう1つ。
かつて佐奈を虐めていたあの4人はもう既に学校に来なくなっていたのだ。別段と問題を起こしている訳じゃなかったが自然と来なくなった辺りこの学校に飽きたのだろうか。
せっかく特別待遇で入学出来たのに勿体無いなとは思ったが佐奈の虐め問題が解決したと思えばそれ程気にする奴らと思えた。
そして、前とは違って少しは自分の事も気にしだす事も意識していきまた佐奈ともちょくちょく一緒に帰るようになったのも1つの進歩だ。
その度にウルトラマンの話を話してくれているが色んな話を聞き過ぎたせいか最近はどれがどのウルトラマンの話か混乱してくるようになったのは佐奈に内所だ。
母さんの方はというと余り状況はよろしくなかった。
今はまだ大丈夫そうに見えるが日を跨ぐ事に少しずつやばくなっていっているのは分かっていたが現状、俺が出来る事なければ担当の医者も完全にお手上げ状態らしくあらゆる手を使ったがそれでも直る兆候は見られなかった。
それでも俺は焦る事なく、一歩一歩着実に勉強をしていったのだった。
だけど―――
「日空さん大変です!お母様の容態が…」
「なんですって!?」
昼休憩の時だった。腹を空かしていた俺は買ってきていた焼きそばパンを齧りながら教科書を見ていると俺のスマホに連絡がかかってきたのだ。
繋がったのは母さんが入院している病院で、母さんの容態が急激に悪化したとの事だった。
そんな話を聞いた俺は居ても立っても居られず担任の先生に事情だけ伝えて急いで俺は病院に向かっていった。
電車に乗って病院がある所につくと俺は急いで電車を降りて駅か出る。駅から病院まではそれなりに距離があるが少しでも早く着く為に俺は全力で走り続けていた。
足を早く動かす度に息継ぎも荒くなり肺の部分が痛くなる。
足の筋肉が今すぐ休めと悲鳴を上げ、秋頃なのにも関わらず体中から大量の汗が流れていたのだった。
数分もの間走り続けているとようやく病院が見えてくる。
このままペースを崩す事なく走り続け、病院に辿り着くと急いで受け付けで母さんの入院している部屋に行く許可を貰う。
エレベーターで行こうとしても不幸な事か上の階層に移動している所だったので待つ事なく階段で母さんのいる病室に急いで駆けていった。
「母さん!」
病室に辿り着くとそこには母さんが寝ているベッドの周りに医者が立っている事が分かった。
俺が来た事を医者が気づくとこちらの手を取って急いで母さんの元に送り出してくれた。
そして……母さんはかなり弱っていた。
俺が面会したのは一昨日の事。その時は変わらずにいたがたった3日だけで艶のあった肌もカサカサで息も呼吸器に繋いでいるにも関わらず細くしているくらいで目は閉じていた。
俺が来た事に気づいた母さんはほん少しだけ目を開けると細くなった手を俺に出していた。
「カケル…」
「母さん!!大丈夫しっかりして!!」
「ごめんね…心配かけて…ゴホッ…」
もう声は殆ど掠れていた。
差し出された手を握った俺は、その余りにも弱々しくなった母さんの手を感じて謂れのない恐怖を感じていた。
「母さん大丈夫だから!きっと…すぐ治るから!!」
「ううん、もう…治らないわ…」
「そんな弱気になるなよ!!?いつもの元気な母さんは何処に行ったんだよ!?」
「ごめんね…カケル…ゴホッ…」
「もう…喋らなくていいから!安静にして―――」
「いいカケル、よく聞いて…」
握っていた手が握り返される。
それは母さんの最後の力なのだろうか、握り返された力もかなり弱かった。
そして母さんは小さな声で俺に語りかける。
「どうか…挫けないで…どんな事があっても、その歩みを止めないでね」
「母さん…!嫌だよ母さん!」
「許してね…カケル…」
そう言うと握られていた手の力が無くなり、繋がれていた心電図のモニターもピーッと音を出すだけだった。
「母さん…?母さん!!??」
「どいてください日空さん!」
医者に押し退けられると俺は尻もちをつく。そこには母さんが死んだという事実だけが…この病室に充満していったのだった。
信じたくはなかった。
母さんが死んでしまった事。
俺自身が何も出来なかった事。
でも、それもこれも全て起こったのだ。何もできずにただ見ているだけ。口だけで何一つ成し得なかった俺はその日母さんを失ったのだ。
母さんの葬儀は親族のみが集まった。
親族とは言っても母さんの方のじいちゃんやばあちゃんや母さんの姉に当たる人が来たくらいで来た人はとても少なかった。
母さんの葬儀の時、俺はただ母さんが入っている棺を見るだけでそれ以外の事は何もせずただただ見ているだけだった。
じいちゃんやばあちゃんや母さんのお姉さんも俺の事を心配してくれて何かあればいつでも助けになるって言ってくれてはいた。
葬儀も終わり俺以外の人は明日の火葬する時にまた来るとだけ言って帰っていったが俺はいつまでもこの葬儀が終わった部屋に居続けた。
呆然と棺を見ていると今でも母さんと…そして父さんと暮らしていた日々を思い出す。
朝起きると朝食を作っている母さんにパソコンをじーっと眺めている父さん。
俺が学校の休みの日には偶にキャンプやピクニックなんかしていた事や俺が悪い事をして父さんと母さん両方に怒られた事。
そして…ある日突然父さんがいなくなった日。
その日から母さんは何度も隠れて涙を流していた事や、それでも俺の前では弱音なんて吐かず一生懸命に俺を育ててくれた事。
俺が母さんに家事の手伝いをし始めた時のあの母さんの喜びや褒められた事。
受験が受かって大喜びの母さんの隣で少し恥ずかしく思った俺は、それでも喜んでいる母さんを見て嬉しかった事。
そんな…悲しい時や楽しい時の思い出が心の中で溢れ出てくる。
けれどもそんな思い出は、もう作ることはできない。
最後の拠り所だった母さんは死んで、目標だった母さんを助けるという事ももう無意味となった。
次の日、火葬が終わり残った骨を拾う収骨を終えた俺はそのままお寺に向かって母さんの骨を納骨しそのまま家に帰宅する。
帰ってきた家にはもう誰も居ない。父さんもいなければ母さんも居ない。ただ自分が居るだけ。大広間にあるソファーに寝転び天井を見上げるがそんな事をした所で何が変わる訳でも起こる訳でもなかった。
ただ天井を見上げているだけだったが……俺の目から涙が溢れていた。
「母さん………母さん………」
呟きながら…失った物の大きさに俺はただ泣く事しか出来なかったのだった。