3月中旬、とある都市にあるとある施設、そしてそこにある白一色の部屋。その部屋で白くないもの、それはぼくとここの施設長の2人の人間だけ。
「施設長、なんですか?」
ぼく、武井奏は対面に座る女性に話しかけた。
「施設長じゃなくて四摩子と呼びなさい。あなたは施設から出るのだから」
施設長、村雨四摩子さんはぼくの顔を見ながらそう言った。
「わかりました」
「今日は楓じゃないのね、奏」
唐突にそんなことを聞いてきた。
「これからは外で過ごすのですから、いつまでも『彼女』に頼っているわけにはいきません」
「そうね、正しい判断だと思うわ。それで今日ここに来てもらったのは、あなたの家が完成したからよ」
「もうですか」
四摩子さんに頼んでからまだひと月もたってないのに。
ちなみにこの家はすべて自分のお金で買っている、出るというのに施設にお金まで出してもらうわけにはいかないから。
「ええ、出来るだけ急ぐように伝えたのよ。それでこれが鍵ね。それと学園の制服」
そう言って鍵と制服を手渡してきた。
「ちゃんと地下に研究室もあるから安心しなさい」
「いったいどうやったらそんなに早く作れるんですか…」
地下室まであってひと月かからないなんて。
「研究で勉強がおろそかにならないようにしなさいよ」
「大丈夫ですよ……たぶん」
「大丈夫かしら…」
四摩子さんはそう言ってため息をついた。そして何かを思い出したのか顔をこちらに向けた。
「そういえば希には伝えた?」
「はい。施設を出ることは伝えました。まあ、そう、としか言っていませんでしたが」
ぼくがこの施設で一番親しかった人、希。というより彼女以外の人とは話したことがないというのが正しいのかな。
彼女もぼくも個別の部屋が与えられていて、他の子のように大部屋というわけじゃなかったから仲良くなるタイミングというのがなかった。
それにぼくというより『彼女』の方が親しかったと思う。
まあ、ぼくが施設を出る決心がついたのは希の存在も少し関係していたりする。
「そう。あの子はあなた以外に仲のいい子もいないし少し心配ね」
「ぼくというより楓じゃないですか?」
「楓もあなたでしょう、奏」
「それはそうですが…」
そう言われてしまうと何も言えない。
「伝えたのならいいわ。ちゃんと新天地でも頑張りなさい」
「はい、頑張ります」
ぼくは頭を下げ部屋を出た。
これから一回部屋に戻って、荷造りをしないと。もう少し後になると思っていたから何もしてないし。
とてつもなく短いですが、次回から本編です。
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