では本編へ
「あの時梅ノ森に交渉して正解だった」
「そうね、傘持ってなかったし」
俺たちは本降りになる前にストレイキャッツに帰り着くことができた。ここまでは良かったんだ…
店に入ると乙女姉さんではなくノートの切れ端が俺達を待っていた。
希が来てからなかったから完全に油断していた。
何がなかったかというと――
『北欧で問題が起きそうなので、ちょっと止めに行ってきま~す。――乙女』
――こういった置手紙だ。
姉さんの突発的な病気、人助け。
俺的には人一人で何ができるんだと言ってしまいたいところだ。でもそう言えないのも事実なのだ。
「こ、これ、どうするのよ」
いつもほとんど動じない文乃が珍しく狼狽している。
「どうするって今更どうしようもないだろ」
「そういうことじゃないわよっ!!」
怒鳴られて文乃の言いたいことが分かった。姉さんがいないから今夜俺と希が二人きりになってしまう、と。
確かにそうなんだけど、これもどうしようもない。
最低でも数日、下手すれば数か月もこの状況が続くかもしれない。
希の方はどうなのかと、少し希の方を盗み見てみる。
「………」
いつも通りの無表情。この空気がイマイチわかっていないらしい。
隣の文乃は、「高校生の男女が一つ屋根の下で2人きり!? そんなの許されるわけないでしょーがっ!!」と、置手紙に言い放っていた。置手紙に言っても何も変わらないと思うんだけど。
でもまあこの文乃の言うことは正しいと思うけど、だからと言って何かできるわけでもない。
「参ったな……」
だから俺は頭を抱えることしかできなかった。
雨風が強くなってきたから早めに店を閉め、文乃を教会まで送った。
泊まってけ、と言ったら変態と一つ屋根の下で寝る度胸はないと、一刀両断されてしまった。
希と2人きりならなくて済むから誘ったんだが、ここまで言われるとは思わなかった。
「おかえりなさい」
「あ、うん。ただいま」
店に戻ってくると、希が掃除をしていてくれた。それはいいんだ、別に。というかむしろありがたい。
問題なのは希以外誰もいないというこの状況。
想像した時に比べて実際にその状況になると過剰に意識してしまう。
「掃除終わったら飯にするか」
無理やり意識を変えるために夕飯のことを考えることにした。
「…わかった」
「何か食べたいもののリクエストとかある?」
「…巧に任せる」
巧、と呼ばれたことでせっかく切り替わり始めていた意識がまた戻ってしまった。
「わ、わかった」
しどろもどろしている俺に希は小首をかしげていたが、そのまま掃除を再開した。
俺も掃除を再開して、もう一度意識を切り替えるために夕飯の献立を考え始めた。チャーハンは昨日食べたし、素麺はこの雨の中だとなんか微妙だし、うどん?
確か冷凍うどんがあったはずだし、あとは適当な残り物を入れればいいか。うん、それでいこう。
「希、うどんでいいか?」
「それでいい」
希が頷いてくれてよかった。
これ以外に俺でも作れるのとか考えるの大変だったし。
夕飯の後、希には先に風呂に行ってもらった。その間に、食器を洗い、跡片付けを済まし、リビングのソファーに座りテレビを眺めた。
テロップで台風の情報が流れていること以外頭に全く入ってこない。
意識しないようにしているけど、やっぱり難しい。
俺の方はいろいろ考えてしまいギクシャクしているというのに、希は至って普通。
何が違うんだろう。
その時奥の扉が開いて希が戻ってきた……バスタオル一枚で。
これは新手の拷問なのかと思ってしまう。
「な、何か飲むか? 麦茶とか冷蔵庫にあるけど」
ここから離れようと思って言ったら、声が上ずってしまった。
「いらない」
「そ、そっか」
希が俺の横に座ろうとして、何かを思い出したらしいそのまま戻っていった。
次戻ってくる時は、服を着ていますようにと思わず願ってしまった。だって目のやり場に困るから…
というか俺も風呂入ろう、希が戻ってきたらそうしようとそう思った。
風呂を上がった後、希におやすみと言って部屋に戻った。
ベッドに横になって寝ようとするけど全く眠気が来ない。早く寝たい日に限ってこれだ。
だから無駄なことを考えてしまう。
さっきの希の事とか。
普通、異性の前にバスタオル一枚で出てくるだろうか?
おそらく、いや絶対ない。ということは、俺は希に異性だと思われてないということなのだろうか?
それなら希がいつも通りなのも納得がいく。
もしくはそう言うこととか考える必要のない場所で育ったとか?
………………
そんなことを考えていたらますます眠気が飛んでしまった。
水でも飲んでこよう…そう思って俺は部屋の扉を開けた。
今回はここまでです。
この話は次話への繋ぎ回なので短かったのです。
次回から主人公が復活します。
それでは次回。