主人公復活です。
では本編へ
七月十三日、久しぶりに目が覚めた。おかしな言い方だとは思うけど、事実なのだから仕方がない。
丸二日ぶりだからゆっくり体を動かしていく。
「特におかしなところはないね」
腕や肩、首を動かして異常がないのを確認する。
そしてベッドから降りて、机に置いてある携帯を手に取った。開くと画面は暗いままで反応しない。
「あ、電源落としておいてもらったんだっけ」
秀吉に休みの連絡入れたら切っておくように頼んだのを思い出し電源を入れ直した。
画面がいつもの待ち受け画面になり、ここ二日で着ていたメールが留守電を知らせるメールとともに一斉に来た。
メールの方は秀吉と知らない人からの二通だけで、留守電の方はこれまた秀吉からの二回、施設から数十回、知らない番号から十数回も着信していた。施設から数十回、後がとてつもなく怖い。
とりあえず秀吉からのメールを開く。内容は、都築君達がぼくに聞きたいことがあるらしいからアドレスと電話番号を教えた、というものだった。
「あ、このアドレス都築君のか。電話の方も。でもぼくに聞きたいことってなんだろう?」
もう一通のメールの方をあければわかるよね。そう思ってメールを開いた。
「…えっ?」
都築だけど、と始まったメールには一昨日、姉さんが連れてきたという少女、霧谷希のことを知らないかというものだった。その子が『かなで』という知り合いがいるから、とりあえず知り合いの『かなで』という人に聞いてみているらしい。
「霧谷…希…」
そして『かなで』という名前。さらにメールが来た日の一昨日、希が施設からいなくなった日とも一致する。偶然だとは思えなかった。
今から確認の電話をしても大丈夫かと、部屋の時計を見ると10時。もう授業が始まっている時間だった。
駄目だと思って顔を下に向けた。ふと視界の隅に可愛らしい封筒があるのが見えた。携帯の方に気をとられていたせいで見落としていたらしい。
その封筒を手に取ってみる。
差出人も宛名もない。おそらくここに自分で置いたのだろう。そうなると差出人は一人しかいない。
「楓から、かな」
封を開け中に入っている手紙を取り出した。
その手紙にはこう書かれていた。
『奏、直接口で伝えるのでは遅くなってしまうと思ってこれを書きます。
この手紙をあなたが見る時から二日前、希が都築巧と一緒に居たところを見ました。おそらく彼の家に居候していると考えていいと思います。その時希は桜ヶ丘の制服を着ていたから、おそらく編入した様です。
なんて丁寧に書いたけど、私らしくないわね。とりあえずこれを伝えたかったのよ。たったこれだけを書くためにここまでするのは少し大袈裟かもしれないけど。封筒選ぶのに苦労したんだから。――楓』
「封筒選ぶのに苦労するならやめればよかったのに」
思わずそう呟いてしまった。封筒をちらっと見てもう一度手紙を見る。下の方に小さく何かが書いてある。
『P.S. 封筒は気に入ってもらえたかしら、奏のために選んだのよ?』
「ぼくのために、って」
…どう反応すればいいの?喜べばいいのかな?
とりあえず後日、本人に言おう。楓のおかげで確信することができたし。
「…神様もすごいことをしてくれるね」
施設を飛び出した希を都築君のお姉さんと出会わせて、この町に連れてくるなんて。
「そうだ。都築君のアドレスと番号、登録しておかないと」
携帯を手に取って登録する。これから深い付き合いになるだろうと思いながら。
登録を終えたと思ったら、いきなり電話が来た。相手は都築巧。
今は授業中のはずなのに、と不審に思ったが出ないわけにはいかない。こっちから掛けたいと思っていたのだから。
「もしもし。都築君?」
『武井か?』
屋外で電話しているらしい。後ろで川が流れているような音がする。
「当たり前でしょ。ぼく以外に誰が出るのさ」
ぼくの番号だって知っていて掛けてきたはずなのに、ってただの確認か。
都築君の横には芹沢さんがいるのだろう、何か文句でも言っているのが聞こえる。
「まあいいや。それで何かぼくに用があるんでしょ?」
『希がどこに行ったか知らない?』
直球でそんな質問が来て驚いた。ぼくが驚いたのは質問の方ではなく、ぼくと希が知り合いだと確信している声だったからだ。
「どういうこと?」
『希が今朝いなくなったんだ。』
このひと言で大体の状況を把握できた。
二人は今朝早くにいなくなった希をずっと探しているのだろう。
「それで?」
僕は続きを促した。
『知り合いの所、武井の所に行ったんじゃないかと思ったんだけど、違ったみたいだな』
「…どうしてぼくの所だと思ったの?」
都築君はぼくらが知り合いというのを前提に話している。どうしてそれがわかったのかが知りたかった。
『違うのか?』
「いや、間違ってないよ。でもどうしてぼくだと分かったの?」
『昨晩、希と話をしたんだ』
都築君はそう切り出した。
『最初は台風の話をしていたんだけど、長続きしなくて。それから文乃と梅ノ森の話をしたんだ。それが終わった後、希が「巧は…いいね。近くにそういう人がいて」って寂しそうに言ったんだ』
「希にはいないのか?」
思わず俺はそう聞いてしまった。
「…いない」
「親は…どうしたんだ…?」
答えは予想がついているのに聞いてしまった。
「知らない。ずっと施設で育ったから」
施設、か。おそらく学校や病院もその中にあるのだろう。それなら通学記録がないのもそれなら納得できる。
詮索はしないと決めたけど、希が話してくれている今なら大丈夫かもしれない。
「そこには友達とかいないのか?」
「…前はいた」
前はいた、確かに希はそう言った。
「前はってどういうことだ?」
「半年くらい前に施設を出た。興味を持ったものが出来たって」
「それって、前に言ってた『かなで』って人?」
俺の言葉に希は頷いた。
「かなではわたしがいた施設で唯一仲が良かった人」
「どんな人なんだ?」
「同い年の女の子みたいな男の子」
そのたった一言だったけど、『かなで』の情報が二つ増えた。
しかもこの二つの条件が合う人が一人いる。でもまだ確定は出来ない。もしかしたら他にもいるかもしれないし。
「その興味を持った物が何か分かる?」
「試験召喚システム?だったと思う」
露骨に聞いてしまったけど希はそのまま答えてくれた。
でもおかげで確信が持てた。試験召喚システムは日本ではうちの学校以外にない。武井奏で間違いない。まさか最初から答えが近くにいたなんて。
『その後は文乃が来て色々あって三人で寝た』
「それでぼくだ、と」
『そういうこと』
なるほど、確かに桜ヶ丘にはぼく以外に奏という名前の人はおそらくいないし、女の子みたいな男の子というのも認めたくないけど当てはまる。
ぼくの方の聞きたいこともこれでわかったし。
「ぼくも探せばいいのかな?」
『そうしてくれると助かる』
「わかった、見つけたら連絡するよ」
そう言ってぼくは電話を切った。
そうは言ったけど朝食食べてなかった。
「そうだ」
朝食を作るのと同時にお弁当も作ろう。おそらく希は朝から何も食べていないはずだからお腹が空いているはずだ。今のぼくの状態だと走れないだろうし、崩れないで持っていけるはずだ。
そう考えてぼくはキッチンに向かった。
ストレイキャッツを飛び出したからわたしは町を出ないで人通りの少ない裏路地を歩いていた。
わたしはどうしてストレイキャッツを飛び出してしまったのだろう。
昨晩、巧と文乃が手を繋いでいるのを見てから羨ましくなってしまった。どうしてなのかよくわからない。
そしてそれを見ているうちに無性に奏に逢いたくなった。
それならどうしてわたしはこんなところを歩いているのだろう。奏を探しに行けばいいじゃないか、と思う。でもわたしの足は全く動こうとしてくれなかった。まるで近くにいるとでも言っているように。
くぅ、とお腹が鳴った。朝から何も食べていないのだから当たり前だ。
わたしは何か座れそうなものがないか辺りを見回した。そして瓶ケースを見つけ、それを裏返して椅子代わりにした。
わたしは巧の隣にはいられない。その場所は文乃のための場所。もう誰かの居場所を奪いたくない。
「巧の隣にいていいのは文乃。わたしはいられない。わたしがいていい居場所なんて…」
「ぼくの隣にならいていいんじゃないかな」
ないと言おうとしたら、突然横から声がかけられた。一瞬幻聴かとも思えた。その声は今わたしが一番聞きたい声に似ていたから。
恐る恐る顔を声のした方に向ける。
「見つけたよ」
そこには――――
今回はここまでです。
それでは次回。