SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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第3話「ヒリヒリするの」終わり!閉廷!

スベスベ、ぷにぷに(うっ・・・癒ぷに)、ちょん、ペタペタ、フニフニ、じんじん、ヒリヒリ、めっちゃ擬音使った。

ちょっとぐらい文章に「人参しりしり」混ぜててもばれなさそう。


part.3「ヒリヒリするの」

 

「俺は、飛ぶことを拒否してるんだ」

 

 泡がついた身体を洗い流すために浴槽へ入れようとした竹桶を落とす。

 栗中尉の独白にすっかりと動揺させられた。

 静まり返った浴場に竹桶が落ちる音が響き渡るだけ。

 静寂に耐えきれなくなって、アタシはただ無心で湯船のお湯を身体にかけた。ジンジンと温まり、血流がよくなる感触。会話の流れは全く進まず硬化していた。

 

「それは」

「いつか、話すよ。話さなきゃいけない時がくる」

 

 今は教えてくれない。上官の言葉はどうしようもなく頭に響いた。

 飛ぶことを拒否する。空戦ウィッチではないということか。違う。栗中尉のためのユニットはある。履くことはできる。

 零戦ユニットは、最新の紫電改とかと違って必要な魔法力も多くないから、魔法力が減っていても飛べる。

 初スコアをとった時の指示は、栗中尉自身が空を飛びネウロイや怪異と対峙した経験がなくては無理だった。栗中尉は元々航空ウィッチだと思う。

 

「昔は飛べたんだ。あの頃は、うん。ちゃんと飛べてた」

 

 栗中尉は、何かが切欠で空を飛ばなくなった。

 それは一体、どんなことだろう。

 出会って数時間、話した回数を数えられる程度の関係性では、中尉の気持ちなんて分かりっこなかった。

 

「それでもアタシは、栗中尉に従います。さっきの戦いで分かりました」

 

 静かだった浴場で、アタシの小さな声が反響する。

 栗中尉の指示は的確。レーダー上のアタシと敵の位置関係を正確に把握し、アタシの状態を掴んだうえで、細かい指示を飛ばす。彼女が言ったとおりにすれば、ネウロイを撃墜することができた。

 

「そういってくれると、助かる」

 

 話はそこまでだった。栗中尉はタオルに髪の毛をすべてくるんで頭ごと結び、浴槽に肩まで沈む。

 アタシもそれに倣って、ボブカットの頭をタオルでくるんで海水風呂に足を入れた。

 海水を温めたからか、それとも身体が冷え切っていたからか。

 立派な浴槽に右足を入れると、足の先っぽから血行がよくなる感触とともに、血が巡ってくる。

 両足を入れ、ゆっくりと腰を下ろして肩までつかった。

 ぽかぽかと、身体が温まる。無機質な浴室の壁を眺めながら、思わず息をついた。

 

「今日は、まだ色々とあるからな」

 

 中尉はぼんやりとしていたアタシにそう声をかける。声音に眠気は含まれておらず、さっきの凛々しい表情をそのまま落とし込んだ静かな言葉だった。どこか、少佐を思い出す。

 霞ヶ浦に行ってから、陸海の隔てなく色々なウィッチがアタシに優しくしてくれた。

 基地が違うのに、しょっちゅう面会に来た少佐は一歩引いて見ていたけど、泊まる日は決まってアタシと入浴を共にしてくれた。

 

「ふむ。この後は偉いさんとの食事会か、めんどくせぇ」

 

 栗中尉が両腕を組んで、足を伸ばせない程度の広さの浴槽で背を壁に預ける。

 プカリと浮かぶ、二つのお椀。大きい。いいなぁ。

 

「なぁ、豊・・・あ、下の名前で呼んでいいか」

「あ、はい、大丈夫です!」

「豊って、なんでそんなに肌綺麗なんだ」

 

 栗中尉は、アタシの二の腕の辺りをしげしげと見つめた。

 生まれてこの方肌荒れの類があったこともなく、ウィッチになってからは使い魔の保護の自己治癒力で整えられて、肌は綺麗だ。

 栗中尉だって肌が荒れてるようには見えないし、アタシと同じくらいの色見の肌は静かな雪国の新雪みたいな優しさを感じさせる。

 さっきから触れ合っていた肩だって、とってもスベスベだ。

 

「なんかなぁ、若いっていいなぁ」

 

 栗中尉はアタシが顔を赤くしていることなんてお構いなく、二の腕をぷにぷにと触り、しきりに自分の二の腕と比べる。

 

「やっぱ若さか、年は、十四だったな」

 

 海水風呂の温かさの影響か、まっかに火照ったアタシの頬をちょん、と栗中尉はつつく。

 アタシの変調には未だ気づいていない。栗中尉はこういうお肌の触れ合いとかに抵抗はないんだろうか。

 ペタペタとあちこちを触られるたび、フニフニと当たる柔らかい山脈の感触で頭がフラフラしてくる。そして妙にじんじんとくる太もも。

 アタシはそろそろ限界だった。

 

「おーい、のぼせたか?もう上がるぞ?」

 

 気づいたときには、栗中尉は湯船から上がっていて、アタシの手を引っ張っていた。

 

「・・・はっ」

 

 もしかしなくても、意識が飛んでいたかもしれない。

 あんなに肌に触れられたのも、触れたのも初めてだった。

 

「ほら、上がるぞ」

 

 手を貸してもらって、力が抜けてしまった身体を立ち上げる。少しだけのぼせてしまったかもしれない。ちょっとふわふわした感触。

 

「あ、あぁ、うぅ」

「あー今染みてきたか」

「ヒリヒリするっ」

 

 足、太ももの傷跡部分がとてもヒリヒリする。さっきまでジンジンとした感触は、血の巡りがよくなったものだと思っていたが、日焼けにお湯を当てたものが酷くなったやつらしい。

 

「大丈夫か」

「くぅ、うっ、だ、大丈夫、で、です!」

 

 とても痛い。ヒリヒリする。溶けて皮が薄くなった部分を温かい海水風呂に浸していたから、とても痛い。

 漏れ出る声を聞いたのか、浴場の扉がすさまじい音を立てて開く。

 

「犬宮さん!」

 

 山軍曹だった。腕まくりをしてアタシの貧相な体をお姫様抱っこしてしまうと、あっという間に脱衣所に運んでくれた。

 

「栗中尉、久しぶりの入浴だからって長風呂しすぎです」

「あ、あぁ、すまん」

「犬宮一飛、お身体拭きます」

 

 いうが早いか、山軍曹はアタシの身体についていた水分をさっさと分厚いタオルケットで拭い、痕の部分は優しく水っ気をふき取ってくれた。

 

「あ、あの、あとはじ、自分でやります!」

 

 痛みが引いてきた辺りでなんとか声を上げる。タオルケットを奪って、髪の毛を乱雑に拭いた。

 

「山、俺は先に士官食堂上がってる」

 

 下には大人なデザインのレースがあしらわれたズボンを履き、上にはへそ丈のキャミソールを着た栗中尉が白い士官服に袖を通しながら出て行く。

 

「了解しました。一飛はゆっくり後でお連れします」

「頼んだ」

 

 後に残されたのは、顔を真っ赤に火照らせたアタシと、海兵の服に身を包んでいる山軍曹。

 

「すみません。お怪我に配慮が足りなくて」

「いいんです。自己管理できてなかったアタシが悪いんです」

 

 それはあの時だってそうだし、今だってそうだ。お風呂もさっさと上がってしまえばよかったのに、必要以上に浸かってしまった。

 

「あ、あとお食事のことなんですが、霞ヶ浦では」

「ここでも特別献立なんですか?」

 

 霞ヶ浦で秋水の訓練を行っていたウィッチは全員、特別な献立のもと食事が用意されていた。

 高空に高速で上昇するため、高度1万メートルを越すとなるといくら保護魔法があるとはいえ、気圧の変化の影響もある。特に消化中に発生する腸内ガスの発生を極力抑えたりするなど、工夫を凝らした献立作りが行われていた。

 

「はい、先日着任した烹炊員が一人担当することになっています」

 

 献立は、先だってコメートユニットを運用していたカールスラントのメニューを参考に、扶桑海軍の補給で用意できるものに限られる。その辺りの塩梅が難しいのか、アタシが霞ケ浦を出立した時点で、献立表は定まっていなかった。つまり、研究途上のもの。

 その水兵はアタシのためだけの食事と夜食を準備してくれるらしい。

 

「長良では常に警戒することになっているので、毎晩のお夜食と三回の食事は特別献立を用意してます」

 

 もしかしなくてもだけど・・・

 

「好物とおっしゃっていた蒸かし芋は・・・舞鶴で補給するまで」

 

 やっぱりかぁ・・・

 アタシの好物は、芋。蒸かし芋も好きだし、サツマイモの焼き芋も好きだ。予科練の頃、畑で収穫したサツマイモを焼き芋にして食べたこともあるし、秋草での滑空訓練の間は頻繁に食べていた。

 お芋は高高度要員の食事には向かない。特別献立からも真っ先に外されていた。

 髪の毛を拭き終わったアタシは替えの水練着を身に着け、太ももの痕を隠す布を履き、セーラー風のワンピース型上衣を上から羽織る。脇の隙間をリボン止めで締めれば、着替え完了。

 

「よし、まだちょっとヒリヒリしますけど、お食事行けます!」




お気に入り、ありがとうございます。

ちょっとずつ伸びてくのが嬉しい・・・


21/11/19 改稿版に差し替えました。
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