SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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就活とかレポートとか忙しくなるけど、完結はしたいです。
とりあえず就活解禁までは創作とお勉強ですね。


第四話「とある烹炊員の苦難」
part.1「ランフォードスープ、バゲットを添えて」


 

 誰が言っただろうか。海兵団に居た頃聞いた同期の話だったか。

 

「二宮ァ!盛り付け急げ!」

 

 烹炊所は戦場。まさにその言葉が似合う。

 慌ただしい烹炊所にある、揚げ物焼き物何でもござれ万能調理機械の揚焼器から、天ぷらの入ったトレーを取り出す。

 二等水兵、舞鶴海兵団を出たばかりのペーペー新兵である自分が士官用烹炊所に居る理由はただ一つ。

 実家が洋食屋で調理経験が見込まれていたから。

 艦艇用のまな板は、テーブルと変わりない大きさのそれに向かって、先輩が材料を淡々と切っている。

 方や、炊きたての麦飯が船のボイラーから回された熱気とともに烹炊所いっぱいに、炊きあがりの蒸気を吐き出す。

 

「遅いんじゃア!」

「ッぐ」

 

 揚焼器の天ぷらを一通り盛り付け、塩をまぶしたところで烹炊長に大きなしゃもじのバッター制裁を食らった。

 炊いたばかりの蒸気釜に突っ込んだばかりのそれがぶつかると、熱いことより、骨盤が痛いと泣きたくなる。

 小型艦になればなるほど、烹炊員のしごきは弱くなる。海兵団で主計科課程を歩んでいた同期達はそう言っていた。それがどうか。

 俺が長良に配属されたのと同時に、長良の士官用烹炊所班長となったのは、元戦艦、しかも兵員烹炊所の班長経験者。

 今までのルールや、先輩方など何のことやら。邪知暴虐の権化となった烹炊班長は、新兵の俺に無茶ばかり押し付けてくる。

 

「二宮!犬宮一飛曹のための特別献立はどうした!」

「今から取り掛かります!」

 

 犬宮一飛曹、特殊な飛行脚を取り扱う特別なウィッチ。

 その飛行脚とは高速で超高高度まで上昇するもの。魔法力による自己保護も越える影響を伴うものであるために、芋などの腸内ガスを起こす食品を取り除いた特別献立と、特別な警戒態勢のために一日四食を用意する必要がある。

 そうして白羽の矢が立ったのが、舞鶴では知らぬ人は居ないような洋食屋の倅で、海兵団に主計科で入った水兵の自分だった。

 海兵団を卒業後は皇都に招集され、高等学校で特別な献立のために栄養管理の教育を受け、長良で「秋水」を履くウィッチのために創意工夫を凝らすことが命じられた。

 元々、洋食屋の長男として食文化に恵まれ。

 実務経験がある場合は士官用の烹炊所に配属されると噂を聞き、異国の料理を探求したいという気持ちだけで舞鶴海兵団の門を叩いた。

 あわよくば遣欧艦隊にでも配属されて、と考えていたら、扶桑海での哨戒任務艦での特別任務。

 創作料理を試すことが出来る機会だと、海兵団の教官に送り込まれた。皇都では様々な食文化や、栄養管理学を学んだ。

 長良に来てみたらどうだ。

 

「そんなことより飯上げを早くしろ!米が炊けたらすぐに盛り付けろ!」

「分かりました!」

 

 皇国海軍の中でも、立ち位置が低いと思われるのが主計科の中で俺たちのような烹炊員。大型艦になればなるほど、兵員烹炊所と士官用烹炊所でも大きな差がある。

 大型艦になれば、艦長や司令と言った天の上に居るような方々専用の調理場があり、お抱えのシェフなどもいる。しかし、大型艦の兵員烹炊所では、先任烹炊員からのしごきが余りにも理不尽なのだと聞く。

 そんなところから転属してきた烹炊長は、新兵にも拘わらず特別な待遇を受けている俺に目をつけた。

 犬宮一飛の料理は時間がかかる。烹炊所にある調理器具は一人前だけを作るようにはなっていない。

 普通の調理を手伝いながら、時間がかかる料理の下ごしらえなど間に合うはずもなく。おまけに、隙あらば班長によるしゃもじのバッター制裁。

 

「覚えてろよ」

 

 消えた班長の背に恨み言を呟く。

 このバッター制裁は、普通のそれよりも酷かった。人が一人入る圧力釜を混ぜる木製のしゃもじの薄い部分で、垂直に臀部に当てる。

 長良に配属されてから、一日と経たない内に痣が残るようになった。

 他の先輩方は、班長が着任する前から烹炊所に居たから、班長は俺にしか手を上げないし、俺にしか無茶ぶりを言わない。反抗されて仕事が回らなくなり主計科長に咎められることが分かっている。

 

「士官用食堂に配膳急げ」

 

 班長が怒鳴り、目が回るような勢いで先輩方が士官用食堂に出来上がったプレートを出していく。

 自分にはもう一仕事があった。

 息切れした呼吸を整える間もなく、取り分けてもらった野菜の材料を剥く。

 電気を使って野菜などを磨り潰す合成調理器に、人参と玉ねぎの野菜を投入。これだけでも一人前を作るには無駄が多い。仕方がない。

 件の秋水ウィッチは今日配属され、今晩に歓迎会が開かれる。歓迎会でさえも他と違うメニューを用意しないといけない。

 昨日は牛肉を使ったカレーの日で、今日はカレーと同じ具材を使った肉じゃがが兵員烹炊所で出ている。

 歓迎会であり、祝いの日であるからと朝に輸送された魚を天ぷらにして、豪勢な食事会が士官用食堂で行われて。副菜として肉じゃがも提供されるという面倒な理由がおまけでついてきた。

 

「豪勢なもん食ってるよな、ウィッチって」

 

 揚焼機で明日の朝食の分も纏めてバゲットを焼き、一緒に焼き目をつけた牛肉の賽子焼きを取り出す。

 

「スープはまだ煮込みが甘いな」

 

 缶詰の乾燥エンドウ豆をベースに、カロリーとタンパク質を取れる料理。

 リベリオン生まれブリタニア人のランフォード氏が生み出した食事をベースに改良を施したものが「ランフォードスープ」

 第一次怪異大戦後の恐慌にあたって、炊き出しの文化とともに発展した料理で、カロリーという部分が栄養面的に欠けがちだったことを補う。

 ビタミンやタンパク質と言った栄養素を纏めて一度に摂ることが出来、比較的安価な素材で作れるというのがこの料理の特徴。

 前もって長時間煮出した丸麦とエンドウ豆でベーススープを作り、出汁は海軍伝統のスープストック。野菜のペーストと牛肉の賽の目切りを放り込んで煮詰める。

 スープストックは出航前に買った牛のあまりが元だ。

 軍艦が生肉類を補給する時は基本的に一頭買い。

 一頭買いすれば、当然骨や余りが出る。長時間煮出して出汁を作れば、例えばカレーの隠し味であったり、肉そばのスープであったりに使える。

 イリコに関しては、水出しで用意をする。

 これが皇国海軍伝統のスープストックという文化。

 今回はシチューに似た肉入りのスープで、牛骨の汁を味付けに用意する。

 煮詰まってきたのでスープを配膳し、胡椒を振りかける。

 味見している余裕はない。バゲットを盛り付けて、スープとパンの体裁を整えて終わり。

 一通り作業が終わった頃には、意識がふらふらとしてきた。

 

「二宮!特別献立はまだか!」

「今出来ました!」

 

 何とかプレートに盛り付けたところで、烹炊長が怒鳴り声を上げて調理場に入ってきた。

 

「遅い!もう歓迎会は始まっている!」

 

 今日からこれが毎日続くのだと思うと気が重い。

 特別献立のプレートをウィッチの護衛である栗山軍曹が運んで行ったのを見送った後。

 大きな、大きなため息をつきながら、班長のお召通りに洗い物を始めた。

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