SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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今回は前回頂いた感想の返信を後書きにて、ボチボチ語りますのでよろしくお願いします。


part.3「思い出」

 

 気持ちの悪い寝覚め、それはあの時を思い出す。

 アタシは、扶桑海を望む片田舎の良家に生まれた。武家の一族で、華族。土地を持ち、家業は酒造。実家に大きな蔵がいくつもあった。

 尋常小に入ったばかりのアタシと高等小の兄、まだ幼い弟の真ん中に生まれ。両親や祖父母にも恵まれ。

 とてつもなく充実していた。尋常小の授業は簡単すぎてよく居眠りして、猟師の腕前を持つ恩師によく怒られていたものだ。

 出来が良い子供と言われた。

 事件が起きるまでは、近所の子と一緒に里山を駆け回り、元気いっぱいな生活を送って。誰もが温かく見守ってくれていた。

 扶桑海事変が起きてからも、生活は特に変わらなかった。

 

「変わらなかったんです。そう思っていました」

 

 言ってしまえば対岸の火事であり、悪く言えば平和ボケで着飾っていた。

 扶桑海は広大だ。

 広がる海の水平線を見渡しても、見えるのは佐渡島。

 それ以上に、アタシたちは日常のように作物のことがよっぽど大きな心配だった。

 扶桑酒を作るには、米や芋などが収穫できなければ意味がない。

 先祖代々受け継いだ土地には、多大な金と時間、労力がかけられてる。

 尋常小に入る前から、春は近くの水田で田植えをして、秋になれば鎌で収穫。

 村の皆も、家の皆も一緒。稲の収穫作業でひと段落すると、近くの畑でサツマイモを掘り出し焼き芋にする。それを皆でいただくあの瞬間が何よりも楽しかった。

 楽しかったあの日々は突如、終わりを告げる。

 大きな屋敷が火の海に包まれて、何が起きたのか、全く分からなかった。

 

「もしあの時、逃げていなかったら」

 

 あの時アタシは、不安な気持ちをかき消すため、アネハヅルを飼う鳥小屋にいた。

 爆発と共に、蔵が燃え盛って倒壊していく。屋敷が、家族が団欒のひと時を過ごしていた家が燃え盛っている。

 銀色の胴体をした大人一人はあろう大きさの蜘蛛怪異が目の前に現れた。

 

「今でも、思い返せます」

 

 余りの出来事に放心した。何が起きたのか、脳が思考することを放棄して、指一本動かなかった。手足が震え落とした腰を上げられないまま、迫ってくる銀色の何かが迫ってくる。

 戦わないと。相手へ手が届くほど近づいて気がついた。

 今、アタシは命を狙われている。目の前の、得体の知れない銀色の何かに。

 戦え、戦え、何を使って?

 アタシの指に触れたのは、鳥小屋を構成して転がってきた鉄のパイプ。何も考えていなかった。無心にその棒を握った、尖った先端を突き出して。

 その時。身体が青白く光る。アネハヅルと契約を結んだ瞬間に魔法力が宿り、手に持った鉄パイプに魔法力が伝わる。

 青白く光る鈍い先端を、鈍い色のパネルに突き刺す。何度も。何度も。声をからして突き刺し続けた。

 目の前の敵はあっさりと粉雪のように結晶を落とし消えた。燃え盛る屋敷、必死に走り回る。

 兄と、弟と、両親、祖父母の名前を叫び続け。

 気分が悪くなったと伝えたつい数分前、顔を合わせていた人たちを呼び続けた。

 

「誰も、いませんでした」

 

 返ってこない返答。朽ちていく屋敷の隙間を必死に縫いかい、熱で肌が火傷しても気にすることなく探し続けた。皆の、姿を。あの優し気だった姿を探し続けた。

 村の皆は、爆発の騒ぎを聞いて屋敷に集まった。燃え盛る屋敷は、周りに建物がないことをいいことに燃え尽きるのを待つ。

 火が弱まった跡地で、村の皆が見たのは。

 火を纏って、自己保護魔法で身を守って、固有魔法の朱角が飛び出した、異形のアタシ。

 

「それからです。村の皆から、鬼と恐れられたのは」

 

 屋敷の地下蔵、魔女の存在を見たこともない皆がアタシを恐れるなんて分かっていた。

 家族の名前を呼んでいただけだった。

 あの爆発も、燃え盛る屋敷も、全てアタシが起こした災厄だと、村の皆はそう考えた。

 母方の祖父母はそれを忌み嫌ってアタシの身受けをしなかった。

 

「豊、どうやって予科練に入ったんだ。少なくとも五年は地下暮らしだったんだろう」

 

 栗中尉の言葉に短く返す。

 

「尋常小の恩師がアタシを夜中に山に連れていってくれたんです」

 

 恩師は鬼だと思わなかった。ウィッチの存在でやけに現実味のある不思議な存在を認めなかった。

 何故なら、恩師は軍人だったから。

 ウィッチは、彼が陸軍に居た頃から魔法力を持ち身体能力が強化された異能の兵士として共にいた。肩を並べて戦った。

 羽が頭に、尾羽が臀部から現出するようになったアタシを見て、形は違うが「ウィッチ」だと見抜いた。

 

「んで、なんで予科練」

 

 扶桑海事変で多大な損害を受けたものの、戦争映画で航空歩兵受験者の倍率が上がった陸軍ではなく、地元から大きく離れられる皇国海軍に推薦してくれた。

 予科練に入るための最低限の体力は、恩師が夜中のハイキングに連れていってくれたから身に付いた。

 そうでなければ、病人のように歩くことがままならなくなったことは想像に難くない。

 

「あとは、人並ですけれど、リヒトホーフェンの伝記を恩師に頂いて。読んだことが目指した理由です」

 

 自由に飛べる翼があるのなら。アネハヅルのように。自分の身体で、見たこともない景色を。高く、遠い場所を見たかった。それだけ。

 それだけの理由で、予科練を志望した。

 魔法針を持つウィッチ不足と固有魔法の希少性から合格した。それから一度も故郷に帰っていない。帰る場所もない。

 悲しくもない。過去のことだと割り切れる。割り切れていた。

 ネウロイなんて存在が扶桑本土にやってくるわけがないと思って高をくくっていた。

 何事にも比べられない悲しい出来事だった。けれど、これまで生きた七年の歳月は想いすら風化させた。

 

「そうやって割り切れた、はずなんです」

 

 今になってあの時の悲しみが、苦しみが、復讐心が滾々と湧き出している。

 あのネウロイが発射した「弾道弾」という兵器。

 あれがアタシの家族の仇なんじゃないかって。

 アタシを殺そうとした、蜘蛛型怪異のことも栗中尉に伝えた。

 これでもし、鈍い色のネウロイと家族の仇が同定されたのなら、アタシは鬼となろう。

 あの日の朝も寝覚めが悪かった。




あそこが無い問題、最近のスト魔女作品だとあそこの地図が海だったのが砂漠という設定に変わったりしてたりして、更には「扶桑語」という概念の根幹から揺るいだりして、意外と大きな問題なんですよね。

例えば、故事成語の由来がないと前回の後書きで書いたのですが、これはちょっと行き過ぎで。

漢字がなければ、平仮名もないことになるわけで・・・そうなると扶桑語って何ぞや?ってなるわけですよね。

だから、もし漢字がある程度出来て扶桑に渡来した(or別の島や半島部分にその国に居た人たちが逃げてきて文化が残っていた)場合なら、扶桑語の概念もかなり分かりやすくできる。

けれど、故事成語の由来となった言葉が出来てるかどうかは分からない・・・というのが前回の後書きで言いたかったことですね。

扶桑どころか世界全体の歴史がはっきりと分からないのが難しい。

そも、いつからあそこが無くなったのか、何が原因なのか、怪異なのか。とか。

そこらへん考えだすとキリがないですね。


以上、ぼんやりと考えていたことでした。


感想ありがとうございました。感想をいただいて、改めて色々思考してました。

お気に入りやしおりなども分かりやすい数字として見れるので助かっています。

今後もゆったり更新ですが、よろしくお願いします。
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