SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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第六話「蒸かし芋」
part.1「リバウの蝙蝠」


 

「コウモリより赤城」

 

 あいつが居なくなって、2日と少し。

 最後の戦闘行為が確認されたのは、リバウから南100キロ。歩きで帰るとして、リバウの先はネウロイの癪気範囲。

 

「定時報告、現在リバウ南70キロ、天気良好。敵反応無し。哨戒エリアを広げる」

 

 どれだけ幸運に陸上のネウロイを避けたとしても、体力お化けが魔法力で走っても、競技マラソン2回分は限界を迎える。

 リバウから近距離は、三羽烏が率いて探している。見つかる気配がない。

 

「赤城、了解。2時間で天気が悪化する。帰投限界になり次第再度連絡する」

「コウモリ了解」

 

 夜間を飛ぶ能力に関して、俺が誰よりも一番。

 液冷アツタで高速な夜戦仕様二式艦偵ユニットを使える俺しか、この空域に派遣出来ない。

 あいつが居ないから。

 あいつが居れば、あいつは目がいいから。

 異国の大地で凍えている仲間を見つけることは容易。

 居なくなったのは、よりによってあいつだ。

 

「落ち着け、栗田。俺は神原なんかの手助けなんて無くても。戦える」

 

 この空域は怖くない。相棒が居なくとも、自分の身は自分で守れる。

 月夜はどこも変わらない。扶桑も、ブリタニアも、リバウも。変わらない。空はどこに居たって変わらないのがいい。

 相棒が居ないことがこれほど寂しいことだとは思わなかった。

 一人で飛ぶ空が、こんなにも静かなものだとは思わなかった。

 あれほど煩わしい相手が居ないこと。

 喧しく、当たり前のことを当たり前に話しかけてくるバカが居ないことが、これほどにも気分悪いとは思わなかった。

 宇野部大尉に無線を切られ、単独で初めて夜間飛行した状況訓練でもこんなことは思わなかった。

 あぁ。

 

「やっぱり、背中が寒い。寒いぜよ神原ぁ・・・」

 

 こんな弱気な自分は初めてだ。

 他人が恋しいこんな自分は初めてだ。

 母親を失い、一人で生きるために予科練に入って海軍に入隊して。

 これほど喪失感に襲われているのは、初めてだ。

 どうして、なんて言葉や、何故、なんて言葉は思い浮かばない。

 あいつが俺の相棒だ。

 あいつ以外に俺が背中を任せられるヤツは居ない。

 坂本だろうと、西沢だろうと、竹井であろうとも。リバウの腕利きに認められる技量のアイツが、こんな簡単にくたばるか。

 そうは思えない。思えないから、失った気持ちが大きくなった。

 

「夜は冷え込むな」

 

 思い出す。夢に見てしまったあの時は、これよりも寒かった。緯度が違う。

 さざ波の音。海は凪いでいる。夏の扶桑海は涼しく心地よい。寝間着の軽装で艦内を出歩くのは不用心だと山は言う。俺が気にしたことではない。なにかあれば使い魔のサブが噛む。

 

「どうされたんですか?」

 

 あどけなさを残す部下が横に立つ。

 

「思い出に耽っていただけだ。すぐに戻る」

 

 舞鶴の灯りが見える。今晩は港の外で投錨して、明日に入港。

 あの時に誓った。俺はもう、飛ばないと。

 

「思い出、ですか?」

「俺が飛ばないと決めた出来事だ」

 

 豊を見て、思い出した。

 俺がこいつの年頃の時だ。こんなにちびっこくはなかったけど、心は幼かった。

 あの戦場に俺のような若輩が居たのは、今では異質かもしれない。

 当時はリバウの三羽烏と呼ばれた奴らも同じくらいだった。

 俺と豊は似通ったウィッチ。

 同じ人に見込まれ、しごかれ、若くして夜に飛ぶ。俺は魔法針適正が高いだけで固有魔法は無く、豊は固有魔法を持っていたから任務に投じられたことが違い。

 

「大きいですよね、レーダー」

 

 豊がブリッジ上を見上げて呟く。

 扶桑が電探魔法陣を研究した成果、二式艦偵の電探搭載型。あれはユニット側に魔法陣が搭載されて、八木式の魔法針が頭から伸びる代物だった。経験があったからこそ、今のポジションに居る。

 

「あの零戦、まだ飛べるんですよね」

 

 豊は格納庫から取り出したユニットゲージを指さした。

 

「艦長がうるさいんだよ。2人も航空ウィッチが居るのに1機も普通のユニットがないのはどうなんだって」

 

 零戦52型。試製の烈風ユニットが初飛行し、紫電改ユニットが続々と配備された今では旧世代機。

 誉と栄では、飛行性能が違いすぎる。零戦も金星に換装した54、64型が配備されていた。栄を使えば魔法力消費は抑えられる。

 時代遅れで、上がり間近な俺にとっちゃ丁度いい具合ではある。

 

「・・・お二人とも、明日は半舷上陸です。早くお休みになってください」

 

 甲板から海を眺める俺と豊を、後ろで見守った山が声を掛ける。

 月あかりが差し込むデッキは静謐に包まれ、波と優しい音が聞こえてくるだけ。

 

「ウィッチと言えど、レディの夜更かしは見過ごせませんな」

「吉沼司令!」

 

 豊の敬礼は今が真夜中なんて考えられないぐらい元気。俺は少し遅れて、艦橋横のウイングから声をかけた司令に敬礼。

 長良を率いる司令と艦長はとても温容、オフの時間を考慮して言葉遣いも軽い。

 

「敬礼はいいよ。明日、犬宮君は休みでいいかな」

 

 俺は今、下っ端じゃなくて飛行隊長。

 

「はい、飛行隊は全部休みです。特に豊は昼夜問わずですから」

 

 ウォーラスの二人も飛ぶ機会が多かった。明日から2日は港で投錨。

 2週間の航海で補給も当然、半舷上陸をして乗員の休息もする。

 豊は朝昼晩と警戒を強いられた。まだ身体が出来上がっていない年頃、経験からしてもう少しゆっくりさせたかった。魔法力を持つウィッチとはいえ、少女だ。

 どれだけ努力しても、どれだけ我慢しても限界が来てしまう。

 

「豊はうまいもんでも食って、ゆっくりしろ」

 

 豊の好物は芋と聞いた。高高度に高速で飛ぶ必要から腸内でガスが発生する芋類を避けた献立。好きなものが食べられないのはもどかしい。

 扶桑海軍の配給は渋いもので、空母とか戦艦みたいな大型艦じゃないから自前のアイスクリームメーカーもないし、携行食のチョコも前線が優先される。

 迎撃研究のためのウチに回ってくるのは、警戒時の食事用で娯楽の食べ物はない。

 

「明日、明後日、豊に関してはそもそも飛ばしません」

 

 2週間、警戒を続けて、4つもネウロイを撃墜している。最初の撃墜が、初めての実戦。

 初陣から4回の出撃で立て続けに撃墜4。気を張り続けた。ゆっくり休ませたい。

 

「さ、豊。もう一度寝よう・・・」

 

 明日飯炊きに言って蒸かし芋でも作ってもらおう。




お気に入りとか、諸々ありがとうございます。

一昨日、昨日、ぶっ通しでエリ8を読んだんですが、流石にあの量を読むのは大変でした。なんせ同じ作者さんの全5巻を履修してたので、それぐらいの勢いだろうと思ったら23巻。凄まじいボリュームでしたね。

7月から求人票出るので、それまでにはこの小説も完結していると・・・いいなぁ。

展開は全部決まってるので、あとは書く時間を用意するだけです
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