「そうですか」
二宮二水が懲罰房に入って3日。体力を失い、日に日に衰弱している状況を変えようと栗中尉を介した交渉を試みたが失敗した。
環境が悪いのは食事だけじゃない。
コンクリートむき出しの棟は夜にとても冷え込む。防寒は無いに等しい。物を送ろうとしても、それを止める勢力が居る。
どうにかしたいという気持ちがある。山軍曹の調べで、二宮二水を殴った上官が水兵たちを扇動して、アタシを出汁に彼と上層部を追い込んだと分かった。
アタシはどこまでも、彼に迷惑をかけている。
「山軍曹、アタシ決めました」
こうなったら、アタシが取れる手段は一つ。出汁にするならそれを利用してやるまで。
自分の考えを山軍曹に伝えると、止められた。
アタシはのうのうと惚けて生きていられるほど阿呆じゃない。自分の起こした責任は自分で取り返す。
「アタシは今日から、二宮二水の作った食事以外口にしません」
決意を固めて、夕焼け空に染まる空を見上げた。
まずは、二宮二水が作ったと言って普段と変わらない食事を出す。それを一口だけ食べて拒否する。
次に、二水を一時的に解放して作らせた食事を他の乗員が作ったと言って持ってくる。
それを二宮二水が作ったものだと看破すればいい。そこまで持っていけば、この陰気臭いことしか出来ないあの烹炊班長に対して直談判。
前回は怯えて、竦んでしまった心を奮い立たせる。
なんとしてでも。自分の起こした顛末はすべて自分で責任を取ってみせる。
アタシが引き起こした事態は、長良の上層部と水兵を巻き込んだ小さな諍いに発展している。この騒動を煽動した陰気な烹炊班長を打倒し、アタシが直接水兵たち皆に訴えなければ意味がない。
今日から長良が出港するまで四日を切った。それまでに決着をつける。
「そうか、分かった。俺はお前の言った方法に合うように発言しておく」
幸い、山軍曹はあの騒動以来二水と烹炊班長の間にアンテナを張り巡らしていた。栗中尉はアタシが決めたことを否定しない。
「よろしくお願いします」
「それと、幾つか知らせることがあってな」
まず、と一区切りを置いた栗中尉はアタシにいくつかの書類を手渡す。
「秋水ユニットの初飛行、並び開発に多大な貢献を果たし、前線で新しい戦法を開発したことで、カールスラントから勲章が来ることになった」
扶桑はカールスラントから、コメートとシュバルベの設計を頂いて自国で改良開発した。カールスラントは、ベルリン奪還を目指し連合軍と共同して進軍中。
現在進行形で進軍する部隊や、後々ベルリンを奪還した時には、防空体制の迅速な展開が急務。
そのため、カールスラントは扶桑の電探ストライカーユニットに目をつけた。上がり間近でも簡単に扱え、航空ウィッチの適性がなくても空間把握さえ出来ればレーダーとして大きな役割を果たす。
電探ストライカーは、リベリオンやノイエカールスラントで製造されている高性能レーダーと組み合わせることでより強大なものになる。
勲章は、司令と電探ユニット開発者、栗中尉に渡される。
アタシには、勇敢に秋水ユニットの開発、初飛行に携わり、戦果を挙げたことで鉄十字勲章が授与される運びになったという。
「んなわけで、出港する前に階級が上がる。部下も出来る。秋水改も新造機が2機来る」
「待ってください、情報量が多すぎます!」
階級が上がるのはまだ分かる。そうしなければ勲章を渡したカールスラントと見栄が合わない。
皇国海軍だってそれぐらいはする。
部下が出来る?秋水ユニットを扱うウィッチの養成すら途上なのに?
「あー、部下はカールスラントから来るぞ」
「もっと情報量が増えた?!」
カールスラントから来るってことは、コメートユニットを扱うウィッチ。秋水改とコメートはある程度近い筈だし、納得はできる。
アタシより、ノイエカールスラントから来る部下になる子の方が経験が豊富なことが問題。
「扶桑系のカールスラント人で、扶桑語もペラペラなんだそうだ」
よかった、とはならない。
「その方、コメートで飛んでたんですよね」
「あぁ、ノイエで訓練していたらしい。実戦はまだだが、あ、その資料だな」
アタシに手渡されたいくつかの資料の内、氏名らしきものがカールスラント語で記載された書類に、翻訳した扶桑語版が添付されている。
筆跡は堅苦しいものやタイプライターではない。新しく来る子の直筆。
「サエ・ツィーグラー・・・苗字がすごく発音しづらい」
「サエで大丈夫だろ。階級は軍曹、実戦経験はなし。現在は霞ヶ浦で秋水に習熟中」
歳はアタシと同じ14歳。生まれはベルリンだけど、お父さんは扶桑人。
カールスラントが陥落するまでは扶桑で暮らしていた。
カールスラントが陥落してからはノイエカールスラントに行って、ノイエ在住扶桑人とカールスラント人双方のための診療所を父が開き、移住。
その後、ルフトヴァッフェに入隊。コメートウィッチを志望した。
ツィーグラーという苗字は明らかにカールスラント系だから、お父さんは婿入りしたらしい。
「この補給物品にあるFG42ってなんですか」
リストにある銃らしきナンバリングと弾薬類の項をさすと、中尉が一枚資料を取り出す。アタシが腰かけたベッドは資料まみれになった。
「こういう形をした空挺機関銃だ。威力もあるし、反動も魔法力で十分抑えられる。何より、豊の固有魔法に合うと思ってな」
固有魔法は、照準を未来予測して光像式照準器に映し出すこと。
今までは威力的な問題でロケット発射機を使っていたが、FG42での狙撃の方がコアを狙い撃ちしやすい、と見たらしい。
サエ軍曹がアタシの使っていたロケットを使うから、役割分担という面もある。
「これ、照準器つくんですよね」
「あぁ、着けさせる」
光像式照準器は、固定出来れば照準を光の像で描くだけだから衝撃にも強い。固定式の照準器や、スコープと言ったものでは反動でずれてしまう。
「しっかし、豊も一番機かぁ」
「まずは、二宮二水のことをどうにかしてから考えます」
「そうだなぁ」
これから四日間、怒涛の時間が訪れると感じた。
ツィーグラーという苗字は、この二次創作書き始める前に資料として読んでたコメートの文庫「ロケットファイター」の著者の方からとりました。
あと気づかれた方はいらっしゃると思いますが、栗田中尉と前回まで出てた神原さんは、ファントム無頼の神栗コンビの苗字を入れ替えて、結構性格とかをイメージしたキャラクターです。
次回で一応この騒動は決着、するつもりなんだけど、次回の文章を思いついているわけではないので、ちょっと細かい展開を考えるのに時間がかかるかも。