SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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お待たせしました。

1月ほど入院して、昨日退院しました。

少し筆の進みも悪く、読みにくいかと思います。

ゆっくりと感覚を取り戻しながら、まずは9月までにこの章をしっかり書き上げたいと思います。


part.3「考えること」

 ずっと、考えた。

 

「家族ってなんだろう」

 

 7年前、あっという間に居なくなった。残ったのは財産目当ての親族ばかり。土地の名家の権力争いにたった7歳にして放り込まれた。

 サエちゃんにお姉ちゃんと呼ばれた時、家族の顔を思い浮かべた。もっと前からかもしれない。その記憶を思い出しても、ずっと捨てていただけかもしれない。

 アタシには家族が居ない。時間軸を戻すことは出来ない。

 この想いは、アタシが死ぬまでずっと、ついてくる。厄介な背後霊。

 仇は分かった。討ち果たした先に何が残るのだろう。

 

「何を目指して」

 

 守るべきものは、今では、国民や銃後。一緒に戦う仲間たち。

 最前線の一番前、空中で戦うにはそんなものが付いて回る。

 もし生き残って軍人を、ウィッチを引退したら。国から退役金が降りてくる。それだけだ。非情にも思えるが、それだけ。

 家族がいる人を僻むわけではない。

 ただ。

 

「どうやって生きていけばいいんだろう」

 

 将来が想像できない。

 小さく呟くアタシの様子に気づいた3人が振り向いた。

 

「どうした」

「犬宮さん、お顔の色が悪いように」

「曹長、大丈夫ですか」

 

 あまりに敏感にとらえられた。普段の自分がおっとりしているせいで、他の人は思っているより聞いている。

 まいぺーす、とは栗大尉に言われた。残念ながら、ブリタニア語は苦手。

 

「なんでもないです。ちょっと、マフラーの質感が合わなくて」

 

 首を回してごまかす。

 白の絹で誂えられた豪華なマフラー。

 秋水の練習飛行に付き合ってくれた仲間たちが作ってくれたものと違い、冷たく感じる。

 同じ素材で作られ、同じ想いが込められたとしても。

 どこか、他人事で成果を求められる気分。

 皇国が勲章授与に合わせ、高級品を用意してくれた。勤め先や守るべき国民からの税金で。軍人としての仕事の対価、という面があるから。

 

「マフラーなんてそんなもんだろ。俺なんて支給品余らせすぎてるし。やっぱ使い込まないとな」

「そんなに首を頻繁に振るものなのですか」

 

 前を歩いて鎮守府の運動場に設けられた勲章式典に向かう上官と部下。

 

「昔はな。俺は夜戦上がりだし、扶桑の電探の質の悪さは知ってるだろ」

「電探ストライカーも、呪符の形式が扶桑と欧州では系統が違いますから」

 

 ストライカーを起動すると現れる呪符とシールドの紋章、魔法が現出する文字と柄は欧州と扶桑で全く違う。

 電探ユニットを見学したカールスラント技術陣が頭を大きく抱えたのを思い出した。

 サエちゃんは使い道を模索している。技術陣は術式を代替して用意するよりも、質の良い自国製のレーダーを何か所も置く現行「ヒンメルビット」システムで充分だと言った。

 欧州と扶桑では戦術思想が大きく違う。

 欧州派遣軍の戦訓から、扶桑も旧来の格闘一辺倒より、欧州式編隊戦闘に変わった。

 3機編隊から、2機のロッテを2つとするシュバルム方式に変わりはじめたのは、アタシが予科練に居た頃。

 他の秋水部隊に運用経験を残せるようにサエちゃんは、アタシのロッテに僚機で入る。

 

「サエちゃん」

 

 彼女直筆の履歴書に「シャープ離陸」という項目があった。

 長良のカタパルトを見せても、何の躊躇いもなく「出力最大で打ち出されるんですね」と答えた。

 コメートユニットがどんなものか知らない。

 

「シャープ離陸、扶桑でもやりました。規定された燃料を搭載して離陸するんです」

 

 ノイエカールスラントにおけるコメートの訓練は、メッサーシャルフ110のユニットやJu機によって曳航され、滑空する第一段階。

 続いて、エンジンの特性や操作方法を学科や実技で学ぶ技術履修と滑空を行い。最後に「シャープ離陸」を行う。

 扶桑は、通常のウィッチとして初等・中等ユニットで学び、秋水ウィッチのための滑空ユニット「秋草」を扱い、実機の秋水と同じ重量の無動力滑空「秋水重滑空」ユニットを飛ばす。

 終わればすぐに、シャープ離陸と同様。

 離陸、実践を行うが、燃料を扱う頃には部隊に配属される。

 カールスラントは急ぐ必要がないけど、戦略型ネウロイに対する防空網が甘い扶桑は早期に戦力化しなければいけない。

 

「私、びっくりしました」

 

 サエちゃんが心底驚いた、と語る。

 

「整備の人がウィッチじゃないんですから」

 

 ロケットを動かす燃料2種は、非常に、非情なまでに毒性が強い。

 カールスラントでは、魔力を帯びて扱える山軍曹のような、飛ぶには魔法力が足りなかったり上がり間近のウィッチを整備士に選ぶ。

 扶桑には余裕がなく、危険な陶器製のタンクでの保存をする。

 危険なユニットを扱うウィッチ達を、ノイエではこう呼ぶ。

 「ヒドラジンの魔女」と。




ようやくタイトル回収。

次回は勲章授与をサラッとやって、二宮くんに腕を振るってもらいましょう。

・・・ていうか1か月も入院していて世間との断絶っぷりがバイヤー。

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