SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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第9話「二人の初陣」スタートです!


第九話「二人の初陣」
part.1「揚げる、焼ける、気分はどっち?」


 

「くーっ」背伸びをした。

 

 アタシたちと各軍のお偉いさんが集まった記念撮影は無事に終了。首元には、カールスラントから頂いた十字型の勲章と橙色の試製秋水色が染まったマフラー。

 

「無事終わったぁ」

 

 横でサエちゃんが胸元を抑えて、深呼吸。

 そんなにアタシたちは危ない要素か。序盤に、特兵隊からの差し入れこそあったけど、以降は万事てきぱきと進んだ気がした。それを口に出そうものなら、疲れ気味の彼女に追い討ちを与えるので黙る。

 

「よし。サエちゃん、次は訓練だね」

「はい」

 

 さーいくぞー!なんて張り切って、無抵抗のカールスラントウィッチ指定上衣の袖を引っ張った。

 

「元気なこって」

 

 後ろからは呆れかえった栗大尉の声。お偉いさんがそれを見て快活そうに笑う。今の舞鶴には一週間前の緊張感が残っていない。それが悪いこととは言えない。

 常々緊張しては心が持たないし、多くの市民を失った民草と同じく、特別陸戦隊もまた男性兵を中心に被害を受けた。

 最前線とも言えるここの空気は常に最大限緊張している。それを少しでも和らげる方法はないのか、とも上が考えること。

 あれから一週間が経った。生き残った人間は大方、全てではないが次の道を歩んでいる。舞鶴の人たちは一週間も経てば前を向いた。

 アタシはどうだろう。

 二宮二水が家族を喪ったと聞いた時、心はすっかり動揺した。舞鶴に被害が起きたから。

 身寄りが無くなり、帰る場所も無くなった二宮二水。彼はアタシと視線を合わさなくなった。サエちゃんや栗大尉、山軍曹とよく話している。

 

「もしかして避けられてる?」

「曹長が誰に避けられるんです」

「あの、ごはん作ってくれる人」

 

 サエちゃんが不思議そうに首をこてんと傾げ、一言。

 

「まささんが、ですか?」

 

 え。

 

「サエちゃん、今なんて」

「え、だから、二宮雅さんですよね」

 

 二宮、雅。もう二週間も関わって、初めて知った彼の名前。

 サエちゃんは苗字呼びより話かけやすいと、下の名前を聞き出した。

 アタシには素っ気ない態度ばかり取る。サエちゃんと大尉には至って自然な表情。それが彼の近況。また新しいネタが出てきてしまった。

 アタシってもしかしなくても。

 

「っ嫌われてる」

 

 滑走場に向かっていた足取りが止まり、サエちゃんに縋る。

 

「曹長も、マサさんみたいに難儀な性格されてますね」

「え、もしかして理由聞いてるの」

「まぁ」

 

 一言で針山に投げつけられ受け身も取れず突き刺さった。

 アタシがやらかしたこと。

 いくらでも思い浮かぶ。

 血のつながった実の家族を全員失った切欠。懲罰房に入れられた原因。体調を押してアタシの食事をつくる無理をして、アタシの前烹炊班長追い出し作戦の出汁にした。

 嫌われる理由なんていくらでもある。

 あぁ、まずい。胃を完全に握られた彼に嫌われたら心が止まる。食事も喉を通らない。

 

「サエちゃんどうしよう」

「お二人で話をつけていただきたいです」

 

 正論で返された。

 全く持ってその通り、それ以外の道がない。

 理由を作ったのがアタシ自身。彼に問いかけられるのもアタシだけ。

 長良に居る間だけは階級もあって無理に問いかけられない。

 どうにかこうにか、サテンに誘って話を聞くか。舞鶴の店は珈琲一杯に目が飛び出るほど高いけど幸いアタシは高給取りの航空歩兵。

 

「あ、丁度いましたよ」

「はぇ」

 

 サエちゃんが指差すのは、畔の竈で作業する二宮二水。

 お昼は訓練前に食べるから、食材を前もって用意していたと上陸の時のカッターで聞いた。

 昨日まで炊き出ししたこともあって、食材のあまりもある。

 

「お待ちしていました、サエ軍曹。美味しいものを用意しておきましたよ」

「ありがとうございます」

「受勲式お疲れさまでした、曹長。どうぞ、食事を頂いて午後の気力を養ってください」

 

 ほら!ほらーーーーー!

 絶対嫌われてる!アタシとサエちゃんじゃ扱いが違うもの。

 そりゃそうか。

 彼からすれば、家族が居なくなった責任が勲章を受け取ってる。そんなの許せるわけない。当たり前だ。

 互いに気まずく瞳を逸らしたアタシを呆れる周囲の視線。

 やり場のない気まずさを、サエちゃんが小皿のお豆を食べて、解消してくれた。

 今朝お着替えを手伝った分は、これでチャラ。本当ならもっと擦ってみたかったけど。

 

「美味しい!マサさん!これ!美味しいです!」

 

 サエちゃんがパクパク食べるのは茶色の豆。大きさ的に今朝見たような。

 

「試しに納豆を炒ってみたんです」

「ネバネバが胃腸に良い働きをしますが、納豆の場合は炒ってもそれほど失われるわけではないですし、企図している効果がお茶請け感覚で楽しめますから」

 

 炒り納豆。

 美味しそう。アタシも解説を聞き、一つまみ食べてみれば、納豆の味を残しつつも揚げ物のように塩味を感じる。

 汗かきなアタシからすると、塩分も一緒に補給できてお茶請けは好感触。

 チョコは栄養を補充してくれるけど、お茶とは合わないし、扶桑の味がするものと扶桑茶は絶対に合う。

 

「すごい美味しいです二水!」

 

 彼はただ料理が作れるだけではない。

 皇都に出て、高等学校の人たちや研究機関と連携を図り、高高度に上がるウィッチの食事を考えている。本来なら、彼こそが昇進するべき。彼こそが勲章を受けるべき。

 彼は辛い思いをこの一週間で何度も味わった。

 懲罰房では心どころか身体も壊れそうになった。家族を喪った。

 そんな彼に、アタシは接してもいいのか。話しかけていけないような気がする。

 自然とアタシを避けているのは、それ故。

 思えば、アタシも軽率だった。自分の身のうえを彼に話してしまった。今思えばあれは失敗。




豊ちゃんのスキル
・概念的お姉ちゃん(サエちゃんに対し)
・メンドクサイ彼女感←new!

豊ちゃんの湿度上がってきましたね。話の中では秋半ばなのに(多分45年ごろはもう9月半ばはすでに秋のような気がする)

あと炒り納豆は、ナットウキナーゼが無くなるだけで加熱で他の栄養とかに影響ない・・・よな?っていう結構曖昧な知識で書いてます。間違ってたらすまぬ。

ていうか豊ちゃんがしっとりしてるのは・・・ま、まだ恋心じゃないです。まだ彼女は14歳。恋なんて知らない。

あと二宮君の名前は雅(まさ)と呼びます。彼の年齢は16で入営して2年目なので18です。4歳差・・・何とは言わないが4歳差。サエちゃんも4歳下。なんやろね。
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