そんなわけで本日二本目です。
舞鶴航空隊の飛行艇と水上機が集まり、小松の航空隊と直掩を交代したアタシは帰途につく。頭に浮かぶ事柄はもっぱら銀色のネウロイ。
「最初は」
弾道弾を発射して石川の海岸線に着弾した。
「二度目も」
取り逃した時は、アタシを襲った蜘蛛ネウロイを舞鶴に空挺させた。
銀のネウロイが一体だけだと考えていた。
最初のネウロイが発射した弾道弾でネウロイを輸送した、と。
それは間違っている。
最初と二回目の弾道弾の形状は明らかに違う。鈍い色をしたネウロイは弾道弾を付け替えられる、あるいは、弾道弾の違う個体が居る。
「今度は」
電波を阻害した。レーダーから逃れる方法としてアルミシートを細かく刻んだ「チャフ」を空中に撒く方法がある。
もう一つ机上の空論で、方法が浮かぶ。
電波に対し、同じ周波数を発生させ通信を混乱、電探に機影を見つけられなくする方法。
ネウロイが電探に対抗する方法を使うとすれば、これしか考えられない。
チャフの攪乱幕は簡単に出来るけど、電探にはピンポイントでしか使えない。
多数機の戦爆連合を探知を阻害することは出来ない。
電波を誤魔化すなら、範囲を広げられる。
レーダーには霞のようにも、霧のようにも見えた。
それは扶桑の通常の電探でよくある不具合。
電探ユニットを使っても、広い範囲で電波が攪乱されたら意味が無い。
銀のネウロイは腹に抱える弾道弾の代わりに対電探装備を抱えた、と想像するしかなかった。
「ならば、相手は」
大尉含めた長良上層部に持論を上申したアタシが言葉を切ると、司令がゆっくりと続ける。
「弾道弾ネウロイは、規模を隠すことが出来たから、本土も多勢で侵攻できると考えるだろうな」
「少数精鋭による突破で中心部を攻撃するかもしれません」
大尉が続ける。
「あるいは、最も邀撃を行う本艦」
上層部の士官たちの顔色が悪くなり始めた。ようやく現状に気づいた人もいる。
ネウロイの思考回路は分からないが、動物なら最も脅威に思う敵を相手にする。ネウロイがそう言った考え方をするなら、邪魔をしてきた長良や秋水を相手にするだろう。
「手詰まり、だな」
単艦で戦爆連合を相手には出来ない。
精鋭揃いの第一航空戦隊「一航戦」の護衛でも撃沈されるぐらいだ。ネウロイにとって軍艦は、簡単に攻撃出来る。
いくら防空能力を向上させても、単艦では限界がある。
敵が何体居るかも分からない中、次々迫るであろう戦爆連合相手に、滑空戦闘機の秋水と旧態依然の52型の零式脚。
無理がある。
司令が作戦室である士官食堂を見回す。顔色を一通り見終わった彼は、ゆっくりと呼吸を取り結論を出そうとした時。
「電探に感あり!詳細不明なれど大規模、本艦から北西4海里、高度1万、速度500、方角は本艦!」
電探ユニットは通常の探査も可能だが、魔法力が無ければ鳥の大群でも飛行機のように見えてしまう。
時速500キロで飛ぶ鳥も、高度1万を飛ぶ鳥も居ない。
報告を受けた艦長が無電を命じるが、案の定通じなかった。
「秋水隊発進!栗田大尉は零戦ユニットで救援を」
吉沼司令が命じるまで1分間経った。その間に敵機は猛烈に近づいている。高度を下げ、長良を目標と見つめて。
大尉が司令に反論するのに脇目も振らず、アタシは走り出して格納庫に向かうサエちゃんと合流した。
「秋水1番、発進します!」
空は、西の空は、茜色に染まっている。
「秋水2番用意、よし!」
格納庫の耐熱ハッチの外、二人で並ぶ。こんな急速発進なんて、状況が状況。
「秋水1番、発艦用意よし!」
魔法力を注ぎ、燃焼段階を最大。
加速力で後ろに引っ張られて、感覚が無くなったら機首を上げる。急速上昇、北東に斜めに上昇した。背後を見なくても、サエちゃんはうまく発艦できた。
「1番より2番。栗大尉が発艦するから、それまでは高度を上げすぎず直掩!」
「ヤボール!」
敵影が見えた。高度は明らかに不利。ぽつぽつと見える小型のネウロイは明らかに多い。多勢無勢にも過ぎたものがある。
「長良管制!長良1番の発艦は!」
「まだですっ!栗大尉が自分も戦うと言って聞かないんです!」
戦闘中、無線を切ると言ったきり、航海艦橋からの通信は切れたまま。
「長良1番!栗大尉!無線に出てください!」
進路を変えて、少しでも高度を取る間に何度も呼び掛ける。
魔法無線の返答はない。雑音が入るだけ。大尉は魔法無線のスイッチを押したまま固まっている。
「大尉っ!貴方は!また、もう一度仲間を喪うつもりですか!」
昔のことをほじくり返したくはなかった。こうなったらどんな手段を使っても、救援を呼んできてもらわないといけない。
ここで反抗の狼煙を消すわけにはいかない。
「あーっもう!早く救援を呼んで!そうしないと!」
思いっきりに叫ぶと、返答がようやく零れ落ちた。
「また、あの時みたいになる、ってことか」
ようやく分かってくれた。
今は一人でも戦力が欲しい。借りれるなら猫の手だって借りたい。
これから数分しかアタシたちの燃料は持たない。滑空して、十数分が限界。
「長良1番、出る!援護は無用!」
「えっ」
カタパルトから発射された機影が高速で飛んでいく。
普通の速度じゃない。最高速を超えてる。
「伊達にウィッチを5年やってるわけじゃない!」
ユニットの後部から煙が伸びる。
長良に常備される発進促成ロケットを数珠繋ぎで大量に搭載し、一気に使った。
軽いユニットだから、速度は出る。ユニットの寿命は一気に燃やし尽くすが、今は出し惜しみする隙間はない。
「秋水2番はデカいやつを倒して!」
高度を一気に上げて、サエちゃんには戦略攻撃型の撃墜を命じる。
今回の襲撃は双胴型ネウロイ二十体とこいつ一体、電波阻害にもう一体。
アタシの目標は。
「秋水1番、突貫!」
最も上から俯瞰して眺めている、銀のネウロイ!
高度は1万、燃料はギリギリ。絶対に仕留めなければならない。
茜色の空、暖色の陽の灯りに呂式魔導エンジンの燃焼煙が照らされる。
次回!第11話「帰る場所」