SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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第十一話「帰る場所」
part.1「届け」


 夕暮れの空、深みが増す色彩を秋水の剣が突き抜けていく。

 

「余裕なんてない」

 

 銀のネウロイが爆弾を持っていない確証がない。可能性を考えて攻撃しないと。

 朝日副長の証言は、ネウロイが他のネウロイを扇動していると聞こえた。親玉を撃破し、他の敵を総崩れさせるのは戦国以来、現在も活用される戦法。

 

「高度8千」

 

 敵の姿が豆粒より大きくなった。あと少し、もう少しで手が届く。

 撃墜したら高度を下げて、敵を追撃して。

 長良の通信はとっくに切れた。サエちゃんとの回線を開こうとしても、応答がない。秋水の装着姿勢では向いた方向にブレてしまうから下に目を向けられない。

 

「あと、少し」

 

 あと、少しで手が届く。FG42をスリングごと引っ張って手元に落とし、照準器を敵に向ける。

 高度9千、空気が薄い。秋水ユニットの大きな翼でも空という地面に脚を引っかけられない。滑ってしまう。

 鳥は飛べない高さ。人間が歩いてはたどり着けない高さ。

 アタシたちには、人類には、飛行機とユニットがある。これがあればどこまでも飛べる。この深い紺色の空の先、真っ暗な宙にだって、きっといつかたどり着く。

 そのために、アタシたちがネウロイを倒さなければいけない。

 次の世代のに繋ぐ。こんな苦しみを何世代も続けてはいけない。

 

「届、く!」

 

 葉巻型の全長25メートル。後退角がついた翼を持つ、ネウロイの表面が夕焼けにキラキラと照らされる。

 暖かな色に包まれた銀色の表面を睨んだ。

 腹には

 

「弾道弾?!」

 

 対電探装備を搭載したと思っていた。

 銀のネウロイが腹に抱えるのは、弾道弾と全く同じ形状、少し全長が小さいようにも見える。あれはまさか弾道弾の弾頭部分。

 それに近づけば無線の雑音が止まった。高空に一気に上がった

 高空を飛ぶ弊害の耳鳴りを突き抜けて、無音だけが空に残る。

 

「落としてしまえば・・・いい!」

 

 FG42の左側に弾倉を入れ、槓桿を引く。初弾が装填される、あとはトリガーを引き絞れば魔力で威力増加した弾丸が飛び出す。

 敵機の真正面に躍り出るよう、上昇角を上げ飛び込んだアタシの姿を捉えた。

 

「くっ!」

 

 銀のネウロイが吼えた。静かなはずの蒼空に轟音が響き渡る。高度1万なのに、地上戦のすぐそばで攻撃されたかのように聞こえた。

 静かだからこそ、この世の理を超えるような化け物の叫びが轟く。

 

「いいっ加減っに!」

 

 首から背中の筋肉を引っ張ってループ。

 ネウロイは相変わらず反撃をしてこない。奇妙だ。お前は何故撃破されない?どうして何年も生き残ってこられた?どうやって進化してきた?

 魔法力によって顕在した朱角で探知した敵の進路が照準器に映る。

 予測射撃はアタシの得意技。

 

「落ちろォッ!」

 

 FG42の弾丸が高速で飛翔し、降下の勢いがついて鈍い色のパネルに飛び込む。

 コアがない。今までと違う場所を撃っても見つからない。

 気持ちが逸った。心を抑えても、間に合わない。

 撃ち切った弾倉をリリースし二本目を差して、開いたスライドを戻した。

 下面に潜り込んで、弾道弾を狙い撃つ。そこだけが被弾を耐える。

 

「ここがコアっ?!」

 

 今までアタシたちが敵だと思っていたのは本体じゃなくて、弾道を描く爆発物がネウロイの正体。そんなことが、あり得るのか。

 どうして追尾を続けていたネウロイが大陸側の電探に引っ掛からなかったか。

 コアを切り離したネウロイは子機の旧式渡洋型を自壊させていた。

 弾頭部分が銀色のネウロイを取り込んでいた。

 

「あと一回の交差が限界っ!」

 

 歯の奥を強く噛み、呼吸を整えることなくもう一度、最後の燃焼で勢いをつける。

 軽い空の空気を蹴って、少しでも上に飛ぼうとした。エネルギーが足りない。

 

「もう少しで届きそうなのに!」

 

 ネウロイは長良の近くまで来て腹に抱えた円筒に小翼のついた本体を投下。

 

「コアを落とす、まさかっ!」

 

 狙いは長良。多少の誘導を行えるのがあの翼。

 金属を好むネウロイの性質。

 すべてを勘案した結果が頭の中に弾き出される。

 これは誘導爆弾で、乗っ取り爆弾。

 

「撃墜するしかっ」

 

 上昇姿勢を一気に倒し、急降下して加速する弾頭ネウロイを必死に追いかけた。

 秋水が耐えられる対気速度を越える。

 金属の塊を吸収し、長良の水上部分を乗っ取る。ネウロイは水に弱い、長距離を侵攻することも難しい。

 長良を乗っ取ってしまえば、扶桑海上に中継基地を作れる。

 こんなネウロイが7年前アタシの家に落ちてきた理由は分からない。

 

「そもそも、こいつじゃないんだ」

 

 アタシが今まで執念を持っていた敵はあの時に爆発した。

 舞鶴や船団を襲った敵も全て別。旧式ネウロイは単なる輸送機。敵の本質は攻撃するためだけの弾頭。

 それらは全くの別物。

 

「ぐっ」

 

 落下速度が毎時千キロを越えていく。あのネウロイはそのまま長良を破壊するつもりか。

 

「長良艦橋!敵機直上っ急降下!」

 

 必死に飛ばした無線で気付いたらしい。双胴ネウロイにまとわりつかれ、艦が横転しそうなぐらいの回避機動と、対空機銃の曳光弾が一気に上空を向く。

 ネウロイは落下軌道を修正するだけ。

 

「っしまった」

 

 弾頭ネウロイが急減速する。

 一気に位置が反転した。長良の対空砲火がアタシに向かって飛んでくる。

 加速の勢いのまま身体を捻ることしか出来ない。機首上げをしないといけない。

 そうすれば勢いで一気に身体ごと敵から離れる。そんな油断を見せれば、弾頭ネウロイは減速し長良に取りつく。

 固有魔法の魔導針で敵を探針、必死に思考を回転させてギリギリの地点を探る。

 敵に銃弾を浴びせることが出来て。

 水面に激突しないように機首上げ出来て。

 確実にネウロイを撃破出来る場所。

 アタシの身体が壊れるような機動をしない場所。

 それは一瞬しか訪れない。絶対に逃してはいけない。

 もう二度と間違えたりしない。

 時間が止まったようにゆっくり流れる。

 

「ここっだぁ!」

 

 捻った身体で半身のまま構えた。指をゆっくりと引き絞った。FG42の高レートな銃撃が一気に轟く。

 外皮が一気に削れていく瞬間、とてつもない閃光が空から落ちてきた。

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