SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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本日2本目です。


part.2「燃ゆる」

 閃光が瞬く。機首を引き上げて爆発から逃れた。

 盛大な爆発は長良に大きなダメージを与えている。百メートルをゆうに超える船体に大きな穴が開き、塞ぐように黒い表面が次々と生成された。

 

「うそ」

 

 確かに撃墜したはず。外皮を削り、コアを破壊した感触。それはアタシの妄想に過ぎなかった。

 ネウロイを破壊した時の音は一つも聞こえず、撃破すれば落ちてくるキラキラの断片もない。

 あっけにとられたアタシに双胴の小型ネウロイが飛び掛かってくる。回避機動を取る。降下でついた速度があるとはいえ、あっという間に背後につかれた。

 

「もう」

 

 無理かもしれない。FG42の残弾はない。引き金を何度絞っても弾倉には弾一つ入っていない、弾倉ベルトには弾倉もない。打つ手がない。

 家族の仇も、二宮二水や舞鶴の市民の仇も。

 この世に居ない。弾頭にコアを持つ銀のネウロイは、本体が爆発しているだけ。大きな旧型ネウロイは単なる運び屋、撃墜したって構わない。

 アタシが戦うべき相手はどこにいる。

 どうすれば戦える。

 アタシの家族を、生活を、全て奪ったネウロイと決着をつけることは叶わない。

 絶望感が目の前を覆う。意識は遠い。上の空のまま飛んでいる。

 そんな的を、双胴ネウロイが見落とすわけがない。

 秋水ユニットの大きな主翼パーツに光線が当たり次々と欠けていく。翼が。蝋で作ったように消えていく。

 痛い。痛い。痛い。

 ユニットがドンドンと空中分解する。

 まずは左脚のユニット。感知水晶が壊れて、魔法力が強制的に止まってユニットが全て飛ぶ。片翼飛行の右脚も主翼パーツが折れた。

 落下傘の紐を咄嗟に引っ張り、一気に減速。高度が無くなり、右脚もユニットが壊れる。

 落下傘で落ちたアタシに目を向けることなく、双胴ネウロイが一気に分散した。

 

「え」

 

 空を見上げる。

 そこには見回す限りのウィッチ隊。

 

「特兵隊、全機突入!」

 

 ジェットの異様な音を響き渡らせ、異様な形状を駆るウィッチ隊。

 

「空技廠橘花隊、突入!陸軍に後れを取るな!」

 

 ほとんど同じ轟音を響き渡らせるウィッチ隊。

 

「小松飛行隊、突レ!」

 

 旧式の零戦ユニットを駆る大多数のウィッチ達。

 次々と集まる部隊が双胴ネウロイを攻撃し、長良を乗っ取ろうとするネウロイの浸食を抑えようと機関銃攻撃が続ける。

 

「豊!どこだ!応えろ!」

 

 無線が聞こえた瞬間、アタシは水面に落ちた。

 荒れる秋の扶桑海、あっという間に魔法無線のインカムが波にさらわれる。必死に泳ぐ。

 

「こたえなきゃ」

 

 助けに来てくれたんだ。

 

「こたえなきゃ」

 

 波を一つ越える。体力が一気に奪われた。クロールの一つの動作がまるで百メートル走を一本走ったように感じる。何度も、何度も手を必死に漕ぐ。

 あと少し。

 白波に消える小さな機械に手を伸ばす。

 届いた。海面に向かって首を出し、立ち泳ぎ。

 

「ここです!アタシは」

 

 魔法無線が雑音すら出さないことに気づく。海水が入って壊れたらしい。

 

「ヤダ」

 

 こんなところで死にたくない。思考が頭を走る。

 アタシはあの銀のネウロイを倒さなきゃいけなくて。

 でも、あの銀のネウロイは弾頭が本体で。

 アタシの家は弾頭の直撃で木っ端微塵になった。つまり弾頭が爆発した。

 アタシが攻撃するべき目標はどこにいるの。

 アタシが戦うべき家族の仇はどこにもいない。

 じゃあなんでアタシが戦っているの。

 どうして。どうして。どうして。

 

「居たぞ!犬宮曹長だ!引き揚げろ!」

 

 壊れたお人形さんみたいにカッターに引っ張りあげられた。

 

「豊!俺が分かるか!」

「くり、たいい」

 

 返答がおぼつかない。

 

「長良は総員退艦した。山も、二宮も無事だ。間に合った」

「サエ軍曹は、それにネウロイが長良を乗っ取って!」

「サエは無事だ、さっき別のカッターに居るのを見かけた」

 

 ネウロイは。と言葉が止まる。

 長良の居た方向を見つめた。

 双胴ネウロイとウィッチ隊の戦闘は終わり、ウィッチ隊の完勝で終わった。空を見渡しても、他に敵影は居ない。

 

「長良は」

 

 アタシたちの帰る場所は。真っ黒と赤色で蜂の巣みたいなパネルに包まれた。

 次々と浸食して、長良だったものは空中に浮かぶ。水と接していた喫水線より下の赤色部分さえもネウロイの模様に包まれて。

 長良を食い荒らしたネウロイは、長良の姿形そのままを奪って北西の方角へと進路を取った。

 空域に残っている航続距離の長いプロペラユニットのウィッチ隊が攻撃を加えるが、盤石な対空装備を備える攻撃に瞬く間に数を減らした。

 長良の対空装備はおろか、ネウロイの特徴である赤いパネルからの光線攻撃まで飛んでくる。

 カッターからはとっくに遠い場所へと飛びさった。重力の枷から解き放たれた長良ネウロイを攻撃することは誰もが辞めてしまった。

 

「あ、あっ」

 

 あまりに強大過ぎる。

 悔しさが湧き出た。

 結局あのネウロイにはしてやられてしかいない。最初からずっと。やられっぱなしだ。苦汁を飲ませ続けられ、挙句の果てに母艦を乗っ取られた。

 自分の力が足りなかった。アタシじゃダメだった。

 

「くそっ」

「くそっ!」

 

 カッターの底を叩く。悔しかった。

 自分が与えられた場所を、自分の至らなさでこんな風に失うのがこんなに悔しいとは思わなかった。

 同じことを一度体験している。7年前。

 

「くそーっ!」

 

 アタシはあの時と同じ深さの後悔を今感じている。

 長良は一か月暮らしただけで大好きになった。楽しかった。心が落ち着いた場所だった。

 大切な場所が、あっという間に無くなった。

 ずっと嗚咽するアタシを。栗大尉も、水兵も皆が黙ってみるしかなかった。

 船団の救助を終え帰途についた舞鶴の軍艦たちが「長良総員退艦セリ」の無電を聞いて救助にきた。

 アタシの乗ったカッターも人を移乗させた後、海軍の輸送船がデリックで引っ張りあげて回収する。

 ネウロイは、遠い西の夕日に消えていった。

 

「曹長」

 

 木製デッキの床に座りこんで完全に唖然としたアタシの背後に、長良の皆が居る。

 首元を誰かが掴んできた。

 

「豊!てめぇはいつからそんな腑抜けになった!」

 

 栗大尉は眼鏡の無い細目をきつくして、アタシを睨んだ。

 

「俺はそんなお前を見たくもねぇ!」

「お前は、誰もがしり込みするユニットを扱う強いウィッチで!」

「お前より何年もウィッチをやってる俺から見たって大したもんだった!」

 

 そんな大したウィッチなんかじゃない。

 

「だったら!アタシは皆を助けられた!」

「そんな力がないから何度も!何度も!大切なものを失ったんですよ!」

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