「秋水は2機全損」
零戦ユニットも重整備。
長良がネウロイに乗っ取られ、乗員は半分以上が戦死、行方不明。救援のウィッチ隊も三分の一が損傷。長良の防空力が仇になった。
「壊滅、だよ」
長良を乗っ取ったネウロイは、そのまま巣に戻った。自らを小さな巣、中継基地にして巣のネウロイと大編隊で総攻撃してくる可能性。
豊の報告によれば、銀のネウロイは単なる輸送機でそのコアは弾頭にあるらしい。
「つまり」
一つの可能性は、あのネウロイが巣を作る中心部であり、過去の扶桑本土に対する弾道弾攻撃は着弾して橋頭保を作ろうとしていた。陸上型ネウロイは外敵から自分を守るための護衛。
多くのことが納得できる。銀のネウロイが襲撃してくるたび、帰投した方向が分からなかった。
本体が弾頭部にあって輸送機部分を自壊させたなら、電探ユニットで探知できなかった理由になる。
何より一番痛いのは。
「豊だ」
報告を聞こうとして、完全に憔悴していた。
言うまでもない。家族の仇と心の奥で意識したのだろう。どうやって感情にふたをしても、外す威力があれば感情は一気に飛び出してくる。
予科練やウィッチの訓練、戦闘の活力が軍人やウィッチとしての義務感から来るわけがない。
「俺だってそうだ」
むしろそんな感情だけで行動できる人間の方が少ない。誰しもが心に抱いておかしくない感情が憎しみ。
彼女は自らの敵を見失いかけている。家族も、仲間たちも戻ってこない。人一倍優しい豊の心持を全て理解出来なくとも、感じられる。
「ここまでのウィッチじゃないだろ」
豊は苦しんでいる。心の中の葛藤だけではなく、身体に出ている。一連の戦闘後、舞鶴に到着した俺たちは鎮守府の宿舎を間借りして同じ部屋を使っているが、睡眠も、食事もままなっていない。
どこか歯車が狂い始めたカラクリみたいで、時間が経つほどに思考の奥で自身のコンプレックスを刺激して苦しんでいる。
「ふぅ」
壁に打ち付けた拳を叩く。
宿舎の外、ベンチに座った。眼鏡が無いから遠くはぼんやりする。予備はネウロイに吸収されたか海の藻屑。
「隊長」
今一番、相手をしたくない相手がやってきた。
「どうした、マリナ・ツィーグラー中尉」
彼女はサエではない。サエ・ツィーグラー軍曹はルフトバッフェに所属していない。カールスラント航空省の技術ウィッチなんかでもない。
「いつからそれを」
「最初からだ。扶桑の防諜を舐められちゃたまったもんじゃない」
マリナ・ツィーグラー。名前を知ったのはルフトバッフェからウィッチを教育に送る打診があった時。
それからサエ・ツィーグラー軍曹の存在が登場した。
ノイエで訓練中のコメートウィッチ。それは間違いがない。どちらであっても、間違いはない。
カールスラントが何を考えているのか思考の端に置いておかなければならない。
今こそ肩を並べ、コメート、シュバルベのように技術提供を受けている。ネウロイとの戦争が終わったとしても戦争に入るつもりはない。
「欧州は、カールスラントは、どうなるんだろうな」
ある遣欧ウィッチ曰く、解放されたガリアでは王党派と呼ばれる組織が暗躍していると。
同じ敵がいる間はいい。敵に集中せざるを得ない。敵が強大ではなくなったり、居なくなれば人類は身内で争い始める。
「ツィーグラー、貴官の狙いはなんだ」
「自分が答えることがないと理解していらっしゃると、愚考しますが」
俺が居なくなった後、カールスラントにおいて先任として本来の階級に戻して要職につく。
部隊として長良を離れカールスラント本土に移動することは決まっている。
元はといえば扶桑の防空任務だったはずが、戦果と政で変な方向に転がった。
「第400戦闘脚隊」
マリナ・ツィーグラー中尉の原隊。
「公認撃墜数は4」
「あいにくだが、俺はそこの部隊長と知り合いなんでな」
第400戦闘脚隊はコメートウィッチを養成する部隊が大元。訓練中のウィッチだ。
しかし、偶然にも戦闘を行い撃墜数が付いた。撃墜数を厳密に数えるカールスラントでは、それなりの仕事を与えなければならない。
それが統合される部隊の乗っ取り。実権に関わる立ち位置。建前の電探ユニット研究も行える人材。
「少なくとも、今は」
「サエであるとする、か」
「トヨさんの前では、そうさせてください」
それまでか。そうだな。ベルリン奪還は年明けだ。豊は今回が最後の戦になる。
「カールスラントにはヒンメルビットがあります。シュバルベの改良も、新型ユニットの開発も全て順調」
そんな状況に置かれれば。
「そうだな、ロケットウィッチは早々に無くなるだろうな」
「確かに局所的には使えます。でも、コストとリターンの差額が大きすぎる」
扶桑とカールスラントは違う。
扶桑では都市部や局所に工廠や要地が存在する。
対してカールスラントは広い国土に、要所は広くで分布する。元が工業大国だ。復興する頃には、ジェットユニットが進んで防空に活用できる。
「お前がなんであろうと、どんな人物であろうとも」
マリナ・ツィーグラー中尉の目指すべき場所は、各国の迎撃ユニットを総集することによるメリット。
高練度の迎撃ウィッチを集めたカールスラント主導の統合部隊のカールスラント常駐。その中で実権を握るのは自国のウィッチ。そういうことをルフトバッフェの上層部は考えている。
「俺はほとんどあがりだ。おまけに部隊に未練もない」
俺にとっても今回が最後の戦になる。
最後にデカい任務を与えられたと思えばいい。
「豊だけは」
あいつはもう、心が折れかけている。
目標を見失い、心の拠り所に頼ることなくサラマンダーのように自らを燃やし尽くす。
「分かっています。そのために、秘策をご用意しました」
息を吐く。
「なぁ、サエ。お前がサエで居られるようになったら、扶桑に旅行に来いよ」
次回より最終回。