SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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part.2「小さな翼たち」

 深山の無線手が機内に叫ぶ。

 

「レ信号三回!戦闘隊突入開始!」

 

 長良を取り込み、巣も取り込んだ敵を討伐するアタシたちは、小松から新潟方面に上昇する。

 高度は8千。

 先んじて全機が上昇して、双胴ネウロイを取り巻きに飛んできた敵に対して、火龍と橘花のジェットユニットが先制攻撃。

 

「第一波は成功!成功!」

 

 アタシたち秋水隊は最後まで飛び立つのを堪えて、最も大きな打撃を加える。

 深山の爆弾槽に横向きで倒して備え付けられた2つのユニットゲージでアタシたちは己の得物の最終チェックをしていた。

 FG42の弾倉は4つ。8千メートル分の上昇用燃料が余る計算で、機体が重くなっている。本格的な戦闘が出来るのは、飛び立ってから三分後。

 

「曹長、行けます」

「うん、行こう」

 

 今まであのネウロイの巣にはたんまりとやられた。

 絶対に見返してやる。二度と、扶桑本土を危機に陥れないようにするために、迎撃網の開発をしてきた。その篝火を消してはいけない。

 苦しい思いをする人が出てこないように。

 

「そうだ!曹長」

 

 サエちゃんが待機していた後部側のユニットゲージから歩いてきて何かを手渡してくる。

 銀紙に包まれた板状のもの。葉書ほどの大きさ。

 

「チョコレート?」

「雅さんから渡すように貰っていたんです」

「それじゃあ、半分こ」

 

 手渡されたチョコレートを外紙ごと半分に折り、破る。半分をサエちゃんに押し返して自分の分を、一口大に砕いて全部一気に口に入れた。

 甘いチョコレートの味わいが、糖分を求めていた身体にしみる。

 

「・・・っふふ。曹長、リスさんみたいです」

「ふぉういうふぉいいふぁら!」

 

 確かにアタシは口をもごもごとさせていた。山で冬ごもり前の口いっぱいにご飯を溜め込んだリスと変わりない。赤くなる顔は、爆弾槽ハッチが開いたことで一気に覚める。

 

「秋水隊、発進1分前!」

 

 魔法無線に栗大尉の声が聞こえた。

 大尉は神原さん操縦の銀河に乗り込み、風防機首部分に座り誘導弾を動かす。銀河の機首には電探ユニットを小型化した空中電探ユニットが備えつけられている。

 おまけに誘導弾は爆発するタイミングを計る信管が、電探の反響波に対応する。しっかりと最後まで有線で誘導し、栗大尉の高精度な探針で爆発させられる手筈。

 

「秋水1番、発進用意よし!」

 

 チョコレートを飲み込み、息を一つ。

 

「秋水2番、用意よし!」

 

 発進十秒前。

 足はすでに秋水に入っていた。アタシたちが魔法力を注ぎ込めば大空へと飛ぶ。

 もう一度息を吸って、大きく吐き、首元のマフラーをギュッと握った。

 

「秋水隊投下!」

 

 魔法力を三段目に入れる。

 機首を上げながらアタシたちを投下した深山の影から出た頃には、エンジンが最大まで稼働した。高度は投下されて一気に千メートル近く落ちた。ほとんど自由落下。致し方ない。

 加速する勢いは止まらず、薄い空気の中を切り裂くようにして秋水が一気に天を衝く。

 

「秋水利剣三尺、露を払う」

 

 秋水と名前を決めたのは、その句が語源。アタシたちは秋水という利剣になり。ネウロイという露を払おうとする。

 背後から2番の轟音も聞こえる。視線の先は、真っ黒の雲にしか見えない、巣を纏う、長良だったものの影。

 高度を下げたところでは双胴ネウロイと戦闘部隊が戦っていた。

 近づく。一瞬で間は詰まる。

 

「誘導弾、用意!」

 

 大尉を止める。

 

「待ってください!」

 

 長良ネウロイの巣から、新たな双胴ネウロイが浮き出した。

 

「そんなこったろうと思ってな!」

 

 この声は。

 

「特兵隊、秋水全機突入!」

 

 桧少佐!

 隻脚のウィッチが命じた瞬間、燃料の多いアタシたちを軽さで追い越す秋水ウィッチ達の影。

 最後にアタシを追い抜いた桧少佐が背中で語る。双胴ネウロイは自分たちに任せろ、と。

 一体どこから飛んできたのか。訓練をする茨城の百里原から少数精鋭を新潟辺りに用意した燃料タンクで補給して一気にやってきたのか。

 

「誘導弾、お願いします!」

「投下っ」

 

 高度1万に達した瞬間、アタシたちの更に上を弾道を描いて飛んでいく誘導弾。

 遠い陸地が薄っすらと見える高さから、一気に長良の残骸に向かって飛んで行った。

 

「着弾まで3!」

「秋水2番、一斉射で削って!」

「ヤボール!」

「2、1・・・命中っ」

 

 ネウロイが纏っていた黒い癪気が一瞬吹き飛んだ。

 

「突入!」

 

 秋水2番が突撃して、一斉射。癪気の中心、長良に着弾した弾頭ネウロイが居た場所に向かってロケット弾3発。

 衝撃で、黒の六角パネルに包まれていた長良の中心部が一気にさらけ出す。

 しかし、コアはない。

 

「一旦抜けて、シャンデルで艦尾から!」

「ヤボール!」

 

 念のためFG42の弾倉を1発、一思いに撃ち抜く。交差した瞬間、長良に搭載されていた対空ロケット弾の爆風がアタシを包む。両者が高速すぎて互いに何の被害もない。

 長良の腹は赤のパネルばかりで、交差するアタシたちを狙って光線を放った。当たる気配はない。

 

「続けるよ!」

 

 ロケット弾を持った長良2番が一気に胴体を削り、アタシが狙撃をする。戦術は間違っていない。問題は、コアが見つからないこと。癪気が晴れて長良ネウロイの全体像を見れたのはいいが、肝心のコアが見つからなかったら意味がない。

 

「2番、もう一度、巣の中心を斉射で削って!」

 

 ネウロイの巣に存在するコアがどこか。そもそもネウロイの巣を破壊したことがあるのは、現状、JFWぐらいで、扶桑海事変の山は多大な犠牲を払って奇策で破壊した。

 JFWの情報は機密性が高いし、そんな希少情報は母数が少ないから当てにならない。

 最も癪気を出すところが中心だ。

 ネウロイの後部上空から突っ込むようにして二度目の降下攻撃を加えた。コアは見つからない。

 

「曹長!」

 

 サエちゃんが叫ぶ。降下して攻撃を加え、下面に交差すると背後を光線が飛ぶ。

 こちらも燃料が無くなってきて、軽い。避けることは容易い。

 何故あのネウロイは当たりもしない光線攻撃を延々と続けるのだろう?

 そうか。

 

「2番!敵の腹部中心赤パネルに全弾叩き込んで!」

 

 きっと、黒い層がある部分は守れると踏んでいる。赤いパネルは光線を放てる代わりに脆弱。

 長良ネウロイは自身に巣を取り込んで、対地攻撃も自前。下面部に赤パネルが集中している。

 地面に根ざすためにも、エネルギーの供給的にもコアは下面の中心に存在する、と推定した。

 秋水2番が一気に直上上昇、ロケット弾の最後の斉射を撃つ。

 

「っやっぱり!」

 

 ネウロイの中心に開いた開口部の隙間から、禍々しくも光る赤いコアが見えた。




次回、SW「ヒドラジンの魔女」最終回!
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