ジェットの魔女の話は一旦けしました、すみませぬ。
代替と告知のために今回のお話を書きおろしました。
同人誌版はちょっと延期してます!
ホントはこの話もご時世的に書くのが難しかったんですよ、ちょっと戦争が話題になりすぎてますので(話題になる前だって、常に世界は争いに包まれていたのを調べているだけにこの点はちょっと迷っていました)
・とりあえず、ムロ、生きてます。就活とか家庭問題とか隣人トラブルとか全部頑張ってるので、別のお話、いつか書くまでお待ちください。
アタシの戦争は終わった。
第一の人生、家族と共に生まれ育ち、美しき里山のふるさとで楽しく過ごした、美しくも儚い過去の思い出。
転機はネウロイの攻撃。
家族を喪った。家を失った。立場を失った。学を得る機会も。友と遊ぶ機会も。恋をする機会も。
全て壊された。この頃は何がそんな風にしたのかも分からなくて、感情のぶつける方向が分からなかった。
爆発で全てを失ったことが、アタシの戦争の始まり。
使い魔と契約した。固有魔法を得た。封印された。
「でもね」
「ずっと苦しくても、生きたくないって思わなかったのは」
アタシが「生きたい」生き続けたいという意志を確固として得ていたから。
それは使い魔との契約が原因だろう。
ウィッチは使い魔との契約で強い想いを得る。一般的には、多くの人を守る、ウィッチの存在価値にして使命を強く得る。
アタシの持った想いは少し違った。
「私は行きたかったんです」
契約を果たした夜。泣き疲れて見た、アネハヅルが見せてくれた光景。
真っ暗闇の地下蔵で見た、蒼き空の先と緑と岩に包まれた地平線のある大地。
アネハヅルは見せてくれた。彼が見た、私の見れなかった景色を見せてくれた。
「結局、彼の飛んでいた場所には行けませんでした」
飛んだのも、扶桑の空と海。たったそれだけ。
アネハヅルは本来、扶桑に生息もせず飛来もしない鶴というのは図鑑を見て知った。
彼らは大陸の穴の先、大山脈の奥から、人類の届かぬ山麗を飛び越えシベリアに飛ぶ。
「見たんだ。それでも」
「アタシは誰よりも、高く、遠く、大地から離れて空を飛ぶ」
「それがロケットウィッチとしての魅力でした」
深々と頭を下げると多くの方々が拍手を返す。
「犬宮豊名誉中尉、ありがとう」
「いえ、磯巻空軍大佐に会える機会でしたので」
大講堂での話を終えて、旧陸軍厚木飛行学校の教員室で湯呑を持つ。
久しぶりに声を張ったから、ぬるめのお茶が心地よい。
店に出すお茶はともかく、自分でこんなお茶っぱは使わないから美味しい。
磯巻さんは、陸軍の頃からベテランで、秋水運用部隊の陸軍部門トップだった。
「背は変わんねぇけどよ、でっかくなったなぁ」
「桧少佐もお久しぶりです」
ウィッチとしても凄腕で、桧さんも彼女を慕って部隊を選んでいたと聞く。
元は液冷機で速すぎた故に使い勝手の悪かった飛燕を扱うウィッチとして出会い、そのまま秋水まで扱った桧少佐。
このお二方は、アタシが秋草を扱う頃から陸軍ウィッチと変わらず好くしていただいた。
「豊は本当に落ち着いたな。元々聡明だったが、落ち着きがついた」
「宇野部さんのおかげです。半人前でも空にほっぽかれたので」
「耳が痛いな。流石に今はあんな真似は出来ん」
宇野部空軍大佐。彼女もまた、アタシを救ってくれた一人。
第二の人生、ネウロイと戦える切欠をくれた人。
予科練で、一人燻り飛行成績だけが良い生徒を固有魔法で見繕ってくれた方だ。
「しっかし」
宇野部さんと磯巻さんが、海軍組と陸軍組、横に並んでいたところをクロスするように視線を交わしてため息をつく。
「私ら同僚になっちまったすねぇ」
「なっちゃったわねぇ」
全員が湯呑に手を出し、一呼吸。給仕の佐官係の幼いウィッチが慌ててお茶を一回転していく。
アタシは第二の人生で「秋水」と出会った。
危うさを隠すこともなく、恐ろしさを覆うこともなく、毒々しい燃焼煙で大空を飛びあがっていく化け物ユニット。ロケットユニット、秋水と出会った。
結局、仇を打ち倒すことは半分叶い、半分は幻想だった。
第一の人生は幻覚で終わり、第二の人生は幻想で終わった。
「豊は最近どうなんだ」
なんというか、やりきった。そんな思いはあった。
第三の人生、今はとても楽しんでいる。
「怪我が治ってよかったよ、痕は残るにしろ、骨も折れてたんだから」
しょっちゅうやってくる宇野部さんはともかく、磯巻さんとは所属が違う。お年賀を除けば、療養の頃に見舞いに来ていただいたぶりか。
「ウィッチとしても契約を失っていたからな。チビだから治りが早かったんだろうな」
桧少佐は義脚に乗せていた生足を机に投げてソファに倒れこむ。
最初に大惨事の状況に気を動転させていたのはサエちゃん。そこに無線で桧少佐が駆けつけて、経験から正確に処置をしてくれたことが、アタシに後遺症の無いもっともの理由。
チビ、なんて呼んでつっけんどんな態度を取る割に他人を気にする。一番周りが見えているタイプなのかもしれない。
そうでなければあんなトップエースにもなれない。
「未だに秋水を使うんですね」
第三の人生として軍隊を抜けたアタシが講堂で演説した。
「空軍とは言え、まだ全部の部隊は吸収してはいないからね」
宇野部さんがお饅頭を二つに割って小さい方を食べる。
アタシも恐る恐るお煎餅に手を出す。
「ウチら秋水の統合運用がお国のために、民草を守るに貢献した、とご皇女さまが勧めてくださったのだ」
「ま、本土の真上で巣をぶっ壊せばな」
「・・・嫌でも必要でしたね」
橘花や火龍といったメッサーシャルフのシュバルベ系統はジェットの扉を開いたが、49年現在でも新兵器の域を出ない。ジェットユニットの開発は喫緊の課題として軍民揃って開発しているが、時間がかかる。
「宮藤理論みたいにすぐにはいかないよね」
「アレは切羽詰まってたじゃないっすか」
宮藤理論の汎用化は、戦時激しく必要性が大きかったこと、これを進めなければ全技術が進まなかったことが理由で、現状の戦況では必要な機体が多岐に渡っている。
それでも、迎撃網の策定や迎撃戦術の開発は、アタシたちの実験が認められたことが大きい。
「本当はさ。豊にもっといい暮らしさせてやるために勲章とか分捕ってくるつもりだったのよ」
宇野部さんは、ぽつりととんでもない言葉を零してお饅頭を平らげた。
「豊は、今、満足してる?」
答えるまでもなく、顔を見れば分かるだろう。
「雅さんは全然振り向く気を見せてくれませんけど、絶対振り向かせます!」
49年の晩秋の空は綺麗だった。
使い魔に魅せられた空。今は飛んでいない。それでも気持ちは飛んでいる。それでもアタシは、飛んでいる。