今回はほぼ地の文。小説にあるまじき、語りシーン固め。
予約投稿と言いながら、書き終わったのはほんのちょっと前・・・
詰まった気を抜いて、体を伸ばす。
「くーっ」
霞ヶ浦から、次の任地へ向かう前に被服の受け取りを横須賀で済ませ、二か月前まで訓練をした飛行場で一泊。
富士の裾野からは、南東から昇る太陽の光を受けた富岳の青色がよく見える。
「相変わらずここは広いなぁ」
芙蓉部隊の訓練が行われる練成飛行場。
宇野部少佐が率いる部隊は交代制を敷き、大陸の前線夜襲を行う戦闘部隊と、訓練を行う部隊で人員を交代している。
常に戦力旺盛な状態を維持し、新米ウィッチもベテランウィッチも区切りなく練度と気力を保った状態を目指すため。
既存の扶桑の航空部隊には無かった運用方法。
各所からはいい目をされないこともある。これが上手く行くことは、戦果と現場のウィッチ達による言葉で上層部に伝わり始めた。
少佐は、部隊の話を思い返すと顔をいつも少しだけ綻ばせる。
彼女は、芙蓉隊を作るまでに幾度も夜襲部隊の設立を失敗し、ようやく完成させた部隊だと誇りに思っている。
この交代制習熟理論はもちろんのこと。
少佐自身の提唱する「猫時間」というものも、アタシ達秋水ウィッチにも応用が効いた。
猫時間。夜間に飛行を行う夜襲・夜戦ウィッチを任務専属にするもの。
昼は寝て、夜は起きる生活リズムを一定の期間行う。
秋水ユニットが迎撃する時間は不規則で、配備される時は交代制を敷く予定。
ずっと夜間に起きていると、身体の調子がおかしくなる者が出る。常に緊張した前線飛行も続けると、ウィッチの疲労が蓄積してしまう。
リベリオンのように人員が充足している場合は、期間を開け交代すればいいし、一度の勤務で溜まる疲労も分散される。
ウィッチの母数が少ない現状、訓練と実戦の一定期間の交代勤務を敷くことだけでも大きな改革。今までの長期間勤務と比べて、練度と士気の維持に繋がる。
予科練の教官はリバウの撤退戦まで遣欧艦隊に在籍した経験から、休めるときに休めと教訓深く教えてくれた。
秋水ユニットの場合は、本土に配属される。多くのウィッチを養成して交代制を敷き、危険な迎撃任務と基礎に戻った滑空訓練、療養を交互に行えばいい。
「アタシだってテストウィッチだ」
・・・問題は、秋水ユニットに志願するウィッチの数が増えないこと。
航空歩兵、航空ウィッチは花形。
養成学校、予科練、士官学校を通るなど様々な流れがある航空ウィッチは魔法力に魔法圧と言った基礎を高い水準で、航空戦闘に耐えうる気力、技量を有していると判断されなければ、養成の過程において次々とふるい落とされる。
そのエリートたちが、自ら危険な橋を渡りたがるわけがない。
アタシのようなテストウィッチが、もっと活躍して憧れを集めないといけない。
「もっと頑張らないと」
五年間は幽閉されていたも同然のアタシが、予科練によく受かったと思う。
体力試験ではビリっけつ。魔法力や魔法圧が特に優れているわけでもない。持っていたのは固有魔法の魔法針。
当時は夜戦ウィッチが居ないにも等しかった扶桑では、魔法針一つあれば、育成してしまえばいい、という方針だった。
アタシの魔法針は「空間把握」でも「探知」魔法でもなく、視界に捉えた敵の位置を正確に視るもので、期待に沿えなかった。
予科練では、一に体力、二に体力。三四が無くて、五に体力だった。
百四十センチの身長は周りと比べて一回り小さい。肉付きは・・・貢物の甲斐あってかある程度はよかった。
体力は全くなくて、それでも空を飛ぶと思えば無限にやる気がでた。
必死についていった予科練で、ようやく飛行訓練に入ると、今度は弾が当たらなかった。自分の感覚と、固定式照準器では具合が合わなかった。
すわ、ふるいに落とされるかと思ったが、そこに待ったをかけたのが宇野部少佐だ。当時は大尉だった。
芙蓉隊の設立に奔走していた少佐は、魔法針や夜間視を持つ訓練ウィッチを片っ端から当たっていたらしい。
その当たりに当たったアタシを、少佐は一目見て固有魔法を見抜いた。
魔力を通す光像式照準器を機関銃に搭載すると、百発百中とまでは言わないが、一発も当たらない惨状から名射手並の命中率に上昇した。
アタシの固有魔法は、探知は探知でも、何かを媒介にしなければ具現化できなかったという寸法。
光像式照準器を通せば、敵が見える。魔法針で探知した敵の進路に、予測射撃を放り込めば簡単に当たる。
それまで、見えない敵に向かって我武者羅に予測射撃していたせいで、予測の幅だけが確実。
アタシは「使えるウィッチ」になった。落ちこぼれだった、何も出来なかった、ただ航空ウィッチ適正が高かっただけのウィッチに「固有魔法」という武器が与えられた。
それが、切欠だった。
「まずは乗りこなして」
秋水ユニットは独特の飛行特性を持ち、攻撃機会は絞られる。既存のウィッチ達が転換するには、勝手が違う。もし、簡単に乗りこなすならば・・・欧州で名を馳せる統合戦闘航空団に所属するエースウィッチのような天才。
他のユニットで飛行した経験を持たず。一度や二度しかない射撃機会で確実に攻撃ができるウィッチであるアタシが、秋水ユニットのテストウィッチとして採用された。
秋水との出会いは、それが切欠。
最初に説明を受けた時、燃料の毒性の説明は受けた。ベテランウィッチも、テストウィッチさえも尻込みしてしまうほどのじゃじゃ馬になる説明も受けた。
「一歩でもいい、前を向こう」
アタシはこれで空が飛べる。
それだけで頭が一杯だった。アタシの力が求められていた。
「飛ぶ」能力だけは、教官達からの評価も高かった。
どんな危険があろうと、どんな苦労があろうと、アタシは空を飛びたかった。秋水ユニットの上昇力で、高い高い、大空へと飛び上りたかった。
アタシは喜々揚々として秋水ウィッチとなったが、普通の感性をしていたら普通のユニットに乗りたいと思う。
アタシは予科練に入るまでの5年間が異常だったし、変わりものだったのだと思う。
あの頃に読んだ「リヒトホーフェン」の伝記から影響を受けて航空ウィッチを志したが、アタシ自身には特に拘りといったものがない。
同期たちのように、「遣欧艦隊に配属されたい」だとか「いつか統合戦闘航空団に呼ばれるようなエースになりたい」と考えたことがなかった。
ただ、あの大きな大空に向かって飛び上りたかった。
「もちろん、君にもあの景色を見せるよ」
そっと使い魔を撫でる。
使い魔のアネハヅルのように、飛んで、どこか遠くの景色を見てみたかった。
アネハヅルという鳥は本来扶桑には居ない。飛来もしないし、生息もしていない。
アネハヅルはヒマラヤを南から上昇気流を受けて越え、北に向かう。他の鶴よりも小さな体で、翼を器用に扱って上昇気流を掴み、大空を舞いあがって、遠くへと飛び立つ。
アタシの相棒は、感覚がおかしくなったのか扶桑に流れつき、怪我をしたところを助けたのが出会いのきっかけだ。見たこともない鶴だった。変わった鶴だった。今は亡き両親に頼み込んで、家の鳥舎で怪我が治るまで面倒を見ることにした。
出会ったのは八年前のこの時期だった。使い魔になったのは、それから一年ほど経った、あの出来事が起きた時。
アネハヅルは、高く、高く飛び上る小柄な鶴だ。それはまるで、アタシと秋水のようにも思える。
長い間訓練を行ってきていつも見ていた富士を見上げ、物思いに耽っていたアタシの背中に手が掛けられる。
「犬宮一飛。行くぞ、舞鶴へ」
宇野部少佐。家族を除けばこの世に二人しか居ない、恩人だ。
「分かりました!」
芙蓉隊のエプロンに並ぶ、一機の複葉機。貰い物の水陸両用飛行艇。アタシの配属先でもお世話になる。
少佐とは、その配属先での最初の飛行まで。
作品内で言及されてる「リヒトホーフェンの伝記」は「オーロラの魔女」2巻でアウロラねーちゃんがイッルに読み聞かせしてたやつです。扶桑語訳も出てるでしょ(てけとー)
最後に出てきた謎の複葉水陸両用飛行艇とは一体何者なんだー(棒読み)
ブリタニアが生み出した傑作のアレなのかー(棒読み)
丁度いい機体がね、そこにね、あったからね、お話に組み込みました。
ちなみに毎日投稿とかそういうアレを期待してはいけません。今日とかギリギリだったので。
あ、諸々のレスポンスとUAは見ながらニヤついてます。やっぱね、反応があると嬉しいです。