ウルトラマリン「ウォーラス」
ブリタニアが誇る航空メーカーの一角。
スピットファイアユニットを設計、生産する企業で開発された複葉飛行艇。
ウルトラマリン社は、元は飛行艇を作っていたメーカー。お家芸の完成度を誇る。補助に引き上げ式の主脚も備えて、滑走路や空母へのランディングも可能。
艦船から発進し、時には不時着水、時には滑走路に着陸と言った柔軟な飛行を実施するだけに、扶桑が研究用に購入した機体を転用した。
アタシが配属される邀撃研究母艦、元軽巡「長良」の搭載機として運用する。
操縦手席の前、機首側のハッチを開けると銃座になる。
見た目は並列複座に見えるが、操縦席は左側に寄って隙間を通って機体内に入れる。
コクピットはガラス張りで、複葉の主翼に挟まれて懸架した推進式のエンジンとプロペラの後ろに後部銃座席。
普段の乗員は二名から三名。そこに、アタシだったり、生鮮食品が追加で載る。
今日は、迎えに来た一飛曹のパイロットと少尉の航法士、アタシと宇野部少佐の四人が乗る。何の危険もない遊覧飛行。
飛び上がれば、コクピットの窓ガラスから望む富士の青色とわずかに残る残雪がゆっくりと流れて、時間を持て余す。
なんせ、ウォーラスは複葉機なだけあって遅い。陸よりは早いけど、複葉の大型機でエンジンは非力なものを単発。遅いことに変わりはない。
普段から秋水でビューンと飛び上って、バーンと滑空して、減速しながら長い距離でゆっくり制動するアタシからすると、よく浮いていられる、とすら思ってしまう。
「・・・流石に寒いな」
ぼんやりと、対面に座っていた少佐が呟いた。
「そうですか?」
アタシは全然寒くない。これから扶桑のアルプスとも呼ばれる山間の地域を越えていくが、高度はまだ3千程度。古い機体だから確かに外気はかなり入ってくる。
アタシはようやく合点がいった。
少佐は、ウィッチとしての上がりが近い。保護魔法を張る力も弱くなってる。
アタシは全盛期とも言える年齢で、普段から秋水で高度数千どころか一万を越えることもある。アタシの感覚と少佐の感覚の違いは大きい。
「アタシの毛布使いますか?」
「・・・すまん。ありがたく借りる」
長良から迎えに来たウォーラスには、寒さ対策に毛布が積んであった。元より、不時着水時に拾い上げることを考えている、毛布も上質なものが備え付けてあった。
段々とウォーラスの上昇する力が弱くなった。上昇限度は五千と少し。扶桑アルプスの山を安全に越えるには、四千以上は欲しい。その二つの合間辺りぐらいか。
ゆったりとした飛行の合間、操縦士も航法士も空気を読んでくれた。
ウィッチは二十歳を越えると基本的に魔法力が無くなっていく。俗に言うところの「上がり」。
体質によってはずっと使える人が居るとも聞く。
アタシを治療してくれた宮藤診療所の人たちのように、確かに居るには居るが、本当に極一部に限られる。
アタシもあと六年ほど。短くなるかもしれないし、もう少しあがけるのかもしれない。どちらにせよ、いつか上がりを迎える時期は来るのだろう。
少佐は上がりを迎えても、普通の飛行機に乗ると言っていた。夜間を飛ぶ能力は鍛えに鍛えているし、教官としても実際に飛行機を操縦できれば、標的曳航など地道な事も出来る。
「犬宮一飛」
「なんでしょうか」
「足の事は、本当にすまなかった」
少佐はずっと、アタシの太ももの痕を気にしている。本人は隠しているつもりだけど、目に入れるたび悲痛そうな感情が見える。
「いいんですよ。望んで、こうなったんですから」
アタシは秋水に乗ることを望んだ。命令でもなんでもなく、テストウィッチとして志願した。
ご飯にありつけることになるのなら。何度でも、何のためらいもなく同じ判断ができる。
薄い布に包まれた太ももは、今でも少しだけひりひりする。皮が薄くなったような感覚で、痛覚が強くなったような感触。
だからと言って、日常生活に支障が生じるわけでもないし、ユニットを履いてしまえば保護魔法が増幅されて痛みもない。
「私は、何の怪我もなく、上がりを迎えたというのに」
「いいんです。少佐が居なかったら、今頃アタシ、道端で暮らしてましたから」
少佐は、何にも悪くない。この痕は、判断の遅れたアタシ自身の怪我だ。
アタシを、航空ウィッチとして飯にありつけるようにしてくれたのは他の誰でもなく、少佐だ。出会いが無ければ、アタシは練習生から落ちて、どうなっていたかは想像がつかなかった。
行き場所も見つからず、帰る家もないアタシは・・・それこそ、色街に身体を売っていたかもしれない。ウィッチとしての能力も早々に無くなっていただろう。
心の底から、恩人だと思っている。少佐無しに、犬宮豊という秋水ウィッチは生まれなかっただろう。
「アタシは落ちこぼれでした」
機関銃を撃っても、当たらない。
固有魔法があるのに、当たらない。
飛ぶだけの才があっても、射爆できなければウィッチとしては使い物にならない。長距離を飛べるような体力も、魔法力も持っていないから偵察ウィッチにだってなれなかった。
今は、新鋭機を扱うテストウィッチだ。扶桑の迎撃態勢を担うための研究部隊に配属された。
階級だって、同期よりも一個上。
「アタシは、先生と少佐だけが・・・生きてる恩人なんです」
家族は皆、あの事件で死んだ。あの爆発で居なくなった。どこを探しても、生きた証は残っていなかった。
村の皆に幽閉されたアタシに、リヒトホーフェンの伝記と予科練受験の準備をしてくれたのは尋常小の恩師だった。猟師の家で自らも鉄砲撃ちだったあの先生は、アタシを事件の元凶だと、鬼だと思わなかった。
ウィッチだと見抜き、伝説の航空ウィッチであるリヒトホーフェンの伝記をこっそりと渡してくれた。
それが空への憧れを広げてくれて、先生の手引きで村を密かに脱出して、予科練を受けた。
予科練で、大した結果を得られぬまま苦渋ばかり味わっていたアタシに、固有魔法を使うすべを教えてくれたのが少佐だった。
秋水計画が始まった時、多少の打算が入っていても・・・アタシを推薦してくれたことは素直に嬉しかった。
「少佐、本当に・・・」
「・・・まだ、言うな」
アタシが感謝の言葉を吐きだそうとすると、少佐の柔らかな指が唇を止める。
「お前が、立派に上がりを迎えた時に・・・それを言え」
今までと違って険の取れた表情を見せて優し気に笑う少佐は、どこか寂し気で。頭を撫でる手には力が入っていなかった。
全然話の本編に入れない・・・!
次話で「長良」に到着して、初飛行・・・多分あと3話ぐらい使う。
次回は、邀撃研究部隊の云々だったり、めっちゃ架空の改造を受けた長良の艦内旅行とか・・・だけど3千文字で埋まるかなぁ・・・
てか、ウォーラスを生産してるのを史実のスーパーマリンにするか、スト魔女世界観のウルトラマリンにするかで迷った。ウルトラマリン傘下の通常航空機生産部門「スーパーマリン」にするかで迷った。
スト魔女の設定集もっと欲しいよね・・・WW画集は持ってるけど、スト魔女ってばメディアミックス色々あるから、どれがどれだか分らぬ・・・
予定ではこの章はあと3話で片付けます。毎日投稿するかは分かりません。
多分察しのいい人はここまでの豊ちゃんの太もも描写と軍艦の海水風呂という組み合わせで擬音回のタイトル分かっちゃうと思うので、メモがてら答え合わせしときますね。
第三話は
「ヒリヒリするの」です