SW「ヒドラジンの魔女」   作:ムロ913

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今回はいつもの1.5倍ぐらいあります・・・お筆が乗っちゃいましたわね・・・微修正を加えた後、2章総集編をpixivで2話として投稿します。

初感想も頂きました!めっちゃ嬉しい。けど更新ペース上がるとかそういうのはないので・・・

長い話になりますので、更新もゆったりと、お付き合いよろしくお願いします。

あ、あと今回から史実のモデルが居ないウィッチ2名が登場します(当該するようなモデルを見つけられなかった)


part.5「初スコア」

 

「高度は・・・九千か。方位はそのままでいい。敵は低速大型だ。万が一落し損ねても、迎撃は十分に間に合う」

「了解」

 

 上官は落ち着いた声音で、敵の状態を読み上げ続ける。

 アタシの視界ははるか高空、段々と空の色が水色から暗い青色へと染まった。まだ、まだ昇る。敵の姿は見えない。遠いのか?相手は低速型。滑空しながら攻撃するという手筈になっている。

 

「秋水の諸元は一通り目を通してある。俺の言う通りにすれば、お前の撃墜数が一増えるだけだ」

「燃料タンク、消耗ちょっと早いです」

「どれぐらい持つ」

「一万と千を上がって、追尾に一分持つか、持たないかです」

 

 発艦後、上昇するのが緩やかだったから、燃料の消耗は諸元ぴったりの勘定と合わない。そのことだけ伝えると、飛行長はあまり高くない声を少しだけ唸らせ、指示を変更した。

 

「上昇角を変更、一度上昇交差に入って初撃。斜めで交差するからそのままシャンデルで後ろに入って追尾、全弾当てる・・・出来るか?」

「出来ます」

 

 指示通り若干姿勢を倒し上昇角を抑える。速度を保って、迎撃点が早くなる。

 上昇する方向を見上げて、おでこの朱角二本が敵を捉える。目視でも大きく見えた。

 鳥とは比べようもないぐらい大きい。

 横須賀で見た二式大艇を空中に浮かべるよりも主翼幅は大きく。主翼は風を受ける菱形状で大きい。黒い胴体に赤い点があったが、あれがネウロイの黒と赤のハニカム構造。

 

「交戦距離入ります」

「そいつだ。しっかりと当ててやれ」

 

 敵の目の前を一気に上昇し、舞鶴の方向へゆっくりと進撃する爆撃ネウロイに対し、安全装置を外したロケット発射器を構える。

 安全装置・単発・三連発・斉射の「ア・単・三・斉」の一周する射撃表示を一段階クリックし、単発にクリック。

 敵の鼻っ面にある赤い光線パネルを狙って、目まぐるしい速さの上昇角で迫る距離を把握して交差射のタイミングを計った。

 相手からは光線が飛んでくるが、高高度を飛ぶ特性上、迎撃能力に割り振っているわけではないようだ。既存のユニットを超える恐ろしい上昇角度と速度で近づいてくるアタシを迎撃できていない。

 敵に思考する頭があるかは分からないが、焦っているような感覚を感じた。

 その鼻っ面に。

 全速力を出したネウロイの機首と交差する瞬間に、探針していた敵の位置は確実に光像式照準器に映り、赤いパネル部分に向かってロケット弾が飛翔した。

 

「追撃に移ります」

 

 交差は一瞬。敵はすぐさま修復に移り、進路を変えるつもりもない。ただ真っすぐ飛んでいるだけ。

 飛行長が述べた敵の諸元は間違っていなかった、電探で返ってきた反応だけで判断したのか。定期的な攻撃の周期があって、敵の種類を推測できたのか。

 とにもかくにも、顔を見せなかった彼女は・・・確かな腕を持つ。

 確かな、誘導をしてくれる。

 信頼に足りる人だ。

 それさえ分かれば、彼女の指示通り敵を墜とす。彼女の言う通り「私に記念すべき初撃墜がつく」のは分かりきった。

 高度はおよそ一万。

 アタシはそのまま上昇している。

 シャンデル、斜めに上昇した角度を活かしたループを描き、敵の背後を取った。

 爆撃機相手なら後部銃座の格好の的になるけど、アタシは軽量なユニットを履いて、軽快な機動を取ることができる。秋水の燃料は少し残っていて、空気の薄い高空でも加速する。

 敵の迎撃光線を縫いかって、射撃は単発で予測射撃を発射。最後部の赤いパネルが壊れたことでネウロイの光線攻撃は一気に弱体化された。

 

「敵のコアは!」

 

 秋水ユニットの呂式魔導エンジンはまだ息をつかない。加速したまま、敵の背後上部から一気にカミソリで切り落とすように迫る。

 

「上部、中心パネルの内側」

「了解!」

 

 ロケットの発射を三連発に切り替え、トリガーを一度引く。少し後ろに逸れた。隙間からコアが見えた。

 

「これで!」

 

 二度目の三連射。敵のコアを覆いかぶさっていた黒いパネルは結晶に変わり、赤い宝石のようにも輝くコアが見える。

 アタシは今まで実戦に参加したことがない。初めて見る、ネウロイのコアだった。ネウロイ自体を初めて見た。

 前線で飛ぶ先輩方は、こんな強大で頑強、コアの位置も特定できないネウロイ相手に機関銃一つで飛びかかっているのか。扶桑刀を使うウィッチも居るらしいが、あんなに小さなコアに向かって切りつけるなど、相当な修練が必要に違いない。

 コアに見惚れていたのかもしれない。一瞬の隙をつくように光線がすぐ横を飛んだ。

 アタシの指はロケット発射器の発射スイッチを戻して切り替えていた。

 

「止め、だ!」

 

 残る一発は、ロケットの偏差を考慮した偏差、予測射撃。探針で確かに捉えていた敵の全体像は大きすぎて頭が混乱する。コアだけを視る、魔眼魔法なら。

 墳進する煙を残してコアへと吸い込まれていくロケット弾を見つめた。

 距離、五百。着弾まで、一瞬。

 空中で結晶の雪が舞い落ちる。

 ネウロイはコアを破壊されると結晶状になり、霧散していく。

 

「撃墜確認。ようこそ、実戦へ。歓迎するよ犬宮豊一飛曹」

「ありがとうございます。長良二番、帰投します」

 

 舞い落ちていく結晶を通り過ぎ、燃料は尽きた。母艦の長良から飛んでくる誘導の指示に沿って、ゆっくりと滑空した。

 水平線の向こうには、扶桑の陸地が見える。アタシが守ったのだ。

 アタシは、戦う力を、飛ぶ力を与えられた。

 

「力は、行使するならば大きな責任が伴う。力に見合うだけの責任を持たなければいけない」

 

 少佐からの受け売り。

 長良の艦上でアタシが戦う姿を電探越しに見ていた、あの黒髪の綺麗な女性は何を思うのだろう。

 あれだけ情けなかった少女が、戦場に出れるようになってしまったことを。

 彼女だってウィッチだ、軍人だ。戦う覚悟はある、と考える。アタシだって、軍人としてご飯を食べている。戦わなければいけない。

 ネウロイが何者かなんて、分かりっこないけど。

 アタシが持つウィッチの力は、アタシが空を飛ぶためにある。戦う必要があって、戦う能力があって、戦う立場にあるのなら。

 この能力を、飛ぶだけに使うのは無責任だ。

 

「長良より二番、貴機を視認。落下傘で降下するか?」

「二番より長良。波高は?」

「長良より二番。ほとんど凪いでいる」

「了解。減速して水上滑走、着水する」

 

 高度は五千を切った。どんどん海色が近づき、途方もなく広い滑走場が広がっていた。

 

「長良三番より二番、初撃墜おめでとう」

 

 滑空して、減速、高度を減らすことを同時に行っていたら、すぐ横を長良三番、ウォーラスが並走している。航法士の少尉が優し気な口調で無線越しに呟いた。

 

「二番より三番。初めての水上滑走なので、失敗するかもしれません。早めに拾ってくださいね?」

 

 秋水を海上で運用する上での最後の手段。滑走路に届かない場合は落下傘を開き着水するが、それでもユニットは衝撃を受けてしまう。落下傘兵ですら、倒れ込むようにしないと怪我をする。

 扶桑海では珍しく海面が凪いでいる場合は、水上ギリギリまで高度を落して減速し、落下傘を後ろに向かって、減速傘として展開する。

 速度を殺しきった上で、秋水ユニット固有の橇式着陸装置で水面を滑走する。

 減速傘として使った落下傘を切り離し、速度もなくなったユニットごと海に沈むのが水上滑走。

 高度はもはや数えるまでもない。滑空して横になっていた姿勢を、上に持ち上げた。

 

「いち、にの、さん」

 

 一気に減速すると同時に上昇するユニットを押さえて、減速傘を展開。

 ユニットの展開する橇式降着装置が、揺れる波に被さった瞬間、身体ごと水面に飲み込まれそうになった。突っ込み気味に頭が落ちそうになるのを持ち上げる。

 減速しきった時には、ユニットの飛行が止まったと認識すると同時に醒める

 

「つめたーっ!?」

 

 夏、お盆が過ぎた扶桑海は冷たかった。保護魔法を張れるけど、秋水ユニットは既に停止している。ストライカーユニットの魔法力増幅は行われておらず。普通に冷たい。

 離陸時から比べたらはるかに軽くなったユニット本体で足漕ぎしながら、首を海面に上げた。

 ウォーラスの前方ハッチから航法士の少尉に振り返して、近づいてくるウォーラスの巨体を待ち続けた。

 ・・・いや、遅くない?

 

「長良一番より二番、聞こえるか」

「はい!」

 

 さぁ、早く長良に帰ろう。冷たい身体も温まる料理でもあるだろう。

 

「さっさと三番に乗って長良に戻ってこい。さもないと俺は寝るし艦内旅行もせん」

「え、えぇーっ」

 

 この時のアタシは大層間抜けな声が出ていたらしい。後で宇野部少佐に教えてもらった時、とても恥ずかしい思いをした。

 

 

「うぇー水浸し・・・」

 

 ウォーラスの機内に海水を一杯滴らせて戻ったアタシを待ち受けていた吉沼司令と艦長、宇野部少佐に、ウォーラスの二人と甲板で整列し言葉を掛けられた後。

 アタシは長良の甲板で、ワンピースの上衣を脱いで一頻り海水を絞っていた。

 

「はーやーく、来てください」

 

 そんな声が後ろから聞こえてくる。女の人の声だ。

 

「・・・眠いんだ、俺は」

「だからってねぇ!初めての部下ですよ!」

「三番の二人も俺の部下だ」

「そういう屁理屈の話してんじゃないんですよ!」

 

 随分と騒がしい。絞っていた上衣はもう濡れたままで仕方ないと諦めて畳んで、声のする方を見た。

 水兵服に身を包んだ、小柄な女性・・・陸戦隊の陸戦ウィッチか護衛担当のウィッチ。

 そのウィッチに引っ張られながら、使い魔の秋田犬にまでぐいぐいと足を押されている百六十センチほどの女性が大きなため息をついた。

 

「・・・水練着、長良二番だな」

 

 秋田犬が使い魔のウィッチがもう一度ため息をつく。眠そうな様子と声は無線越しに聞いた長良一番。飛行長殿に違いない。

 慌てて服を甲板に放って敬礼。

 

「はい!犬宮、豊、一飛曹です!よろしくお願いします!」

「俺が長良一番の栗田、階級は中尉だ。んで、こっちの煩くてちっこいのは護衛の栗山軍曹」

 

 栗田中尉は、黒髪を後ろで一纏めにしている。ハーフアップ、というやつだろうか。ポニーテールほど後ろの髪は長くない。自分の頭二つぐらいは見上げるほどの上背。眠たそうな視線に眼鏡を掛け、周りを駆けまわっている秋田犬を捕まえて、今にも眠りそう。

 栗山軍曹もアタシより大きい。百五十と少しだろうか。カールもかかっていない黒髪を短く切りそろえていた。確かに声は大きい。

 

「煩くてちっこいってなんですかっ!」

「それがうるせぇんだ・・・」

 

 今にも甲板で丸まって眠りそうな栗田中尉は徐に立ち上がるとアタシの頭をポンポンと叩く。

 

「俺のことは気軽に栗でいい。こっちは、あくまで護衛だから山とでも呼んでやれ」

「えっと・・・よろしくお願いします、栗中尉」

 

 手を伸ばす。

 栗中尉はそれを軽く握り返して、すぐに背を向ける。

 

「栗中尉は、まぁ、一癖も二癖もありますが・・・悪い方ではないので」

「これからお世話になります、山軍曹」

「うん、よろしく」

 

 ウォーラスの置いてある後部飛行甲板からゆっくりと艦橋構造物に向かっていると、電探の下辺りですぐに宇野部少佐がいらっしゃった。

 

「犬宮、これからは私はついていることもできん。軍艦勤務は色々と苦労もある、頑張れよ」

「ありがとうございます」

 

 抱えていた上衣を抱きしめ頭を下げる。軽く頭を撫でてくれた少佐はそのまま、ウォーラスの方へと戻っていった。

 今日から、始まるんだ。

 アタシの、新しい生活が。

 沈んでいく夕陽を眺めた後、先導してくれる山軍曹を追いかけた。




栗中尉・・・一体何無頼ナンダー(すっとぼけ)レーダーとかそういうのと進路のナビゲートって辺りでパッと連想したので、モチーフにしました。なんで飛ばないんでしょうね。その理由はね、ちゃんと書きますよ。モチーフでも1回似たような回がありましたねー・・・あの時は戻ってきたけど。そう言えばその逆もありましたね・・・(分かる人には分かる)

山軍曹はマジでモデルもないです。

ただ、長良でのウィッチが2人だけってのも心配なので護衛をつけました。

予告

 冷えた体を温めるため、濡れた上衣を乾かすため。アタシは長良のお風呂に入ります。ところで、アタシは知らないんですけど、軍艦のお風呂ってなんか変なんですか?

次話「ヒリヒリするの」

豊ちゃん、頑張ってお風呂を乗り切ったら美味しいご飯やで。というわけで次話は長良での生活を描きつつ、新キャラ登場とか・・・

(改稿版おまけ)
▽登場人物紹介
・栗田 頼(くりた より)
 長良飛行隊長、中尉。愛称は「栗中尉」年齢は十九歳で上がりが間近。黒髪のハーフアップで、眠たげな態度と眼鏡が特徴。背丈は比較的高い百六十センチ以上ある。使い魔は秋田犬の「サブ」
 モデルは名作漫画「ファントム無頼」より栗こと栗原。

・栗山 仁美(くりやま ひとみ)
 長良所属護衛ウィッチ、軍曹。愛称は「山軍曹」
 黒髪ショートボブで小柄に見えるが百五十センチの背丈を生かし、豪快に人を投げることの出来る特殊陸戦ウィッチ。
 扶桑海事変時にウィッチを志望したものの魔法力の量など適正が足りなかったかわりに、高い身体能力を見込まれ、生身で護衛等を行う特殊陸戦ウィッチとして養成された。
 モデルはなし。


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