「買わないの?」
キャルと買い物に来たユウキは、延々と服を見ているだけで全く買う様子がないことに疑問を持ち、尋ねてみる。
「今日は服はいいわ。見てるだけよ」
そういえば、女の子は買うつもりがなくとも服を見るものだと聞いたことがある。
「キャルちゃんって女の子だったんだ」
再確認して、納得する。
「はぁあああああ!?」
キャルは激怒した。
☆
なんていうことがありながらも、キャルの機嫌は様々な店を練り歩いていく中で少しずつ回復していき、今はいったい何軒目かの寄り道の店で、可愛らしい猫のぬいぐるみに目を輝かせている。
「見て見て! これ、すっごく可愛いわよ!」
大きなぬいぐるみを両手で抱えて、ユウキの目の前に突き出しながら、キャルは嬉しそうに笑っている。
「かわいい」
「でしょう?」
ユウキの言葉に、別にキャルが何かをしたわけではないのに得意げな表情で笑う。キャルはしばらくそのぬいぐるみを愛おし気に眺めてから、跳ねるように店の奥に入っていき、ぬいぐるみを購入してきた。
ちなみに前に立ち寄った店でもキャルは猫のぬいぐるみを買っているのだが、いったいどれだけ買うつもりなのだろうかとユウキは疑問に思う。
「じゃあ、これ持って」
購入してきたぬいぐるみの入った紙袋をキャルはユウキに手渡してきた。ユウキの両手は既に小物や、先ほども言った他の店で買ってきたぬいぐるみの入った袋でふさがっているので、少し危なっかしい持ち方になる。
「落とさないでよね」
そういわれてユウキは上手く持ち替えて、安定した持ち方を探る。これで良しと思ったときにはすでにキャルは少し離れたところを歩いていて、ユウキを急かしている。
「ほら、早くついてきなさい。あんたが言い出したことなんだから、最後までちゃんと付き合いなさいよね! あはは、そんな必死に追いかけてこなくたって、あんたを置いてったりはしないわよ」
「次はどこに行くの?」
「そうねぇ、もう書店に行ってもいいけど、その前にちょっとだけどっかのお店でお昼食べちゃいましょう?」
☆
お昼を食べて、折角だからと町を散歩して、ようやくキャルの本来の目的地であるらしい書店にたどり着く。
いくつもの本棚に、大量の本。埃臭く、窓から差した光がキラキラと埃を輝かせている。
「そういえばあんたも勉強して文字は読めるようになったのよね?」
書店で手に取った本をぱらぱらと捲りながら、キャルはユウキに問いかけてきた。
「頑張った」
「じゃあ何か適当な本くらい買ってあげるわ。付き合ってくれたお礼に……ってあれ? もともとあたしがあんたに付き合ってあげてたんじゃ……? やっぱなしに……でも荷物は持ってくれたし……」
何かをぶつぶつとつぶやいているが、結局本を買ってくれるということでいいのだろうか。それならばと、ユウキはまだぶつぶつとつぶやいているキャルを置いて、適当な本を探してみることにした。
文字はある程度読めるようになってきたとはいえ、難しい本に挑戦してうまくいかなかったのが最近の話だ。
少し前に、十代向けの本に挑戦したことがあるのだが、まだユウキには難しかった。太陽のような笑顔なんて書いていたが、太陽を見ても笑っていなかった。
そのことをある人物に聞いてみると『違う。それは単なる比喩表現、モノの例えだ。言葉通りに受け取るんじゃあない。それと、二度と太陽を直接見るんじゃあないよ』と叱られ、しばらくは簡単な本を読むことを勧められた。
だから、いつもコッコロが読んでくれるような本を選ぶべきなのかもしれないのだが。
けれど、折角キャルが買ってくれるのだから、難しい本を買ってみてもいいかもしれない。簡単な、確実に読める本を買ってしまうよりも、何度も挑戦して、いつかその本を読めるように頑張る方がいいと思ったのだ。
そう考えたユウキは、キャルがいつも読んでいるような文字の多い本を探してみることにした。なんとなく難しそうな本がならんでいる棚を見ると、やはりと言うべきか、いつもコッコロと一緒に読んでいる本の何倍もありそうな分厚い本ばかりだ。『最強バイト術』、『ランドソル麦しゅわ大全』だの、ユウキには少し早い気がする。
そこでユウキは、売れている本のコーナーで厚くない本を選ぶことにした。ここの本ならそこまで難しくなく、ユウキにとっては挑戦と言った具合の、ちょうどいい本が置かれているだろう。目についたものは、少年と少女のイラストが表紙に描かれた本。キャルがやっていたのをまねして、ユウキも半ばなんとなくで手に取ったその本をぱらぱらと捲ってみる。
「これにしよう」
「キャルちゃん」
キャルは本棚の横にある椅子で、本を読みながらユウキのことを待っていた。声をかけると待ちくたびれたわと一言文句を言って、ユウキに手を伸ばす。
どういうことだろうかと首をかしげつつユウキはその手を取って握手をするが、
「そうじゃないわよ!」
とキャルは手を振りほどいた。
「本! 選んできたんでしょ? 言っちゃったことだし買ってあげるから」
ユウキはなるほどと持ってきた本をキャルに差し出す。
「……って、これ『ランドソル恋物語』って……獣人族の少女とヒューマンの少年の恋物語じゃない!? ばかなの!? なんでこんな本選んでるのよ!? こ、これ、もしかしてそういう意味……?」
「売れている本のコーナーにあった」
「……もしかして何も考えずに選んできたの?」
「?」
「はあぁ……そうよね」
気が抜けたように、キャルは大きく息を吐いた。
それから帰り道は、なぜかどこかキャルはぎこちなかったが、ギルドハウスが見える頃になると、普段通りに戻っていた。
「やっぱ荷物持ちがいると便利ねー」
鼻歌交じりに、キャルは軽い軽いと両手をぱたつかせる。
「いっぱい買ったね」
「そうねぇ、だれかさんのお陰で余計な出費よ。つい楽しくなって買いすぎちゃったわ。でも本当にずっと荷物持ってくれて、今更だけど重くない?」
「そんなに重いものはなかったから大丈夫」
大丈夫だとアピールするために両手に持てるだけ持った袋を上げ下げする。実際にキャルがいろんな店で買ったために袋の数が多くなっているが、買ったものもぬいぐるみであったり小物であったりと大して重くない。
そんなユウキに満足げに笑ってから、ふとキャルは立ち止まる。つられてユウキも立ち止まり、もうギルドハウスまですぐなのにどうしたのかと、キャルを見つめる。
キャルはもごもごと、喋りかけてはやっぱりやめてを繰り返したかと思うと、
「あのさ……今日は、もともとあんたが言い出したことだったけど、誰かと買い物に行くって、結構楽しかったわ。もしまた買い物に行くことがあったら、今度もあんたに付き合わせてあげなくもない……かな。あ、あくまで荷物持ちがいて便利だったからだからね?」
「じゃあ明日行こう」
「明日? ばかねえ、これだけ買ったんだから、明日はどこにもいかないわよ」
「じゃあ明後日」
「明後日も同じ! 何よ、そんなにあたしとお出かけしたいの?」
「うん」
「ふ、ふーん……そ、そこまで言うなら色んな事でとことんこき使ってあげるわ! 覚悟しなさいよね」
☆
「おや、主様。そちらの本は?」
「キャルちゃんが買ってくれた」
「キャル様が? ですが主様には少々難しいのでは……?」
「そうかもしれないけど」
書店でぱらぱらと捲って、獣人族の少女とヒューマンの少年が仲良くなる物語だと分かって、読んでみたくなったのだ。
次回更新はキャルちゃんの誕生日までに。
1/8 加筆修正。
1/8 タイトル(作品自体の)を少しシンプルに修正。