ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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今回は、ある意味公式と一番かい離してしまった展開があります。
某陛下です。
本作のゼロは、彼の分まで〝ウルトラマンとして生きる〟という心意気があります。
銀河帝国初回版に付いてた絵コンテに、『復活の可能性を消したくないから撮影ではカットした場面』が載っていたのに、それを失念していた私のうっかりです。
 お陰でゼロファイトの時は毎週ハートフルボッコされただけでなく、その話をこっちの世界線でどう組み込めば良いんだぁぁぁぁ!……と今も悩ます種になってしまいました。
 いっそ闇落ち後の陛下の方の人格が〝彼〟から独立し、DN5はシャイニングの力で転生後、自らの〝守るべきもの〟として集め結成させようかな、と考えてます。

 さて今回の見どころは――
1:泣きべそかいて体育座りするフェイト
2:不良にからまれて震えるフェイト
3:ゼロちゃんにからかわれて拗ねるフェイト
――の3つをお送りします。



EP12 - 嵐が過ぎた後…

 海鳴市に隣接する都市、遠見市。

 

 フェイトたちが隠れ家として使っている高層マンションは、ここに建てられている。

 

 今彼女たちが借りた部屋のベッドでは、借用主の代わりに、ウルトラマンゼロの人間態、諸星勇夜が占拠し、眠りについている。倒れた時はゼロの姿だったが、運び込まれる途中、体の本能が働いたのか、勇夜の姿に戻った。

 いつもは一纏めにして縛っている黒衣の長髪は下ろされ、さらに起きている時は鋭い刃を連想させる目つきと無愛想な容貌も、眠っているためか少年どころか少女にも見えてしまう独特のあどけなさを前に影を潜め、余り人と関わりを持たなかったフェイトたちから見ても、その彼の顔つきは美形中の美形に位置していた。

 黒の長髪も、男性のものにしては細く柔らかで、見ているだけで触り心地の良さを感じとれてしまう。

 先程の戦闘で、フェイトの代わりに素手でジュエルシードの暴走を抑えて倒れ、その時できた痛々しく血が流れる勇夜の右手を、アルフが包帯を巻いて手当てをしていた。プレシアからの『おつかい』で、時々無茶をしては、傷が絶えない主人によって経験を積んでいたので、彼女はこの程度の介抱なら無意識に手を進められるまでの域に達している。

 一方彼女の主であるフェイトは、目じりを赤く腫れ上げて、何度も鼻孔をすすらせて、顔には暗い表情を形作り、ベッドの向かいの壁際にて体育座りで腰かけていた。

 今は大分落ち着いてはいるが、少し前までの彼女は、泣き喚き、その容貌を溢れる涙で濡らしていた。

 原因は勇夜がフェイトの代わりにジュエルシードの暴走を止め、消耗して倒れたこと。

 フェイトはその時、今までは抑圧できていたはずの感情の波をせき止めることができず、久方ぶりに大粒の涙を流して慟哭し、意識の無い勇夜を隠れ家に連れ帰っても、横になった彼に顔をぐしゃぐしゃにしながら『ごめんね…ごねんね…』と、さっきまで泣きつつ連呼していた。

 勇夜を介抱しつつもアルフは、今夜見せたフェイトの変化に驚きを隠せずにいる。

 彼女の使い魔となって転生してから、かれこれ3年の月日だが、ここまで感情を発露したところを見たのは、アルフの知る限りではかなり久しい……今日を除いて彼女の大泣き顔を見たのは、自分がまだ外見年齢がフェイトより下であった頃に、彼女が入浴中、せっけんの泡で目が開けられない中、おけを取ろうとしてうっかり転び、浴槽に頭から落ちて溺れた……あの時ぐらい。

 元々気を遣い過ぎる性格ではあったけど、ここ最近は顕著で、周りに配慮する余り、自分を抑える日々をおくるフェイトの現状を、アルフは歯がゆく感じていた。

 まだ10歳なんだし、もっと素直に気持ちを表しても、文句は出ないはずだ。

 だから、さっきの出来事に当初は驚きが感情を埋めていたが、今は個人的には良い傾向だと思うし、嬉しいとはっきり断言できる。

 

「いいのかい?これだけで…」

『心配はありません』

「それなら良かった…………でも……何者なんだい?……あんたたちって……」

 

 思えば、勇夜と会ってからのフェイトは、ちょっとずつだけど明るさが段々と戻って来ている気がした。

 今までは、自分を心配かけまいと、安心させようと、特に自分たちには育ての親と言ってもいい『彼女』がいなくなってからは悪く言えば無理に気張って作られた笑みしか見なくなっていたから………だからそのきっかけを作ってくれて、『約束』通り主を助けてくれた勇夜には ホント感謝している。

 が、前から様々な意味で…彼のことが気にはなっていた。

 時空漂流者で、11年前より以前の経歴が無いこと。

 一見普通の人間なのに、腕っ節なら上のはずの使い魔な自分を圧倒し、《魔導殺し》なんて物騒な異名をつけられてしまうほどの脅威的な身体能力と戦闘技術……気にならない方が無理な話だ。

 極めつけは、風の噂で聞いた……管理世界では神出鬼没で結構有名な50メートルの巨体を誇るかの光の巨人へと、彼が姿を変えた事実。ただものではないとは薄々感じ取っていたけど…………あそこまで常識の範疇を超えるなんて芸当を見せられるとは思わなかった。

 言っておくが、畏怖とか嫌悪とか言った差別的感情はアルフには無い。自分たち使い魔は、一昔前の時代そんな目で見られていた存在、そんな嫌な気持ちを他人に抱くなんてまっぴら御免だ。

 気になる気持ちの源は、あくまで純粋な好奇心。

 自分をウルトラマンゼロと名乗った彼が何者で、人間と巨人、どちらが彼の本来の姿なのか?

 アルフたちには質問したいことが、山ほどある。

 もっとも、フェイトはそれ以上に、彼女の周りに気を遣いすぎる性格によって、必要以上に勇夜を傷つけた罪悪感に苛まれてはいる身だ。

 

『そうですね……これから話す内容を、秘匿できるとお約束できるなら、マスターの出自含めて、全てお話致します』

「ああ、約束するよ」

『フェイトも、よろしいですね?』

「っ………………」

 

 問いを投げかけられたフェイトは、うつむいた顔を上げつつ、晴れない表情のまま黙って頷いて了承するのであった。

 

「マスターの正体は、彼の生まれた世界では『ウルトラマン』と呼称される巨人族の戦士、ウルトラマン――――ゼロです」

 

 そうしてリンクは、特定の人物たち以外には徹底して隠し通してきた真実を、二人に明かし始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 自分は今、闇の中にいた。

 今の自分は〝ウルトラマン〟の姿をしている。

 あれだけエネルギーを使ったのだ……こうしてウルトラマンの姿を維持できるの自体あり得ない。

 次元振を防ぐべく、ジュエルシードを掴んで負傷した右手も、無傷だ。

 十中八九、これは夢の中。

 ゼロ…ゼロ…ゼロ。

 反響がかった声で、自分を誰かが呼ぶ。

 誰だ? 誰の声だ? いや……誰なのかは直ぐ判別はついた。

 目の前に光が照らされる。

 光が収まると、そこには……ある意味で、懐かしい相手がいた。

 

「久しぶりだな…」

「べ…べリアル!」

 

 そう、ウルトラマンでありながらダークサイドに堕ち最強最悪の悪魔になってしまった以前の、〝ウルトラマンベリアル〟。

カイザーベリアルとの戦いで、カラータイマーの光が消え、力尽きてしまった時、ともに戦った同士たちの『希望』と、あらゆる世界に、伝説を残している〝銀色の巨人〟の力で結集した――バラージの盾、ウルティメイトイージス――よって復活するまでの間、自分の命を繋ぎとめてくれた。

 恩人でありながら、倒すことでしか救えなかった………ウルトラマン。

 

「…………」

 

 何と言ったら良いのか、言葉に出ない。

 かつて俺は、ベリアルと同じように恒星の代わりに故郷を照らす人工太陽、プラズマスパークタワーのエネルギーに手を出そうとした。

 彼とはある意味似た者同士。

 強くなりたい……誰よりも強い戦士になりたい、それに執着するあまり、自分を見失ってしまった過ちを抱える者同士。

 俺の場合は………父や師匠やみんなのお陰で、一度は歪んでしまった心を変えることができた。

 だがべリアルは……ずっと履き違えたまま……闇の泥沼へと落ちていくばかりだった。

 

「もう10年以上たつのに…まだ気にしてるのか?」

「っ!……………当たり前だろ!」

 

 ずっとこの人は暗闇の中で、悪事を重ねる自分を見ることしかできなかった。

 奪って。

 殺して。

 破壊して。

 際限無く欲と憎悪を撒き散らして、罪を重ねていく様を見ることしかできなかった。

 そんな、自分の未来の可能性の一つだったこの人を………俺は―――

 

「俺はあんたを殺すことしかできなかった………何度助けられたらって思ったよ」

「懺悔をしたい気持ちは分かるが、聞いてくれないか」

「え?」

「フェイト・テスタロッサのことだ…」

 

 思わぬ名前が、ベリアルの口から出てきた。

 

「どうして…フェイトことを…」

「詳しくは言えないが…彼女の母親はかつての俺と同じ状態にある、目的を果たす為に手段を選ばず………それをただ実行するための機械」

「どういう意味だ?」

 

 確かに、あの親子には何か深刻な問題がある。

 でも機械って……不吉さを嫌でも感じられる表現だ。

 

「彼女と、その母の罪は一生汚名として残るし……お前も決してその母を許しはしないかもしれない……でも、それでも………あの〝親子゛を助けてやってくれ…」

「べリアル…」

「お前なら………ウルトラマンゼロならできるさ」

「待ってくれ!」

「頼むよ…」

 

 そう言うと彼は、闇の奥へと消えていく。

 必死に俺は手を伸ばして、こちらに引っ張ろうとした。

 あの闇の奥にベリアルを行かせては、いけないような気がしたから。

 彼をあの闇に溶け込ませたら、またあの〝黒くおぞましい姿〟な彼になってしまうような不安が過ぎったから。

 けれど、その手は……ついに彼に届くことは無いまま、視界の輪郭がぼやけていった。。

 

 

 

 

 

 先に目が入ったのは天井と、そこに向かって伸ばしていた右手。

 部屋を見渡してみる。

 さっきまで自分が眠っていたこの部屋は、フェイトたちが今借りてるマンションだった。

 

『おはようございますマスター』

「あ…ああ…」

『無茶もほどほどにして下さい……地球人の血を引いていると言っても、地球では長時間ウルトラマンの姿を維持できないことに変わりないのですから…』

 

 俺はジュエルシードを握った右手を見た。

 リンクによればアルフが巻いてくれたらしい。

 痛みはもうほとんど無い。

 ウルトラマンとしての生命力と、リンクが掛けた治癒魔法でほぼ治りしかかっていた。

 完全に完治するには、もう半日は掛かりそうだけど。

 

『うなされていましたが、何の夢を?』

「べリアルに、会ってた」

『そう……ですか』

 

 リンクはかける言葉が見つからないのか、〝そうですか〟と、一言しか言わなかった。

 どうあがいてもベリアルは、その脅威を直に触れた大方の人たちにとっては〝悪魔〟と同義語。

 その人たちが彼を一生許すことは無いだろう。

 だけど……その悪魔になる前の彼を知ってしまった俺としては、複雑な心境になるわけで、相棒がその気持ちを悟ってくれただけでもありがたかった。

 しみったれた自分に活を入れようと両手で両の頬をビンタする。

 いつまでも引きずってられない。

 こう落ち込んでいては、それこそべリアルが安心して成仏できない。

 ビンタの次は心機一転するために、深呼吸もした。

 

『わたしからも謝ることがあります』

 

 なんだ? 改まった態度で………ああ、そういうことか、大体分かった。

 

「二人に話したんだよな、俺たちのこと」

『はい…』

「昨日変身しちまったんだ、手間が省けたよ、お前の口から話してくれたが分かりやすいだろうしな」

『いえ…』

「あと、どれくらい眠ってた?」

『12時間42分38秒です」

 

 なんだ……まだ半日しか経ってないのか。意外だ。もっと長いこと眠っていた気がする。

 勇夜は周りを見渡してみた。この部屋の借り主たちは出かけてるようである。

 ふと、テーブルの上に置かれた物が目に入る。

 机上には、主食のトースト数枚、おかずに目玉焼きとサラダがあり、横には置手紙が添えられていた。

 折り畳まれた手紙を手に取り、拝読する勇夜。

 

『こんなものしかありませんが、食べて下さい、昨日はありがとうって言えなくて…ごめんさい』

 

 文面を読むと、彼の頬が自然と笑みが形作られていた。

 たく……そこまで気負わなくて良いと言うのに。

ミットチルダ語で書かれた文面は、お世辞にも綺麗とは言えない。

 正確に言うと、多分、綺麗には……書けなかったんだ。

 なぜなのかは敢えて言わないでおこう。

 突然、ジーパンのポケットから着信音が鳴った。

 音を響かすオープン式携帯電話を取り出す。

 画面を見ると、『TAKAMACHI LICHT』と表示されている。

 

「もしもし…」

『ゼロ…大丈夫なのですか?』

 

 清水のせせらぎを思わせる独特の綺麗な声。

 電話越しにでも、心配した声音になっているのが理解できた。

 相手は高町光=ミラーナイト。

 この間の再会がてらの日に、携帯電話の番号交換をしたのだ。

 念話を使えば良いじゃないかって?

 確かに直ぐ連絡はつくが、よほどの急用でもないのに相手の状況、用事に関係なしに、いきなりずけずけと頭ん中に向けて話せるわけない。

 その点電話というか通信は、前もって連絡が来たぞと教えてくれるのが良い。

 

「もう心配無いぜ」

「良かった……カラータイマーが鳴った時はどうなるかと思いましたよ」

 

 ウルトラマンは、自らが得られる太陽エネルギーの強弱によって、巨人の姿を維持できる時間がまばらになる。

 カラータイマーはそんな己のコンディションを知るための装置だ。

 光の国以外の惑星や星系に出る者は、必ず着けることが義務付けられている。

 もしこの輝きが消えてしまえば、最悪死が待つ。

 ウルトラマンは超人ではあるが、決して不死身では無いのだ。

 

「今日学校あるだろ、続きは放課後、海鳴臨海公園でいいか?」

「そうですね、分かりました、ではまた後ほど」

「ああ」

 

 さてと……光と会うのは夕方、それまでは暇だ。

 ずっと部屋にいるのも何だし、とにかく外に出ることにした。

 フェイトを探してみるか。

 多分……今のあいつは、落ち込みながらジュエルシードを探し回っているだろうからな。

 

 

 

 

 

 時刻が午後一時を過ぎた頃、フェイト・テスタロッサは海鳴の中心市街地をねり歩いていた。

 バルディッシュは自己修復中で当分使えないが、発動前のジュエルシードなら見つけようと思えば見つけられる。

 現在の彼女はお世辞にも明るい性格とは言えないが、今は普段以上にその表情は暗い。

 原因は昨夜の…自分の代わりに素手でジュエルシードを封じようとして、怪我を負った光の巨人、ウルトラマンゼロ―――諸星勇夜。

 本名『ゼロ=ユウヤ・ヴェアリスター』

 彼に傷を負わせた罪悪感。

 勇夜の勘は、ずばりと言えば当たっていた。

 彼女は身の上の境遇から、ネガティブ思考に陥りやすい。

 それでいて周囲には大丈夫だって強がってしまう。

 そうして溜まった淀みを流す術を知らない彼女の気持ちは、沈んでいくばかりであった。

 

 

 

 

 

 彼が眠っている間、リンクが色々話してくれた。

 ゼロたちウルトラマンのこと。

 故郷のM78星雲光の国のこと。

 如何にして光の国の人たちが『ウルトラマン』の力を手に入れたこと。

 彼が尊敬している父のウルトラセブンのこと。

 あの緑と銀色の巨人、ミラーナイトらゼロの仲間たちのこと。

 かつてゼロが故郷で犯した罪。

 次元振に巻き込まれ、その仲間と離れ離れになり。

 体が幼児退行してミットチルダに迷い込んだこと。

 リンクはその次元振で自我に目覚めて、デバイスに相当する機能を得たアイテムで、厳密にはデバイスとは異なることその他諸々。

 次元漂流者とは聞いていたが、まさか正体がおよそ50メートルもある巨人とは、思ってもみなかった。

 それも驚いたけど……何より。

 

 〝だ…大丈夫…か?〟

 

 自分の方がダメージは大きいのに、あの人は当たり前のように自分の方案じてくれた。

 一応……覚悟はしているつもりだった。

 相手を傷つけてまでも、ジュエルシードを手に入れるって。

 でもあの人が倒れて力尽きた時………自分の集めている物がどんなに恐ろしいものか痛感させられた。

 自分よりもずっと強くて、頼もしいと思ってた人でさえ…あれだけ傷つけ、消耗させるロストロギア。

 リンクの話ではウルトラマンは魔法とは別系統の能力を持ち、巨人の姿ではそれを100%発揮できるが、反面魔力は体内で一定以上の量になると互いを相殺してしまうので魔法はほとんど使用できなくなるらしい。

 でも……人間の姿でいたなら、リンクと一緒に封印処理することはできた筈なんだ。

 ほんの少しの衝撃で、次元振を起こすものと知らなかったばっかりにバルディッシュも傷ついて、あたしがゼロよりもジュエルシードに近い距離にいて、素手で封印しようと考えたばっかりに……わたしよりも先にジュエルシードを取るためにゼロのまま封印しようとして、勇夜にあんな無茶をさせてしまった。

 私のせいだ………こうなったのは、あの人を傷つけたのは……全て私が………私が全部……自分がいけない子だから………ダメな子だから、勇夜にあんな酷い目に遭わせたんだ。

 

 

 

 

 

 思い詰め過ぎて、フェイトの目は目として機能しておらず、それがアクシデントを呼ぶ。

 

「キャッ!」

 

 いきなり肩に痛みが走り、甲高い悲鳴がフェイトの口から洩れた。

 俯いて余所見をしたばかりに、通行人とぶつかってしまったのである。

 

「どこ見て歩いてんだ?」

 

 しかも相手が悪すぎた。

 いわゆる、不良と呼ばれるガラの悪い学生たちである。

 

「目がないのか!?お嬢さんよ」

 

 しかも彼女と接触したのは一人なのに、5人の不良たちはよってたかって自分より幼い少女を問い詰める。

 

「あ…あの…」

 

 髪を染め、制服をラフに着飾った悪趣味な不良たちの威圧的な剣幕を前に、フェイトは口からまともに言葉が出てこない。

 

「なんだ?口も聞けないのか?」

 

 魔導師である彼女なら、魔法で簡単に護身できただろう、だが、相棒のバルディッシュはただいま自己修復中。

 その上ここは管理外世界なので、その魔法も迂闊に使えない。

 アルフを呼ぼうにも今から間に合うかどうか…八方塞がりの手詰まりだ。

 さらに、勇夜によって耐性が付いてきているが、未知なる生命体と同義な異性からの剣幕に、完全冷静さを失い涙目になっていた。

 そんな苦境極まる悪状況の最中だ。

 

「おい!探したぞ」

 

 向うから声が聞こえてきた。

 一声奏でただけで、誰か分かってしまう特徴的な艶のある声のした方に目を向けると、そこには………昨日の怪我をして倒れたのが嘘のように佇む、諸星勇夜。

 

「悪い…その子うちんとこでホームスティしてる外国の子でさ…まだ日本語に慣れてねぇんだよ」

 

 フェイトと違い、日本人そのものな容姿をフルに生かし、上手いことそれらしい言い訳をしつつ、こちらに歩んできた。

 

「ほら、行くぞ」

「あっ……」

 

 無論、目的はフェイトを早く不良たちから引き離すためである。

 勇夜はフェイトの手を掴んで、少々強引だがそのままこの場から立ち去ろうとするが……相手はそう易々と許しはしない。

 

「待てよ…そいつの保護者を気取ってんなら、責任取れ!!」

 

 無謀と言うか、無鉄砲と言うか、今度はイライラを発散する標的を勇夜に変え、彼の片方の腕を無理やり掴もうとして、逆に一瞬で振り払われて掴みなおされた。

 

「い、いてててぇぇぇ!!!」

 

 かなり強く握りつつ捻っているらしく、掴まれた不良の一人が悲鳴を上げる。

 

「てめぇえ!!」

 

 不良仲間が突っかかろうとしとしたが、次の瞬間、全員が突然立ち止まる。

 その顔は恐怖で歪んでいた。

 特に腕を掴まれた一人は、猛獣に迫られた様子だ。

 さっきまでの威勢は、もう完全に失われている。

 彼らを猛獣から小動物へと無力化された原因は―――

 

「怪我したくなかったらさっさと失せろ……」

 

 ―――勇夜の瞳から迸る眼光だった。

 とてつもない殺気を放つ眼力と、重くドスのきいた低い声だった。

 目と声、どちらも刀剣を連想させる鋭さと冷たさを秘めていた。  

 不良たちと違って、視線を向けられていないフェイトでさえ伝わる闘気。

 彼は幾多の死線を潜り抜けてきたウルトラ戦士。

 それこそ目の前の街のチンピラなんて虫けら同然。手を掴んで捻る以外に手を出していないのは、せめてもの配慮であり、彼がウルトラマンであるがゆえに己に課す戒めでもあった。

 底冷えする環境を前に、不良たちはたまらず全員情けない声を上げながら、逃げて行った。

 

「ところでよ、いつまでしがみついてんだ?」

「ふぇっ?」

 

 最初フェイトは、それがどういう意味合いで彼が口にしたのか、全く理解できなかった。

 

 

 

 

 

 ドクンドクン。

 

 わたし、さっきまで……ずっと勇夜に直にくっついて、抱きついて。

 

 ドクンドクンドクンドクン

 

 抱きついて………抱き――ついて!?

 

 ドクンドクンドクンドクン

 

 

「あ……あわ……わ」

 

 

 一拍置いて気持ちが落ち着いてきたことでようやくフェイトは無意識の内に、今の今までずっと勇夜にしがみついていたことに気がつく。

 勇夜の凄味ある眼力も怖かったが、不良たちの剣幕も怖かったのか、体は勝手に彼の体に密着していた。

 さて、無自覚からとった行為に、やっと自覚するまでに至ったフェイト本人は、羞恥の感情が一気に沸騰点を超え。

 

「ひゃあ!!!」

 

 心臓の鼓動が急加速し、同時に一瞬で顔の体温が頬を真っ赤にさせるまでに急速沸騰したフェイトは、変な声をあげながら勇夜の腰から慌てて離れた。

 

「ご!ごごごご!ごめんなさい!」

 

 間髪いれずにフェイトは、条件反射的に頭を下げて彼に謝っていた。

 それこそ彼女が持つ高速移動魔法――《ソニックムーブ》使用時のフェイトの飛行スピードに匹敵するまでに、素早い動作から繰り出されていた。

 異性にほとんど免疫がない、彼女ならではのリアクションである。

 

「なんか…まるでこっちが脅したみたいな口振りじゃねえか」

 

 余りの慌て様に、勇夜はジト眼で彼女を見つめた。

 

「っ………ご…ごめん」

 

 そうだ。勇夜はできるだけ穏便に済ませつつ、自分を助けようとしたんだ。

 あの〝目〟は脅しと言えば脅しだけど、せめて暴力沙汰にならないようにとの苦肉の策だっただけで、せっかく助けてくれたのに私、またなんてこと……と自らを恥じる。

 

「まあいいけどさ……自分の目つきがめっ~~ちゃ悪いってことぐらい自覚はできてるからな」

 

 確かに彼は目つきが鋭いと言われれば、平時から鋭い。

 人間態の諸星勇夜でも、巨人態のウルトラマンゼロのどちらでもな上にぶっきらぼうな口調と相まって、第一印象は近寄り難い人と思われることが多い。

 

「そ、そんなこと………ない……と思うよ」

「ふっ、よく言うぜ、さっきまでワンコみたいにぶるぶる震えてたじゃんか」

「ふぇ、そう…だけど」

 

 何とか弁解するつもりだったのに、今度は皮肉っぽい笑みと揶揄とのセットでからかわれてしまった。

 またしても、彼から〝一本〟取られてしまったフェイトである。言い返したくとも、怖かったのは本当なので、どうしようない……なのにそれが余計に内心悔しい。

 

「勇夜……いじわる…」

 

 実は負けず嫌いな一面もあって、彼の皮肉返しにすっかり打ちのめされたフェイトは悔しさでまた涙目となり、顔を俯かせ、鼻をすすらせながらぼそっと呟いて、拗ねた気持ちをアピールした。

 なんとまあ、破壊力抜群で愛らしさ溢れる「いじわる…」である。

 

「悪かった、ほら、これで涙ふけ」

 

 彼は懐からハンカチを出し、フェイトの目じりを拭いてあげた。

 心身ともに成長している元不良(ヤン)のウルトラマンと、牙を向くだけが能の現役不良の学生たち。

 口調が粗暴なところは同じであるのに、貫禄と甲斐性は、天と地、或いは雲泥の差なのであった。

 

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