ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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タイトルの通り、実質ゼロとフェイトの無自覚なデートです。
できればブラックコーヒーを用意して、甘さを中和するよう努めましょう。


EP13 - 無自覚な逢引き

 街中で不良に絡まれたところを勇夜に助けられたフェイトは今現在、彼にはぐれぬ様に手を繋がれて、一緒に市街地の喧騒の中を歩いている。

「(あの……)」

「(何だ?)」

「(どっちの名前で呼んだら……いいのかなと思って)」

「(どっちも俺の本名だが、この姿の時はユウヤ、ウルトラマンの時は『ゼロ』って呼んでくれ、ウルトラマンであることは隠してる身だからな、リンクからも聞いただろ?)」

「(うん)」

 ちなみに、どうして彼が自分の場所を把握できたのは、半分は偶然だが、わたしが探査魔法を使っているとふんで、魔力を辿りながら散策していたとのこと、それと、なんでもこの日本では金髪の人は珍しく、わたしは子どもなこともあって街中ではかなり目立つ方らしい。

 なら一人より、一緒に行動した方が目立たずに済むという勇夜の進言で、こうして並んで歩を進めた。

 一緒……考えてみれば、勇夜と二人っきりなのはこれが初めてだった。

 勇夜に会うまで私は、男の人と会話したことが無かった。

 手を繋ぐなんて尚更、ましてや、さっきみたいに抱きつくなんて……あの時の自身を思い出し、一度意識し始めるとそれが起爆剤になり、顔が火照って仕方が無い。

 それに……正直今は、勇夜と会いたくはなかった。

 と言うより、合わせる顔が無かった。

 今握られている右手に巻かれる包帯の下にある傷は、私が受けるはずだった傷を代替わりにしてできたもの。

 非があるのも、咎を受けるのも自分の方なのに……私はなんと、悪い子だ。

 

「フェイト」

 

 突然勇夜は歩を止めて、私の名前を呼んだ。

 

 ペコン!

 

「いたっ!」

 いきなり、おでこに何かが当たって痛みを訴えてきた。

 勇夜が私の額に、デコピンを当ててきたのである。

 加減されてははいたけど、それでも痛い物は痛くて、おでこを抑える。

「また〝私のせい〟だとか考えてただろ?」

「な…なんで分かったの?」

 涙目になりながら、勇夜に質問した。

 まだ額はひりひりするが、痛みよりも、自身の思考が見抜かれていたことの方が驚きだった。

 まさか、彼には読心術でもあるの? いくらウルトラマンでも、そこまで万能なんてと勘繰ったが、実際はと言うと。

「顔でモロバレだ、アルフだって言わないだけでフェイトが無理してることに気づいてるさ、精神リンクなんかに頼んなくてもな」

 実際は彼の超常的な力を使わずとも、自身の顔に書いてあったからであった。

 自分では完璧に隠してるつもりだったのに、また一本取られちゃった。

 この腫れが引くと同時に、勇夜は私の手を引きつつ再び歩き出す。

 デコピンで自己嫌悪が和らいだお陰か……今やっと気づいた。

 勇夜の手って、こんなに暖かいんのだと。鍛えていることは明白な武骨な手だし、太陽の光がエネルギー源な種族ってこともあるのかもしれないけど、彼の隠れた〝温かさ〟が、表れている気がした。

 正直に言うと……初めて会った時、彼への第一印象はとても怖かった。

 自分にとって異性――男の人は未知の生命体であったこともあるけど。

 さっきみたいな怖い目をして、挙句魔導師としては負けないと自信があったわたしを刀一振りで下して、介抱してもらったと思ったらロストロギアを集める目的を知られて……目的を阻む障害と言うなら、あの〝白い魔導師な女の子〟よりもずっと手ごわい相手であった。

 でも……今は一緒にいるのも、手を繋ぐのも怖くない。

 むしろ、安心する。わたしが生まれた頃には、母さんは父さんと別れたらしくて、だからわたしには、父親というものが分からなかった。

 お父さんって……こんな感じなのかな?

 たぶん……そうなんだ。

 年齢ではむしろ『お兄ちゃん』なんだろうけど。

 あれ? でもウルトラマンって……かなり長生き…なんだよね? 何万年も生きる種族だって、リンクから聞いた時は本当驚いた。

 兄でも、ちょっと変な気がする。

 それでも、お兄ちゃんと呼んだ方がしっくり来た。

 お兄ちゃん、心の内でその言葉を口にする度、安心感が増していく気がした。

 できればこの気持ち、もっと味わっていたい。

「やっと笑ってくれたな」

「ふぇ?」

 耳に伝う勇夜の声と籠められた意味に、虚を突かれた。

 私…笑ってたの? そんな自覚、無かったけど。

「笑ってた方がずっと可愛いぜ、フェイト」

「………」

〝カワイイ〟

 その一言を彼から言われた途端、やっと定温に落ち着いていた体がまた熱を生み出してくる。

 勇夜に見られたくなくて、私はそっぽを向いた。

 感じる熱さから、さっきよりも顔が真っ赤になっているかもしれない……沸き上がるこそばゆさをよそに、彼の『カワイイ』って声が、何度も連続で脳内に再生されていた。

 分かってる。勇夜のさっきの言葉は、お世辞でもからかいでも皮肉でも口説きでも無くて、自分を見て、さらっと浮かんだ印象を口にしただけなんだ。

でも、当分赤くなった頬は収まりそうに無かった。

 

 

 

 

 

 そっぽを向くフェイトを見て、安心した。

 実のとこ、笑顔を見せてくれた彼女へバカ正直に〝カワイイ〟って口にしてしまったのが恥ずかしい。

 体に出さぬまいと自制はしているつもりだけど、さっきより顔が熱い……鏡見ずとも、赤くなっているのが手に取るように分かった。

 フェイトに見られなかっただけでも幸い。

 そりゃ、微笑むフェイトはとても可愛かった

 この子の人の良さってものが滲み出た……眩しい笑顔だった。

 会ってからずっと、この瞬間まで、自分の目が見るフェイトは、平静そうで、でも〝寂しさと悲しみ〟に溢れた目をした彼女しか拝めなかったから、初めて目に映ったのが、嬉しかったのかもしれない。

 だけど……だからって「笑ってた方がかわいい」とか、何口説いているのだろう、全くはしたない。

 なのに、さっきから頭に記録されたフェイトの微笑が、何度も再生される。

 胸の奥も、急な運動してるわけでもないのに、なんか鼓動の回数が多くなってきた。

 照れ臭くなることは、何度もあった………でも、今の感覚は、経験したことがない。

 一体……どうしちまったんだ?

 体が引き起こす原因不明の現象に戸惑いったところへ、ぐぅ~~と鈍い音が、それはそれは……よく空気を響かせて耳に入ってくる。

 音の出所は隣、そしてフェイトの顔は茹でダコみたいに真っ赤で、口があわあわと半開き、どう見ても音の正体はフェイトの腹の虫の鳴き声だ。

 女の子には恥ずかし過ぎる失態に呆れる……どうもフェイトは一度何かの作業を始めると、そっちにばかりのめり込む悪癖があるらしい。

 

「その様子じゃ、また飲まず食わずで廻ってただろ?」

「ご……ごめん」

 

 彼女の腹の悲鳴が鎮静剤となったのか、体の異変は収まっていた。

 さて、頭も冴えたところでフェイトの腹の虫を納まらせるような丁度いい店がどこかにないかと、飲食店を目当てに歩きながら見回していると、とある喫茶店が目に入った。

〝喫茶翠屋〟

 見覚えがある店名だなと思っていたら、たまたま見たテレビのローカル番組で紹介されていた喫茶店だった。

 なんでも、女学生や主婦に人気の店らしい。

 甘い物が嫌いな女の子なんて、そうそういないだろうし、ここでお昼にするとしますか。

 

 

 

 

 勇夜に誘われるがまま、『翠屋』と書かれているらしい看板が掲げられたお店に私は入った。

 空いていた窓際の席に勇夜と向かい合わせになる形で座る。

 メニューを見たけど、写真はともかく、文字となると厳しい。

 バルディッシュには言語翻訳機能が着いているので、会話は問題ないけど、文字となるとそうともいかなかった。

 なので日本語もミッド語も堪能な勇夜にフォローしてもらいつつ、わたしはイチゴパフェを選んだ。

 ちなみに、勇夜が頼んだのはブラックコーヒーと、〝抹茶羊羹〟という食べ物のだった。

 羊羹というのは、小豆って豆と寒天で作る、この日本って国の固有のお菓子であり、抹茶もまた日本製のお茶らしい。

 

「紅茶とどう違うの?」

「原料は同じ茶葉だぜ、加工の仕方が違うだけでな」

「そうなんだ」

 

 異世界の国の知識を勇夜から聞いている最中、パフェより先に立方体状の形をした羊羹の実物が来た。

 初めて見る感じではねっとりして、てかてかしているけど、どんな味なのかさっぱり分からない。

 美味しそうに口に運ぶ勇夜を見て、分けてほしいと頼もうかなと思ったけど、声にするまで勇気が出てこなかった。

 もう少しすると、注文したイチゴパフェがテーブルに添えられた。

 口にしてみる。

 美味しい、特に女性に人気があるって評判も納得させられる美味だ。

「アルフも誘えばよかった」

「あいつの分も買ってやるよ、俺の驕りで」

「ふぇ? い、いいよ……流石にそこまで甘えられないから」

「遠慮すんなよ、そもそも今いくら持ってんだ? 確か金銭管理の担当はアルフな筈だろ」

「あ…」

 まだ小さい自分では色々と不都合なので、見た目なら大人の女性に近いアルフが、金銭を含めたやり繰りを行っていた。

 なので、私の懐には硬貨数枚くらいしか備えていない。

 勇夜に世話を掛けてばかりな現況を気にした結果、見事に地雷を踏んだ私は、自身の醜態を前に縮こまってしまう。

 このままでは、気恥ずかさで押しつぶされそうだ。

 何か、他の話題に変えよう。

 えーと、そうだ。

「アルフから聞いたんだけど、勇夜のデバイスって刀って言う日本の剣をモデルにしてるんだよね?」

「ああ、師匠のレオから刀を使った剣術も指南されたからな、他にも形態はあんだけど」

 無理やりな軌道修正ではあったが、勇夜は急な話しの鞍替えを特に気にせず受け答えた。

 話題は、デバイスから勇夜の師へと変化し、彼によればその師であるウルトラマンレオって人は格闘などの接近戦では右に出る者はいないらしい。

 その修行もかなりスパルタな厳しいものだったらしく、挫けそうになった時にはむしろ。

『その顔はなんだ!? その眼は何だ!?』

 逆に厳しく叱咤されたらしくて…勇夜のとんでもない強さの源を垣間見たような気がした。

 説明を挟むけど、私たちは今ミットチルダ語で会話している。

 発音と文法は、この星の国際語になっている〝英語〟と同じらしくて、私はその言葉が母国語な〝外国人〟に近い容姿なこともあり、周りから怪しまれはしなかった。

 一応英語に理解ある日本人がいるかもしれないので、発する単語を周囲に認識されにくい効果のある結界も貼ってある。

 

「それと…前々から気になってたんだけど………どうして、嘱託魔導師のままなの?」

 

 どうしても気になっていたのだ。

 管理局を〝いけ好かない〟……理由。

 口調から見て、根っから毛嫌いしているわけじゃなさそう。

 認めてはいるけど、何かの一点では相容れないような、そんな感じ。

 

「………」

 

 質問を受けた勇夜の顔付きが変わる。

 具体的には、少し棘があるけど気さくな雰囲気が鳴りを潜めて、神妙な感じへと変わった。

 

「怖いからだよ」

 

 ギリギリ聞きとれるささやかな声で、勇夜はそう答えた。

 

「何……が?」

「〝力〟そのものと、そいつを持ってる自分がな」

 

 私からは意外な答えだった。

 あれ程の戦闘能力と、〝怪獣〟もロストロギアにも勇敢に立ち向かうこの人には、〝怖い〟って気持ちは無縁だと思っていたから。

 

 

「……………フェイトは、魔法のことをどう思ってる?」

「質量兵器よりは安全で……クリーンな力って……本にはそう書いてあったけど」

 フェイトは文献から受け売りで応じた。

 彼女が口にした『質量兵器』とは、管理世界における魔法を伴わない火器類の総称を指している。

「そう言えなくもねえけどな、俺に言わせりゃ魔法ってのは、おもちゃの弾と本物の弾を本人の意思でいつでも切り替えられる銃みたいなもんだ、局の謳ってる通り〝スイッチ一つで大勢を殺せる〟のが〝質量兵器〟なら、使い方によって使い手たる人間を〝大量破壊兵器〟にしちまうのが〝魔法〟ってのが俺の考え……」

 言われてみると、確かにそうだった。

 物理的な衝撃を抑える非殺傷効果で忘れがちだけれども、確かに魔法は個人差はあれどど、人、それも大勢を殺せるだけの殺傷力と破壊力を持っている。

 自分の〝魔法の先生〟も、AAAクラスの魔力保持者な魔導師は、本気を出せば街一つを廃墟できると言っていた。

 

「これは魔法に限ったことじゃないんけど、完璧に安全が保障された〝力゛………つーか、エネルギーとか道具なんて無いんだよ………そいつらは俺たちの使い方次第で、力は人を救えることも、逆に傷つけ……奪うこともできちまう、まあそんな持論が局とかみ合わないことと、後は俺の反骨心ってやつ」

 驚いた……そういう考え方もあったんだと、思わず頷かされる。

 結局、どんな〝道具〟とか〝力〟も、人間の意志というスイッチが入らないと使えなくて、そのスイッチによって化けるものだと勇夜は言いたいのだ。

 

「つまりだな……何事も行き過ぎは禁物ってことさ」

 

 何事も限度がある……と彼はこうも言った。

 例えば食物、生きる上では必要だけど、摂り過ぎれば体調を崩すし、空気中の酸素だって、濃度が高いと生き物を死に至らせる毒物にもなる。

 魔法の原料である魔力だってそうだ。

 過剰な量の魔力素は、呼吸困難を引き起こしてしまう。

 昔、私はそれで何十年も『植物人間』になってしまったことがあった。

 それらを踏まえると〝魔法〟だってとても危ないところはあるのに、管理局は〝魔法〟にばっかり固執しすぎな組織かもしれない。

 便利な機能は多いけど、人によっては一切使えなくて、使い手が限られた力だから、局は万年人手不足で悩みであった。

 おまけに勇夜の〝ウルトラマン〟としてのあの驚異的なパワーと、リンクから聞いた、力を求める気持ちが行き過ぎるあまり『太陽を盗もうとして故郷を一度追放された』という彼の過去と、自分の経験から見ても、彼の持論はとても納得できた。

 何事も、使い方を間違えれば……行き過ぎれば毒となる。

 魔法の源な《魔力》も、ウルトラマンのが使う力――《ディファレーターエネルギー》も、平等に持つ危険性。

 だから勇夜は、身寄りになってくれた人が局員なのに、その人たちが勤める管理局を『いけ好かん』と言って、距離をとっていたんだ。

 じゃあ……もしも彼が局に入って、実力を認められて高官になったら―――――

「ふふっ…」

「おいフェイト、何がおかしい?」

 想像してみたら、思わずお腹から笑みが登ってきて口から零れた。

 諸星勇夜とウルトラマンゼロ、両方高官の制服を着た姿をイメージしたところ、浮かんだ彼への印象は―――

「ごめん、勇夜に偉いお方は似合わないなって」

 ―――一言にすればこうなった。

 堅苦しい将校よりも、むしろ性格的に気ままにフリーランサーを続けている方がしっくり来る。

「そんなの…こっちから願い下げだ」

「それもその『反骨心ってやつ』から?」

「う…うるせぇ…」

 彼は強がって見せたが、まさかのカウンターをくらったことあって、かなりショックだったようだ。

 拗ね気味にコーヒーを口にする彼に、自分はガッツしたくなって、自覚できるほど顔は喜んでた。

 やった。やっと勇夜から一本取れたって。

 勇夜の言う通りだ。こう、心から笑うなんて本当久しぶり。

 できれば…母さんともこんな感じに…笑いあえたら……母のことを浮かべたことで、私は思い出す。

 あ……そうだった。

 私は約束として、この人を母さんに―――

「あの…勇夜…」

「何だ改まって」

「明日、母さんのところへ行きます、約束通りあなたにも会わせますから」

「そうか…」

 さすがに母さんのことになると、自分も彼も、顔から笑顔が消えた。

〝何も分からないまま戦うのは嫌なの!〟

 すると突然、昨夜のあの白い子からの言葉を思い出した。

 あの時は、耳を傾けている場合じゃなかったから、ジュエルシードの確保を優先させたけど……今思い出すと、疑念が頭にこびり付いてくる。

 なぜ母さんは、あんなものを必要としているの―――と。

 今目の前にいるこの人を、悪ぶってるだけで、そう振る舞ってるだけで、こんなに優しい人を……傷つけさせたのに。

 たった一個だけでも、あれほどに凶悪なら、もしいくつも束になって同時に暴走を起こしたら。

 今になって実感させられる。あの宝石の、綺麗な見た目の裏に隠れた凶暴さを、自分にはあれをどうやったら有効に、かつ無害に使えるのか、想像つかない。

 なら、母はあれをどうしようと言うの?

 もし、母さんの…あのジュエルシードを使う〝目的〟勇夜にとって許せないものだったら………それこそ昨日みたいな次元振を起こして、世界を道連れにするようなことを、行なおうとしているとしたら。

 そして勇夜がそれを許し難いことと断じて、母さんと戦うようなことになったら。

 不安が、心の中を侵食して行く。

 違う!

 不快な思考を、必死に振り払った。

 だが否定すればするほど、最悪のビジョンはより具体的な映像となって彼女の脳内にこびり付いて来た。

 殺意を剥き出しにして、戦う二人の姿。

 違う違う違う違う違う違う違う違う!

 母さんはそんな人じゃない……そんな恐ろしいことする人じゃない。

 バカバカバカバカバカバカ!

 

 あたしの大馬鹿!

 

 母さんは悪くない! そんな悪者なんかじゃないんだ!

 そんなことを考える私の方が悪者なんだ。

 今だって、研究に忙しいから、あたしと会わないだけで、あれを集めて持って行けば昔みたいに…あの頃みたいに……笑って…くれる。

 

「フェイト?」

「っ……………」

 

 勇夜の声のお陰で、なんとか思考の迷宮に彷徨う前に抜け出てこられた。

 

「なんか、顔色悪いぞ」

「だ、大丈夫……」

 

 精神を収めようと、深呼吸を繰り返しながら己に言い聞かせる。

 大丈夫、勇夜と母さんが戦いになるようなことなんて……無い。

 絶対無いから、大丈夫だから、落ちついて、私。

 

「もう行くか」

「う…うん」

 

 絡みついてくる嫌な考えを振り払いつつ、私は勇夜とこの店をあとにした。

 せっかく勇夜が奢ってくれたパフェだって、あんなに美味しかったのに、心配させちゃったよね。

 でも大丈夫。きっと大丈夫だから。

 勇夜に心配させる……ましてや怒らせるなんてことは、絶対起きない。

 そう自分に言い聞かせてはいたが、一度芽生えた不安はフェイトの心に寄生したまま、離れようとはしなかった。

 

 

 

 

 

 夕方。

 学校の授業があらかた終わり、学生は部活に従事するか、ちょっと寄り道しつつも家へ帰る時間だ。

 で、高町光はと言うと。

「待てよ高町!」

 駐輪場に置いた自転車に乗って、今にも下校しようとしたその時。

 またスカウトか……いつものことだけど、心情の内部で溜め息が流れた。

 光に剣道着を着た学生が、呼び掛けてきたからだ。

 彼が通う学校の剣道部の主将、部長である。

 用件は、いつものことだ。

 部の助っ人になってほしいという、同級生からの懇願。

「もう帰るのか?」

「ええ…先約がありまして」

 これから、臨海公園で諸星勇夜ことウルトラマンゼロと情報交換の為に会う約束があるのだ。

 実は彼は訳あって、この三年間一貫して帰宅部だった。

 このところ、それが功を奏したのは言うまでもない。

「武闘派一家の一人のお前が入れば百人力何だがな」

「一人で戦局を覆せるほど、世の中甘く無いですよ」

「甘く無いね…ところで今日は『何枚』もらったんだ?」

「すみません…急いでいるので」

 慌てて自転車を走らせて、なんとか振り切った。 

 本当に王制国家の騎士であった光=ミラーナイトは、その気品ある佇まいと穏やかな物腰と文武両道さで、本人にその気は無くても校内では一目置かれていた。

 例えば、今みたいに部活のスカウトを受けたり。

 さらには―――彼は一度自転車を止め、バックから、封筒を何枚か出した。

 他の例の場合、女子生徒から、昔風に言うと『恋文』が何枚も下駄箱や机の中に置かれたりしている。

 中にはメアドと番号まで入っている始末だ。

 彼の性格上、彼女たちの行為を無下にもできず、こうして目的地に行く間も彼女たちにどう断りの返事を入れるか考えていた。

 海鳴臨海公園に着いた時には、勇夜は既にそこにいた。

「怪我の方は?」

「この通りだよ」

 右手をこちらに見せてきた。

 どうやら既に完治済みのようだ。

 次に彼は左手で何かを投げてきた。

 受け取ると、それは無糖の缶コーヒーだった。

「ブラックで良かったか?」

「問題無いです」

 

 船の汽笛と、カモメの鳴き声が響き、空と海原は暁に染まっている。

「明日、フェイトのお袋さんに会って来る」

「大丈夫なのですか? 相手は名の知れた魔導師なんでしょ」

「魔導師なら、な、だが腕っ節自体なら、話は別だろ?」

 それもそうだ。

 少なくとも戦士としてのキャリアなら、自分たちの方が上。

 過信では無く、客観的に思考した上での判断だ。

「あと、義妹さんのことなんだけどさ」

「なのはが何か?」

「いや…なんであんなにフェイトに話し合いを求めてたのか、気になってさ」

 なるほど、そう言うことでしたか…まあゼロが気になるのも無理はないです。

「ゼロは彼女に初めて会った時、どんな印象を持ちましたか?」

「…………なんか………寂しい目をした女の子だなって…」

「そう感じたそうなんです、なのはも」

〝どうしても…知りたいの…あんなに寂しい気持ちを押し込めてジュエルシードを探してるのか〟

 

 なのはは、〝昔の自分〟とどこか重なってしまう彼女に対して、どうしようなく気になって仕方がないのだ。

「悪いな……口止めさせて」

 ゼロが詫びを入れた。

 集めているフェイトたちに関する情報が確証を得られるまでは、なのはたちには口止めしておくようにと、勇夜は光に頼んでいたからだ。

「謝ること無いですよ、なのはは昔から人の痛みに敏感な子でしたから、知っても知らなくても、同じだったはずですから」

 自分の心の痛みよりも、相手を案じることを優先させる。

 だから、何もできないことに何度も心を痛めていた。

 だから、ずっと探していた。

 自分にしかできない何かを。

 自分はそんななのはの在り方を尊いと思う一方で、危ういとも感じていた。

「だから…わたしはなのはを」

「守りたいって思ったてか?」

「はい」

「親父みてえだな」

「そうですね」

 彼の父、ウルトラセブンもそんな、相手を重んじ、案じ、思いやる人の一面を知り、当時は戦闘員でない身でありながら地球を守ろうとした。

 いや、セブンだけじゃない……それはウルトラマン全員に言えるかもしれません。

 フェイトの関する話を切り上げて、話題は移る。

「あのコッヴとパズスについては何か」

「誰かが無理やり連れてきた、ぐらいしか…まだ分かんねえよ」

「それもそうですね」

 昨夜現れた、こちらの地球がある世界には存在しないはずの怪獣、それがどうして、結界の張られた街の真ん中に出てきたのか、現状ではまたあんなことが起こる可能性が皆無では無いとしか分からなかった。

 この件は保留にして、また次だ。

「例のデータ持ってきたか?」

「はい」

 光はバックからUSBメモリを取り出し、彼に手渡した。

「なるべく早く持ってくるからな、お前のデバイス」

「かたじけないです」

 やはり自分としては『ミラーナイト』としての力は切り札としてとっておきたい。

 それには、戦略の幅を広げるためにも、魔法を使用するための『杖』がどうしても必要だった。

 幸い、勇夜に行きつけにしているその手の業者がいるそうなので、今渡したパソコンソフトで設計したデバイスのデータを元に作ってもらうことにした。

 無論、ユーノがなのはにレイジングハートの管理者権限を譲渡したように、その時空管理局と言う組織にとっては眉をひそめる行為なんだろうけど。

「その時空管理局が介入してくる……ということは?」

「次元振も起きちまったからな、流石に重い腰を上げるだろうさ」

 事態の収拾のためなのだろうが、またややこしいことになりそうだ。

 彼の話からすると決して一枚岩では無いし、内外に色々問題も抱え、勇夜も根っこから嫌っているわけではないけど距離をとっているようだし、。

 自分も、そのややこしくさせる一因ではあるけど。

 もし彼らと接触した折には、ここまでの経緯、場合によっては自分たちのことも話さなければならないと、覚悟しておくことにした。

 そうでもしなければ、得られない信頼もある。

 

「そういやな、今日お前んとこの店に行ったんだけど、お前の親父さんって武術でも嗜んでるのか?」

 身が固まる感じがした。

 彼が翠屋に来たことも驚いたが、特に父の関する事に対してだ。

「どうしてそんなことを聞くんですか?」

 彼が『武道』では無く、あえて『武術』という表現を使ったことに驚きを隠せなかった。

「いや…それがな…」

 数時間前の翠屋に時間は遡る。

 

 

 

 

 

「君?」

「はい、なんでしょうか?」

 会計を済ませようとした時、この店のオーナーらしき中年よりは若い男性からじろじろ見られた。

 そういや…俺もこの人をどこかで見た気がする。どこだったか。

「この間の試合の時にいたでしょ? 君」

 あ、思い出した。

 あいつの義妹のなのはと、ユーノに初めて会った日。

 ボート場に向かう途中、河川敷を歩いていた時にサッカーの試合がやっていて、その時の片方のチームの監督さん。

「すいません、あの時はおたくのチームに一点入れてしまって…」

 試合終了の時に、たまたま俺のところにボールが飛んできて、条件反射的にこの人のチームのネットに放り込んだんだよな。

 反射的とは言え、目立たぬよう努めていた身としては失態も良いとこだ。

「いいよ、君のシュートを見た後、部員たちの士気がさらに高まったからね」

 そうなんだ……ならいいけど、でも感化されたお子さんたちがあのシュートができるまで上達できるかは、保障できなかった。

「私は高町士郎、君の名前は」

 彼は自己紹介しつつ、握手を求めてきた。

 高町?ひょっとしてミラーナイトを養子にした一家ってこの人たちなのか?

 そういや、喫茶店を経営してるとは聞いてたけど。

「諸星勇夜です」

 そんなことを考えつつ、こっちも応対して、握手を交わした瞬間。

 彼の手に違和感を感じ取る。

 手に付いた、竹刀ダコとも呼称される独特のタコ豆と、岩のようなごつさ。

 自分も武術に嗜んでいるから分かる。

 この男、相当な手だれだ。

 修羅場も経験してる……いわゆる殺し合いってやつの〝実戦〟を。

 けど、なんで一介の喫茶店のオーナーが………戦争と見なされるような闘争なんて、もう何十年も起こってない国だぞ。

「その連れの子は?」

 士郎の隠された爪の存在に戸惑っていると、本人からフェイトのことを聞いてきた。

 明らかに日本人な風貌の勇夜と、金髪赤眼の白人風なフェイト、かなり目立つ組み合わせだった。

「(勇夜…どうしよう)」

 フェイトは念話で不安を口にした。

「(そのままダンマリしてろ)」

「観光に来たらしいんですけど、親御さんと離れちゃったらしくて、一緒に捜し回ってたんです」

 なんとかその場をまとめて、二人は翠屋をあとにした。

 

 

 

 

「見かけは温厚そうな親父さんだったけど、あれは殺し合いの経験がある手つきだった、義妹さんといい、あの一家はどうなってるんだ?」

 ゼロの懸念は最もだ。

 この世界の日本は、かれこれ50年以上、内外問わず戦争をしていない。

 自衛と称して存在する自衛隊も志願制なので、戦闘訓練さえ受けたことが無い人がこの国では多数だ。

 そんな国で、死線を潜り抜けていると匂わせる人物は、同様に経験している者から見ればどうしても目立つし、感じとりやすい。

 ここまで感ずかれては、仕方ない。

 一応秘匿するよう言われているのだが、勇夜なら口外はしないだろう。

「御神真刀流…」

「ん?」

「高町、正確には父士郎氏の旧姓、不破家に伝わる古流武術です、その不波一族は、昔から要人警護の仕事を生業としていまして」

「なるほど、昔ながらのSPってやつか、道理で」

「その義父さんは、現在引退して一介のマスターですがね、これ以上のことは秘匿を義務付けられているので、申し訳ないですが」

「いいさ、俺たちだって似たようなもんだからな……しかしさしずめ戦闘一家だな、お前んとこの家族」

 戦闘一家か……間違っていないのがなんとも。

 父も兄も姉も勿論、なのはさえ魔力の資質保持者で魔導師となったので、純然たる非戦闘員な一般市民に該当するのは、高町家では母桃子しかいない。

「そう言う勇夜も、剣術の心得はあるようですが?」

「あれは修行やってた頃にレオ師匠から、宇宙拳法と一緒に教え込まれただけだぜ、一応師匠は地球の古流剣術を学んでたらしいけど」

「どんな流派ですか?」

「色々だよ、内一つが、香取神道流……だったか…」

 なんですって…まさか。

「あの香取ですか!?」

「ああ…室町辺りから、発祥した総合武術だって…」

 正式名称、天真正伝香取神道流。

 飯篠家直という侍が開いた、特に歴史が長い剣術の流派であった。

 どうも師のレオが、地球各地を旅していたころに、武者修行の一環で門下に入ったことがあるらしい。

 他にもレオは、あらゆる古武術の指南を受けていたとのこと。

「まさか、神道流の剣士と会えるとは…」

「とはいってもあくまで師匠が習ってただけで、正式なその流派の剣士ってわけじゃねえしな……………あ、やべ、そろそろ買い出しにいかねえと…」

 買い出し。確かゼロは、毎日彼女たちの為に材料を買い、食事を作って、一緒に同じ屋根の下で食べているという。

 実の親よりも、親らしい役目を果たしているのがなんとも皮肉。

「ゼロ、明日は気をつけて下さい、どうも何か…」

「ああ…肝に銘じておくよ」

 ゼロがやられる何て事態は起きないだろう。

 問題は彼の心にある。

 幼少の彼はいわゆる孤児の身の上で、父親が今も存命で、その父がセブンであること知ってから……ウルトラ一族としての時間ではそんなに経っていない。

 家族がすぐ近くにいない痛みを知っているゼロにとって、もしフェイトの母の娘に対する接し方、もっと直接的に言うなら〝一方的な暴力〟が真実で、それを思い知らされたら………そんな不安を胸に秘めつつ、光は勇夜を見送った。

 

 

 

 

 

「光さん」

 勇夜の後ろ姿が見えなくなると同時に自分を呼ぶ声が、この声の主は。

「ユーノですか?」

 地面を見渡すとフェレット形態のユーノがいた。

「すみません…見回ってた時にたまたま」

「いいえ、僕と彼がこうして会っていることは知っているでしょ」

 ユーノには勇夜がフェイトとは停戦協定的なものを結び、事件解決の情報収集の為に動き、信頼している自分に提供していることを知らせていた。

 勇夜本人はフェイトたちの行為そのものは許してはいないが、裏にある事情に対し、放っておけないが為に今の立ち位置にいることも含めてだ。

「それもあるんですけど…」

「デバイスのことですか?」

「はい…」

 やはり、こうして協力させてもらっている今でも、巻き込んでしまったことに負い目を感じているんでしょう。

「僕も、中途半端に後悔をしたくないから、最善を尽くしているんです、これでなのはとユーノの負担も減るなら、それで良いじゃないですか」

「本当に、ありがとうございます」

「ただ…お互い管理局様への言い分は、今の内に考えておいた方が良いですね」

「そ…そうですね…」

 ユーノは苦笑いで返した。

 管轄外な世界である事情もあったとは言え、すぐにでも管理局が捜査に乗り出してくれれば、彼だって責任を感じ過ぎて独断に走ることもなかったかもしれないのに。 

 そこを上手く相手方に突いて、チャラにはできないものか。

普段から言動も物腰も丁寧に心掛けている自分にしては珍しく、チャらい言語で思考していた。

 

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