ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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EP19 – もう一つの家族

 マルチバース。

 地球人が到達するには、まだまだ遠い先の未来になるであろう宇宙の外。

 光の国でさえ、現状星の住人達全員のエネルギーを総動員しても一人しか送り込めない超空間。

 無数の宇宙が点在するその海の中を、一つの光が泳いでいる。

 その光とは、ウルトラマンゼロだ。

 彼は今、惑星ミットチルダのある第一管理世界へと向かっていた。

 堂々と星中を飛び回れた光の国と違い、管理世界では局員だろうが非常時以外の飛行は禁じられている。

 それが法で定められたルールであることは承知しているが、それでも性分なのか、時々無性に飛ぶことに恋焦がれることがある。

 だからどの次元世界に行くにしても、ばれない様細心の注意を払いつつ、こうしてゼロになってマルチバースの海を飛び回っていた。

 『諸星勇夜』としての生活に不満は無いが、大っぴらにウルトラマンの姿に戻れないこの現状では、唯一ゼロとしてのびのびと飛べる貴重な時間だった。

 同じようにその空間を飛んでいる次元航行艦に出くわしたら、どうするかって?

 実はゼロはマルチバースを飛んでいる間、特殊な魔力フィールドを体に纏っている。

 それを纏う間、誰であろうがゼロが視線に入っても、道端の石ころの如く見向きもされなくなる効果がある認識阻害の術だ。

 幸い、ディファレーターエネルギーと相殺するほど消費は高くなくウルトラマンの姿でも使える安上がりな魔法なので、一役買っていた。

 光の国でも一人送るだけで手一杯なところをゼロはどうやって移動しているって?

 それは、リンクこと《ウルティメイトイージス》、またの名を《バラージの盾》のおかげ。

 これによりゼロは、単体で次元を自在に移動できる能力を有したとあるウルトラマンとほぼ同等の次元航行能力を得ている。

 だからこうして、人一倍注意力が必要になることを大目に見れば、自由に、快適に本来の姿で宇宙を遊覧飛行ができた。

 

 

 

 

 

 

 

 ゼロ=諸星勇夜がミットチルダに向かうことになったのは、先日の…よもやプレシア・テスタロッサと殺し合いに発展した、その日の夜のことだ。

 

 傘を持ってなかったとは言え、彼は雨の大群を前に、走ることも無く淡々と夜の道を進んでいた。

 当然体はずぶ濡れ、服も髪も雨水を吸収するだけ吸い取り勇夜の体に張り付き、湿り気を帯びた布は嫌な感触を与えてくるが、そんなことを気にする余裕は彼には無い。

 その足で仮住まいの集合住宅に戻り、服を洗濯、風呂に入った。

 風呂上がりの彼は今、髪を下ろし、黒のランニングシャツにゼロの体色を思わせる青いラインの入った赤のジャージを履いている。

 体格は太すぎず、かと言って痩せすぎもせず、無駄をそぎ落としつつも、バランス良く鍛え上げられ、濡れた長髪もこの上なく似合い、顔つきも中性的なので、長髪と違和感無く調和がとれていた。

 水もしたたる良い男を、地で行く容姿。

 ちなみに。どうして髪を伸ばして、ポニーテールにしているのかと聞かれれば彼はこう答えるだろ―――『父に一番近い髪型だから』と。

 ゼロと父のセブンをよく知る者なら、この一言だけで納得してしまう筈だ。

 

 

 勇夜は冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、飲みながらリモコンでテレビを点けた。

 だが、たまたま点けたチャンネルの番組の内容を見て反射的に消してしまった。

 夜のニュース番組で、偶然児童虐待を特集していたのである。

 ニュースの内容そのものに罪は無い。

 それでも、余計に気分が沈んできた。

 その日、実際にこの目で親が子に振るう理不尽な虐待を目にしたからだ。

 脳内から分泌される不快なもやもやに対し、勇夜は半ばやけになって勢いよく仰向けにベットへと倒れ込み……あの時の自分を反芻し始めた。

 許せなかった。

 あの時、勇夜は、プレシアに明確な殺意を抱いた。

 本気で彼女を殺す、その寸前までいっちまった。

 本人に母だと騙っておいて、娘と認めない娘を痛みつけ、縛り付け続け、ただ一人の女の子の蘇生を実行するだけの機械、プログラムになり下がった魔導師。

 ジュエルシードを使い、近隣の次元世界、それこそ地球を巻き添えで踏み潰してまでも、次元振を起こして、無理やりあるのかすらも分からない所へ行こうとする外道だと見なし、危うく、また『あの時』みたいに自分を踏み外しそうになった。

 こんな奴は人間じゃない、人としての一線を踏み越えた人で無しなのだから、殺しても殺人にはならない。

 一方的に被られる恐怖と痛みと絶望を与えてやる。

 フェイトが今までこいつから受けてきたものを倍返しにして、後悔させてやる…俺とやり合おうとしたことも、フェイトの気持ちを散々踏みにじってきたこと諸々含めて、まとめて痛めつけてやる。

 あの瞬間、確かに沸いた感情(きもち)だ……我ながら末恐ろしい。

 基本お人よしで善良なウルトラ一族でも、どす黒い感情に支配されてしまうことがある。

 現に勇夜――ゼロはあの時そうなりかけた。

 ゼロになって跡形も無く消し去ってやろうとさえ……頭をよぎり、現にウルトラマンの姿で自分の力を人間であるプレシア相手に使ってしまった。

 そんな勇夜を、ギリギリのところで引きとめたのは。

 

『優しい女の子をどん底に落とすのがウルトラ戦士なのですか?』

 

 念話で自分に語りかけてきた相棒の静かながらも、厳しい一言だった。

 それで、なんとか一線を超えずに踏みとどまれた。

 でも………一度ささくれてしまった心を落ち着かせるには時の庭園から出るしかなく、あの4個を分捕る余裕さえ無かった。

 当初はなんとか、あいつにフェイトを使って収集させるのをやめさせて、回収した分を発見者のユーノ・スクライアに渡しそうとしたのだが。

 あの親子が抱える問題はとんでも無く深刻………他人の俺がどうにかできる話じゃないのかもしれない。

 本当なら、私情なんて捨てて、力づくでも二人を止めてやる方が賢明なのか?

 そのチャンスはいくらでもあった。

 さっきにしろ、フェイトたちと初めて会った時さえだ。

 けどできない。理屈では分かっても……心がそれではダメだと叫ぶ。

 その方法じゃ、次元振の危機は回避できても…あの子を救えない、助けられないと訴えてくる。

 でも……それならどうしたら、あの子を救えるんだ?

 寂しく悲しい目をして、心を雁字搦めにして凝り固まったあの子を、どう助け出せば良いんだ?

 ようやく、昼からくすぶってた激情のせいで淀んでいた思考がクリアになってきた。

 けど、『最善の手』って奴を考えれば考えるほど、選択肢が脳裏をかすめては、あれは駄目、これも駄目とどんどん消えていく。

 たとえそれが仮初のものでも、向かう先が絶望に繋がる谷底でも、フェイトにとっては淡くて………微かな希望(ひかり)…フェイトを止めることは、希望の守り手――ウルトラマンである俺が、あの子の希望(ひかり)を………あのとき見せてくれた笑顔だって……最悪……奪うことになる。

 だがどうにか瀬戸際で止めてあげなければ、フェイトは〝独り〟のまま、背負わされた十字架と、嵌められた足枷を引きづりながらの人生を送らせることになっちまう。

 

『申し訳ありません……マスター』

「なんで謝るんだよ、それを言うのは俺の方だ…」

『私も色々と思案しましたが、とても薦められないものばかりなので』

 

 ああ……そっちの方か……てっきり、憎悪に身をまかせそうになった大馬鹿野郎な自分を予め止められなかったことでの謝罪なのかと思った。

 あの時の自分を悔んで、恥じていることを悟ってくれたのか、あの後リンクは何も追及しなかった。

 それに文句は無い。

 でも、今度もし〝あいつ〟に会う機会があるなら……謝っとかねえとな。

 せっかく俺を信じて、リンクを授けてくれたんだ……あの程度で乱しちまうなんて、情けないな。

 

「『ウルトラマンは神では無い』………か……」

 

 天井に向け、腕を真っ直ぐ伸ばし、広げた掌を見つめながら、そう呟く。

 これは先輩であるウルトラマンメビウスに、初めて地球に来たウルトラ戦士――ハヤタことウルトラマンが彼に言った言葉。

 ハヤタの言う通りだ。

 かつては盲目的に欲しくてたまらなかった……一度は失いながらも、少しずつ取り戻していった………こんなに破壊的で、〝神の力〟とも言われそうな力を持っていても、精神(こころ)が壊れかかった女の子一人助けられりゃしない。

 フェイトだけじゃない。

 ベリアルも……『母さん』の同じ部隊の仲間だった大切な人たちも……どうすることもできなかった。

 一人では限界があることは分かっているけど、なまじ力があるせいで、無力感もより鋭い槍になって心に突き刺さってくる。

 彼にしては珍しく、思考がマイナスの方向に行っていた。

 どうしたらいい?

 何か……何か……あの子の心を研ぎほぐせるものがないか?

 何かあるはずなんだ……何か………ふと、声が脳内に再生された。

 

〝何も分からないまま、戦うのは嫌なの!〟

 

 あの光…ミラーナイトの義妹、高町なのは。

 あの子が、フェイトに呼び掛けた時、僅か、ほんの僅かだがあの子の心が解きほぐれたような気がした。

 あの時は怪獣と交戦していたが、ゼロの時は五感が遥かに高くなるので、その時二人が交わした会話もしっかり耳に入っていたのだ。

 フェイトと同年代の、小学生兼魔導師の女の子 。

 考えてみれば、フェイトは対等に付き合える同い年の友がいない。

 その同年代の友人ができない、そもそも外界と関わることもできない身の上だった。

 なし崩しとは言え、同い年で一番フェイトに関わりを持つのはなのはだけ。

 なら…あの子に賭けてみるのも悪くないかもしれない。

 でも……それにはなのはに…………強いることになる。

 いいのか?

 今自分の胸の中で淀んでいるジレンマを……フェイトがしょっている十字架(しんじつ)を……少し前まで、普通の小学生だったあの子に……抱えさせていいのか?

 

 リヒトだって……ユーノだって……なのはを戦わせなきゃいけない現実に無力さを突きつけられて苦しんでるはずなのに……どっちにしても、それは自分のエゴだ………自分はそれを……あの小さな女の子たちに押しつけることになる。

 ちきしょう………歯を食いしばる力が強まった。地球と地球を含めたこの世界が、滅ぶか滅ばないかの瀬戸際に立っているというのに………どうすれば。

 

 ♪~~~~~~~~♪。

 

 突然、机の上で充電させていた携帯電話のメールの着信音が響いてきた。

 勇夜はベッドから机に向かい、電話を手にとる。

 誰からの電話かと、発信先を確認してみたら。

 

「おやっさん?」

 

 勇夜にとって、こちらの世界に来てからの馴染み深い人からだった。

 

 

 

 

 

 

 そして現在、マルチバースを飛ぶゼロに戻る。

 良いニュースだって言っていたけど、なんなんだ?

 その相手からの電話内容に疑問を持ちつつも、丁度ミットチルダに用があったのでそれも兼ねて、こうして行くことにしたのである。

 見えた。ゼロの眼前に佇む泡粒。

 あれが、惑星ミットチルダがある、第一管理世界と呼ばれる宇宙。

 ゼロはスピードをさらに速め、並の生物なら跡形も残らないほどの高熱の水素ガスで覆われた宇宙の表面に、迷わず突っ込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 第一管理世界、惑星ミットチルダ。

 魔法文化が発達している管理世界の中心的な立場に位置する星。

 その星の首都クラナガン、地球より科学技術が発達しているとあって、近未来的な高層ビルがいくつも立ち並ぶ都市だ。

 この都市の中央のビル街から少し離れた住宅街の道中をゼロから人間態に戻ったリュックを片腕だけかけた諸星勇夜が歩いていた。

 旅人としては軽装だが、旅道具の大半はリンクが収納、管理してある。

 彼は今、こちらの世界に迷い込んでからお世話になった、ある一家の許に向かっている。

 里帰りと言われれば、はっきりと里帰りだと言える。

 もう日は夕暮れになり、夜空が顔を出し始めている。

 目的地に着いた。

 ミットチルダに迷い込んで、あろうことか体が4歳児に退行した俺を実の家族のように引き取って、正体を明かしてからも、家族として迎えてくれたナカジマ一家の住宅。

 半年ぶりの我が家、なのに、少し身構えている自分がいる。

 だってな……うれしいと言えばうれしいんだが、そんな自分に笑みを零し、夜はインターフォンを押した。

 

『どちら様ですか?』

 

 一拍置いて、しっかりとした感じのある幼い女の子の声がインターフォンから響く。

 

「ギンガか? 勇夜だ」

「え? 勇夜兄ちゃん!?」

 

 インターフォン越しからでも、その声の主が弾んでいることが窺えた。

 するとドアからロックが解除された音が鳴り、ドアを開け。

 

「ただいま~~」

 

 この世界での『我が家』に久々に入ると。

 

「ゆうにい!」

「がはぁぁ!!!」

 

 幼さ特有のたどたどしさと、人懐っこさ全開な女の子の声が耳に入ったと同時に腹部に強烈な衝撃が走り、勇夜はそのまま仰向けに倒された。

 

「す………スバル、お前ってやつはまた…」

 

 勇夜に突進……もとい体当たり染みた勢いで抱きついてきたのは、青い髪を男の子のように短髪にした活発そうな7歳くらいの女の子だった。

 

「おかえり♪ ゆうにい」

 

 名前はスバル・ナカジマ、このナカジマ家の次女でかつ末っ子さん。

 

「スバル…またお兄ちゃんにタックルして、早く離れなさい!」

 

 玄関に連なる廊下の奥から、スバルと同じ髪色と瞳の色に、彼女よく似た顔付きだが反対にロングヘアで、しっかり者そうな小三くらいの女の子がやってきた。

 名はギンガ・ナカジマ、スバルより二つ上のお姉さんだ。

 さっきのインターフォンから響いた声も彼女のものだ。

 

「は~~い」

 

 姉の言葉に渋々従うスバルは、ようやく勇夜から離れた。

 

「大丈夫?お兄ちゃん」

「どうにか」

 

 仰向けの体勢から起き上がりつつ、彼は二人の頭を撫でてあげた。

 二人と言えば、義理とはいえ兄のご帰宅に心底嬉しそうである。

 そして勇夜も、実を言えば元気に出迎えてくれた二人に喜びを噛みしめていた。

 

「ただいま、二人とも」

「「おかえりなさい」」

 

 ギンガとスバル。

 名前に宇宙に関連する言葉を宿す彼女らは勇夜にとって、実の妹とも言える姉妹たちだ。

 

 

 

 

 

 

「毎度のことながら、災難だったな」

 

 厳つさの中にきさくさがにじみ出る地球の東洋系……というか日本人よりの風貌な中年の男が、先程の帰宅時に起きたイベントについて笑い飛ばした。

 それもそうで、ナカジマって名字の通り、この男のご先祖は日本からの移住者で、彼はその末裔であった。

 ゲンヤ・ナカジマ、この世界の〝帰る場所〟であるナカジマ一家の大黒柱。

 時空管理局には、大まかに二種類の組織に別れている。

 一方はハラオウン親子にエイミィらアースラクルーも所属し、マルチバースの超空間に本部たる超大型コロニーを構える本局。

 もう一方は、各世界の惑星に存在し、その星の治安を重点的に担う地上本部。

 ゲンヤはそこに勤める局員であり、リンカーコアを持たない為魔導師でこそないが、陸士108部隊の隊長で、和風に言えば〝一国一城の主〟だ。

 

「笑い事じゃねぇよおやっさん、あいつのバカ力はウルトラ戦士でもきついんだからな」

 

 勇夜はゲンヤのことは父のように思っているが、実の父であるウルトラセブンのことも配慮して、彼のことを『おやっさん』と呼称している。

 

「やんちゃになれるのは子どもの内だけだぞ、それにヤンキー時代のお前さんに比べたらかわいいもんじゃないか」

「ぐっ………そこ突いてくるかよ」

 

 不良だった頃の自分を引き合いに出されてしまっては、苦笑いで返すしかなかった。

 確かに元気がいいのがいいことだが、はっきり言って帰ってくる度にスバルの体当たりの威力が右肩上がりになっているのは気のせいだろうか?

 でも一応、あいつのバカ力の源には心当たりがある………そいつはスバルらの境遇にも直結しているから、あまり強くは言えないのだけれど。

 

「もうあなた、勇ちゃんがいるからってほどほどにしなさいね」

 

 キッチンで食器を洗いながら、ギンガたちと同色の髪をワンサイドに纏めた女性が夫ゲンヤに注意する。

 クイント・ナカジマ、ゲンヤの妻で、ギンガとスバルの母で、勇夜の義母に当たる方。

見た目は、ギンガ達が大人になった姿と表せるくらい美人で、母特有の包容力に慈しみさと、姐御さん風な気の強さを併せ持った雰囲気が印象的であり、また勇夜には直接の面識は無いものの、彼にとって縁深き〝女性〟にそっくりな容姿をしていた。

 かつてはミッドチルダ地上本部でも指折りな武装局員兼魔導師であったが、当時彼女が所属していた部隊が壊滅してしまった〝ある事件〟をきっかけに引退し、今は専業主婦となっている。

 クイント局員でよく家を空けていた頃は、姉妹の面倒含めた家事を勇夜が担っていたので、彼は調理といったその手のスキルを身に付けていた。

 現在の彼の物腰に落ち着きが見られるのも、人間の体感時間で何年もギンガとスバルの子育てをしてきた副産物である。

 

「分かってるよ」

「大丈夫だよ母さん、その為に俺が番人として付き添ってんだから」

「ふふ、頼りにしてるわよ」

「お任せあれさ」

 

 クイントが釘を刺した通り、ゲンヤは今、ビール、つまり酒を飲んでいる。

 勇夜は戸籍上約5900歳分の時間を生きているウルトラ戦士な上に、人間体でもアルコールの耐性には成人より遥かに強いものの、一応戸籍上でもウルトラ一族としても未成年なので、ノンアルコール。

ナカジマ家では、スバルとギンガが寝ている間、二日酔いで仕事に支障を来さぬように加減する条件で飲むゲンヤのお酒タイムに、勇夜が付き合ってあげる決まりができていた。

 

「で、用ってなんだよ?いきなりメールで〝帰ってこい〟とか」

 

 幸い、ミットチルダに他に用があることと、苦も無く次元を超えられることもあり、その日の内に帰れた。

 日本とクラナガンの時差も、実はそれほど大差無い。

 

「驚かそうと思ってね、勇夜にとって、念願叶った話だから」

 

 念願って? まさか……自分にとって待ちわびていたもの、それは。

 

「見つかったのか!? 光の国が…」

「ああ、これを見てくれ」

 

 ゲンヤはそう言ってリモコンを手に取ると、テーブルの上に3D映像が浮かぶ。

 ここミットチルダのある次元世界を含んだマルチバースを形作ったホログラムだ。

 

「ここの隣の平行世界の一つにな、地球に酷似した星とそこから丁度300万光年離れた先に、勇夜が言ってたお天とさんのように光を放出する惑星が存在する次元世界が見つかったんだ」

 

 ゲンヤの説明とともにホログラムが一つの宇宙にズームし、光り輝く惑星が映し出された。

 この世界での勇夜は、4歳ごろにこちらの世界に飛ばされた記憶喪失の次元漂流者ということになっている。

 自分も入れたウルトラ一族のことは内密にするようナカジマ家には頼んでいたが、自分たちの星が人工太陽で光り輝く惑星であることなどは、表向き〝あぼろげに覚えている〟設定で公表した上で、探査を頼んでいたのである。

 場所と、こちらのマルチバースからのルートさえ分かれば、後はもう自力で行ける。

 なぜゼロが次元を超える力がありながら、手をこまねいていたのは、前にもいったが、ミットチルダのあるこの次元世界が、光の国のある世界からどれぐらい離れているか把握できなかったことが上げられる。

 目的地に行くまでの船も燃料も食糧も揃っているが、肝心の地図が無い状態。

 そしてなお且つ、多数の世界を内胞したマルチバースも無数に存在する。

 そのため自力で探そうとすれば、虱潰しに博打を打ちながらの旅になるのは明白だった。

 以前の勇夜――ゼロならその大博打に躊躇いなく乗ったであろうが、これまでの経験から、ウルトラ戦士でも一人でできることには限度があることを学んだ今は違う。

 何より、勇夜も、そしてリンクも、《ウルティメイトイージス》に宿るその力を全て手中に収め、使いこなしているわけではないのだ。

 

「勇夜……やっぱり、帰りてえか?故郷(ふるさと)に」

 

 ゲンヤが、酒で赤くなった顔と正反対に改まった表情で俺に語りかける。

 そりゃ、ここに来たばかりの時は帰れたらな、とは考えていた。

 

「部屋は空けておくから、帰る時はいつでも言ってね、向うのお父さんも、帰りを心待ちにしてると思うから」

 

 クイント母さんの言う通り、今だって親父は、自分が生きていると信じ、帰ってくるのを心待ちにしている。

 それを分かっている上で、向こうにいる父に詫びた。

 ごめん親父、まだ今は、帰れない。

 

「ありがとう、でも当分はまだこっちにいるつもりさ、まだ一人しか仲間見つかっていないし、やることも山ほどあるし……まあ時々里帰りはすっと思うけど」

 

 まだ離れ離れな仲間がいる。

 ジュエルシードのことも、それが起こす災害も、巻き込まれる地球も放っておけない。

 そしてフェイトたちのことも、それを残して、のこのこ帰省なんかできるわけ無い。

 それに、師匠であるレオが地球を『第二の故郷』だと呼んだように、この家は俺にとって故郷の一つだ………色々厄介事が多くて、とてもあやういバランスで成り立っている世界だけど、いやむしろと言うべきか。

 こんな不安定な世界、侵略者にとっては絶好の地だ。

〝愚かな人類の救済〟などと言ったお題目で、いつかここも狙われるかもしれない。

 現に、誰の仕業かはまだ分からないが、狙いを定めた奴が確かにいる。

 だからこそ、見捨ててはおけないのだ。

 何より………やめておこう、自分はこんなこと恥ずかしさで胸に秘めておくタイプ、はっきり言う性質じゃない。

 

「そうか、じゃあその時はセブンの親父さんも連れてきてもらいたいな」

「ああ、でもその時まではおわずけだぜ、おやっさん」

 

 ゲンヤにそう返し、勇夜は泡が消えかけたノンアルコールビールを飲みほした。

 

 

 

 

 

 翌朝、ナカジマ家内の勇夜の部屋。

 

「お兄ちゃん、起きて」

 

 ギンガが、ぐっすり夢の中の勇夜を起こそうとかけ布団越しに揺すっていた。

 時刻は朝5:00。

 陽光が、勇夜の使っている部屋を照らし出している。

 その光と、ギンガの呼び声が目覚ましとなって勇夜は起床した。

 起きたてなので、瞼は半開きで、艶のある長髪も癖っ毛となっていた。

 空を飛び、光線を放ち、念力を駆使し、格闘にも強く、体のサイズも自由自在な、米国人から《スーパーマン》と称されるであろうM78星雲人でも生き物、眠気と無縁ではないし、睡眠も必要だ。

 

「おはよう~ギンガ~」

「今日、朝練付き合ってくれるって約束でしょ」

「あ~そうだったな~~~」

 

 ねぼけた目をこらして改めてギンガを見ると、服装はいわゆる体操着でいつでも運動ができる状態だった。

 正式に着用が禁止され、飢えているであろう全国のブルマフリークの方々には悪いが、生憎………黒いスパッツだ。

 なお勇夜には、妹を愛おしいと思ってもそんな趣味は微塵もない、あっち方面にしろ、そっち方面にしろ。

 むしろギンガたちに『そんな目』をした連中を、最低でもゼロツインシュートか、プラズマスパークスラッシュ、下手すると、ファイナルウルティメイトゼロで成敗しかねない。

 全国のブルフリ、またはロリ好きな方々は要注意するように。

 

「じゃあ先に外で待ってるから」

「ああ」

 

 

 

 

 

 場所は変わって、今わたしことギンガ・ナカジマは、血の繋がりは無いけど、兄でありウルトラヒーローである勇夜お兄ちゃんと近所にある公園にいます。

 どうして兄がウルトラマンであること知っているかと言いますと、長くなりますね…………色々と。

 ともかく、お兄ちゃんとお母さんたちに助けられたお陰で、今の生活を送れていると、言っておきましょう。

いつもわたしは朝早く起きて、一人で走っているのですが、今日は兄と同伴です。

 できれば、本当は妹のスバルと3人一緒に走りたいのですけど………そうはいかないのです。

 

「用意はいいか?」

「うん」

 

 お兄ちゃんはウルトラマンの時にでも使っている、片手を真っ直ぐに突き出し、もう片方の手を腰に据え、後ろ脚に重心を置く、兄のお師匠さん直伝の構えをとります。

 今からわたしと組み手をするためです。

 

「お互い頑丈な身だ、遠慮はするなよ」

 

 お兄ちゃんが人間の姿でも、一騎当千のツワモノであることは分かってます。

 だから……わたしも遠慮する気はありません。

 

「そのつもりだよ、お兄ちゃん」

 

 構えをとった私は、自分の目を〝黄色く光らせ〟、兄に向かって思い切りよく踏み込みました。

 

 

 

 

 

 

 数分くらい経って。

 

「はぁ…うぅ…ふぁ…あぁ…」

 

 息が荒れるに荒れて、汗がどぱぁ~~と出ているのはわたしで。

 

「大丈夫か?」

 

 と、ケロっとした顔でわたしに気に掛けているのは兄です。

 結局今回も、兄に一発も攻撃を当たられませんでした。

 因みに、兄はこの数分、わたしの攻撃をひたすら避けたり交わしたりの繰り返しで、ちっとも反撃をしてきませんでした。

 その代わり、自分が攻撃した勢いを利用して、何度も体勢を崩そうとしてきました。

 こちらも意地があるのでどうにか踏ん張り続けられましたが、その分体力が余計に削られに削られて、立つのもやっとなくらいへとへとにされました。

 攻撃にばかり行き過ぎて、自滅を狙った兄の作戦にまんまと嵌ったわけです。

 

「まったく、そう焦って攻めて当たるわけねえだろ、昔の俺とどっこいどっこいだぜ」

「昔のお兄ちゃんも、さっきの私みたいな感じだったの」

「そう、調子乗るかカットなったりすっとごり押しになって、そのたんびに師匠に〝焦るな〟とか〝頭を冷やせ〟とかこっぴどく叱られたもんさ」

 

 確かにそう。私はその焦りを突かれたわけです。

 焦ったところで、兄はおろか、昨日の自分さえ簡単には超えられないと、自分に言い聞かせます。

 たとえ体が機械で、普通の人より頑丈だとしても。

 むしろ、伸び代があるってことが幸運なんだとも。

 

「そんじゃ休みにするか」

「うん」

 

 休憩タイムに入り、私と兄はベンチに腰掛け。

 

「ほらよ」

「ありがと………もうからから」

 

 前もって持ってきた水筒を受け取り、中に入ったスポーツ飲料をごくごく飲んで、汗だくな体を潤します。

 兄さんと組み手をするのは時々ぐらいしかありませんが、私はこうして毎朝トレーニングを続けていました。

 兄も含めて家族には、〝うっかり人前で力を使わないように加減を覚える〟のが目的だって話し、実際それも理由の一つなのですけど、実は他にも〝目的〟があって、そっちの方はその表の理由を笠にして隠しています。

 知ってしまったら……特に兄は一番反対し、「どうしてもと言うなら自分に一本取ってみろ」と言ってくるに違いありません。

 いつかは、ちゃんと打ち明けなきゃいけないけど―――まだ秘密です。

 

「今日にはもう、お仕事で行っちゃうの?」

「おう、今晩も家で寝るつもりだけどな」

 

 もう一日だけ、兄が家にいることに嬉しく思う一方、もう一日だけなのがほんのちょっと残念にも思う私です。

 でもそれは、離れていても、ちゃんと思い合っている証。

 

「お兄ちゃんが助けたい人って……私たちと、おんなじなんだよね」

「…………母さんから聞いたな」

「うん」

 

 昨夜(ゆうべ)、兄が今度はどんなお仕事をしてるのか気になった私は、こっそりお母さんから聞きました。

 ロストロギアを集めてるそのフェイトって人は、私が感じてるこの〝寂しさ〟さえ、味わえて……ない。

 私たちと同じクローンで、かつての私とスバルのように、孤独の闇の中にいて、それどころか、私たちがそうなるかもしれなかった残酷な〝運命〟の穴に落ちかけてる。

 たとえ直接会ったことが無くたって、それだけははっきりと分かった。

 兄はその人を、必死に助け出そうとしている。

 だから……邪魔をしちゃいけない。

 

「ギンガ?」

 

 私は兄の手を握りました。

 自分の手が感じる兄の体の熱。

 

「お願い……あの人も、助けてあげて」

 

〝私たち〟は、この温かい手に救われたんだと、その手で〝フェイト〟を助けてあげてと、自分の手にその気持ちを籠めて、兄に送り。

 

「ああ、勿論さ」

 

 私たちの〝ヒーロー〟なお兄さんは、そう微笑みを返してくれました。

 

 




一応前から文面にちょびっと出てたナカジマ家のご登場でした。
クイントさんのキャラには苦労したっけ、当時innocentのいの字も無いし(そもそもイノセ含めソシャゲはやらない身だし)、STSじゃ回想にしか出てないし、結構出番ある二次を読んで助けてもらったなあ。
なんでギンガの出番が多いかと言うと、ごめんなさい、私ナカジマシスターズの中ではギンガが一番好みなんだ。
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