ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
『だから、僕たちにも、そちらに協力させていただきたいのです』
次元航行艦アースラ。
艦内の一室なモニタールームに今いるのは、クロノ、リンディにエイミィの三人。
設置された大型モニターには、フェレット姿のユーノが映っている。彼は今レイジングハートを使い、こちらと通信をとっていた。
「協力………ねぇ」
クロノは実年齢相応よりも幼く、あどけなさが色濃く残る顔立ちをしかめ面にした。
「僕はともかく、なのはと光さんは、そちらにとっても有効な戦力になる筈です」
アースラチームが今回のジュエルシード絡みの事件に参入して二日、猶予期間を経てユーノが代表し、彼に、光となのはら高町兄妹の事件協力をリンディたちに願い出ていた。
正直、彼らが助力を申し上げてくれたのは、ありがたくもある。
ユーノの独自収集には今でも軽率と考える一方、彼らがいなければ、ジュエルシードによって地球は現地の人々にとって未知かつ未曾有の大災害を被っていたのは間違いないからだ。
輸送中のアクシデントが、不慮の事態だった……いやだからこそ、早急に手を打てなかった自分たちの不手際を、彼らは賄ってくれた。
偽りなく、感謝の気持ちはある………ある上に、これ以上甘えたくはない……気持ちはちゃんと受け取る上で、どうにか自分たちだけで事態を収束させることを伝えようとしたが――
「中々考えてますね、それならまあ~~いいでしょう」
「かあ―――艦長!」
先んじる形で、母兼上司のリンディがもの凄くあっさりと承諾してしまった。
「ただしこちらからも条件があります、三名とも身柄を一時的にアースラにお預かりすること、それからこちらの指示にも守ること――」
公的な場で一瞬〝母さん〟と呼びそうになってしまったくらい戸惑うクロノをよそに、リンディと向こうのユーノはそそくさと話を進め、口も挟めないまま通信が終わってしまった。
「不服だったかしら? クロノ執務官」
「艦長がそう決定した以上、異議は申し立てません、ですが不満がないわけでもありません」
腕を組んでクロノはそっぽを向いた。
幼い見てくれのせいで、その姿は駄々を見えている子にも見えてしまう。
クロノ本人とて、現在の自分の仕草が傍からどう映っているかは客観的に把握できている。エイミィにも見られているから、この時の自分を後々いつものからかいの種にしてくるだろうが、その時はその時だ。
彼女に目を向けば、緩み気味の口元は猫みたいな形状………十中八九、ネタにする気満々な証だった。
「そうは言ってもね、あの子たちダメだと付き返されても、独自に回収を続けそうだったし………昔のクロノみたいに」
卑怯だ。母は自分を納得させようと、〝昔の自分〟を引き合いに出してきた。
母にとって切り札なこのカードを出されると、何も返せない。自分も、かなり母に無理を押し通してきた身だからだ。
魔法を習いたいこととか、管理局に入って〝正義の味方〟になりたいとか……それはもう我ながら大いに困らせたものだ。
それこそ、あの時の〝高町なのは〟みたいに。
一見争いごとを嫌ってそうな印象を受けたあの子が、あそこまで真っ向から我を通してくるなど、予想だにしなかった。
並はずれた魔法の才能と言い、あの子は一体………いや、下手に深入りするのはよそう。
ともかく、これ以上突っぱねてもいられない。
彼女らを〝民間協力者〟として迎えると決まったのなら、それを見合った対応をすればいい………と自身を納得させつつも、もう何度目かも分からぬ溜め息をクロノは吐くのであった。
少し時間を遡って、場所は高町家宅内、なのはの部屋。
『ですが、条件が二つあります、両名とも身柄を時空管理局の預かりとすること、それから私たち指示を必ず守ること、よろしいでしょうか?』
「分かりました」
最初から無条件で協力させてもらえるとは考えていなかった。
が、これでなのはや光さんに学校を休ませなければならなくなったが、もうこの際贅沢は言わない。二人がまだ義務教育の学校に通っていてよかった。
一方で内心は、やっぱり勇夜さんとアースラの人たちに任せた方が良いのかもしれないとも考えた。
事故自体は不慮のアクシデントだったけど…なのはと光さんを巻き込ませてしまったのは、一人だけで突っ走ってしまった自分なのだから……そして日頃の生活を縫って、手を貸してくれた兄妹たちを…今度はその『日常』をも犠牲にさせることを強いてしまうことになる。
それだけに、こうして返答するまで、時間が許す限り悩みに悩んだ。
でも……二人の故郷であるこの星が危機に瀕している。
それを知ってしまった今、あの時なのはが語気を強めたように、二人とも、絶対に引き下がらない。
それになのはは、あの女の子……〝フェイト〟のこともあるから、中途半端に引き下がりはしない。
ならその分、自分も二人の力になれるよう、力を尽くそう。
ユーノはアースラとの通信を切り。
『なのは、光さん、決まりました』
念話で二人に結果を報告した。
『了解です』
『うん、ありがとユーノ君』
その時なのはは、母の桃子の食器の洗浄を手伝っていた。
光はと言うと、義父と義兄と義姉と一緒に御神流の稽古のために裏山に出かけている。
「はい、これでおしまいっと」
皿洗いが一通り終わり、二人はリビングに移動してソファーに向かいあった形で座った。
「それで、大事なお話ってなあになのは?」
「う、うん」
なのはは、魔法やユーノ、ミラーナイト=光、ウルトラマンゼロ=勇夜のことを伏せつつ、彼女の精一杯の表現で暫く学校を休み、家を当分空けなければならないことを話した。
普通の家庭なら、娘がまともに理由を話さずに家を出ると言いだせば、断固反対して阻止するだろう。
まだ小学生となれば尚更だ。
だが高町家の場合、少し事情が違った。
光が言ってた魔法のことなのよね……なのはの話を聞きながら、桃子は内心でそう呟く。
前にも話したが、高町家は光が、別世界から来た二次元人の血を受け継ぐ巨人であることを知った上で彼を養子として迎えた。
その為、当時生まれたばかりのなのはを除いた全員が彼の正体を知っている。
そして以前彼から、なのはについてこんなことを言われていた。
〝なのはには特殊な力が存在します〟
その時は彼もその力がなんなのか漠然としか分からなかったらしいが…
あの日、なのはがユーノを飼えないかと言ってきたあの日。
なのはが寝た後、光は話があると言って私たちを食卓に集まらせた。
その内容は…魔法が存在する別の世界から、事故で海鳴に過去の文明の遺産がばら撒かれて、その発見者である男の子が回収に来たが失敗、苦肉の策として、その子はなのはと光に助けを求め。
なのはの力がその魔法が使える力で、その時目覚めたと言うことだった。
余りに突拍子も無い話ではあったが、光もまたその突拍子も無い別の世界から来た住人だったので耐性がついており、直ぐに信じられた。
その時言われたのが、危ないことであることを分かった上でなのはが自分の意志で私たちに話してくれるまで、魔法のこと諸々のことを知っていることを伏せてほしいと言うものだった。
「危ないこと…なんだけど、大切な友達と光兄と一緒に始めたこと…最後までやり通したいの…」
危ないこと、それが事実であることは間違いない。
海鳴公園のボート場や、動物病院で起きた謎の損壊事故。
大勢の人が、アスファルトから出現した巨大な樹木を見たと言う集団幻覚。
これらが、その〝遺産〟の仕業であることも聞いたからだ。
「一つ聞くけど…光がどこから来た男の子なのか、もう知っているのよね?」
「うん…」
「そう…隠していたことは謝るわ…けどそれでもお母さんは心配よ…いくら光がとても強い人でも…なのはのことが、凄く心配」
でも…それでもなのはは止めないだろう、この家族の中で一番強情で頑固な子だから、光もそれが分かっているからこそ、一緒にその友達のお手伝いをしているのだろうし。
「でも、もう決めているんでしょ?お兄ちゃんと友達と始めたこと、それを最後までやり通すって、ならお母さんはそれを応援するわ、お父さんたちにはちゃんと説得しておいてあげる」
なら今できることは、その背中を押してあげる一方で、本当に心から心配してあげ、無理はしないように……と伝えるだけだった。
けれど、また光になのはのことを頼んであげないといけないなんて…
なのはがまだ小学校にも入っていなかった頃、わたしたち一家は色々あってなのはを残して。夜遅くまで家を空けなければいけなかった。
本当はまだ甘えたい年頃だったのに、なのはは我慢してくれた。
それでも一人の夜はさぞかし孤独で辛い時間であっただろう。
本当は寂しいことを訴えたくて仕方がなかっただろう。
思いっきり涙にして、出せるだけ出したかっただろう。
そんな時、光は率先して、なのはの傍にいてあげた。
一度、溜めこんださみしさを光に発散したことがあったらしい。
以来、なのはは特に光に対し、甘えん坊になった。
今でもなのはは、光を『光兄』と呼んで慕っている。
そのことを恭也は承知しつつも、悔しがってしたけど。
前に『同じ声なのに、どうしてここまで違う』とか言っていた。
文武両道な彼が中学に入っても、帰宅部であり続けるのはできるだけなのはの傍にいる為だ。
思えば、なのはのことはいつも彼に押しつけてばかり。
今だってそう…でもお願い光―――鏡の騎士ミラーナイト。
なのはを、お願いね。
「でも心配なのは変わり無いわ、だから…気をつけていきなさい」
実のところ、ウルトラマンゼロから出された宿題に関して、まだ明確な答えは出ていない。
フェイトちゃんとどうしたいか…一応、初めて会った時から知りたかったジュエルシードを集める理由、どこか寂しさを感じさせる目をしている理由。
諸星勇夜越しにとはいえ、なのはは知ることはできた。
だがその内容は、なのはの想像を超えたものだった。
テレビやネットなどのメディアや、フィクションからぐらいしか聞かない。
親から虐待を受けながら、無理やりロストロギアを集めさせられ、しかも、彼女は母の実の娘のクローンで、母はフェイトを娘と認めず。
彼女自身、その真実を知らないまま、ジュエルシードを集めれば、実は元になった人間の記憶の中にあるかつての母に戻ることを信じて、自分とも何度も戦っていた事実を、なのは突きつけられた。
なのはも、昔は周囲に疎外感と孤独を感じ、それなりに辛い過去を体験しているが、彼女に比べれば自分は幸福であったと認識せざるを得ない。
そんな……フェイトより恵まれた自分に何ができるんだろ?
勇夜の言う通り、ただ知りたいだけでは駄目なんだ。
それだけじゃ、また中途半端に後悔するだけ、だから自分に『宿題』を出してくれたんだ……また半端に関わったせいで、自分を攻めてほしくなかったから。
まだ、自分なりの解答は見つけられない。
自分がフェイトをどう救いたいのか、どう接して向き合うべきなのか。
正直……〝腹を括れる〟のか……すらも分からない。
でも……〝あの時〟みたいに、このまま何もせず後悔して、何もできないまま終わってしまうのも嫌なんだ。
それでもユーノ君と光兄と最後までやり遂げると決めたんだ。
ジュエルシードを集めることも。
それが引き起こす災害からみんなを守ることだって。
そして……自分がどういう形で生まれたこともしらずに、お母さんと分かり合えない日々を送っているフェイトちゃんを、勇夜さんと一緒に助けたいことだって。
「うん、ありがとう、お母さん」
だから今は、背中を押してくれるお母さんに感謝の言葉を送った。
また、少し時間を巻き戻す。
ユーノがアースラと交渉していたその頃、光は市街の裏山にて。
「はァァァァァ!」
光は義父の士郎と、稽古の一環で木刀で打ち合わせていた。
無論御神流なので、小太刀の長さで二刀流だ。
身体能力では光の方に軍配が上がるのだが、御神の剣士としてのキャリアは士郎の方が上、よってほぼ五分五分の稽古だった。
それを義兄の恭也と義姉の美由希が見学している。。
『なのは、光さん、決まりました』
その時ユーノから念話で結果を報告してきた。
どうやら交渉は成立したようだ。
だがユーノの話では当分学校は休まなければなさそうだ。
自分はまだ良い。
危険な藪の中に入る覚悟はあるし、己を守れるだけの力は日頃の研鑽で積んでいる。
けど……なのはにその藪の中を一緒に通らせることになるのは、気が引くし、抵抗感がある。
勇夜(ゼロ)も、きっとそのことで悩みに悩んだはずだ。
フェイトの境遇は、友と妹を迷わせるには、充分過ぎる重さを有している。
だから『腹括れるか?』とあの時、なのはと〝自身〟に問おたんだ。
思えば……『父』が、自分がエスメラルダの騎士になることを、最後まで反対したのは、今の自分と同じ気持ちだったからなんだ。
あの頃の自分は、二次元人の父に、複雑な感情を抱いていた。
分かりやすく言えば反抗期。
騎士としては尊敬し、目標ではあった。
でも……『父』としては…『親』としては……許せなかった。
エスメラルダ人であった自分の母は、生んだ時に無理が祟って帰らぬ人となった。
父だってそれを悔んでいたのに、自分は父を攻め、『見殺しにした』と罵倒し、反対を押し切って騎士になり、『ミラーナイト』という名を王家から承った。
そのささくれた心はエメラナ姫専属のナイトになり、彼女や同僚の騎士たちの交流で治まっていったが、でも……和解は果たせぬまま、父は……ベリアル軍の侵攻で命を落とし。
自分も騎士の本懐を果たせぬまま、悪に堕ちそうになった。
だから、ほぼ同じ身の上でありながら父セブンと和解できたゼロが、羨ましかった。
なのはへの想いも、あの時の後悔をしたくない、させたくないから……それなら、なのはの意志を尊重させるべきなんではあるが。
でもそれにはどうしても、なのはを戦わせることになる。
誇りある騎士、戦士たち同士にとっては気高く、互いを讃えあう神聖なもの。
しかし、やはり『戦い』とは、血生臭く汚れ……多くの人を弄び、命を奪い、狂わせる魔物。
魔導師――魔法使いを続けるなら、恐らくずっとなのはを苦しめる鎖(ジレンマ)になることは違いない。
だが…〝取り柄が無い〟自分に悩んでいたなのはにとって、〝魔法〟はようやく指し込んできた光明(きぼう)でもある。
そう簡単には、手放せないだろう。
自分が、御神流の稽古に励んでいたのも、『力』が自分から消えていくかもしれないことへの………恐怖と不安があったから……けれど力を持つことは、己の無力さという傷をを助長させる塩でもある。
「例の友達からかい?光」
念話を感覚的に察したのか士郎はその話しかけてきた。
自分たちが今何をしているのかは、話してあるのだが、実はその友達が今家で飼っているフェレットであることは内緒にしていた。
自分もなのはを巻き込んだことに関して、あれほどユーノにお仕置きをしたのだ………もし恭也兄さんあたりが知ったらどうなるか…自分が言うのも何ではあるけど、想像するだけでも背筋が少し寒くなる。
「はい…暫くなのはと、家を離れなければなりません」
「そうなんだ……ごめんね光」
「なぜ美由希姉さんが謝るんですか?」
「だって、昔からなのはのことは、光にまかせっきりだったし…」
「気にしないで下さい」
自分も、あのロストロギアやフェイトのことを、なのはに『まかせっきり』だ、おあいこ以上に高くついている。
「そうだぞ美由希、光は兄として当然のことをしてるんだ、だから…だから…」
あれ……なぜだろうか? デジャヴと言う単語と、それと思われる感覚が今浮かんだ。
「見ないでくれ…こんな醜い兄を…」
「恭也兄さん…」
気づけば、義兄はベリアルの毒に侵されたかつての自分と同じように、こちらに背を向けて体育座りをしている。
なのはが自分を『光兄』と呼んで、そろそろ微妙なお年頃に差し掛かるいまでも、自分を慕っていることを、羨ましがっていることは知っていたが、どうにも気まずい。
ゼロも、〝体育座り〟して落ちこんでいた自分に初めて会った時は――
『最後まで守る為に戦い抜いた、勇者の姿だ!!お前は、立派なやつだぜ』
――と叱咤してくれた。彼のその言葉に偽りは無かった筈だが、内心ではこんな気持ちを抱いていたのではと勘繰ってしまった。
けれど流石御神の剣で心身を鍛えて来たゆえか、恭也は直ぐに回復し調子を取り戻していた。
「大丈夫だ、学校には上手く説明して、休みをとらせるから……」
家族として迎えてくれた人たちが、こうしてフォローしてくれているのだ。
「なのはが小さい時は『色々あったからな』……なのはには余り父親らしいことをしてやれなかったし、光がいなきゃ、ずっとあの子は周りに遠慮して生きていたかもしれないしな……だからさ…」
「父さん……」
「ミラーナイト……なのはを…頼む」
「はい」
その人たちの為にも、最後まで自分ができることを為そう。
人として、戦士として、そして―――〝ミラーナイト〟として。