ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
長方形状の卓上に、十字架型のラインが入ったテーブルが中央を座し、全体的に深い青味のある一室。
ここはアースラ艦内のミーティングルーム、会議室に値する部屋だ。
「と言う訳で、本日0時を以て、本艦の全クルーの任務はロストロギア、ジュエルシードの捜索と回収に変更されます」
リンディはこの部屋に集まったクル―メンバー+αに今後の任務内容を通達していた。
「また本件においては特例として、問題のロストロギアの発見者であり、結界魔導師であるこちら」
「ユーノ・スクライアです」
「それから彼の協力者であり、現地の魔導師さん」
「た、高町なのはです」
「そしてなのはさんのお兄さんでもある剣士さん」
「高町光です」
そのプラスアルファに該当するのが、この三人だ。
「「「よろしくお願いします」」」
紹介された三人はクル―に挨拶をした。
緊張でやや強張っているなのはとユーノとは対照的に、光は凛として堂々とした姿勢と、流麗な佇まいで頭を下げる。
さすが王制国家のナイトを勤めていただけあり、作法にはムラが無く洗練されていた。
なお余談ではあるが、後に彼はフィクションから飛び出してきた騎士として局内で評判になり女性ファンが大量に発生、アウトロー寄りな佇まいの勇夜と人気を2分する事態が起きたらしい。
同時刻。
「ではここからは、ジュエルシードの位置特定はこちらで行いますから、場所が分かり次第、現地に向かって回収作業をお願いします」
ブリッジの艦長席でリンディは、なのはたちに任務の概要を話していた。
「「「はい」」」
了承する一同。
「艦長、お茶です」
とそこにエイミィが、湯のみと、角砂糖とミルクによるかの水と油な組み合わせで、お茶を淹れて持ってきた。
「ありがとう」
受け取ったリンディは迷わずに、即湯のみの中に砂糖とミルクをドバーーーーと勢いよく入れ、恍惚とさえ表現できる満足げな表情で飲んで一服していた。
本人にとっては、好きな組み合わせなんだろうが、やはり見てるこっちは胸焼けとの戦いを強いられ、それに慣れそうも無い。
「そう言えば、こちらから頼んでおいてなんなのだけど……二人とも学校は大丈夫なの?」
「あ、はい、私も兄も家族に説明してありますので、大丈夫です」
ちなみになのはは、アリサとすずかにも全容は伏せつつ、家を空け、学校を休んであると伝えていた。
その間のフォローは、まだ素っ気ない態度のままだが、内心はなのはのことを思っているアリサが積極的に行っていたとのことである。
なのはと光とユーノが、アースラに同行してから10日ほど経った。
その間は、特に記すことは無い。
あるとすれば、異相体との戦闘がいくつかあったこと、ジュエルシードの反応が検知され、現場に急行したが、フェイトたちに先を越された、或いは逆に先越したこと。
戦闘になった時は、3人のコンビネーションで対処したこと。
残ったロストロギアが6個にまで減ったことぐらいだ。
ともかく、ここ数日は、フェイトたちと鉢合わせとなる事態がまったく起きずじまいであった。
後は、何があったのかと言えば10日目のその日、光は異相体と戦闘にもなった海鳴臨海公園で待っていた。
個人的用事と調査ミットチルダに一時戻っていた勇夜から、自分専用のデバイスを受け取るためだ。
彼の二次元人のワープ能力を使えば、アースラの個室から、ここに来るまで朝飯前だった。事前になのはたちに何か動きがあれば直ぐ念話で呼ぶよう頼んであるので、非常時に後れをとることはほぼ無い。
「おい!」
海を見ながら待っていると、勇夜がこちらへと走ってきた。
指定の時間から、2,3分早いご到着、因みに光は15分前から来ている。
「長旅御苦労様、まあ勇夜にとっては隣町に行く感覚だったのでしょうけど」
「皮肉のつもりか?」
「いえ、本当のことを言ったまでです」
「次元超えるのに苦労してないのは確かだけどさ」
実際、勇夜――ゼロは、リンク――イージスのお陰で半日もかからずに、次元の壁を越えられる。
シニカルさ抜きの事実であった。
「で…例のものは」
「ああ、できてるぜ」
勇夜はリンクから、鏡の星の紋章によく似た形をした宝石が埋め込まれたブレスットを取り出し、光に渡した。
「希望通り、基本形態は二振りの小太刀にしておいたぜ、マニュアルデータもプログラムもリンクがお前の戦闘データを元に作ってそん中に入っているから、その気になりゃ今からでも使えるぞ」
「ありがとうございます」
勇夜が渡したのは、光自らデザインしたデジタル画にを元にリンクが子細に設計したデータを元に作成してもらった、零牙と同じ、アームドタイプのデバイスであった。
違いがあるとすれば――
『おはようございます、マスター光』
AIが埋め込まれていること、リンクと違い、声は男性のものであった。
「で、そいつの名前どうする?」
「そうですね…シルバーライト…でしょうか…構いませんか?」
『御意』
「しかし、よく一週間でできましたね…」
「元管理局の技術顧問だった行きつけの職人さんお手製だ、典型的な石頭だが腕は確かだぜ」
「そうなんですか…」
彼の言う通り、シルバーライトは一週間の突貫工事でできたとは信じられないほど、完成度が高かった。
零牙も同様、勇夜の大まかなデザインにリンクが設計し、その職人さんが作り上げた経緯がある。
「ところで、ジュエルシードはあとどれくらい残ってる?」
「6個です、今は海底を重点的に探しまわっていますが」
海ん中か、可能性は0じゃねえよな。
海岸線に近い地にある海鳴市、その周りに落ちたのなら、海中に隠れていることも有り得る。
地上で探す以上に、苦労はしそうだがな、と勇夜は思案した。
「イカに憑りついて、クラーケンになったりとかはねえのか?」
「今のところは、ありませんね……」
光は苦笑いで返す。
だがこれも、可能性は0ではないのがみそであった。
事実、地上の動物の例もある。海棲生物の異相体も、出現し得る可能性はあるし、運良くそうならないこともまた、無きにしにも有らずではあった。
できれば後者であってほしい。
「そうですか…僕はアースラに戻りますが勇夜はどうします」
「わりい、まだ向こうで調べたいことがあるもんでね」
「分かりました、ではまた」
光と別れた勇夜はその足で再びミッドチルダに向かい、調べものの為にとある施設に入室していた。
LEDの明りが強過ぎない様調整された、やや薄暗さのあり、窓は一つたりともない空間。
一定の間隔で室内にそびえ立つ茶色がかった本棚たちと、棚の中で綺麗に陳列された資料本の数々。
シックさと年季が入りながら、独特の閉塞感も漂っている。
この広くも狭苦しいフロアは、時空管理局ミッドチルダ地上本部資料保管室。名前の通り、犯罪関連の資料が保管されている場所だ。
どこかレトロチックな地球の蔵書施設に雰囲気は似ているのだが、心理的にこういう環境の方が落ち着いて書物を読めるらしい。
それは言えているなと、棚から資料を幾つか取り出す最中な勇夜は心の中で呟く。昔はそれこそウルトラマンの中で生粋の活字アレルギーだった自分でも、読書が捗りそうな空気が確かに流れているからだ。
今は読書が趣味の一つとなった現在の彼が本に触れた際、微かに半透明なフィールドが可視化される。
こっちの蔵書施設と地球のとの違いを上げるなら、各棚には特殊な魔力フィールドが常時展開されていること、フィールド内は真空状態となっており、紙質の劣化を極限にまで抑えているのである。
紙というアナログな情報記録、最も保存が聞いて比較的安全な媒体なのは、こちらの世界の同様であった。
何冊ものの分厚い資料ファイルを事も無げに閲覧用の机まで運んだ勇夜は、腰かけて最初に手に取り読み始めた。
初めの内は平静な顔付きで、ページを進めていたが、段々とその顔は不機嫌なものとなっていき、全て読み終えた頃には仏頂面な形となっていた。
淀んだ気持ちを発散させるべく、溜め息を吐いて仰向けに腰かける。
『(拝見させてもらいましたが、怒りを通り越して呆れ果てるばかりです)』
「(そいつは奇遇だ、俺もリンクと丁度おんなじ気持ちだよ)」
この時勇夜は、日頃移動に使っているVMAXカスタムのカスタマイザーでもあり、彼のデバイス――零牙の製造者でもある〝情報屋〟等から仕入れた情報と、さっきまで読んでいた事件資料から、今回の事件の発端も同然な〝事件〟の経緯を組み立て、結果相棒とともに呆れに塗れた心情となっていた。
その当事者たちには憐れみさえ浮かび、とばっちりを受けたフェイトの〝姉〟に改めて哀悼の意を表したくもなった勇夜は、ここでの一応の目的は達せられたので、ちゃんと律義に元の場所に資料を戻していった。
資料保管室を出た勇夜は、近場のエレベーターに乗り、VMAXを停めてある地下駐車場の回のボタンを押す。
ほとんど振動を感じさせない立ち心地の良い円形ガラス張りの高速エレベーターが降りていく中、その間の暇つぶしにガラス越しに見えるクラナガンの魔天楼を見下ろしていた。
あっという間にエレベーターは地下駐車場に着き、勇夜は二輪車用スペースで停車していたVMAXのエンジンを起動して発進、出口用道路を通って地上へと出た。
「(リンク、実は行きたいところがある)」
『(どこですか?)』
「(アルトセイムだ)」
相棒に行き先を告げた勇夜は、通常の公道から高速道路に繋がるインターチェンジの道路へと入った。
アルトセイム地方、近未来の大都市風なクラナガンとは対照的に緑の森林がほぼ人の手が加えられずに残っている惑星ミッドチルダ南部の辺境の地域。
以前フェイトからそこに住んでいると聞いていた勇夜は、VMAXを走らせてそこへと向かい、たった今その森の中にいた。
ミッドチルダ星内の高速道路は、結界魔法の応用で出発地の反対側へも半日で行けるので、ほんの数時間で目的地に着けたのだ。
先程まで乗り回していたVMAXから降りると、バイクは光を輝かせ、指輪形態のリンクの格納領域の内部へと消えていった。
『マスター、これからこの地で何をお調べになるつもりですか?』
「悪りぃ、そこまで考えてなかった……」
フェイトたちの生家である『時の庭園』。
今は、マルチバースの海に佇んでいるが、前はここに停泊して生活していたらしい。
でもフェイトにとっては生まれ育った地なのだろうが、後はせいぜいフェイトがアルフと、この辺りを公園代わりにして遊んでいたぐらいで、事件に関わる手掛かりがあるとは言い難い。
「ただ、なんとなくここに来れば〝何かある〟って、思ってさ」
痕跡が残っている根拠も保障も無いのに…曖昧だが妙に胸に引っかかる直感のまま、気がつけば来ていた。
いくらフェイトの育った地だからって……どうしてここに『何かがある』なんて考えたんだか……行きあたりばったりにも程があるな……と、そんな自身を自嘲して嗤った。
『マスター』
「ん?」
『サーチャーを放っていたのですが、ここから南西5キロ先に建築物の反応が見受けられました、恐らく木造一階建てです』
こんな辺境にまで来て徒労に終わらせたくなかったのか、相棒は〝何か〟たる収穫を得ようとして実際にその〝何か〟を発見したようだ。
けど、こんな辺境の地に民家? だれかが都会の生活に疲れて、自給自足の隠遁生活でもしてるのだろうか?
ともかく、このまま手ぶらで帰るのも癪だったので、行ってみることにした。
「これか? リンク」
『はい、間違いありません』
リンクが指定された地点にあったのは、民家だった。
彼女の予測通り、木材で組み上げたシンプルな一階建て、生活の匂いが感じられないのでどうやら今は空き家になっているようだ。
だが一応ドアをノックした上で、勇夜は中に入る。中はテーブルと暖炉しかない殺風景な部屋だった。
床をこすると、指に埃がこびり付いた。
空き家になってから、それなりに月日が経っている。
「大体2、3年ってとこか………」
部屋中を見渡してみると、窓際に置かれたテーブルにトランクが一つ、置かれていた。
無粋なのを承知で、勇夜はトランクのフックを外し、開封。
中に収納されていたのは……分厚い一冊の本と……添えられた造花に、それと――
「『DEAR MY FATE』……〝親愛なるフェイトへ〟………これって」
――と書かれた……一通の封筒。
その封には続けて送り主の名前も記されていた。
中身を見ずとも十中八九、これは〝彼女〟が残した遺言だ。
なら、手紙と一緒に入っていたこの分厚い本は……表紙には何も書かれていない。
不躾なのは承知で、勇夜は本の扉たる表紙を開いた。
最初に書かれていたのは、〝彼女〟の前置きの言葉。
「『私は愛するフェイトの成長の記録と同時に、私にとって大切な日々の記憶と願いを形として残せるよう、ここに記します』」
そこから先は、最初の前置きの通りの文章が、延々と続いていた。
思えば……自分が自分でも分からないくらい無性にアルトセイムに来てみたかったのは、〝彼女〟がフェイトにその〝手紙〟を渡してほしいという〝意志〟を受け取ったから、だったのかもしれない。
勇夜がある人物の遺物を発見してから、三日間。
アースラでは粘り強く探査は続けられていた。
フェイトたちも、探すのに手こずっているのか主だった動きを見せず。
出撃する機会も減り、なのはたちは専らアースラでデバイスによる仮想訓練をするか談笑する日々を送っていた。
「はあ~今日も空振りかもしれないね……」
なのはとユーノは、今アースラの食堂で食事をとっている。
ちなみに光は、部屋で仮想シュミレータによる訓練中。勇夜から渡された専用デバイスを、今の内に慣らしておきたいとのことだ。
「全部集まるまで、結構長くかかるかもしれない…ごめんねなのは、まだ友達とも喧嘩したままなのに」
「ユーノ君が気にすることないよ」
「でも…喧嘩になったのは、僕たちに関わってることが原因なんだよね?」
「にゃはは…まあね…」
関わると決めたのは自分の意志だし、親友たるアリサを怒らせてしまったのも自分だ、今やってることを片づけたら、そちらもちゃんとけじめをつけよう。
「もしかしたら、家族や友達に『魔法』のことちゃんと話すことになるかもしれないけど、あ、ちゃんと秘密にするよう言うからね!」
「大丈夫、もうこうなったらちゃんと話してあげないと、みんな納得してくれないと思うから」
「そうだね」
「それでなのは…勇夜さんから出された例の『宿題』の方は…」
「うん…まだなんだ…」
なのはの原動力であった、どうしてフェイトが、あんな悲しく寂しい目をして、ジュエルシードを集めているか…本人から直に聞いたものではないにしろ知ることはできた。
けどその先にまだ行けていない。
あの子とどう向き合いたいのか、何をしてあげたいのか、まだ答えは出ずにいる。
母の願望から生み出され、ただ『アリシア』では無いという理由で拒絶され、その『願望』を現実にするための道具としかみなされず、本人はそれすらも知らぬままに、母に報いようとする孤独な女の子。
そんな子に、自分はどうしてあげたいのだろう?
「あたしも、昔は一人ぼっちだって思ってたことあったけど…」
「なんで?……あんなに優しい家族がいるのに?」
「実はね……」
ふと漏らした一言が切っ掛けで、なのははユーノに自身の昔を語り始めた。
わたしのお父さんは、翠屋のオーナーになる前は偉い人のボディガートをする仕事をしていました。
御神流も、そうした仕事のために代々伝えられてきた剣術だそうです。
わたしが三歳の頃、翠屋を開く為に最後の仕事に臨んだあの日、お父さんは大ケガを追って入院をすることになり。
お母さんは翠屋の営業に、恭也兄ちゃんと美由希姉ちゃんと光兄は学校の合間のお手伝いで忙しく、わたしはみんなが帰ってくるまで、家で一人待つ事が多くなりました。
まだ小さいながらも、我儘を言ってはいけない。
迷惑をかけてはいけない。
我慢しなきゃ……耐えなきゃいけない。
そう自分を抑えつけながらおくる毎日でした。
でもやっぱり……一人でいることが…傍にいる人が誰もいないことが、寂しくて寂しくて…わたしは誰にも必要とされない。
いらない子なんだって…何もできない、取り柄がない子だって……何度頭を過ったか…そんなある日のことでした。
光兄がいつもより早く帰ってきました。
この頃の私はまだ『光兄ちゃん』と呼んでいました。
光兄は、灯りも点けずに待ってたわたしを見て、心を痛めたのでしょう。
「寂しくないですか?」
お馴染みの丁寧な言葉遣いで自分を心配してくれました。
でも心配させちゃいけないと思った私は無理に笑って。
「大丈夫」
と言いました。
その日の後も、光兄は毎日早く帰って来て、傍にいてくれました。
でも、素直になれない私はある日。
「大丈夫だから、我慢するから!なのはを放っておいて!」
「ずっと、なのはを一人にしたのに! どうして! 一緒にいてくれるの!?」
と言ってしまいました。
直ぐにこんなこと口走ったことに後悔し、小さいなりに相手から愛想をつかれたと思ってしまいました。
そしたら…光兄はわたしを抱きしめてくれました。
何も言わずに、強くも、せつなくも、優しく。
そしてただ一言。
〝一人にさせて…ごめんね〟
言葉とともに、その想いを抱擁で伝えてくれました。
いらない子だって嫌なことを考えてた自分が…心配させてしまった自分が…何より何もできない自分が許せなくて…そして自分を抱きしめてくれたこと、一緒にいると言ってくれたこと。
それが、とても嬉しくて…その時、溜めこんだものが一気に溢れ出ました。
その後は、その言葉の通り、翠屋の手伝いも行いながら、できるだけ自分と一緒にいて、遊んで、笑ってくれました。
わたしも、そんな兄を素直に何度も甘えたりしていました。
その頃からです……私が〝光兄〟と呼ぶようになったのは―――
「そ…そんなことがあったんだ…」
「な、なんか…色々と重くなっちゃったね…」
なんとか、話題を明るいものにしなきゃ……なのは不自然にならないように、話の内容を軌道修正しようとする。
「そう言えば、ユーノ君の家族って」
「ああ、僕は元々一人だったから…」
「え…そうなの?」
ユーノによれば、彼の両親は発掘作業中に起きた落盤事故で帰らぬ人となったとのこと。
場を明るくするつもりが、逆に墓穴を掘ってしまった。
彼と違って、なのはは親兄弟全員いるだけに、なのははどう答えればいいか、言葉が見つからない。
どうしよう……と困惑で冷や汗が額から一筋流れた。
「いや! 確かに両親はいなかったけど、部族のみんなに育ててもらったから、一族みんなが、僕の家族なんだ」
言い淀むなのはに気づいたユーノは慌てて心配させまいと返した。
「そっか…」
考えて見れば、ジュエルシードを集めることに時間を費やしていたから、こうしてゆっくり話すのは久しぶり………と言うより、初めてのことだろう。
「雑談ですか?二人とも」
噂をすれば光兄が、昼食のトレイを携えて隣にやってきた。
昔のことを思い出して話していたせいか、なのはは兄の顔を目にしたら、途端急に恥ずかしくなって顔が赤くなり出し、そっぽを向いた。
「どうしましたなのは?」
「え…ううん、な、なんでも無いよねユーノ君」
と言ったものの、顔は赤いままなので『なんでもない』と説得させる効力など全くない。
「あ、えーと、そうだね」
「………?」
笑ってごまかそうとするけど、やっぱり駄目……かな。
そう考えていた時、突然艦内にアラートが鳴り響いた。
『エマージェンシー!捜索域の海上にて、大型の魔力反応を探知!』
同時に緊急事態を知らせるアナウンスが響く。
けたたましい大音量を前に、三人は即座に気持ちを切り替えて、アースラのブリッジへと向かった。
海鳴市とさほど離れていない太平洋のある海域に張られた結界内では、波が荒々しく蠢き、どす黒い雲は、台風並みの風と雨を起こしていた。
その真っ只中に、フェイトとアルフはいた。
何を隠そう、この異常気象を起こしているの張本人のフェイトなのだ。
アースラと同様に残りのジュエルシードが海にあると踏んだ彼女がとった行為は、余りに無謀すぎるものであった。
「撃つは雷、響くは轟雷、アルカス・クルタス・エイギアス…!!」
九つの魔力スフィアから稲妻がほとばしった。
以前、海鳴市街で行ったことと同じく、ジュエルシードに魔力を撃ち込んで強制発動、位置を確認し、再封印を行うと言うもの。
だがその以前と違って、今度はそれを6個まとめて行おうとするものであった。
当然、魔法もその分大掛かりなものになる。デバイスのサポートで発動に必要な詠唱は最小限に抑えられるが、大規模魔法となると、術者が直に自分の言葉で詠唱することを余儀なくされる。
彼女の恵まれた魔力量でも、その大半を奪う大規模な魔法の雷撃だった
(海ん中の6個を全部ブン捕まえるなら、このプランが一番……だけど)
相手は下手するとゼロの世界の怪獣以上の被害を及ぼす怪物。それを一気に6体を無理やり起こして、その6体相手に消耗した体で戦うのである。
プランと表現するには、荒っぽく無茶で、リスクが高くつく行為であった。
稲妻は荒れる海原に降り注がれると、撃ち込まれた海中から、青白い光を輝かせる。
ジュエルシードが発動したのだ。
それも6個同時。
「はあっ…ああっ…見つけた…」
海中を照らす光は、さらに輝きを増し、それに呼応するように、波が生き物のようにざわめき始める。
これだけの魔力を撃ち込み、更に全てを封印するなんて……こんなの、フェイトの魔力でも、絶対に限界を越えている。
アルフですら、フェイトの行為は無茶の極みだと判断せざるを瀬ない。
現に大技の行使で、もう既にフェイトの息は荒く、疲労が溜まり始めている。
執念場とは正にこのことだ。
地道に一個ずつ探す手もあったが、もう彼女のメンタルにそんな余裕は残されていない………さっきフェイトが提案してきた時、当然無茶だと反対したが、結局押し切って実行に移してしまったのだから。
「アルフ!空間結界とサポートお願い!」
「ああ!任せといて!」
今……自分にできるのは、彼女をサポートし、守ること。
アルフはそう自分に言い聞かせながら、眼前の大波に挑むのであっだ。
艦橋に入った光、なのは、ユーノの三人は、モニター越しにその状況を見ていた。
「光兄、フェイトちゃんは何を?」
「この前のように、強制発動で位置を割り出した後封印する魂胆でしょう、でも今度のは規模が違いすぎる……」
「なんとあきれた無茶をするのかしら、あの子………」
「無謀ですね……間違いなく自滅するでしょう、あれは個人が出せる魔力の限界を超えている」
なのはは光、リンディ、クロノの三者三様の言葉から、少なくとフェイトが危険な状態にあることを理解、映像越しに見ても、極度に疲労している体に鞭を打ち戦い、苦戦を強いられていることは一目瞭然。
「あ、あの、わたし急いで現場に!」
「その必要は無い」
モニターの向うへ急行しようとするなのはをクロノが引きとめる。
「彼女が消耗するまで、静観するおつもりですか?」
冷徹とさえ言えるほどの冷静で無感情な執務官の少年の口調から、光はクロノの意図を読み取ったらしく、彼に真意を問い。
「そうだ、たとえ自滅しなくても、力を使い果たしたところで叩けばいい」
淡々とした調子でクロノは肯定した。
「でも!」
非情な宣告。
だが正論であり、この場において最も合理的な選択肢である。
どう足掻いても、フェイトが行おうとしているのは、個人的な理由(エゴ)から来る違法行為であり、犯罪であり、まだ幼い少女であるとしても、覆しようのない事実。
「捕獲の準備を」
「了解」
なのはたちをよそに、クロノは年上の部下であるクルーに指示を出した。
「残酷に見えるかもしれないけど、これが現実、わたしたちは常に最善の選択をしなければならないの」
最善の選択、組織の人間は時に私情を捨ててことに当たらなければならない。
が、光はともかく、小学生のなのはには納得しろと言われても、無理な話であった。
とは言え、命令を聞くという条件でアースラに同行しているため反論もできない……だが目の前には、魔力刃を形成するだけの力も残っていない、満身創痍の少女がいる。
けど、冷静に考えてみればなのは一人が、向うに行くだけで事態が好転するとは限らない。それどころか、 今までみたいに妨害に来たと思われて……余計事態がややこしくなる危険性もある。
ジュエルシードを集めるのことが、フェイトという少女が縋る、たった一つの希望であり、でも決して褒められたことでもないと、なのはとて理解している。
けど……このまま放っておいたら……1個だけでも危ないのに、6個全部が暴れることを許していたら、危ないでは済ませれない事態になる。
どうしたらいいの?
どうにかして、フェイトを止めたいのに、助けてあげたいのに。
拳に力が入り、迷いの迷路に嵌り、抜け出せなくなりそうになる寸前。
「(何そんなとこで油売ってんだ?)」
なのはの脳裏に念話――テレパシーで声が響いた。
「(勇夜さん?)」
その相手は、自分とフェイトを何度も助けてくれた、諸星勇夜その人。
「(リンディたちの言い分に間違いは無いさ、俺も〝正しい〟とは思ってる、けどな、なのはのフェイトへの想いは、その程度のもんだったのか?)」
先程のクロノの発言とは対照的に荒っぽいが温かみのある言葉が響いてくる。
「(でも…)」
「(命令無視の落し前は僕たちがつけます)」
「(光兄…)」
「(なのは、あの子の元に行ってあげて、僕も一緒に行くから)」
「(ユーノ君)」
次元を超えてやってきた二人の巨人と一人の少年がなのはの背中を押して行く。
いけないことは自覚している。
でも、正直な気持ち、今直ぐにフェイトの下へと行って、彼女の危機を救いたい想いは、強く心に巡っている。
行かなきゃ、このまま立ち止まっていたら、絶対後悔する。
ここで助けあげれれなきゃ、その頑なな心を捕える運命から、フェイトを救ってあげられない。
それに、同じ想いを持ってるのは自分1人だけじゃない。気持ちを共有している人たちが確かにいるのだと噛みしめた時―――なのはの脳裏に閃きが走った。
そうか……ようやく今、勇夜から出された〝宿題〟の答えが……掴めた。
自分が、あの寂しい目をした女の子と、どう向き合いたいか………ようやく形がはっきりと現れたのだ。
「(ユーノ、僕の鏡で防護しますから、その間になのはと転移を)」
「(はい)」
光はなのはとユーノに向けて手を翳すと、十字架状のクリスタルが球体状に二人を包み込んだ。
「君たちは!」
何をしようとしているか察したクロノは、止めようとするが。
「待っただぜ」
光のすぐ横の床に魔法陣が出現、そこからこの場に転移した勇夜がクロノを制止した。
「ありがとう、光兄、勇夜さん!」
なのはのお礼の言葉に、二人は頷いて返す。
無言の頷き……ただそれだけで二人から、勇ましさと頼もしさを感じた。
「今の内に行け」
「分かりました、妙なる響き――光となりて――我らを彼方の地へと羽ばたかせ」
ユーノの呪文詠唱が終わるとともに、転移用の魔法陣と一緒に二人はその場から消えた。
「君たち! 今何をしたのか―――」
先程の冷徹さは既に消えたクロノは、語気を強めてなのはたちの独断を許した勇夜たちを問い質した。
「説教なら後であいつらの分まで聞いてやる、けどこのまま呑気に待ってたら、色んな意味で手遅れになっちまうんだよ」
「今はあの子の結界で外界への影響は防がれていますが、その維持もままならなくなるのは時間の問題です、あなた方の〝最善〟で、海鳴市を危険に晒すわけにはいきません」
対して二人は毅然とはっきり返す。
彼らの表向きの言葉の裏にある想いの形は、至ってシンプルだ。
小難しい理屈などない、なのはと同じ、助けたいと思うから、助ける。
沸き上がる感情(おもい)だけで充分、その心のままに、彼らは足元に魔法陣を敷き。
「そういうわけだから、先に言ってるぜ」
勇夜と光―――二人の戦士は、魔法使いである彼女たちを助けるべく、その場から消え去っていった。