ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

26 / 83
タイトル通り、なのはのアレが初登場する回であり、フェイトがこれがウィザードだったら確実にファントムが生まれちまうくらいの絶望を突きつけられるフェイトファンにも辛い回です。

ちなみに星の光をばっ放した後にあるやり取りですが、あれはある意味『絶対なのはを魔王にはさせねえよ』なんていう宣言でもあります。
ネタ的に扱うのは問題ないけど、なのはって本当は言葉でお話したいけど、どれがどうしても叶わないから戦っているのであって、トリガーハッピーの筈がない(ただ戦うと決めてトリガーに指掛けるまでの時間が早いので、悪魔どうたらなんて言われちまう)


EP25 - 星の光、絶望の宣告

 信じられない。爆煙の合間から、バリアジャケットの破損が酷い状態ながら、未だ大地を踏みしめるかのように佇む少女にフェイトは己の目を疑う。

 どうして………あれだけの攻撃を受けて、なぜまだ飛んでいられるの?

 疑問はつきないが、なら、反撃される前に、自分も今の攻撃で消耗が激しいけど、魔力ダメージで昏倒させるだけの余力なら相手よりある。

 負けない、こっちだって、負けられないんだ!

 意志を固め直して、踏み込もうとした瞬間だった。

 四肢に突如、何らかの圧力が加わり、体が前進できなくなる。

 見下ろすと、自分の両手両足が、桜色のリングに縛り付けられていた。

 バインド! いつの間に!? どこにそんなタイミングが?

 必死でフェイト心当たりを探り、行き着いた。

 まさか……ファランクスシフトの前準備の、あの時に。

 それはフェイトが、スフィアの制御に集中するあまりに生じた、致命的な隙。

 

 

 

 

 

『まだ動けますか? マスター』

 

 使い手たる主が、疲労困憊ではあるものの、その心の熱さと強さは未だ健在なのは分かっていた。それでもレイジングハートはなのはのコンディションを確認するべく問う。

 無論答えは――

 

「もちろん!レイジングハート!」

 

 ――であると、聞く前から把握できていた。

 ならば自身は、彼女の意志に応えるべく務めを果たすだけ。

 

『Comprehension -- Canon mode 』

 

 砲撃形態へと移行するレイジングハート

 

 

 

 

 

 ユーノとアルフは自分が見ている物が信じられなかった。

 100発以上ものの魔力スフィアによる波状攻撃を受けて、未だに飛んでいられるなのはの勇姿に対してだ、

 尤も、何発かは直撃を受けている、決してダメージが無い……という訳ではない。

 現にバリアジャケットの布地は傷だらけで、布の下のなのはの体にはいくつも痣ができていた。

 

「(実はひやひやしてただろ?)」

「(バレてましたか?)」

「(奥の手の準備とはいえ、あれだけの波状攻撃を受けてるとこ見せられたら、冷や汗流れるさ)」

 

 ユーノたちと反対に、勇夜たちは多少冷やっとさせられたものの、あのフェイトの大技を耐えきれる確信があったのでそんなに驚いていなかった。

 なぜかと言えば、遠くからでも認識できる彼女の意志の強さが、その確信を強くさせていたのかもしれない。

 

「でも、現状から見て砲撃を撃てるのは一発分………もしあれが耐えきられたら」

「心配ありませんよ、ユーノ」

「え?」

「なのはが今ぶっ放そうとしてるのは、盛大な〝前置き〟なんだよ」

「前置きって………アタシから見ても、とてもなのはにはフェイトのファランクスみたいな大技を使える魔力なんて」

「確かになのはにはそんな余裕はねえ、でも魔力は使ったら跡形もなく消えるもんだったか?」

 

 光を除いて、勇夜の発言を理解できる者はこの場にはおらず、アルフとユーノは首をかしげるばかり。

 

「まあ、とにかく見てれば分かる」

 

 

 

 

「今度はこっちの――――――番だよ!!」

 

 魔法陣を組み、砲口たる金色の刃先をフェイトに向け、桜色の光が集まりだした。

 余剰魔力と熱を放出する機能がある桜色の光の翼が広がり、レイジングハート砲口に、魔力は球体状に蓄えられ、なのははトリガーを指に掛け――

 

「ディバァイィィィィン――――――」

 

 ――引き金を、引く。

 

 

 

 

 

「バスタァァァァァァァァーーーー!」

 

 

 桜色の魔力の奔流が、フェイト目がけ押し寄せる。

 フェイトは今バインドで動けない、よって回避は不可。

 

『Round shield』

 

 どうにか左手を拘束したバインドを解き、唯一動かせるその手で、魔力障壁を張って受け止めるしかできなかった。

 防御魔法は得意では無い彼女だが、破られまいと耐える。

 あの子だって…限界のはずなのに……でもこれを…耐えきれば…あの子だって耐えたんだから…私だって。

 体内の魔力(のこりかす)を絞りながら、必死に耐え続けるフェイト。

 たとえグローブが破けても、全身の防護服がさらにボロボロになっても。

 マントが彼女の襟から離れ、海に落ちても…破られまいと、もがく。

 防護服の損傷していない箇所が皆無になるほどの痛々しい姿になるが、そうれでもどうにか、桜色の魔力流ををしのぎ切った。

 流石に、第二撃を放てる魔力は無いだろうと踏み、そのままバインドを解き、反撃に移ろうとするが、ふと…気がついてしまった。

 周りの空気中の魔力が、嵐が来る前の雲のように静かに、かつ急激に空へと吸い込まれていることに、そして…前方にいたはずのなのはが高度遥か上空へと上げ、浮遊しつつ。

 

 

〝使い捨てられた魔力を、掻き集めていることに〟

 

 

 先程も前述したが、あの渾身のディバインバスターの一撃はあくまで……壮大な前振り……であった。

 

 

 

 

 

 

 ユーノたちは光の言葉で初めて、なのははやろうとしている……その特大の〝切り札〟の何たるを理解した。

 そしてその確信を裏付ける――

 

「使える魔力なんて、この辺にはいくらでもあるじゃねえか」

 

 ――勇夜の発言と、上空に上がったなのはの目の前に集まる魔力の光球が、疑いようの無い証拠だった。

 

「集束……砲撃」

 

 

 

 

 

 

 今までの戦闘で、自分敵味方関係無く使いきれずに空気中に漂っている魔力残滓を再利用して集め――

 

『Starlight Breaker』

 

 ――体を通さずに、直に操作し使用する最上級技術、《集束魔法》。

 それを実際に披露した勇夜の魔導を元に、集束技術を最大限に生かした、なのはとレイジングハートが知恵と戦術を練って作り上げた技、それが加速度的に巨大化する光球であった。

 光はなのはが見えなくなるくらい大きくなり、怪獣やウルトラマンら巨人たちをも呑みこむほど巨大となり、輝きを増していく。

 それは正に名付けられた魔法名の通り、《星の光》だった。

 まだバインドの効力は続き、片手以外身動きがとれないフェイト。

 とれる手段はもうほとんどない。

 バインドを解こうにも、発射するより前に解除する時間も体力すらも残されていなかった。

 

「受けてみて!」

 

 これがなのはの全力全開、渾身の一撃、集束作業は完了した。

 それでもここで諦める気を持たないフェイトは、気迫の叫びとともに5重に障壁を張る。

 その様に、トリガーをかけるなのはの指が、逡巡に震える。

 周辺の魔力をかき集めながらも、彼女の脳裏には切り札を使うことなく勝つという儚い展望も存在していた。

 あれだけ摩耗すれば、これほどの魔力量を前に戦意を喪失させる可能性もあったからだ。

 フェイトにはこれ以上、報われぬ戦いを続けさせてほしくないさえ思っていた。

 いけない、と、芽生えた後ろ向きな躊躇いを払うなのは。

 今の彼女は、背水の陣でこの場に臨んでいる。

 半端な情けごときで彼女は止まれないし、止められないのだ。

 なら、自分も半端を捨て、全力で応えるのみ。

 彼女の意志が、再び強固に研ぎ澄まされた瞬間。

 

『Target,Lock on』

 

 レイジングハートの照準がフェイトを捉え、集束作業も完了。

 

「スタァァァーーーライト!―――――」

 

 なのはは男ですらたじろかせる声量を地上に飛ばしながら。

 

「ブレイカァァァァァァァァァァァァ―――――――――――!!!!!」

 

 解放のトリガーを、押した。

 球体の殻から解き放たれるのは、純粋な桜色の魔力の荒波。

 それはフェイトの5重の障壁を容易く破りmそしてフェイトの視界は白く染まり………何も見えなくなり、意識がブラックアウトした。

 

 

 

 

 

 余りに強すぎる魔力の閃光は、爆風とともに雨粒となって拡散し、広がり。

 ビルは次々とその衝撃に、ガラスが粉々に砕け散り、強度が耐えられる限界を超えて倒壊。

 追い打ちに魔力の荒波の直撃を受けた海は、津波という名の凶暴な巨大生物となって暴れ狂い、結界内の建築物を容赦なく呑みこんでいく。

 勇夜たちは、あらかじめなのはよりも上空へ飛んで退避していたので無事ではあったが、爆発の余波はここまで飛んできた。

 爆発が収まった後に広がるのは、廃墟、その表現だけで充分だ。

 海はまだ荒れ気味でささくれ立ち、爆発を免れて無事な建物は、一つも残っておらず、辛うじて倒壊していないビルも、痛々しくヒビと抉られた傷が見受けられボロボロであった。

 星の光によって起こされた津波に浸水された街は正に…ゴーストシティそのものだった。

 災害を直に体験した者なら、その光景を前に悪夢の再来とばかり、内に撃ちこまれた心的外傷(トラウマ)を再発させてしまうだろう。

  その中を、なのはは大技を使った疲労がまだとれない中、フェイトを探していた。

 最初から全力で戦うことになってたし、威力に反して、非殺傷に設定した上での攻撃なので外傷は無い。

 だが、意識を失って海に墜落することは明白だった。

 やり過ぎたよね…戦ってる時は殺し合いとまではいかなくとも、譲れない目的のために死力を尽くしていたので気にする余裕はなかったが、TV越しでしか見たこと無かった惨状を前に、なのはは流石に表情を曇らせながらフェイトを探していた。

 

「(なのは、こっちです)」

 

 とそこへ、光からの念話が来た。

 兄が指定した場所に飛んで行くと、倒壊したビルの一つに、光と勇夜と仰向けに倒れているフェイトがいた。

 フェイトが海に落ちる寸前、光が勇夜をミラーアイズに映る鏡面から『ナイトムーバー』で海面にワープさせ、勇夜は彼女を救いあげ、その足で近くのビルに移動したのである。

 

「光兄…」

「大丈夫です、気を失ってるだけですよ」

 

 なのはは横たわるフェイトを見つめる。

 すると丁度いいタイミングで、彼女は意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けた。

 フェイトの最大の敗因は、やはり『攻撃への傾倒』だった。

 攻撃することに拘り過ぎるあまり、周囲への配慮が疎かになる。

 魔法の先生であったリニスからも常々指摘されている点だった。

 もし、網――バインドが張られていることを先に気付いていたら、強力だが隙が多く、直線的で見切りやすいなのはの砲撃をまともに受けることにはならなかった。

 勇夜の見立て通り、フェイトは切り札の出し時を見誤ったことで、敗北の味を味わうことになったのだ。

 

「ごめんね…大丈夫?」

 

 自分を見つめるフェイトに謝罪の言葉を言った直後、それは何の前置きもとることなく起きた。

 パコン!

 どこか間の抜けた擬音と同時に、痛みがなのはの頭に響く。

 

「イタ!…いきなり何? 光兄、勇夜さん」

「「やり過ぎだ(です)」」

 

 なのはにゲンコツを見舞った張本人である勇夜と光と、リンクはほぼ同時にはもって彼女に突っ込んだ。

 相手は一応…………〝一応〟………小5の女の子なので手加減はしている。

 

「まったく…バインドかけられた一人相手に何ドデカいのぶっ放してんだか……いくらなんても鬼畜過ぎるだろ…」

「結界内で非殺傷とは言え、明らかに過剰暴力ですよ」

『それにまだまだ集束の詰めが甘いですね、その結果被害がここまで拡大したものと……はっきり申しますと、〝下手っぴ〟……です』

「確か『スターライトブレイカー』とか言ったか?意味は星の光なんだろうけど、むしろ『星を軽くぶっ壊す殲滅砲』って言った方がだいたい合ってるような…」

「言い得て妙ですね、私もあれは、魔法と言うより魔の砲撃と書いて魔砲と呼んだ方が正確だと思います」

「その表現に違和感を感じないのが怖いわ……そんであんな天使みたいな姿で、あんな『魔砲』使うんだ、天使は天使でも、告死天使か……堕天使……」

「いいえ、堕天使という表現では生ぬるい、もう悪魔と呼ぶのが相応しいです、最悪……『魔王』に昇華するかもしれない…」

『今の魔法の破壊力を計算してみましたが、地球で現存する大量破壊兵器と、過去地球で起きた自然災害を上回る数値結果が導き出されました』

「やべえんじゃねーか……このままじゃお前の妹さん、光の国からもヤプールとかJUDAとかエンペラ星人とか、ダークザギ級の脅威だとレッテルを張られるんじゃ…」

『将来本人の意思に関係なく、周囲から〝管理局の白い悪魔〟〝白き魔王〟〝冥王〟〝覇王〟と言った異名を付けられるかもしれません』

「不味いですね、私がその前になんとか、教育しておかなければ…」

「あ…あの、勇夜、リンク…あと…リヒト…さん…でしたよね…」

「「何だ(何ですか)?」」

 

 加減? 何それおいしいの? 的な、ボロクソに言いたい放題に毒気の利いた暴言を発しまくる3人に、フェイトが恐る恐る尋ねてきた。

 

「それ以上……言わない方が……良いと思うのですが…」

「何言ってんだ? 一番の被害者はフェイトだろ………正直まだ言い足りねえぞ」

『〝悪魔〟を誕生させないためには、これくらいの荒療治は必要です』

 

 フェイトの提言に、二人はドヤ顔で即答。

 

「でも……もういい…もういいから…気持ちは十分受け取ったから…やめてあげて……でないと…」

 

 指さしながら答えるフェイト、その方向に目を向けると。

 

「見ないで…光兄…フェイトちゃん…勇夜さん……こんな醜いわたしの姿を………見ないで………」

 

 『堕天使』やら『悪魔』やらと、言いたい放題ボロクソ言われたご本人は、かの義兄の引きこもりモードを彷彿とさせる体育座りで、どんよりとしたオーラと黒い縦線を漂わせる状態になっていた。

 

「なのは?一体どうしたの!?」

「ユーノ君も見ないで……わたしは歪んだ『魔砲少女』……なんだから…」

「な…何を言ってるの?」

 

 遅れてやってきたユーノが駆け寄るが、落ち込むなのはから零れる言葉の羅列に戸惑うばかり。

 

「勇夜、光……これはどういう騒ぎだい?」

 

 アルフも、この惨状を前に尋ねてくる。

 

「アルフ……これも世の為人の為、世界を守る為だ」

 

 真剣そのものなのにどこか笑いを誘うコミカルさもある表情で、勇夜は答えた。

 

「あ……そう……なんだ」

 

 アルフもこの惨状に思うところがあるのか、それ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

 

「なのは…」

「光兄………いいんだよ慰めなくて……分かってるもん、わたしが怪獣より物騒な怪獣だから」

 

 珍しく光にそっぽを向いたなのは。

 言いたい放題ずばずば言われて、すっかりご機嫌斜めなモードとなっていた。

 兄たちのズさっと突き刺してきた言葉の数々の意図は、彼女とて理解している。この惨状を見れば、ああ言われても仕方ない。

 魔法で作り出した結界(せかい)は、なのは渾身の切り札たる《スターライトブレイカー》で、世界が滅亡してしまったかのような光景となっていた。

 なぜこの名前になったかといえば、シミュレーターで練習中、集まっていく魔力の粒子一つ一つが、星の光のように見えたから、その技名になった。

 我ながらゾッとする程の威力を見れば、勇夜が揶揄していたように〝星を軽くふっ飛ばす砲〟なんて表現されてしまうのも無理ない。

 けど……自分だって一応〝女の子〟なのだ。

 さっきの兄たちのやり取りで出てきた一連の〝名前〟は、勇夜の言い様を見る限り、ウルトラマンにとっても強敵な……それこそアニメ等のラスボスに相当する存在なのは違いない。

 そんなボスキャラたちと同列に見なされるのは、いくらなのはでも、自身の心の中の〝女の子〟としての一面にダメージが響くのは避けられなかった。

 

「さっきは流石に言い過ぎました……でも……力を持つと言うことは、自分がどう思ってようと関係無く、誰かから、〝悪魔〟と呼ばれる覚悟を持たなければならないんですよ……確かになのはのフェイトを助けたい気持ちは本物でしょう、しかしフェイトから見れば、目的を邪魔するなのはは、悪魔に見えたはずです、私たちは神様にはなれませんが、悪魔にはなれてしまう人間(いきもの)ですから…」

「………………光兄…」

「それに魔法には、非殺傷というストッパーがありますが、本当にストッパーを掛けなければならないのは、それを使う人間自身、自分の『心』なんです」

「それって…どういうこと?」

「今はまだ無理に理解しなくてもいいです…ですが、今言ったことは絶対に覚えておいて下さい、そして…どんな力を得ようと自分は〝一人の人間〟でしかないことも忘れぬことです、なのはが……これからも魔法使いを続けていくのなら尚更、いいですね?」

「………うん……分かった」

 

 兄の言葉の意味をきちんと理解するのはまだ先になってしまうだろうけど………自分の為を思ってのこと……ということはちゃんと分かるし、これがその時まで兄がストッパーを務めるって宣言だってことも。

 そう思うと……さっきまで斜めだった機嫌は一転して、どこか嬉しさがこみ上げてくるのであった。

 

 

 

 

 

 さて、緩んだ空気もここでお開きとする。

 

 

 

 

 

「アルフ…………」

 

 数日振りの姉妹とも言える、主と使い魔の再会。

 でも…まるで長い間、会ってなかったような錯覚さえ覚える。

 何て言ったら良いんだろう?

 アルフが、母さんの仕打ちに我慢できなくて反抗したけど、返り討ちにあって、勇夜を頼って今ここにいることは自分でも理解できる。

 頑固な私を思うあまり、ずっと辛い思いをしてきたことも……なのに…私………言葉が見つからない、何て薄情な子なのだろう。

 

「えっ?」

 

 突然、アルフはフェイトを抱き締めた。

 

「ごめんね…傍にいるって言ったのに…あたし…」

 

 今はアルフの顔が見えない恰好だが、泣いていることは明白だった。

 

「これであたしたち御用だってことは分かってるさ、でももう、母さんのためだからって、罪人紛いのことなんか、しなくていいんだよ…」

「アルフ…」

「おとりこみ中のところ悪いが…」

 

 わたしたちは彼の方を見る。

 わたしたちのやってきたことは危険で違法だと言いながらも、本当に危ない時はいつでも助けてくれた。

 諸星勇夜…ウルトラマンゼロ。

 そしてその横には―――

 

「フェイトちゃん」

 

 ―――何度も戦いながらも、

 

「ごめん…やり過ぎちゃったよね……」

 

 いつでも私と、向き合おうとした。

 白い魔道師………高町なのは。

 

「悪いが約束は約束だ………ジュエルシードを」

「うん…」

 

 彼はいつでも〝危ない時は助ける〟という約束を守り続けた。

 なら、自分も守らなきゃいけない。

 そういう約束で、ここに来たのだから。

 

『Put out』

 

 保管しているジュエルシードをバルディッシュから取り出して、それを今果たそうとした時だった。

 

「きやがったな…」

 

 空を見た勇夜がそう呟き、自分も空を見上げると、青い色に染まっていた空が雷鳴を轟かせながら蠢く雲に覆われた。

 

『高次魔力確認! 魔力波長は、プレシア・テスタロッサ! 戦闘空域に次元跳躍攻撃…勇夜くん!みんな!』

「かあ…さん」

 

 雷雲から、図太い魔力の雷が一同に降り注ぐ寸前。

 

「デュア!」

「ミラー!スパーク!」

 

 二人は変身、なのは、フェイトたちを連れてその場から光となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 アースラでは、降り注いでくる魔力の稲妻を、艦に搭載された魔力シールドで防ぎながら。

 

「魔力発射次元特定! 空間座標確認!」

「転送座標セット!」

 

 クル―たちが時の庭園の居所を突き止める。

 そして、予め突入に備えて、艦内の転送ポートで待機していた武装隊の魔導師たちは。

 

「突入部隊、転送ボートから出動!任務はプレシア・テスタロッサの身柄確保です」

 

 リンディの指示とともに庭園内へと転移した。

 丁度そのタイミングで艦橋室に入る者たちがいた。

 先程の戦闘空間から帰還した一同である。

 

「お疲れ様」

「すまねえ、フェイトが持ってた分は捕られちまった」

 

 まさかあの状況下で、抜け目なく転移魔法で露わになったジュエルシード持ち去るなんて……やはり大魔導師で、あのフェイトの母親であるだけのことはある。

 

「全員無事で戻ってこられただけでも良かったわ、後はわたしたちに任せて」

「それからフェイトさん、初めまして」

 

 リンディは今は拘束服を着て、愛機を掌で握りしめているフェイトに自己紹介をする。

 対して、彼女は俯いたまま答えない。手錠までは付けられなかったが、拘束着を着た姿がその痛々しさに拍車をかけていた。

 無理も無い、先程振りそそいだ雷撃は海上での一件以上の威力で、勇夜たち諸共巻き添えにするつもりで撃ってきた上に、多分その瞬間……念話でプレシアから何か言われたのだ。

 あくまで予想でしかないけど、〝もういいわ〟などと、あいつは抜かしたのかもしれない。

 

『プレシア・テスタロッサ! 時空管理法違反、及び管理局艦船への攻撃容疑であなたを逮捕します!』

 

 マイク越しから罪状を述べる局員の一人の声が響き、勇夜たちはモニターへと目を向ける。

 画面には局員たちに囲まれながらも、悠然と玉座に座るプレシアが映っていた。

 最初こそ不敵に笑みを浮かべてはいたが、局員たちが『彼女』が眠る部屋に繋がる扉を見つけた瞬間、形相が鬼のように豹変した。

 

『何だこれは!? まさか―――』

 

 そして、例の部屋に入った局員たちによって……〝彼女〟の姿が明るみになった。

 言葉を無くす一同。

 

「(勇夜さん…あれが…)」

「(そうだ……あれがフェイトの……)」

 

 既に真実は知ってはいた。

 知っていた……知ってはいたんだ。勇夜に至っては、一度直に目にしている。

 だが分かっていても、理屈では理解していても……それでもやはり……実際目にすると、瞳にそれが映ると、心に重くのしかかってくる。

 モニターに映っている、生命維持カプセル内の液体の中を浮いている彼女と自分の容姿が瓜二つなフェイトなら尚更。

 

『わたしのアリシアに―――近づかないで!!』

 

 なのはたちと同様に呆然自失していた局員たちにプレシアはうち一人を、片手で、病人とは思えない力で投げ飛ばし、自らの雷撃を彼らにお見舞いした。

 突入から数十秒………武装局員は糸も簡単に全員戦闘不能になってしまった。

 

「武装局員を艦内に転移」

 

 光は咄嗟に、転移魔法で局員たちを庭園から連れ戻した。

 

「ありがとう、光くん」

「いいえ、それよりも」

「アリ……シア……」

 

 アリシア。先程の戦闘でフェイトの記憶に紛れ込んだであろう、真実であるが、彼女にとっては異物な存在である単語。

 

『たった九つのジュエルシードで辿り着けるかは分からないけど…もういいわ、全て終わりにする…アリシアを失ってからの暗鬱な時間も、身代わりの〝人形〟を娘扱いすることも…』

 

 フェイトの方を見る。口は半開きになって、大きく開かれた瞳は小刻みに泳いでいた。

 頭にハンマーを叩きつけられたも等しい精神的一撃が彼女を襲ったことが、明瞭に受け取れた。

 

『聞いていてフェイト?あなたのことよ…』

 

 勇夜は、罰の悪い表情を見せながらも口を開く。

 

「フェイト、実はな、今まで………黙ってたことがある」

「フェイトちゃん、実はね、フェイトちゃんが生まれる前に、プレシアさんにはもう一人娘さんがいたの」

 

 論より証拠、ここまで直に見せられてしまったら、本当のことを話すしかない。

 

「20年前に起きたプレシアが開発主任として進めていた、魔導炉実験の暴走事故、その時にね、画面に映ってるその子、アリシアはそれに巻き込まれて…」

「その後あなたのお母さんは、もう一度娘に会いたいが為に、アリシアの遺伝子を使って、そっくりの女の子を生み出し、その子に……彼女の生前の記憶も植え付けたんです………『アリシア』として…」

「フェイトちゃんの名前は……その…死者蘇生技術の、開発コードからとったの…」

 

 光とエイミィは、重い声色で二人の言葉を補足する。

 

「記憶転写型クローン技術……そいつの名前は……PROJECT……………」

 

 一度はためらいながらも、体の中に重りがあると錯覚するしてしまうほど、心に重荷を感じながらも勇夜はその名を口にした。

 

 

「………F.A.T.E」

 

 

 耳にしたフェイトは、さらに目を見開かせて、そのまま固まった。

 

「黙ってて…悪かった……でも……でも言ったらさ、フェイトがそんな顔をすると思って…言えなかった………ごめん」

 

 今のフェイトには、心は既にズタズタに切り裂かれて、自分の言葉に耳を傾ける余力はないとは分かっていたが、それでも詫びの言葉を口にする勇夜。

 

『その人たちの言う通りよ…でも駄目だった…せっかくアリシアの記憶をあげたのに……似ているのは見た目だけ…』

 

 それなのに、追い打ちは止まらない。

 プレシアは無慈悲に、フェイトが負った傷口に大量の塩を投げ続ける。

 

「やめろ…」

 

『作り物の命は所詮作り物、失ったものの代わりにはならないわ』

 

「やめてよ…それ以上言わないで」

 

『アリシアはもっと優しく笑ってくれたわ、アリシアは時々我が儘も言ったけど、私の言うことをとてもよく聞いてくれた、アリシアは、いつでも私に優しかった』

 

「エイミィ! 直ぐにモニターを切って下さい!」

「駄目!あちら側にモニターの操作が乗っ取られてる、こっちからじゃ時間が…」

 

『フェイト……あなたは私の娘じゃない。ただの失敗作………だから、あなたはもういらないわ。どこへなりと消えなさい!』

 

 

「やめて下さい!!!」

「黙れって言ってんだろ!!!」

 

 

 呪詛を振りまく母(プレシア)に、勇夜となのはの叫びが木霊する。

 

 もう良い。

 

 もう良いだろ。

 

 もう十分、手痛い真実をフェイトは知って味わった。

 

 自分がクローンだってことも。

 

 それでもアリシアとは別人であったことも。

 

 その事実がプレシアを狂わせたことも。

 

 今まで自分が、アリシアを蘇らせるための都合の良い道具としてしか見られていなかったことも。

 

 何もかも。

 

 だけど、そうだとしても言わなきゃ気が済まなかった。

 

「それでも―――この子はあんたが〝生んだ子〟だろうが!!」

 

 どうしても、それだけは言いたかった。

 血の繋がりだけが家族を作るものじゃない。

 以前フェイトに言ったその持論は曲げるつもりはない。

 けれど、確かにフェイトは、プレシアが生んだ女の子。

 それもまた、たった一つの確かな真実であるのだから。

 だが、無情にも。

 

『そうね………確かに私が生んだわ、でもね、良いことを教えてあげる……………フェイト……私は…あなたを生み出したときからずっと――――――――』

 

 それは、長い詠唱からくる呪いだった。

 一人の女の子を奈落に落とすための…呪い、そしてその呪いを完遂するための最後の言葉が―――

 

 

 

 

 

 

 

『大嫌いだったのよ』

 

 

 

 

 

 

 

 母である女性の口から、紡がれてしまった………彼女の心を壊す、最悪の一撃。

 呪詛の宣告を受けたフェイトはその場に崩れ落ち、掌に持っていたバルディッシュも床に落ち、彼女の今の心を表すように砕け散った。

 

「フェイトちゃん!」

「フェイト!」

 

 勇夜となのはは抱きかかえるが、その眼は虚ろで光が失われ、生気が感じられない。

 体は生者たる熱を帯びているのに、その姿は抜け殻な様相。

 二人の呼びかけにも、全く反応を示さない。

 

「ちょ、大変! 見て下さい! 屋敷内に魔力反応多数!」

「魔力反応……いずれもAクラス!」

「総数60、80……まだ増えます!」

「例の機械人形と思われます!」

 

 アルフからの情報の通り、プレシアは庭園に保管していたこの艦の戦力を上回る数のロボット兵を一気に起動させた。

 

「っ…プレシア・テスタロッサ…やはりあなたは…」

 

 勇夜くんが言っていた仮説の通り、彼女の目的は……忘れられた都への。

 

『私たちは旅立つの……。永遠の都、アルハザードへ! この力で旅立って、取り戻すのよ!』

 

 そして自分が今持っている9個のジュエルシードを取り出し、菱形の宝石は彼女の周りを浮遊し回り始めた。

 時の庭園から、物凄まじい揺れが起きる。

 ジュエルシードの輝きが増せば増すほど、振動は比例して増していく。

 

「次元振です、中規模以上」

「振動係数拡大! このままだと次元断層が!」

「ディストーションシールドで防御」

 

 大地が揺れる普通の地震と違い、次元振は空間そのものが揺れを起こす災害。

 そして断層は、地面と地面が割れて大きくずれる現象。

 それが空間レベルで起きたら、最悪その空間は消滅する。

 

「震度、徐々に増加しています!!」

「この速度で震度が増加していくと、次元断層の発生予測値まで、あと30分足らずです!!」

「あの庭園の駆動炉も、ジュエルシードもロストロギアです。それを暴走覚悟で発動させて、足りないエネルギーを補っているんです」

「…始めから、片道の予定ってことね」

 

 艦内は警報とアナウンスでごったがえしている。

このまま放っておけば、地球も、地球が存在する世界も巻き添えを受けて消えてなくなる。

 なのに………本当の人形のように、動かなくなってしまったフェイトから、目が離せなかった。

 その時。

 

「(ウルトラマン…ゼロ…)」

 

 プレシアが念話で勇夜に呼び掛けてきた。

 

「(何のようだてめえ―――)」

 

 脳内に呪い宣告をした者の声が響いた時、思わず……やるせなさで拳に力が入り、爪が掌にくい込んでしまいそうになる。

 

「(この子に……フェイトにこんなことをしておいて……今更―――)」

 

 何のようだ? 何さまのつもりだ?

 洗いざらい激情をプレシアにぶつけるつもりで、勇夜はモニターへと顔を見上げた。

 そこに映っている彼女にガン飛ばしてやろうと。

 しかし。

 

 ■■■■■…■■■■

 

 激情で歪んだ自分の貌がその言葉を前に、呆然となった。

 声に出さずに、口だけを動かして彼女はそう告げた。

 だけど、何を言おうとしたのか、俺は分かってしまった。

 そして……彼女の意図……フェイトを突き落とした意味も。

 その一言を最後に、プレシアとアリシアを映した映像が、途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラートとアナウンスが響く、アースラの中を勇夜たちは走る。

 その途中。

 

「クロノ!」

 

 年相応より見た目が幼い執務官と鉢合わせになる。

 

「クロノ君どこへ?」

「プレシアを止める…」

 

 いつもは小柄で童顔な容姿とは不釣り合いな落ち着きがある鉄頭だが、今のクロノの目には隠しても隠しきれない熱気がある。

 その熱気の心当たりはある。も、プレシアと同じ痛みと悲しみを、小さい時に味あわされている。

 同族嫌悪……とまではいかないが、彼女がこれからやろうとしていることに少なからず怒りがあり、断固阻止したいんだろう。

 

「同行する意志があるなら、止めはしないが、どうする?」

「わたし、行きます!」

「僕も一緒に!」

 

 なのはとユーノが即座に名乗り出た。

 

「光、なのはたちと先に行ってくれ」

「勇夜は?」

 

 本当なら、俺も直ぐに行くべきなのかもしれない。

 この船にいる武装局員がほとんど戦闘不能な今、時の庭園に殴りこんで次元災害を阻止できるのはここにいる者たちだけだからだ。

 庭園にいるガラクタどもに負けるほど、ここにいるやつらはやわじゃないが、一人でも戦力は多い方が良い。

 でも、どうしても今自分が抱えてるこの子から聞いておきたいことがある。

 それが望めるかどうかは……怪しいしけど。

 さっきのあの〝言葉〟に嘘偽りが無いとしたら、今のあの人は……ちゃんとフェイトのこと。

 だから、どうしても賭けてみたかった……フェイトの心にある確かな意志の力に。

 

「フェイトを医務室に連れて行ったら直ぐに行くさ」

「分かりました、行って下さい」

「ああ、アルフ!」

 

 転送ポートに向かう仲間たちを背に、俺はアルフを連れて、医務室に急いだ。

 

 

 

 

 

 

 アースラから転移されたなのはたちは、時の庭園敷地内に立ち、虫食いのように穴だらけな床を進んで行く。

 様々な色が混ざらずに渦巻いているマルチバースと次元世界の間に存在する『次元の狭間』には、宇宙と同じく空気が無い。

 ウルトラマンのような空気が無くとも生きられる超人でも無い限り、生存はできないが、時の庭園の周りには見えないフィールドを張り。

 その中を人工生成された空気と重力で満たしている。

 さらにバリアジャケットが、宇宙服の代わりを果たす生命維持機能を持つので活動はできた。

 もっとも重力なら、この庭園の直ぐ下にもあるのだが。

 

「ユーノは知っていると思うけど、この下の空間には気をつけて」

 

 クロノが忠告をする。穴の下には底が見えない暗闇が広がっていた。

 

「ユーノ君……あの黒い渦って…」

「虚数空間、そこは魔力素が分解される空間で、一切魔法が使えなくなる、飛行魔法も同じ、もし落ちたら重力の奥底(きば)に捕まって二度と戻れなくなる、気をつけて、なのは、光さん!」

「「了解」」

 

 いわば、強大で巨大なアリ地獄だと、眼下の渦をそう捉え、細心の注意を払いながら前に進むと、扉が見えてきた。

 クロノが杖からの魔力弾でそれを破壊。中に入ると案の定、先が見えなくなるほどの夥しいロボット兵が盛大に待ち構えていた。

 

「ここからは二手に分かれよう、なのはとユーノは最上階の駆動炉を叩いてくれ」

「クロノ君は?」

「最下層にいるプレシアを止めに行く、手伝ってくれるか?光」

「了解しました」

「もし、なのはたちに何かあれば、僕に構わず、S2Uの鏡面を使って行ってくれ」

「お気遣い感謝します、ですが今は―――」

「ああ、二人の道を開ける」

 

 光とクロノは魔法陣を展開。

 

『Blaze Cannon』

『Silver Cross』

 

 S2Uから、水色の魔力弾が轟音を鳴らして飛び立ち。

 

「シルバァァァァーーーーーーークロス!」

 

 ×字に構えたシルバーライトから、魔力刃バージョンのシルバークロスが放たれ、ロボット兵の数を一気にスクラップにして、相手方の態勢を崩した。

「二人とも、今の内に!」

「光兄、クロノ君!気をつけて!」

 その隙を突いて、なのはたちは上に繋がる階段へと飛んで行った。

 兵たちは直ぐに態勢を立て直して、残った二人に襲いかかるが。

 

『Stinger Snipe』

 

 クロノは複数の魔力光弾、スティンガーレイを複数生成して一斉射撃する魔法、スティンガースナイプで打ち貫き。

 

「申し訳ありませんが、ここは押し通させてもらいます!」

『Beam Saber mode,SET UP 』

 

 光は愛機の二振りの小太刀形態を変え、片刃が実体剣から黄緑色の魔力刃となる。

 消費量は上がるが、単純な切れ味なら、基本形態の『ショートセイバーモード』を上回る『ビームセイバーモード』だ。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 そして果敢にもロボット兵の群れに、身体強化の魔法を頼らずに相手方が視認はおろか、反応できないスピードで一気に踏み込み、御神の剣で優雅に舞うような太刀捌きで、一気に敵を切り裂き攪乱。

 さらに自らを高速回転して、遠心力を籠めた斬撃でロボット兵を切り刻む。

 

『Mirror lancer 』

 

 そして光の周囲に、魔力を集中させて作り上げた眩く光を反射するクリスタル状の突起、射撃魔法『ミラーランサー』が複数出現。

 

「貫け!!」

 

 室内ということもあり、一斉に掃射された全弾が、ロボット兵たちに突き刺さった。

 相手が魔導師換算でAクラスの力を有していても、たかがそれぐらいの脅威で引き下がる二人ではなく、むしろ圧倒する側に立っていた。

 

 

 

 

 

 戦闘が始まった頃、アースラの医務室では丁度勇夜がフェイトをベットに寝かせていた。

 魔力が消費されている以外は、体に異常は無い。

 やはり問題は彼女の心だった。

 心を物体にして表すなら、粉々に四散しているのが今のフェイトの心の状態。

 アルフは瞳の光が消えたままの主を案じながらも、室内に置かれたモニターに目を向けた。

 画面にはロボット兵相手に奮闘し、先へと進み続けるなのはたちの姿があった。

 

「勇夜…」

「分かってる…」

 

 主のことも心配ではあったが、彼女の性分的に、今の状況は自分たちが端を発して起きたことなのに、自分だけが何もせず静観するなんて真似はできない。 

 

「行ってやってくれ、直ぐ追いかける」

「ありがとう…」

 

 アルフは自身の意志をくみ取って背中を押してくれる彼に感謝しつつ、ベッドに横たわるフェイトに近づき。

 

「みんなのことが心配だから………あたしも…あたしができることをしてくるね」

 

 彼女の髪を、普段の彼女からは想像がつかない、母性さえ感じさせる優しさで、その眼を潤わせながら……ゆっくりフェイトの額を撫でた。

 

「これからは、フェイトの時間は全部、フェイトが使っていいんだからね……あたし、待ってるから…何年かかっても、待ってるからね」

 

 静かに囁き、勇夜を一瞥すると医務室を後にした。

 そして残った勇夜は、フェイトの横に立ち。

 

「付き合ってくれるか?相棒」

 

 時間的には現実では10秒も掛からないだろう。

 だが、この一日の中では確実に一番長い10秒だった。

 

『はい、マスターがまだ希望があると信じているなら、わたしもその可能性に賭けて、全力でサポートします』

 

 そして右手には彼女の愛機。

 

「お前も、まだ諦めてねえよな? バルディッシュ」

『Yes.sir』

 

 バルディッシュ。いつもの素っ気ない軍人口調ながら、エコーのかかった電子的な声色には、どこか力強さが感じられた。

 

「よし、行くぞ」

『はい、マスター』

 

 勇夜はリンクが嵌められた左手を、フェイトの額に翳す。

 勇夜の左手が光を発し、そこから光の粒子が彼女に降り注いだ。

 光のシャワー、《メディカルパワー》を照射し、フェイトの肉体を回復させながら、彼はテレパシーで、彼女の意識の奥底に入っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。