ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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EP30 - CALL MY NAME

 後に、『PT事件』と呼称される地球で起きたジュエルシードを巡る一連の事件は、一応の解決となった。

 が、次元断層を起こす寸前になったジュエルシードが原因で、周囲の空間が不安定になり、アースラは次元の狭間で立ち往生、なのはたちは暫く艦内で缶詰となる状態を余儀なくされてしまう。

 ただ一人、そんな環境下でもリンクの恩恵で問題無く次元を超えられる勇夜=ウルトラマンゼロは、裁判の為の資料収集との名目でアースラから飛び廻っていた。

 無論それも理由ではあるし、お世話になっているナカジマ家に里帰りの旨を報告するという理由もあるのだが。

 

「アルフさん」

「なんだいなのは?」

「さっき勇夜さんが目を真っ赤にしているのを見たんですけど…心当たりありますか?」

「あ~~それはね…まあ……勇夜は意外に涙もろいとしか言えないな」

「そう…なんですか…」

 

 アルフに聞く前に、兄の光にもなのははウルトラ戦士の涙のわけを聞いたのだが、彼も「ああいう人ほど、シャイで涙もろいのですよ」としか言わなかった。

 アルフも同じくらい目が真っ赤に腫れていたので、何か知っているのではと思ったのだが……でも、よく考えてみれば、理由は直ぐに分かった。

 誰よりも彼女に笑ってほしいと、願っていた光の巨人。

 はっきり言って、照れくさかったのだ。

 

 

 

 

 

 それから数日の間のこと……アースラ艦内のある一室。

 

「ユーノ、データのまとめはできたか?」

「できてます…ところでクロノ執務官」

「何だ?」

「僕は一応民間人であって、ここまで協力する義務はないはずなんだけど…」

 

 ユーノはアースラにて、ほぼ使いっ走り同然のポジションで、事件の後処理を手伝わされていた。

 一仕事終わればまた新たに一仕事させられ……ユーノから見ればブラック企業スレスレの酷使。

 そんな一応民間人のクレームに対し、少年執務官は――

 

「義務を押しつけた覚えはない、提案をしただけだ………違法スレスレの探索行をした上に、君は管理外世界の少女と少年に魔法を教えたんだぞ」

 

 ――一種の正論を盾に一蹴。

 基本不可侵と決め込んでいる以上、いくら非常時だとしても管理外世界に管理世界の情報と技術を教えるのは管理世界ではご法度な行為。

 それが結果として、事件の収束に一役買ったのだが……やはり違法スレスレはスレスレなわけで、そう易々と打ち消されはしないのが実情。

 

「勇夜は今でもフェイトたちの裁判を有利にするために尽力し、アルフも現地調査に積極的に参加している、君だけがそこまで関わる義務は無いと言い張るのか?」

 

 つまり、行き過ぎた責任感による独断専行と現地民を巻きこんだことをチャラにしたければ、グダグダ言わずに手伝いなさいという意味だった。

 

「そ…そんなことないです…」

「なら作業を続けてくれ…」

 

 こんないつも以上の素っ気なく棘がある態度で、執務官はユーノのクレームに応じていた、と言うかねじ伏せた。

 

「(悪いねユーノ君)」

「(ランディさん)」

 

 クロノの会話の後、ユーノと事件関連の資料整理をしているアースラクルーのランディが念話で話しかけてきた。

 

「(事件を未然に防げず、自分たちでは関係者を救えなかったかもしれないことに心中複雑なんだ……でも珍しいだよ、クロノ執務官が―――)」

「ランディさん」

「は、はい!」

 

 てっきりクロノにこっそり念話をしていたのがばれたと思いこみ、てんぱるランディ。

 

「計測データ、未記録のデータがあるようですが」

「ホントだ、ログを拾い直してきます」

「お願いします」

「(あ、それからね、クロノ執務官がエイミィ主任以外にまとめ系の仕事を頼むの珍しいんだ)」

「(そうなんですか?)」

「(ユーノ君の作業能力を頼ってるってことだと思うから、悪いけど頑張って)」

 

 無愛想な執務官のフォローを入れながら、ランディは退室した。

 

「僕も少し出てくる、引き続き整理を頼む」

 

 ユーノも心中複雑な気分を押し込め。

 

「……了解」

 

 と応じた。

 

 

 

 

 

「クロノ君」

「エイミィ」

 

 アースラ艦内の銀色に彩られた無機質な廊下で、鉢合わせになる執務官と副官。

 

「そっちはどう?」

「捜査資料はもうすぐ纏まるよ」

「そりゃよかった……それよりクロノ君、表情気をつけてる?」

「何がだ?」

「怖い顔してるとみんなが緊張しているんだから、勇夜君も『仕事中にまで、自分は今〝不機嫌です〟なんて顔するな』って前に言ってたでしょ」

 

 クロノは確かに優秀で、職務に忠実な執務官ではあった。

 とは言え、やはり彼もまだ15の微妙なお年頃の少年。

 若さゆえに、苛立ちを内に秘めるよう善処していても、周囲にはダダ漏れなことは度々あった。

 本人には申し訳ないが、その『不機嫌』な表情はともすれば、初見は無愛想に映る勇夜の普段の態度の方がまだまともに見えてしまう。

 

「別に……怒ったところで時間が巻き戻るわけでもない」

「クロノ君が〝別に〟と言う時は大抵怒ってる時なんだよね……それを顔に出さないでねって話」

「……………」

 

 こう堅物で近寄りがたい人物に、こういつでもフレンドリーにフォローしつつ接してくれる人物が周りにいてくれるのはありがたいことだ。

 日頃のちょっかいを除けば、エイミィは理想の副官と言えよう。

 

「今回ばかりは仕方無かったよ…事態を把握するのが遅すぎた…」

「遅すぎたって…親が子を亡くして、親の為にロストロギアを集めてた子が親を失いそうになって、次元災害を防ぎながらもその子を救おうと尽力した人たちに、出遅れた僕たちが『仕方無い』なんて言えるのか?………………………………………すまない、今のは八つ当たりだった」

「まあわたしで良いなら、いくらでも当たっていいんだけどね…それが副官の仕事なんだし…」

 

 結末だけを言えば、事件は最高の形で収拾をつけられた。

 ロストロギアも一部破壊を余儀なくされたが、それでも次元災害は回避。

 事件の最重要人物であるテスタロッサ親子も、事件の根底にあった互いのわだかまりを解いて、本当の家族として再スタートを切ろうとしている。

 

「結局僕たちは、彼らの力を借りなければ、その最高の形で解決することができなかった……」

 

 発見者のユーノ・スクライア、彼をきっかけに魔導師に目覚めた高町なのは、彼女の義兄である二次元世界の騎士、高町光ことミラーナイト。 

 そして、小学校以来の友人で嘱託魔導師兼M78星雲光の国から来たウルトラ戦士――諸星勇夜ことウルトラマンゼロ。

 昔から管理世界の在り方を疑問視していた彼に、僕は『あの時』むきになって、自分が全ての管理世界を守ると宣言した。

 それからもう5年経ち、執務官にまで登ったが……あの時の自分が納得できるような成果は出せていない。

 寧ろ彼の方が、その『守る』ことを着実に実践して積み重ねている気がする。

 今回の件だって、本人は『自分にできることをやってるだけ』『自分だけの力じゃない』と言うだろう、そして彼も……個人で戦い続けることに、いつか限界が来ることは重々承知してるはず。

 でも今は、個人の限界よりも、組織の限界の方が先に立ちはだかるのが現状、やはり管理局は、ロストロギアの存在があったとは言え世界の幅を広げ過ぎ、魔法に頼り過ぎている実態と、行き詰まった社会システムによって、手遅れな状況を起こしてばかりだ。

 自業自得だ。組織内でも、色々と解決しなければならない淀みも歪みもたくさんある。これでは、彼に顔向けできない。

 時空管理局と、彼の故郷の星で組織されている宇宙警備隊。

 自分以外の世界をも護ろうとする理念など、似ているようで、どうしてここまで決定的に違うのだろう……きっと〝限界〟をちゃんと自覚しているか否かと、内に秘める意志に、その世界の人々を〝信じている〟ことが、ここまで差を開かしているのかもしれない。

 せめて、あの子たちが未来に向かっていけるよう……力の限りを尽くさないと……と、誰に言うでも無く、彼はそう独白した。

 

 

 

 

 数日後。

 

「今回の事件解決について、大きな功績があったものとして、ここに略式ではありますが、その功績を讃え、表彰致します」

 

 アースラの会議室では、事件解決に貢献した者たちへの表彰が行われていた。

 

「高町なのはさん、高町光君、ユーノ・スクライア君、ありがとう」

「ありがとうございます」

 

 代表として表彰状を受け取るなのは。

 ちなみにこの中に、嘱託魔導師の資格を持っているが民間人寄りの立場でもある勇夜はいない。

 リンディはそれを考慮した上で彼にも表彰しようとしたのだが、ご本人から気持ちだけは受け取っとくと直々に辞退されてしまった。

 理由は―――『紙切れがもらいたくて、頑張ってたわけじゃねえ』であった。

 それを後から聞いた、なのはと光たちは。

 

「やっぱり、あの人 (彼)らしい」

 

 と、同じことを思ったとのことだ。

 

 

 

 

 

 それから次元振の影響がようやく弱まり、なのはたちは海鳴に帰れることになった。

 一方でその影響はマルチバースにまで及び、ミットチルダ方面への航路はまだ不安定で、安全に航行できるようになるまでもう少し時間がかかり。

 ユーノも、なのはからの薦めで、もう暫く海鳴で生活することになった。

 無論というか当然というか、フェレットの姿での生活かつ……シスコン兄貴に釘を刺されたりはしたがだ。

 

「それじゃ、今回は本当にありがとう」

「協力に感謝する」

 

 見送られながら転送ポートに立つなのはたち。

 

「なのはちゃん、光君、ここにはいつでも遊びに来ていいからねー」

「はい」

「ありがとうございます」

「エイミィ、アースラは遊び場じゃないんだぞ…」

 

 エイミィの発言に溜め息をつけながら突っ込むクロノ。

 

「まあ、いいじゃない。どうせ巡航任務中は暇を持て余してるんだし」

「そうですね、たるみ過ぎては元も子もありませんが、あなた方が暇であることは、決して悪いことでは無い筈ですよ」

「艦長と光まで…」

 

 彼女を端に発した柔らかな場の雰囲気を助長させるリンディと光の発言を前に、頭を抱えるクロノ。

 お堅い鉄頭さんには、少し緩すぎる空気であった。

 

「フェイトの処遇は、決まり次第連絡する。大丈夫、決して悪いようにはしない」

「うん、ありがと」

 

 時の庭園が崩壊してからというもの、規則ということもあって、ここ数日なのははフェイトと話す機会が無かった。

 それがルールであることは分かっているのだが、色々お話をすることも、母とよりを戻したことを祝福する事も、お別れすら言えないまま、家に帰ることになるのは、やっぱり寂しくて、残念に思う。

 

「(勇夜さん…)」

「(心配すんな、一回ぐらいは、フェイトと会える機会を作ってやるからさ)」

「(ホント!?ありがとう!)」

「(私からも礼を言います勇夜、良かったねなのは)」

「(うん!)」

 

 満面の笑みで勇夜、感謝を送るなのは。

 思わず照れくさくなり、鼻を擦るいつもの癖をとった。

 まったく……お礼が言いたいのは、むしろこっちだぜ。

 フェイトの出生を知って、それでも彼女の…初めての友達になるって言ってくれたんだから…俺一人だけじゃ……あの子を救えなかったからな。

 

「(こっちからも礼を言うぜ、ありがとう、なのは)」

「(はい!)」

 

 転送ポートの魔法陣が、光を発し始める。

 

「それじゃ、またいつか」

「うん、またね、勇夜さん、クロノ君、エイミィさん、リンディさん」

 

 光がポート内を埋め尽くし、三人はアースラを後にした。

 

 

 

 

 

 海鳴に戻ってから数日が経って、あれから私は自分の日常に戻りました。

 ♪~~~~~~~~~♪

 あの始まりの日のように、ベッドの中で目覚まし代わりの携帯を漁り、一度は床に落としつつも、アラームを解除します。

 とは言え、今日はお休みなので、寝ぼすけ私は、また布団に潜り込んでしまった。

 平日は起こしに来る光兄もユーノ君も、無理に起こすのは野暮だと思ってるのか、半ば諦めているのか、休日での私の寝坊は容認されてます。

今まで通りではあるけどど、いろんなことがあったから、今までとは少しだけ違う日常。

 夢中だった時のことは、いざ終わってしまうと、なんだかあっという間のことのようで。だけど、心の中にはちゃんと残ってる。

 出会ったこと、必死だったこと、いろんなこと。

 帰って来てから、ここ数週間に魔法に関わっていたことを、わたしは、家族や親友に内緒にしてもらうよう計らいつつ、話しました。

 後から、実は光兄が予め、お父さんたちに話していたことが分かって。

 それでまともにわけも話せなかったのに、学校も休んで家を開けることを許してくれたんだ…と納得…やっぱり光兄にはかなわないな。

 で、アリサちゃんにもすずかちゃんにも、このことを話して。

 一応、信じてはくれたんだけど、特にアリサちゃんから…

 

「魔法が普及してる世界に喋る魔法の杖にパラレルワールドを渡る戦艦!何そのFantasyとDcience Fictionがごっちゃになった世界観!」

 

 と日本語とネイティブな英語が混じるほどびっくりされて、突っ込まれました。

 確かに、わたしたちの地球人のイメージする魔法とはかけ離れています。

 何と言いますか、ファンタジーでよく見る魔法の《ミステリアス》なイメージからは、余りに遠いと言いますか……光兄ことミラーナイトと勇夜さんことウルトラマンゼロの使う能力の数々の方が、遥かに魔法っぽいとさえ思う今日この頃。

 そんなことを考えながら、また夢の中に入ろうとした時でした。

 こんこん、ドアの外からノックが。

 

「なのは、起きてますか?」

 

 光兄です。朝が苦手で、自力で早めに起きられなかった日によく見かける光景です。

 

「にゃ~~休みなんだからもうちょっ~と……」

 

 平日は眠りたい気持ちを戦ってどうにか起きますが、休みの日くらいは――

 

「フェイトに会えるせっかくのチャンスでもですか?」

「にぁあ!?」

 

 そう……自分が日常に戻ってからも、ただ一つの気がかりであった。

 前は寂しい目をしていたけど、今は綺麗で眩しい目をした女の子――フェイトちゃんのこと。

 あの子の名前を聞いた途端、びっくりでさっきまで重かった頭も目も体も一気に軽くなります。

 

「フェイトちゃんが!?」

「はい、勇夜からお電話がありまして、本来は裁判が終わるまで会えない決まりなんですが、フェイトの強いご希望とのことです」

「どこどこ!? フェイトちゃんたちは!」

 

 自分でもびっくりな喜び溢れるハイテンションに、ドア越しでも光兄がたじろいでいるのは分かりました。

 

「臨海公園で待っているそうですよ」

「分かった、直ぐに準備するね!」

「慌て過ぎないよう気を付けて下さい」

 

 光兄が慌てないようにと言ってくれましたが、うきうきと弾む興奮は抑えきれそうにありませんでした。

 

 

 

 

 

「もうそろそろ何だな、分かったぜ」

 

 光からの返しの電話を受けた俺は、携帯端末を切った。

 

「勇夜…」

「どうしたフェイト?」

 

 今俺にフェイト、アルは丁度待ち合わせ場所の臨海公園の園内にいる。

 気温も丁度いい暖かさで、海から吹く潮風も適度に涼しく心地いい。

 

「なのは……どうだった?」

「光の話じゃ大喜びしてたぞ、今全速力でこっちに向かってる」

「そうなんだ」

 

 少し頬を赤らめながら、微笑むフェイト。やっぱりフェイトは笑っていた方が良いと勇夜は思った。打算の無い正直な気持ちだ。

 そう考えながら……フェイトを見ていると。

 

「で、まだ俺に何か?」

「あ……その…あのね…」

 

 まだ何か聞きたいことがあるようなので、こっちから聞いてみた。

 

「私…今まで、友達って言える子と、触れ合ったことが無かったから…………その……どうやったら……友達になれるか―――」

 

 上目遣いで、もじもじとぎこちなく言ってくるフェイト。

 男にしろ、特殊な嗜好を持った同性にしろ、人によってはその仕草だけでノックアウトされるだろう。

 だが俺は敢えて厳しい姿勢で――

 

「知らん」

 

 彼女が言い終える前にばっさりと言い切った。

 

「えーーー!!」

 

 フェイトにとっちゃ予想だにしなかった返しだったので、彼女は素っ頓狂で妙に味のある驚き顔をした。

 まったく、ああもかしこまって何を言いたいのかと思えば………〝女の子同士の友情〟のことで男子の俺に聞いてどうしようと言うのだ? 彼女の期待に添える返答など持っていない……しいてアドバイスできることと言えば。

 

「友達だろうと家族だろうと恋人だろうとな…絆を育むことに、これと言った正解は無いんだよ………………いつの間にか…なってるもんなのさ」

「そうなの?……でも…」

 

 どうにも腑に落ちないのか、顔をしょんぼりとさせるフェイト。その仕草も可愛いと言えば可愛いが……あんまりそんな顔をさせるのも癪だったので。

 

「こら」

「ひゃあ!」

 

 勇夜はペコンと、あの時のように彼女の額にデコピンをした。

 

「あう~~~~」

 

 でこを撫でるフェイト。

 明らかにフェイトは以前と比べて、ずっと表情豊かになっている。

 寧ろ今の彼女が、フェイトの素そのものなんだよな、それを見られるだけで、何だが妙にこそばゆかった。絶対にこの気分を見せまいと自制しつつも。

 

「そうしょんぼりするなよ……時にはな、自分で見つけなきゃいけない答えだってあるんだぜ………………まあ…今の正直な気持ちを、なのはにも伝えてやれ、俺が言えるのはそれだけ」

 

 普段のツンケンどんな雰囲気は鳴りを潜めさせ、自分なりに優しくフェイトに微笑んだ。

 

「勇夜………うん…」

 

 フェイトも微笑み返しながら、頷いた。

 

「フェイト…勇夜君、お取り込みのところ悪いけど」

「あ、母さん」

 

 今はシンプルな私服を着て、微笑ましい顔で俺たちを見るプレシア。

 彼女を蝕む病魔は消えてはいないが、定期的に勇夜がメディカルパワーをかけていたこともあり、一応歩けるまでの体力は戻っている。

 そして、何かニヤニヤしているエイミィとアルフに罰の悪そうな鉄頭。

 

「こら! 今僕だけ名前で呼ばなかったろ勇夜!」

「はて……何のことやら?」

 

 本当のことなので、しれっとはぐらかした。

 心の声を読み上げるとは、中々やるじゃねえか。

 

「で…そこのお二人さん、何がおかしい?」

 

 ジト眼で睨む。睨み先のアルフとエイミィが、何か悪戯っ気のあるニヤケ顔で勇夜とフェイトを見ていた。

 

「いや~お熱いな~と思って、考えてみると中々の策士だよね~勇夜君」

「本当の恋人みたいじゃないか~フェイトも勇夜も~いくらでも応援するよ」

「ば!莫迦! そそそそんなんじゃねーよ!」

 

 二人のからかいに、思わずツンデレ全開な返事をしてしまう勇夜。

 くそ…今日はなんて厄日だ……と愚痴ながら、火照る体を知覚する。

 

「(でも勇夜君、娘のことは嫌いじゃないでしょ?)」

「(プレシア………あんたまで)」

 

 プレシアにまでからかわれた。否定なんてできない、だから恥ずかしい。

 実際、フェイトを〝好きか?〟と言われれば好きだ。 

恥ずかしいから、それを口に出す時はどうしても間接的な表現となるか、意固地に慌てる返答となってしまう、それだけ彼はシャイな人柄なのだ。

 もっと踏み込んで言うなら、このウルトラ戦士はツンデレ。これは絶対否定できない事実である。

 

「こ……こい……びと?」

 

 フェイトもフェイトで、アルフらの言葉に過剰反応し、今にも湯気が出てきそうな勢いで、ほっぺたを真っ赤かにし、両手を頬に張りつかせていた。

 一体、何の盲想をしているやら……と苦笑する一方、勇夜は胸に違和感を覚える。

 実のところ、フェイトが俺のことどう思ってるか、薄々察しはついている。

 でもフェイトも……そして俺自身も色々整理する時間が、必要だと思う。

 越えなきゃいけないハードルもたくさんある。

 だって…俺は………地球人の血も混じっているけど……ウルトラマンである俺は、本来フェイトとは違う時間を過ごしている。

 出会ったことも、助けようと力を尽くしたことにも後悔は無い。

 でも……時々考えてしまう。彼女が初めて本格的に触れ合った異性が、本当に俺で良かったのか―――と、

 ウルトラ戦士としての俺にとっては、この一月がほんの少しの寄り道よりも短い時間だとしても………フェイトにとっては―――それは地球人の姿になっても覆らない事実。

 余りに途方も無い時を生きる俺が……遥かに短い時を生きる女の子の一生にこんな大きな影響を与えて良いのか?

 などと心の内で過ぎる度、せつなくなり……息なんて滅多に乱れないのに息苦しくなって……胸が締めつけられるほどに痛感させられる……覆しようの無い真実。

 ホント、血は争えねえみてえだな。親っ………いや…………父さん…アンヌ母さん。種族の壁も、時間の壁も覚悟の上で、俺を生んでくれた人たち。

 でも今は……あの子が乗り越えなきゃならない高すぎる障害を乗り越えられるようにと願ってあげることにした、

 

 

 

 

 

「フェイトちゃ~~~~ん!みんな~~~!」

「あ、来た来た」

 

 フェイトを呼ぶ声がして、目を向けると、なのはとユーノを乗せた光が走ってきた。

 ちなみに今、周辺には人除けの結界を張っているので、うっかり通行人に見られる心配は無い。

 

「お待たせしました」

「さて、門外漢の俺たちは、退散と」

「そうだね…」

「時間が来たら呼ぶから」

「なのは、しっかりね」

「ちゃんと伝えるのよ、フェイト」

「「うん」」

 

 勇夜たちは、誰が言い始めたわけでもなく、各々の言葉を置きながら、二人を残して遠くのベンチに移動して行った。

 

 

 

 

 

 勇夜たちによって、築き上げた二人だけの時間。

 なのはとフェイトは、しばし笑い合ったまま、静寂を保っていた。

 やがて…なのはからやり取りを紡ぎ始める。

 

「にゃはは…なんだか話したいこといっぱいあったのに…変だね、フェイトちゃんの顔見たら、忘れちゃった」

「私は…………そうだね…私も上手く言葉に出来ないや……」

 

 二人にとって、着繕った言葉なんていらないくらいに、ただ…この場で会えただけで、こうして目の前にいるという事実だけで、十分に事足りていた。

 

「だけど嬉しかった」

「え?」

「真っ直ぐ向き合ってくれて……何度も手を伸ばしてくれて……嬉しかった、色々と、痛いおもいもさせちゃったのに」

「わ、私はただ友達になれたらいいなって思っただけで………その気持ちだって……光兄や勇夜さんがいなかったら…気づけなかったし、フェイトちゃんのお母さんを助けたのも…地球を守ったのだって勇夜さんたちだし……私なんて…いくら真剣勝負だったからって…その…やり過ぎちゃったし……にゃはは…」

 

 なのはにも、手を差し伸べて、助けになってくれる人がいた。

 だから最後まで…重い足枷と十字架を背負わされたフェイトとも向き合うことができた。

 

「謙遜することないよ、なのは」

「フェイト……ちゃん」

 

 そして今は、ちゃんと自分のことを――

 

「ありがとう……でも…今日はもう…出かけちゃうんだよね」

「うん……少し、長い旅になる」

 

 フェイトが、これまで背負ってしまった罪。

 これから…それを少しずつ清算する、贖罪の旅が始まる。

 過去に縋りついてばかりだった自分に、過去から課せられた罰。

 

「また……会えるんだよね?」

 

 不安な顔で、フェイトを見つめるなのは。

 会いたいと思うほど、会えると信じようとするほど、不安は重さとなって心中に積もっていく。それはフェイトも、同じ気持ちであった。

 

「少し悲しいけど……みんなのお陰でやっと、本当の自分としてスタートを切れるから……………来てもらったのは、返事をする為」

「え…?」

 

 だから、その前に。

 

「君が言ってくれた言葉……〝友達になりたいんだ〟って言葉」

 

 だから、別れるその前に、ちゃんとなのはに言っておきたかった。

 彼女の想いへの、返答。

 

「っ…うん!…うん!」

「私も友達になりたい……私にできるなら…私でいいなら…私の……初めての…友達になってほしい、でも……実は、どうしたらいいのか…分からないの……今まで友達と呼べる子はいなかったし……」

 

 彼がさっきアドバイスしてくれたように、自分の想いを、率直に、真っ直ぐに、なのはに伝えた。

 

「勇夜さんは?」

「………………ちょっと…違うかな…勇夜のことは…大好きだし、大切な人だけど……まだどう言う………〝好き〟………なのか……」

 

 

〝時にはな、自分で見つけなきゃいけない答えだってあるんだぜ〟

 頬を紅く染め、口元を適度にかみ緩ませながら、彼の言葉を反芻しながら、フェイトは彼への今の気持ちを話した。

 

「それを見つけるまでは…時間がかかると思う」

「そっか…」

 

 なのはは内心、きっとそれを見つけられるのは、そんなに遠くないよ、フェイトちゃん、と語りかけていた。

 

「だから…せめて知りたいの…どうやったらなのはと、友達になれる?」

 

 前置きを経てフェイトは…自分の答えを、自分の気持ちを正直になのはの目を見て打ち明ける。

 そして……なのはは投げ返した。

 

「……もう…友達だよ」

「え?」

「私たちはもう…ちゃんと友達になってるよ」

「なのは?」

 

 友達になることは……難しい気がして、実は意外にシンプルだ。

 

 

「そう…もう一度名前を呼んで…」

「な…なまえ…?」

「うん、そうだよ、最初はそれだけでいいの、君とかあなたとか、そういうのじゃなくて…ちゃんと相手の目を見て…はっきり名前を呼ぶの、あの時みたいに、今言ってくれたみたいに」

 

 それは…何よりも代えがたい……魔法の言葉。

 

「…な…のは……」

「うん!そう!」

 

 もう…何度も呼んでいるはずなのに、いざ意識して呼ぼうとすると、気恥ずかしさで、中々言葉にできない。

 

「なのは…」

 

 それでも、次ははっきりと。

 

「うん!」

「なのは…!」

 

 日差しの暖かさと、潮風の香りを肌で感じながら…そして次はと力強く、なのはの手に触れながら、なのはの名前を呼んだ。

 

「うん!うん!」

 

 名前を呼ばれる…ただそれだけで――名前を呼んであげる…たったそれだけのことで―――こんなにも嬉しい。

 

「ありがとう…なのは」

 

 二人は、こんなに暖かな気持ちとなる。

 

「なのはの手も…こんなに…暖かいだね」

 

 それだけに…離れなければならないことに…こんなに胸が苦しくなる。

 

「今気づいた…友達が悲しんでいると…自分も悲しいんだって…嬉しいと思うと…本当に嬉しいんだって」

 

 嬉しさとせつなさが入り混じって、二人から自然と流れる光。

 

「フェイトちゃん!」

 

 その想いのまま、なのははフェイトの胸に飛び込んだ。

 フェイトは、勇夜が…母が…想いが溢れた時の自分にしてくれたように、優しく受け止め、抱き返す。

 

「今は離れてしまうけど、きっとまた会えるから…絶対会いに行くから…そしたらまた、なのはの名前を呼ぶから…」

「うん…うん…」

「会いたくなったら、必ず〝なのは〟って呼ぶ…だからなのはも私を呼んで…なのはにもし、困ったことがあったら……今度はきっと、私がなのはを助けるから…光さん…ミラーナイトがなのはにそうしたように……勇夜…ウルトラマンゼロが私にそうしてくれたように…なのはが……私にしてくれたように…」  

 

 別れなければならないのは、本当に辛い。

 でもだからこそ、互いを想っていることが手に取るように分かる。

 

「うん!……フェイトちゃん」

 

 それを忘れないように…確かめるように…噛みしめるように…二人は強く、お互いを抱き締めあうのであった。

 

 

 

 

 

 感極まる二人の様子を、まじまじと見ていた勇夜たち。

 

「勇夜…光…ユーノ…」

 

 ふと、アルフが勇夜たちを呼んだ。

 

「あの子も…なのはもさ…ほんといい子だよ…フェイトがあんなに幸せような顔をしてる…」

 

 感極まったアルフに、ユーノとプレシアがそっと彼女の肩に手を置いた。

 

「やっと…これでリニスに顔向けできるかな?」

「そうね…きっとリニスも、祝福してくれているわ、アルフ」

 

 これもまた……少し前までは考えられなかった光景…フェイトと同じく、アルフもまた『鬼婆』表して反発していたプレシアと和解できた。

 プレシアもかつては、彼女を『フェイトの使い魔』という認識しかなかったのだが、今はちゃんと〝アルフ〟と呼び、一個の存在として見ている。

 これもまた……小さいが……とても尊い奇跡であった。

 

 

 

 

 

「もう少し…二人をあのままにしておきたいのですね」

 

 抱き合ったまま、互いに芽生えた絆を確かめる二人を見つめる光は、目を潤わせながら、そんなことを口にした。

 

「奇遇だな………俺も同じ気持ち…」

 

 できれば…ほんの少し……ほんの少しだけでもああさせてあげたい。

二人だって、まだ話し足りないと、思っているだろうし……けどそうもいかない。

 

「時間だ…」

「クロノ君、こういう時地球では何て言われるか知ってる?」

「エイミィ……今はそういうの無しだ」

「はーい、勇夜君に言われたんじゃ、仕方ないね」

 

 珍しく俺がなだめ役を買って出た。

 今回ばかりは、クロノの真面目さに同感する。

 こうして、会える時間ができただけでも、儚いけど、凄いことなのだから。

 

「フェイト!なのは!」

 

 クロノの声に気づいた二人はこちらに目を向ける。

 勇夜たちはベンチから離れ、二人の許へ歩む。

 

「ごめんな…本当はもっと、時間を作っておきたかったんだけどさ…」

「謝らないで勇夜さん」

「そうだよ…もうこうして会えただけで充分だから」

 

 二人の顔を見て、なんか安心した。

 その笑みを見られただけでも、この世界で、ここまで走ってきた甲斐はある。

 

「あ、フェイトちゃん、行っちゃう前に…その…」

 

 なのははそう言うと、自分の髪を縛っていた真っ白いリボンをほどき。

 

「今…思い出にできるもの、これしか無いんだけど…」

 

 それを、フェイトに差し出す。

 

「じゃあ…私も…」

 

 フェイトも髪を下ろし、ほどいた黒いリボンを手にとって。潮風がゆったりと吹きぬける中…二人が、絆を結んだ記念として――

 

「…ありがとう、なのは」

「…うん…フェイトちゃん」

 

 ――もう一度会えると……祈りと想いを込めて――

 

「きっと…また」

「うん…きっとまた」

 

 ――お互いのリボンを、交換した。

 

 

 

 

「ほら、預かりもん」

 

 アルフの声がしたと同時に、なのはの肩に軽く重みがかかる。

 今はフェレット姿のユーノだ。

 

「ありがとう、アルフさんプレシアさんも、クロノ君もエイミィさん、元気でね」

「お達者で…」

「ああ、色々とありがとね、なのは、光、ユーノ」

「私も礼を言うわ…ありがとう、なのはちゃん」

 

 そして光は勇夜に目を向け。

 

「勇夜……ゼロ…」

「……リヒト…」

 

 名前だけを呼び、微笑みながら、互いの拳を打ち付ける二人の巨人。

 こっちも、余計な言葉はいらなかった。

 時が経っても色あせなかった、この次元を超えた友情には……だから、また今度も会おうと、視線で交わす。

 

「勇夜さん…」

 

 そしてなのはは、若きウルトラ戦士に。

 

「フェイトちゃんたちを……お願いします」

 

 と頭を下げた。

 

「なのは」

「…はい?」

 

 頭を上げると、右手を差しのべた勇夜が、その意図を理解したなのはも差しのべて、笑顔でかわしながら、互いの手を握り合う。

 

「いつでも、地球に遊びに来て下さい」

「勿論さ」

 

 勇夜たちが、なのはたちと距離をとると、転移の魔法陣が現れた。

 

「バイバイ…またね…」

 

 クロノ君。

 エイミィさん。

 アルフさん。

 プレシアさん。

 勇夜さん……ウルトラマンゼロ……そして…フェイトちゃん。

 

 光に包まれる中…フェイトは〝さよなら〟の手を振った。

 なのはも放物線を描きながら、大きく腕をを振って応える。

 涙を浮かべながらも…笑顔で…別れは辛いけど…笑顔でさよならって…光が…お互いを別つその時まで、二人はずっと……手を振り続けるのであった。




次回、第一部最終話
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