ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
暦は地球の西暦なら6月の中頃。
L級巡航艦船――アースラ。その艦内のとある一室、いや一郭か、その一郭に、中高クラスの体育館並に敷地面積は広く、床や壁などの周りは白くて無機質なスペースがある。
この艦に所属する魔道師たちが訓練に使うシミュレーションルームだ。
今ここでは、無骨な魔法の杖を持ち、漆黒のバリアジャケットを羽織っている共通項があり、白銀の空間を縦横無尽に飛び廻る魔道師の少女と少年が、模擬戦という名の演武を行っている。
少年の方はクロノ・ハラオウン。
アースラに所属する、齢15で執務官の座についた優秀な魔道師。
15にしては、顔つきも体つきも歳相応より幼く、ようやく最近になって変声期の兆候が出始めたばかりであることは、本人も気にしているのでこの辺りにしておく。
そして金髪赤眼の少女の名は、フェイト・テスタロッサ。
約1か月前、危うく、太陽系第三惑星地球が存在する宇宙。
フェイトたちの世界からは第97管理外世界と呼ばれる次元世界が消滅しかけた『PT事件』の……はっきりと言ってしまえば、その実行犯の一人で裁判中の被告人。
目くじらを立てている人には申し訳ないが、こればかりは事実でどうしようもない。
ここアースラは実質堅牢で、裁判中であるフェイトは基本ここから出ることはできない身だ。
だが、こうしてデバイスを持って、執務官と模擬戦ができる待遇にはなっている。
そして本日行われている模擬戦は、佳境を迎え。
「貫け!スマッシャァァァァァァァァーーー!!」
フェイトの射撃魔法、稲妻の奔流サンダースマッシャーが、無機的な訓練場を金色の光で照らした。
大きな爆音が鳴り響いて、爆煙がシミュレーションルーム中に立ちこめていました。
「また………やっちゃった……」
バリアジャケットの効果で、体は煙の影響をまったく受けてはいませんが、この惨状を前に、溜息が私ことフェイトの口から零れ落ちます。
「今日はこのあたりにしておこう、しかし……これは直すのに時間がかかりそうだな……」
さっきまでシンプルで凹凸の少なかった白く無機質な壁にはあちこちに罅が入っているし、床もところどころクレーターができて抉られています。
こうなってしまった原因は勿論と言うかなんと言うか、私のサンダースマッシャーとクロノの射撃系の魔法の中で最も光威力な砲撃魔法――ブレイズキャノンが真っ向からぶつかり、その時生まれた衝撃波によってこの有様になったわけです。結界でルームは補強されていたと言うのに。
「ごめんね……力入れすぎちゃった…」
「いや……僕が相殺しきれなかっただけだよ」
多忙な執務官の仕事の合間を縫って付き合ってくれるクロノはそうフォローしてくれますが、中々気分は晴れません。
一応、私としてはいつ崩落してもおかしくない洞窟といった狭い空間内での戦闘を想定して模擬戦をしていたわけです。
途中からつい熱くなって、一時はすっかりその設定を忘れてしまい、確実に周囲の環境に爪痕を残す大技を使ってしまいました。
それだけクロノが強いってのもありますが、ほんと何たるザマってやつです。
これで六回中六回、つまり模擬戦する度、何かしらこのルームは私から被害を被っているのでした。
「でも……これを直すお金って税金から使われてるんでしょ、そう思うと荷が重くなるよ」
当然と言えば当然ですが、私たちの次元世界にも星ごとに〝政府〟はちゃんとございます。
時空管理局はあくまで魔導犯罪または次元犯罪の取り締まりと、ロストロギアによる次元災害阻止が主なお仕事としている〝警察組織〟、そしてその組織を運営するのに、あらゆる国のいわゆる国民様の税金も使われています。
つまり私はその税金を浪費しているとも言えまして……すみません。
「子どもがそこまで気を遣わなくてもいい」
さらにクロノはフォローしてくれましたが、〝子ども〟って単語に少し顔が膨れてしまいます。確かに私はまだ子ども、それどころか生まれてからまだ片手で数えられるくらいの時間しか生きていません。
それでもこうも〝子ども〟と言われると、ちょっとご機嫌が斜めになってしまいます。こんな反応をしている時点で子どもなのですが。
「むぅ~~~クロノだってまだそんなに歳とってないじゃない」
「確かにそれを言われると、元も子もないんだけどな」
クロノが少し苦笑いを浮かべました。
「お疲れさん、はい、差し入れだよ」
「アルフ、ありがとう」
そこにアルフが、差し入れの清涼飲料水を引っ提げやってきました。
これがいわゆるP.T事件以降の私の一日の一場面です。
え?女の子らしくないって?
女の子らしくなくて……悪かったですね……どうして日頃からこんなことをこなしてるかと言うと……理由は二つあって……日に日に、自分でもはっきりと分かるんです……感じるんです、前より……自分の魔力量が増えてること。
今でもAAAクラスの量があるのに……将来的には……Sクラス以上になると言われました。
これには正直、複雑です。はっきり言いますと、私は自分の内(なか)にある魔法(ちから)が………怖いんです。
魔法だって……兵器で……武器で……人を殺せてしまう道具だと、今回の事件で思い知らされたから。
実際、自分となのはが戦った結界内の街は、自分たちの一騎撃ちで大規模災害が起きたかのように壊滅しました。非殺傷設定にしておいてこの被害なのです。
勇夜が、どこがクリーンな力だって突っぱねるのも無理ないし、結局非殺傷設定って名の〝安全装置〟も、下手をすれば気休めにしかならない。
今では自分の中にあれだけの破壊ができるものが、体中に巡ってると思うと、身震いします。
でも………こんなこと言うと矛盾してるとか、言われるかもしれないけど………それでも……あの人の力になりたいから。
自分が一人じゃないってことも、なのはっていう、最初の〝友達〟ができたことも、たとえ自分が誰かのコピーでも…自分は『フェイト・テスタロッサ』だって胸を張って言えるも。
諸星勇夜……ゼロ=ユウヤ・ヴェアリィスター。
光の戦士―――ウルトラマンゼロ。
あの人に出会えたから………だから守りたい……彼の背中を守ってあげたい。
孤独な戦いを続けてるゼロの、支えになりたい。
それが何より……以前はただ誰かの願いを叶えるだけの木偶の坊も同然だった……自分自身に……芽生えた願い……これが、二つ目の理由です。
あ……ごめんなさい!
暗い話ばっかしちゃって……わたしってば……(どよーん)
あ…そっか、なら、明るい話をすればいいんだ。
じゃあ行きます!ってあれあれ?……何言えば言いのでしょう?(オロオロ)
私ってばまた……(カーーーーーーン)
とまあ空回りしているフェイトは置いといて、彼女はトレーニングや模擬戦以外に日課としていることがある。
先ほどまで鉄頭と模擬戦をしていたフェイトは、アースラ内でに支給されたホテルクラスの広さを持つ個室に真っ先に駆け込み、汗を流すためのシャワーを浴びた後、フェイト宛てに届けられた小包を開封。
中に入っていたディスクを、眩しいまでの笑顔、喜びを隠せない様子で手にとって、さっそく再生機を作動させてディスクをセットさせた。
『こんにちわフェイトちゃん』
地球製より薄型で高性能、3D常備のテレビ画面に、栗色の髪の女の子が映る。
「こんにちは、なのは…」
これは録画映像で意味がないことであるのは理解しているが、それでもフェイトは挨拶を返した。
高町なのは。PT事件、ロストロギアジュエルシードを巡って、当初は戦うことになりながらも、今はフェイトの最初の友達になった地球人の少女。
事件以来、二人はこうしたビデオメールで交流をとっている。一昔のもので例えれば、交換日記のようなものだろう。
裁判に出頭中の被告人であるフェイトは局員以外の人間と直に接触するのは、基本認められていない。
一応、しかるべき手続きを踏めれば、短時間ではあるが面談は可能ではあるのだが、与えられた時間に反してその手続きの手順は非常に多く面倒で、実際にやる人間は少ない。
ビデオメールはそんなフェイトの環境下でも、画面と時間越しにでも友達と面と向き合える手段だった。
ちなみに、今再生しているプレーヤーがどうして異世界である地球の映像記録規格を再生できるのかと言うと、異世界間交流が盛んな管理世界では普通に常備されてる機能らしい。
二人が、ビデオメール越しで話題になるのはといとめのないことだ。
なのはの親友、アリサ、すずかのこととか (時には三人一緒でメッセージを送ることもある)。
まあ端的に言うと、近況報告ってやつだ。
今日は日頃からなのはの兄、光の指導下で行っている朝練に関する話題だった。
なのはによると、普段は妹には甘いが、トレーニングに関しては溺愛振り抑え目になるとのこと。
勇夜とは管理世界に来る前からの親友でもある光とは、余り話す機会は無かった。
でも、義妹(いもうと)のなのはをそれだけ愛してることはちゃんと分かる。
時にそれが行き過ぎて、暴走することもあるとのこと、主に被害者はユーノ、
まあ愛する妹が異世界から来た人にいきなり呼び出されてロストロギアの異相体を戦ってと頼まれるようなことが起きれば……複雑な気持ちになるのは無理ない。
なんとなく、そういうちょっと過保護なところはアルフと似ているとフェイトは思った。
ひょっとしたら、自分も年下のお姉さんに過保護になっちゃうかも。
自分の場合は、それだけ自身が無理をして、危なっかしかったってこともあるのだが。
ともあれ、こうしてなのはと顔を合わせられるだけでも嬉しい。
本当になのはと……そして勇夜―――ゼロには感謝している。
ゼロと会っていなければ、自分はなのはの言葉の意味に気付けなかったし。
なのはと会えなければ、どうしてゼロがあそこまで自分を助けて、手を差し伸べてくれるのかずっと分からないまま。
多分……母とも分かりあえず……母の言葉に絶望し、自分の生まれ方を呪って生きていたかもしれない。
だから……怖いと思う魔法とも……贖罪も含めた……辛いことも悲しいことも待っている人生(これから)と向き合える。
力が沸いてくる。
ありがとうだけでは語りつくせない。
なのはの声を聞きながら、自分の光になってくれた人たちに想いを馳せていたその時。
電子音が部屋に響く。
フェイトは一時停止を押して映像再生を止めると、机に供えられてるタッチパネルを押した。
「はい、フェイトです」
『フェイトちゃん』
通話の相手は、アースラクルーの一人でクロノの補佐官をしているエイミィだった。
「どうしたのエイミィ?」
『フェイトちゃんに面会希望する人が来てね』
「面会?」
前述の通り、管理世界では被告人との面会はかなり制限がつく。
そしてその面倒な手続きを経てアースラに訪問したのは、意外な人物だった。
エイミィからの通信で、自分に面会を希望したいという人が来ていると聞いて、アースラ艦内にある談話室に向かって廊下を歩くフェイトとあたし。
「面会希望者って誰なんだろう?」
と、思わずフェイト口にするほど気になるのは当然のことだ。
ここ最近は勇夜やなのはたちも入れて一気に増えたけど、フェイトはその境遇上、あまり多くの人と関わりを持っているわけじゃない。
「アルフ、聞いてる?」
「聞いてるんだけど……エイミィに見てからのもお楽しみって、口止めされてるからダ~~メ」
「え~~~~今聞かせてよ」
「もうすぐその人に会えんだからさ、いいだろ?」
「それは……そうだけど」
そう雑談を交わしている内に談話室のドアの前に着いた。
「失礼します」
自動ドアが開き、中に入るあたしたち。室内には、備え付けられているソファーに向かい合った形で座る女性二人と立っている男の子一人。
男の子は勿論、勇夜から鉄頭なんてあだ名貰ってる真面目君なクロノで、女性一人はアースラ艦長で提督のリンディ・ハラオウン。
もう一人は……案の定フェイトにとっても、私にとっても見知らぬ女性だった。
深い青色の髪と緑色の瞳。見た目は20代半ばで、気の強そうな感じと、大人の色気ってやつと、母性ってのかな? それらを兼ね備えたリンディに負けず劣らずの美人だった。
私服を着ている辺り、局員じゃなさそうだ。でも……初めて会うのに……なぜか……既知感と言うべきか……どこかで感じたことがあるようなオーラがその人から漂っていた。
「紹介するわフェイトさん、勇夜君がこちらの世界でお世話になった―――」
勇夜、その単語を聞いてあたしとフェイトははっとした。
じゃあ、この人が……この世界のゼロの――――
「クイント・ナカジマです、はじめまして、フェイトちゃん」
――――お義母さん。
いくらウルトラマンでも、予備知識の無い未知の世界で一人で暮らすことは簡単ではない。
ましてやゼロは、ウルトラ兄妹のように他の惑星で駐在する経験が無く、次元振の影響で変身能力を一時失い、人間体の肉体も4歳児まで退行してしまえば尚のこと。
彼が11年間、無事に過ごせたのは、引き取り手になってくれたナカジマ夫妻の存在があればこそだ。
ゼロにとっても、その境遇ゆえに、心の奥底、潜在的な願望として抱えていた『家族と過ごす団欒』、それを実体験させてくれた人達には、実の家族のように慕っている。
そんな彼の、この世界――ミッドチルダでの母が、クイント・ナカジマその人であった。
リンディは面会時間終了時には知らせのために戻ると言って、部屋を後にした。
残った彼女らはまず自己紹介から始める。
「その……ふぇ……ふぇふぇフェイトです、フェイト…テスタロッサ……こ、ここここの子は使い魔のアアアアルフ――」
「落ち着いてフェイトちゃん…そう固くならないで」
「そうだよフェイト……ちょっと気張りすぎだよ」
「はう~~~すみません」
思い人の義母を前にした緊張感で、こんな醜態を晒してしまったフェイトは恥ずかしさで涙目になっていた。でも可愛いから許す(オイ
「改めてはじめまして…………諸星勇夜の義母(はは)であります」
「あ……どうも…」
年上からかしこまった態度で挨拶されたので少し戸惑いながら応じた。
「「(若い……)」」
事前に打ち合わせたわけでもないのに、フェイトもアルフも同じタイミングで内心呟いた。
リンディも相当年齢不詳な若々しさだが、この人も負けず劣らずだ。
勇夜の愛慕であるウルティメイトブレスレットことリンクから、ナカジマ家のことは聞いており、勇夜の下に彼と同じく養子だが、二人の妹達がいることも聞いていた。
一応三人の子どもを持つ母親だと言うのに、この美貌と若さは何だ?
そのくせ、母親特有のオーラというか包容力が感じられる。
そう言えば、なのはと光のお母さんも二人に負けずに若い。
一番上お兄さんは大学生だから、それなりに歳を重ねているはずなのにだ。
どうして……自分たちが会う母方な人物はこんなに若い人ばかりなんだろう?―――とも思ったが、なんとなく永遠の謎にした方が良い気がしたので考えるのをやめた。
「その……今日はどんな要件であたしらに?」
それより気になるのは、地球の国家群よりもハードルが高くめんどい立場なフェイトとの面会をこの人がしに来たかだ。
「そうね――――――」
最初の挨拶より砕けた声色でクイントは―――
「息子の将来のお嫁さんの視察かしらね」
―――さりげなく、とんでもないことを口にした。
お…お……おっ…お嫁さん!?
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
どっかのパンチパーマな探偵さんや、ハードボイルドを目指す半熟な探偵でもある仮面の戦士ばりに、テーブルに予め出されていたお茶を飲んでいたフェイトは、クイントの発言によって、女の子にも拘わらず一度口の中に入った茶を噴き出してしまった。
幸い二人にはかけられていない。
「フェイト!落ち着いて!もう何を言ってるのかさっぱりだよ……」
耳までゆでダコみたいに顔を紅潮させ慌てるフェイトは、弁解しているつもりのようだが、テンパって呂律が全く回らず、傍からは意味不明の単語を連発していた。
様相で何を言いたいのか把握はできても、言っている単語を訳すのは至難の技レベル以上である。
多分、この場に勇夜が入れば、ほぼ同様のリアクションをとっていることだろう。
「ごめんなさい、フェイトちゃんには刺激が強すぎたわね」
「冗談きついよあんた……」
そう言いつつ、絶賛パニック中なフェイトを落ち着かせようと背中をさするアルフはお姉さんそのもの。
姉妹同然な二人は、たまに姉と妹の立場が逆転しちゃうことがあった。
「まあ、ほんとはあの子があれ程あなた入れ込んでたから、どんな子なのか気になったってところかしらね」
「はぁ………」
こうは言ったが、実は二人が夫婦になることには満更ではなかったりする。
血は繋がらないとは言え―――あの息子にしてこの親あり―――であった。
「しかし……よく面会の申請を許可しましたね艦長」
艦内の廊下を歩きながらクロノが切り出す。
くどいようだが、管理世界での面会は非常に面倒、申請する方も申請される方も……どちらにとっても。あれだけ苦労してこぎつけて最高1時間よりちょっと多いくらいの実利とリスクの釣り合わなさに誰もやりたがらないのだ。
「まあ……クイントさんと意見が一致したって、ところかしらね」
この場が実現したのは、リンディとクイントが面識があったことが最大の要因。
息子たちが同じ学び舎で学生をし、同級生であったことと、《とある一件》を通じて二人は知り合った。
お互い管理局員で、務め先も本局と地上本部と部署も違うので、そう滅多には会えなかったが、定期的にメールのやり取りをしたり、息子の学校行事でとった休暇をとっては近況報告をしながら一種のご近所トークで盛り上がるのが通例になっていた。
勇夜が既にリンディに正体を明かしたことはクイントに報告していたので、その辺は問題ない。
強いて問題があるとするなら、二人ともウルトラマンゼロのことを秘匿し、報告(ほう)・連絡(れん)・相談(そう)を怠っていたことであろう。
だがウルトラマンを兵器として利用させたくなければ、リスクを背負う覚悟でこうするしかなかった。
そういう邪な考えを持つ連中が、組織にも、世界にも存在していることは二人とも局員として痛感させられていたからである。
「その『意見』と言うのはやはり……」
「フェイトさんの、養子のことでね」
「勇夜って、その子どもに戻ったばかりの頃はどうだったんですか?」
「そうねえ……事情も事情だし…反抗期もとっくの昔に過ぎてたから、手のかからない子だったわね」
それもそうだろう。
既に6000年近くは生きているゼロ。
地球人、ミットチルダ人に換算しても高校生くらいで、昔は不良上等、それの何が悪い――的な感じで周りに八つ当たり、やさぐれてはいたそうだが、次元振でミッドに飛ばされる頃にはかなり丸くなっていたのこと。
精神(なかみ)がほぼ大人なので、風呂は一人で入り、一人で寝れて、当時夫妻は共働きで家を空けることも多かったが、文句一つ言わず、むしろ前からの日課である自主練と、リンクが講師をする魔法授業でやり過ごしていた。
それを逞しいと思う一方で、寂しさがナカジマ夫妻にはあった。
実はクイントは武装局員で、局内でも有数の武道派ではあったが、体質的に子どもが生まれにくい体で、無論二人はそれを承知で結婚した。
夫で勇夜たちの義父であるおやっさんことゲンヤも、管理世界では別段珍しく無いが、魔力をまったく持たないので魔法は使えない。
それだけ二人は長短含めた、お互いの人柄に惹かれ合い、添い遂げた。
三人の子がいながら、今でもおしどり夫婦なのはその証拠。
だが承知していたと言っても、子宝に恵まれない現状がはがゆく、寂しいものだった。
そんな時、偶然二人の家に迷い込んだ勇夜―ゼロは、正に天の恵みで、コウノトリが運んできた子宝であった。
だからたとえ、彼が妙に大人びていようと、魔力とは違う力をクイントが感じようとそれでも二人は彼の保護責任者となった。
「でもね……一度だけ…見た目相応な子どもっぽく、甘えてくれたことがあってね」
……ゴクリ。
思わずこの主人と使い魔は、即答で喰いつきそうになる。
気になる異性の幼少時代を聞けるとならば、反応しやすくなるのは……分からないわけではないけど。
「勇夜が、光の巨人―――ウルトラマンだってことは知ってるわよね?」
「はい」
「その日、勇夜は私たちに自分の正体を明かしてくれたの」
ナカジマ家に引き取られた当初の勇夜は、日頃の威勢はどこ行った?と言いたくなるほどよそよそしかった。
自分に向けられる愛情に、何も感じなかった訳ではない。
むしろ嬉しかった。
血縁は無いとしても、ゼロが内心ずっと求めてやまなかった『家庭の温もり』
それを直に感じられたから、嬉しくないわけない。
ちゃんと二人には感謝している。
だからこそ……素直に受け入れることができない原因が存在した。
勇夜が『ウルトラマン』であることをナカジマ夫妻にカミングアウトしたその夜。
クイントは思い切って、勇夜に〝一緒に寝ないか?〟と尋ねてみた。
というか、無理やりにでも彼を自分の寝床に引きいれた。
まあ、こうでもしないと了承されなかっただろう。
クイント自身、男を惑わすには十分な美貌とスタイル持ちで、年頃の男性な勇夜には今まで戦った強敵より、精神を追い詰める難敵であるからにして。
「でも恥ずかしかったのか、背中を向けて寝てたわね」
そんな勇夜を、クイントは背中から抱きしめた。
抵抗されるかな?と思ったが、体温が上がる以外は、彼女の温もりを素直に受け入れたそうだ。
しばらくすると、抱擁で心が解れたのか、彼は―――
「怖いんだ……怖いんだよ、俺が……」
―――その一言を皮切りに切り出した。
「義母(かあ)さんもおやっさんも……好きだよ…………一緒に暮らせて……嬉しいよ……だから……」
怖い……ウルトラマンとしての自分が……ウルトラマンの力が……二人からもたらしてくれる家庭を壊してしまうのが怖い。
自分の存在が、二人に……最悪の仇で返すが怖い。
そして自分自身が…………………………怖い。
身を震わせながらの……告白だった。
以前は巨人と呼ばれるくらいの巨大な体躯も、空を飛べることも、光線を放つことも、当たり前なことだった。
だがウルトラマンの力を失い……人間としてミットチルダで暮らすことで思い知らされてしまった。
自分が……どれだけ破壊的な力を持っていたかを……それがどれだけ無力な人達を恐怖させるかを……暖かさを感じるほどに………深さが増す不安。
さらに故郷に帰れないのではと感じてしまう恐れと、今いる次元世界群に〝生まれ故郷〟が存在しない事実が、拍車をかける。
リンクが自我を持たなかったら、早くも心が折れていたかもしれない。
その彼の告白を受け止めなら、クイントは正面から勇夜を抱きしめた。
ただ……そっと………ゼロの告白を受け止めながら。
「ここも……勇夜のふるさとで……良いんだよ……」
それだけで……その言葉だけで、充分だった。
最初こそ彼は頬を真っ赤にして戸惑っていたそうが、そのまま眠りについてしまう以降の彼は、クイントに抱きついたまま離さなかった。
見た目の歳相応の、子どもっぽく。この時リンクから『よく創作で、体が幼児化すると精神年齢も幼くなる設定がありますが、それと似た現象です』とフォローを入れてくれた。
そしてただ……目に涙を溜めながら……一言……囁く。
「母さん………」と。
とても儚く……幼い…………声だったと言う。
「後にも先にも……あの子が甘えてくれたのはそれっきりだったけどね」
ただ、重荷になっていたものが取れたのか、それ以来夫妻に気兼ねなく接せるようになった。
中身が大人なゆえに、懸念された学校生活も友人ができて充実したものだった。
クイントの抱擁で、せっかく子どもに戻ったのなら、徹底的に楽しもうと思考がプラス向きになったのもある。
その時期にクロノと《一悶着》が……あるにはあったが、それがクイントとリンディの交流のきっかけになったのが疑いようがない。
それプラスで、なのはたちからどん引きされた大甘緑茶を飲む習慣も確立されてしまったが……それは置いとこう。
「あの……クイントさんは怖くなかったんですか?………勇夜が、ウルトラマンだって…」
「確かに彼が怖い力を持ってるのは事実よ、でもそれは魔導師も同じだし、怖いものなんて世の中にいくらでもあるでしょ」
〝怖い〟という概念は世の中そのものに常に存在する、人の感情の中にだってそうだ。ただ普段は誰もが気付かない振りをして、平静をなんとか装うとするだけ。
「でも…それをその人がどんな人か、知ろうとしない言い訳にしてはいけないわ……異世界と繋がりを持とうとする管理局(わたしたち)の場合は尚更……」
「……………………………」
クイントさんの言葉が、胸にずしりと響いた。
ちょっと前までの自分は、血の繋がりを言い訳にして、一番近しい筈だった母に対し、その〝知ろうとする努力〟を怠り続けてきたのだから。
血縁はある……と言うのは聞こえはいいが、見方を変えればそれだけしかない。
結局たったそれだけでは〝親子〟のなりえなかっただと、約二カ月前の地球での出来事の数々で、知らされた。
そしてクイントさんからの勇夜―――ゼロ………ウルトラマンもやっぱり〝人間な男の子〟なんだと知る。
そう思うと……何だか親近感が沸いてきた。前々から、彼のことになると心身ともに火照って仕方ないのだが、あれだけ超人的強さを持っているからなのか、どこか………遠い人のような感覚があったから。
「ああそれとね……フェイトちゃんに会いに来たのは……もうひとつ理由があってね」
「はい……」
クイントさんの目が真剣みを増した。
「ゼロ(あのこ)の………義妹(いもうと)になってみない」
その意味を理解するのに、結構な時間が掛かり。
「ふぇ……」
完全に理解したと同時に、一瞬で思考が―――
『嫌いに………なれるわけねえよ……』
『フェイトだって……いる』
―――あの時の勇夜から言われたみたいに………真っ白になった。
パタリ。
「フェイト!?」
数分後………今度は思考停止で倒れたフェイトは、まだ照れ気味だったがようやく平常時に戻った。
よく数分で回復できたものである。
「どうにか落ち着いた?」
「はい……ど、どうにか……」
まあ一応、以前からフェイト自身にとって避けられないものであったから。
本局の医療施設で入院しているプレシアから、ある日の通信越しの面会で、プレシアから養子に入ることを勧められた。
やはり、どう弁明しようと、プレシアは重罪に値する罪を負った。
まだ幼くても、虐待を受けていたとしても、フェイトはそんな母に手を貸した共犯者。社会的に辛い立場だ。
さらにプレシアは、病魔で生い先は決して長くない身。
フェイトと、ゼロと一緒に帰ってくるであろうアリシアが、身寄りの無い二人ぼっちになる。
そんな彼女たちには、引き取り手になってくれる人たちが必要となる。
プレシアは、それを見越して娘のフェイトに提案した。
「それで………その……」
年相応より賢いフェイトには、理屈自体は理解している。
でも………そう簡単に『テスタロッサ』の性を捨てることはできなかった。
ようやくちゃんと〝親子〟になれたことが、彼女の迷いを加速させる。
「そう無理に結論を急がせることはないわ、今日は単にフェイトちゃんたちの里親立候補に来ただけだから、フェイトちゃんにはまず乗り越えなきゃいけないものがあるでしょ」
え? 今の………って。
確か、別れ際に勇夜から言ったのと同じ。
「……………………」
「フェイト?」
「フェイトちゃん?」
「あ……いえ……なんか…勇夜に似たようなことを言われたことがありまして」
「………………似ている、か……」
それを聞いたクイントは少し驚いた様子だったが、そこから神妙な面持ちになって、独白のように呟いた。
「クイントさん?」
「実わね……あの子によると、似ているらしいの……勇夜……ゼロを生んでくれた、地球人のお母さんに」
さらにクイントの話では、勇夜と同じミドルネームを持っているとのこと。
どうも彼女の両親は名前をつける際、かなり白熱とした議論を重ね。平行線のまま埒があかなかったので、両方つけてしまおうという経緯から現在の形になったらしい。
そして……なんと運命のいたずらか。
「クイント……〝アンヌ〟…ナカジマ」
生みの母の名は――――諸星アンヌ、旧姓……友里アンヌ。
奇しくもゼロの実母とクイントは、似た容姿と、同じ名を持っていた。
フェイトははっとした。
「ひょっとしたら、私とあちらのアンヌさんって、物語でよくある平行世界の『同一だけど異なる』存在なのかもね」
クイントに会ってからずっと胸に引っかかりを感じていた既知感、デジャブの正体が分かった。
別れ際に……自分に髪留めを渡してくれた……髪を下したあの時の勇夜に…そっくりだったのだ。
実の母とそっくりな義母とは、なんという運命だろうか。
そして、クイントさんとお話して改めて分かった。
ゼロの原動力は、色んな人々の出会いと縁でできているって。
だから…今でもゼロは〝私たち〟のこと、信じられるんだ。
フェイトは、心の内に、温かいものがこみ上げてくるのを……まざまざと感じるのであった。