ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
ぶっちゃけ最後の場面がやりたかっただけやん、と言われたら、そうとしか言いようがない。
これ書くと決めた時から〝彼〟のあの登場シーンは絶対入れるつもりでした。
それと本作のデバイスのデザインは劇場版準拠です。
ただバリアジャケットはテレビのものと混ざった仕様です。
なのはの場合、レイハが彼女の魔力資質ととっさにイメージした聖祥の制服を元に生成したので、全体的に映画風だけど、胸にはテレビ版の赤リボンが付いてる。
これは、諸星勇夜ことウルトラマンゼロと、フェイト・テスタロッサの邂逅から数日遡った話である。
その夜、とある地球人の少女は、不思議な夢を見ていた。
荒唐無稽な光景ながらも、妙に現実感溢れる不可思議な夢だった。
場所はどこかの森林公園、時間帯は恐らく真夜中。
木々に囲まれたそれなりに広い池があり、船着き場には小型のボートが計二隻置かれている。
そんな日本でよくみる風景の一種なこの森は、異様な空気感を醸し出していた。
ただでさえ、夜の暗闇は生物の恐怖心を刺激させるのに、この森は周りの色合いが赤味がかって、より不気味さを助長させる演出をさせている。
異常で非日常な日常の空間の中で、少年が一人、張りつめた表情で緊張感を発し、周囲に気を配りながら佇んでいた。
年齢は11~12歳くらいで、薄めなブロンドの髪に翡翠色の瞳、女の子にも見えなくはない顔つき、地球で見慣れない紋様が特徴的な、半袖短パンの民族衣装とマントを羽織っている。
少年に、一つの影が迫っていた。
その影は赤く光る眼以外は、どんな姿か判別がつかない、その体は一見丸みを帯びているのだが、表皮は黒ずんだ煙にも、もやにも、雲にも見え、表皮が絶えず流動しているので形状が一貫せず、生き物と呼べるのかすら怪しい。
しいて言うなら、あるアニメに登場する、日本の八百万の神様が、呪いによって祟りをまき散らす悪魔になったものと言うべきか。
黒いそいつは、殺気を剥き出しに少年を睨みつける。
実体が分からないことが、より不気味さと怖さを増す効果を出していた。
「お前は、こんな所にいちゃいけない……大人しくあるべき場所に―――帰るんだ!」
恐怖をばら撒く殺気と異形に対し、自制心を総動員して耐えながら、影を目にとめた少年は、首にペンダントとして掛けていた一見色の付いたただのビー玉にしか見えないルビー色の球体を取り出し、影に向けて真っ直ぐ手を翳して構えた。
すると球体から、円と正方形を幾重に重ね、何らかの文字が書かれた、彼の瞳と同じ色をした光の陣形が、彼の足元と球体を中心に二つ出現する。
対象の影も、少年を視認すると敵であることを悟ったのか、血の瞳を細め、 獰猛に突進してきた。
「妙なる響き、光となりて、許されざるモノを封印の輪に!」
例えるなら、魔法使いが魔法を使う時に詠唱する呪文のような言葉の羅列を少年は唱え、叫ぶ。
「ジュエルシード! 封印!」
それとともに、円陣と突進してきた影が衝突。
怪物は純粋な闘争と生存本能から、少年は、責任感と罪悪感を活力の源にし、影はその肉体で、少年は魔法陣と呼ぶべき翡翠色の円陣で押し合う。
見ているだけでも伝わる衝撃破。
譲歩して退く思考は両者とも持たず。
どちらも、相手を屈服させるまでは、その迸るパワーを抑える気は毛頭ない。
瞬間、眩い赤い光が煌めいた。
影はその際生じた衝撃で宙に舞い、地面に叩きつけられる。
相当消耗したらしく、ぎこちない動きで地面に体を引き摺りながらゆっくり、影はその場から逃げようとする。
後を追おうとする少年、とどめを指すには絶好のチャンス………しかし、疲労困憊であるのは少年も同じ、むしろ消耗の度合いはあの怪物以上であり。
「逃がし…ちゃった……追いかけ……なきゃ……」
息を荒げ、膝をつき、うつ伏せに倒れこんでしまう。
心はまだ諦めていないのか、急激の消耗で重くなった体を必死に起こそうとする少年。
だがこの時の彼の体は、彼の意志に応えてくれるだけの余力を残していなかった。
数度、身体に立ちあがれと繰り返し指示を出し、全て断念させられ、うつ伏せの体勢のまま、力尽きてしまう。
「誰か…僕の声を聞いて…お願い…僕に……力を――――」
夢はそこで終わりをつげ、少女は深い眠りについていった。
翌朝、
三月の誕生日に買ってもらったばかりな、目覚まし時計の代わりに使っている少女の携帯のアラームがベッドの中で響いた。眠気と格闘し、二度寝したい誘惑を押しのけながら、手に取ろうとするが、うっかり床に落としてしまう。
なんとか手探りで落ちた携帯を取り、電源ボタンを押してアラームの着信メロディを解除した。
「ふにゃ~~~……」
メロディが鳴りやんだことを聞きとめると、少女は起床したばかりでまだおぼつかない体を置きあがらせて。
「何だったんだろう? あの夢って…」
その夜見た『変な夢』の感想を述べた。
歳は、フェイト・テスタロッサと同じ10~11歳ほど、肩まで伸ばしたロングヘアは鮮やかでエンジェルリングができ、艶がある栗色、寝癖でところどころ髪が跳ねているのはご愛きょうだ。
少女は、不思議で不思議で……堪らなかった。
なんで、あんなファンタジックな夢を見たんだろ?
前に夢は、前日の経験が反映されると聞いたことがあるが、いくら記憶を探って見ても、夢に影響を与えそうな該当する映像は、見当たらず再生されなかった。
しかし、そんな疑問も眩い朝日と背伸びの前に一気に吹き飛んでいった。
なぜなら今日も、春の暖かさが身にしみる朝であったからだ。
少女―――高町なのはは、私立聖称大付属小学校の5年生。
この高町一家においては、四人兄妹の末っ子さんな女の子。
パジャマから学校の制服に着替え、洗面所で髪をツインテールで纏めると、ダイニングへ向かった。
「おはよう」
「おっ、なのは、おはよう」
「おはよう、なのは」
台所で朝食の準備をしている私と同じ亜麻色の髪をした女性と、テーブルで朝刊を呼んでいる男性にあいさつします。
この二人が私の父と母であり、高町家が経営する喫茶店、『翠屋(みどりや)』のマスターとお菓子職人である高町士郎、桃子夫妻です。
「はいこれ、テーブルに並べてきてね」
「は~い」
なのはに、家族全員分のコップを乗せたお盆を渡す桃子。
なのははそれをテーブルに運んだ。
「今日はちゃんと一人で起きれたな、偉いぞ」
士郎は、早起きしてきたなのはを褒めた。
なのはは朝に弱く寝ぼすけなところがあり、こうして今朝のように自力で起きることは稀であった。
でも、小5にもなってそんな風に褒められるのは正直複雑な気分である。
ちなみに喫茶翠屋は、この海鳴市の駅前商店街に位置し、ケーキとシュークリームに、特製の自家焙煎コーヒーに定評が有り、特に学校帰りの女子や近所の奥様方に人気がある店である。
地元のタウン情報誌に、何度か載ったことさえあるくらいだ。
「お兄ちゃんたちとお姉ちゃんは?」
「ああ…今道場で朝練」
高町家の自宅には剣道の道場がある。
なのはが聞いた話では、父士郎の生家には、昔から伝わる特殊な流派を受け継いでいるらしい。
「お兄ちゃん、光兄、お姉ちゃん、おはよう」
なのはには、兄が二人と姉が一人いる。
「今日の朝練はここまでだ、美由希、光」
大学生で、もう一人の兄と姉の剣術指南役でもある高町恭也。
「じゃあ続きは学校が終わってからね」
高校二年生の高町美由紀。
そして―――
「今日は一人で起きれたましたね、お寝坊さん」
―――緑がかった黒髪をした、とても剣を持つ姿が想像できないくらいに穏やかな佇まいをみせる、ただいまなのはをからかった少年は、中学三年生の高町光、名前はヒカリと書いてリヒトと呼ぶ。
念のために言うと、どちらも『光』を意味している。
「私だって自力で起きるぐらいできるよ光兄(りひにい)」
「いつもは、僕に起こしてもらっているではないですか」
「もー光兄ったら」
この二人目の兄である光は、実は高町家の養子で義理の家族ではあるのだが、兄弟仲は全員良好である。
しかしこの光と言う人物、血が繋がっていないにも関わらず、何故か恭也と同じ声をしていた。光は普段から誰に対しても敬語口調なので、付き合いが長い人には聞き分けは容易ではあるが、聞き慣れない者はどう違うのかさっぱり分からないだろう。
まあ、そんな些細なことはいちいち気にしない、おおらかなで傍から見ると羨ましいけど、ちょっと空気が甘ったるくなるほど仲が良い家族だった。
例えば、朝食の食卓ではと言うと。
「今朝もおいしいな、特にこのスクランブルエッグが♪」
「ホント♪ 今日は隠し味にトッピングのトマトとチーズとバジルを使ってみたの」
「みんなあれだぞ、こんなに料理上手なお母さんがいるのは幸せなことなんだぞ、分かってるか?」
「分かっていますよ、ですよね、なのは」
「うん」
子どもが四人で、特に上の子は大学生な年頃ではあるが、二人は未だに新婚ほやほやに負けず劣らずの仲の良さ。
容姿も夫妻ともども、他人から子持ちと信じられないくらいに若々しかった。
二十代のおしどり夫婦と勘違いされても無理ない。
結婚歴の問題さえクリアすれば、新婚夫婦を対象としたバラエティ番組に余裕で出られそうだ。
「美由希、リボンが不格好だぞ」
「え、本当?」
「ほら、直してやるから」
で、恭也と美由希のお二人も、とても仲良しさん。
この年頃だと普通の兄妹なら、家庭内別居な疎遠の間柄になりがちだが、高町家では、そんな〝普通〟は通じない。
仲の良さと言えば、なのはと光もそうだ。
さっきみたいにからかい、からかわれても笑って済ませるくらいに、互いに良好な間柄。
なのはにとって光は、血は繋がりなど瑣末なことにも等しく、憧れの大好きな兄であった。
光兄と呼ばないと、しっくりこないくらいである。
どうして、そこまで光兄が好きかと言われると。
絵本に出てくる騎士さんみたいに、穏やかだけど強い……こともあるけど、やっぱり―――
場所と時間は変わって、今はなのはの通学風景。
彼女の学校は、私立聖祥大付属小学校。
今着ている白を基調としたセーラー風の制服は、その学校のもの。
家からは遠めなので、行き帰りはバスも使って通学している。
「おはようございます」
いつもの時間にバスへ乗車しつつ、運転手のおじさんに挨拶をするなのは。
「なのはちゃ~ん」
「なのは、こっちこっち、席確保しといたわよ」
最後部座席の方からの、なのはを呼ぶ声。
同年代の女の子二人が席に座り、彼女を手招きしていた。
「すずかちゃん、アリサちゃん、おはよう」
二人にも朝の挨拶を返し、後部席に座る。
金髪で一部の髪を縛っている勝気そうな女の子は、アリサ・バニングス。
紫の長髪でカチューシャを着けた物腰が柔らかそうな女の子は、月村すずか。
なのはらこの三人組は、二年前の小3に上がりたての頃に知り合い、今や親友と言える仲である。
こうして三人で、談笑しながら通学するのが三人の日課だ。
このように、高町なのははごくごく普通(?)なの……かは明言できずとも、色んな幸せに囲まれて暮らしている女の子ではあったが………その内にはある〝悩み〟を抱えていた。
その日のお昼、かの仲良し三人組は、校舎の屋上でお昼をとっていた。
普通の小学校と違い、この聖祥大学は小中高大一貫校で制服の着用が義務付けられ、お昼も持参型で給食制度はない。
「将来か…」
ぽつりとなのはが呟いた。
今三人は、午前の授業で話題になった『将来』について話をしている。
「悩むことないって、普通の小5なんて、未来の夢なんかまだ漠然としたものよ」
「でもアリサちゃんとすずかちゃんって、もう結構決まってるんでしょ?」
「まあね、うちはお父さんもお母さんも会社経営だし、あたしはそれを継げたら良いと思ってるけど」
「私は機械をいじるのが好きだから、工学系の専門職がいいかなって」
何気に、小学生の会話じゃないような気がしないでもない。
漠然と言ったアリサもすずかも、この歳で明確な将来設計をしていた。
「そっか…二人ともすごいよね…」
一方なのははと言うと、将来に関しては漠然としたものしか浮かばない『普通の小学生』といったところ。
「でもなのはは喫茶緑屋の二代目じゃないの?」
「うーん………でも…」
なのはは一応翠屋を継ぐこともまんざらではないが、実際どうかと聞かれても、分からないとしか言えない。
フォローすれば、この年代ならむしろなのはのような子が普通である。
逆に彼女の親友たちのように、小学5年生の齢で具体的なビジョンがあることの方が異端だとしか言い様が無い。
「やりたいことは何かあるような気もするんだけど…まだそれがなんなのかはっきりしないんだ」
だだ、歳相応以上にませた感覚と、先を行く親友たちの存在も有り、自分の『やりたいこと』が見つからないなのはにとっては、悩ましい実情であった。
「あたし…みんなと光兄と違って、特技も取り柄も特にないし…」
「この、バカちんが!」
「にゃあ!?」
自嘲気味に呟いたなのはの頬に、アリサの叱咤とともに彼女の弁当にあったレモンが飛んできた。
「自分からそういうことを言うんじゃないの!光さんにも失礼でしょ!」
「そうだよ……なのはちゃんにしかできないこと、きっと……あるよ」
「だいたいあんた! 取り柄が無いとか言うけどね、算数の成績とか、このあたしより良いじゃない! それで取り柄が無いとはどの口が言うーんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
アリサのなのはへの励ましと叱咤は、いつしか一方的なイチャモンに変わり、お仕置きとばかり、なのはの口を両手でぐいぐいと左右へ引っ張り出した。
「だぁ~てぇなのはぁこくぅごにがぁてぇだしぃ~たぁいぃくもぉにがぁてだぁし~」
ほほを引っ張られ、涙目になりながらも、自分の苦手科目を述べるなのは。
妙なとこで意固地な女の子である。
「二人とも、ダメだよ……ねえったら……ほらみんなじろじろ見てるよ」
そんな状況に、おろおろすることしかできないすずか。
今日の親友三人組のお昼の会話は、こんなコント気味な結末に終わるのだった。。
実は………なのはの〝悩み〟は想像以上に深刻なものだ。
親しい人と一緒にいるのはともかく、一人でいる時、それは表に現れてくる。
例えば、臨海公園のコンクリートの上で一人、潮風を受けている時。
彼女が一人になりたい時に、良く来る場所だ。
今の生活に、不満も不安も抱えてない。
自分には家族がいて、友達もいて、彼らと一緒にいる日々はとても幸せな時間で、寂しくなる理由なんて…どこにもない……無いはずなのに。
時々、どうしようもなく悲しくなって…苦しくなり、どうしても一人になりたい時が現れてくる。
言いようのない不安と行き場のない気持ちと言う淀みが体から抜けずに体の中を巡り。
〝なにかをしなくちゃ〟
〝自分にしかできないことを見つけなきゃ〟
〝何もできない、助けられて……守られてばかりな自分を変えなきゃ〟
という強迫観念たちがこみ上げてくるが…………それを発散して、外に向ける行き先が見つからず、心の内で巡り回るのを繰り返すばかり。
なまじ優しく、痛みを内に抱え込んでしまうゆえに、父にも……母にも……兄にも姉にも…そして光にも言ったことが無い苦悩と痛み。
その心の痛みのために何度、一人の時、海原に向かって涙を流して叫んだことか。
「自分にできること」を明確に理解し、それを為そうとする。
なのはは、それを見つけたいのに見つけられずにいた。
見つけられない今に、苦しんでいた。
彼女がなぜそこまで拘るのか? それには幼少時の日々から、繋がっている。
今はここでは話さないでおこう。
そして、〝自分にできる何か〟を見つけるきっかけとなる出来事が、直ぐそこまで迫っていることは、まだ彼女は知らずにいた。
その日の夕方。
「ねぇ、今日のすずかのドッチボールすごかったわね」
「うん、カッコよかったよねすずかちゃん♪」
「そ、そんなこと……ないよ」
「男子も真っ青な身体能力のすずかのどこが〝そんなことない〟のかしら」
三人は、今日起きたことを話題にしながら、一緒に通っている塾へと向かっていた。
「ほらこっち、ここが前に見つけた塾への近道」
「そうなの?」
アリサの示したその近道は、若干深い森で囲まれた園道だった。
「ちょっと道が悪いけどね」
確かに深く生い茂る草木らが太陽光を阻んで大きく広い影を作り、子どもが通るには抵抗を感じさせる薄暗さのある道であった。
そんな道を通っていると、なのはは昨夜見た夢を思い出した。
「(ここ、夕べ夢で見た場所と………似てる?)」
確かに、あの夢での一連の出来事があった場所と、この森の風景は酷似していた。
「どうしたの?」
「なのは?」
「あ、うん何でもない、ゴメンゴメン」
「じゃあ行こう」
再び歩き出す三人
ここで起きた出来事を夢にみるなんて……正夢? まさかね。
「(助けて…)」
そう思った矢先、なのはの耳、いや頭か……自分の脳内に声が響いてきた。
「なのは?」
「今なにか聞こえなかった?」
「なにか?」
「何か、声……みたいな」
「別に」
「聞こえ……なかったかな」
二人はそう言うものの、なのはには『助けを求める』悲痛な声が、確かに何度も何度も響いていた。
気がつくと、なのははその場を走り出していた。
「なのはちゃん」
なんでだろう?
なんとなくこの先を行けば声の主がいると言う確信がなのはにあった。
声のした方と思われる方角を走っていくと、道の真ん中で小さな動物が倒れていた。
その動物の前にしゃがむと、こちらに気づいたように目を開けてこちらを見ている。
その小さな動物の首には赤い球体を着けたペンダントが下げられていた。
「もうどうしたのなのは! 急に走り出して!」
「あっ見て、動物? 怪我してるみたい…」
その動物は、怪我をして衰弱していた。
「あ、うん………どうしよう」
「〝どうしよう〟って…とりあえず病院?」
「獣医さんだよ」
「でも、この近くに獣医さんっていたっけ?」
幸い、この近くに動物病院があったので、なのはたちに拾われた動物はそこで治療を受けることになった。
「そんなにたいした怪我じゃないけど、随分衰弱しているみたいね、きっとずっと一人ぼっちだったんじゃないかな?」
「院長先生、ありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
まだ会ったばかりの動物に代わり、礼を言う三人。
「どういたしまして」
「先生……これってフェレットですよね?」
フェレットとは、ヨーロッパパケナガイタチを家畜化した、イタチの仲間。
「どこかのペットなんでしょうか?」
「さあ……見たことない種類だけど、この首輪に付いているのは……宝石なのかな」
獣医さんが宝石に触れようとすると、フェレットは眼を覚ました。
あちこち周囲に視線を向けて、なのはに目を止めると、そのままじっとなのはを見つめ出した。
「なのは、じーと見られてるわよ」
「にゃっ? え、あっ…えっと…」
恐る恐るフェレットに手を差し伸べると、フェレットは人間としては小さめだが、小動物からは十分大きい彼女の手に近づき、なのはの人差し指を舐め初めた。
「「「はぁ~~~~」」」
三人が、思わず顔が綻び、感激の声を上げるほどの愛らしさだった。
だがフェレットは、まだ回復していないためか、すぐにそのまま眠り込んでしまう。
「とりあえず、明日までこちらで預かっておくわね」
「「「はい、お願いします」」」
と、ここで三人はようやく当初の目的を思い出す。
「あ!やば!塾の時間」
「ほんとだ!」
「じゃあ院長先生、また明日来ます」
フェレットのことを気にしつ三人は動物病院を後にした。
その後の塾の授業中でもなのはは、あのフェレットのことで頭が一杯で、講師に名指しされた時は親友のフォローでなんとかその場をしのぐ有様だった。
その夜の高町家の食卓。
「でね……そのフェレットさん、ちょっとの間、うちであずかりたいんだけど……いいかな?」
「フェレットか………」
なのはは、例のフェレットのことを家族に切り出した。
「ところでなんだ? フェレットって?」
神妙そうに考え込んだ仕草から、一転して繰り出された父の思わぬカウンターボケに、家族一同はズッコケそうになった。
なのはに至っては、顔をテーブルにぶつける始末。
「イタチの仲間ですよ、父さん」
「だいぶ前から、ペットとして人気なんだよ、この間もテレビの特集でやってたし」
光と美由希が補足説明をした。
「しばらく預かるだけなら、カゴに入れておけて、なのはがちゃんとお世話できるならいいけど」
母桃子に、言い方こそ穏やかだが、やはり命を預けるのである、ちゃんと責任をもって預かれるかと問われるなのは。
もちろんなのはも、軽い気持ちで世話をするつもりはない。
「三人はどう?」
「俺は特に依存はないけど」
「あたしも」
「僕もです」
「だ、そうだ」
「よかったわね、なのは」
「うん!ありがとう」
幸い、全員から了承を得ることができた。
明日には、フェレット君を迎えに行こう。
就寝前に、アリサとすずかにフェレットを自分の家で預かることをメールで連絡し、眠りにつこうとするなのはだったが、電気を消す寸前に、再び響いてきた。
「(聞こえますか?僕の声が)」
夕方に聞こえた……正体不明なあの声。
両手で頭を押さえるなのは。
また…なんなの? これ。
空耳にしては、くっきり頭に伝わってくる。
「(聞いてください、僕の声が聞こえるなら、お願いです、僕に少しだけ力を貸して下さい)」
どうやらその声の主は、助けを求めている様子。
「(危険がもう―――)」
途中で声が千切れるとともに一瞬目眩がし、ベットに倒れるなのは。
何事なのか、把握はできていない。
でも、自分の心が訴えてくる。
〝行かなきゃ!行って助けなきゃ〟
その心のままに、直ぐに私服に着替え家を飛び出して行った。
行き先はあのフェレット君のいる動物病院、どうしてかは分からない、
でも本能のような感覚で、〝そこに行けば分かる〟という奇妙にはっきりとした確信が渦巻いていた。
目的地かもしれない、槙原動物病院に着くなのは。
今まで無我夢中に走って気がつかなかったが、やはり夜の夜道は気味が悪い。
暗闇から、何かが出たらどうしようと考えてしまう。
その時、突然妙に生温かい風が流れ、頭に妙なノイズが走る。
たまらず頭を押さえるなのは。
「この音って…」
夕方の時もさっきも聞こえたものだが、今まで断続的に響いていたそれはより遥かに強いノイズとなって、長いこと響いてくる。
そのノイズが終わった時、空気が変わったような感じがした。
周りをよくみると、ありとあらゆるものがどこかみどりや紫ががっている。
それに…なのはは外にいるはずなのにまるで室内にいるような奇妙な感覚を感じていた。
そして。
「guuaaaaaaaaaaaa…」
低く響く獣のような不気味な声とともに、あのフェレットと、周りものを破壊しながら夢に出てきた黒い影が現れた。
自分に向かって、飛んできたフェレットを受け止めるなのは。
「いったい何!?」
その影は、自分が倒した木に身を抑えられてもがいている。
「来て……くれたんだ」
突然声がした。
今の声って………今ここには自分と変な怪物とフェレットしかいない。
ということは、まさか今手の中にいる〝この子〟が、声の主?
「にゃ!? しゃ、しゃべった!?」
だが状況は驚く暇さえ与えてくれない、影は自分たちに明らかな敵意を向けて、こっちを見ている。
フェレットを抱えたまま、なのはその場を走り出した。
「その、何がなんだがよく分かんないんだけど! あれって一体何なの!?」
聞きたいことは一杯あったが、あの謎の影についてをフェレット問いただす。
「何が起きてるの!?」
「君には資質があります、お願いです、僕に少しだけ力を貸して」
どういうこと?ますます分からない。
ししつって?それに力ってどういうこと?
運動だって、音痴レベルなのに………緊迫した状況のせいか、色々段階を高跳びしたフェレットの言葉は、逆になのはを混乱させる。
「僕はある探し物のために、ここでは違う別の世界から来ました、でも僕一人の力ではどうにもできなかった、だから迷惑だってことは承知しています、あなたのような資質を持った人に協力してほしくて、だからお願いします、僕の『魔法の力』を」
「魔法?」
昨日の夢から魔法っぽいと思っていたが…まさか…本当に朝のアニメみたいなことが起きるなんて……すると空からあの『影』がいきなり落ちてきた。
なんとか直撃を避けて、電柱に身を隠す。
「お礼は必ずしますから…」
「お礼とか、そういう場合じゃないでしょ!」
影は容赦なく追ってくる以上、こうして話をしてる時間も無い。
「とりあえず、私は何をすればいいの?」
フェレット君の説明の大半は正直チンプンカンプンだが、少なくともその「魔法」を使って、あれと戦ってほしいということは何となく理解できた。
でもどうやって?本当に私にできるの?
こうして逃げるだけで手一杯。
非常識な状況に、恐怖を押し込めながら、何とか耐えている。
そんな自分が、怪物を戦えるとはこの時のなのはは思えなかった。
「これを持って下さい」
フェレットが差し出したのは、あの宝石をつけたペンダント。
ひもに括られたその球体は、赤く発光していた。
手にとってみると、まるで人の手に触れたような温かさを感じる。
「あなたに管理者権限を譲渡します、それを手に、目を閉じて、心を澄ませて、僕の言う言葉を、言う通りに繰り返してみて」
正直、まだ今何がどうなっているのか分からない……でもやるしかないとも思った。
このままでは自分もこの子も危ない。
どこまでできるか分からないけど………どうにかする方法がこれしかないのなら。
「行きますよ」
「う…うん」
意を決して、彼の言う通り、目を閉じ、ペンダントを握りしめた。
「我、使命を受けし者なり」
「我…使命を…受けし者なり…」
「契約のもと、その力を突き放て」
宝石は断続的に点滅し出す。
「えーと……契約のもと……その力を解き放て…」
「風は空に、星は天に」
「風は……空に……星は天に」
「そして不屈の心は―――」
「そして……不屈の心は―――」
なんでだろう?
その時最後に唱える言葉が、ふっと自然に脳内に浮かんできた。
「「―――この胸に! この手に魔法を」」
宝石を持った右腕を真っ直ぐ天に向けてかざし。
「「レイジングハート!セェェェト アァァァップ!」」
『Standby REDEY SET UP』
最後の言葉と共に、宝石から発された赤い光が、空の彼方まで溢れ光の柱が現れる。
「なんて………魔力なんだ?」
フェレットは驚嘆の声を漏らすす。
初めて会った時から、素質があるとは思っていたが、なのはの『資質』はフェレットの予想を超えていた。
「落ち着いてイメージして下さい、君の魔法の『杖』の姿を、そして君の身を守る強い『衣服』を」
「そんな、急に言われても…」
『はじめまして、新たなマスター』
どこからエコーがかかった女性の声がした、もしかしてこの宝石?
「えっ、あ、はじめまして」
『あなたの魔力資質を確認しました』
フェレットが話をしだしたという魔法もの全開な展開もびっくりしたけど、魔法の杖まで喋るなんて……どうもこのフェレットの言う魔法は、なのはのイメージする魔法とは異なるようだ。
『デバイスの形状はこちらが自動選択しますが、防護服はあなたのイメージを元に最適なものを形成します、よろしいですか?』
杖の言葉を噛み砕いて言えば、杖のデザインは『杖自身』がするが、その『防護用の服』のデザインは、なのはの想像(イメージ)を元に作ります――という意味合いであった。
「えーと……とりあえず、はい!」
本音を言えば、この球体の言葉はフェレット以上に難解な単語のオンパレードで理解できているとは言い難い。
でも……わたしはこの魔法の杖を信じることにした。
ぶっつけで大雑把だけど、なのはは『服』を脳内に浮かべた。
『All right. Stand by Ready. Barrierjacket, set up.』
瞬間、眩いまでの閃光が宝石から発って、周りが白く染まっていった。
その光を視認しているのは、なのはとフェレットと影だけ、では無かった。
光の柱を目に止めた者が、この街でもう一人いたのである。
「あの光………まさか!」
その彼もまた、別の世界から来た来訪者の一人であった。
「成功だ…」
「にゃぁ!ふぇっ!えぇぇぇ!嘘…なんなのこれ!?」
光が収まった瞬間、なのはは自分が置かれた状況に驚愕した。
何となく咄嗟にイメージしたのが、聖祥付属小の制服なのだけれど、これがフェレット君の言ってた『杖』と『服』なの?
服装は胸部に真紅のリボンが付いた彼女の学校の制服をモチーフに青色とライン、華奢ななのはの両腕は小手に覆われ、ロングなスカートの裾はギザギザが付いている。
さらに左手には、先端にアルファベットのG状を模して、中央に赤い球体がはめられた杖を持っていた。
でもそこからどうしたら良いの?
呪文とか、どうすれば使えるの?
「来ます!」
相手は考える余裕も与えてくれない。
影はこちらに視線を据えた。
明らかになのはを狙っている。
怖い……あんなのとどう戦えば良いの?
異形の赤い目は、少女を金縛りにするには充分すぎる殺気を秘めていた。
なのに、体は恐怖でくすんで固まってしまっている。
目じりは涙目で、立っているのもやっとだ。
それでも理性を保っている辺り、常人よりも逞しく堅固な胆力を彼女は持っていた。
が、それは同時に、それだけしかできないとも言える。
なのはの反応はごく自然なもの、普通の小学生がこんな状況に放り込まれたら、こうなってしまうのは必然だ。
影は空高く飛び上がると、不気味な赤い眼をなのはに向け落下してきた。
「危ない!」
反射的に屈めるなのは、その影がなのはを押しつぶそうと迫った時、
杖の赤い宝石部分が突然光り出し、手り剣状の図形と六角形が重なった形をした紋章が現れる。
「あの紋章は?………………………なっ!?」
紋章から人が出てきた、正確には〝人に似た姿形〟をした何か。
その全容は光に包まれてよく見えない。
「はぁぁぁ!」
光の人は影を蹴りつけ、もろに受けた相手は放物線を描いて落下する。
「こ、今度は何?」
今杖から人が? 自分を助けてくれたのか?
光の人は着地し、こちらに目を向けると全身を覆ってた光が収まり、その全貌を現した。
銀色のスラリとしたボディに、緑色に染まった肩と腕、胸と手の甲には黄色い光沢が、そして顔には人間に相当するパーツが無く、代わりに漢数字の10にも見えなくない形をした、黄色い光を放っていた。
「君は?」
「あなたは?」
二人は、ほぼ同タイミングで光を纏う何者かに尋ねていた。
「どうにか、間に合いましたね」
その光の人は、騎士を連想させる落ち着いた口調で言葉を発した。
そう、間違いなく彼は、かつてはエスメラルダ星の騎士で、今はウルトラマンゼロが結成した宇宙警備チーム、〝ウルティメイトフォースゼロ〟のメンバーの一人。
鏡の騎士―――〝ミラーナイト〟。