ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
一般の地球、日本人からは特に何も変わりない、海鳴市の市街地。
今この地にて、常人には侵入することも、ましてや視界にいれることさえできないドーム状の空間が佇み、中では映画等のフィクションでしかお目にかかれない、常識の箍が外れた戦闘が行われているとは、通行人たちには誰一人として分かるまい。
例外と言えば、なのはが良い例なように、地球人の中でまれに出てくる魔力資質を持つ者が、ある程度違和感を抱くくらいか。とは言えそれさえも他者が感じ取れない小規模の地震を微かに感じ、気のせいだと結論が行きつくレベルの話だ。
その海鳴の上空に、魔法陣を足場にして、表示されている3Dモニター群をキーボード入力している少年がいることも。
ナオト・J・フライト。
それが〝人間の姿〟を得た、かの鋼鉄の武人の人間としての名だった。
彼は今、半透明の3Dモニターを正確に、なおかつやり手のプログラマーでも追いつけないスピードを持った手つきで入力している。
この世界の魔法が、高度にプログラム化された精密機械と言えることは前にも話したが、今彼は、アースラにいるフェイトの姉であるアリシアサポートを受けながら、眼下に張られている結界の配線=プログラムを書き換え、いつでも脱出できる環境を構築させていた。
ゼロとミラーナイトには、重いハンデを背負わせたが、2人はよくやってくれている。
彼らに、人間相手には過剰戦力なウルトラマンまたは二次元人の、姿で戦うよう指示を出したのはナオトだった。
結界を張る連中の一人らしき魔道師が、彼のハックに負けじと抵抗している。
結界というコンピュータにハッキングをかけるナオトと、侵入を阻止しようとする彼女の図だった。
だが今頃は、ゼロの〝師〟に見つかってレジストどころではなくなるだろう。
現状の最優先事項は、一方的に襲撃されたミラーナイト――光の義妹である高町なのはの救出だ。
可能なら、襲撃者も確保しておきたいが、リンクと言う名を持つバラージの盾からの話では、彼らの使うあの魔法は使い手を選ぶ代物で、それを使いこなす以上、相手はかなりの強敵とのことだ。
顔隠しのために変身して戦うと言う〝ハンデ〟が課せられているゼロたちでは困難極まる。
「よし……」
今までが黒一色だった3Dモニターに映像が映る。
結界内の現状を映す映像だった。
「(アリシア、今から贈る結界内のリアルタイムの映像を、アースラに回してくれ)」
「(了解)」
「(それと、管理局からの援護要請の方はどうだ)」
「(まだ時間がかかるみたい、今はゼロさんたちに任せるしか…)」
「そうか…」
直後、彼のレーダーが結界内に入り込んだ新手の存在を感知。
「このエネルギーの波形パターンは……まさか」
極論すれば、レイジングハートらインテリジェントデバイスと同じ、AIである彼の表情が、驚愕に染まった。
そして、結界内部に強行突入した張本人。
炎の戦士グレンファイヤーは今、ウルトラマンゼロと対峙する格好になっていた。
二人とも、今の姿は表情を変えられない顔のつくりなので、顔からでは感情は読み取れない。
グレンファイヤー………まさかこんな形で再会するなんて。
やはりずっと探してた仲間だから、感慨もあると言えばある。
ようやくこうして顔を拝めたのだから、嬉しくないわけがない。
何だけど……明らかに例の〝通り魔〟を助けようとして攻撃してきた仲間の行為に対し、困惑の方が強かった。
ともあれ、まずは騎士――シグナムとの戦闘、首を突っ込んだわけを問うてみるか。
「久しぶりじゃねえか、今度はどこの用心棒なんだ?」
内心の困惑を隠して、ややジョーク混じりな調子で切り出してみたが。
「悪いなゼロ………それはどうしても言えねえんだ……」
グレンは〝いつもの調子〟から程遠いトーン低めな声色で、素っ気なく大真面目に返した。
どうやら………今のあいつは〝軽口〟を叩ける状態じゃはなさそうだ。
グレンファイヤーは、チーム加入以前はその世界では名をはせていた宇宙のアウトロー『炎の海賊』の用心棒で、チーム内では隋一のムードメーカーであり3枚目なポジションであった。
決して本人が意識してやっているわけではないのだが、現状がたとえ戦闘の真っただ中でも、軽口を叩くのを欠かせない。
一歩間違えば緊張感を削ぐことにもなりかねないのだが、それが上手いこと活力を生む効果を度々出していた。
それくらい、いつも一緒にいても飽きさせない野郎、それがグレンファイヤーという戦士だった。
無理はないか………どう言う関係かは知らないが、自分にとって〝大事な存在〟が争っているのだ。そんな状況では、特に義理人情の篤いグレンだからこそ、人一倍心を痛め、〝いつもの自分〟が鳴りを潜めてしまうもの。
「ファイヤースティック…」
彼は、その手から発生させた炎を、棒状に凝縮させた。
ファイヤースティック、火を自在に生みだし操ることができる彼の能力よって生成した炎で作り上げたロッド。
切断武器として使え、如意棒よろしく長さも変えられる汎用性を備えている。
グレンがこれを使うということは……〝本気〟で戦うことを意味している。
そして、自分の背後に降り立つ影が一つ、騎士シグナムだった。
どうやら知り合いらしいグレンに対し、不服そうな表情を浮かべていたが、直ぐに彼女がレヴァンティンと呼んだ、確か地球の北欧の神話に出てくる、伝説の武器と同名な片刃剣を正眼に構えた。
実直で凛とした騎士の鏡なシグナムと、粗暴で礼節とは無縁そうなアウトローなグレン、対照的な炎の操り手は、それぞれの武器の切っ先を自分に向ける。
「すまない、我らにも負けられない理由がある、2対1でかかる無礼を許してくれ」
ご丁寧にもシグナムが謝罪を申し出た。
全く……戦場じゃ一対多数の場面なんて、よくあることだってのに、敵対している関係にも関わらず、ゼロの心中苦笑してしまう。
親しき中にも礼儀あり、なように、かつては戦場においても明確には規定されなかったが、もののふ同士の間に礼儀が存在した。
今でいえば、武士道精神や騎士道精神と呼ばれるもの、地球では重火器と言った近代兵器が台頭したことによって、戦場から消えてしまった概念。少なくともシグナムはそれを今でも持っている数少ない生き残りであった。
「その礼儀は受け取っておくぜ」
ゼロは頭部に装着されている二振りの宇宙ブーメラン、ゼロスラッガーを手に取り、それぞれの刃を合わせると閃光を発し、それは一振りの鍔なしの日本刀と変えた。
ゼロスラッガーの使用形態の一つ、ブレイドスラッガー。
ただ、以前P.T.事件にてダークロプスに使った太陽エネルギーを刀身に凝縮させたタイプと違い、エネルギー消費を抑えるために実体剣となっている。
それを手に取り、いわゆる八双と称される、剣を顔の右側に持ってきて縦に構える複数の敵を相手にする時の構えをとった。
今までの状況から、グレンとは深い縁のあるシグナムたちは、人となりが何にせよ、目的が何にせよ、穏便に逃がす気は無い。
特にグレンからは敵対する理由を聞きたいが、あの憂いすら感じさせる態度から察するに、無理な話だ。
となれば、やり合うしかない。
光線技は使えないが、こちらも相応の覚悟で臨まないとやられるだろう。
二人はどちらも強敵に位置する相手だが、フェイトたちの負担を抑えるためには自分が相手にするしかない。
〝ナオト〟たちが結界のプロテクトが解除し、みんなが結界外に脱出したのを確認次第、こちらもテレポートして離脱する。
それまでの、辛抱だ。
本当は……グレンには、さっきも言ったが聞きたいことが山ほどいくらでもある。今まで、どういう暮らしをしていたのか?こいつらとどういう関係か?話題が尽きそうになく、色々気持ちが頭ん中で周りに周っていた。
だけど、今は心にしまって置こう、フェイトたちをやらせはしない為に。
さて……勝負に臨むとしよう。覚悟を整えて、ゼロの全身から、物理的な重みさえ感じさせる闘気、プレッシャーがあふれ出す。
それを合図に、シグナムとグレンが、同時に動き出した。
ゼロも八双の構えを維持したまま、出迎えようとする。
意識を戦闘に集中させ、自らの肉体を戦いに適したものへと変えようとするその時だった。
ゼロの背筋に冷たい悪寒と胸騒ぎが走り、思わず反射的に飛び上がった。
グレンもシグナムもそれを感じ取ったのか、同様に飛翔。
〝あれはまさか!?〟
彼は下方のアスファルトで起きている異変を見て衝撃を受けた。
地面が螺旋状にねじ曲がり、黒い空間………かつて海鳴に現れた怪獣、コッヴとパズスが出現したときと、同様の現象―――ワームホールが開かれたからだった。
それは、地球人より常識の範囲内が大きい結界内にいるものたちでも異様な光景だった。
海鳴の都市部のアスファルトと、同時に上空にと、2つ出現した黒い螺旋、ワームホールは渦を巻いて回転しながら面積をどんどん広げていく。
どうにかして、ワームホールの進行を止めたいがそうもいかない。
今この瞬間、ある地点と海鳴が、次元を超えて無理やりトンネルとなって繋がっている状態なのである。
しかしトンネルと違って、長時間物体が行き行きできる環境ではない。
無理やりゲートを繋いでいる分、周辺の空間は不安定で脆弱、危ういバランスで秩序を保っている。
下手に刺激を与えれば、落盤事故より恐ろしい事態が起きかねない。
そのワームホールを伝って何かが現れるのを、今は待つしか手は無かった。
やがて渦から出てきたのは……二つの巨体だった。
まず地上から現れた一つは、こげ茶色で縄文土器のような紋様を持ち、頭の周りが角竜に分類される恐竜、スティラコサウルスに似た角たちが飾られている二足歩行の怪獣。
続いて空の渦から飛び出たのは、金と銀と紫色の体表、魚のヒレを連想させる足、三本の角を生やし、左腕には指の代わりにドリルを生やした異形の生命体だった。
『アーカイブドキュメントに該当データ有り、サラマンドラとクロスサバーガです』
ゼロの相棒であるリンクことバラージの盾が、自らの記録領域にインプットされていたデータから、対象の固有名詞を導き出した。
半年前、フェイトとなのはが、ロストロギアを巡って戦っていたころ、今のように結界のど真ん中に誰かが俺たちウルトラマンがいる世界の怪獣を放り込ませた。
それも二体、以前と異なる点は多いが、これはそれの再演に相違なかった。
思わぬ闖入者たちの乱入で、双方とも、心理的に戦闘を続けられる余裕は無くなっていた。
以前この状況を経験したことがあるゼロたちもそうだが、それすらない、そもそも、こちらの次元世界ではお目にかかることさえ稀な巨大生物に自らを守護騎士と称した者たちは、たび重なる介入に次ぐ介入に、当初の目的を遂行させることが困難と判断したのか、彼らの足元に転移用の魔方陣が浮かび上がった。
「ユーノ、結界を!」
「はい!」
今結界が解除されたら、街中に怪獣たちを放り出すことになる。市民たちは、突然スクリーンから現れた非常識に惑い、実体を持った脅威として迫ってくる災害に為す術無く、この世から生きること剥奪される。
幸い騎士たちが張った結界が消えると同時にユーノの結界がこの場を包み込み、脅威が外に漏れる事態は阻止された。
「っ!―――グレン待て!」
上空から、事態の移り変わり様を見ていたゼロは、この場から騎士たちと消えようとするグレンに呼びかけた。
だがグレンは、答えるどころか、ゼロに背を向けたまま、魔方陣の光に包まれて消えてしまった。
ただ…………その時の炎の戦士の背中からは――
『俺だってこんな時に、のこのこ逃げるなんて真似は御免なんだ』
――と言っているようにゼロには聞こえ、様々な外の状況と内なる感情を前に、翻弄され、必死に抑えてる悲痛な心境をくっきりと示していた。
一度戦わなければどうしようもないと、封じ込めた想いが静かに、けれど確かな重みを感じさせる濁流になって溢れだしてくる。
「ゼロ……」
自分を呼ぶ声が響き、振り向くとフェイトとアルフ、ミラーナイトにユーノがこちらを案じる顔つきで見つめている。
特にフェイトは、心に秘めている想い人への想いの強さゆえ、一段と不安そうな表情だった。
『マスター、サバーカが来ます』
とその時、上空を飛んでいたクロスサバーカがこちらに向けて降下。
「ディフェンスミラー」
光の十字架で突進を受け止めるミラーナイト。そこに今度はその巨体から来る重量でアスファルトを蹂躙しているサラマンドラの鼻孔から、火炎の放流が飛ばされた。
それをウルトラゼロディフェンサーで防御しようとするが。
「サバーカがもう一体!?」
別方向から、もう一体のクロスサバーカが接近してきた。
「バルディッシュ!」
『Yes.sir Thunder Smasher』
フェイトの足もとと眼前に魔方陣がしかれ、魔力をチャージ。
「撃ち抜け轟雷!」
右手に持つバルディッシュを魔方陣に添えると、魔法の雷流、サンダースマッシャーが放たれる。
ゼロたちをやらせはしない!
フェイトの意思を乗せた迸る雷光は、一直線にもう一体のサバーカを捉えるはずだった。
「消えた!?」
ミラーナイトと押し合っていた個体も突進してくるもう一体のサバーカも、初めから存在などしなかったかのように、あっさりとその場から消え。
『真上12時の方角です!』
見上げた先に、サバーカが佇み、右手からサバーカを小型化させた生物が飛び出てきた。
「ちっ!」
ゼロは両腕をクロスさせ、巨大化して迎え撃とうしたその瞬間、突如真横から飛んできた物体が、小型サバーカを全て撃ち落とした。
その物体とはミサイルだった。
それから遅れて、飛行物体が上空を旋回する。
「鳥?」
思わずユーノが呟く、彼に限らず、鳥の翼と頭部を想像させる主翼と機首を眼にすれば同様の感想をするだろう。
さっきまでこの場にいたグレンは、彼のことを『焼き鳥』と称していたが、それだけ鳥に見える形状をしているのだ。
「(ゼロ、ここは私とジャンボットが相手をする)」
「師匠?」
ゼロの脳内に、テレパシーで貫録を感じさせる渋みを利かせた声が届いた。
ゼロにとって、自分を、身体はもちろん、荒みきった己の心をも鍛え上げてくれた師であるウルトラ戦士。
そう、海鳴に推参したウルトラマンは、彼だけではなかったのだ。
「(レオ殿、上空の敵はそちらに任せてもよろしいか?)」
「構わないぞ、地上のサラマンドラは頼む」
「(了解した)」
ビルの屋上に佇む、僧侶―――今の姿はおおとりゲンと呼ぶ男は、笠を外し、その鋭い獅子の眼光を晒した。
左手の中指に添えられたライオンの彫刻が掘られた指輪、《獅子の瞳》が点滅し、同時にゲンは両手を交差させ、腕一杯180度に回した後。
「レオォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!」
と叫びながら左手を正面に突き出した。
指輪のライオンの瞳から、目をくらませるほどの光が飛び出し、ゲンの体を包み込んでいく。
その光は上空に飛び上がり、サバーガと正面から睨みあう格好となる位置で止まる。
その光の中から、巨人が姿を現した。
全身を染める深紅、胸部に添えられたプロテクター、中世の西洋彫刻を思わす曲線で構成された頭部。
そしてゼロと同じく、金色の瞳とカラータイマーを宿した。
その巨人の名は―――ウルトラマンレオ。
格闘戦においては、〝最強〟とも称される武道派なウルトラ戦士だ。
「エアァァ!」
レオは気迫を発しながら、ゼロに受け継がれた片腕を突き出したファインティングポーズを取る。
ゼロの師だけあり、その姿はとても様になっていた。
一方上空から機首に搭載された砲口からビーム、『ビームエメラルド』を発射し、サラマンドラを空中を掛ける鳥、ジャンバードが。
「ジャン!ファイト!」
エコーのかかったナオトの声が機体から響き、それが合図となり、機体全体から緑色の光を発した。
それから、まず前方の機首から手が伸び右手に移動、同時に左手が機体内部から飛び出し、続いて主翼が折りたたまれ両足となり、最後に胸部が開き、西洋騎士をほうふつとさせる顔が出現し、金色のツインアイが発光。
鳥型の宇宙船は、50mの人型ロボット――《ジャンボット》――に変形した。
完了と同時に、地面に降り立つジャンボット、その様相は、ロボット特有の威圧感を醸し出していた。
そして彼はサラマンドラを見据えると、右手を握りこぶしに、大して左手は広げ、左足を前に出した構えをとる。
かつて、この形態での戦闘経験が不足していた自分とともに戦ってくれた少年から受け取った構えだ。
別世界の地球を守るべく、二人の巨人が今、降り立った。
二人の勇姿は、少し離れたビルの屋上にいるなのはにも、はっきりと見えていた。
深紅の巨人がゼロと同じ構えをとったことと、義兄の光から仲間の一人がロボットということを聞いていたので、二人が味方だということは直ぐに分かった。
「「なのは!」」
「みんな…」
そこに、間一髪両者に助けられたゼロたちが、屋上に降りてきた。
同時に人間サイズだが巨人体になっていたゼロとミラーナイトは、一旦身を光らせると人間体へと戻る。
ちなみにゼロは、光の国から帰還したばかりであったので、服装は魔法使いやジェダイの騎士によく似た ローブとマフラーを纏った、光の国固有の民族服だった。
いつも一まとめにしている髪も今は下ろしている。性格的に伝統的な服装は似合わなさそうだが、驚いたことに見事なまでにフィットしていた。
目つきのきつさを抑えて黙っていれば、中性的な好青年と見られてもおかしくない容姿だ。
「ごめんね…私が不甲斐無いから、こんなことに…」
そう切り出すなのはの表情はとても暗い。無理もないだろう。ヴィータに完膚なきまで打ちのめされてからは、ほぼ静観しかしていない。
相棒の損傷具合が酷くまともに戦えない状態であったとはいえ、さぞ心苦しい気持ちで、必死に戦うゼロたちを見ていたことだろう。
なまじ『力』を持っていることが余計落ち込ませる。
みんな……自分がきっかけでこうなってるのに。
「なのは」
「光兄?」
こんな重い心境の妹に対し、兄は彼女の前にいきなり立つと。
「えい」
「ふにゃ!?」
いきなり彼女のほっぺをつまんだ。
「にゃにひゅるの?りひふぉにぃい」
「なのはが今笑ってくれたら離してあげます」
「ふぉんな~~~」
「えいっと」
「にゃ!ふぇひぃとひゃんまでぇ!」
なのはのほっぺは、流石に某電気ネズミほどではなかったが、気持ちいいくらい伸び縮みしていた。
しかしなんだかんだ言いながら、頬をつまんで引っ張っていた光とフェイトの手はなのはから離れた。
二人とも抑え目に引っ張ってはいたが、それでもなのはの頬はやや腫れ気味である。
「余り必要以上自分を責めないでくださいなのは、気負えばいいってわけでもないのですよ」
「私だって悔しいんだよ、今度は私がなのはを助けるって言ったのに、また勇夜(ゼロ)に助けられちゃった……」
「フェイトちゃん……」
周りに八つ当たる外罰的な態度は、人の心を離れさせてしまうが、内罰的に自分を責め続けてしまっても、その人を思う人たちを傷つけてしまう。
フェイトを通じて、なのははネガティブにベクトルが向いていたことを自覚した。
「少し遅くなったけど……久しぶり……なのは」
フェイトは別れ間際を思いださせる微笑みを見せながら、そっとなのはの手に触れる。
「……………うん………フェイトちゃん…」
そんな時、光も右手を、なのはの頭に置いた。
暖かい……頭と手にかかる温もりに、なのはの表情に笑顔が戻った。
「でも良いんですか勇夜さん? お2人の加勢に入らなくて」
「そうしたいのはやまやまだが、伏兵がいるかもしれねえからな」
ユーノからの質問にゼロ――勇夜は答える。
彼の懸念は最もであった。
怪獣を送りこんでくる相手の正体も真意も分からない上に、どれだけの怪獣を従えているかも分からない。
あの二体は消耗させる噛ませで、本命は別ということもある。
とりあえず今は、体力を温存させた上で、仲間と師匠に託すのが最善だった。
上空では、レオとサバーガの飛行の演舞が行われていた。
音速に乗せられた、下手な刃物よりも鋭く研ぎ澄まされたレオの手刀とサバーガの左手のドリルが、何度もクロスする。
一旦後退したサバーガは、引きつつ右手から小型の分身たちを、10体ほど飛ばした。
これらの分身はいわば小型爆弾だ。対象にしがみ付き、エネルギーを吸い取って相手を弱らせつつ、爆発力を高めさせて、一斉に自爆し、二重にダメージを与える技。一度しがみ付かれると、爆発するまで決して離さないので、この場合遠方から光線で撃ち落とした方が賢明だった。
だがレオは、自らの腕と足で、急接近してくる分身たちを薙ぎ払う。
鍛え抜かれた鋼の筋肉の四肢が、10体全ての分身を粉々に砕いた。
血しぶきを上げてバラバラに四散する小型サバーガ。
小型のサバーガを撃ち落とした後、急加速してサバーガに突っ込み、まず勢いをつけた左腕からの肘打ち、続いて横なぎの右手からパンチ、左手からの掌底、右足からの連続蹴りを繰り出した。
元々レオは、遠縁ではあるが、光の国とは違う星で生まれたウルトラマンで、現在はともかく、昔は光線技の使用は得意ではなかった。
加えて、実戦はおろか訓練すらままならずに、成り行きで地球の防衛をすることになった彼は、当初一癖も二癖もある怪獣と異星人たちに何度も苦杯を舐めさせられた。
それらの敵に対抗すべく、レオ――おおとりゲンと彼の師であり、ゼロの父であるウルトラセブンがとったのは、レオが得意としていた宇宙拳法を磨き上げること。
当時の地球防衛の組織の隊長でもあった諸星弾ことセブンは、レオの故郷であるL77星を滅ぼした種族、マグマ星人の右腕である双子怪獣を前に敗北し、ウルトラマンに戻ることができなくなってしまった。
そのため、実戦経験が無く、亡命者で難民であったレオに、地球を守ることを託さなければならない己の不甲斐なさに心を痛めながらも、レオを戦士として独り立ちできるよう、鬼、あるいは修羅となって、彼に何度も過酷な特訓を強いた。
それは、二人がウルトラマンであることを知らない者たちから見れば、狂ってると評されても致し方ない、苛烈で常軌を逸したものであった。
ある時は滝の水を切れと強要され。
またある時は時限式の地雷が埋め込まれた地面でのステップによる踏み込みや、心眼を会得するためにボールの動きを感知できるまで目を閉じての訓練。
さらにある時は、有無を言わせずブーメランを投げつたり、鞭を打ちつけたりと、体で怪獣の戦法の対策を練らせたりもした。
ジープに乗った弾が殺気むき出しにしてゲンをで追いかけまわすなど、正に真骨頂だろう。
が、その過酷な修練を耐え抜いたレオは、ウルトラ戦士の中でも屈指の全身凶器な格闘戦の鬼となった。
今のように、爆弾を素手で切り払うなど、彼にとっては造作もないこと。
連続の喧嘩屋蹴りの後、レオはサバーガの腕を掴み、数回、回転させた後投げ飛ばした。
投げ技は本来、相手を地面に叩きつけてこそ効果があるのであって、空中では大したダメージは得られないが、隙を作るには十分。
レオは右足にエネルギー集め、足先が真っ赤に燃えあがった。
「タァァァァァァーーーー!!」
そのまま身を加速させて、飛ばされた勢いで態勢が整わないサバーガに必殺の『レオキック』が迫る。
だがそれは空振りに終わった。フェイトのサンダースマッシャーの時と同じく、突然サバーガは跡形もなく消える。
急停止して、周りを警戒するレオはとっさに殺気を感じ、右方向に体を逸らした。
サバーガの高速回転するドリルの一突きだった。奴の反撃はこれで終わらない。今度は真下と後方からもう2体が、同時に迫る。
レオはその場から急上昇して事なきを得た。
だが、空中で静止してレオが目に入ったのは、自分を取り囲む3体のサバーガだった。
空中でのレオとサバーガの戦闘が『技 対 技』なら地上で行われているジャンボットとサラマンドラの戦闘は『力 対 力』だ。
ジャンボットの光沢煌めく装甲と、サラマンドラの大地を思わせる天然の岩肌がぶつかり合う。
アスファルトは崩れ、地面と空気を伝って、衝撃が広がる。
清々しさすら感じるパワー勝負。ジャンボットはウルティメイトフォースゼロのメンバーでも屈指のパワーファイターだ。
単純な押し合いなら、彼の方に軍配が上がる。
そして彼の持ち味はそれだけでは無い。
サラマンドラの尻尾の一撃を、足のスラスターを使ったホバー走行で退避。
そのまま踏み込みながら、初撃にアッパーカットをくらわせ、その鋼鉄の巨体に似合わない鮮やかさでサラマンドラの下腹に一回転からのキックを当てた後、瞬時に背部と脚部のスラスターを吹かせ上昇しつつ後退。
「ジャンナックル!」
ジャンボットの左の前腕がバーニアを勢いよく吹かせながら飛び出した。
ある種のミサイルと化した左腕は、サラマンドラの周りを旋回、人間の周囲を飛び回る意識を本体から逸らせた。
『ジャンボット、サラマンドラの喉を狙って、そいつの喉には細胞再生を活性化させる酵素が分泌されるの、それを破壊しないとバラバラにしても復活しちゃう、今再生器官の位置データを送ったから』
「確認した、感謝するアリシア」
『どうも♪』
今ジャンボットの記憶領域に届いたデータを元に、センサーがサラマンドラの喉をロック。
右の前腕のハッチが開き、砲台が2門出現。
サラマンドラを釘付けにしている左腕――ジャンナックルをアッパーで打ち上げながら、喉をこちらに向けさせると。
「ゴールデンレーザー!」
喉に向けて、右腕から金色のビームが発射。
照射されたビームは、正確にサラマンドラの再生器官に命中した………にも拘わらず。
「吸収された?」
確かに命中したはずだった。サラマンドラの喉に、膜みたいに張られたフィールドが、ジャンボットのビームのエネルギー吸い取って無効化されたのである。
「あんな能力、無かったはずだぞ」
サラマンドラが今行った芸当に、一同も怪獣に関しては一番知識を持ってる勇夜すら驚く。
『分析してみましたが、あのサラマンドラの喉には再生器官の他にエネルギー吸収器官も存在します』
「それがバリアの役目をしてるってことか?」
『はい、さらに表皮も堅牢です、並みの攻撃では耐えられてしまいます』
「誰の仕業か知らねえが、粋な真似をしてくれるぜ」
元々サラマンドラはウルトラ世界の地球には生息しておらず、地球侵略に来たゴルゴン星人の過激派が先兵として送り込んだ怪獣だった、あの個体も誰かに送り込まれたようだが、その何者かによってパワーアップされていた。
『でも、まだ手はあるわよ』
「え?この声って?」
通信特有のエコーがかかっていたが、その声はこの場にいるフェイトと同じ声をしていた。
「アリシア……姉さん?」
『は……はじめましてかな、フェイト』
失念していたわけじゃない、ゼロがこちらの次元世界に帰ってくるということは彼女も同伴して来るのは間違いない。
元々、正確にはクローンであるフェイトのオリジナル。
同時に、ある意味では彼女のお姉さんである少女。
アリシア・テスタロッサ。
彼女を蘇生させるために、ゼロは光の国に里帰りをしたのであるから。
「本当に……姉さんなの?」
「フェイト……」
「フェイトちゃん」
信じられないわけじゃない。
ずっと記憶の中でしか会えなかった存在が、声だけとは言え、生きている。
自分と話をしている。
この世でちゃんと生きている。
それだけで、熱いものが胸の内に―――
『まあ……一度死んじゃった身だからね、びっくりするのはしょうがないわ、でも感慨は後にとっておいてねフェイト――――で、勇夜さん』
「何だアリシア?」
『テレキネシスで、サラマンドラの動きを止められますか?』
「ぶっ続けでやるなら、2分が限度だができるぜ」
『良かった、みんなよく聞いてね』
アリシアが提案したプランはこうだ。
まず勇夜のウルトラ念力で相手の動きを制限させ、続いて誰かが正面からサラマンドラに向かって飛び急上昇して喉を上げさせ、そこにエネルギーをぶつけるものだった。
実はあの吸収能力にも弱点はある。
エネルギーが体内に吸い取った瞬間、その時だけがら空きになるとのこと。
その一瞬に攻撃を叩きこめば、勝機を勝ち取ることはできる。
『なのはちゃん』
「あ、はい」
『レイジングハートの調子はどう?』
「あの…それは…何て言うか」
『リカバリーを行えば、一回だけですが砲撃は行えます』
あちこち罅が入って痛々しいことを伝えようとするが、上手くそれを表現できないなのはに変わって愛機自身が己のコンディションを伝えた。
つまり射撃はなのは担当と言うことだ。
本当ならここは勇夜に任せた方が良い。ヴィータからの攻撃で本調子のでないなのは以外に現在地からサラマンドラの喉に正確に当てられる射撃能力を持つ者は、彼しかいないのが理由だ。
なのだが、テレキネシスで相手の動きを封じ込める役目がある以上、他に適任なのは、砲撃魔導師のなのはだけ。
『で、囮役は誰をするかなんだけど』
「それはあたしがやるよ」
注意を引き付ける役はアルフが買って出た。
「あたしはフェイトほど上手くは跳べないけど、ご主人にそんな危ないことはさせられないし」
アルフの言う通り、これは怪獣に対して恰好の的になる行為だ。
「それに、今のなのはじゃ一発撃つだけでもキツイと思うからさ、フェイトと光には支えになってほしいんだ」
「「アルフ…」」
良かれ悪かれ、それまでの行動指針がフェイトにとって味方か敵か、でしかなかったフェイトの使い魔が、彼女以外の人間に気にかけという状況は、それだけアルフにとって勇夜やなのはたちとの出会いが転機だったわけである。
「決まりだな、ジャンボット、準備は良いか?」
『こちらはいつでも』
上空で戦っている師匠のレオも気になるが、今はサラマンドラへの対応が先決だ。
何より、故郷も、仲間も、愛する人たちさえ失いながら、最後まで地球での戦いを終えてウルトラ兄弟入りしたレオが、そうそうやられる玉ではないのだから。
事実、レオは三体に増えたクロスサバーガたちと互角に戦っていた。
右手から放たれる分身爆弾を叩き落とし、迫ってくるドリルをかわしながらカウンターの重い拳、蹴りを見回せる。
うかつに接近するのは不味いと思案したのか、3体とも、レオから距離を離した。
だが、それは失策だった。
レオにどれがサバーガの本体か、見極めさせる時間を与えてしまったからだ。
己の感覚を研ぎ澄ますレオ。
サバーガには、宇宙忍獣という異名の通り、忍術のような技を使う。
分身もそうだし、小型爆弾は手裏剣と見ることもできる。
ある世界で別固体がウルトラマンと行った戦闘では、相手の飛び道具を、畳がえしならぬ地面返しで防ぎ、土遁の術で奇襲をかけたりした。
特に分身は本物と寸分違わぬ再現度で、独立して行動でき、攻撃すらも可能だ。
だがいくらそっくりでも、本体と相違する部分がどうしてもある。
すかさずレオは動いた。
左手を腰に添え右手を広げ、右手を顔より後ろに下げながらエネルギーを溜め、編み上げた紅い光の球。
『エネルギー光球』
を一体に投げつけた。
光球は見事命中し、怯むサバーガ。
今の一撃で分身を維持する余裕が無くなり、残り二体は消えた。
本体と相違する部分、それは熱量だ。
どうしても本物と比べれば、分身の体温は低めで、レオは熱探知を重点的に
感じ取ることで本物を見極めたのである。
すかさずレオは本物に急接近。
サバーガはドリルで迎え撃とうとするが。
「デア!」
レオは突き刺そうと迫るドリルを、太陽エネルギーを乗せた手刀で切り裂く体技、《ハンドスライサー》で斬り飛ばした。
さらに宙を舞うドリルに向かって飛び、空中でキャッチ。
そのまま急降下してドリルを持ち主の頭部に突き刺した。
致命的な一撃に、サバーガが動きを止め、地上へと落ちていった。
レオがサバーガを倒す少し前。
「デュア!」
諸星勇夜は、サラマンドラに目を向けて、握りこぶしにした両腕を重ねた。
彼の体が水色に輝き始め、長髪も静電気がおきているかのように浮き上がる。
同時にサラマンドラが悲鳴の雄たけびを上げながら苦しみ出した。
今奴は、勇夜のウルトラ念力で全身に金縛りを受け、圧迫されている状態だ。
50mクラスの巨体を押さえつける勇夜も、見えない網に振りほどこうとするサラマンドラを必死に抑えている。
「行けアルフ!ジャンボット!」
「ああ!」
「おう!」
勇夜の掛け声を合図にアルフは飛び上がり、ジャンボットが走り出す。
なのはレイジングハートを構える。そこにフェイトと光が、なのはを囲む格好でレイハに手を触れ、魔力を送り込んだ。
2人の魔力を糧に自己修復を進め。
『Recovery complete』
応急処置ではあるが、傷だらけのレイジングハートは元の艶を取り戻す。
「大丈夫なのは?」
「僕たちが支えてますから、遠慮せず撃ってください」
「うん、レイジングハートお願い」
『Target lock on, Devine Buster』
枝分かれした槍の先に魔力エネルギーが集まる。
アルフがサラマンドラに向かって先頭を飛び、後続からジャンボットが大地を掛ける。
アルフがギリギリまで近づいた。
勇夜は念力の圧力を少し弱め、同時にアルフは急上昇、彼女の動きに合わせ、視線は顔ごと動き、首を見せるサラマンドラ。
「なのは!トリガーを」
「ディバインバスター、シュート!」
引き金が引かれたレイジングハートから、いつもより威力は弱目だが、魔力の奔流が発射される。
魔力流は喉に命中するが、例の如く吸収された。
「ジャンブレード!」
その瞬間、スラスター全開にして低空飛行に入りながら、左腕に装着されたシールドから柄を取り出し、ビームの刃を形成、がら空きになった首に横薙ぎに剣を振るい、そのまま切り抜けた。
時が止まったと感じてしまうくらいに、動かないジャンボット。
数秒たった後、両断されたサラマンドラの首は地面に落ち、自らの武器で絶命したサバーガが同タイミングで地につけられた。
勝利の軍配は勇夜たちに上がった。
一段落着いてほっとしたためか、念力で体力を消耗した勇夜は、膝を地に着ける。
「勇夜!」
それを見たフェイトは一目散に駆け寄った。
「何ともないよね?」
以前勇夜が、バルディッシュが使えない中、素手で封印しようとした自分に代わりに暴走するロストロギアを抑えて消耗し、半日倒れた経験があったことも有り、どうしても過剰に反応してしまうフェイト。
「大丈夫だフェイト、疲れただけだからさ」
「………良かった」
同じくほっとしたためか、フェイトは瞳を潤わせながら、思わず笑みが零れる。
彼がこの程度で倒れる人ではないことは分かっている。自分なんかよりずっと強くて逞しいことも、でもこんな時はどうしても心配になる。
ウルトラマンだって、生きているんだから…………だからその分、喜びの笑みはより晴れやかだった。
「っ!………あれは?」
「え?」
しかし喜びに浸る時間が、突然終わりを告げる。
間もなくフェイトは、一点に釘付けとなった勇夜の視線の先を見ると、同じくそこから目が離せなくなる。
光もなのはもユーノもアルフもジャンも、地面に着いたばかりもレオも、呆然となった。
動かなくなった二体の怪獣が青い光に包まれ、粒子となっていく分子分解現象が起きていた。
完全に光の群体となった怪獣たちは、空へと天の川を作りながら、空へと消えていく。
多くの謎を残したまま、最初の激戦たる一夜目は、終わりを告げる。
だがこれは、聖夜の死闘に連なる、序章――プロローグ、前哨戦でしか無かった。
つづく。