ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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STAGE05 - The Mystery

 多世界宇宙マルチバースの海の中を飛ぶ、宇宙船が一機。

 ウルティメイトフォースゼロのメンバーの一人、鋼鉄の武人―――ジャンボットがスターコルベットに変形した姿、ジャンバード。

 機体内部の一室には、転送用のポートがある。

 白銀な色合いの立方体状の室内にて、底辺が僅かに円形状に盛り上がった床が光り出すと、光から、複数の人が現れた。先程まで海鳴市街で戦闘を行っていた勇夜たち御一行だ。

 

『本局に到着するまで少々時間がある、しばらくブリッジで休憩するといい』

「サンキューな、ジャン」

 

 天井から響いて来た声に答える勇夜。

 

「光、本当にこの船ってあんたらのお仲間さんが操縦してるのかい?」

「そうですよ」

「AIによる完全自動機体制御なんて、管理世界じゃまだまだ先と言われてる技術なのに、凄い」

「私もびっくりだよ……ユーノ君」

 

 この機体の制御は基本、搭載されているAI――人間の姿の時はナオトという名である《ジャン》によって行われる為、よほどのことが無ければ、搭乗者は快適に乗員することができた。

 一行は、部屋の前方に備えられたドアに向かうと、扉そのものに付けられたセンサーが勇夜たちの動きに反応し、スライドして展開された。

 艦内のキャットウォークに出た一同は、その場で足を止める。

 特にフェイトは、幼い容貌ゆえに一際大きな深紅の双眸を見開かせ、振るわせていた。

 

「フェイト…」

「アリシア……ねえ…さん」

 

 そう、通路の渦中にて、アリシアが立ち、彼女らが来るのを待っていたからだ。フェイトはアリシアの細胞から生まれたクローンである為、当り前ではあるが、彼女は瓜二つな自身の〝姉〟の下へ、ゆっくり歩を進める。

 今のフェイトの心中を察し、勇夜たちは敢えて何も言わずに見届ける立場をとった。

 通信越しの声で、言葉はもう交わした。

 植えられた記憶から、何度もその顔を見てきた。

 それでも、こうして直に顔を合わせると、想いが込み上げる。

 ずっと―――会いたかった。

 勇夜―ゼロに、なのはとも……再会を待ち望んでいたけど、写し鏡な彼女とも……ちょっと歪な形でも、姉妹同然な……私の…お姉さん。

 不肖過ぎた自分は、一度母を狂わせて、姉にも生死の境で彷徨う地獄を味あわせて…あやうく二人を、奈落の奥底に落としてしまうところだった。

 光がなのはに言ったように、気負い過ぎなのかもしれないけど…自分では何も決められず、意志を伝えることもできず、ある意味〝人形〟も同然に生きてきた自分が、あの災厄を招き入れるところだったのも事実。

 否定する気はない、その重みを身に受けるのを承知で、自分は〝自分〟として生きようと決めた。

 その上で、長くはないけど、母と姉の家族として…生きたいと思った。

 手で相手を触れられる距離まで近づく。

 

「ごめんね、折角、勇夜さんやなのはちゃんとも会える日だったのに…こんな形で―――」

 

 アリシアの詫びの言葉は最後まで言い終えられなかった。

 終わりまで繋げる前に、フェイトが自身より幼い体格の、小さな姉を抱き締める。

 

「ねえぇ……さん」

 

 ダメだ……折角笑って迎えようと思ったのに、念願の日なのに、流れてしまった。

 いや……念願だったから、より嬉しさで止まらない。

 ゼロとなのはに会えた分の喜びも積み重なって、ぽろぽろと雫が瞳から流れ出て行く。

 

「もう、ほんと、勇夜さんの言う通り、泣き虫屋さんなんだから」

 

 フェイトの抱擁に、アリシアは己より大きく〝泣き虫な妹〟を抱きとめ、前置きの返しを経て―――

 

「ただいま」

 

 ―――と、伝える。

 フェイトも、涙で濡れた顔で、心からの笑みを形作り。

 

「おかえり…なさい」

 

 ――と返すのであった。

 

 

 姉妹も再会を見届けた一同も、大なり小なり、もらい泣きをしていた。

 なのはもアルフも然り、そして勇夜も。

 

「目が腫れてるぞ? ゼロ」

「分かってら……それぐらい」

 

 生来の涙もろさで、すっかり感極まっていたのは、ご愛嬌だ。

 

 

 

 

 

 今現在は、マルチバースに浮く時空管理局本局の格納庫に停泊し、メンテナンス中の次元航行艦アースラ。

 その艦内の会議室では、数時間前に高町なのはを襲った襲撃者たちの起こした戦闘に関わった勇夜たち一同とハラオウン親子が集まっている。

 

「ナオト・J・フライト、本来はあの宇宙船、ジャンバードに搭載されているAIだ」

「アリシア・テスタロッサ、フェイトのお姉さんです」

「私はウルトラマンレオ、この姿の時はおおとりゲンと名乗っている、弟子がいつも世話になっているようで」

 

 ゼロにともにこちらの次元世界に来て、例の襲撃者たちとの戦闘にかけつけた者たちが、改めてなのはたち一同に自己紹介をした。

 

「こちらこそ、この度はご協力感謝いたします」

 

 一時怪獣まで出現するという混沌とした事態になりなったこともあり、終息に携わったゲンたちにリンディが代表して述べる。心なしか、会議室内では、奇妙な緊張感が漂っていた。

 

「余りそうお固くならないで下さい、弟子と同じく、きつく見られがちなことには慣れてますから」

「おい師匠……〝弟子も〟は余計だぜ」

「だがフェイトちゃんも、初見でのお前の印象は怖かったと言っていたそうじゃないか」

「ぬう………それを言うかよ…」

 

 師の返しに苦笑いする勇夜。原因はこの二人の師弟たるウルトラ戦士にあった。2人とも、良く言えば男らしい逞しさを感じさせる容貌なのだが、特に人間体のゲンことレオは、厳つく渋みをきかせた顔つきで、頬に走る皺も、老いを感じさせるどころかむしろ貫禄すら感じさせる。

 弟子の方も、黙っていれば中性的で、かつもののふ特有の凛としつつ、勇ましい雰囲気を醸し出す美少年だが、ウルトラマンの時と負けず劣らずの鋭い目つきで、柄が悪そうに見られがちだ。

 まあ、叔父と甥みたいな微笑ましい師弟のやりとりによって室内の空気は幾分か和らぐのであった。

 

「それでは本題に入ろう、まずはなのはを襲撃した一派のことなんだが、まずこれを見てほしい」

 

 クロノ・ハラオウンは、卓上のキーボードを入力させると、テーブルの中央に分厚い本を映したホログラムが現れた。こげ茶色で、500ページはゆうに超える厚さ、表紙には細長いひし形で構成された金色の十字架が張られている。

 

「この本の名は闇の書、管理局では第1級に認定されているロストロギアだ」

「それと襲撃者たちとの関係は?」

「それはこれから話すよユーノ」

 

 闇の書。それは、魔法世界で何百年も渡って惨劇を繰り返している呪われた書物。

 特定の魔力資質を持った人間を主としてとりつき、リンカーコアに溜められた魔力を吸い取る機能を持っている。その行為のことは『蒐集』と呼ばれている。蒐集される度に、白紙のページには奪った魔力から読み取った魔法が記録され、全ページを埋めると、次元世界を消滅させられるだけの力を主として選ばれた人間は得ることができる。

 事実その強大な力をものにしたことで狂ってしまった主によって、過去、局員を含めた多くの犠牲者を出していたらしい。

 

「で、闇の書には、自らと主を守護する存在がいるんだ」

「それが、なのはを襲ったあの人たち、というわけですか」

 

 卓上に、レイジングハートらデバイスの記憶領域から取り出したシグナムたちの写真が表示される。

 彼ら4人の総称はヴォルケンリッター、守護騎士とも言う。闇の書に搭載された、魔力で肉体を構成、再現したプログラム生命体であるとのことだ。

 そして彼らの使っていた魔法、それはべルカ式。

 現在の管理世界で普及されているミッドチルダ式とかつて勢力を2分していた魔法。遠距離戦、複数戦闘のメリットを犠牲にしつつ、武器を使った1対1の個人戦闘に特化させた仕様で、ミッド式よりも得物、肉体を強化させる能力に長けている。

 そして最大の特徴は、デバイスに搭載されたカートリッジシステム。儀式魔法で、高圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスにロードさせることで魔法の出力を爆発的に高める機能。これにより、タイマンでの戦闘ではミッド式よりアドバンテージを得ることができる。ミッド式で、なおかつデバイスがインテリジェントタイプのなのはたちにとっては、相性が最悪な天敵であったわけだ。

 

「それと、彼らを助けるために現れたこの炎の男のことなんだが」

「そいつの名は…………グレンファイヤー………俺たちの……仲間だ」

 

 苦みを感じさせる声と表情で、勇夜は答えた。

 離れ離れになって、ずっと探していた仲間が、通り魔紛いのことをして魔力を集めている連中と関係を持っていたのだ。それだけにゼロの心中は、少し重く淀んでいる状態であった。

 あの複雑な心境を背中から発していただけに、何かしら事情があるのかもしれないが。

 

「でも、一番分かんないのはあたしとやりあったあの狐ッ子なんだよね」

 

 大なり小なり、何者かははっきりしている守護騎士たちとグレンファイヤーに対して、この狐の耳と尻尾をはやした使い魔らしき少女に関しては、まったく持って情報が少なすぎていた。

 

「たださ、あいつの電撃も風も魔力を使ったものだってことは確かだね」

 

 彼女が使っていたのは魔法とは呼べないであろうが、空気中の魔力素を取り込み魔力として行使する点では魔導師と同じ。しかも厄介なのは、詠唱も魔法陣もデバイスも使わずに、フェイトたちの母であるプレシア並の早撃ちと高出力で攻撃できることであった。単純な魔力量なら、襲撃者の中でなら、彼女が一番で相違ない。

 さらに問題なのは、ゼロとレオの世界にしか生息していないはずの怪獣たちを、結界内の戦場に送り込んだ第三者の存在。

 

「ワームホールで送り込んだ手口から考えて、ジュエルシードでの一件と同一犯で間違いはないのだけれど」

「まるで、彼らを逃がすかのようなタイミングで現れましたからね」

「だけど、グレンたちのあの驚いた様子から見ると、協力どころか、見知った仲って…わけでもなさそうだしな」

「なんだか………分からないことが多すぎるね、色々と」

「だーーーーもう!、ややこしいじゃないかまったく」

「にゃはは…アルフさん落ちついて」

 

 謎、謎、謎、謎。今日起きた出来事だけを反芻するだけで、謎がその大半を占めていた。

 これだけ謎ばかりだと、一連の要素を繋ぐだけでも、暗中模索を強いられるのは必定であった。

 

「今は分からないことを無理に考えるより、現状判明していることを確認した方が良いだろう」

「私もナオト君に同意見だ、このままでは埒があかない」

 

 危うくハツカネズミのごとく堂々巡りに陥りそうになったこの場に、ナオトとゲンが助け船を出した。

 

「まず、闇の書の主は、地球、それも日本に滞在しているのは間違いない」

「確かに、一連の事件は地球から個人転送できる範囲内で起きてはいるけど、日本である根拠は? ナオトさん」

「勇夜、あのシグナムと名乗った騎士と話したのだろう?」

「まあな、しかもあいつ、日本語を使って俺に自己紹介してきたんだよ、あの言語が日常的に使われているのは日本だけだからな、それに師匠とばったり会った騎士の一人がさ、〝スーパーのビニール袋〟を持ってたんだと」

 

 その騎士の一人、シャマルは明らかに日本でしかお目にかかれないビニール袋を傍らに置き、前線に出ている仲間たちに指示を出していたらしい。

 これだけの判断材料があれば、騎士たちの主にあたる人物は日本人、あるいは日本で長期間滞在している外国人であると断定できる。手掛かりを掴んだことに関しては、かなりの前進と言える。

 尚、なぜ後方支援担当で正面からの戦闘に向かないシャマルを、ゲンは取り逃がしてしまったのかと言うと、実はあの場には怪獣の他に介入者がいた。

 彼の話では、仮面を被った二十代の男で、格闘戦の心得があったのこと。

 その仮面の男の襲撃で、確保寸前だったシャマルには逃げられてしまった。

 お返しとばかり、ゲンは男に手傷を負わせたそうだ。さすが、宇宙拳法の使い手でゼロの師たる戦士である。

 で、その他に判明していることは――――それが主の意志であるかはともかく、守護騎士たちは魔道師を襲い、魔力を集めている。

 グレンファイヤーと狐の少女は、騎士たちと主の関係者。

 彼らすら、その存在を把握していなかったと推測される、怪獣を戦力に持つ第三勢力の存在。

 以上の事柄を整理して、この場はお開きになるのであった。

 

 

 

 

 

 なのはの襲撃事件で、すっかりお忘れの方もおられるであろうが、本日はフェイトたちの裁判が終わって、晴れて社会復帰した記念すべき日である。

 だがまだ、残していることがある。

 フェイト達はこれから、ここ数年の執行猶予期間の保護観察の担当官、つまりお目付けを担う人との面接を行うことになっている。

 

「なんで俺たちまで同伴なんだ? クロノ」

 

 勇夜の言う通り、本来面接を受ける代表はフェイトのみなのだが、なぜか勇夜、光、なのはも同行することになっていた。先程まで光の国の民族衣装を着ていた勇夜は今、現代的な私服に着替え済み。

 

「担当官のグレアム提督が、直々に君たちと面会を所望なさっている」

「ああ、お前の指導教官だった将校殿か………それよりクロノ」

「どうしたんだ改まって?」

「闇の書の担当、アースラ組に決まったんだろ?」

「…………そうだ」

 

 勇夜とクロノのやりとりに、違和感を感じる一同。

 例のロストロギア関連のようだが、何の話をしているのだろう?

 

「俺が言うのもなんだが、一局員として案件にあたれるんだよな?」

「もちろんさ………私情を挟んでいるようでは、この仕事はやっていけないからね」

 

 2人とも、重々しい表情で言葉を交わしている。何を話しているか、フェイトたちにはさっぱりではあるが。

 

「(勇夜……何の話をしてるの?)」

 

 思い切ってフェイトは念話で質問してみると、途端に勇夜の容貌の陰りがさらに増した。

 

「(今、聞きたいか?)」

「(うん)」

「(私も、気になるかな………)」

 

 やたら改まった態度に違和感を感じながらも、それでも今聞きたいと言う欲求が彼女たちの心の内では勝った。

 そして少し間を置いた後、勇夜は念話でフェイトたちに口を開く。

 

「(勇夜、まさかクロノは…)

「(お前の考えてる通りさ、遺族なんだよ、クロノは……)」

「「(え?)」」

「(あいつの親父さんはな、その闇の書の犠牲になっちまった一人なんだ)」

 

 その内容に三人は、顔に出すまいと抑えるが、驚愕そのものは、物理的な力さえ感じる衝撃で、彼らの心に打ち付けられた。つまりクロノとリンディ、ハラオウン親子にとって、闇の書は家族の命と、ともに過ごす時間を奪った仇と言うことになる。

 

「(局の上層部は何を考えているのでしょうか? 個人的な因縁を抱える人たちに担当を任せるなど……)」

 

 地球の警察では、ある捜査チームが担当する事件が、メンバーの身内がらみであった場合、該当する捜査官は担当からはずされることがある。

 個人的な感情で、独断行為を招くことを防ぎ、組織内の規律を守るための処置だ。

 それにアースラは今整備中。ここから魔道師が直接地球へ転移するには無理があるため、次元航行艦を使うか、中継ポートを使用する必要がある。後者の場合、管理外世界なこともあり、申請に時間がかかるので対応にどうしても遅れが生じてしまう。にも拘わらず、アースラに任されたということは、その原因の一つとして。

 

「(やっぱり……人手が足りないんだね)」

 

 フェイトが、管理局にとって一番の難敵を口にした。

 P.T.事件と勇夜たちとの交流を経て、フェイトは自分たちの住んでいる世界が、危ういバランスで秩序が保たれていることを、それがいつ壊れてもおかしくないことを思い知った。

 局そのものには絶望はしていないけれど、できれば、まだ子どもな自分でも気付いたことを、大人たちに知ってほしかった。

 でも、まだ小さくて、それなのに罪で汚れてしまっている今の自分では、何を言っても聞き入れてはくれない。

 それどころか、自分の罪と出生が、糾弾される恰好の材料ことだって起きるかもしれない。

 それで、母さんや姉さんやアルフを巻き込むなんて……多分そうなったら、私は一生自分を許せなくなる。

 どれだけ世界が汚れてても、それでもと頑張ってるゼロたちの力になりたいけど、まだ…ゼロ――勇夜が言っていたように越えなきゃいけないハードルが沢山ある今の自分でじゃ、足手まといになるよね。

 

「(フェイト?)」

「(え?何?)」

「(今ここで話すことじゃなかったよな…ごめん、せっかくの門出だってのに)」

「(いやいいよ勇夜、気にしてないから………)」

 

 と念話で返しながら、さっそく足を引っ張ってしまった自分に対して溜め息を吐いた。

 でも、確かなことは、勇夜もなのはもみんなも、この事件に協力は惜しまないはず。

 なら私も、一緒に力になってあげたい。

 それに、何となくだけど……〝あの人たち〟は少しの自分と同じかもしれない。

 強い想いで自分を凝り固めて、自分を追い詰めている。

 目的は何であれ、止めてあげなきゃならない。

 多分、頑固なわたしにみたいに、簡単にはいかないかもしれないし、ひょっとしたら、F計画みたいな、思わぬ真実を突きつけられるかもしれない。

 でも諦めたくはない。みんな………自分がどんな生まれ方をした人間だって知っても、向き合ってくれた。助けようとしてくれたんだから。

 その前にはまず、今日を乗り切るんだ。

 やっと今日がスタートの日、フェイト・テスタロッサという、人間としての、始まりなのだから。

 

 

 

 

 

「アリシア、レイジングハートとバルディッシュの損傷具合は?」

「正直言って芳しくないよ、アースラの動力炉のバックアップに付けて自己修復をフル稼働させてるけど、本格的なオーバーオールが必要かも…」

 

 これは時空管理局本局内にあるデバイスのメンテナンスルームにての会話の一幕だ。

 特殊な重力フィールドに浮いているレイジングハートとバルディッシュ。

 待機モードである今の彼女たちは、罅が全身を走り、素人目から見ても、修理が必要と行きつく有様だった。

 

「ところでさアリシア」

「何かしらアルフ?」

 

 アルフと同様に気になる人もいると思うだろう、アリシアが――

 

「6歳にしては、妙に大人っぽくないかい?」

 

 ――なことに。

 6歳の時に一度亡くなって以来、数ヶ月前ずっとプレシアの手で肉体保存されていた身でありながら、大人顔負けのオペレートやサポートができたのか、と言うことだが。

 

「これは私の推論なんだけどね、普通なら、生き物は死んでしまうと段々腐敗してしまうでしょ、でも私の場合、魔力素のの過剰摂取によって死因だったから、肉体の長期保存が可能だった、でも、生きてれば老化が避けられないことと同じで体内時間そのものは、今の科学でも完全に止めることができない―――」

 

 一見、アリシアの体は、死亡当時から変わっていないようにも見える。

 だが、体の時間そのものの進行がまったく無かったわけではなく、帰らぬ人になってから光の国の医療技術によって蘇生される現在までの20年、その分の時間が体に蓄積された影響か、蘇生されたアリシアの精神年齢は、見た目より上になっていた。

 つまり、心が大人か、それに近い年齢の段階で彼女は再びアリシアとして、生まれたのである。

 外見よりも実年齢が幼く、6年分のアリシアの時間が予め書き加えられた上で生まれたフェイトと、写し鏡ながらも真逆の性質を持っていた。

 

「そんな辛気臭い顔しないで、わたしとしては妹ができて、短い時間にはなるけどまた母さんと、フェイトと一緒に生きられることが、嬉しいから……それに、多分だけどね、絶望して壊れたままの母さんと天国で会うか、わたしが生き返ってたら、自分も壊れてたかもしれないし………私も妹と同じくらい、勇夜さんとなのはちゃんには感謝してるんだ」

 

 自分の死が、愛する家族を豹変させてしまった。

 思えば、虚数空間に落ちていく母の姿は、ある意味自分たちの可能性の一つであったかもしれない。

 

「だが、君がそういう形で蘇ったメリットがないわけでは無い」

「ナオトさん……」

「僕がこうして、曲りなりにも人間の体を得られたのも、君の技術力のあっての賜物だ、見ての通り本来の僕はあの宇宙船だからね、人と直に接することができないことに、疎外感を感じていた、感謝している」

「まあ、せっかく母さんから資質を受け継いだんだから、使わない手はないからね////////////」

 

 と言いつつも、内心喜んでいるのが筒抜けである。 

 幼い容姿なこともあり、実に愛らしいものだ。

 

「先ほどフェイト達のデバイスの修理用パーツの発注の申請に言ったのだが、エイミィ・リミエッタ補佐官が既に手をまわしてくれたそうだ」

「さすがエイミィさんですね、クロノの補佐官をこなすだけありますよ」

「そのクロノ執務官って、そんなに堅物なの?」

「まあ、勇夜さんの言う鉄頭って表現は的確だと思ってます」

「(ユーノの場合、『フェレットもどき』といつも言われる恨み込だけどね…)」

 

 と、心中呟くアルフ。

 言葉にしないのは、彼女なりの気遣いというやつである。

 

「……………ところで、さっきからなぜ僕の顔をジロジロと見ている?アルフ」 

「あ、いや……使い魔のあたしが言うのも変だけど、ほんと人間にしか見えなくてさ」

 

 そう言うと、いきなりナオトの頬を人差し指で突き出した。

 ナオトのこの体は守護騎士や使い魔と同じ、魔力で作られたプログラムの肉体で構成されている。

 それにジャンボット/ジャンバードに搭載されているAIデータを送ることで、こうして人間として活動できるようになっている。

 これらのことが可能になったのも、光の国の科学と、プレシアの技術者としての血を受け継いだアリシアの賜物によって成し得られた。

 

「ジョン・コナーと同じ心境になるのは分かるが、僕は未来から来た暗殺マシンじゃないぞ」

「あの映画のこと知ってるのかい?」

「異世界の文化を把握するための一環として、光の国の図書館で見た」

「お堅いロボットさんと思ってたと、結構遊び心あるんだねあんた」

「余り気安く触らないでくれ」

 

 堅物なナオトに、正確には狼名なのにワンコの血が疼くのか、やたら彼にじゃれつくアルフ。

 その様をアリシアとユーノは苦笑交じりに見ていた。

 補足しておくと、光の国の建物や日用品、道具は、ウルトラマン基準なので同サイズのジャンでも問題ない。

 異世界の慣習、文化、歴史を積極的に学ぼうとする姿勢は賞賛されるべきだ。

 しかし、実際ターミネーター2の本編を見ているジャンボットの図とは、中々シュールな光景である。

 

『お取り込み中のところ、申し訳ありませんが……』

「お取り込みってわけじゃないけど、何? レイジングハート」

『一つ頼みがあるのです、私とバルディッシュに、カートリッジシステムを搭載していただきたい』

 

 その場の空間が一転して静寂になり、時の流れが遮断したかのように、ルームにいる一同は固まってしまった。

 傷だらけの彼女が切り出したのは、自分たちの強化プラン。

 実用面で問題が残る〝機構(システム)〟を導入させてほしいという、提案だった。

 

 

 

 

 

 

 面談用に用意された、本局にある広い一室。

 その部屋のガラスの向こうに見えるマルチバースを眺めている、管理局高官クラスの制服を着た、下あごと口上に蓄えた髭が人格者であること示させる雰囲気を感じさせる、壮年の男が一人。

 男はしばらく、その場から動かずに佇んでいた。

 

「失礼します」

 

 部屋のドアが開き、入室してきたのはクロノだった。

 この人こそ先ほど勇夜たちの会話で名前が出た。

 

「クロノ、久しぶりだな」

「ええ、ご無沙汰しています、グレアム提督」

 

 ギル・グレアム、その人である。『時空管理局歴戦の勇士』と異名を付けらるほどの人物で、最も出世コースが速かった頃には、次元航行艦隊指揮官、局の中でも難関な役職である執務官の長との呼べる執務官長を歴任した。管理局のことを詳しく知らなくても、これで彼はかなりのお偉いさんであることはお分かりになったはずだ。 

 クロノに続いて勇夜たちも入室し、部屋の中央に供えられたソファーに腰掛けたグレアムの向かいのとなる席に座る。こういう場に慣れていないのか、なのはの挙動は若干固くなり気味。

 日頃の物腰の反して、武術を嗜んでいる勇夜と、礼節を弁えるのが必須な騎士を務めていた光、かしこまった場を経験済みなフェイトと対照的に映る。

 

「初めまして、フェイト・テスタロッサ君の保護観察官に当たる、ギル・グレアムだ。と言ってもまあ、形だけだよ」

 

 実際のところは、形だけのものとは言えない。再犯を防止すべく観察対象者を更生、指導する役目が彼にはある。彼がこんなことを口にしたのは、フェイト自身の人柄あってのことだ。

 

「リンディ提督から、先の事件や君の人柄についても聞かされたしね、とても優しい子だと」

 

 グレアムが前述の発言をしたのは、それだけフェイトを信頼しているからと言えよう。

 

「あ……ありがとうございます」

 

 今は大分改善されたが、生来の性格と虐待を受けていた境遇ゆえ、自己評価が極端に低かったフェイトにとって好意的にみられることに対して、かなりこそばゆくなる。

 

「それから、君たち三人には、個人的に礼を言いたくて呼んだんだ、特に光君となのはさん、こちらの管理世界が起こした事件に巻き込まれた身でありながら、最後まで協力してもらっていたからね」

 

「いや……その……ええっと」

「いえ、それほど大したことはしていません、ですがそのお気持ちはありがたく頂戴いたします」

「こ、こちらもありがとうございます」

 

 緊張感でぎこちない妹と、気品と温和さを発しながら堂々と返す兄の図である。

 

「特に勇夜君、君の活躍はクロノから聞いているよ、フェイト君の件でも、彼女を助けようと尽力したそうじゃないか」

「私はただ自分ができることをしたまでです…」

「そう謙遜することではないよ、しかし日本か……懐かしいな」

「あの世界のことをご存じなのですか?」

「実は私も君たちと同じ地球生まれなのだよ、イギリス人だ」

「にゃ!?そうなんですか?」

 

 提督からのサッカーパンチに、なのはは声を上げて驚いた。勇夜も光も目を見開かせている。

 提督によれば、少年時代に偶然負傷した管理局員を見つけ介抱したことをきっかけに、魔法が使えることが判明し、局に入ったとのこと。

 もうかれこれ、50年も前の出来事だという。

 奇しくもなのはが魔法使いになるのと、きっかけがよく似ていた。

 

「それでフェイト君、一つだけ約束してほしいことがある、友達や自分を信頼してくれる人のことは、決して裏切ってはいけない、それが出来るなら、私は君の行動について、何も制限しないことを約束するよ」

 

 その語りかけるグレアムの態度で真摯で真剣であった。

 父親と呼べる人がいなかったフェイトにとって、この時、目の前にいるこのなのはと同じ地球生まれの提督が、父のように映った。

 

「できるね?」

 

 はっきり言って自分は、弱虫で意気地無しで臆病者だ。自分一人では、何も変えられなかったし、変える勇気すら無かった。なのに独りだと言い聞かせて、強がってばかりいた。

 それに気づくことさえ……時間がかかってしまった。 

 

「はい、勿論です」

 

 そんな自分にも、最後まで自分を助けようと諦めず、今でも支えてくれる人たちがいる。

 それだけは絶対に忘れちゃいけない。

 

「良い返事だ」

 

 その後も面接は滞りなく進んだ。

 だが………フェイトには一つ気がかりなことがあった。

 勇夜のグレアムに対する態度だった。

 一見、何の問題もないはずなのに。普段は誰に対しても、対等にタメ口な勇夜だが、今回ばかりは彼も敬語で淡々とかしこまった口調で応じていた。

 見知った人からは、ちょっと違和感を感じるかもしれないけど。

 でも、あの時の勇夜から感じた違和感は………何となくだが、グレアム提督と距離をとっていたというか……警戒していた?

 確かに、勇夜―――ゼロはウルトラマン、自分たちより、遥かに強力な力を持っている超人で巨人。

 それに目が眩んだ人たちに利用される可能性もあるから、初対面の方には、一歩引いた態度で応じるのも頷ける。

 でも、それとも違う気がする。何であんなに警戒してたんだろう?

 わたしから見たあの人は、とても優しくて実直そうな人な印象だったのだけれど。

 一度よぎる違和感は、ぐるぐるとフェイトの脳内を巡る。しかし、自分だけでは突破口を見つけられそうになかった。いくら廻っても、森の中で同じ道を何度も通って迷子になる、そんな堂々巡りを繰り返してしまう。

 ここはやっぱり、勇夜に聞いてみた方が良い、想いはちゃんと伝えるって決めたんだから。

 とりあえずフェイトは、湧きあがった疑問に対し今はそう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 あ、そういえば私、勇夜から預かってたあの〝髪留め〟まだ返してない!

 

 

つづく




A'sのテレビ版を見返してみて下さい。
うっかりシャマルさん、足元にビニール袋を置きっぱにしています。
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