ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
飛行戦にしなかったのは、リリなのの原作じゃわんさかやっているので、敢えて〝空中戦〟の頻度は控え目にする意図で。
実際飛び回っているより、地に足付いた地上戦の方が色々アイディアが出てきたと言う体たらくです。
地球から飛び立った一点の光。
その光はあっという間に月、火星、木星、土星を次々と通り過ぎ、太陽系を離脱していった。
余りの速さに、当然ながら今の光景を目に焼き付けた者は誰一人としていない、まだ地球人の科学技術が宇宙空間での生活がデフォルトな域にまで発展していないとしてもだ。
その光こそ、緊急の要請を受けて、海鳴市の人気の無い場所で結界を張り、変身とテレポートと結界解除を同時に行い、地球から太陽系外へ一気に飛び去った、諸星勇夜の本来の姿、光の巨人、ウルトラマンゼロ。
「ヘアァァァ!」
ゼロは、その超速を維持したまま、両腕の握り拳を、胸のカラータイマーの前で平行に向かい合わせた。
タイマーから発された光が両腕を包み込み、その状態を維持したまま両腕を前方に翳すと、光の筋が伸びていく。
放たれた二つの光の筋は融合、人間の視力では直視できない光のトンネル、ウルトラマンの超長距離航行術にして、ゼロにとっては時空間航行術、《ウルトラトゥインクルウェイ》が出現する。
「シュアァァァァ!!!」
ゼロはそれを見とめると、さらに急加速して飛行スピードを上げ、ミッドチルダ直通の次元トンネルに飛び込んでいった。
これもまた一瞬の出来事で、目に止めた者は誰一人としていない。
ミッドチルダという星には、大まかに分けて3つの風景(かお)が存在する。
一つは首都クラナガンを代表に、とことん洗練され、曲線で構成されている都市群。
二つは、人の手がほとんど届いていない緑溢れる自然。
三つ目は、既に建物としては死んだも同然な廃ビル、廃建造物たちが群がるゴーストシティ。
あるものは完全に原型を留めずに破片と化し。
またあるものは斜めに傾き、いつ破片に堕ちるか秒読み。
またあるものは、生々しい罅(きず)を全身に走らせながらも、まだどうにか地面にしっかりと足を付け直立を維持している。
現地(このせかい)の人間たちからは、『廃棄都市区画』を名称づけられた建造物たちの墓標であり、墓場。
今から約数百年前、次元世界が二つの勢力に分断され、この世界の禁忌の象徴ロストロギアに手を出してしまったことで世界そのものがいくつも消滅、生き残った星々も、文明が積み上げた人間の生活の営み場は根こそぎ破壊された。
この街は、ミッドチルダにおける〝戦前の遺物〟とも言える残された過去の傷跡。
光景そのものが異形なら、こんな悪路を粉塵が飛翔し、後部に巻き散らせながらひた走る、勇夜の駆るVMAXカスタムもまた異形。
地球2009年製では剥き出しのライト一本だったハンドルと後部シート周辺には、エッジの利いた漆黒のカウルが装着され、ライトも円形のモノアイから吊り目なツインアイとなっている。
勇夜自身も、風になびくその髪もヘルメットもインナーの服も黒、その上に限りなく黒なダークブラウンのデニムジャケットを羽織り、ジーパンも濃いめのダークブルー。彼を一目見た者が、この格好とバイクから、かの光の巨人を繋げることはまず無い。
減速など思考の隅に置いてきたが如くのスロットルを振るい、急加速する鉄騎は既に高速道路の許容速度から大きく差を開かせてしまっていた。
これが直進ならまだ良い。
それだけに止まらず勇夜は速度を維持したままレーシングばりに身を極度に傾けその豪腕の体躯に似合わない機敏さで方向を変えて右に曲がり、そのまま続けて左に曲がる連続コーナリングを成し遂げてしまった。
それも一回のみでなく、かれこれこの猛々しい速度で、20回以上もゴーストシティの角たちを曲がり切ると言う凄まじさ。
『目標確認、前方約1km、高度300mの地点』
「ああ、こっちの目でもはっきり見えるぜ」
彼の瞳には、夜空を飛行するあの守護騎士の一人である鉄槌の少女がいた。
今から約一時間前、クラナガン市街に突如彼女が現れた。
地上本部の対応は早く、出動した陸上警備部の部隊に多勢は無勢と悟ったのか誰一人として蒐集せず、廃棄区画(こちら)に逃亡して行った。
クラナガン上空は、上層部その他諸々の許可と、旅客機の航路変更などで飛行できる環境が整わなければ飛ぶことは許されない。
しかし地上からでは、空を逃走する被疑者の追いかけるは困難。
ならばと勇夜が選んだ代案がVMAXによる追跡だった。
爆走するVMAXは、上空の少女と距離をどんどん詰めていく。
『誘導弾、来ます』
それを黙って見過ごす相手でも無く、相手は指先に形成した魔力弾を眼下の勇夜たちに向けて撃ち下げた。
オレンジ色に光る球体の数は10発。
それぞれが不規則かつ独立した軌道で迫ってくる。
対して勇夜は瞬時に対応。
魔力弾のスピードと着弾地点を予測しながら、左右じぐざぐに方向転換。
一度ミスを犯せば、光球の餌食になる。
その証拠に、VMAXが転換した向きと逆方向の地面に魔力弾が衝突。
爆発して、魔力と塵と炎が吹き上がっていく。
爆音も大きく、並の人間なら鼓膜に多大な負荷がかかって失神しかねない。
こんな火柱の藪の中でも、臆することなく、反復する爆風と爆音地獄を走り抜け勇夜に、一度は標的を当てられなかった誘導弾が追走。
「しつけーな!」
毒づきながら、勇夜は左方に体を傾け、車体の向きを変える。
直進を維持し、円を描く形でその身を回転させながら、腰のガンベルトから拳銃形態でしまっていた零牙を取り出し、構え。
車体が180度、フロントが誘導弾と対面する瞬間。
「フォトンバレット――リードショット!」
魔法陣が敷かれた銃口から迸る青緑色の弾丸。
最初はたったの一発だった。
零点コンマの刻みを経て、弾丸は一発から無数に分裂、玉にもマリンスノーにも見える小振りの弾の群れは、オレンジ色の誘導弾へと飛んで行き。衝突する魔力の弾たちは、地上で盛大に花火を上げる。
群れる小粒の弾の膜が阻みとなり、三発の誘導弾は閃光の後に魔力残滓と果てた。
リードショット―Lead shotの名の通り、この魔力弾は《散弾》を発射する射撃魔法、使い方によっては今披露されたようにミサイルチャフな芸当も可能とする。
勇夜は迎撃するとすぐさま零牙をホルスターにしまい、ハンドルを握り返し、さらに車体をもう180度回してスロットルを回し追跡を再開させる。
『高エネルギー反応、大型の直進弾と思われます』
上空では少女が第二破として、自身の小柄な体躯をすっぽり包み込む魔力球を作り出していた。
偉くどでかいやつを用意したな、それに何か引っかかる……というか、きな臭さだ。
このクラナガンでやつらが現れたことも、現にこうして逃走劇をやっていても、自分の目で確認したことでより強くなっている。
一応検討は着いていた、その何かは漠然とだが……あれは自分の世界じゃ、よく異星人侵略の常套手段、なのかもしれない。
けど、今は思索を後に回す時、どんな手品だろうと、今は眼前の障害を駆逐して、奴をぶん捕まえるだけ。
「リミッター解除、Vブーストモード」
音声入力式なのか、勇夜の声に反応してVMAXのエンジンのトルク数が上昇、鋼鉄の暴れ馬が猛獣の咆哮(おたけび)を上げる。
元はエンジンが一定の回転数を超えた時、目覚める〝野獣―――Vブースト〟、過度な改造を施されたこのVMAXは、彼の声紋認証によって発動する。
今までの疾走すら余興であり―――『眠れる獅子』と『爪を隠した鷹』―――であったのだ。
互いの準備が整った。
ハンドルのスロットルを全開にし、エキゾーストが咆哮をあげながら火を噴き、鉄騎――VMAXが豪風と化すのと、少女が鉄槌による魔力の剛球を数回回転してからの振り下ろしからのスマッシュによる炸裂が、ほぼ同時に起きた。
オレンジの魔力弾は、太陽を連想させる輝きで落下してくる。
すかさず勇夜は体の重心を後ろに傾け、前輪を宙に上げると、見えない登り坂があるかのように、重量300kgを悠に超える剛馬を宙に走らせた。
紙一重の擦れ違い。斜面線上を走るVMAXは、ギリギリ光球より上の高度に上昇、跳躍し、太陽を跨る形で直撃を避けた。
人間の体が耐えられる速度はもう越えてしまっている。
こんな速度でも耐えられる作りなバイクも恐ろしいが、その性能をフルに扱っている勇夜は、ウルトラ戦士であることを踏まえてももっと恐ろしい。
そして何よりも恐ろしいのは、まだVMAXが宙を疾走している状態であるのに、ホルスターからガンモードの零牙を抜き、リンクから光の粒子が発されると同時にハンドルから手を離し、足付きが悪いことに定評があるペダルを足場にして立ち上がり、粒子が形となって左手に出現した――――三色の変身ゴーグル、ウルトラゼロアイの射撃形態ガンフォーム―――を掴み、渾身の一球をかわされ距離を取ろうとする少女に対し、右手に零牙、左手にゼロアイのツーハンドで構えた。
このまま逃がす気は毛頭ない。
たとえ〝仲間〟と何かしらの〝絆〟を持っていようと、仲間を苦しめてまでこんなことを選ばざるを得ない〝ジレンマ〟があろうと。
体はプログラムでも、熱の籠った心を持っていたとしても―――今はただ、標的を撃ち貫くのみ。
「ファイア!」
対象を逃し、地面に衝突して大爆発を起こす魔力弾の爆風と閃光を背に、彼の鋼の意志が籠められた、魔力とディファレートエネルギーによる光の弾丸が、それぞれの銃口に火を迸らせながら。
鉄槌の少女に向けて――――解き放たれた。
過去の戦乱の爪跡であり、当時の争いの熾烈さを記す記録でもある混凝土密林群―コンクリートジャングル。
廃棄都市区画。
その建造物たちの墓標の西側に位置する第6区画と呼ばれている地域では、日本なら機動隊隊員に該当する全員同じデザインな、体の各部に防具が付けられたバリアジャケットを着こみ、形状が音叉に酷似した杖型のデバイスを持った―――『陸上警備部・陸士108部隊』 ―――の隊員たち8人が、あちこちに探査魔法であるサーチャーを飛ばし、実は地球から数十分でミットチルダに駆け付けた、とある嘱託魔導師と追跡戦を繰り広げ、クラナガン市街地に現れた次元犯罪者の少女の探索を行っていた。
他の区画でも、別の部隊が探し回っている。
「勇夜君、そっちは?」
「空振りだ、蟻ん子一匹いやしねえ」
別のポイントで被疑者を探し歩いていた、彼ら108部隊の部隊長とは義理とは言え親子であるその嘱託魔導師の諸星勇夜が合流。
隊員たちにとってゲンヤは上司、勇夜にとってはミッドチルダでのおやっさんこと義父なので、双方とも顔見知りで、今回以前にも共に仕事をこなしたこともある戦友的な間柄。
勇夜も含めて、探索チームの隊員一同が探査を一端中断し集まった。
現場での即席ミーティングというやつである。
「勇夜君が被疑者を撃墜してから2時間です、被疑者はもう空へ逃走したのでは」
「それなら、ここら一帯を監視している衛星が捉えて、こっちに連絡が回ってくるはずだろ」
進言してきた隊員の進言に答える二十歳前後の探査チームのリーダー、ラッド・カルタス。
こういう瓦礫の巣窟と化した土地というのは治安悪化を招き、犯罪の温床になり、犯罪組織のアジトとして重宝されがちだ。
年々、瓦礫群の撤去作業によってゴーストシティは少しづつ更地(一部は訓練施設として敢えて残されている)になってきてはいるが、まだまだ予断は許されない。
よって監視もおのずと強めになる。
例えばラッドの言う通り、勇夜たちのいる地上の上空には、区画のお目付けとして、複数の人工衛星が24時間無休で見張っている。
衛星には単にカメラで映像を映しているだけでなく、区画内で魔力を感知するレーダーを備え、魔法行使を感知すると即対応、地上本部に情報を転送するシステムになっている。
これはカメラから死角になる地点にいても、建物内にいても地下にいても通用されるので、廃棄区画は情景に反して凶状持ちがうろつく場ではなくなっていた。
「しかし、勇夜君はともかく、我々だけで古代べルカの騎士を確保するのは難しいのでは、もし彼と別行動をとっている時にはち合わせたりしたら」
「心配はねえよ、あいつを撃ち落とした時、両腕の腱を狙撃したからな、天下の騎士様も、指を動かせなきゃ弾丸ぶち込んで得物を振り回せやしないさ」
勇夜が鉄槌の少女を撃墜する際、ガンモードの零牙だけでなく、ガンフォームのウルトラゼロアイを使った理由をこれからお見せしよう。
「ファイア!」
少女が繰り出した大型の太陽(まりょくきゅう)をライダージャンピングでかわした勇夜は、VMAXカスタムがまだ宙に浮きあがっている状態で零牙とゼロアイを構え、小数以下の僅かな時間差を付けて、それぞれのトリガーを引いた。
零牙の銃口からは、青緑色のテニスボールサイズの魔力弾が、ゼロアイからはBB弾並の小ぶりな緑色のディファレーターエネルギー弾二発が発射される。
人の動体視力からは同速にしか見えないが、微妙に距離差をつけながら大気を切り裂き、突き進む光弾たち。
少女の方も即座に反応して三角と円で構成された魔法陣の障壁を張る。
先頭を走る魔力弾は、オレンジ色の障壁と衝突、直進を続けようともがくが魔力の球体は粉々に砕け散り、魔力残滓となり果てた。
だが次の瞬間、魔導師にとっては信じがたいことが起こる。
魔力弾の後ろを走っていた後発のエネルギー弾は、障壁に触れたにも拘わらず衝突して消滅するどころか、まるで進行を阻害する存在が初めから無かったかのように、二発とも障壁をすり抜けて少女の二の腕を掠め、皮膚を切り裂いた。
痛みに顔を歪める少女を前に、勇夜はゼロアイをリンクに格納し、零牙を両手持ちで構える。
銃口に集まる本命の一撃となる魔力光――ヘヴィストライク。
彼の指が引き金に掛かり、銃弾の枷が解放される瞬間。
少女は右手に魔力球を作ると、前方に向けて障壁ごと破って暴発。
世界が一瞬、白銀の光一色に支配された。
時間にして数秒、まだ片手で数えられる範囲内の出来事。
結論から言えば、相手に後々響く手傷を負わせたものの、魔力による閃光手榴弾―スタングレネードで逃げられてしまった。
ただし、リンクの分析から勇夜の放ったゼロアイのエネルギー弾と、零牙からの射撃魔法。
弾丸そのものの威力はそれ程ではないが、衝撃力の強さで体勢を崩し突き飛ばす弾丸――『HEAVY STRIKE』―――は確実に少女に命中したとのこと。
さらに衛星のセキュリティには一切反応が無いことから、魔法による逃亡は諦めて、足で逃げていると考えられたので、こうして捜査網を張って捜索していたのである。
あの時、なぜディファレートエネルギー弾が障壁をすり抜けたのか、気になる人の為に説明しておく。
まずおさらいとして、太陽エネルギーと魔法は一定以上の量で接触すると中和して消滅する性質を備えている。
この特性を利用し、エネルギー弾には、二発とも膜状バリアを覆った多重構造にし、魔力と太陽エネルギーのバリアが接触した瞬間、その部分だけが相殺され障壁に穴が開き、弾丸はそこを通って少女の二の腕に傷を負わせたのである。
しかも勇夜は最初から彼女の腱を狙っていた。
そこを傷つけられれば、手、指を動かすのに支障が出る。
いくらべルカの騎士でも、指が五本不満足なコンディションで武器を振るうのは困難極まる。
そんな状態でカートリッジを使うのは自殺行為だ。
まともに握れず、傷口に塩を塗り、余計腕を痛める結果になる。
治癒魔法を使うにも、自身への治癒は他者への治癒をかけるより進行が遅く、神経を傷つけられたとなれば、さらに時間が掛かる。
見張りの人工衛星もいるため、隠れている身で迂闊に使えば、すぐ場所を特定されることになる。
となれば、まだこの区画内に隠れ潜んでいる線はまだ残っているということだ。
「Aチームは地下水道路、BチームはポイントS-52の建造物一帯を当たってくれ、被疑者を見つけ次第報告、確保だ」
「「「「了解」」」
方針も決まり、探索部隊はそれぞれ割り当てられたチームごとに別れ、捜索を再開する。
やがてその場に残ったのは勇夜一人、正確には相棒のリンクと二人となった。
先程から、その場を微動だにせず佇む勇夜。
顔は黒い前髪に隠れているせいで、何を考えているのか全く掴めない。
ただ、近寄る者を猛獣に睨まれる感覚にさせる圧迫感を発している。
もし直に睨まれたら、そのまま射殺せそうな鋭さだった。
やがて彫像のような静の状態から、動に移行する。アローモードなど一部の形態以外なら、どの形態でもしまえる特製ガンベルトのホルスターに収納された零牙ガンモードを抜き打ちに振り向いて発砲、彼の背後に迫って来ていた影を撃ち抜いた。
地面に叩きつけられる影、零牙からの弾丸に脳天を貫かれて倒れている影は、人では無かった、人と同じ体格だが、人とかけ離れていた。
鳥類、特にカラスを連想させる黒い体色と顔つき、オレンジ色で人間より大きな猛禽類の双眸、全身の体色に負けず劣らずの黒ずくめなスーツ、さしずめ鳥人間と呼ぶべき風貌だった。
こうして直に目にするのは初めてだが、勇夜はこのカラス人間に心当たりがあった。
種族名は《レイビーク星人》、鳥型の生物が知的生命体に進化したと思われ、P413星雲のとある惑星を牛耳っていた種族。
その星には人間に酷似した生物がおり、星人達は奴隷同然に彼らを酷使し続けていたが、そのツケが回り、彼らを絶滅寸前に追い込ませてしまった。
対策としてレイビーク族は容姿、身体構造が似通った地球人に目を付け、照射された物体を縮小させる特殊光線銃で、大勢の地球人を労働力として拉致し連れ去ろうとしたのである。
結局その悪だくみは、その世界の防衛隊とウルトラマンによって阻止された。
これに懲りたのか、それ以降レイビーク族が余所の星に潜入して、現地民たちに拉致を行った記録は残されていない。
「団体さまのお目通り……ってか?」
『数は視認できるだけでも30はいます』
一人見つけたら百いると思え、では無いが勇夜の周辺には先手を撃とうとして返り討ちにあった最初の一人と同じ容姿をしたレイビーク星人たちが一斉に現れ、爪を構えて前傾姿勢をとりながら彼に殺気を放っていた。
「(縮小光線銃を持ってるやつはいるか?)」
『(いえ、どうやら武器の類は持ち合せていないようです、それに……)』
「(ああ、どういうことだよ、この感覚…)」
二人は、レイビーク星人たちに対し、ある疑念が浮かび上がっていた。
だが今はその疑念を晴らす術も時間も、彼らには齎されていない。
なぜなら相対する星人たちはほぼ一斉に、勇夜たちに牙を向いて来たからだった。
その部屋は、かなりのスペースが確保されながら、無機的で空間を照らす灯りは余りにも少なかった。
何らかの機械や半透明の円筒のカプセルから発せられる数少ない微量な光も、部屋にある物体の輪郭を捉えるために放っているわけではない。
男が座っている前に置かれた机の上に表示された、二つの3Dディスプレイもそうだ。
一つディスプレイには、神の視点からどこかの迷路を、簡易的なCGで表示させ。
「次は200m先の左を曲がれ」
男はモニターに向けて語りかけていた。
その男は白衣来た50ほどの中年で、顔つきはどことなく昭和時代の日本人男性を思わせる雰囲気を醸し出していた。
どうやら、モニターの光点の一つに指示を与えて敵と接触させないようナビゲートしているようである。
「さて………その姿でどこまで戦えるか、見物のし甲斐があるな、〝セブンの倅〝よ」
男は一方の画面に映る光点へのナビを続けながら、もう一つの―――複数の光点たちと追跡戦を強いられている一点が映ったモニターに目を向け、独り呟いた。
正直なところ、彼が人間体でも常人離れの強さを手にしていることは理解している。
古代ベルカ式を使い、他者になり済ます制約があったからとは言え、管理局では最強とうたわれた双子の片割れを先刻追いつめていたのだから。
さすがウルトラ警備隊7番目の戦士にしてウルトラ兄弟三兄の子であり、獅子の弟子ということはある。
だがあれだけでは足りない。
この体の元の主の技術力を以て作り上げた傑作品の性能を最大限発揮させるには、やつらのデータが更に必要になる。
噛ませ犬、捨て石というのはこういう時に重宝するのだからな。
男のその口元は……微かにではあるが歪んだ笑みを浮かばせていた。
ボロボロのビル群の森を走る勇夜。
彼を追いかける、カラス人間、レイビーク星人たち。
先程とは趣の異なるチェイスが行われていた。
幕末と呼ばれる時代の侍たちのようにはいかねえか………と走りながら愚痴る勇夜。
彼は、日本の体制が決定的に変化する転換期、新たな社会システムを作り出そうとする者たちと、それまでのシステムを維持しようとする者たちの争いが繰り広げられた時代に、こういった街中で大勢の敵に一人遭遇した際に侍たちが使っていた対処法を試していた。
まず始めに、追われる形になるが逃げる。
追跡者から振り切る為に背を向けるわけではない。
人が人それぞれ異なる容姿を持っているように、人によって走る速度はバラバラ、それにプラスして是非がなんでも対象に追いつきたい心理状態によって、追走者同士の距離がどうしても離れることになる。
そして先頭を走ってきた者から順に、一対一に持ち込み、一撃離脱を繰り返して一人ずつ屠っていく、先人たちの知恵が編み出した、複数の相手に対抗するための戦法。
実際ある程度の効果は現れた。
この追跡戦で、レイビーク星人たちは飛び道具の類を持っていないこと。
「マグナムシュート!」
一部ビルからビルを跳躍して追いかける輩がおり、そいつらから一人づつガンモードの零牙から発射される魔力弾で撃ち落としていったことだ。
残るは、地上を疾走する個体たちのみ、数は20。
かれこれ5kmほど走っている。これだけ走っていれば、マラソンランナーたちのようにばらつきが出そうなものだが、レイビークたちは一定の距離感を維持したまま並走を続けていた。
どういう仕掛けか分からないが、彼らは全員、一定基準の性能で平均化された量産機械のようだ。
さっき彼が内心ぼやいた愚痴は、この因から端を発している。
そろそろ追いかけ回されるのがうっとおしくなってきた。
どうやら、自分以外にこいつらから喧嘩を売られたやつはいないらしい。
音声のみの通信でおやっさんの部下たちに連絡してみたら、特に襲撃は受けていなかった。性質の悪いストーカーどもが、自分を追いかける連中全員だけなのが幸いだ。
かと言って、自分だけがその対象なのは良い気がしない。
世界一運が悪いが、タフガイなNY市警の刑事(デカ)みたいにぼやきたい気分だ。
しかし、この停滞した状況をぶち壊すのはぼやきじゃない、己自身が選び取って実行する行動だ。
さて―――鬼ごっこはこの辺でお開きだ。
彼の意識が、守勢から攻勢に転じる。
勇夜はその場で足を止めると、いきなり追走するレイビーグ星人に向けて跳び上がった。
高度にして40mものの高さを、体操選手を涙目にさせる流麗なフォームで宙を舞いながら放物線が描かれる。
そしてレイビークの群れから見て真上の位置に差し掛かると。
「〝ティターンインパクト〟―――ヘアァ!!」
術名を発すると同時に、ダガーモードにした零牙の一振りを眼下に向けて投擲。
短刀は、レイビーグ星人たちが踏みしめている大地に突き刺さった。
その刹那、刃が刺さった地点から半径数メートルの範囲の大地から、光が漏れたかというと、地面がいきなり閃光と一緒に吹きあがった。
レイビークの数人はその爆発に呑みこまれた。爆発の直撃から逃れた者も、閃光と舞い上がった砂塵で、視界が妨げられ、吹き飛ばされた瓦礫がその身に生々しく刺さり、血を大量に流しながら生命活動を停止させられた。
今勇夜が使った魔法、《ティターンインパクト》は魔力を圧縮して溜めた零牙を地面に突き刺し、地面に魔力を流し込むと同時に強制解放して爆発を起こす魔法。
空中戦では使い物にならないが、地上での一体多数の戦闘においては周りへの被害を多少大目を瞑れば、複数の敵を殲滅できる。
先手を撃った勇夜は、態勢は崩されているが同時に粉塵と暗闇で眼が役に立てない状況下にもかかわらず、意に介せずに群れの真っただ中に飛び込んだ。
着地と同時に、まず目の前にいた三体を右足からの連撃で打ちのめし、続いて背後にいた一体を左足からの上段回し蹴りのよる、ハンマーと化した踵で顔面を叩きつけた。
今の攻撃で残り16体になったレイビーク、4体を犠牲にしたことで態勢を立て直す時間ができたのか、粉塵と闇に紛れ姿を消した。
相手も視界が封じられているのは同じ、ならば地の利と数の利を生かして、不意打ちと不意打ちの積み重ねで生殺しにしようとでも言うのだろう。
策としては上々の一手だった。
自ら気配を押し殺し、数体が一斉に跳び上がり迫る。
先鋒の一体の爪が勇夜の頭部を肉塊にすべく切り裂こうとした。
が、それは未遂に終わる。と言うよりは、無理やり終わらせられた。
爪が彼の体に触れるより先に、振り向いた勇夜に腕を掴まれ、腕力と遠心力で腕の骨が砕け散る。
その勢いのまま勇夜は片手で投げ飛ばし、射線上にいた同類数体にぶつけた。
彼はそこで動きを止めることなく、上手側から現れた一体の蹴りを避けながら右手の肘打ち、掌底と飛び膝蹴りの連撃で胸部を内部の肋骨ごと破壊する。
続いて下手側からのパンチの連舞を両腕での防護で勢いを殺し、お返しとしてこちらからの拳による連打を食らわせ、足払いで姿勢を崩した後にアッパーカットで下顎を撃ちあげた。
天高く舞い上がって地に堕ちる一体、この時点でもう半数以上がやられていた。
こんな戦況でもやつらは退こうとしない、そんな思考などとうの昔に捨て去っていたようだ。
勇夜としては好都合だ。こいつらの為に自分の身内、それ以上の人たちに手出しなんかさせるわけにはいかないからだ。
悪いが、この場で全員纏めて駆逐する。勇夜は腰のベルトに帯刀していたもう一本のダガーモードの零牙を抜き、ダーツを射る要領で投げた。
粉塵の中へと消える零牙。
バシュバシュ――と、生ものが切り裂かれ、内部から液体が吹き出る音が連続して鳴る。
それから数秒たった後、反対方向から黒い短刀が二本とも勇夜の許に戻り、彼の手の中に収まった。
やがてようやく粉塵が晴れ、クリアな視界が確保される。
この場には、勇夜以外に立っている者がいなかった。
レイビーク星人は全員倒れ、地に伏せられており、残りの者たちは、粉塵の中を投擲され、勇夜のウルトラ念力で自在に飛び廻る零牙の刃で切り刻まれて、血を噴き出して倒れ込んでいた。
四肢を分断されたものまでいる。生首の数も少なくない。
勇夜が人並みの容姿をしていることもあって、とても異様な光景であった。
相手を全て駆逐したことを見おさめると、両手に持っていた零牙をリンクに格納しようとする勇夜。
その途端、勇夜の目つきが再び戦闘時のものに変わる。
ダガーモードの零牙一振りを、逆手に持って構えを取った。自身の持っている感覚器官をフル稼働させて、自分に殺気をぶつけてくる相手の存在を感じ取ろうとする。
瞬間、夜の闇に影一つが過り、月光に反射した。
勇夜に迫る凶刃の一閃。
互いの得物と得物が、火花を散らしてぶつかり合った。
廃棄都市区画の下には、今は使われていない地下水路のトンネルが存在する。
都市が都市としての機能を果たしていない以上、地下水路も同様で、今は水が流れるどころか、湿気の滑りすら無い。
手を着けられていないので、闇とすすと埃だらけで、長時間ここにいるのは苦痛になる点に関しては変わらない。
コン…コン……と音が地下に残響する。
両腕、丁度指を動かすのに必須な腱の位置に傷を負った青みがかった髪の男が、闇の十字路を歩いていた。
できるだけ忍び足で進んでいるが、音そのものは消せてはいない。
追われているのか、辺りを注視しながら進み続ける。
〝その先を進み続ければ、クラナガン市街の水路に繋がる、追手は近くにはいない〟
彼の脳内に、声が響いた。
齢を重ねた男の声であった。
言われるまでも無い。
ここで見つかる訳にはいかない。
転移魔法ですぐさまこんな汚らしいところからおさらばしたいが、ここでは愚行の極み、自分から地雷を踏みに行くようなもの、現状は大人しく足でこの場から抜けるしかない。
数時間前飛行で逃亡していた自分にバイクで追走してきた、己の片割れを打ちのめした男の弟子に当たる少年によって負わされた腕の痛みを、耐えに耐えながら歩みを進めると、やがては水の流れが彼の耳に心地よく響いた。
紛れも無く、クラナガンの真下に流れる地下水道の音。
ゴール地点までもう直ぐの位置だった。
やっとこの闇と閉塞感と緊張感から解放される。
そう思えば、自然と足取りが軽くなっていた。
この世界に迷い込んだウルトラ戦士は、こちらでは『魔導殺し』の異名を持っている。
大っぴらに戦えなかった―――という理由と事情があるとはいえ『彼女』もその名の意味をたった今思い知った……洗礼者の……一人であった。
「〝誘拐犯〟の次は、〝愉快犯〟かよ…」
右手の零牙を逆手で構えたまま、レイビーク星人に続いて現れ彼に不意打ちを掛け、剣閃を数合交わした相手に対して、勇夜はこう発して毒づいた。
今度の相手もウルトラの世界にいる知的生命体。
それも彼の師にとって、因縁深き相手でもあった。
種族名は、『ツルク星人』。
種全てが殺戮衝動を抱えた危険な習性を持ち、宇宙の通り魔と名が付くほど、殺戮者として有名な星人たち。
カミキリ虫を連想させる奇怪な容姿と冷血に不気味に光る赤い瞳。
その両腕には、月の光に反射する刃が付けられていた。
師のウルトラマンレオ―――おおとりゲンと戦った個体は、彼を兄貴分と慕っていた少年とその妹の父と同僚であったMACの隊員を殺害、その罪をゲンに着させようとさえした。
父セブンのサポートが無ければゲンは、腕の刃で両断されていたかもしれないほどの強敵。
噂通りの、殺戮中毒者だな……こいつ。
彼の心に蠢くのは嫌悪感。
なぜそんな感情が沸き上がるのか、元凶は対峙する星人にあった。
笑っている。生死を賭けたこの状況下で、いやでも戦いに快楽を求め、愉悦に浸っていることが分かる。
それだけ邪悪で戯れた笑みだった。
〝バトルマニア〟だってんなら、守護騎士の一人で自分とやりあったシグナムもそうだが、あいつには武人としての誇りを持ち合せ、己を律せられる理性も捨てていなかった。
こいつらにはそれすらも無い。きっと、とうの昔にそれらを壊して、それっきりなのだろう。
彼らがなぜここまで、〝殺し〟を極上の娯楽とするようになったのかは定かではない。
唯一つ断言できるのは……こいつらが、生命体とすら呼ぶ気にもなれなくさせる特上の《悪魔》だってことだ。
数秒の対峙mその時間は星人の踏み込みで終わりを告げた。
両腕の刃で果断無く切り付けるツルク。
手に持った零牙(ナイフ)で、間合いに入らせない様防御し、受け流す勇夜。
一撃一撃が……重く、なのにその二刀の剣舞は変幻自在、一方を受ければまたもう一方が切り裂かんと迫る。
隙そのものを見せつけない、師のレオをかつては苦しめ、一度は敗退させた二段攻撃、どの攻撃も致命傷となる部位を狙ってきているので予断が許されず、少しでもよそ見をすれば、自分の首が飛んで、視界に自身が落ちていく光景が映されるであろう。
聞くとこによれば、人ってのは首が体から離れても、しばらく意識があるそうだ。
それを試してみる気はさらさらない。
たとえ先輩にあたり、父の従兄で自分の親類にあたるレッド族のウルトラマンが直に体験していたとしてもだ。
来る!
やつの大技が――――!直感で悟った勇夜は、剣先に念力を集中させた。
両腕を振りかぶり、刃を力の限り振り下ろすツルク。
零牙で辛うじてその凶刃を受け止めた勇夜だったが、刃から発し、念力越しに感じる衝撃と強風で突き飛ばされ、背後の廃ビルの外壁に叩きつけられた。
隙だけは見せまいと激痛に呻く体を動かし立ち上がる。
額からは赤い液体が流れていた。眉間以外にも切り傷が刻まれたが、念力の防壁とバリアジャケットにより、外傷自体は大したことは無い。
それに顔面の傷は、他の部位に比べ血が流れやすい。
額の怪我は、やつの刃から迸った風によって掠ったものだった。
念力で受けなければ、掠り傷どころでは無かったが……だ。
『今の技はソニックブーム、俗に言う鎌いたちと呼ばれるものです』
相棒が補足説明してくれた。
今のはすなわち、高速で剣を振ったことで発生した空気の衝撃波で自分をバラバラの肉片死体に変えようとしたのだ。フィクションではよく見る代物だが、まさかこうして直に受けることになるとはな、世の中分からねえものだ。
そのかまいたちが有効打となって形勢をこちらにさらに傾かせるべく、ツルクは無色の大地を駆け、押し迫る。
またしても勇夜の首に迫る二つの×字に交差された刃、その挟撃で切り飛ばすつもりなのだろう。
勇夜もみすみす相手の思い通りに殺されるつもりはない。
刃が首を捉える寸前、右手の零牙を阻みにして挟撃を受け止めた。
『(マスター、さすがに変身しなければ不味い状況です)』
「(分かってるよ、でもそいつはお前が必要だと判断した時にとっといてくれ)」
マルチタスクで、状況の打開を思案しつつ、相棒からの提言に答える勇夜。
『(マスター……)』
「(そん時が来たら、無理やりにでも俺をウルトラマンにして構わねえからさ)」
『(了解、ですが……くれぐれも無理はなさらないでください……)』
淡々とした声音に、彼の身を案じる思いを見せながら、リンクは了承した。
「ああ」
ゼロになれば、一気に勝機が上がるだろう。
人間体のこの姿でも、それなりに善戦できていたのだから。
しかし、今はウルトラマンになるわけにはいかない。
やつには、完全に理性を失い、二度と戻れなくなると引き換えに怪獣に変化できる能力を有している。
下手にクラナガンの眼と鼻の先で変身すりゃ、相手も合わせて巨大化するかもしれない。
結界に閉じ込められるだろうが、そうなれば確実に衛星に引っかかる。
家族であるナカジマ一家も含んだ、この星に住んでいる人たちに無用なパニックは押しつけたくは無い。
それに、こいつとさっきのレイビーグは、前に海鳴で怪獣を送りこんできた野郎の差し金で、間違いない。
殺意は感じられるのに、ロボットであるジャンボットにすら感じられたものが、こいつらには皆無だ。
確たる証拠は無いが、そいつは今でもこの戦闘をじっくり見物中であるはず。
そんな小汚い野郎に、手の内を見せるわけにはいかない。
だから今は―――ギリギリまで〝諸星勇夜〟として戦い抜く。
決意を胸に、彼は右足の蹴りで相手の下腹部を蹴り付け、生じた隙から魔力放射の応用で、身をツルクの股の間に向けスライディング、脚の合間をすり抜けた。
一方、次こそは首級を取るとばかり、立ちあがった直後の勇夜に肉薄するツルク。
まず左手の刃を一閃、その刃は相手の右手の零牙で受け止められる。
それぐらい把握済みだと、右手の二段目が迫った。
だが本命の二段目も何かに阻まれて防がれた。
ツルクの狂気の容貌が驚愕に包まれる。
次に身が感じたのは、胸部に押しかかる重み。
「こっちも―――二刀流何だよぉぉぉーーー!!!」
防いだ何かは、隠し持っていたもう一振りのダガーモードの零牙。
重みの正体は勇夜の両足からの時間差キックであった。
一撃目は胸部だったが、二撃目はツルクの顔面に直撃し、先程とは立場が逆転する形で飛ばされ、地面を何回転も転がさせられた。
だがツルクは直ぐその場を立ち、振り上げた剣を振り下ろしざまに打ち付ける。
かまいたち――大気の凶刃が刃から放たれた。
来たな、ならこっちは!
左手を正面に翳す。
勇夜の掌から見えない〝何か〟が飛んだ。
ウルトラ念力の念動波を球体に固めて飛ばしたのだ。
その名も《サイコウェーブ》、念動波と大気の刃がぶつかり、衝撃が四方に広がる。
正確には、念動波が大気の刃を押し殺した。
そのままツルクに迫る念動波だったが、かまいたちをはじめとした空気の壁で衝撃波はすんでのところで届かなかった
しかし、これこそが勇夜の狙いであり、彼は地面が割れるほどの脚力で駆け出した。
彼がここまで人間離れした身体能力を発揮できるのは、ある秘密があった。
ウルトラマンが人間の姿を取る際、二つの選択肢がある。
見た目だけを人間そっくりに変えるか、身体構造まで人間そのものにするかだ。
前者だと、人間でないことが周囲にバレやすく、後者だと危険が差し迫った時に咄嗟対応できない。
さらに変身アイテムに貯められたエネルギーで瞬時にウルトラマンに変身する場合と違い、人の姿のまま〝身体構造〟を変える行為は時間が掛かる。
長い時には数分費やされることもある。
勇夜も普段は日常生活に支障を出さないよう、体の中身は後者向きなのだが、これが彼とゲン―レオら二人の師弟となると、話が少し違ってくる。
二人は、ある意識法で時間が掛かる身体変換を瞬時に行っているのだ。
過去の武人も持ち合せていたとされる、自身の意識を集中させて研ぎ澄まし、体をより戦闘に特化した性能に置き換える自己変革能力、それを駆使することで、勇夜は人間体でも多大な戦闘能力を発揮できた。
さらに先に放った念動波が、駆ける速度をさらに増幅させる。
念動波は空気を切り裂きながら押し進んでいた。
その結果、勇夜とツルクを結ぶ直線状は真空状態となる。
いわゆる《スリップストリーム現象》、空気抵抗の網から解放された真空の穴を走る勇夜は、瞬間的にフェイトの飛行に迫るスピードで駆けていた。
大地を駆けあがる勇夜を待ち構えるツルク。
奴もやられるつもりはない。
彼が自身の攻撃をこちらに当てる前に、こっちの剣撃で屠る気だ。
奴も地面を刈り上げ、自らの脚を疾駆させる。
刃を嵌めこんだ両手を大の字に広げた。
凶刃で勇夜の体を真っ二つにする魂胆だ。
それは勇夜でも理解できた。
だがなお疾走を止めない。
瞳に宿す闘気はさらに熱く滾っている。
ただの殺戮を繰り返すだけのマシンには絶対持ちえない物を持っているがゆえに、彼は走る、戦う。
その身に宿る〝心〟には確固たる、この手で守りたい、守り抜きたい人たちがいるのだから。
互いが間合いの内に入った。
得物のリーチならツルクの刃の方が上。
振り広げた刃を、勇夜の銅に向けて横薙ぎの挟撃で切り付ける―――――――その前に彼は跳び上がり、刃は刃同士重なりぶつけ合った。
「このやろぉぉぉぉぉーー!」
勇夜はその瞬間、刃に向けて蹴りを下ろし、踏み台にしてさらに高く跳び上がった。
彼の脚力から繰り出されたキックによる衝撃で、ツルクの得物は罅を走らせ、砕け散って鉄屑となり果てる。
敵の背後へと跨って飛躍し、逆さになる形で背後をとると、勇夜はツルクの胴体を掴み上げ、両足を大地に踏みつけ、起 き上がる勢いでツルクを頭部から瓦礫まみれの地面に叩きつけた。
小さな瓦礫の破片が舞い踊る。
今のは、アナザースペースでのバラージの盾を探す旅で彼が身に着けたプロレス系統の体技、《ゼロドライバー》の応用技だ。
常人離れした彼の腕力で脳天から叩きつけられたことで、さしものツルク星人も意識を飛ばされていた。
が、彼の攻勢はここでお開きではない、勇夜はツルクを抱えた状態で数回振りまわした後。
「ウルトラハリケェェェェェェェェーーーーン」
空に向け、力の限り投げ飛ばす。
ウルトラ兄弟四兄のウルトラ戦士が、次兄をかつて完膚なきまで倒した怪獣の別固体を見事打ち倒す決定打になった投げ技《ウルトラハリケーン》である。
相手を空中に放り投げると、すかさず勇夜は地面に魔法陣を敷く。
「風よ、豪腕となりて…悪しき者を完膚無きに叩き伏せ」
「(リンク、奴の落下地点はそこで間違いないな?)」
『(はい、勿論です)』
リンクと念話で何らかの確認をし、右手の人差しと中指を立てながら詠唱すると、上空の大気が渦巻き状に急速回転を始めた。
渦の真下には、ウルトラハリケーンで未だ宙を舞ったままなツルク。
「プレス――サイクロン!」
指を立てた右手を横薙ぎに振るうと同時に唱えた詠唱が引き金となり、渦から降り注ぐ竜巻がツルク星人を叩きつける。
《プレスサイクロン》
人工的に竜巻を発生させて、眼下の敵を打ち付ける攻撃魔法。
先程のかまいたちのように、空気も使い方次第で凶器となる。
この竜巻も威力は申し分の無い……のだが、攻撃範囲は決して広いといえない短所があった。
一度発生させた渦本体を、移動させるのが困難だからだ。
だが回転させながら放り投げることで、敵を無防備にさせる《ウルトラハリケーン》と組み合わせれば、ほぼ確実に当てることが可能だった。
大風の豪腕に圧され、急速に降下していくツルク。
「零牙、ブレイドモード」
零牙を日本刀形態、ブレードモードにしながら落下する対象に背を向ける形で居合腰をとる。
集中力を高める為、瞳も伏せ、深呼吸し、静かに構えを維持する勇夜。
そして―――
「デェア!!」
――振り向きざまに抜刀。
煌めく月光の反射の閃光、目にすら捉えられない速さで、彼は切り抜けた。
鈍く、生肉が斬れた斬撃音が二回、夜の廃墟に響く。
地面に粉塵を起こしながらスライディングし、両足で勢いを止める〝零牙を上段から唐竹に振り下ろした状態〟の勇夜は、刀身に付いた血を振り払いながら、零牙を鞘に納刀する。
刀が収められたと知らせる金属音がなった瞬間、ドサッと複数の物体が地に落ちる音がした。
物体の正体は―――ツルク星人。
ただし……今となっては四分割に切断された肉塊と成り果てていた。
勇夜は自身の背後に落ちてきたツルクに、まず逆手で抜刀、左から切り上げ即座に順手に持ち直しながら唐竹の二撃目で対象を四散させながら切り抜けたのだ。
《逆手不意切り》と言う名の技の応用による居合術、余りの速さに、あの瞬きの合間で二連の斬撃を振るったと、目で把握できるものはそういまい。
『お見事です』
「どうってことねえよ…」
止めていた息を吐きながら返す勇夜――ゼロ。
前言の通り、ウルトラマンゼロは《諸星勇夜》として、宇宙の通り魔を打倒したのであった。
つづく