ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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また待たせてしまった(汗

色んな意味で試練を課されてるなのフェイ回です(苦笑

後半フェイトちゃんが変な電波受信しますが、何のネタかはよく分かる筈www


STAGE13 – 少女たちの試練

 由緒正しき王室の生まれでありながら、故郷も、家族も、友も恋人も、何もかも失い続けた波乱と悪路溢れる半生を送ってきた男。

 何度も地獄を経験し、孤独と挫折を味わい、ひたすら耐えに耐えながら、その苦難を何度も乗り越えてきた獅子の闘士。

 

 おおとりゲン――ウルトラマンレオ。

 

 戦うことの過酷さを誰よりも身にしみて存じている為、当然のことながら、彼の指導は愛弟子の父である師と並んで厳しく、心身ともども、徹底的に負荷を受けさせられるものだ。

 知っての通りだが、今回彼のご指南を受けることになった者たちは。

 ミラーナイトとは義兄弟な地球人の少女、高町なのは。

 弟子――ウルトラマンゼロを想い人としているミットチルダの少女、フェイト・テスタロッサの、おふた方だ。

 これは、修行初日に起きたことである。

 

「2人とも、昨日はよく眠れたか?」

「は、はい」

「ど……どうにかです」

 

 体操着代わりにバリアジャケットを着た二人は、初日であることと、ゲンの厳しさを絵に描いた眼光で、既に緊張でガッチガッチであった。

 

「ところでフェイトちゃん、その髪型は弟子の受け売りか?」

「ふぇ?、まあ……そんなところです」

 

 あと実はフェイト、バリアジャケットこそいつもの黒衣だが、髪型はツインテールでもツーサイドでもなく、一纏めのポニーテールだったりする。理由はゲンの言った通り。お子さんによくある憧れのヒーローの真似ではあるが、彼女の場合はその対象への感情は憧れだけではなく、さらに言えば、勇夜に会うまで異性とまともに交流したことがない身であったので、最初に『こ』がつくことには未だに赤面ものな、照れ屋さんだったりする。

 照れ屋なのは、『彼』もそうなので、ある意味似た者同士でお似合いなお二人である。

 

 修業の場として選ばれたのは、海鳴市街を囲む裏山の一つ、桜台登山道の広場。フットサルができるほどの広さがあるので。なのはが前々から魔法の訓練に重宝されている場所だ。

 修行の時間は、朝の5時から7時と、午後17時から19時までの二つに分類される。

 ただし、実際の修行密度は、前述の時間の比では無い。

 修行が行われている間、アルフがゲンの弟子の勇夜―ゼロからのご指南と、彼がフェイトに行い、彼女を疲労困憊で真っ白にさせるまで追いつめた転校前の短期集中鬼畜講座でも使用された外部との時間を切り離す特殊結界を張る機能を持つ、火災報知機によく似た形状をしている魔導器が使われている。

 結界が張られると、外部での二時間経つ間、内部では6倍の12時間となり、なのはとフェイトはその間、ほぼ丸半日修練に明け暮れている。

 レイジングハートとバルディッシュは改修中で手元に無いので、二人は本局の武装局員たちに使われている槍先が金色の音叉状に別れた一般デバイスを使い、さらにゲンの修行プランとして、二人にはあるハンデが掛けられていた。

 魔導器が発する結界は、一種のリミッターで、なのはとフェイトの最大魔力量を減らし、魔導師としての彼女らを弱体化させる機能を持ち合せている。

 結界自体が、かつてゼロがK76星での修行の際、強制的に身につけられた拘束具―――テクターギアに近い役割を持っていた。

 さて、そんな下準備を整えた上で、ゲンが最初に行ったのは。

 

「私と一戦交えてもらう、私に少しでも攻撃を与えられたら、君たちの勝ちだ」

 

 今こうして本人が言った通り、今の彼女らの実力を直に見極めるために、実戦重視の模擬戦を切りだした。

 ゲン――レオが、誰かを指導する時には、必ず最初に行っていることだ。

 まだ正式な警備隊員なりたてで、地球で防衛活動に従事してたメビウスにもだし、当然のことながら、愛弟子のゼロにも当てはまる。

 最初は「こんなギア屁でもねえぜ!」と意気がって挑んだ不良真っ盛りな頃のゼロだったが、結局一発も当てられるままギブアップとなった。

 こうすることでレオは教え子に、まず自分自身の未熟さを直視させようとしたのである。

 そして今回のなのはとフェイトにも、同様の方針をまずとった。

 

「「はい…」」

 

 了承はしたものの、内心二人には抵抗感が芽生えていた。

 相手がウルトラマンで、こちらにはハンデがかけられているとは言え、ゲンは生身でこちらと戦うと言ったからだった。

 自分たちは、バリアジャケットを展開し、デバイスも起動済みの完全武装。

 対してゲンは、黄色と黒の2色で染められたスポーツウェアで、勇夜が何度も見せた、片腕を腰にもう片腕を真っすぐ前方に突き出す宇宙拳法の構えすらとらず、柳生新陰流で言うところの無形の位をとっている状態であった。

 だが直ぐに、そんな抵抗感は捨てた方がいいと、まだあどけない二人は察した。

 ただ直立しているだけなのに、ゲンからは隙が全く見えない。

 どこから、どのタイミングで攻めても、攻撃を容易く躱され、カウンターを受けられると直感させられてしまうまでの佇まいであった。

 

「来い、遠慮はいらん」

 

 二人は意を決した。

 こんな後ろ向きな気持ちでどうする?

 中途半端になるな、ゼロから言われたことだ。

 何のために自分たちはこの場にいる?

 何のために自分たちは戦闘服であるバリアジャケットを着て、武器たるデバイスを手に持っているのだ?

 自分にとってのヒーローたちの、足を引っ張りたくないから、少しでも力になってあげたいからではないのか?

 でなければ、自分たちの指導を請け負ってくれたゲン師匠に申し訳がたたない。

 

「行くよ、なのは」

「うん、フェイトちゃん」

 

 二人は、10m先に立つ、静かに気を発するゲンに負けじと見据え、デバイスを構える。

 眼光を受けたことで沸く『恐』の感情そのものを感じていないわけじゃない。

 現に二人の手をよく見ると、デバイスを握る指先が微動している。

 だけれども……ここで立ち止まれないのだ。

 刹那……

 

『Flier Fin』

 

 飛翔する………少女二人………対峙するウルトラ戦士に向かい……大地を風で吹き荒らして……突貫した。

 

 

 

 

 

 

 先に初日の模擬戦の結果を話してしまおう。

 はっきり言ってしまえば……なのはとフェイトの〝完敗〟であった。

 ゲンの提示した勝利条件、攻撃の規模、威力は関係なく、一撃でもゲンの体に当てられたら勝ち、という条件をクリアすることはおろか………攻撃を当てようとすることすら、全く適わなかった。

 何が起きたのかと言うと、意を決して踏み込んだなのはとフェイトに向けて、ゲンが殺気を上乗せした眼力の弾丸――――視線をゲンはぶつけただけ。

 彼が先手で行ったのは、たったそれだけ、二人を……〝見た〟………だけだ。

 少なくとも、最初は視線は出したが、手は一切出さなかった……が、これがおおとりゲンという人物の場合、話し、というより次元が大分違ってくる。

 何度も修羅場と窮地と死地が立ちはだかりながらも、屈せずに踏み越えてきたウルトラ戦士なのだ。

 彼ほどの猛者となれば、自在に殺気をコントロールし、眼光すらも武器にしてしまう。

 フェイトが勇夜と初邂逅した際、彼は彼女に殺気をぶつけながら抜刀することで、相手に斬られたと錯覚させ気絶させてしまう『アイズインパクト』という技を使用したが、この技もある意味では師匠譲りのものだ。

 そんな名前の通り、獅子と呼ぶに相応しいゲンの殺気の前では、魔道師として有り余る素質があり、経験はそれなりに積んできたなのはたちでさえ、ひよっこ未満となり果ててしまった。

 瞬間的に膨れ上がったゲンの〝気〟に、二人は攻撃する意志どころか、戦う心意気すら剥奪、簒奪され、恐怖心の余り立ちすくみ、その隙を突かれて呆気なくゲンの体技に地に伏せられてしまった。

 さすがに手加減したのか、ゲンは合気道による投げ技で済ませたが、これは見方を変えれば、拳を振るうのに値しない、彼女たちは敵ですら無いとも言いきれてしまう。

 ただ、ゲンが披露したのが外国からは『動く禅』と喩えられるほど『和』を理念とし、相手を傷つけずに制する合気道なら、むしろ前述の行為は正解だとも言える。

 

「一撃も…入らなかった…」

 

 ただ……それでも彼女たちがくらわされた精神的打撃は、自分たちが持つ魔法の数々よりも、より痛烈な威力を持ち合せていた。

 敗北の経験は、二人とも何度もその身に受けている。

 なのはは、初めてフェイトと対面した時や鉄槌の少女に襲われた時。

 フェイトは、勇夜の初対面と、なのはとの決闘、シグナムの強襲など。

 だが、今回はばかりはその今までの比では無く、まさしく文字通り手も足も出ない惨敗であった。

 ゲンから出された勝利条件を、満たし遂げることがどれだけ困難なことか、重々承知していたはずだった。

 なのに、結果は二人の範疇を遥かに超えていた。

 睨まれた…ただそれだけで、相対する相手に屈してしまった……打ちのめされてしまった。

 以前二人が、魔法で作られた仮想空間のビル街で決闘した際、最終的に街をゴーストタウンになり下がらせるほどに戦いが激化してしまったが、それすらも、超人たちには、ぬるま湯であったと言うのか?

 そうなのだ……戦いの規模と言うよりは、戦いに臨む………姿勢という奴が、そう………致命的なまでに、次元が違い、隔たりが存在していた。

 

「どうやら弟子と光君は、君たちを過大評価していたようだな」

「「………………………」」

 

 地に着いたまま放心状態に陥っていた二人に、辛辣なゲンの言葉がズシリと踏みかかった。

 

「弟子たちに、少しでも力になってあげたいから、君たちは魔法使いを続けているそうだな?」

「「はい…」」

「それならば君たちのあの様は何だ!?」

 

 重くて低く、渋みとドスが利いたゲンの怒声が、二人の耳に響き、痛みとなって訴えてきた。

 あの様………彼の目を見ただけで、殺気を身に受けただけで、戦闘する意志を奪われた無残な自分たちの失態。

 恐怖を感じること自体は、生き物として正しい判断だ。

 あの時のゲンは猛獣と表しても差し支えない棘を身から発していた。

 ただし、その怖さとどう折り合いをつけて対応するか、その点なら二人とも落第点、ゲンがもし本気だったなら、もうこの時点で二人とも生命活動を停止させられていた。

 一瞬の判断ミスが命取りになる戦場に於いて、これは致命的である。

 

「少し言い過ぎたな……なら一つ質問しよう、なぜ魔法には『非殺傷』などというものがあるか、考えたことはあるか?」

 

 先ほどより声色を落ち着かせつつも、顔つきと目つきは厳しさを維持させながら、ゲンはなのはとフェイトに問いた。

 

「そ……その」

 

 二人は言葉に詰まった。

 今までの戦闘経験と、勇夜や光を通じて、魔法もまた危険性を帯びた力であることは承知していたが、それでも非殺傷在りきの戦いを続けていたので、なぜ魔法にそんな機能が備わっているのか……考えたこともなかった。

 

「正直に答えれば良い」

「すみません……分からないです」

「私も…なのはと同意見です」

 

 なので、正直に答えが見つからないことを、二人は答えるしかなかった。

 

「非殺傷設定とはな、たとえ相手が殺す意思を持っていたとしても、殺さずに次元犯罪者を確保し戦い抜く、魔導師たちの覚悟の顕れだ」

 

 時空管理局は階級などを見ると軍隊のようにも見えるが、やはり警察としての一面が強い治安組織だ。

 たとえどれだけ非道で冷血漢な輩でも、犯罪者は生かして捕まえるのが役目。

 ならば、一定量を人体にぶつけると外傷を与えることなく気絶させる魔力の性質を生かした非殺傷設定は、確かに被疑者確保に有効だ。

 だが、局員と相対する存在が全て魔法を使ってくるとは限らない。

 殺意剥き出しにし、手加減抜きで殺そうと掛かろうとする罪人が大半であるし、そもそも人間的な慈悲も情けもないロストロギアたちだっている。

 非殺傷で殺さずに戦うことは、実は想像以上に困難なことで、ゲンの言うとおり、先人たちが自らに課した覚悟の顕れなのである。

 しかしだ…現在ではその先人たちの戒めを知る魔導師たちは希少で、特に若輩者たちは悪く言ってしまえば、傷つかず傷つけずに戦える安全装置としか思っていない。

 勇夜に〝魔導殺し〟なんて異名が付けられてしまったのは、少なからずそんな〝怠慢〟が存在するのも原因の一つであり、苦い事実でもあった。

 

「いくら使う武器に安全性を求めても、実戦というのは一皮抜けば殺し合い、それは私(ウルトラマン)たちの戦いも同様であり、過酷なものだ、君たちにそのような〝覚悟を決めろ〟などとは言わん、しかし、敵を〝殺さぬ〟戦いは、それ以上にもっと過酷なものだ、まずそのことを肝に銘じてほしい」

 

 本音を言ってしまえば、ゲンは二人が戦うとうこと自体、よしとはしていなかった。

 いくら才能があろうが、彼女たちはまだまだ幼い身、ゲンが地球防衛をしていた頃、彼と親しかった少年、梅田カオルとほぼ同い年だ。

 戦いがどれだけ己を心身ともも追い詰めるか……故郷のL77星を滅ぼし、師のセブンを一時再起不能にさせたマグマ星人の尖兵たち、ブラックギラスとレッドギラスの起こした津波で黒潮島が沈没し島民のほとんどが犠牲に、ツルク星人によってカオル少年の父は惨殺、ツルクに並ぶ通り魔、カーリー星人によって同僚の白戸隊員の恋人を含んだ女性が殺され、そして円盤生物シルバーブルーメによって…………これらの経験から、戦うことで受ける痛みを、その身に染みらせているゲンから見れば、幼き二人を魔導師として戦わせることは、カオル少年をMAC隊員にさせることと等しい。

 できれば、ここは敢えて身を引き、書の確保は弟子たちに任せてもらい、普通の女の子としての日常を送らせてあげたかった。

 良かれ悪かれ、まだまだそんな幼き子たちすら人員として頼らなければならない管理世界の住人であるリンディたちでさえ、最近は大人が解決すべきことを子に押しつけてしまう世界の現状に憂い、抵抗感を抱かせている。

 けれど、二人はその年齢にも拘わらず、実年齢よりも聡く、ませている上に責任感が強く。そして勇夜と光から、どちらも内罰的な女の子であるとゲンは聞いていた。

 同年の子らよりも精神(こころ)の齢を重ねてしまったこの子たちは、きっと彼女たちにとって大事な人たちに何もしてやれない自分を責め続けて、追い詰めてしまうだろう。

 心を大人にさせた分、この子たちは他の同世代の子たちよりも脆く、危うさを抱えている者たちなのだ。

 ならば、せめて今の内にゼロたちの戦いがどれほどまでに過酷で、覚悟を以て臨まなければならないかを、教え説いておかなければならない。

 できることが限られる

 

「君たちには、鍛錬とともに戦うことの重みを体験させてもらう、子どもだからという甘えは絶対に許さん、それを肝に銘じられるのなら、強化された君たちの愛機(パートナー)を扱えるようになるまでに鍛えてあげよう、分かったか?」

「「はい!」」

 

 ゲンにあしらわれてしまった当初は、呆然とするあまり立つこともできなかった彼女たちだが、ゲンが前述の言葉を言う頃には、背筋を伸ばし立て、力よく答えられるまでになっていた。

 さっき自分の言ったことを少し訂正せねばならないな、とゲンは心中呟いた。

 この子らは確かに脆さと紙一重ではあるが、この程度で立ち止まるほど、柔な身ではないということだ。

 それにだ。

 この二人の眼を見ていると、ふと……荒削りで、無鉄砲で、若気のオーラが溢れていた昔の自分と弟子のことを思い出す。

 まあ……これぐらい血気、活力、バイタリティが無いと、こちらもはり合いが無いし、あった方が教え甲斐も高まるというものだ。

 内心微笑みたくなる気持ちを、顔に出さぬよう努めながら、気を引き締めるゲンなのであった。

 

 

 

 

 

 

 外界より時間が延長され、魔力量と魔法行使に伴う魔力放出量を制限させることで魔道師としての質を弱体化させる結界内での、ゲンの指導による修行は、ゼロと違いなのはたちが成長期真っ只中のの少女であることを考慮しつつも、初日の発言の通り、甘えを許さない厳しいものだった。

 

 訓練項目は、やはり師弟と呼ぶべきか、弟子がアルフを指南した時とほぼ同じメニューである。

 勇夜がアルフを鍛える際、参考にしたので当然と言えば当然だ。

 

 最初に、準備体操の後、腹筋や腕立て伏せなどのトレーニング。

 

 次に集中力を高める黙然、無論雑念を見せれば肩を叩かれる。

 

 その次に、デバイスに魔力刃を展開して維持させたままの素ぶりと、デバイスによらぬ魔力弾のコントロールと射撃。

 

 そしてメインにゲンとの模擬戦、マンネリを避ける為に時々勇夜や光に変わってもらいながら行われる。

 実戦重視なので、三人とも殺気―――『憎しみ突き刺す意志(こころ)』を飛ばしながら二人に攻撃を仕掛けてくる。三方は戦闘キャリアを積み重ねているので殺気をコントロールするのもお手の物。

 緊張感の余り、終わる頃にはなのはフェイトともども、場の環境に合わせた体温調節機能の着いているバリアジャケットを着た身でありながら、汗だくと息切れ塗れであった。

 

「攻撃に集中する余り脇ががら空きだ、何ための並列思考だ、常に周囲に気を配れ!」

「はい!」

 

 そして三人とも、指導中は鬼教官そのもので、終始厳格たる態度でこの場にのぞんでいた。

 

「そんな攻撃では、直ぐに魔力切れを起こします、AAAでも有限は有限です」

「う…じゃなかった、はいです!」

「はいで結構」

「は、はい!」

 

 さすがに光もこの場では、ブラコンを封印させていた。

 

「何て言うか……勇夜さんがあれだけ強いの、何となくだけど分かった気がする」

「だろ? あたしもあれだけ扱きに扱かれたな」

 

 見学に来たユーノとアルフも、厳しさが体現された訓練の場に思わず感心させられるのであった。

 体の動きのムラと、魔力の消費を抑えさせることで、柔軟に戦闘行為を進められるようにするのが狙いである。

 結界で弱体化されているので、下手に無駄遣いすれば、あっという間にウルトラマンで言うところのカラータイマーが鳴り響くまでに消耗してしまう。

 最初の数日はそんなガス欠による疲労で自滅が幾度も起き、ゲンの怒声が飛んだ。

 さらにこの結界には仕掛けがあって、ゲンの意志によって魔力のリミットを弱められる機能が備わっている。

 そうすれば、なのはたちの体内の魔力の出力が急激に上がり、擬似的にカートリッジを使用した状況を再現できる仕組み。

 何の前触れも前置きも無く平常運転から急加速される恰好となるので、いきなり膨張された魔力を前に、なのはの場合は砲撃の反動で姿勢を崩し飛ばされ、フェイトは魔力刃の質量でデバイスが持てなくなる事態を起こしたりした。

 ゲンとしては、かつての自分やゼロのように、肉体を優先的に鍛えたいところだが、短期間で成果を出すことと、成長過程の幼い体を視野に入れなければならないので、これらの方法をとった。

 初日は、あのような様を見せてしまった二人だが、向上心はとてつもなく高かったので、ゲンの鬼教導中は少しも泣き言を口にしなかった。

 ただ…一方でこんなやり取りもあった。

 

 勇夜が稽古に加わる日の、彼とフェイトによる、日本刀(れいが)と槍(ミッドデバイス)での模擬戦での最中。

 

「ハァァァ!」

 

 零牙を勇夜から見て、右側下段後方に刃先を向け、踏み込んできたフェイトに向けて斬り上げて、得物(デバイス)を弾き飛ばし、刃をフェイトの喉元に突きつけた。

 日本のある剣術の剣技の一つで、『三学円之太刀・一刀両段』と呼ばれる技である。

 

「っ………」

「何ぼーと立ってんだよ」

「ふぇ?」

「『ふぇ』じゃね!飛ぶなり走るなり、距離を取って対応しろどアホが!!」

「ご、ごめんなさい!」

「じゃねえ!一応俺が敵って設定なんだ、戦闘中にグダグダ言わせるな」

「ごめん…」

 

 パコン!

 頭に何かが当たる音が響いた。

 勇夜による、フェイトの金髪が生えた頭部に向けられた冷徹極まるゲンコツの衝撃音である。

 

「今度から戦闘中にごめんとか言う度に、ゲンコツの刑だからな……」

「す…すみぃませぇん」

 

 腫れとバッテンが付いた頭を抑えながら、涙目に噛んでしまいつつフェイトは答えた。

 その仕草も可愛くて愛らしく、異性をノックアウトさせるには充分な破壊力だが―――――パコン!

 二度目のゲンコツ。

 

「フェイト…………………その顔は何だ!?その眼は何だ!?その涙は何だ!!!?」

 

 ―――フェイトが聖祥大付属小転校する前に勇夜から受けた短期集中講座でも披露された、父と師匠譲りのドス声が唸りをあげる鬼畜モードな彼の前では、フェイトの仕草がたとえ無自覚によるものでも、そんな行為は無力も同然なのであった。

 そんな勇夜の父から師、師から彼に継がれた名言と怒鳴り声と遺伝子を通じて受け継いでしまった鬼畜指導を、ひたすらに耐えるフェイトなのであった。

 しかしだ。

 これでもレオがセブンから受けた訓練と言う名の扱きに比べれば、かなり優しめなレベルである。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、以前にも端的に話したが、こういう心身を鍛え上げる特訓は、女の子にある悩みを突きつける。

 結構大人数だけあり、その日もルームシェアする異世界人たちの夕食は非常にボリューミーなものだった。

 

 

「エイミィ、おかわり」

「はい、良い食べっぷりだねフェイトちゃん」

 

 三杯目のごはんをエイミィから受け取ったフェイト。

 修行が始まった日以来、彼女も、なのも食事量が急激に増量されていた。

 

「(もうこれでごはん三杯目……)」

「(あたしと同じくらいの量)」

 

 驚く遺伝子を分けた姉、と姉妹同然の使い魔。

 

「(それだけ体力が一日で消耗されたということか)」

 

 冷静に分析する鋼鉄の武人。

 

「(師匠にとことん扱かれてんだ、これくらい大目に見てくれ)」

 

 師の厳しさとどれだけ修行が心身を消耗させるかを身を以て知っている弟子。

 

「(いやまあ、ちょっと前の飲まず食わずな生活よりはずっと良いんだけど)」

「(でも……食べた後となると、やっぱり落ち込むかも、フェイトだって年頃の女の子なのよ)」

 

 と、母は懸念する。

 日々の修練の疲労により食欲は極限にまで増進され、その端正で愛くるしい美少女と断言できる容姿に似合わなさそうな食事量と食い入りの良さに、嬉しいんだけどどこかしら、心配も沸き上がるアルフやプレシアである。

 

 

 

 

 実際、夕食後のフェイトの部屋にて。 

 

「今日だけで0,○キロ増えた……これじゃお嫁に行けない」

「しょうがないよ、筋肉は脂肪より重いんだからさ、ああなっちゃうのは仕方ないって」

「筋肉……脂肪…………いやぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁーーーーーーーー!!!! 聞きたくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーい!!!」

「フェイト、気をしっかり持って!!!」

 

 そこから数分後。

 

「勇夜! ちょっと来て!」

「どうした?」

 

 洗面上にて歯磨き中だった勇夜は、大慌てなアルフに連れて行かれ、フェイトの部屋に入ると、しくしくと泣いているフェイトの姿が―――

 

「フェイト……泣いて―――」

「泣いてなどおりません!」

 

 どう見ても瞳から涙が流れているのに、突っぱねる彼女、それだけならまだよかったのだが……

 

「いや……そう言われてもよ、どっからどう見たって」

「涙を流しておりません! フェイト・テスタロッサはその身を剣へと鍛えた戦士です!だから―――」

 

 妙に時代がかった口調になってしまったフェイトを前に、二人はぽか~んとするしかない。

 

「何か……変な電波受け取ってる気がするんだけど……アタシの気のせいかな?」

「いや……多分アルフの勘は当たってる………暫くそっとしとこ」

「うん……」

 

 修練による筋肉の密度と食事量の多さで、体の重みが増えたことで、自室のベッドの上で落ち込み、時にはパニックまで起こし、電波まで受信するフェイトと慰めるアルフの図なイベントが、ここ毎日起きていた。

 当分アルフの発した単語が禁句となる状態は、続きそうである。

 

 

 

 

 

 そして、それはなのはも同様でもあり。

 

「なのは、どうしたのですか?」

「聞かないで……光兄……」

 

 食後の歯磨きと入浴のために洗面所に寄った光が見たのは、二次元人の光直伝 (?)体育座りで頭に黒い縦線を走らせながら落ち込むなのはと、近くに置かれた体重計の組み合わせであった。

 一体彼女に何が起きたのか?

 まあそれは容易に想像が付くので、彼女たちの心境を踏まえて、敢えて明言はしないでおく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、喧騒の中では、通行人たちにすら気づかれない異常な事態が起きていた。

 小さくあどけない子狐が一匹、人の群衆の波の中を、とぼとぼと歩いていたのである。

 非日常的な現象が、今まさに起きているにも拘わらず、人々は気にするどころか、『彼女』を目にも止めないし、気づこうともしなかった。

 彼女自身も、周りのリアクションを示さない現況を気にもせず、とぼとぼと短い手足をささっと動かしながら歩き続ける。

 ある〝可能性〟を求めて―――ひたすら街の中を進み続ける。

 

 ふと、彼女は何かに目を止め、立ち止まった。

 

 

 見つけた。

 

 

 誰に言うでも無く、心の中で静かに彼女は呟く。

 彼女の目の先には、『彼』と歳が同じか近い、少年が二人、会話をしながら喧騒に混じって歩いていた。

 この現況こそ、彼女が探しに探し求めていた―――可能性。

 

つづく

 

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