ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

55 / 83
やっぱいきなり無情にお気に入り数が減ると……「ひどい!私のことは遊びだったのね!散々弄んでおいて!」な感じになっちゃうよな(苦笑

愚痴はさておき、最新話です。

STSでのシグナムの不名誉なあだ名を皮肉った回です。




STAGE17 - 烈火の煩悶

 さて、今回も前回に引き続き八神家の取りとめの無い日々の断片をお送りしましょう。

 

「ごめんさい、買い物袋全部持たせちゃって」

「どうってことねえ、これぐらいやらなきゃ男が廃るわ」

「おう~江戸っ子やね~~」

 

 片や買い物帰りのはやてとシャマル、片や学校帰りに丁度二人とが鉢合わせ食品等の商品を詰めるだけ詰めたレジ袋を計5つ抱える紅蓮。

 雑談を行き交う中、三人は家へと到着。

 廊下に上がり、キッチンと地続きとなったリビングに入ろうとドアを開け―――最初に目に入った光景を目にして、即座にしめ直した。

 

「今の…シグナムでしたよね?」

「シグっち…だったな」

「シグナム…やったね」

 

 扉に背を向けて屈み、顔を合わすお三方。

 何を見たのかというと、今彼女らが口にした通り、リビングであることをしているシグナムが〝あること〟をしていたのである。

 それは平常の彼女の立ち振る舞いからは、とても信じがたいものであったので、真実か幻覚かのどちらなのか? 真相を確かめるべく今度は手が入るか入らないかの小さな幅で扉を開け、隙間から覗く。

 

「やっぱり、シグナムやね」

「何を読んでるんでしょう? テーブルに何冊もびっしり乗せてますけど」

「なんかネットも使ってるみてえだし」

 

 シグナムが読んでいるテーブルに何冊も置かれた本は、コンビニやスーパーなどのショップでよく見る小冊子、彼女はそれに目を通しながら、平行してPC画面に目を通し、マウスを動かしている。

 

「紅蓮兄ちゃん、テーブルの本のタイトル読めるか?」

「まかせとけ、え―――えっと? タ○ン……ワーク?」

 

 その小冊子は、無料で手に入る求人誌であった。

 

「あのお仕事の募集とか載ってる冊子ですか?」

「ああ、他にもそれっぽいのが何個もある」

「ってことは……シグナムは求職中……ってことかいな?」

「そうだろうよ、てことはパソコンで見てんのは求人サイトで決まりな、ヴォルケンズのおっぱい騎士さんもようやくニ―トから卒業か」

「紅蓮君…私たちのことをスポーツチームの名前みたいに略したり、変な渾名で呼ばないでください……でも、私たちの中で一番立ち位置が不安定ではあったわよね、シグナム」

「本人も結構気にしとったみたいやな………にしても働くシグナムか…たとえば―――」

「はやて、想像させないでくれ、あいつにはスンごく失礼なことしちまうから」

「紅蓮君、それ既に失礼極まりない気がするんだけど……」

「じゃあさシャマっち、指輪の魔法使いのベルト、いや最近じゃマッハ○ライバーか……みてえにやったら~ハイテンションで騒がしい剣振り回すのと魔法以外にあいつができるのを言ってみろよ」

「え? えーと……う~~ん、うぇ~~~と……」

「シャマル、ガンバや、何百年間の付き合いやろ?」

「何…してるの?」

「「(ひゃあ!?)」」「(ひょえ!?)」 

 

 中年女性たちのご近所トークか、はたまた湾岸署の某アミーゴな三人組かのようなトークをする三人はシグナムに意識を傾倒させていたので、後ろから聞こえた声に思わず大声を出しそうになったが、どうにか驚きの叫びを心の内のみに留めさせる。

 出歯亀中の彼女らに声を掛けたのは、少女モードの久遠だ。

 

「くうちゃん…おどかさんといてな」

「そうだぜ、せっかくお目にかかれなさそうなもんを直に目にできるチャンスだってのに」

「うっかり声にでも出してリビングにいるシグナムにバレたら」

「もう…バレてる」

「「「へ?」」」

 

 はやてたちは、自分らの背後にあるなにかを差す久遠の指先を辿り、後ろを振り向くと―――すらっとしながらもほどよい肉感も備えたこげ茶色のパンストを纏った脚。

 視線を上へ上へと登らせていくと。

 

「紅蓮はともかく……シャマルに……主はやて、あなたまで」

「シ……シグナム、これわな」

 

 いつの間にやら、シグナムがドアの直ぐ近くに立って三人を見下ろしていた。

 

「物珍しい光景だったでしょうし、笑いの種にもなるのも致し方ないことであるのも〝納得〟はできます」

「いや、そこまでは…」

「ですが、見世物ではないのですよ……私にとっては重要な問題であるのです」

 

 そして、ぐいーーと拳を握りしめ、わなわな体を振るわせ、その顔は火照りと涙目に覆われ、ぐぬぬと唇を噛みしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴォルケンリッターのリーダー、烈火の将ことシグナムは、八神家での生活を初めてから幾分か日々を過ぎて行くうちに、ある悩みに直面していた。

 八神家における、自身のあやふやで不安定で半端な立ち位置。

 実質無職で、確たるポジションに身を置けない現況。

 

「つまりさ、シグナムはニートになりかけてる自分が嫌なんだろ?」

「うぐっ…」

「ヴィータちゃん、せめてもう少し遠回しに言ってあげて」

 

 ヴィータのストレートな物言いによる精神的な圧迫に胸を抑えるシグナム。

 前述のヴィータの言葉には、彼女の苦悩を解りやすく端的に、辛辣に表現されていた。

 時と場所は進んで、食後の時間帯のリビングでは、八神家宅に暮らす者たち全員が集まって、一種の家族会議的なものを行っている最中。

 お題はシグナムの今と将来への不安だった。

 先程も申したが、彼女は八神家では一番半端な立場だ。

 はやては下半身不随で学校を休学中だが料理担当。

 紅蓮も戸籍上はまだ学生で働けないが、料理以外の家事を担い。

 シャマルも家事にやりつつ、ご近所づきあいのポジジョンに付いている。

 見た目年齢なら最年少で、紅蓮と同じく法律上働きたくとも働けないヴィータも、はやての数少ない遊び相手で、かつここから少し先の未来では、あるスポーツを通じて近所のご高齢の方々のアイドルとなっている。

 

「定職に就いていないのは、私も同様だが?」

「私も世間一般では本来、動物扱いされる身だし」

「助勢の言葉はありがたいが……お前たち二人にも、主はやての介助という重要な任を持っているではないか」

「「…………」」

 

 久遠とザフィーラのフォローも、余り効果を出せずじまいに終わる。

 この獣組の二人でさえ、実ははやての介助役という仕事を持ち合せていた。

 健常者は普段何気なく歩いている道でさえ、車椅子な方には進行を大いに阻害させるバリアが幾つも存在している。

 それに以前、はやては横断歩道を渡る際に転び、危うくトラックに轢かれそうになったことがあり、以来外出は石田先生の進言もあってほぼ必ず同伴者を付けるようになった。

 主にその同伴を担うのが狼形態のザフィーラと狐形態の久遠。

 久遠は人間体と同様、本来の姿な狐でも体格を変えられるので、成体時まで身を大きくし、幻覚の術で周囲には『犬』だと錯覚させ、ザフィーラはというと大型犬を上回る体を一回り小さくさせて目立ち過ぎぬようにさせたりと、事前対処も万全。

 アシスタントドックとも呼称される身体障害者補助犬のように訓練は受けていないが、それでも訓練を受けたプロの補助犬たち顔負けのサポーターな獣組のお二人だ。

 となると、一番割を食らうのは、シグナムであった。

 家内の家事にしろ、野外のはやての付き添いにしろ、ほとんど他の面々で賄ってしまう。

 彼女はこの自分の立ち位置に危機感を抱いた。このままではテレビ番組のニュースでも度々アナウンサーの口から出てくるニートも同然だ。

 時間と金銭を消費するだけの金食い虫になるのは、絶対に避けたい。将はその焦りから、日々仕事関連の求人情報の載った雑誌を何冊も読み、職を探しつつ、ネットで面接のコツなどを閲覧していたのである。

 

「ほんなら、こうしてみんなに打ち明けて相談すればよかったのに」

「黙秘していたことは申し訳ありません、ですが……」

 

 ただこんな姿を見られるのは、どうも本人には気恥ずかしかったので、主に家に自分一人しかいない時に行っていた。心情は分からなくもないが、隠してるエ○チな本をこっそり読む男子学生かあなたは。

 守護騎士のリーダーがこうして無職な己に嘆いている一方。

 

「ふ~~ん、シグナムがね~~」

「もし仕事とかしたら、どうなんだ?」

 

 似た者同士のオレンジヘアぶっきらぼうコンビは、ふと複数のシチュエーションで『働くシグナム』を同時に想像していた。

 そして―――

 

「「gyahahhahahahahahahahahahahahaha―――――――!!!」

「紅蓮君!? ヴィータちゃん!?」

「いきなりどうした!?」

 

 脳内に映像を作り上げた瞬間、自分で想像しておいて二人は不謹慎にもその場で思いっきり爆笑。

 かなり笑いを誘発する効果があったようで、しょっぱなからお腹を押さえこみ、紅蓮はうつ伏せで、ヴィータは仰向けで笑い転がっている。

 二人が脳内でシグナムにさせた職業は色々だが、しいて上げるとすれば。

 無難なとこでデスクワークをするOL。

 石田先生のような医師、またはナース。

 教師。

 工事現場。

 キャビンアテンダント。

 観光ガイド。

 弁護士、検事。

 ウェイトレス。

 競走馬の調教師。

 カメラマン。

 ライター。

 これ以上書き連ねないくらいその他色々。

 もうこの数秒で、オレンジコンビは相当数のありとあらゆる職を八重桜の騎士にやらせていた。

 

「似合わねえ!www超絶的に似合わねえ!!wwwシグナムがせっせと働くのが滅茶苦茶似合わねえ!!!」

「なんでだ?wwwwあいつが真面目に労働してるとこを想像すりゃするほどwww違和感しか浮かばねえぇぇぇぇぇーーー!!!wwwwww やべぇ…腹が…ねじ切れちまうwww」

 

 完全にネットスラングで『(笑)』を意味するアルファベット小文字のw(くさ)を並べた草むらを語尾に付け、笑い茸でも口に入れた様子で爆笑し続ける二人。

 とうとう目じりには涙まで溢れ、流れだしそうになりつつある。

 

「ahahahaha―――ihihihi―――nnnnnnn――――!!!」

「ここはこらえてくれ……シグナムはヴォルケンリッターを統率せし者だぞ、ここはリーダー威厳の見せどころだ」

「そ、そうだ……久遠の言うとおりだ、ここは耐え時……耐えなければ……耐えなければ………ぶつぶつ」

 

 久遠はこのリビング内に存在するとある爆弾の起爆を阻止すべく、はやてたちに出歯亀された数時間前とは違う理由、というか感情で体を小刻みに揺らすシグナムを宥める。

 同居人なこの妖弧の言う通り、仮にも自分はリーダーの立場に居た者。

 最も私情に流されてはならない立つ瀬だ。

 激情の溶岩を噴火させて、味方を危機に陥らせては元も子もない。

 戦いの場から身を引いてはいるが、『常在戦場』という言葉が昔のこの国から出るくらいなのだから、戦場での戒めは平時でも継続させねば。

〝戦いの場所は、心の中〟―――とは言ったもので……笑いの種にされた本人も、一線を越えまいと、必死に自身の情と格闘し、『耐えなければ』の連呼を、念仏を発する要領で何度も唱えていた。

 

「もう二人とも笑い過ぎや、このままシグナムがほんまにニートになって家で一日中ぐ~たらするよりはずっーーと立派やで」

「そ…そだな、『ニート』になっちまうよりはわな~~なあ?ヴィータ」

「ああ、家ん中で『働きたくねえ』とソファーでゴロゴロされちまうよりわな~~」

 

 笑いの気が引いて来たオレンジコンビに諌めの言葉を掛けるはやて。

 しかし、結果的にだが………言い方、表現が不味かった。

 はやての諫言は、ある意味で事態に油を注ぐ、仇と化す。

 なぜならば――

 

「「guhahahahahahahaha――――――wwwww!!!」」

 

 先よりも倍増された声量で再び二人が笑いだしたからだ。

 息まで乱れ始めているにも拘わらず、彼らの笑いの濁流が一向に収まる気配がない。

 何が笑いのツボとなり、理性の堤防を決壊させたのかというと。

 

「やべえwwwごろ寝してるシグナムがとんでもなく似合うんですけどwww」

「今日はやけに気が合うよな紅蓮wwwそれでさ、いつまでも真昼間に寝てんじゃねーよとか言われると、『働きたくないでござる』とか言ってごねるとかさwwww」

「そっちもそっちでお似合いだなおいwww」

「だよな、なのにちゃっかりご飯だけはどっかの腹ペコ騎士王さんみてえにガツガツ食べんだぜahahahahahaha―――――wwwwww」

 

 この会話の流れから察するに、『ニートなシグナム』が偉く爆笑を誘う光景であったようだ。

 しかも無駄に滑舌が良く、一言一句はっきりと聞き取れる。

 まるで聞いてくれと言わんばかり………よくあれだけ笑って、噛まずにものを言えると、呆れるやら感心するやら。

 ネタにされてる当人が目の前にいるのも構わず、未だに紅蓮とヴィータの高笑いの奔流が途切れず続く。

 そうしてこうなれば、次に起きるアクシデントと言えば。

 〝ブチッ〟

 

「「「あ……」」」

 

 はやてと久遠とシャマルとザフィーラの額に冷や汗が滴る。

 文字を付ければ前述の感じに書ける筈な、鳴ってはいけない擬音がこの場に響いた気がした。

 そう、ある人物の体内に潜む、とある爆弾が点火したという、報せ。

 そうして、かの着火音が鳴った直後。

 

「き゛ぃぃぃぃぃさ゛ぁぁぁぁぁぁま゛ぁぁぁぁぁぁら゛ぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 起動されたレヴァンティンが持ち主の右手に現れ、紅蓮と声がそっくりな声優さんの演技を彷彿とさせるシャウトを撒き散らしながら、シグナムの怒りの熱情はついに大爆発を起こした。

 この前の紅蓮とヴィータの間で起きたコント同様、『仁義なき戦いのテーマ』が流れんばかりの勢い。

 

「シグナムッ!」

 

 咄嗟に転生直後の時と同じ服装な人間形態に姿を変えたザフィーラが背後からシグナムの両腕を羽交い絞め。

 

「クラールヴィント!」

 

 シャマルは両腕を翳し、それぞれの手の人差し指と薬指に嵌められている菱形の緑がかった光沢が特徴な指輪、彼女のデバイス――《クラールヴィント》を使い、掌に現れたべルカ式の魔法陣から生糸ほどの光のロープを幾つも形勢、怒れる烈火の将の右手に握られたレヴァンティンごと四肢を拘束した。

 さらに闇の書本体……正確には本体を操る『管制人格』も、彼女の腹部を抑え、暴走を止めようとしていた。

 

「こちらが深刻に悩んで必死に耐えしのんでいるのをしり目に好き勝手コケにしおって! そんなにおかしいか!? 面白おかしいのか!? 滑稽なのか!? 私が働くのは其れほどまでに異常だと言うのか!? 貴様らの血は一体―――何色ダァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!」

 

 この時完全に、平常のクールな女剣士としてのシグナムは消え失せ、麗しくキリッと引き締められた美貌は、燃え上がる憤怒の皺に覆われて見る影もなかった。

 

「(兄ちゃんもヴィータも、もういい加減にこらえんと…)」

 

 はやてもシャマルから習った思念通話こと魔法によるテレパシーで事態の悪化させぬべく提言する。

 

「(しまった…これは流石に行き過ぎちまったよな…)」

「(シグナムの雷まで落とす気じゃなかっただけど……)」

「(言っておくけど、落ちてくるのはシグナムの方や無いで)」

「「(ああ?)」」

 

 疑問を浮かべた間もなく、オレンジコンビの顔が何かに鷲掴まれる。

 はやての事前の忠告は虚しく終わった。

 度重なる笑いによる腹部の痛みが、一気に吹き飛ぶまでの握力をもろに頭部に味あわされる二人。

 

「前にも言った筈だが、一応おさらいとして確認しておこうか…」

 

 零下までに至る冷気がはっきりと知覚できてしまう……透き通った……大人形態の久遠の声。

 そう、紅蓮たちの顔を捕縛したのは、シグナムとは違うベクトルで怒れている彼女の手。

 すらりとしたその細く伸びた腕とは不釣り合いな圧力だ。

 さらに彼女そのものから溢れるもう一つの精神的圧力も、悪寒を誘発させる恐怖を見る者に植え付ける様相を醸す。

 

「私がこの家に住むようになったのは、度を弁えぬ餓鬼なそなたらの抑止として、調停官として、そして執行者として、場合によっては厳正なる処罰を敢行する為……であったことは覚えているな?」

 

 コクコクと黙して頷くしかない彼女の怒りの矛先たち。

 口を封じられているからではない。

 たとえ口が聞けたとしても、一言も声を出せぬだろう。

 忘れがちだが、久遠は人並みを知性と自我を持つとはいえ、あくまでそれは突然変異で身に着けたモノ、その本質は狐であり、種族の特性上、性格は臆病と言えど肉食獣。

 今の彼女は、言うなれば獣としての己を意識的に呼び覚まさせている状態。

 証拠として、今の彼女の瞳は黄色く発光し、瞳孔も黒い円形から細長いスリット状に変化していた。

 そして彼女の体から、雷の光がスパークを起こす。

 彼女の言う『厳正なる処罰』を知らせる閃光。

 

「これが―――そなたらの因果の痛みだ!」

 

 久遠の最後通牒――アルティメイタムが告げられると同時に、断罪の雷光がリビングに煌めくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十秒の後、久遠はたった今執行させた対象から手を離す。

 体に流れた電流で、全身黒焦げの炭と化した紅蓮とヴィータは力無くその場に転倒。

 

「「ごめんなさい……もう致しません……反省しております―――」」

 

 どうやら意識がはっきりと保たれたまま、雷撃の熱と痛みに始終晒されたようで、二人の口から細々と贖罪意識を示す言霊の羅列が口から漏れ出していた。

 それだけ彼らがタフと言うこともあるし、久遠もそれに配慮しての罰の執行だったのだが、受けた本人たちには、むしろ稲妻に耐えられてしまうこの身を恨みたくなる心境でもあるだろう。

 

「さて、将殿も落ち着かれたか?」

「ああ、あやつらの無様な姿を見て、頭の血の気は引けた……すまない」

 

 シグナムも、この時にはいつもの凛と落ち着いた物腰に戻っていた。

 

「色々バタバタして申すのが遅れてしまったが、実はシグナムに打って付けの吉報がある」

「何…本当か?」

「とりあえず、私に付いて来てくれ、それとシャマル、床で寝そべってるものらの後始末は頼むぞ」

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり夜な外に出て、久遠に案内される形で夜道を歩くシグナム。

 そうして一分もかからぬ時間で着いたのは、主に町の行事や会合の旨を提示する町内の掲示板であり、そこにはある求人の募集の貼り紙が張られていた。

 

「剣道教室の……講師募集」

 

 内容は今シグナムが口にした通り。

 この町内には小中学生を対象とした剣道教室があり、たった今その剣の学び舎に通う子どもたちを指導する先生を募集中だった。

 

「シグナムの剣は、この国の剣術とそれ程相違はないのであろう? それに求人を掛けてるのはここだけではないぞ」

 

 久遠が指差したのは、早朝この地域の新聞配達のアルバイトを募集中と言う広告。

 

「一応そなたにぴったりな職だと思ったのだが…いか――」

 

 『如何か?』と言い終える直前、数秒前まで掲示板に視線を張りつかせていたシグナムから両手を握られた。

 

「上々だ、心から感謝するぞ久遠、よくぞ見つけ出してくれた」

 

 瞳を潤わせ、心底嬉しそうな面持ちで謝恩の想いを述べる烈火の騎士。

 確かに、久遠が紹介した仕事は彼女にぴったりだ。

 早朝の配達は運動代わりになるし、講師の仕事も長い年月に渡り磨き上げられた彼女の剣のスキルを生かすには持って来い。

 まさに天職の類。

 

「そうか……そこまで喜んでくれるのなら、私としても喜ばしい…」

 

 けれど、まさかここまで感激の意を表明されるとは思わなかったので、久遠はシグナムの押しに若干たじろぎ気味だ。

 何が烈火の騎士の容貌をここまで感涙の色に染め上げるのだろうか?

 

「実はここだけの話……毎日家内で無為に時間を過ごす度、妙な幻聴が聞こえてきたのだ……『ニート侍』だとか、『烈火ではなく劣化の将』だとか、それこそ心無い揶揄の数々……私はそれは不快で心苦しくて仕方なかった………これでやっと解放される」

 

 先程の憤怒や今の歓喜は、本人の証言から察するにその幻聴によるストレスが爆発したものと言ってもいい。

 否……久遠からの見解では、この一連の吐露はストレスによるものだけではなかった。

 彼女ら守護騎士、何百年も心を押し殺して殺し合いの海で戦い続けなければならなかった境遇を持つ身。

 まっとうな日常生活は、はやての代になるまで体験することはなかった。

 それゆえ、彼らは殺し合いの術には長けているものの、人間的な感情、情緒などといったものは芽生えたばかりの発達途上で、ある意味では―――騎士たちはまだ幼子同然なのだ。

 だからこそ、平穏な環境下での情操のコントロールは、まだ不慣れな時もあったりする。

 その上さらに補足すると、幻聴の原因はシグナム当人は無職な身の上への焦燥から無意識に自分に掛けていた精神的重圧であると本人は解釈していたが、久遠は漠然とながら、彼女を苛んでいた幻の言辞は、外部的な要因が関わっている気がしてならなかった。

 これはある意味、久遠の憶測通りとも言える。

 

 

 

 

 なぜならその幻聴は、〝次元の壁の先のとある人々から発されていた〟ものなのだから――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一応追記として、あの後はやてに静かながらも諭されたオレンジコンビは、誠心誠意を以て、深々とシグナムに頭を下げたのだとさ。

 

つづく

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。