ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
今回も八神家の日常の一片をお送りしよう。
今日は、ヴィータが見つけたとある趣味、スポーツの話が主軸だ。
シグナムが剣道教室の講師と新聞配達の仕事に無事就いて数日の刻が過ぎ、彼女と例のスポーツの出会いがあったその日、ヴィータははやてと久遠と一緒に外出し、図書館に来ていた。
同行ははやての補助と、彼女の趣味である読書と、本の貸し借りなのだが、ヴィータ自身、日本語文字の勉強の一環という理由があったから。
日本語による会話なれば、覚醒する以前の眠りに着いていた頃、睡眠学習の要領で身に着けている。
一方で文字となれば、能動的に覚えるしかなく、ヴィータの場合は書店で発売されてる学習ドリルをやりつつ、読書を通じてどれくらい字を覚えたかの腕試しを繰り返していた。
「(ヴィータ、今日は何の本読んでんの?)」
館内のテーブルで、自身が好んでいるファンタジー系の分厚い小説を読んでいたはやては、ふとその横で読みふけるヴィータに思念通話、いわゆる念話で何の本を読み進めているのか尋ねる。
「(これだよ)」
ヴィータは一度本を閉じるとはやてに表紙を見せた。
「(み、みんきょう…しろう?)」
「(『ね○りきょうしろう』だよ、はやて)」
文庫本の形態なその本の表紙は、漆黒色合いな着流しの着物を纏い、この時代ではあり得ない筈の髪色が茶髪な丁髷頭の侍らしき男の絵が描かれたものだ。
「(どんな話なん?)」
「(転びバテレンの親父さんと日本人のおっかさんの間に生まれた剣士の活躍を描いた時代劇……大雑把に言うならこんな感じかな)」
八神家では衛星放送が鑑賞できる環境が整っているので、テレビの番組を見る視聴時間の割合は地上波よりも遥かに長い。
中には年中時代劇のテレビドラマに映画が放送されているチャンネルもある。
この恵まれた視聴環境下で、ヴィータに限らず、ヴォルケンリッターの面々の大方は、時代劇が彼らの中でブームとなっていた。
同じもののふ同士な侍が登場する時代のドラマに、どこか惹かれる何かがあったのかもしれない。
当然ながら、シグナムは暇がある時はしょっちゅう姿勢正しく正座でテレビ画面を凝視。
『この紋処が目に入らぬか!』
「私も彼のような名君に仕えてみたかった……」
さらに意外かもしれないが、ザフィーラも狼形態の姿でじーと番組を眺めることが多々あった。
ちなみに彼が一番欠かさず見ていたのは―――
『貴様が邪な我欲で積み重ねてきた悪逆非道の数々、断じて許すわけにはいかない』
『一体、何奴!?』
『世の顔を見忘れたか?』
『う、上様!?』
実在したとある人物が主人公の――
『成敗!』
――某暴○ん坊な将軍様が悪を成敗する勧善懲悪ものだったりする。
「主、視聴中ですのでチャンネルを変えるなら一言申し上げて下さい」
「え? ザフィーラ今の見てたんか?」
「はい」
「面白いん?」
「はい」
いつもの寡黙さを維持したまま見ているので、今のようなやり取りが何度も起きていた。
表情も微動だにしないので、直に本人に聞かないと習慣にしていることさえ気づかれず。
たとえ前述のはやてのように尋ねても、『はい』とか『うむ』とポーカーフェイスの一言で彼は返答していた。
その内、ザフィーラがいつも以上に黙然となってテレビに視線を送っている時は、その番組が終わるまで待つという暗黙の了解が自然とできた。
ヴィータはと言えば、少々経緯は異なり、日本語の勉強には一番適した教材だと踏んでこの手のジャンルに手を出してみたことで今日に至っている。
この流れで今日はかのシリーズを手に取り、読み耽けていた。生まれながらに宿命―さだめを背負い、虚無的な生を送るしかなかったかつての自分らの過去と、主人公の出生と境遇に一種のシンパシーを感じたからである。
「(また渋いの読んでるね)」
「(いや、じいさんばあさん以外が読んでも面白れえよ、それに最近G○CKTが舞台で演じてたし)」
「(ほ、ほんま…)」
日本人離れした容姿なかのアーティストが時代劇、はやては意外と思ったが、ヴィータから聞いた例の小説の主人公の設定を聞くと、ぴったりかもしれないとまでに心境が変化した。
けれども、はやてにはよりピタリと嵌りそうな人物に心当たりがあった。
ヴィータたちが目覚める前の時期、トラックに轢かれそうになった自分を間一髪助けてくれた。
不良ぶった物腰は兄と似ていながらも、他の追随を許さない黒く長く束ねた髪に彩られた美を持ちし―――〝あの人〟
無意識の内に、黒の着流しを着こみ、刀身に残像が掛かりながら、剣先で円を描く必殺の円月殺法で相手を挑発する彼の姿を浮かべる。
彼の声で台詞も流れた。
〝俺の顔を照らすこの月光が、お前のこの世の見納めだぞ〟
あ、あかん……長髪姿が似合ってシグナムに負けじと凛々しい美人と言えるくらい綺麗な顔をしていたせいか、偉く様になる。
キザったらしい口調も、彼の場合しっくり嵌らせてしまっていた。
そして自分で想像しといて……気が付けば脳内イメージの彼に見惚れてしまっているはやてな有様だった。
まだ一度しか会ったことがないのだが、その一度の出会いで、はやては漠然とながらも、彼から紅蓮と同じ、自由を愛するアウトローっぽい雰囲気を彼から感じ取り、そのイメージがその剣豪と重なったのかもしれない。
でもそれなら、もっとぴったりくる浪人がいたな、とこの間映画チャンネルで見た白黒映画を思い出す。
海外の方が遥かに有名らしい名優演ずる凄腕浪人が主人公の映画だったのだが、彼と演じる俳優のルックスは正反対だと言うのに………その〝気質〟と言うものが瓜二つだったのだ。
〝おもしれえ、やる気か? だが気をつけな、俺は今寝入りばな起こされて機嫌が悪いんだ!〟
〝おい、お前らも大人しく鞘に入ってろよ〟
うん、彼で劇中の場面を脳内で再現したら、やっぱりとても様になっていた。
ちなみに自分の義兄(あに)が時代劇に出るとすれば―――岡っ引きか町火消しの親分が妥当かな。
〝おいおい、そりゃねえぜ!〟
何となく、不服な様子である江戸っ子風体の紅蓮の姿も脳内に再生される。
そう言われても、それが一番しっくりくるのも確か……と言い様がない。
些かレールを本道から脇道に流れてしまったが、ここからが本筋。
数刻館内での読書と、何冊か本を借り、自宅へと帰る最中のはやてとヴィータと久遠。
八神家宅がある中丘町の住宅街に入り、町内の公園の一つを横切ろうとしていたところ、ヴィータは公園内のとある光景が目に入り立ち止まった。
「ヴィータ……どうしたの?」
彼女より前の位置で歩いていた久遠とはやては数歩ほど跨いだ後にそれに気付き、久遠は子ども形態特有のたどたどしい口調で何事かと問いかけた。
「あれ…」
ヴィータの指が指し示す方向の先には、あるスポーツを嗜んでいる御高齢の方々がいた。
両手持ち型の金づちの柄を長くさせたような形状のスティックで、野球の球ほどの大きさなボールを打ち、カタカナのコを15度右回転させ地面に突き刺せたとも見えなくもない銀の金具のゲートに通していた。
「あ、ゲートボールやね」
「どんなスポーツなんだ? そのゲートなんとか」
ヴィータの質問に、はやては黒目を泳がせ、こめかみに雫を流した。
アイコンタクトで久遠にも助け舟を求めるが。
「ごめん、私も…よく知らない」
と、正直に『ゲートボール』の詳細を知らないことを白状した。
「なら良いよ、帰ったら自分で調べるから」
分からないなら解らないって正直に言えばいいのに、と思いながら答えるヴィータなのであった。
ヴィータはその日から、主にインターネットを通じて、ゲートボールという競技について調べた。
ゲートボール――1947年の終戦間も無い時期に生まれたスポーツ。
物資不足で遊び道具に恵まれなかった当時の子どもたちの為に考案されたが、高度経済成長期に高齢者の間でブームとなり、最近は〝老人たち向けのスポーツ〟扱いされることが多いと言う。
競技概要を簡単に述べると、制限時間内に3つのコの字型のゲートにスティックでボールを打って通して得点を稼ぐというもの。
外見だけならヴォルケンリッター最年少の少女は、調べれば調べるほど、このスポーツを実際にやってみたいという心情に駆られていった。
当初彼女は、その欲求を沸かせる自分自身に戸惑った。
なんで、こんなにもこの球技に焦がれるのだろう?
他の球を使った競技に比べれば、確かに地味目ではあるし、一見して印象付けられる彼女の性分にはむしろ野球やゴルフといった思いっきりボールを飛ばせる球技の方が様になっている気もする。
でも、自問自答している内に、気が付いた。
ゲートボールへの興味を抱く理由――使うスティックが自身の愛機なハンマー型べルカ式デバイス――グラーフアイゼンにそっくりだ。
ボールも、彼女がアイゼンで打って飛ばす魔力で作り上げる鉄球とほぼ同じ大きさ。
「何を見ている?」
「あ、ザフィーラ」
「例のゲートボールか」
「うん、近所の老人会でチーム組んでるじいさんばあさんがよく公園でやってんだけど、あたしも入っていいかな……ほら、見てくれはガキだから、気を遣わせそうだし…」
「ご老体殿たちはその程度のことで気はしないだろう、それに趣味を持てるようになることは良い傾向だと私は考えている」
彼の言うことも尤もだ。
戦いしか知らなかった自分に、戦い以外の楽しめる嗜みとなりそうなを見つけられたのは、確かに良い兆候。
だったら、足踏みに時間なんか掛けず一気に踏み込んでみなければ。
「そっか……そうだよな、じゃあ明日思い切ってアタックしてみるよ」
翌日。
「あの…」
「ん、お譲ちゃん、どうしたのかい?」
前言通り、町内の公園でゲートボールを通じて形成された輪の中へ、ヴィータは入りこもうとしていた。
「あたし、この街に住んでいる八神ヴィータです……その、あたしにゲートボールを教えてくれませんか?」
この瞬間ばかりは、彼女のいつもの勝気さで溢れる態度は緊張で影に潜んでいた。
実のところ、覚醒以来はやてたちら同じ屋根に住む者以外の人とコミュニケーションをとるのは、海鳴大学病院の石田先生を除き、初めてのこと。
さすがに彼女も、〝はじめて〟の体験には心身が張りつめさせられる。
「構わないよ、むしろ君のような子が興味を持ってくれてうれしいよ」
「ところで経験はあるの? 八神ちゃん」
「ヴィータでいいです、それとやるのは今日が初めてですけど、ルールは覚えてきました」
「そうかそうか、じゃあまず一発打ってみるか?」
「うん!」
普段な粗暴さに彩られている吊り目が印象的な彼女の顔から、子ども特有の純真で眩い笑顔が零れるのであった。
実際やってみると、ゲートボールは世間の印象よりもずっとシビアで奥深いスポーツだとヴィータは感じていた。
「あちゃ、またゲートに当てちゃった……」
「スタート地点からやり直しだな」
ただボールをゲートに通して、杭に似たゴールボールに当てれば良い訳ではない。
まず一番目のゲートをくぐれないと、スタートからやり直しになるし、もしボールがフィールドのコースから外れることになっても同様(二番目以降のゲートではコースから外れても問題無い)。
かと言ってゴールに当てればいいわけではなく、一度当ててしまうとそのプレイヤーは試合に出られなくなってしまう。
上手いこと相手チームのボールを当てて進行を妨害したり、早急に『あがり』にならないよう、慎重な判断が求められる。
これらの特色が彼女の気質に合ったようだ。
勝気で負けず嫌いな性格と、好戦的そうな見た目に反し、実は不必要な戦闘はしない主義だったりと、このような控えめな一面も彼女にはある。
それに、この球技を通じて、『楽しい』心地を味わえるのは、何よりの喜びだった。
彼女のこの心情も有り、ゲートボールを嗜むヴィータは特に明るい表情を表すことが多かったので、一躍彼女はこの町のゲートボールチームのアイドルとなっていくのであった。
それはいいが、ツッコミどころが一つある。
「今日もゲートボールなのか?」
「ああ、またばばくさいスポーツとか言うなよ」
「もうそう言う気にはなれねえっての、それより前から気になってんだけどよ、なんでそのデバイスってやつをスティックに使ってんだ?」
「アイゼンが一番手に馴染んだからなんだけど、こいつだって意志があんだし、あたしにとって戦友の一人だ……戦わないと誓った代わりに、こうして戦い以外のことで使ってやろうと思ってさ」
本来武器であるはずのヴィータのデバイス、グラーフアイゼンがスティック代わりなのは何とも、どう突っ込んでいいのやら。
まさかこういう使われ方をするとは、彼らの製作者も思わなかっただろう。
この時、道具も使いよう、それは兵器も然りと実感させられ、それも悪くはないよなと感じる紅蓮なのであった
紅蓮とヴィータ。
久遠のお仕置きで治められた騒動が闇の書起動初日に起きたことはご存じだろう。
出会った当初は、性格、容姿ともに、下手するとはやて以上に共通点が多いこともあり、同族嫌悪というか近親憎悪というか、とにかく二人はいがみ合っていた。
時間が経つにつれ、段々といがみあう尖った関係は、大分丸くなりつつあったが。
朝の報道番組にて、男性アイドルグループのドームコンサートのニュースが流れている。
「後ろ席のやつらが不憫に見えるな」
「うん、つまめるくらい…ちっちゃい」
「チケットの料金も一緒なんだろ、なんて不平等だか」
「だから色々奇抜なパフォーマンスをしてるやろね」
「ふ~~ん、って紅蓮、何2828笑ってんだ?」
「ヴィータの場合はちっちぇえからwwwどこに座っててもみえねえよなってwwww」
「笑いながら言ってんじゃねぇぇぇぇぇーーーーーーーよ!!」
それでもたまに、仁義なき戦いの某BGMが流れそうなう○ばんの下克上コント風なやり取りは続いていたりする。
紅蓮の暴言にキレたヴィータを久遠と闇の書が抑え、紅蓮はと言えばはやてに庇われる格好となっている
「てめえ! どの面下げて言ってんだよ!! はやてがう○ばんのアレが好きだったからってなぁ!! お前はいいよな言って逃げるだけで! 止めてるやつらは結構つれえんだぞ!」
「うん、確かに…」
ここまで来ると、『仲良く喧嘩』と断言できる領域であった。
そんな喧嘩友達な二人の仲が少し変わる出来事があった。
世界規模で展開している大型の某おもちゃ専門店トイ○らス、各年代、国内だけでなく、海外の玩具も並べられた店内を歩くのは――はやてに紅蓮に、シグナム、シャマル、ヴィータ、女の子モードの久遠、ザフィーラはと言うと自宅警備員として家でお留守番中。
「はやてちゃん、なんで玩具店に?」
「ええから、こういうとこにこそそれっぽい材料(ネタ)があるんよ」
彼らが今日ここに来たきっかけは、朝の一幕で。
「騎士甲冑?」
「はい、我ら騎士は武器は持ってはいますが、甲冑は主から賜らなければなりません」
べルカ式魔法が発祥し、かの戦乱で世界ごと消滅して現在は存在しない星べルカでは、魔力で編み上げた防護服、バリアジャケットのことを『騎士甲冑』と称していた。
シグナムたちは、その騎士甲冑――バリアジャケットのデザインをはやてに依頼していたのだ。
蒐集は無論、戦闘行為そのものを強いるつもりは無いはやては、最初断ろうとしたが、少し前まで海鳴で起きていた超常現象が、自分たちの世界から発生したアクシデントかもしれず、今後起きない保障も無いので、有事の際の備えにと言われ、絵には自信があったので了承した。
「ほんなら、資料探して、カッコええの考えてあげなな」
玩具店には、その甲冑のデザインの参考資料を集める為の一環として来ていた。
ネタ集め以外に店内で遊びに耽る者も中にはいる。
子どもモードの久遠だ。
「この4つボタンを押して、こうポーズを取ってレバーを押してみてよ」
「うん、スイッチ押して」
『3、2、1』
「変身!」
特撮ヒーローたちの玩具が置かれた売り場には、実際にアイテムを着けて、変身ごっこができるコーナーがあり。いつのまにやら久遠が外見年齢より年下な男の子たちから某ヒーローの変身の指南を受けていた。
変身完了の効果音が鳴り。
「宇宙キタァァァァーーーーーーーーー!!! うふ♪」
「あ、そのポーズだとフ○ーゼじゃなくてな○しこの方だよ」
「ん? そう、なの?」
男の子からの訂正に、?顔で首を横に傾ける久遠。
「確かにお姉ちゃん首傾げるところとかな○しこにそっくりだけど……フ○ーゼのはこう両手をグーにしてまず屈んで――――」
言われてみると彼女、雰囲気はかの少女仮面戦士によく似ている、
毎週紅蓮が見ていたヒーロー物に、すっかり感化している様子で、心底ヒーロー遊びに熱中していた。
ここまで世間に馴染み過ぎな妖怪はそうそういまい。
『シャバドゥビタッチ! ヘンシン!』
『『3・2・1』』
『タカ! トラ! バッタ!』
『サイクロン!』『ジョーカー!』
『ソイヤ!』
『ドラ――イブ!』
「「「変身!」」」
久遠も混じった子たちらは、玩具でロマンの塊と言える同時変身を再現していた。
一方でもう一人、はやてたち別行動をとっているのがいた。
ヴィータだ。
お人形売り場で置かれているテディベアだったりのお人形さんに混じったその一品を、瞬きもしないまま、ジ―――――――と眺め続けている。
それは黒い蝶ネクタイを着けた白うさぎの人形だった。
ただ……デザインが独特と言うか、はっきり言うと奇妙奇天烈なものだった。
体の形状は、どこの店でも売っていそうなのだが、顔が何とも言い難い。
両目は丸に朱色を塗っただけで、口もヘの字でところどころ×字に縫われた跡が有り手抜き全開。しかもお世辞にも可愛くないと言う、子どもに需要があるのか怪しく、こうして売り場に置かれていることそのものが奇跡的とまで言える作り。
ダメ押しに商品名が『のろいうさぎ』ときた。
意味が『鈍(のろ)い』なのか、『呪い』なのかは別として、とても子どもに購買意欲を持たせるオーラなど持ち合せていない。
今のところ、唯一の例外が、それを見つめているヴィータであった。
「そいつが欲しいのか?」
「っ!?」
ヴィータは自分のうっかり加減を呪いたくなった。
しまった……ここには自分しかいないわけじゃなかった……反射的に振り向いた先には、紅蓮にシグナムたちがいた。
どう考えても、自分が『のろいうさぎ』に夢中であることははっきり見られたはずだ。
「べ、別にこんなのろそうなうさぎなんか欲しくねえよ!」
日頃、特に紅蓮やシグナムには、自分が大人だ、子ども扱いするなと主張していたことも有り、内心欲しくて堪らない気持ちを押さえつけてしまった。
「良い風ですね」
「ほんまや、絶好のお散歩日和やな」
そんな強がりも、帰宅途中に入る頃にはすっかり消え失せ、ツンケンどんな態度を取ってしまったさっきの自分を叱りたくなるくらいに、後悔の念が心のスペースの大半を占めてしまっていた。
自分が素直じゃない性格なことは、日常を過ごしているうちに重々自覚はしているつもりだった。
先代の主たちの時は、蒐集で兵士やら魔導師やらとやり合って紛らわしていたが、平穏な毎日を送る今となっては、自己嫌悪となって押し寄せてくる。
写し鏡なまでに、はやての兄貴とは似ている部分が多いこともあって、つい彼には突っかかることが一番多い。
だが、考えてみれば………あいつは血は繋がらなくとも、自分らが目覚める前から、久遠とも出会うずっと前からはやてを過ごし、支えていた少年なのだ。
こんな平和な世界で一人ぼっちなんて、寂し過ぎる。
おまけに脚も悪いから、その日を暮らすことさえ苦労が絶えなかったろう。
彼のことは、もっと感謝してあげなきゃならないのに……溜め息が漏れ、宙に漂った。
「ヴィータ、ほらよ」
「え?」
落ち込み気味な彼女に、紅蓮は玩具店で購入したらしき手に持っていた袋を差し出す。
「帰ってから渡すつもりだったんだけどよ、気が変わったんでな、今開けてもいいぜ」
「お…おう」
紅蓮の言われた通り、黄土色の紙袋を取り出すと。
「これっ………」
中には、紛れも無くデザインは微妙というか不気味だが、ヴィータが欲しくてやまなかったあののろいうさぎが入っていた。
ヴィータにばれない様に、あの後紅蓮はこっそり購入していたのである。
「はやての親父さんの友人(ダチ)なおっさんが多目に仕送りしてくれるからさ、これくらいお安いぜ、地球に来る前は、ガキらしく生きられなかったんだろ?」
「う…うん」
生まれた時からこの姿だったヴィータ。
スタイルがよ過ぎな仲間にコンプレックスは抱くことがあっても、元が子の体なんだから仕方ないと言い聞かせてきた。
でも、この体相応の、子どもの生活なんて、運命は一度たりとも経験させてくれなかった。
「折角平和な世界に来たんだ、子ども時間ってやつを満喫しようぜ」
「あ…………ありぃ……」
この生活を送れる〝今〟をくれたはやてに久遠に紅蓮の三人には、心底謝恩の心持がある。
言葉にするのは気恥ずかしいが、せめてこれぐらいは言っておこう。
口にしようとすると、声と言葉が喉に詰まって、中々言いたいことが言えない状態だったが、ちゃんと言えない様な薄情者になるのは御免だ。
「あり…がとう、紅蓮」
小さい声で、照れ気味ながらも、にこやかな面持ちでヴィータはのろいうさぎを買ってくれた紅蓮に『ありがとう』の言葉を返すのであった。
そしてその顔は、心の底から嬉しそうな表情を浮かばさせているのであった。
似た者同士な上に、衝突してた二人の距離が少し縮まった瞬間だった。
つづく