ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
その日の闇の書……と呼ばれるようになってしまった魔導書の魔力蒐集は、〝鉄槌の騎士ヴィータ〟と〝盾の守護獣ザフィーラ〟のおふた方によって実行されていた。
場所は時空管理局からは『第42無人世界』と呼称を付けられ、呼び名の通り、人間も、文明を生み出すだけの知性を持ち合せた生命体が一切いない次元の海―――多次元宇宙マルチバースに浮かぶ泡粒(せかい)の一つで生きている惑星。
全陸地の80パーセントが黄金色の砂塵と青い灼熱の空に彩られた、とても人間がまともに長く生を謳歌できない環境下な星であった。
その日二人は、ウルトラマンら超人たちのいる次元での地球人たちなら、明確に〝怪獣〟と即答されるであろう巨体と、久遠ら魔源種ほどではないが、リンカーコアを宿している管理世界の人々からは魔法生物――マギティアという総称でカテゴライズされた生命体たちから蒐集していた。
本日の蒐集分、ページ数にして6ページ。
なのはたちAAAクラスの魔力持ちなら20ページ、久遠ならば換算して60ページ。
有体と言うかはともかく、喩えで言うならば、今日の収穫は不作であった。
豊作の日なら、50ページ前後は稼げてはいたので、宜しくない結果である。
今日集めた分を加えれば、表記された頁の数は計412ページ。
半分という峠を越すことはできている。
だが、余裕であるとも言い難い。
まだ彼らのマスターであるはやての体は表立った症状を顕在させていないが、彼女の体を蝕む騎士たちが『闇の書の浸食』と決めつけてしまっている神経性麻痺の進行は着実にペースを上げていたからだ。
今日のような不作の日となるだけで、不安や焦りが騎士たちに押し寄せてくる……〝もし、手遅れになったら〟……と、全て書の頁を埋める前に、麻痺がはやての体を埋め尽くしてしまったらと。
否……絶対にそうはさせない、手遅れにはさせない、間に合わせて見せる。
でなければ、騎士としての己が立たない。
主を大切にしている同胞たちに申し訳が立たない。
何より、そんな最悪の結末へと誘わせてしまう、因果生み出してしまう自分自身が許せない。
そんな不安を払って誤魔化すには、蒐集を大義名分にして、死地に赴く以外に彼らには手がなかった。
日々の蒐集に心と体の疲労を重ね、不作な成果に苦虫を噛む思いで海鳴に戻ってきたヴィータとザフィーラに待っていたのは―――
「管理局か……」
市街上空に転移するやいなや、広域結界を張って二人をドーム以上の敷地を誇る網に捉え、取り囲んだ対闇の書捜査チームの武装局員たち。
協力者たちである嘱託魔導師の諸星勇夜――ウルトラマンゼロらウルティメイトフォースゼロの地道な聞き込みと張り込み調査の甲斐あって魔導書の主が海鳴市に居を構えていることが早い段階判明し、この街から他世界へ転移していると踏んだリンディは、市街を重点的に魔力を感知する探査魔法の網を張っていた。
その網を張る武装局員たちの対応も速く、彼らは転移魔法の反応地点に赴き、被疑者である二人を結界に取り込み包囲した。
「でも、あたしらにかかればこんなチャラい奴ら」
正面からの戦闘では、勇夜たちにどうしても後れをとってしまい、騎士クラスのベルカの使い手から『チャラい』と言われてしまう彼らだが、彼らも戦士の端くれ。
「返り討ちにしてやる!―――――って……?」
そう意気込んで愛機の鉄槌――グラーフアイゼン構えたヴィータだったが、次に局員たちのとった行動に虚を突かれる。
彼女らを円形状になる形で取り囲んでいた局員は全員、後退して下がったのである。
二人を直に相手をするのは、自分たちではないと言わんばかりの手際の良さと言うべきか、群体として申し分のない規律の届いた無駄の無き対応。
事実彼らは指令のリンディから交戦を避け、結界の強化と維持に努めるようにと御達しがあった。
P.T.事件では、ジュエルシードという共通の脅威が在ったことと、フェイトが他者に危害を加えるのに消極的であったため、泳がすという一手は使えたが、ここ二カ月だけでも既に人間、動物含めた被害者たちが多数であり、目的や事情はどうあれ、このような傷害行為は止めなければならない。
先ほど、勇夜と光が、騎士たちと何らかの関係を紡いでいる魔源種の少女―――と接触し、状況を温和に終尾させる光明が見えたばかりだが、こうして網にかかった以上、相応の対処をしなければならない。
少々手荒だが、道筋が見えたのだ、ここでこのまま見逃すことはできなかった。
また……かつての自分たちを生み出してしまう目に、誰かに理不尽を被らせ、彼らを罪の鎖を強めてしまう前に。
そんなリンディの指示の下、局員らの自分たちへの応じように対し、戸惑い気味だったヴィータは。
「上だ!」
ザフィーラの警告と、同タイミングにその身が感じとった急速に膨れ上がる魔力によって上空を見上げたことで相手方の意図をようやく察した。
魔力は発せられているのは地上からはおよそ高さ2km、ヴィータとザフィーラのいる位置から約1,5kmの地点。
そこにあったのは、薄い空色の光でできた……諸刃の剣。
数にして2つ、3つ………それどころではない。
二人が目視できるだけでも、百以上ものの光剣が夜空の宙に出現し、今なお数が増加されていく。
「スティンガーブレイド――――」
この数秒間という短い時間の合間で剣の大軍を一斉に作り出した張本人である魔導師――クロノ・ハラオウンは、術名を大声で出しながら、右手に持ったS2Uを空へと高く振り上げ。
「エクスキューションシフト!」
ヴィータとザフィーラが佇む方角へと見据え、振り下ろす。
彼の動作を合図に、総数150もの諸刃の光剣たちは一斉に眼下の一方向に刃先を向け、その場から急加速して、目標へと降下していく。
それは眼下にいる二人から見れば、光る群れた凶刃の驟雨であった。
数は多い上に広範囲に降り注いで来るため、飛行で回避することは叶わない。
防御で受け切り、耐えるしか選択肢は残されていなかった。
ザフィーラがヴィータの前に立ち、左腕を翳して障壁を発生させ、半透明の壁が二人を包みこんでいく。
その刹那、光剣の群体の先陣の初撃が、魔力の壁に衝突。
さらに第二陣、第三陣の光剣たちが、彼らのいる位置にぶつかり、衝突による魔力の閃光、拡散爆発が起きた。
今の爆発のよって周辺大気の温度が急上昇し、空気中の水分が蒸発して白い煙が舞い上がる。
これはこの魔法が元から持っている効果で、相手の視覚を一時撹乱、不能にする役割があった。
「はぁ…はぁ…少しは……止まったか…」
その巨大な白煙を注視するクロノ。
彼が取得している魔法の中でも、消費量が高めの技で、ストレージデバイスの利点を生かした短期間に大多数の魔力刃を生成するという魔導の使い手としては神技めいたテクニックを披露したがために体力がかなり食われ、息が少々荒れ気味となっている。
数秒の後、騎士たちを覆っていた白煙が散り散りになって消えていき、塞がれた視界が晴れた。
「ザフィーラ!」
晴れた先にいたのは、この〝盾の守護獣〟が二つ名の通り盾となってくれたことで無傷に済んだヴィータと、彼女を守り抜き、彼の堅固な障壁をすり抜けた光剣4本が、黒ずむ小麦色の左腕に突き刺さっているザフィーラ、刃が刺さった皮膚からは、少量だが赤い液体が痛々しくしたたり流れていた。
「気にするな……この程度の傷でどうにかなるほど―――」
負傷した自分を案ずるヴィータを心配させぬよう答え、筋肉で固く覆っている剛腕に力を込めつつ。
「―――柔ではない!」
腕周辺に魔力を発散、放出させて、魔力刃を粉々に砕いてしまった。
「上等!」
仲間の健在さを目にして、戦闘意欲を高めるヴィータ。
彼ほどの体躯となれば、筋肉も鎧の役目を果たし、短刀くらいではまともに皮膚を通さない頑強さを誇る。
加えて、防御系統にも長け、『盾の守護獣』としての本分を如何なく発揮させていた。
己の繰り出した大技が齎した結果に歯噛みするクロノ。
先の攻撃には、二通りの目的を込めていた。
一つ、クロノからは年齢では年上だが、立場では部下である局員の方々を定位置に配置して、結果を強化し、守護騎士たちを絶対に外部に出させないための時間稼ぎ。
二つ、荒いやり方だが、肉体に魔力ダメージを与えて相手を無力化し、そのまま確保し連行。
『武装局員、所定位置への配置、終了したよクロノ君―――』
「了解……」
エイミィからの通信で、前者の目的は達成された。
これで暫くは彼らをこの結界内に閉じ込めておける。
だが後者の方はと言うと、半獣人形態の盾の守護獣によって効果はいまいちに終わった。
それは良い。相手は古代ベルカ式の使い手な兵どもなのだ。この結果はむしろ想定内ではある。
現代の魔導師よりも、戦闘――文字通りの殺し合いに長けていた筈の古代ベルカの兵士たちでさえ、ヴォルケンリッターには歯が立たなかった。
〝非殺傷設定〟などと言った安全性がある程度保障されたぬるま湯に浸かる現代の魔導師な自分たちの今の攻撃くらいで彼らを無力化できたのなら、七年前にもっと早く魔導書は確保できた。
父だって……死ぬことは無かったし、提督が介錯を負う咎を受けるまでに事態が悪化することも無かった。
問題は………自分が相手に手傷まで負わしてしまったことは、正直なところ想定外。
できるだけ殺傷沙汰は避けつつ、次元犯罪者を捕えることが、自分たちに掛けられた重い枷であると言うのに……一体何をやっているのだ?
まさか………無意識の内に非殺傷設定を解こうとしていたのか?
『―――それから今、現場に助っ人さんを転送したよ』
助っ人…………エイミィの言ったそれが誰のことを指しているか直ぐ検討は付いた。
「何だ?」
クロノの先制攻撃を凌ぎ、反撃しようとした時にそれは起きた。
何か……目に見えない何かが、彼女らの体に触れてきた。
風?
意気を強く込め、愛機のグラーフアイゼンを握りしめて、臨戦するべく、結界だろう人だろうと自分たちを阻む障害をぶっ飛ばそうと構えた時、奇妙な風が吹いた。
そもそも、なんでこの場で風など吹くんだ?
ここは結界、外部と完全に遮断させる魔導。
たとえ外が大嵐が吹いても、寒波が覆っても、地震で大地が呻き声を上げても、その影響を内部に被らせない超空間。
そよ風すらも、起きようが無い場所。
ところが確かに、今まさに風が吹いている。
何かが起きる……前兆を知らせるかのように。
「新手か……」
ザフィーラのその一言を区切りに、今度は風と混じって『闘気』が飛んできた。
それは何者かが、明確な闘志を以てぶつけてくる眼力。
発信源は……眼下前方斜線、100メートル先の高層オフィスビルの屋上。
その塔の最上に、転移魔法による光を発する魔法陣が二つ現われていた。
光は増し、円陣内に輪郭が浮かび、何か……否、何者かを形作っていく。
さらに光が煌めき、急速に明度が落ちていくとともに、転移されたきた人、二人が姿を現した。
その二人は、どちらも日本人な顔つきをした少年たちであった。
背は二人とも180近く有り、年齢では、自分たちにとっては家族も同然な炎の戦士の人間体時の姿と同年代か、やや年上と辺りと見るべきか。
一人の方は、やや濃い緑が混じった黒い短髪。
人畜無害、優男、と呼ばれそうなまでに温和そうで穏やかな顔つきと物腰を帯びた細身の体躯。
もう一人の方は、この結界内の夜天よりも漆黒で艶やかな艶を放つ髪を肩にかかるまで長く伸ばし、もう一方の少年と対象的に、への字な口と、鋭く釣り上ったまなじりと眉によって、長髪を違和感なく溶け込ましてしまう中性的で凛々しい顔つきをしながら近寄り難い印象を与えていた。
一見すると、どちらも上段に値する美形である以外は、普通の10代の日本人の少年たちと、印象付けたい……のだが、ゆっくり歩を一歩一歩進める二人の周囲に起きている現象たちが、それを決定的な間違いであると、本能と戦士として積み重ねた経験から来る『勘』が訴えてかけてくる。
その現象とは―――この風だ。
さっきから吹いている風の発信源は、この二人からだった。
その証拠に、こちらを見据えて歩む両者の髪は、その身から発生している流れる空気によって揺らめいている。
もう一つは、風とともに二人の瞳から発せられる……闘志。
というより、二人の闘争に臨む意志によって、周囲の空気はその圧力に応え、風を生み出していた。
「何なんだよ……てめえらは!?」
まだ、ただこちらに視線を送って歩いているだけなのに、周りの空間に影響を与えるまでのプレッシャーを発する未知なる存在たちに、思わずヴィータはそう問いかけていた。
猛者の中の猛者な兵にのみにしか起きえない、持ち得ないはずの特権を、まだその域に到達するには程遠い若年な者たちに対して。
惑いと焦燥を隠しきれない彼女の問いに対し、長髪を同胞の剣士よりやや下向きに一纏めした方の少年―――諸星勇夜は――――
「ただの通りすがりの―――魔法使いだぜ」
と一言を発し、答えた。
この場に居た者たちなら、確実に同じことを考えていただろう。
この少年たちが、『ただの』という烙印を付けられるような輩では断じてあり得ないことに。
現に騎士たちは、それを確証で以て感じ、身構えるのであった。
その様子を遠間にそびえ立つビルの一つの頂から眺めている少年が二人。
クロノとユーノだ。
ユーノは先程まで、ナオトとある施設で闇の書の情報が記された史料の探索をしていたのだが、一時ナオトに任せて、その足で現場に飛んできたのである。
「段取りは分かってるな?」
「勇夜さんたちが騎士たちの相手をしている間、僕たちは闇の書を持っている主か仲間を探し出して、見つけ次第確保、だったね」
「ああ、それと仮面の男にも注意するように、この状況なら、彼らも絶対に現れるはずだ、怪獣は召喚されない様に手はもう打ってあるけど」
彼の言う対策とは、この広域封時結界のことだ。
今局員が強度を強化しつつ維持している結界には、特殊な細工を施してある。
ある一定以上の水準をオーバーした物体を、結界内部に転移できないようプログラムされており、50メートルクラスの巨大生物なら、この場に送り込めない様になっている。
少なくとも、怪獣による騎士たちの逃走の補助が未然に防ぐことができた。
そして二人は、この状況を利用して、今の内に市街地のどこかにいるであろう、他の騎士や仲間、或いは主を探し出そうとしていた。
蒐集するには魔導書本体が不可欠で、勇夜たちが相対する騎士たちは持っていないとなれば、近くに他の者が書を持って潜んでいる可能性に行きつく。
その役の担当が、この二人。
「じゃ、内部の捜索は頼んだぞ」
「うん」
そうしてユーノとクロノは、それぞれの持ち場へと飛んで行く。
だがクロノの心には、まだ微笑ながら黒くて淀む〝なにか〟が巡っていた。
今、闇の書と相対する者たちの中で、数少なく希少な、守護騎士たちと真っ向切っての戦闘を行えると、はっきり断言できる実力をその身に備えた戦士たち。
味方としては、これほどまでに安心感と頼もしさを保障してくれる者は、もっとさらに希少であろう巨人という爪を隠した鷹たちだ。
なのに、なぜなのだ?
なぜ、心のどこかに不快とさえ感じてしまうささくれが立っている?
どうして自分は、『助っ人』である彼らの加勢を素直に喜べないでいるのだ?
自分の魔導で、自身の力によって、そして己の手で、■の■をとるべく直に彼らを制裁したい――――と、今…自分は求めてしまって、いるとでも?
首を振りながら雑念を払おうとするクロノ。
馬鹿げている………何を考えているのだ?
大昔なら、■討ちは許された行為のかもしれないが、今はそれを断固許さない時代なのだ。
自分は執務管だ――局員にして捜査員であり、上司であり、法の番人でもあって執行者でもある。
己の私情が、局員としての義務を逸脱することなど、断じて許されない。
それは…最大の悪徳。
法治体制に於いて、絶対に越えてはいけない一線だ。
あくまで自分は『個人』を封じ、『執務管』としてこの場に臨むべきなのだ。
今は彼らの加勢を良しとし、最善を尽くす時。
そう……そうでなければ、自分が今ここにいる意味なんて、皆無なのだから。
結界に入って、■をこの目にしてから、彼の心には冷たく気味悪い感触をししているぬめりとした何かが、生まれつつあった。
例えるならそれは粘液とも呼ぶべきか………それが重力を無視して急速に這い上がってくる。心の箍を外し解放させようと迫ってくる。
その沼のようなヌメリは……人らしいと言えば、人であると言い切れる確証を秘めていた。
その黒きく淀んだ沼の正体を直視するには、10代である彼にはまだ若すぎた。
一方勇夜も、騎士たち、特にヴィータの態度に対して、ある確信を手にしていた。
やっぱり、この間ミットチルダでやり合った、自分とグレンとタメを張れそうなくらい、目つきが鋭利で、刺々しい立ち振る舞いをする眼前の鉄槌の騎士な少女は、偽物だった。
察しの通り、勇夜は人間体として、ヴィータと一度対面し戦っているのだ。
なのに一戦交えたはずの本人は、初めて会ったかのようなリアクションを返してきた。
これは、以前会ったヴィータが真っ赤な偽者であったことに他ならない。
ひょっとしたら師匠のレオを戦ったあの仮面野郎が化けたのかもしれない。姿を現してないだけで……仮面の男とは仲間である他の連中って可能性もあるがだ。
妙に張り合いが無かった気がしたが……慣れない古代ベルカ式を使わなければならない事情ってのが大方の原因だろう。
しかし…さっき妖怪そのものな久遠と会っていただけに、どこの化け狐だと思わず心中で呟いてしまう。
『黒幕』かもしれない野郎はともかくとして、そこまで騎士たちの手に、血の臭いをしみ込ませる沙汰と、グレンや久遠に身を裂くような思いを助長させて、仮面野郎たちは一体何がしたいんだ?
まあ、全容がまだ掴めない奴らだが、今は連中のことは隅に置いておく。
今の相手はヴォルケンリッターだ。
あの連中には会ったら会ったで、ブッ飛ばしてやるけど。
「少々手荒な真似の後で信じられないかもしれませんが、一応僕たちは交渉のつもりでこの場に参上いたしました」
こう光が切り出したが、本音を言えば、光も勇夜も端から彼らと穏和な外交を行えると思っていない。
フェイトがヴィータの時にしたのと同様、あくまで出方を窺う為の確認作業。
そして、騎士たちの前において、自分たちには手荒な外交策しかまともに撃てる一手が無いという確信すらもあった。
確たる理由は色々ある。
まず先刻に、八束神社裏の久遠塚で久遠と情報交換した際、かじる程度だが、騎士4人のことについてある程度話してもらった。
「んなこと言って、てめえら懐に武器仕込んででんじゃねーか」
勇夜とどっこいどっこいな愛想の無い不遜な面持ちで、『武器』を持つ二人を問い詰めるヴィータ。
「べルカの諺にこういうのがあんだけどさ、和平の使者なら武器は持たない」
ごもっともだ。
ちゃっかり自分たちは武器を隠し持ってる。
勇夜はインテリジェントデバイス以上のサポート能力を有したリンクと、彼女の中には、ミッド式でAI未搭載だが、アームドデバイスの零牙を格納している。
光も右腕に待機モードのシルバーライトを嵌め、服には彼が取得している剣術の流派、御神真刀流の剣士専用の暗器をいくつも忍ばせていた。
「話し合いをしようってのに、武器持ってやってくるやつがいるか馬鹿って意味だよ、バーカ」
小馬鹿にする態度で、彼女は眼下の勇夜たちの問いかけを切り捨てた。
顔に出さぬように努めてはいたが内心、その話し合いの『は』の字の欠片も無しに、不意打ち三昧の通り魔さんなおたくらがどの口で言うか、ボケナス……そっちが聞く耳持たずだから、わざわざ武器持って行かなきゃなんないってのに……と突っ込みたくなる。
久遠から騎士たちが、頑固な連中だとは聞いてたが、予想以上に〝実力行使〟以外に、有効なコミュニケーション方は使えなさそうだ。
先の愚痴の数々を正直口に出したかったが、お子様の戯言ってことで片づけることにした……相手は一応長生きなんだけど
だけど言われっぱなしなのも癪なので、一応お返しの突っ込みを一発撃ち返しておこう。
「まあそいつはそうだな、けど、お前さんのその喩え話には一つ訂正点があるぞ」
「何ぃ?」
「確かその話って、諺じゃなくて――――〝小話のオチ〟――――だったはずだぜ」
「っ………」
不敵に笑みを浮かばせた勇夜の口から繰り出された、まさかの言葉返しと言う名のカウンターパンチに、自覚無きボケをかましたご本人は、メンタルに受けたダメージで一時絶句してしまう。
相手の狼狽振りを見て、体がガキに退行しちまったばかりの頃にべルカに関する知識を勉強していて正解だったな、と思った。
何しろ、今こうして役に立った。
「ヴィータ、お生憎様だが今の小話の件は、あやつの言う通りだ」
「う、うっせえ!良いんだよ細けえのはぁ!!」
フォローするどころか、勇夜の返しを補強する痛烈な盾の守護獣のツッコミに対し、ヴィータはもはや言い訳にすらなっていない強がりな物言いで誤魔化した。
何か……いくら見た目はちっこいけどは言え、ガキンチョ過ぎねえか?
余りに相手の反応がアレなので、呆れて溜め息すら出てこない。
くそ……昔の自分を嫌でもほじくり返してきやがる野郎だ。
父さんも師匠も、あの頃の生意気な自分に、よくキレずに最後まで耐えきったよな、と一瞬触発な場でそれどころじゃないのに感心してしまう。
多分、自分も同じ似た者な身なんだけど、色々あいつとダブってるグレンと『トムとジェリー』的な感じで仲良く毎日喧嘩でもしてんだろうなと、何となく想像できた。
さっきまでの張りつめた空気は一体どこへやら、一連のやり取りで結界内はすっかりゆっる~~い感じになりかける。
大半の理由は無論、勝手にカッコつけて盛大に自爆に及んでしまったヴィータが元凶である。
こればかりは覆しようが無く、当人にとっての黒歴史に認定されるのは確実で、時間の問題だろう。
そんな時……空から心の臓まで響く爆音が轟いた。。
上空、丁度ドーム状の結界の頂点に当たる場所から大気を切り裂き、轟音が雄たけびを上げ、緩んでいたこの場を一気に引き締めさせた。
今の轟音は、何かが強引に結界を通る、と言うより突き破ろうとして起きた衝突音。
「増援……ですね」
次に来たるは、その〝何か〟である光点が地上に向けて急降下。
光点は、勇夜と光は立っているビルの向かいの屋上に爆鳴と振動を轟かせて降り立った。
爆煙で光点の全体像がはっきりと見えなかったが、勇夜その身が感知した魔力の波動によって、煙を斜に構えつつ見据えながら、乱入者がの正体が何者であるかは直ぐに特定することができた。
「シグナムか…」
黒い煙のカーテンが、宙を切り裂こうばかりに振るわれた横合いの斬撃で払われ、腰まで伸ばした八重桜色の長髪をポニーテールで縛り上げ、凛とした面容を持ちし女性、烈火の騎士シグナムが推参する。
現れた目的は、勇夜たちと同様、味方の助太刀の為だ。
わざわざ強固な結界を押し破ってきたのだ、彼女の意図は勇夜たちにも充分伝わっていた。
「(鉄槌の子は私が、剣士は勇夜がお相手、ってことでよろしいですね)」
「(ああ、問題はあの盾の守護獣なんだが…)」
「(それならあたしに任せな)」
現状、実質三対二、数の面でなら二人が不利。
そんな矢先、二人の横のコンクリートの地面から、オレンジの魔法陣が敷かれ、円陣からはアルフが現れ、さらなる助っ人、加勢役でこの場に駆け付けてきた。
「フェイトを差し置いて参戦するのは気負うけど、あのマッチョなオセロ狼はあたしが相手をするよ、前の不意打ちの借りをまだ返せてないもんでね」
拳を握ってバキバキ鳴らしつつ、人間より鋭くとがった犬歯を見せて笑みを浮かばせながら、意気揚々と上空のザフィーラを見上げる。
ちなみのアルフがザフィーラを『オセロ狼』と呼んだのは、真っ白な髪と獣耳と、黒めな肌をした白黒な容姿からとったもの…………まあ確かに白黒な見た目ではある。
「気負いなら僕も同感ですよ」
「贅沢言うな、まだ師匠は当分あいつらを戦わせるつもりは無いんだからさ」
なのはとフェイトを指南しているおおとりゲン―――ウルトラマンレオ。
師の戦いの経験を踏まれえれば、まだ暫くはフェイトたちを実戦に出したりはしない。
「よし―――そんじゃ―――行こうぜ」
「はい」
「おうよ」
この三人による今のやり取りを契機として、三人の目つきが明確なまでに変貌を遂げる。
常人を一瞬で震えあがらせ、戦いに興じられる者のみが持ちえることが許され、可能にする戦士の眼力。
完全に自身の意識を戦闘行為へと誘わせ、普段の物腰がまだ愛嬌があると窺わせるのに十分な闘気を込めた眼光を迸らせ、それぞれ応じる相手にその眼の弾丸を相手方に投げかける。
あなたのお相手は自分だ、と主張を刃を秘めたアイコンタクトのよる意思表示で、もう今はこれ以上言葉はいらなかった。
彼らの眼力に対し、眼力で応え騎士たち。
そして一同は、三者三様はに各々の対戦相手と対峙しながら、それぞれの戦場へと踏み込んでいく。
「零牙、セットアップ、ブレイドモード!」
腕輪形態のリンクから溢れた粒子が、瞬時に物体を形作り、彼の物言わぬもう一人の相棒なデバイス、ブレイドモードの零牙を取り出しつつ、馴染みの濃い黒いジャケットを纏った彼ととシグナムは、屋上から同タイミングで飛び降りて、アスファルトの地面へと降下していき。
「シルバーライト―――セットアップ!」
『御意』
光の声に答え、シルバーライトは自らを起動し、彼のマスターは緑と銀のバリアジャケットを羽織り、二振りの小太刀を腰に纏いながら、山間部の方角へと飛んだヴィータを追う形で飛翔。
アルフは、上空に不動で佇み待ち構えるザフィーラに向けて、犬歯を剥き出しにしながら跳躍し、対象に急迫していくのであった。
今、実際に存在こそしてはしないが、この場においては確実に再戦の鐘が結界内の海鳴中心市街地に鳴り響いた。
つづく