ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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STAGE26 - Fierce Battle 

 アスファルトが敷かれた地上の海鳴からは約1000メートル上空な夜天に、雲を切り裂かんとするばかりに空を駆ける光点二つ。

 一つは、オレンジ、もう一つは黄緑の色を宿している。

 光点の正体は、高町光―リヒトこと、ミラーナイトの人間体のリヒト・シュピーゲルとヴィータによる宙を掛ける追跡戦。

 立ち位置的には、追われる方であるヴィータは速度を維持しながら、背後にぴったりと追いかけている光に振り向いた。

 

「へっ! 結局は〝やる〟んじゃねえかよ」

「そう言うあなた方は、端からその〝やる気〟しか無いでしょう」

 

 ヴィータの挑発的な発言は、鏡の騎士の丁寧だが皮肉も混じった物言いであっさり投げ返された。

 彼女の額に皺が走る。

 イラつく……まただ……またこの気分に苛まれた。

 さっきの返しのを打ってきやがった、見た目がシグナムと、口調とか性格とかが自分と紅蓮に被ってる〝魔導殺し〟とか呼ばれているらしいあの黒髪ポ二テ漢女男野郎にもだけど、今追っかけてきやがる、口は丁寧なんだけど、慇懃無礼ともとれる減らず口叩いてくるこの優男にもだ。

 ヴィータの戦いには、いつも相手だけでなく、己から溢れる苛立ちとも戦わなければならない事態が、度々起きていた。

ノイズとも称すべきか……戦場に出ると、彼女の耳には正体不明の不快な音がじわりと流れ、響いてくる。

 悲鳴にも聞こえるし、アナログテレビの砂嵐にも聞こえるし、弦楽器の弦をカミソリで弾いたような感じ……とも言える。

 ようは全く分からない……正体が分からないことぐらいなことと、一度響くと本来の意味で鳥肌が立ち、ストレスが積み重なっていくことしか、判っていない。

 昔からも、そして今だって、慎ましくも、確実に聞き取れる音量で、〝ソレ〟は彼女の心を逆撫でさせる。

 ソレに対し、一番効果があるのは、苛立ちを無理やり戦う力に変えて、敵を駆逐することだった。

 ただ昔と今とで異なる点もある。

〝ソレ〟と違い正体がはっきりしている苛立ちもあるということ。

 分かってる……分かってるんだよ……自分たちがこうして追われて当然のご身分だってことくらい。

 命まで奪ってないとは言え、もう……どれくらい魔道師やら魔法生物やら、リンカーコア持ってる奴を襲ったか、数えるのを断念させられるくらい、手を汚してきた。

 戦場では、お互い殺し合いの場に参上し、生きるか死ぬか、常にその瀬戸際に立たされながら戦っている身であることを受け入れ、死んでも文句は無しと暗黙の了解があったから、言い訳はどうにかたった。

 生きたければ、敵たる相手より先に相手を殺る…でなきゃ即あの世行き。

 道徳やら倫理なんてのは、平和平穏平時な時世の時だからこそ機能し、人々にその大切さを教え説き、守ろうと努めることができる。

 殺気と血の匂いに塗れた戦場では、そんなもの一ミリたりとも入りこむ隙間は無いし、紙切れにすらならない無価値な代物になる。

 だけど、現代では、それらが確たる価値を以て通用される平時な時代。

 そして自分たちは、相手に戦う覚悟すら決める時間さえ与えずに、手を掛けてしまった。

 兵士たちにとって、超えてはいけない領域…境界線に、踏み込んでしまった。

 それと、その領域の先を走ることでつけられることで、心身を傷つける生き地獄があることを、久遠は……自分の身で示してくれた。

 そいつの名は……罪悪感だ。

 はやてと、紅蓮と、久遠と一緒に暮らしていくうちに、戦いしか知らなかった、人の姿を借りただけの戦闘マシン同然だった自分たちは、感情(こころ)ってやつを手にした――――それが罪悪感……戦場では、あの場の暗黙の了解と言う名のルールで誤魔化してきた…されてきた、感情の一端。

 悪行を重ねる度に、心を切り裂いていく、己が己に、自ら課す罰。

 当人から名乗り上げてきたとは言え、久遠のリンカーコアから、魔力が貪り取られる様を目にした時、どうしようも無く胸が軋みを上げて、痛んできやがった。

 同時に…自分たちはこれから先、何度もこんな、体にまで響いてくる精神の痛みを味わうことになると、思い知らされた。

 お陰で、腹はある程度括って耐性が付いたけど、良心の悲鳴は、蒐集される度に絶叫してきやがった。

 だから、今ここでイラつくのは、逆ギレよりもっと酷いことなんだってことも、悪党なのは自分(あたし)たちの方なんだってことも、自覚はしてる。

 けど……それでもだ。

 ヴィータが指先に魔力で編み、実体化させた鉄球を複数召喚する。

 

「ちっ…いつまでも―――」

『Schwalbe fliegen』

 

 やっぱり、目的を邪魔する障害(あいて)が現れるってのは、良い気がしない。

 そう感じてしまう自分には、もっと良い気がしない。

 あの〝ノイズ〟が、それを助長させていく。

 

「――――減らず口叩けると思うなぁぁぁぁーーー!」

 

 結局、堂々巡りにイラつきを絶叫で表現する、昔からの悪癖をまた繰り返して、自分を誑かすしか、胸のしこりをどうにかする手は無かった。

 一時的に誤魔化すだけで、それそのものが消えてくれるわけがない……というのにだ。

 

「このぉぉぉぉぉーーーーー!!!」

 

 喉に溜まった水分を全て枯らさんとばかり、雄叫びを上げながらグラーフアイゼンで鉄球に魔力と衝撃を撃ちこみ、合計12球、一回に4球ずつまとめて飛ばすヴィータ。

 それぞれ独自の軌道を描いて、追う側の光へと迫り飛んで行く。

 対する光は、腰に付けられた二振りの小太刀―――シルバーライトを抜き。

 

「ヘアァ!」

 

 絶妙なタイミングで、通常の刀より間合いが短いライトで、横、真上、真下、背後と、あらゆる方角から肉薄し、攻撃有効範囲に入った鉄球たちを切り裂き、鉄球は次々に、残留魔力の塵と化していった。

 刀身を魔力で強化せず、純粋に彼の剣技によるものである。

 元々騎士の身で、剣を嗜み、地球に迷い込む前々から二刀での使用を好んでいた光(リヒト)だったので、小太刀二刀がメインな御神流との相性は、良好を通り越して最高であった。

 けれども、御神の剣士にとっては、この場は良好な環境とは言い難い。

 御神流は要人警護、人を護る為に振るわれ、受け継がれた剣術の流派で、誰かを守る状況にこそ、技術的な面ではなく、精神的な面で、全力を発揮できる剣であるのだ。

 今は対峙する相手と、共に戦いに赴く同士しかおらず、特に彼が守る力を押し上げる存在である愛妹(いもうと)のなのはは、特訓という事情上、結界(ここ)にはいない。

 先の光の発言であった『気負い』とは、なのはがいない―――守りながら戦う状況ではない意味で発したのである。

 ただ、守る対象は今もちゃんと存在する。

 蒐集対象の人々も然り、闇の書が起動し、過去の記録や、ウルトラマンノアの闇の書との死闘を繰り広げたという記憶から、覚醒時に起きるであろう災害を阻止し、人々にその煽りを受けぬように、未来に控え、待ち構える危機から救わねばならないからだ。

 

『Tödlichschlag』

「テートリヒ―――シュラァァァァァーーーークゥ!」

 

 12個の魔力球を全て切り落とした光に、幼く華奢な身に反し、心の内から激しくたぎる意志が籠められた鉄槌の一撃が光へと迫りくる。

 

『Refrect circle』

 

 雄叫びをあげて得物を振るってくる相手に反し、光は努めて涼しげな趣のまま、半透明で乳白色なドーム状の盾を形成させた。

その選択をヴィータはミスだと心中思った。

 自分とアイゼンにとって、〝盾〟など気休めな小細工、そんなもの、ガラス破片みたいにバラバラにぶっ潰してやる。

 遠心力と魔力が上乗せされた金属製の鉄槌の頭部が光の盾に触れた。

 瞬間、ヴィータにとって信じがたい事態が起きる。

 アイゼンの先端が盾に当たったと同時に、衝撃を与える側の筈の自分の体に衝撃が走り、逆に彼女が突き飛ばされる格好となった。

 

 何が起きた? 相手はただ受けただけ……なのにどうして痛みが自分に牙を向いたのだ?

 

 この時の彼女には理解し難いものであったが、きちんとこれにはカラクリが在る。

 リフレクトサークルと呼称された乳白色のバリアは、表面に何らかの接触を受けると、触れてきた対象に、バリアに溜められた魔力の圧力による衝撃を放出させる効果がある。

 ただ受けるだけで、カウンターを繰り出せるとも言える防護魔法だった。

 一見万能そうだが、弱点もある。盾としての強度は、それほど頑強ではなく、高威力の攻撃を受ければ呆気なく壊れてしまうし、特性上、近距離攻撃にしか効果を発揮できない。

 が、そんな長短を知る由もないヴィータにとっては、未知なる不可解な現象、な扱いだ。

 一方で、あの一瞬で察することができたこともある。

 

 あの二刀剣士、自分の一撃を真正面からではなく、ハンマーの軌道を計算に入れた上で斜に構えて受けやがった。

 転移魔法で現れた時から薄々感じてたけど、こいつは掛け値なしの強敵だ。

 長引けば不味い。手の内を与える間も無く、短期決戦で一気に畳みかけるしかない。

 

『Raketenform』

 

 態勢を立て直し、予め装填していたカートリッジ一発のロードして排侠し、その魔力を糧にアイゼンを、先端に回転する打突を生やし、反対側にカートリッジの魔力を燃料源とする3つの推進機械を備えた『ラケーテンフォルム』と呼ばれる形態に変える。

 

「ラケーテン―――」

『Raketen hammer』

「―――ハンマァァァァーーーーーーーーー!」

 

 すかさずアイゼンの推進機からジェットを噴射させながら360度振りまわしてフル回転。

遠心力をプラスして、加速力を上昇せせながら、ヴィータは光に邁進する。

 

 こいつなら―――どうだ!

 

 先程と比べるまでもないレベルの急加速と、回転しながらゆえに変則的で読みずらい軌道、段違いに威力の上がった鉄槌――今までこの一撃を防いだ者も、躱した者さえいない、一撃必殺の鉄槌。

 しかし、彼女の愛機の不敗神話は、ここに来て終焉を告げる。

 まず横合いから振るわれるアイゼンの柄に体を某バーチャル世界を舞台としたアクション映画のワンシーンの如く上体を海老反りさせ、シルバーライトの刃を当てた。

 すると、光の体にも推進機が噴き出したかのように、距離としては僅かだったが、瞬間的に降下スピードが急上昇、腕の太さよりもなお短いギリギリの隙間で、凶悪な回転する打突を回避してしまった。

 さきほど、触れた物体を弾いて反射させる防護魔法―リフレクトサークルを光は使っていたが、これはその技の応用だ。

 刀身に魔力を集め、刃が物体に触れた瞬間開放、そこに全身から魔力放出の出力を上げ、それらの推進力と海老反りによる受け流しでグラーフアイゼンの不敗神話を破ったのである。

 

 くそ!

 

 口の中に金臭い苦味が溢れたヴィータは毒づく。

 ラケーテンのアイゼンの打撃までいなされるなんて……あたしらから見れば魔導師や兵士の質が明らかに昔と低下したこの時代で、ここまで卓越した技量を持ってる野郎がいるなんて、現代の魔導師たちはみな〝腑抜けで雑魚い〟と思いこんでた自分が恨めしい。

 けど、一回程度避けられたぐらいで!

 ラケーテンフォルム時のアイゼンの三つあるバーニアは、それぞれ独立して動かすことができる。

 ヴィータはその推進機の出力と、それを助力とした高速回転を維持したまま、三つの噴射口それぞれを可動させて軌道修正。

 

「そこだぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」

 

 光のいる方角へと向きなおし、バーニアの出力も増加させて突貫を敢行した。

 こればかりは避けられないと彼は悟ったのか、手に持つ二刀に呼び掛け。

 

「ライト!」

『Silver crystal』

 

 ×字に構えられたシルバーライトは、宝石と見違う多面体なクリスタル状のバリアで、彼を包み込んだ。

 完全にクリスタルが光を覆った瞬間、アイゼンのスパイクが着弾する。

 火花と摩擦熱を迸らせ、稲妻の光を散らし、バーニアを吹かして、半透明の壁を貫こうとするアイゼンと、主には通さぬとばかりに打撃を阻み、耐えるシルバーライトと、顔色を変えずに防御を続ける光。

 

「固え……」

 

 今まで破られたことがなかったなのはとレイジングハートの魔法障壁を、簡単に打ち壊したヴィータにとっては、今度こそ決定打にすべく撃ち込んだ一撃必殺の突撃であったが、予想以上の光たちによるバリアの強度に、攻めあぐねていた。

 既

にシルバーライトには、左手用の一振りに取り付けられた差し込み口に、ベータカートリッジを装填済み。

 従来の弾丸型よりも、多量の魔力を詰め込まれた長方形のバッテリー型のベータカートリッジ。

 そのバックアップを受けたシルバーライトは、今まで多くの戦士たちを屠ってきた鉄槌の剛力な一撃を防いでしまっていた。

 シルバーライトが、この頑強な盾を張れるのは、主の力量によるものでもあるのも含めてだ。

 血縁は無く、魔法による戦闘属性も、近接スピード型と遠距離砲撃パワー型と異なる高町家の三男坊と末っ子兄妹だが、一つだけ確たる共通点が在る。

 

 防御能力の高さ。

 

 なのはは砲撃タイプを特性を生かす為、防御で固めた固定砲台というスタイルとなっていき、光もその細い体躯と裏腹に、バリアでの防衛力はウルティメイトフォースゼロの中でトップに位置していた。

 なお且つ光―――ミラーナイトは要塞の攻撃からエスメラルダの王城を守りきったことさえある。

 違いが多いようで、実はこのような相似点があるのが、この高町兄妹のお二人であった。

 兄であり、剣士にして騎士である彼の鉄壁を前に、出し惜しみはできないと悟ったヴィータは、さらに二発、カートリッジロードして排莢、魔力をアイゼンに込め、トリプルスラスターの出力を上げた。

 噴射口からの魔力エネルギーの放射が段違いに肥大化、バリアを押し込む圧力も激増されていく。

 彼女らの底意地に根負けしてしまったのか、とうとうバリア全体に罅が走り、爆発すると同時に砕け散った。

 

 

 煙幕でヴィータは視界不全となり、相手を一時見失う。

 くそ、バリアを破るのに、パワーを込め過ぎちまった。

 今日の蒐集で、カートリッジの数も残り少ないってのに、ザマあねえ……アイゼンを周囲に振り、爆煙を散らして光がどこへ飛ばされていったか探す。

 ふと、表面に不自然な大穴が開いたオフィスビルを見つけた。

 距離からみて、あの二刀剣士が突っ込んだことでできた爪痕と見ていいだろう。

 その時、あるデジャブが過る。

 あの真っ白な騎士甲冑を着ていた……見た目なら自分より歳が上なあの女の子の姿、それを思い出した途端、口内の唾液が急に苦くなった。

 不意打ちかますだけでも、気分が悪くなるのに、あの少女を襲ったことが切っ掛けで、管理局に自分たちの存在を衆目に晒してしまう失態を、あの夜犯してしまった。

 あんまヘマが無きゃ、まだ当分は『謎の魔導師連続通り魔事件』と見なされたまま、今日みたいに待ち伏せされることも無かった。

 もう……これ以上のミスはできない。

 今日は不作だったんだ……はやての為に、悪いがその魔力、頂たいてもらうからな。

 件のビルへ、ヴィータは加速して翔けていった。

 

 一連の流れが、相手の策だということにも気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 空中にて、ザフィーラの黒めな拳と、アルフの透明感のある色白な拳が、正対に激突すし、拳に込められた魔力と魔力が反発し光を放つ。

 使い魔と守護獣、言い方は違えど、主を全力で守り抜く使命を帯びる狼が素体な両名は、海鳴市街の別の一角で肉弾戦を繰り広げていた。

 真っ向から押し合っていた拳同士は、魔力衝突による衝撃と閃光で離れる。

 すかさずザフィーラはアルフ接近、血管が浮き出すまでに筋肉に固められた剛腕による鉄拳を連続で突き出した。

 魔法による攻撃力は、シグナムとヴィータに譲るザフィーラだが、肉体そのものの身体能力は騎士たちの中で一番高い。

 一見すれと、ただの女性ではその豪胆な肉体を前に勝ち目はなさそうであった。

 しかしだ。その『ただの』から程遠いアルフの場合、前述の偏見は大きな間違いである。

 彼女は平らかな両手を、その勝気な容姿とはギャップを感じさせられてしまう手つきで拳による打撃の破壊力を流して無効化させていく。

 今彼女が行ったのは。地球の武術にも宇宙拳法にもある、『化勁(かけい)』という、相手の攻撃による衝撃力を力を抜いた身で巧みに吸収、力の流動と進行を変えて無力にする技術。

 その手さばきは、風に舞う布地のように柔らかで、慎ましいまでの美を醸し出していた。

 さらに、今まで手で回避行動をとっていたアルフは、ザフィーラの右腕からの正拳に対し、1、2歩ほど両者の距離を空けながら、足好きな男には堪らない、太すぎず細すぎない、調和のとれた弾力性を持つ両足を上げ、彼の剛腕を下腿で挟み込んだ。

 

「何!?」

 

 平時も戦闘時も冷静で口数が少ないザフィーラも、これには驚きを隠せない。

 手では無く、脚――FOOTによる白羽取り。

 その状態を維持したまま、アルフは縦に宙返りして数回回転、その後にそびえ立つビルの一角に向け投げ飛ばし。

 

「くらいなぁぁぁ!!」

 

 使い魔の彼女はさらに、身を横回転させ、駄目押しとばかりに、体勢を崩されたザフィーラのボディにドロップキックを見舞い、守護獣は外壁へと飛ばされた。

 全身から、魔力を吹かし、その推進力で勢いを減速させて、外壁に足を着かせる。

 ビルに重力があると錯覚させられそうになるほど、ザフィーラはガラスに直立させていた。

 かの芸当は、体の周りに魔力フィールドを張ることで、擬似的に重力を発生させたことで成し得た壁立ちである。

 彼に向け、飛行で砲弾となったアルフから、ストレートキックが迫る。

 縦に並べた両腕でそれをブロックして弾くザフィーラ。

 アルフは今の蹴りを弾かれながらも、縦回転して相手方の背後に回り右足を叩きつけ、その際起きた運動エネルギーで距離を開き、彼と同様の手法で壁面に着地、間を置かずにザフィーラに向かいひた走った。

 

「列鋼牙ァ!!」

 

 右腕から突き出された魔力の弾頭が迫りくるが、物怖じせずむしろ走力を上げ、ギリギリ霞みそうになる瀬戸際で、スランディングして事なきを得た。

 そのままビルのガラスの上を滑走させてザフィーラに近づき、その体勢のまま右脇腹に蹴りつけ、足を押し上げ投げ飛ばした。

 ザフィーラは一旦宙に舞いながら降り立つが、そこへアルフの足技が畳みかける。

 回し、膝蹴り、足払い、ストレート連打、体を前かがみさせての上段からの踵蹴りに派生の逆立ち回転撃、狼の俊敏性をフルに発揮させた変幻自在にしてキレのある脚の円舞。

 いずれもどうにか両腕と持ち前の防御魔法で防ぎ、顔に迫る右足を掴んでそのまま背負い投げ、叩きつけ、それを数度反復させた。

 亀裂が走る窓、実は二人は完全に窓に足を付けているわけではなく、ガラスの地面から僅かな高さで力場を作って浮き立っている。

 これによって、ビルへの被害は幾分か抑えられていた。

 横たわった使い魔に拳を突く守護獣、それはアルフが横のまま横転して空振りとなり、立ち上がったところを中段から蹴りつけるが、後ろに仰け反ったことで避けられ、その姿勢からの返しのサマーソルトを受けられた。

 サマーソルトは観客へのパフォーマンスとして使われる見せ技で、本来試合向きでも実戦向きでも無いのだが、元が俊敏性に長けた狼である強みとウルトラマンたちによって鍛えられた肉体で、実戦でも扱える技に昇華させていた。

 後転して降り立ち、足技の舞から転じて左腕のストレートを撃ちこむアルフ。

 状況反射で顔面と胸部を、腕の筋肉の鎧でガードを掛けるザフィーラ。

 が、次に来たのは、腕に来る衝撃では無く、鳩尾に走った圧迫感だった。

 あの左ストレートは囮、フェイント。

 本命は、右腕と手のひらからの掌底(しょうてい)。

 ザフィーラは間一髪、魔力障壁を張れたが、今の強攻(きょうこう)で後方に飛ばされていく。

 両の足をしっかり地に押しあて、窓ガラスを擦り切り、抉らせながらも勢いを止めた。

 アルフを見据えつつ、手を握り拳にした〝剛〟の構えをとる。

 彼女も同様、しかしファイティングポーズは、左腕を腰に、右腕を掌が相手に見える形で伸ばす……ウルトラマン譲りのものであった。

 

 

 

 

 ここまで体技に秀でているとは思わなかったな…………相も変わらずポーカーフェイスなザフィーラであったが、内心アルフの戦闘能力に舌を巻いていた。

 魔導生命体としての身体能力の高さ、と言う名のアドバンテージを常に最良のコンディションに発揮できるよう日頃心身を鍛えているだけでない、体術に優れた者から、日々厳しく叩きこまれたのだろう。

 純粋な己(おの)が肉体のみでの肉弾戦の技量ならば、完全に彼女の方が上手だ。

 悔しさは無い、客観的に分析した上で、それが純然たる事実だと悟っただけのこと。

 とは言え……あの構え、どこかで見覚えがあるのだが、いつどこでだったか?

 注意深く観察して行くうちに、ある人物のイメージと使い魔の少女が重なった。

 主の大切な兄君、紅蓮とかつて、様々世界を渡り歩いていた仲間(とも)の一人、ウルトラマン………ゼロ、情報元は、シグナムのレヴァンティンが記録していた映像。

 そうか、あやつの師はウルトラマンゼロであったのか、身一つでシグナムと渡り合える武人な彼だ、彼の指南を受けたのならば、あれほどの強さも納得できる。

 だが、それでも尚、自分はここで打ちのめされるわけにはいかない。

 我は守護獣、主と同胞の盾となる守りし者。

 そんな自分が、先に倒れるようなことは、あってはならないのだ。

 でなければ、誰が主たちを災厄から、守り通せるのだ。

 己が盾になるからこそ、シグナムたちは己が領分の戦いを全力で行えるのだ。

 是が非でも、この障害は切り抜ける。

 守護獣としてだ。

 

 

 

 

 

 一方守護獣と面するアルフも、彼に舌を巻かされていた。

 なんてタフガイな野郎なんだよ。

 攻勢のベクトルが向いてるのはあたしで、何発かあいつの体に当てられてはいるけど、相手は澄まし顔をずっとキープしてるときた。

 確かあいつの二つ名の守護獣って、主様含めた味方全員を護る意味で、昔のべルカの時代に付けられたんだっけ? あたしから見りゃ、使い魔とどっちもどっちな気がしないでもない。そもそもベルカでもこいつを除けば半獣半人の魔導生命体は『使い魔』と呼ばれてたそうだし。

 けど、肩書きに『盾』と『守護』って付くだけあって、防御は神技レベルで感服させられるよ。

 いくら殴るなり蹴ったりしても、障壁と真っ黒でタフな体で、ほとんど全部の攻撃を受け止めてしまうしさ。

 ただな、野郎がタフガイなことに文句も異論も無い。

 容易く自分に打ち負かされるんじゃ、フェイトになのは、管理局だって今まで苦労して手を焼かないって、それこそクロノの親父さんだって……死ぬこともなかっただろうしさ。

 それと、こうしてやり合って解ったけど、勇夜たちの言う通り、主の知らないとこでこっそり独断やってる線は、妥当かもしれない。

 顔つきにしろ、手つきにしろ、嫌々やってる感は微塵も感じられないというか、ちょっと前のフェイトみたいに、ある問題があいつらを追いこんで、それしか方法が無いんだ……って言い聞かせている気がするのだ。

 ほんと……何があったって言うんだろ? やっぱり光の仮説である……主の身に医学じゃ直せない何かが起きたのだろうか?

 10月に入るちょっと前に………蒐集も強いられず、勇夜の友達と、あのX-MENのストームばりの狐ッ子と、そしてきっと包容力のある優しいやつな主さんと、平穏に暮らしていたはずだってのに。

 さっきの、勇夜と光とのやり取りを聞いても、話をとり合う余裕を持ってないのは明白。

 だったら、意地でもとっちめて聞き出して、そんで光の仮説通りなら……徹底的に阻んでやる!

 フェイトが辿ることになるかもしれなかった、生涯消えない後悔を背負って、一生を不意にする結末なんざ、もう御免だ。

 悪いけど、あたしから見りゃ、あんたらは勇夜が前に言った―――〝血を吐きながら続ける……悲しいマラソン〟――――って呼ぶのも同然なんだからな!

 そうして二人の魔導生命体は、改めて決意を秘めて、再戦のスタートの火蓋が切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルに開けられた空洞の内部に入った瞬間……ヴィータにまたデジャヴが過ぎってきた。

 奇しくも、あの夜と同じ、昼間はサラリーマンがせっせと汗水流して働いてるオフィスの一室だ。

 二刀剣士が中に突っ込んできたせいで、ここは結界で実際は明日も問題無くデスクワークできる環境下が維持されているが、この場においては見る影も無い。

 机やら、椅子やら、パソコンやら棚やら、書類やら観葉植物やら、ともかく色んな物体どもが辺り一面に散らばって、整頓から程遠く。

 埃も部屋中に山積して、騎士甲冑の魔力フィールドが無いと、目と鼻、口に悪影響を確実に出させる有様だ。

 そんなことより、二刀流の優男だ。

 ビルに向かってる間は、中からあいつの魔力を確かに感じた。

 はずなのに、侵入した途端、気配は一切消えてしまった。

 いくら集中して、周りを見回って探っても、人っ子一人の存在の欠片も無い。

 完全に、人気が無い建物とかの場所に入りこんだ時と、同じ感覚に見舞われていた。

 もうここにはいないかもしれない。

 何十回もあるビルなのだ。

 他の階に逃げて、転移したのかも……いや…それなら自分の身が魔力に反応してくるはずだ。

 くそ……こんな広い建物の中を探し回るなんて、とてもやる気になれない。

 一端……ここから出るか―――不意に突き刺すように迫る、戦場ではどこもかしもく感じさせられた殺気、わずその場を屈んだ。

 自分の頭上に、何かが飛来し、通り過ぎる。

 その何かを確認する間もなく、押し寄せる殺気の第二波を前に、アイゼンの柄で、プレッシャーとセットで来やがった短めの刀――小太刀の一閃を防いだ。

 

「てめえ、どこにいやがった!?」

「どこにって――――私はずっとこのオフィスに居ましたよ」

 

 まさかの返答内容を答えながら、両手に持った小太刀でヴィータに斬りつけていく光、愛機とシールドで、防戦するしかないヴィータ。

 剣筋が速い上、刀身に魔力やらのエネルギーを込めずに斬りかかってくる為、どうしても反応が遅れてしまう。

 今までは大概、魔道師と戦う機会が多かった。中にはそうでない兵士とも相まみえたことも、あったが、そう言う奴らは取るに足らない雑魚だった。

 だから、魔法か魔力を使った攻撃には人一倍過敏になるが、今相手にしている奴のような、魔法を依らない攻撃への対処に手間取ってしまう魔導師特有の弱点を、彼女もまた結果として有してしまっていた。

 剣撃の合い間に炸裂される中段前蹴りが、アイゼンの防御をすり抜けて胸部に命中し、ヴィータは痛みに呻きながら、飛行で身を退かせた。

 

 ずっと…このフロアに隠れてただって? 嘘だろ? だって、さっきまで何も感じられなかったってのに、どんな手品を使いやがったんだ?

 

 無論、光の言う通り先程まで存在感を消し、奇襲を仕掛けた曲芸には、ちゃんと種も仕掛けもあった。

 あくまで人を護る為に使われ、伝承されてきた御神真刀流だが、実は暗殺術の一面を持っている。

 暗殺に最も必要とされる技能とは、気配を押し殺し、相手に気づかれずに手を下すこと。

 よって、御神の剣技を極めた者は、これは戦う技術を持った者全てに言えるが、視覚に頼ることなく、気配だけで人の存在を感知、特定でき、さらに完全に自分は存在しないと、相手に錯覚させる。

 

〝気配遮断―――その名を遮気(しゃき)〟

 

 御神ではそう呼称される曲技も、剣士たちは造作無く扱うことができた。

 久遠でも、魔力を消費しなければならない技を、御神の剣士は魔導に頼らずとも身に付けているのである。

 ちなみにだが、光が斬りかかる前にヴィータを襲った物体とは、飛針(ひしん)と呼ばれるクナイに酷似した御神の剣士が使う小型ナイフである。

 そんなことを知る術もないヴィータは御神の術に惑わされる一方だった。

 ただ、ここで戦い続けるのは不味いと、直感で察し、外に出るべく、夜空が見え、月光を通す空洞に向かって飛翔した。

 だが、フロアーと外部との境界に差し掛かる寸前、彼女は嫌な感覚に襲われ、咄嗟に制動を掛けて静止。

 

「なんだよ……これ?」

 

 目の前に、壁があった。

 それも、ガラスみたいに半透明で、穴どころか窓全体に、びっしりと張り巡らされていた。

 その正体は、光によって生成された、ガラス状の魔力内壁。

 こんなもん、さっさとアイゼンでぶち破りたいところなのだが。

 

「申し訳ありませんが、〝鏡〟を作るのは得意でしてね」

 

 そんな暇とか時間なんて、彼が与えてくれるわけも無かった。

 やろうものなら、即斬りかかって阻んでくるのは間違いない。

 

「暫くは、ここで戦ってもらいますよ」

 

 しまった……こいつにまんまと誘い込まれた。

 今ので察した者もいるだろう。

 光は最初から、この場にヴィータを誘い込むつもりで、ラケーテンハンマーでビル内に飛ばされたと見せかけたのだ。

 言ってしまうと、ラケーテンハンマーを防ぎきることは、やろうと思えば可能であった。

 その分、カートリッジの魔力消費という代償付きでだ。

 ならば、こちらの魔力エネルギーを節約させつつ、逆に相手にカートリッジの連続消費を余儀なくさせ、相手には不利な、己なら十全に戦える空間に入りこませるべく、彼はさっきの大芝居を打ったというわけである。

 こうなってしまっては、ヴィータの手札に残された打開案は一つ――どうにか彼を打ち倒す、それしか残されていない、今の彼女の実状。

 

「望むところだよぉぉぉぉーーーーー!」

 

 フラストレーションに苛まれながら、光に挑む鉄槌の騎士。

 こんなとこで、負けられねえんだよ、今日もちゃんと、はやてのいるあの家に、帰んなきゃなんないんだぁ!

 

 暗く、さっきまでオフィスだった閉鎖空間な戦場にて、鉄槌と小太刀がぶつかり合い。

 断続的に得物同士の衝突による閃光を何度も煌めかせて、いくのであった。

 

つづく

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