ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章 作:フォレス・ノースウッド
レイハとバルの強化形態名のまさかの改名(しかも改修したのがプレㇱアだからね)。
STAGE33 - 託す者、託される者
あの第二幕の夜戦から、少し時間を遡る。
「予想はしていたが、こうまで燦々たる有様とは…」
「はい、なにしろ特定の書物探すだけでも、本格的な探索チームを組むくらいですから、まさに〝人工の秘境〟です」
ジャンボットの人間体であるナオトとユーノは、自身の目が捉えし光景に愕然とした心情を抱えていた。
無限書庫―――それが今彼らが身を置いている施設の名称である。
有り体な表現を使うならば、魔法世界における最も大規模な蔵書数を誇る書庫、アナログなデータベース。時空管理局の管理対象となったあらゆる次元世界の書籍、蔵書、史料が保管されて、その名の通り日々蔵書数が膨れ上がっている。
当然ながら、闇の書が作られた古代ベルカに関する書物もここにあり、二人はここからあの魔導書の情報を集めるべく、書庫と言う名の魔窟に挑もうとしていた。
言い方が大げさ過ぎるのでは? と思われるかもしれないが、実際表現に大袈裟や誇張といった単語が出てきてしまうのも無理からぬ話、実のところ、この書庫は辛辣に申し上げるなら、混沌――カオス、無秩序――ディスオーダー、無政府状態――アナーキーといった秩序等の反対語を具現化している様だと言っても過言ではない。
施設内部は、円筒状になっており、内壁はリング状になる形で本棚が設置されている。格階層の本棚には、順序、序列とか関係無しに、ありったけの書物が無整理に収納されていた。保管された書物の中には、閲覧用の机に乱雑に積み重なっているものさえいる。本としては偉く酷い待遇だ。貴重品であるのに奴隷的に扱われているとさえ思えてくる。
信じられないかもしれない。地球よりも技術力が進んでいる世界における国立図書館と言ってもいい施設が、でたらめ且つぞんざいに過去を知るのに貴重な史料を保管しているなど、けれど現実にそうなのだ。
20世紀前半頃の地球では既に確立された、各書物に特定の数字番号を指定、ジャンルごと、日本語ならあいうえお順、英語ならアルファベット順と単語別に振り分けて保管する秩序――システムというものが、この書庫に限って言うならば全く為し得られていないのである。
一応、本たちの紙質の経年劣化を防ぐべく、未使用時室内は完全真空、閲覧中も酸素濃度を可能な限りギリギリまで抑えるなど、対策は講じられてはいるが、そんなもの……眼前の酷さを前にすれば気休めにもならなかった。
あまりにスペースが広大なので、棚に机など一部を除いて室内は無重力空間となっている。
「質問するのはやぶさかだが、この書庫がこんなにも煩雑なのは―――」
「はい、毎日蔵書数が増え続けることと、ここを整理するだけの人手が回ってこないんです、元から人が全然足りないのが一番の悩みな局ですから」
人手不足…戦力が魔法のみといった云々以前に、管理局で働く上で求められる能力、スキルの数々が高度なあまりにこの組織最大のたんこぶとして君臨する存在。いやむしろ、たんこぶよりも癌細胞と例えた方がしっくり来る気もする。そのメインの癌から転移して派生した組織の腫瘍の一旦が魔窟と化した書庫だ。
実を言うと、時空管理局はこうした内部の組織構造が未だに未完成な部分が多い。設立からおよそ100年も経つというのに……これは過去の時代背景に端を発している。
地球に例えるなら、大規模な世界大戦によって、歴史が浅い新興国一つを残してほとんどの国家が機能停止、国土は大量破壊兵器で焦土と化した。
一応無事であったその新興国は、国のシステムを整わせる暇も無く戦争の爪痕が大きい各地の復興、地雷、不発弾、核廃棄物などの残留兵器の処理に明け暮れることとなる。
新興国を管理局、世界大戦を古代べルカが衰退する因となった、管理世界では『古代べルカ戦争』と呼ばれる次元世界規模の大戦。
不発弾等は、様々な次元に散らばってしまったロストロギア。
こうした異常な外部の環境下を前に、局は自らの体質を顧みることが叶わなず、組織そのものの年代としてはフェイトやなのはくらいな、まだ成長段階の子どもで、そうした身でありながら自らを酷使し続けた。
結果、勇夜曰く『ガタがとうに来ている』状況下となり、無限書庫も書物が散乱している現況となっている―――むしろ局内部の縮図とさえ見えてきそうであった。
〝地を吐きながら続ける悲しいマラソン〟
この世界でも、ウルトラセブンのこの言葉が当てはまってしまう実状を背負い込んでいた。
「けれど整理されてないだけで、根気よく探せば『どんなこと』でも必ず出てきますよ」
「大方の人間は、目当ての情報が出てくる前に挫折しそうであるがな」
「あはは、さすがにそれは否定できませんね…」
ナオトの返しを前に、ユーノは苦笑いしか返せる返球を持たなかった。
「無論、必ず見つけるつもりだ、その為に君から『検索魔法』の使い方を教えてもらったのだからな」
「はい、では行きましょう、僕は最下層の棚から調べてします」
粘り強い根気と、極限にまで研ぎ澄ました集中力が要求される、無限書庫での闇の書の情報収集がこの日こうして始まりを告げる。
無数の書物に対抗すべく、二人はある魔法を手にしていた。
それが前述のナオトの台詞にあった『検索魔法――リサーチアシスト』という術である。
思考を分割させ、複数の作業を同時に進行できる魔法、並列思考術――マルチタスクの効力を最大限に生かし、高速で情報を集めつつ整理処理できる。
これを使い、闇の書が作られた古代べルカの史料を複数同時に速読させつつ、書に関する記述が見つかれば、それを二人の指にはめられているデータの収納と保存に特化した指輪型のストレージデバイスに記録させるのである。こういった補助系統の魔法が得意なユーノは、500ページはゆうに超える史料を、何と20冊も同時に読み進めていた。
ナオトもナオトで、10冊の書物を読みながら、ユーノの分を集めたデータの照合、整頓を行う。デスクワークに秀でたスクライアの少年とスターコルベットのAIによる探索により、日によっては一日で五百冊以上の本が読破される事態さえ起きた。
かと言って、疲労と無縁とは言い難く。
「ユーノ、そろそろ休憩に入ろう」
「はい…」
ユーノは疲労で目がしらを抑えながら、ナオトからの餞別であるゼリーが入ったチューブを受け取った。
無重力なので、飲食にはこういったチューブタイプの容器が好ましい。
この時点では、書庫での調査を始めて三日目。
「あの、ナオトさん、どうなさいました?」
ウィダーを飲んで補給していると、ユーノはあることに気が付く。
いつもは生真面目な学級委員長の如く、眼鏡をかけた顔をポーカーフェイスの状態で維持している彼の口元が、僅かながら綻んでいた。
何となく、郷愁に浸っていると見てとれる。
「いや、弟が人間の姿なら、丁度君ぐらいの歳になるのかもしれない、と思ってな」
「ご兄弟が…おられたのですか?」
「いわゆる〝兄弟機〟と言ったものさ、開発中で、人工知能も未発達だったから、まともに会話したことはなかったが……」
苦みも混じった、懐かしむ声色でナオトは答えた。
エスメラルダ王家に仕える人型機兵は、ナオト――ジャンボットのみではなく、『過去』もう一機存在した。
「ベリアルのことは聞いたか?」
「はい、光さんから大まかに」
「彼の軍にエスメラルダが攻められた時に…消えてしまった……だがまだ生きているかもしれない望みは捨てきれなかった、ゼロからのスカウトを了承したのも、彼らと旅をしていればいつか名すら付けられていなかった弟に会えるかもしれない……と考えたからだった…」
今となっては、あくまで……過去な代物ではあるけれども。
その機体は、10年以上前の恐怖の皇帝カイザーベリアル率いる帝国軍の侵攻から守るべく、まだ完全に完成していない状態でレギオノイドの大群に立ち向かい、行方不明になったと、ベリアル銀河帝国との戦いが終わった後、エスメラルダ王から聞かされた。
明確に大破とも死亡とも見なされなかったのは、その兄弟機の肉体であるパーツが一欠片も発見されなかったからであった、らしい。
ユーノは彼の弟に関する立ち入りを、それ以上行わなかった。
自分も家族を亡くした身で彼の心境は汲み取れるし、度を超す深入りは禁物である。
何より今は、それ以上に優先すべきことがある。
気持ちを切り替え、魔導書の記録が記された史料探索の続行に移った。
いくら補助魔法でリサーチのペースを上げていても、さすがに二人だけでは厳しかった為、日によって閲覧申請の許可を出してくれたリーゼ姉妹に、ユーノにとって家族であり、同僚でもあるスクライア族の考古学者たちの助太刀も借りつつ進められていった。
それだけの人員を借りても、史料捜索な難儀な作業で、始めてから数日は、古代べルカ、べルカ王朝という国家が存続していた時代に猛威を振るっていた騎士たちの記述しか見つからなかった。
しかし、それでもめげず地道に調べを進めていくうちに、少しづつ核心に近づいていることも、また確かではあった。
そして、時は第二夜の戦いから一夜明けた朝。
ひそかに魔導師の少女たちの修練の場として使われている裏山の広場で形成された結界内では、今朝もまたおおとりゲンの指導の下、高町なのはとフェイト・テスタロッサは甘えを許さぬ厳しき鍛錬を積み重ねていた。
〝いつもの〟と言えるようになるまで繰り返された運動トレーニングのメニューを経て、今は実質身一つなゲン相手に、ツーマンセルでの模擬戦闘に挑んでいる真っ最中なフェイトとなのは。
訓練初日と比べてみると、二人の戦い振りは見違えるような多大な変化を起こしていた。
最初の日は、ゲンの長年の修練と実戦で鍛えられ、磨きぬかれた彼の物理的な圧迫感さえ押し寄せる鋭利な眼光の一筋で、呆気なく戦意を喪失させられたと言うのに、今は初日以上の貫通力を秘めた眼力に臆することなく二人はゲンに立ち向かっている。
様変わりしたのは、彼女らの戦闘への集中を持続させる精神力だけではない。
彼女らが使う魔法の数々は、以前より一層洗練され、精彩さを帯びていた――と、ゲンの目線からでもそう確証させる力強さに満ちていた。
こちらの一存で急速に魔力の出力が上げられても、巧みにそれを御し、むしろ自らの魔法の糧として最大限活用できている。カートリッジシステムによる出力アップにも、今の彼女らならば対応できるだろう。
丁度いいかもしれない。今朝、彼女らの〝魔法の杖〟の強化改修作業が完了したそうなのだ。
今の二人なら、パワーアップしたパートナーと上手くやっていけるだろう。
だが、その前に、問うておかなければならないことが、一つ。
「礼!」
「ありがとうございます!」
一瞬で背筋を整理させてしまう魔力を帯びたゲンの低音が響き渡り、彼と向かい合う形で直立整列するなのはとフェイトは彼の声に負けしと大声で応えた。
「ではやすめ」
と、続けてゲンが一言そう呟く。その直後、ビシッと地面から垂直に立っていた二人は、へなへなと足も腰も二の腕も背中も体勢を崩していき、尻もちを大地に着かせてしまった。糸の切れた人形が崩れゆく様をスロー再生で見た一部始終とも比喩できる光景であった。
「お疲れ様、はい」
「ありがとう、アリシアさん」
「もう……喉の中が砂漠みたい」
アリシアからの差し入れなスポーツ用清涼飲料水の入ったプラ製のボトルを受け取ると、直ぐにでも渇きを潤すべく、二人はゴクゴクと水分を体内に沁み込ませていった。
ゲンのスパルタなご指導で、この時既に彼女らは疲労困憊であり、さっきまでの姿勢の良い直立も、現状体内に残っている体力の残り滓を搾れるだけ搾り取ってどうにか為せた次第である。
バリアジャケットの生成を維持する魔力も余裕から程遠いのか、座り込むと同時に衣服が色もデザインも正反対なそれぞれの固有の防護服が解除され、聖祥大付属小製の長袖用体操着へと戻っていった。
季節は冬で、バリアジャケットには体温調節機能も完備しているというのに、体中てかりが出るまでに汗だくで、息をぜえぜえと吐き続けさせられるまでに疲れを実感させられる二人。
どことなく、小さい子が大好きな一定層の歓喜の声が聞こえてくる感覚が過るが、気のせいにしておこう―――もしやと感じた方、あなたのことかもしれませんよ、今のはさらっと忘れて頂いて下さい。
疲労の大半の原因は、やはりゲンの空気感は実戦そのものな模擬戦闘、これでも彼女らに合わせてある程度加減を抑え、ウルトラ念力以外はウルトラ戦士としての超能力は使わず、己が身だけで応対していたのだが、それでもなのはたちにとってはハード極まる試練であった。
これもやはりと言うべきか、対してゲンは飛びまわりながら魔力弾、魔力砲撃、魔力斬撃などといった攻撃を仕掛けてくる少女たちを相手にしていたというのに、一滴も汗を流さず、一欠片の体力も消費していないのでは? 誤認したくなるまでに平然としている。
さすがは獅子の名を持つウルトラ戦士、人間体の姿であっても激闘と鍛錬で積み重ねられてきたその貫禄は一切劣らない。
「二人とも、楽な体勢のままでいいから聞いてほしい」
「は…はい」
「何の話ですか?」
なのはとフェイトは、ゲンの改まった態度に疑問を感じるも応じる。
「今日は君たちにとって、念願とも言える吉報を持ってきた」
そう彼が言い終えるとともに、ゲンの横に転移用魔法の魔法陣が現れ、直線状に光を放出する円内に、人物の輪郭が少しづつ浮かび上がり――
「母さん」
――魔法陣が消えたと同時にプレシアが現れ、この結界内への転移を完了させた。見ると彼女の右の掌の上に、長方形型な指輪などの宝石をしまうフロッキング製のジュエリーケースが乗っていた。
「プレシアさん…ひょっとしてその箱の中にあるものって」
「おまたせしたわね、あなたたちの大事なパートナーよ」
それを聞いた途端、その体力が一体全体身体のどこに残っていたのか、地面にへたりこんでいた二人は驚きひょいと一瞬でその場から立ち上がった。
吉報――良い報せと聞いて、薄々感づいていたにも拘わらずだ。
プレシアはケースを開き、中にしまわれていたものをなのはたちに見せる。
「レイジング…ハート?」
「バル…ディッシュ?」
紛れも無く、なのはとフェイト、二人の魔道師の少女たちを支えてきたインテリジェントデバイスたち、レイジングハートとバルディッシュだ。
何とも不思議な感じだ。結界の効果で体感時間が通常より長いのを踏まえても、実際の時間にすれば、二人が離れ離れでいた期間よりも遥かに短いというのに、かなり久々に会った気がする。
感慨の想いが大きく過ぎて喉にでも詰まっているのか、上手く言葉として出てこないのだけれども、それでも自然と二人の頬が笑みを形作っていた。
ケースの中にいるのが彼らであることは、使い手たる二人は一目で分かったが、一方で現在待機モードなデバイスたちは、以前の姿とはいささか以上に、その姿かたちを変えていた。
『お久しぶりです、我がマスター』
「にゃはは、そうだね」
片やレイジングハートの方は、ルビー色のガラス玉の姿は変わらずだが、首に掛ける紐の付け根の形状は若干差異が見られる。
「バルディッシュも久しぶり、元気にしてた?」
『yes,sir』
「あはは、無口なところは変わらないね」
片やバルディッシュはというと前のとの違いはより顕著で、金色の光沢を放つ逆三角形状なところは一緒ではあるが、各辺には台形状の窪みが入り、より鋭角的な印象を与える姿となっていた。
最低限の応対しかしない、規律に従順な職業軍人的無骨さを感じさせる口調の方は相変わらずである。
『不器用ですから』
「あれ? 今日本の俳優さんみたいなこと言わなかった?」
『おそらく偶然の一致とかと』
「なら……いいけど」
今の無骨なデバイスのささやかなユーモアは、気にせずスルーしても構わないが……恐らく偶然に一致したわけではあるまい。
「変わったのは見た目だけないよ、名前もちょっと新調したんだ」
「新調って、よくアクションモノのアニメとかで、主人公がパワーアップする…みたいなのですか?」
「そう、レイハちゃんの方は、レイジングハート改め、『レイジングハート・アドバンサー』」
「アド…バンサー?」
聞き慣れない言葉だ。聖祥では初等科から英語は科目に入っており、ある程度英語について知識があるものの、少なくとも英語辞書にそんな単語は無かった。アドバンス――Advance、前進、進むという意味な言葉なら載っていたが。
「いわゆる造語だよ、ちなみに意味は『前へ進む人』、レイジングハートと合わせると―――『不屈の心で前進する者』ってとこかな」
「じゃ姉さん、バルディッシュはどんな名前に変わったの?」
「バルちゃんの方は、『バルディッシュ・スパークル』」
スパークル――sparkleとは、輝き、煌めき、閃光という意味せある。
「地球だとバルディッシュは斧の一種だから、『闇を照らす戦斧』だね」
「かっ…かっこいい」
「うんうん」
『そうでしょう? えっへんです』
仮にもというか遺伝子的にの心的にも列記とした女の子だというのに、この二方はすっかり愛機たちの新たな名に目を煌めかせ、レイジングハートはそんな二人のリアクションに、それまでの彼女では考えられないような返しをした。
一応男女とも、大小なり異性的嗜好を秘めているものだと補足しておく。
「(この子たちのAI、やっぱり少し弄り過ぎじゃないかしら?)」
「(いいのいいの、これくらいのはったちゃけ具合、リンクちゃんに比べたら大人しい方だって)」
今の念話の応酬から窺うに、やはり主犯格はテスタロッサ親子、というよりほとんどアリシアが実行犯な様子。
確かにリンクことウルティメイトイージスは、元はあるウルトラマンの光と人々の諦めない想いが具現化した神秘のアイテムにしては、とても人間らしさ溢れる人格を会得したきらいがあるけれど。
「生まれ変わったパートナーに一喜しているところに水を差すようですまないが、彼女らを渡す前に、一つ聞いておきたい問いがある」
「は、はい」
厳かで渋味の利いた低音のゲンの声が、一時緩んでいたその場の空気を一気に引き締めさせた。よく見るとプレシアも、先程の穏和な顔つきから一変して、厳然さも醸し出さす凛とした表情となっている。
大人たちの真剣な眼差しに、フェイトたちも顔から笑みを一度消し、背を正して目を合わせた。
「今勇夜君たち、ウルトラマンゼロたちが相手にしているのは、自分の手を血で汚して、自身の体をを黒ずむ泥を被ってでも、掴みとりたい望みを持った人たちと、そんな純粋な願いを利用し、己の邪悪な欲望の為に暗躍して者たち―――――そして、ウルトラマンですら圧倒し、次元をも消滅させかねない力を秘めた魔導書よ」
なのはたちも聞かされた……暴走を起こした呪いの魔導の本の恐ろしさ。
ゼロにウルティメイトイージスを与え、ウルトラ戦士でさえ苦戦させ、追いつめた怪獣の大軍を、いとも簡単に駆逐、掃討してしまう計り知れない破壊の力と、単体で次元の壁を越えるなどといった神秘の力を宿し、全容を未だ見せない銀色の巨人―――ウルトラマンノア。
単純な戦闘能力の測りでも、実在するウルトラマンの中で、最強クラスに位置していると言えるのは大げさだと断じれない。
闇の書の暴走は、様々な因が重なったとはいえ、そんな彼でさえ、身を引き換えとした封印でしか止められなかった恐るべき存在だ。
「無論私たちは、そんな最悪の惨禍を断固阻止する心構えだ、だが……苦戦も免れないのも事実、守護騎士たちは今まで以上に死にもの狂いで戦うであろうし、暗躍する者たちの妨害も激しくなるだろう」
「つまり……勇夜たちと一緒に戦うってことは、命を賭けなきゃならないほど、重いものであると……いうのですか?」
「そうだ、まだ若く幼い君たちの命を、生きるか死ぬか、この二つの分岐が設けられた天秤に賭けなければならない、君たちの心に、刃にも似た鋭さのある辛い体験をも負わせかねない」
「ウルトラマンたちと共に戦って、魔導書に関わる者たちに立ち向かうというのは、そういうことよ」
今なら、確かな実感を以て理解できる。
この厳格さが漂う二人の貌と、言葉の裏には、まだ幼子ななのはとフェイトを想い、案じ、心配し、できることなら命を秤に置かなければならない危険な場へと身を置かせたくないという情想――愛が存在している、と、幼い彼女たちでもそれを感じ取れた。
「それでも、君たちは、君たちの魔法で、少しでも〝彼ら〟の力となり、〝彼女ら〟を救いたいと願う気持ちに、一点の曇りも無いか?」
ここ数日、より厳しい魔導の修練に勤しむようなってから、二人は思い知らされ、直視させられた。
「確かに、勇夜たちは、私たちより……ずっと強いです、体も……心も」
自身はまだ子どもで、何もかもまだ小さくて、幼くて、未熟でちっぽけで、井の中の蛙同然で、ただ魔法が使える、ただそれだけな……ある意味では調子に乗って、良い気になってしまっていた身であると。
自身の背中と、合わせたかった人たちの背は、思っていた以上にずっと大きくて、比べ物にならないくらい逞して、まさに人々から〝ヒーロー〟と呼ばれても遜色ない勇士であるいうことを。
ゲンとプレシアの言葉には、そんなヒーローたちに任せて、危ういバランスの上にあるとはいえ、穏やかな日常を過ごすのも手であると、自分たちはその選択肢を手にとっても恨みはしないと、裏にそう潜ませていた。
でも―――
「だけど、それでも………」
一度喉が詰まりかけ、息を整え直し。
「わがままだと思ってくれても構いません………それでも諦めたくないんです………ここで中途半端に終わりたくないんです」
「どんなに自分が非力でちっぽけでも、少しでもできることがあるなら、勇夜………ゼロたちの力になりたい、なってあげたい、そんなヒーローにばかりに重荷を背負わせるのは嫌なんです」
大人たちの目と自身の目を、真っ直ぐに合わせて伝える。
「「これが、私たちの気持ちです!」」
偽りのない、剥き出しに等しい自ら情動を、言霊に変えて発した。
実時間を測れば、それほど長くは経ってはいない…が、当人たちにとっては妙に伸長された体感時間が、黙然とした空間の中を流れていく。
アリシアも、普段の快活さを奥に潜めさせ、真剣な眼差しで見守り手に徹していた。
短いのに長い、単語にすれば矛盾してしまう時の流れを経て、ゲンはプレシアにアイコンタクトで意思を伝え、プレシアも目線と頷きだけで応えると、手に持っていたジュエルケースを一旦アリシアに手渡しつつ、箱に添えられていたレイジングハートとバルディッシュを両の手にそれぞれ置き。
「なら、この子たちと一緒に力を貸してあげて、どんな困難にも諦めずに進むあなたたちのヒーローの光――ささえになってあげなさい」
ありきたりな言い方ではあるが、慈しみと愛しさと母性に満ちた表情を顔に浮かばせて、デバイスたちを担い手たる魔法少女たちに差し出した。
「そして忘れないで―――私たちも、彼らと二人に全てを背負わせたりはしない、私たちも自分ができることを尽くして、あなたたちの未来も守るわ」
ゲンもまた、容貌から厳格さの紐を解いて、ずっと表には出さず隠していた頬笑みを彼女たちに見せた。
「私も皆も、いつでも君たちのことを思っている、君たちもまた、一人ではないのだぞ」
一人ではない……そう、少なくとも思いを共有している事実が、実体となってそこに在る。
「「はい!」」
大人たちの誠実な気持ちにぶつかってまで、我を通してしまったことに申し訳なさが浮かびつつも、それでも背中を押してくれたプレシアたちに感謝の念を送りながら、なのはとフェイトは、生まれ変わって帰ってきた自らの愛機を受け取り、そっと握りしめた。
たった今この瞬間体感したものを、忘れない為に、記憶に刻みつけるようにして。
「どうしてるかな…あの二人」
「勇夜が新たに命名したデバイスたちに心躍る一方で、頑として譲らずゲン殿たちに主張してるでしょう」
「アルフ、精神リンクで何か分かるか?」
「光の言った通りになったみたい、何となくだけど強い気持ちを感じるよ、あ…晴れやかな感じに変わった」
対闇の書臨時捜査本部も兼ねているマンションのテラスでは、勇夜、光、アルフの三人が、フェイトたちの現況を想像しながら、柵に身を寄せて帰りを待っていた。
アルフが精神リンクでフェイトの感情の変遷を知覚して間もなく、テラスに認識阻害の結界が張られ、中央に魔法陣が現れた。
その円陣に、なのは、フェイト、アリシア、プレシアが姿を見せる。
尚ゲンの方は、無限書庫探索中のナオト、ユーノ達の補助にその足で向かったのでこの場にはいない。
「おかえりなのは」
「ただいま光兄」
「今日も結構ばてたんじゃないかい? 体操服が汗でびっしょりじゃんか」
「お風呂沸かしてあるから、入っていらっしゃい」
「ありがと母さん」
「仲良く流し合いっこでもする気かな? お二人さん」
「ふぇ?」
「か、からかわないで下さいアリシアちゃん」
「赤くなることないよ、女の子同士なんだし、何の問題もないでしょ?」
「プラス二人は親友ですからね」
「光兄まで…」
「光君、女の子の赤裸々な会話に下手に入りこむと火傷するわよ」
「これは失礼、以後お気をつけます」
家族と他愛もない談話を交わすフェイトたちの様子を、勇夜はまざまざと見つめる。
大丈夫みてえだな、と彼女たちの顔を見てほっとした。
二人が昨日のことで思い詰め過ぎて、心を縛り付けて負担を掛けているのではないかと、気がかりであったからである。しかし今のフェイトたちは何と言うか、重しが取れて吹っ切れたように見える。
少なくとも、一人で強くなろうと意気がり過ぎてバカをやらかしたかつて自分と同じ顛末に至る心配は無さそうだ。
〝忘れるな、私もみんなも、いつでもお前のことを思っている―――お前は一人じゃない〟
って……なんだってこんな時にアナザースペース……現在光の国じゃ《エメロードスペース》と呼ばれてる世界に旅立つあの日の父さんの言葉を思い出してんだよ俺。あの時も今も、その言葉に籠められた父の想いには嬉しさを身に宿してはいるが、彼のシャイな性分ゆえ、いざ思いだすとこそばゆく、かつ歯がゆかった。
後は…クロノたちか、自分の中にあるもんとどうケリを着けるかは、やっぱり最後には自分でどうにかするしかないからな、悔しいけど。
せめて………信じてあげなきゃ、フェイトたちみたいに、吹っ切れられるように。
「勇夜」
「ん、何だフェイト?」
一人思案していたところへ、フェイトが彼に尋ねてきた。
「今日も街へ調査に出るんでしょ?」
「ああ」
「私にも……手伝わせてくれない……かな」
ややもじもじとした口調と、上目遣いでフェイトはそう切り出した。
昨夜の姉からのアドバイスを元に、彼女なりに魔法を使って戦う以外に自分ができることを考えて導き出したのがこれ。一応、どういう形で貢献するかの具体的な方法も思いついてたりする。
「へ~~~フェイトもやるねえ、お手伝いの名目でデートの催促するなんて」
「ふぇ!?」
「あらフェイトったら、大胆ね」
「策士です」
「ほ、本当なの!? フェイトちゃん!」
「ちょ、何言い出してんだよアリシア! お前らも真に受けてんじゃね!」
アリシアが投下した大胆、というよりは諸に爆弾発言な一言に、普段のクールさを崩されてテンぱり素が諸に出てしまう勇夜であったが、一番影響を受けているのは、勿論妹のフェイトの方。
デート………デート………デートデートデートデートデート。
姉が口にした一文に入っていた単語が脳内にこびり付いて消えない。何度も繰り返し再生される度に顔と頭の熱量が増していく。無意識に両手が赤くなる頬へと張り付かせていた。
そうだ……どうして思い至らなかったのか、異性である勇夜と一緒に街を出歩く…………そんなシチュエーション、どう考えてもそれは――――デート。
ひゅ~~~~ん、パタリ。
「フェイト…フェイトォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!」
今の擬音語と勇夜の叫びで大体状況は把握できた筈だ。熱と血流の上昇で脳内がオーバーヒートを起こして、フェイトは綺麗にその場から後ろに倒れ込んでしまった後に恥ずかしい思い出と化す出来事。
まだまだ恋煩いの免疫ができるまで時間が掛かりそうな、純情魔法少女―――フェイト・テスタロッサである。
つづく