ウルトラマンゼロ The Another Lyrical Story 第一章   作:フォレス・ノースウッド

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ハーメルンでも半年以上のブランクを置いてしまい面目ないです。

しかもまだ続きができていない……源三郎信幸もとい大泉さんの頭並みに現状空っぽ(バラエティの企画でドラマの脚本を書くことになった際、余りの遅筆で締め切りを何度も踏み倒したことがある)

そんなのはさておき、今回と次の回はザッフィーのいぶし銀が光る回となっております。


STAGE46 - 依怙地

 著名な画家が描いた絵画のものと錯覚させられそうな、澄み渡る色をした青空。アクセントとして空に飾られているのは、小から中規模の雲たちと、計3つは惑星を周回する衛星。

 地上からの視点では、どこまでも黄金に近い色合いな砂ばかりの地平線。

 管理世界が命名したこの星は第42無人世界、惑星ディザール。

 とても人が住むには適していない過酷極まる環境な灼熱の惑星。

 その星の一地帯で、地面が大きく揺れを起こした。

 星そのものが引き起こす地震ではない。

 非常に巨躯な物体が、大地にぶつかって発生した振動だ。

 物体は巨大生物だった。

 ロープ状の体躯で、一部の体が地の中にいるので、正確な大きさは測れないが、地上に出ている部分だけでも100mはある。

 光沢ある茶色で、甲虫のような円筒状の殻な表皮が、生物自身の動きを妨げぬよう均等に区分されて覆われ、下部には多数の節足。

 目は黄緑色な複眼、口は全ての脊椎動物共通の縦開きでなく、横に開くタイプで、左右に大きく牙が伸びていた。

 この節足動物の特徴を備えたリンカーコアを宿し魔法生物――マギティアの一種。

 管理世界で付けられた固有名称は、バルディス。

 普段は地中に棲息する種で、自らの縄張りに踏み入れた者には問答無用で襲う凶暴な生命体だ。

 今この星では、肉体が魔力でできているという体質等は別にして、ある〝人間〟たちが度々出入りしている。

 

「ヴィータが手こずるのも……無理はなかったな」

 

 その一人―――シグナムが、バルディスの一体を瀕死寸前に追い込んだのだ。

 戦闘不能に追い込めたものの……連日続く連戦による疲労と、バラディスの巨体と凶暴性に裏打ちされた戦闘能力によって苦戦させられながらの辛勝。

 彼女の騎士甲冑――バリアジャケットは全身汚れと砂と損傷に塗れている。

 魔の鎧の下に隠れた彼女の皮膚も、戦闘のダメージで綺麗とは言い難い。

 特に自由に伸ばせるバルディスの節足の縄に全身を羽交い絞めされていた為に、全身が痣だらけであった。

 傷だらけのシグナムは、自身の掌の上に……当人たちが真の名を忘れてしまった魔導書を出現させ、ページが開かれる。

 

『Sammlung』

 

 日本語で、〝蒐集〟を意味し、魔力を奪う一方的な通告にも等しい言葉が、無機的で……無情な声で、魔導書から発された。

 バルディスの蛇行する巨体から、リンカーコアの光球が現れ、そこから漏れる粒子たちが書のページへと集っていく。

 蒐集中、対象たる魔力保有生命体が喩え様のない激痛に苛まれるのはどの生物にも平等に当てはまり、この巨大生物ももがき苦しみ、天を切り裂かんばかりの重い悲鳴を上げていた。

 悲鳴はまるで、こんな理不尽をしいた存在への恨みが呪詛が籠もった呪詛のようにも聞こえてくる。

 

『vollendung』

 

 書が『完了』と発声し、バルディスのコアに蓄積されていた魔力は根こそぎ強奪され、白紙のページは魔法陣とベルカ語の文字たちに埋め尽くされていき、蒐集の苦しみからある意味解放された巨体は、砂塵の大地に爆鳴を轟かせて倒れた。

 満身創痍なシグナムは魔導書を手に取り、白紙の頁数を数え、完成に必要な残りの魔力量を確認する。

 現在466ページ。

 自身が集めた分と、他の世界で集めている仲間の分を合わせて、今日は34ページは刻めていた。

 成果としては上々な方だ。

 残りは200ページ……全ページの3分の1を切った。

 調子が良い日は続けば、12月中には蒐集作業を終了できるだろう。

 そうすれば、主はやての体を命を蝕む〝呪い〟を消すことができる…………筈だと言うのに、終着点が見えてきたというのに、素直に喜べそうになかった。

 まだ予断は許されないのも、理由の一つではあるのだが……最も強い理由は、少なからず、自分たちが選んだ手段に対し、前より確実な方法であると、断言できなくなっていること。

 すなわち、蒐集がはやてを救う術だと、確信が持てなくなっていた。

 迷いを齎す要素は、幾重にもある。

 

 内一つを挙げるとすれば―――諸星勇夜。

 

 シグナムが一昨日の海鳴で激闘を繰り広げた少年。

 魔導書の休眠期間を踏まえても、何百年と戦いに明け暮れる日々を生きていた彼女でも舌を巻く戦闘能力を彼は持っていた。

 烈火の将が今まで相まみえてきた者たちの中では、掛け値なしにトップクラス、彼と並ぶかそれ以上の存在は、シグナムと交戦したという条件内で言えば、〝ウルトラマンゼロ〟ぐらいしかいない。

 異名の〝魔導殺し〟に偽りはない、並の魔導師相手には魔法に依らずとも一ひねりしてしまうだろう。

 その戦い様は、剛胆で怜悧、大胆にして優美。

 振るわれる拳は力強く熱気溢れ、逆に鞘から抜く刀の一閃は氷の結晶のように流麗。

 生物としての本能と言う名の直感と、人としての知性を上手く併用し、溶岩並みに熱い闘志を以て斬り込みながら、沈着さのある思考でコントロールして、逆境を打ち破ろうとする意志の強さ。

 ほんの一面だけでは捉えられない多面的な戦闘技能は、相手が強者の上の上なほど異名の如く心中の火を燃え上げる一面を持つ彼女を昂ぶらせるまでにハイレベルであった。

 戦闘の甘美な味に酔って、攻めに傾き過ぎたのもあって、一歩間違えれば……いや、あの横槍が無ければ、敗北していたかもしれない。

 だが、あの時諸星勇夜が見せた力には、単純な技量の高さだけでは説明できない〝なにか〟がある………何と表現すべきか……彼の雄姿の内には、闘志や勝利を掴もうとする意気とは別に、局から受けであろう依頼の遂行を超えて、是が非でも蒐集行為を止めようとする〝感情〟を、彼女の直感が見通していた。

 その感情の具体的な形までは分からない、しいて言えば……騎士たちの蒐集行為を、災いを呼び起こす〝起爆剤〟として認識しているようであるのだ。

 その彼を、一方的に圧倒してしまったのは―――

 

 破壊など不可能と思わせる強固なバリア。

 エネルギーの吸収と反射。

 素早い上、連続で使用できるテレポート。

 

 それらの力を惜しげもなく使って戦場を掻きまわし、電子音に似た不気味な泣鳴き声を発す、黒い異形の怪物。

 普段なら、強敵たる存在と相対すれば熱く昂揚し高鳴る心は戦慄で冷え切り、明らかに〝武者震い〟とは全く異質な震えに苛まれていたと、今の自分は確信できる。

 その瞬間の自分は、その震えの正体すら分からぬまま、足下に出現したミッド式の魔法陣で結界外に強制転移されてしまった。

 あの怪物含めた一昨日自分たちの逃走補助に現れた生物たちも、11月末での戦闘で現れた巨大生物と同様、グレンたちのいた世界に棲息する生命体に違いない。

 そしてその生命体の手綱を握っている存在は、自分たちにすら正体を隠し通しながら、蒐集に手を貸していると見て良い。

 一番解せぬのは、そこだ。闇の書を扱えるのは主と選ばれた人間――つまり今ははやてのみで、その主すら完全に魔導書を覚醒し、管制人格たる〝彼女〟のサポートなしでは十全に扱えない。

 逆に蒐集を終えなければ、それすらもままならない。

 完成前にしても、完成後にしても、外部の者では魔導書の力を手中に収めることは不可能、ならば……自らをベールに包ませたままな奴らの目的は……あれほどの強大な生ける者を御するだけの術を持ち得ながら、やつらは自分たちに助力し、魔導書を完成させて一体何をしようと言うのだ?

 あの黒い怪物とは、また違った不気味さとうすら寒さを感じざるを得ない。

 いっそ……はっきりと断じてくれた方が、まだ良いと考えてしまう。

 主はやてたちに会うより昔、眠りから覚めている間は、それこそ歴代の主の命じられるまま人を殺め続けてきた。

 現在まで恨まれる節は、いくらでもあった。

 久遠の身を以て示してくれた戒めによって、我らの行為が新たな〝恨み〟を生む種をまくものだと心身に刻み、重々承知している。

 それを覚悟の上で、また愛刀を手にとったのだ。

 ただし……生まれつきの冷静を備えるザフィーラや自身はともかく、他の仲間たちが冷たき言葉に耐えられるか、怪しい。

 

 八神家宅からそれ程離れていない公園で強制転移された時、一時は抜け殻のように放心していたヴィータも転移されてきた。

 

 恐らく〝遺族〟の身でもある管理局の幼き執務官の執念に根負けし、グレンが助けに来てくれなければ、シャマルはあえなく捕えられていた。

 

 この半年で育まれた〝心〟は、確実に我らの枷となっている。

 皆できるだけ表に出さぬよう心がけているが、昨日の主の家出は、その枷ともなっている心に追い打ちの負担となっているのも事実だ。

 実を言えば、烈火の将も例外ではない。

 

 具体的な形は分からずとも、明確な根拠と意志を見せ、真っ向から蒐集を阻んできた諸星勇夜たち。

 

 全く真意を見せぬまま、致命的な危機に陥った時にのみ、助け舟を出してくる者たち。

 

 彼らの存在が、彼女の心中に小さくない不安を植え付け、それは〝家族〟の現状をも餌にし、大きくなっていく。

 

 もし……もしも、主を救う為にとった選択が、何らかの災いを招く―――パンドラの箱―――だとしたら。

 

 脳内に生まれ育つ疑念を、シグナムは必死に振り払った。

 

 落ち着け、何を考えている……仮にもリーダーたる己がこんな体たらくでどうする?

 主はやてを救うには………我らより以前から主の家族であった者たちを悲しみの沼に沈ませないためには、この一手しかない。

 

「お前に殺めさせはしない―――」

 

 左手で持つ魔導書の中にいる〝彼女〟にシグナムは語りかける、

 何より、まだ主から名を貰っていない〝彼女〟を目覚めさせなければ、彼女が主を殺してしまうことになるのだぞ。

 

「―――主はやての………命を」

 

 そんな結末には、断じて至らせない。

 何としても、手遅れになる前に……魔導書の覚醒を完遂させる。

 

「すまない、もう少し……力を貸してくれるか? レヴァンティン」

『ja』

 

 相手が誰であろうと、それを阻もうとする者には、このレヴァンティンの刃で打ち払う。

 

 

 

 

 特に……諸星勇夜と、ウルトラマンゼロ。

 もしまた障害として目の前に現れるのならば、次は―――必ず勝つ。

 

 

 

 

 

 雨が降っている。

 雷鳴と雷光を轟かす灰色の雲海から落ちて来る水流は多く、豪雨と呼べる雨足の強さであった。

 大量の雨粒たちで視界は霞み、強い雨音はそれ以外の音を聴覚に伝達させにくくさせ、流が沁み込んだ草原の大地は、ぬかるみで不安定な状態だ。

 第36無人世界、惑星クラージュ。

 ディザールとは反対に、緑の大地が溢れる星。

 星内の、たった今大雨に打たれる草原の上を、ヴィータは歩いていた。

 彼女もまた……ボロボロだ。

 甲冑のスカートの裾は抉れるように破れ、紅い色の衣にはところどころ、それよりも暗い色味なヴィータの血が染み付いていた。

 血は彼女の額からも流れ、幼い容貌がその痛々しさをより酷く見せる。

 グラーフアイゼンを持つ体力も残ってないのか、泥の海と化した草原に愛機を引き摺り、重くなった脚を上げ、微々たる速さで進む。

 水気で脆くなった泥は、一歩進み続ける度ヴィータの小さな足を捕まえようとし、それに抵抗する度に体力はさらに消費されていき、ついに泥濘に足が埋もれ、バランスを崩して前屈みに倒れてしまう。

 うつ伏せに倒れたはずみで泥が口の中に入り、体が反射的にせき込み吐き出した。

 血だらけな彼女の身体と甲冑は泥で黒ずみ、帽子に付けられている〝のろいうさぎ〟の顔人形にも沁みができていた。

 

 ヴィータがこんな状態になっているのは、先刻のマギティアとの戦闘が原因。

 彼女が戦ったのは、大きさは4~5mくらいの猛禽類型、母親なメス。

 当初はヴィータが圧倒。ダメージを負わせ、いつものように蒐集しようとした。

 しかし、その時マギティアが育てていたひな鳥たちが、懇願とも見てとれる悲痛な鳴き声を発してきた。その声に一瞬気を取られたヴィータに、親鳥は傷だらけの身ながら必死の反撃を敢行、一糸報われたヴィータは止むおえず撤退し、途中から豪雨を浴びて今の泥水の大地に浸る状態となっている。

 彼女が蒐集に逡巡し、親鳥の返り討ちを受けてしまったのは、雛鳥たちの悲鳴を聞いてしまっただけではない。

 その声が耳に入り、雛たちの姿を視界に捉えた時………二つのイメージが浮かび、重なったのだ。

 

 自分に襲われ追いつめられ、恐怖で顔を歪ませた――白い甲冑姿をした魔導師で日本人の少女。

 

 穏和さが形となったような顔を大粒の涙と痛哭でぐちゃぐちゃにして、必死に止めるよう叫ぶはやて。

 

 彼女の心中で着実に育っていた生ける者から魔力を奪うこと含めた罪悪感が、この二つのイメージを形作り、体にも心にも小さくはない傷を刻ませた。

 心身に尾を引く痛みは今も彼女の胸中に残留され、同時にこの雨並に冷たい現実をまざまざと知覚される。

 今ならば……分かるんだ。

 一昨日のあの二刀剣士の言葉は、警告だと。

 敢えて偽悪的に〝悪魔の仮面〟を被って………あの辛辣な警告を伝えてきたのだと。

 わざわざ久遠が、自ら魔導書の贄となってくれたのに……剣士の悪魔的な物言いではっきり言われるまで、重みというやつから、目と耳を閉じていた。

 全ての頁を蒐集し終えて、魔導書を完全に目覚めさせて、はやてに〝真の主〟になってもらう。

 そうなった時………はやてはどう思うだろう?

〝多分〟とか、〝きっと〟どころじゃない………絶対に、自分を攻めてしまう。

 はやては〝善意〟が擬人化したくらいとても優しい子だから、自分の命が助かった引き換えに、大勢の人間が傷ついて……苦しんだことに対して、〝自分のせい〟だと苦しんでしまう。

 昨日のはやての家出が、それを証明してるじゃないか。

 はやては、結構勘が鋭いところがあるから、あの日……自分たちが家にいない間何をしてたか、気づいてしまったんだ。

 そのことにショック受けて、でもあたしらを攻める気にもなれなくて、分け分かんなくなって一人、街の中彷徨うしかなかった。

 昨日だけでも辛かった筈なのに………剣士の警鐘の通り、この先実行者である自分たちの主なはやてにも、恨み節吐く人たちだって……たくさん出てくる。

 蒐集された人の悲鳴が魔力に宿って、耳にノイズといて響くくらい強い恨み節。

 

〝うっとぉおしい…………ああ! うっとおしい!〟

 

 特に自分なんざ、戦場で喚いてはイライラ発散して八つ当たりしてアイゼン振るってきたから、恨み買う心当たりは多過ぎる。

 怨念塗れで、ナイフで抉られるに等しい心無い言葉の数々にも、自分がやらかしてしまった罪同然に、受け止めてしまう。

 そして自傷を続ける余り、いつか笑うことすら忘れて、心を壊してしまう。

 そうなったら………流石に紅蓮も久遠も、私たちを許さないだろう。

 今はそうでなくたって、この可能性が未来の現実に起きないなんて……なんで保障できる?

 

 体を打ちこまれる無数の雨に混じって、彼女自身の水も流れ出し始めた。

 

 悔しい……はやてを蝕む呪いを解く方法が、蒐集であることが。

 悔しい……救おうとするつもりが、逆に追い詰めてしまってることが。

 悔しい……せっかく人並みの暖かい暮らしをくれた人たちに、

 

 ヴィータの心情に惹かれでもしたのか、巨大な積乱雲から降る雷の一柱が、彼女が倒れる地点から目と鼻の先に浮かぶカスピ海並の広大な湖の、岸に比較的近い湖面に落ちた。

 数億ボルトの落雷が水中を駆け巡り、放電のショックが引き金となって、湖に潜んでいた巨獣たちを呼び覚ました。

 湖面を突き破り、荒波を起こして暴れ狂うのは、マッコウクジラに似た白い体躯と、サメ以上に鋭い牙を口に生やし並べた水生生物型マギティア。

 彼らの暴れ様を目に留めたヴィータは、重い疲労に満ちた体に力を込める。

 

「痛くねぇ………こんなの………ちっとも痛くね………」

 

 あたしたちのせいで、はやてたちは……もっと痛くて……辛くて……苦しい思いをしてんだ。

 それに比べればこんな怪我程度………どうってことない。

 

 自分にそう言い聞かせ、アイゼンの支えを借りて、ヴィータは体を鞭打って立ち上がり、マギティアへと飛翔。

 

 もう……自分がどうなっていい……〝悪魔〟と呼ばれたって構わない。

 それでも………嫌なんだ。

 はやてが痛くて……苦しみながら、どんどん弱って………苦しんで………死んでいくのは………嫌だ!

はやてが弱っていく姿を見てグレンたちが、辛い気持ちのせいで痛い目に遭って、悲しむのは……絶対に―――嫌だ!

 

 だから――――

 

「アイゼン!」

『Verständnis』

 

 ヴィータの呼びかけに応え、グラーフアイゼンが変形と拡張を開始。

 ハンマーヘッドがヴィータの身長並に巨大な角柱へと変わる。

 これがグラーフアイゼンの、第三形態。

 

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」

 

 巨大化した愛機を大きく振りかぶり、心と体を縛り上げる鎖や枷を振り払うが如き勢いがある叫びを、喉から迸らせたヴィータは、興奮で我を忘れたマギティアたちに突貫していった。

 

 

 

 

 

 海鳴市街の色合いを赤く染め、太平洋の海面に半分は浸かる夕陽。

 橙の光は、腕を組んで立つ諸星勇夜と、病室のベットの傍の椅子に座る高町なのはとフェイト・テスタロッサ、そして三人の心配する眼差しを向けられ、ベットの上で眠る八神はやてをも照らしていた。

 火星で、グレンの男泣きを受け止めていた勇夜――ゼロに長距離通信をしてきたのは、なのはのレイジングハート。

 

『念の為にと連絡をしておきます、八神はやてがナハトの浸食による発作で倒れました、現在大学病院で治療を受けておられます』

 

 彼女からの緊急の報せを聞いたゼロとグレンは、即座に速足ならぬ速飛びで海鳴に戻り、大学病院に駆け付けた。

 

「あの、紅蓮さんは?」

「今石田先生から検査結果を聞いてるところさ」

 

 はやてが病院に運ばれた経緯を述べると―――その日の夕方、なのはとフェイトは今朝思い付き、快く賛同してくれたアリサとすずかの4人で、勇夜たちが借りるマンションではやてと一緒に遊んでいた。

 遊びの中身は、テレビゲームだったりカラオケだったり、大富豪にページワンに賭け金なしのポーカーなどのトランプだったり。それらの遊戯を楽しみながらの談笑。

 五人がこうして遊ぶのは今日が初めてだというのに、何だか前々から五人揃うのが当たり前であったかのような……と感じさせる弾み様だったらしい。

 はやても、フェイトたちに今は家出中であると一時忘れてしまうくらい笑っていたそうだ。

 そうして娯楽を堪能し、時間が時間なのでアリサとすずかは先に帰り、二人を見送った後部屋に戻った時にフェイトたちが見たのは―――リビングのカーペットの上で、胸を抑えて倒れ込み、発作で過呼吸を起こすはやての姿。

 この時フェイト以外の住人は、買い出しやら魔導書の調査やらで全員外出しており、二人ははやての病態の急変に当初は慌てふためくばかりだった。

 

「バルディッシュたちのお陰で、どうにか早く病院に送れたんだけどね」

「サポートご苦労さん、二人とも」

『お礼には及びません』

『右に同じ』

 

 そこへ彼女たちのインテリジェントデバイスが、的確にレクチャーしサポート。レイハたちのお陰で早急に救急車を呼び、はやては大学病院に搬送されて治療を受けられたわけである。

 

「あんまり効きそうにないが……しないよりは、マシだからな」

 

 勇夜は、はやての体の真上の位置に掌を下向きに添えると、球型の光粒子が手からはやてに降り注いだ。

 生物の生命力を活性化させる治癒効力のある特殊光線〝メディカルパワー〟、人間体時でも使える超能力の一つ。

 しかし定期的にメディカルパワーを照射しても、せいぜい浸食の速度を弱めるくらいの効果しか望めそうにない……〝雀の涙〟になるかさえ怪しかった。

 それでも、少しでもはやてに降りかかる苦痛を緩和できればと、メディカルパワーを彼女に照射し終えた直後、病室のドアにトントンとノック音が鳴った。

 

「入っていいぞ紅蓮、はやては今眠ってる」

 

 スライド式の扉が開き、学ランをラフに着こなし、夕陽に負けじと鮮やかなオレンジ髪をしたグレンの人間体――紅蓮が病室に入ってきた。

 ドア越しにも拘わらず、透視も使わずノックの主が紅蓮だと察したのは、扉を叩く強さの具合から彼だと見抜いたからである。

 

「改めて紹介するよ、この子たちがさっき火星で話したフェイトと、リヒトの義理の妹のなのはだ」

「フェイト・テスタロッサです」

「高町なのはです」

「おう、ゼロ……今はユーちゃんか、そいつとリヒちゃんから聞いてっと思うけど、俺がグレンファイヤーだ」

 

 紅蓮とフェイトたちが面と向かって対面するのは初めてなので、三人は自己紹介を交わす。

 

「今日はうちのはやてと一緒に遊んでくれてあんがとな、ほら……足悪くて学校も休学中してっから、嬢ちゃんくれえの子とはなっかなか遊べねえもんで、こいつには良い思い出の一つになったよ」

「いえ……そんな、それほどのことはしてません」

「でも、ありがとうございます、明日学校でアリサとすずかにあなたが礼を言ってたと話しておきますね」

 

 二人ともなにかと謙遜しがちな人柄ゆえ、紅蓮からお礼の言葉に照れで夕陽に負けじとフェイトたちの頬は微熱を帯びた。

 

「で………嬢ちゃんたちって………そのっ――さ………なんつか……」

 

 普段は竹を割ったようにハキハキした紅蓮の口調が、今に限って言えば口ごもり舌足らずとなる。

 いつもの彼なら、『もっとはっきり喋れよ』と明るく突っ込むところだが、立ち位置が実質逆転していた。

 フェイトたちへ何か聞きたいようなのだが、心情の影響か……上手く言葉として発せられなくなっている。

 だがその態度で、紅蓮が尋ねたいことの内容を汲み取ったフェイトは――

 

「はい、私たちも〝魔法使い〟で、あの日の夜に、騎士たちと……戦いました」

 

 ――先んじて紅蓮からの質問の中身を当てて答え、各々のデバイスを見せた。

 あの時の結界内では、バラバラに散らばって戦闘していたので、紅蓮は彼女たちを見ていない……が、 紅蓮の超感覚は、なのはとフェイトの体内にも宿る、ヴォルケンリッターたちには喉から手が出るくらい求めるリンカーコアの魔力波動をはっきり捉え、二人が自分の家族に襲われたかのかどうか尋ねたかったのだが…………騎士たちを気にする余り、上手くオブラートに包んだ表現で聞こうとして、それが浮かばず口下手化してしまっている。

 彼女たちはそれが分かったから、意識的に〝襲われた〟という言葉は使わぬよう心がけた。

 

「ああ……やっぱな……」

 

 諦観めいた声色で一言漏らし、気持ちと言う名の重しで重たくなった自身の体を、背後にあった椅子に腰かける紅蓮。

 痛ましさが発せられる紅蓮の佇まいに気の重みが強くなるのを自覚しながら、勇夜は石田先生の検査結果を聞こうと息を軽く吸った。

 

『(マスター、今すぐ病院の正門付近をご覧になって下さい)』

「(え?)」

 

 と、そこへリンクの念話による妙な申し出を受け、咄嗟に窓の外を見下ろし、正門と正面出入り口の間の通りに立っている〝人物たち〟に目線を合わせた勇夜は、周りに気を遣うのを忘れずに、その場を駆け出し病室から出ていった。

 

「あいユーちゃん! どこ行くんだよ!?」

「とにかく行こう」

「うん」

「おお…」

 

 勇夜が何を見たのか掴めずにいながらも、追いかける形で三人も走り出す。

 当然学校同様、病院の廊下を走るのは控えなければならないが、そこは見逃してもらいたい。

 

 

 

 

 

 自動ドアな正面玄関を抜けた勇夜はそこで立ち止まり、追いついて来たフェイト、なのは、紅蓮の三人も通りに佇む〝彼女ら〟を見て驚きで一瞬体が凝固された。

 

「やはりここにいたな」

 

 待っていたのは、ロングコート着込んで完全に人間の姿に擬態している大人モードの久遠と…………狼形態な盾の守護獣――ザフィーラ。

 

「あ…あのな、ザッフィー……何で久遠と一緒にここにいるのは知んねえけど………これは…」

「(案ずるな紅蓮、私はお前の友たちと戦うつもりはない、話しをしに来たのだ)」

「へ?」

 

 状況も呑みこめないまま勇夜たちと一緒にいることを彼なりに説明しようとしたが、ザフィーラのいつもの冷静な口振りによる発言に、奇天烈な声音で返答してしまう。

 この念話は勇夜たちにも伝達されており、フェイトとなのはも、まだきちんとこの状況を理解できていない。

 対して勇夜とリンクだけは、久遠とザフィーラの目的含め、この状況を把握していた。

 

「ここで話すのも何だ、場所を移すぞ」

 

 

つづく

 


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