ウルトラのキセキ ~One More Sunshine Story~ 作:がじゃまる
とりあえずこれまでの体たらくを払拭する気概で頑張ります。いやホント
妙な感覚だった。
失ったもの、取り戻そうとした温もりが、形は違えど目の前にある。
勿論今ここでそれに甘んじているべきでないのは理解の上だ。けれど求めていた旧懐を思わせるその温度に、孤独な心は拠り所を求めたのかもしれない。
少なからず今この瞬間を―――久しく楽しいと感じた。
『カエデー!』
取り零してきた数多の欠片の中、微かに残った泥濘の底で今も瞬く声。
忘れもしない。あの日、彼女と共に夢へ……後に後悔とへと変わる道を踏み出した瞬間だ。
『あとはここ押せば私達も正式にスクールアイドルになれるのよね?』
『興奮しすぎだってユリー。パソコン壊さないでね?』
期待に満ちた目をしていた。決して平坦な道だとは思わなかったけれど、それでも輝かしい未来を想像していたんだ。
『そう言うカエデだってそわそわしてるじゃない』
『そうかな……そうかも』
鏡映しの想いでないはわかっていたんだ。
だから、あの道に誘ったのは紛れもない自分自身。
『学校、守れたらいいな……』
例えこの時に気付いていようとも、あの未来は免れないものだろう。
けれども少なからず、あんな思いはしなくて済んだ。させずに済んだはずなんだ。
『…一緒に押そっか』
『え?』
『これから一緒に進んでくんだもん。踏み出す時も一緒でしょ?』
『……うん!』
輝かしい未来を信じ、共に押した扉。
その先に待ち受けていた未来が、暗く冷たい破滅とも知らずに。
「ユリちゃん……どうかした?」
「え……」
呼ぶ名は同じなれど、本質的に違う声に現実へ引き戻される。
空目した慕情の夢の続きはまた輝かしい夢物語。されどそれは前者と異なり、悲痛な後悔すらも呼び起こしてしまう夢。
「もしかして迷惑だったかな……? 強引に色々連れ回して……」
「ううん、そんなことない。ただちょっと…………思い出してただけ」
もし、今も彼女が自分の傍にいてくれたのなら。
こうやって、また近くでこんな笑顔を向けてくれたのだろうか。
「えぇ~、何それ聞きたーい」
「……話すほどのものでもないわよ」
触れる度に込み上がってくるのは、そんな想いとかつての思い出。
浸っているべきでないのはわかっているのに、一度それを求めてしまった心は縋るように手を伸ばし続けている。
「ところで今、どこに向かってるの?」
そんな衝動の要因……高海千歌に問う。
友人の立つ屋台を経た後、彼女に手を引かれ進む先に佇むのは装飾の施された舞台。
木造の骨組みを基盤に簡素ではあるが古風な装飾の施された様は、水平線に沈む斜陽を受けて幻想的な雰囲気すら纏っている。
「ユリちゃんって、明日もまだここにいる?」
「え、えぇ……どうかしら……」
「もし明日の夜もいるなら見に来てよ、私達の舞台」
少々高揚した様子で語られたのは彼女の夢……なのだろうか。
古くからこの地域で行われてきた伝統行事。その一環である舞踊の舞台に今年彼女は立つらしい。
大勢の前で歌い踊る。性質こそ違えど似偏ったその形式は、意図せずともあの存在を彷彿とさせた。
「……ねえ、千歌」
「ん?」
「……千歌は何で、その舞台に立ちたいって思ったの?」
だからこそ、問う。
直接彼女が口にしていた訳じゃない。表面上はあくまでも選抜されてという形のはずだ。
「うーん……まあ、元々私が立つって決まってたって言うのもあるけど……」
けれど彼女からは確かに、˝あの舞台に立ちたい˝そんな意思を感じたから。
「私は―――」
「千歌――!」
その答えが紡がれるよりも早く、舞台の足元から投げかけられた声がそれを遮る。
「どこで道草食ってたんだ? もうリハーサルの時間とっくに…………って、なんだその子」
屋台の彼とはまた別の友人なのか、千歌を待つようにそこで待機していた少年の顔が向く。
そんな彼に、心なしか先程よりも上機嫌に思える千歌は紹介する形で言った。
「ユリちゃんって言うんだって。さっき仲良くなったんだー」
「あー……、そう言えばさっき陸がそんなこと言ってたような……」
未来君。千歌にそう呼ばれた彼と軽く会釈を交わす。
中性的な顔立ちということもあるが、先程屋台の彼を見た後だとどこか頼りない印象を覚える。
「…無理矢理連れ回したりとかしてないよな……?」
「む……なんで私が迷惑かけてる前提だぁ!」
開口一番にそういった未来へと千歌が噛みつくも、そこに険悪な空気はなくむしろ微笑ましいもの。
やはり先程の彼との間に流れていた雰囲気とは少し異なる空気が流れていた。
「それより急げ千歌。だいぶ時間押してるし全体通して練習する時間なくなるぞ」
「ああうん。じゃあまた後でね二人共!」
手を振りながら千歌が壇上へ向かってゆく。
渦巻く胸騒ぎの正体を悟ったのは、この直後だった。
「……えっと…」
揃って見合わせた顔に微妙な空気が流れた。
千歌が連れてきた彼女……ユリとか言っていたか。どういう経緯で知り合ったのかは知らないが、こうして仲介役が消えた今どうすべきかわからないのが常というもので。
「なんか……ごめんね? 千歌が色々と……」
「気にしないで。私も楽しんでたから」
一先ず千歌の滅茶苦茶を案じ声を掛けるが、当の本人は気にしていないようで胸を撫で下ろす。
「あの子昔からああなの? さっき会った彼もあなたと似たようなこと言ってたけど」
「まあ……うん。たまに暴走するというかなんと言うか……」
けれどあの勢いに多少なり驚いていたのは事実らしい。
幼馴染の未来達でも振り回されることは多々あるというのに、それは初対面の彼女からしたらどう映ったかなど想像に難くない。
「…あ、さっき千歌に紹介はされたけど、俺は日々ノ未来。そっちはユリさん……でいいんだっけ」
「えぇ、相墨ユリ……もっと砕けた呼び方でいいわよ。なんか慣れないし」
「そっか。じゃあユリは旅行か何かでこっち来てるの?」
「…まあ、そんなところ。なにか賑やかだと思って来てみればお祭りがやってて、そこで千歌に捕まったわ」
「あはは……」
千歌が旅行に来た子と仲良くなるのは幼い頃から何度かあったが流石にこのパターンは初めてだ。
聞けば最初千歌がユリを心配する形で声を掛けたそうなので完全に無理矢理という訳でもなさそうだが、それでも申し訳なさはある。
「予定とか大丈夫なのか……? ほら、観光で来たなら他に回りたい場所もあるだろうし、家族とか友達のことも……」
「……その辺は問題ないわ。それより、千歌のことなんだけど」
ある程度会話にリズムが生まれてきた頃、ユリの顔色がわかるのがわかった。
そしてその様にどこか、既視感を覚える。
「あの子は、どうしてあの舞台に立ちたがってるの?」
その正体を探ろうとするが、直後に紡がれた彼女の言葉にそれは妨げられる。
「家庭のことがあって元々立つことが決まってたとは言ってたけど、それ以外にも千歌にはあの舞台に立つ理由があるみたいだったわ…………それが知りたくて」
何かに突き動かされるようにユリは言う。
そしてそれは、未来自身も求めている答えでもあった。
「……俺にも、その理由はよくわからないんだけどさ」
千歌には見えていて、未来には見えていないもの。
同じ空想の産物を追いかけた者達であるからこそ、よりその差がハッキリと浮かび上がるようだった。
「……でもなんか、明日のアイツの舞台見たら、わかるような気がするんだよね」
すぐ近くに答えはある。陸のあの言葉が千歌を指していたかどうかはわからないけれど。
きっと自分はそれを見届けなければいけない………そんな気がした。
「だからさ、無理にとは言わないけど、明日の舞台、見てやってくれないかな。その方がアイツも喜ぶだろうし」
ユリが何を思ってその答えを求めているのかは知らないし、それを知ることでユリの求める結果に辿り着くかもわからない。
でも少なからず明日の舞台を見て欲しいと思っている……それは未来も千歌も同じはずだ。
「そうね……考えておくわ」
直後に点灯する舞台の灯り。
その中で執り行われる催しは、例え予行と言えど、輝いているのだろう。
***
「―――うん……だから、待ってるよ」
舞台に関わる者以外は予行の場に立ち会えない。そう言った理由でその場から離れ千歌を待っていたその折。
直前に触れたばかりの声が再度耳朶に触れ、自然とその方へ向け身体は舵を切っていた。
「……あれ?」
人目のつかない木陰の脇道へと差し掛かったところでその主と出会う。
「えっと……確か千歌ちゃんと一緒に来てた……ここで何してるの?」
「…あなたこそ。予行、もう始まるんじゃなかったの?」
確か桜内梨子……だとか未来に紹介されたか。
言葉の通り彼女は千歌と共に舞台に立つ側の人間、本来ならとっくにあの舞台にいるはずだが。
「ああうん……ちょっとわがまま言って抜けさせてもらったの。やらなきゃいけないことがあるから」
直前まで誰かと交わしていた通話がそういうことなのだろうが、深く問うことはしなかった。
けれど恐らく彼女も千歌と同じだ。あの舞台を通して果たさんとしている何かがある。
「大変だったでしょ? 千歌ちゃんに振り回されて……」
「そうね……あなたも苦労してそう」
「まあ……確かに千歌ちゃんと出会ってから振り回されっぱなしね」
その訳には当然触れたいが、敢えてこの場では避けておこうと考える。
ここで問うのは何か違う気がする。答え合わせは多少遅れてたっていいはずだった。
「けど悪いことばかりじゃないわ…………おかげで少しずつだけど、進めてる気がするから」
言葉を交わすのは当然初めてだが、互いの体験もあり思いの外会話は進む。
けれどその結果至ってしまったのは…………もしかすると触れたくなかった事実なのかもしれない。
「でも振り回されてるってことに変わりはないからね。今回の舞台だって、まさかスクールアイドルの真似事をするだなんて思ってなかったし――――――」
「…………え?」
直前まで存在していた熱が、一気に引いてゆく。
「……今、なんて………?」
「え……˝スクールアイドル˝の真似事をすることになったって…………」
再度梨子から発されたその単語に、奥底から形容しがたい何かが込み上がってくるのがわかった。
自分じゃない何かに切り替わっていくような感覚によって、理解する。
この世界に来訪した際に感じ取った瞬き。
あの不快な光の正体は…………これか。
「……そっか」
そうだ。初めからそうだったじゃないか。
どうして自分はこの世界を訪れた。どうしてこれまで数多の世界を滅ぼす片棒を担いできた。
全てはコレを――――――スクールアイドルを消すためじゃないか。
「え…な、なに……?」
沸き立つ情動が形を成したように、黒い瘴気が自分を中心に広がってゆく。
˝彼˝がいないからなんだ。
これを望んだのは自分自身…………私がやるべきことなんだ。
「………きっとあなたは、その選択をしたことを後悔する」
闇夜すらも塗り潰す黒が手のひらに集約し、やがて小さな人形を形成する。
「だからその前にあなた自身の手で…………終わらせてあげる」
悲鳴すらも黒に染まる。
埋め込まれたそれは身体の中ですらもその闇を膨れ上がらせてゆき―――彼女を飲み込んでいった。
堤防に打ち付ける波の音だけが耳を撫でる。
そんな波打ち際の静けさに反し、遥の内心は決して穏やかなものではなかった。
「………」
姉に呼ばれてここにいる。
明日に迫った舞踊の予行があるにも関わらず、姉は自分と話がしたいとここに呼びだしたのだった。
正直、来たくはなかった。
ここに来るということは即ち、現状から前に進まなければいけないということだ。
勿論踏み出さなければいけないことはわかっているし、これ以上姉を縛り付ける訳にもいかないのも理解している。
それでも、怖いんだ。
現状から変わろうとすることが…………その結果、また悪い方へと事が進んでしまうことが。
何もかもそうだ。姉のことも、自分のことも、寄り添ってくれる友人にでさえ。
考え、気付くほど、己という人間が嫌になってくる―――姉が姿を見せたのはそんな折だった。
「……姉さん?」
けれど、どこか様子がおかしい。
足取りは覚束ず、日頃から整えられていたはずの髪ものたうち回ったかのように激しく乱れている。
「…………遥……」
「姉さん………どうしたの……?」
流石に不安と危惧が勝り、姉へと駆け寄る。
「………遥のせい」
「え…………」
けれど、その足が止まるのも間もなくだった。
「続けたかったのに………あんなことで終わりたくなかったのに…………」
「姉…さん……?」
刺さるような痛みが胸に生じる。
垣間見えた姉の瞳。
黒い光が宿ったその目に映された怨嗟が向けられた先は……自分なのだから。
「全部………全部遥が…………!」
今の姉が普通でないことはすぐに理解できた。
けどそれと同時にその言葉が紛れもない本心であることも…………理解できてしまった。
「う……ぁぁ…………ッ!」
「姉さ――――――」
狼狽えながらも胸を抑えて藻掻きだした姉に手を伸ばした途端。
姉を中心に膨れ上がった黒に跳ね飛ばされ、真っ逆さまに海中へと沈む。
冷たい闇の中で反芻する怨念のような姉の言葉。
それは遥を海中へ引き摺り込むかのように浮上を拒ませるが、僅かに勝った憂いに水面へといずる。
「ッッッ―――――――――!!!!!」
その刹那に双眸が捉えた景色の中に姉の姿はない。
代わりにそこにあったのは本来この世界には存在し得ないもの――――大地をも揺らす咆哮を上げる、巨大生物の姿だった。
千歌達と触れる中で人間味を見せていたユリですが、彼女の過去にも起因するスクールアイドルに触れてしまったことで遂に行動へ出ます
その結果あろうことか桜内がその手に堕ちてしまうという事態に……別に作者の趣味とか一切そう言うことではないですよそうゼロライブの踏襲踏襲()
そして満を持して相墨ユリちゃんのビジュアル公開となります
【挿絵表示】
こちらはメビライブと虹タイガ作者である蒼人さんに描いて頂きました。本当にありがたい限りですよもう…………
それでは次回で~