ウルトラのキセキ ~One More Sunshine Story~ 作:がじゃまる
ユリにより怪獣化されられてしまった梨子の運命や如何に()
その瞬間は唐突に訪れた。
これがあの少女の示した破滅なのか、来るべくして行き着いた運命なのかは定かでない。
けれど少なからず、今目の前に広がる光景は世界の終わりを連想させた。
――――――
『ッッッッ――――――!!!!』
陽の沈みきった空を照る紅。
舞い降りたはずの夜の帳を切り裂いたのは万物を震撼させる咆哮と、それに伴う周囲の火災だった。
「ぁ……」
陽炎の向こうで巨大な影が揺らめく。
その挙動一つ一つの度に大地を揺らし、自分達の町を蹂躙してゆくその巨大生物は怪獣と呼称するに他ならない。
「怪……獣……?」
「うそ……なんで……」
空想の産物に過ぎなかった存在が文字通り現実へ進撃する様を目の当たりにし、瞬く間に恐怖と混乱の渦に飲まれた人々の群れが悲鳴と共に流れてゆくのが見えた。
無論千歌と曜も例外でなく、明日華やかに舞うはずだった舞台の隅で寄せ合った身を震わせている。
「……春馬、これって…………」
「あの女の子が言ってたこの世界の危機……?」
地獄絵図を思わせる事態の中、未来は幾分か冷静だった。
先んじて触れた怪獣やウルトラマンの存在。それらを介しこの世界に迫る危機を把握していた分、まだ周りに比べ余裕はある。
けれどよりにもよって…………どうして˝今˝なんだ。
「お前等ッ!」
「陸……!」
逃げ惑う人々の間を抜け出で、離れた場所で屋台に立っていた陸が顔を見せる。
一先ず親友の無事に安堵するも、そこで完結する訳にいかないのは全員の共通認識だ。
「ぼさっとしてねぇでさっさと逃げんぞ!」
あまり広いとは言えない港町の道は既に押し寄せた人々で渋滞寸前。このままでは道が塞がり逃げ道を失うのも時間の問題だろう。
春馬と翔琉もまずは安全の確保が優先だと判断したのか避難を促し始めるも、ここで千歌から声が上がる。
「……待って。梨子ちゃんがいない……ユリちゃんも!」
「はぁ!?」
そう言えばと二人の姿が見当たらないことに気が付く。
梨子がどうかは知らないが、ユリは舞の予行が終わるまで付近を散歩すると言っていた。まだそう遠くには行っていないはずだ。
「俺……ちょっと探してくる!」
「え……未来君!?」
「おいバカ! やめろ未来!」
自然と動き出していた身体は友の制止も聞き入れることなく、人波へ逆らいながら二人の姿を求め進んでいった。
「未来君! 未来君ッ!!」
「落ち着け千歌ッ…! お前まで行ってどうすんだ……!」
飛び出して行った未来により波紋は広がる。
その後を追おうとする者にそれを諫める者。着々と状況は悪い方向へ向かっていると判断せざるを得ないだろう。
「…春馬、もう行くしかねぇぞ」
『翔琉の言う通りだ。見た限り避難も間に合いそうにない……俺達で食い止めるんだ』
「……わかった」
戦いに巻き込む危険性を鑑みて彼等や他の人々の避難を優先していたが、こうなった以上悠長なことは言っていられないか。
短くついた深呼吸の後に覚悟を固め、翔琉と共に地を蹴り飛ばす。
「陸さん、二人をお願いします」
「未来は俺等で何とかする………頼んだぜ!」
その返答を待たずして飛び出した両者に光が灯る。
熱を帯びた灰燼が舞う中向かう先は、絶望を齎す巨影。
《カモン!》
「光の勇者……タイガ!」
方や絆の手甲を。
「お、なんかカッコいいなそれ。んじゃ俺も」
方や宿光の機工を。
各々の形で携えた輝きをその身に纏い――――――開放する。
「『バディィィイイ…………ゴ――――――ッッッ!!!!」』
「エックス――――――ッッ!!!」
絶望の暗雲に一筋の希望を差し込むように立ち昇った光の柱。
それらは己が輝きを増大させながら一点へと集約してゆき…………やがて二体の巨人の形を成した。
《ウルトラマンタイガ!》
《X UNITED》
「え゛ほッ! ゲホッ……!」
岸辺まで流れついた重い身体を陸地へ上げる。
呼吸器に残留する塩辛さに顔を顰めながら見上げた先では、既に市街部まで侵攻した怪獣が唸りを上げているのが見えた。
「姉……さ…………!」
引き摺るように身体を進ませ、咆哮を上げる˝姉˝の元を目指す。
人であるはずの姉が怪獣に変貌した。科学的な論証も意味を成さない今、その理由や原理は全く見当もつかない。
けれど、直前に姉に向けられたあの言葉。
姉の様子は明らかに普通でなかったが、あれは紛れもなく彼女の本心なはず。
つまりこの事態を招いた原因は……遥だ。
「…………?」
余力を絞って全身する最中、ふと町中で上がっていた悲鳴がぴたりと止んでいることに気が付く。
それと共に身体が覚えたのは眩しさ。怪獣の行く手を阻むように、空へと伸びた光の柱が立ち並ぶ。
「あれって……」
程無くして光の中から姿を現したのは巨人の姿だった。
両者の様に違いこそあれど、全てを見通すような双眸に胸に宿った蒼の輝き。それは恐怖の渦中にある人々にとあるヒーローの名を呼び起こさせる。
「ウルトラマン……!」
誰が言ったか、感嘆に近い声が零れる。
その小さな雫はやがて人々に波紋として広がってゆき、次の瞬間には爆発的な歓声が上がった。
「ウルトラマン……本物のウルトラマンだ!」
「怪獣を倒しに来てくれたんだ……!」
一昔前に放映された作品のヒーローと言えど、広い認知度を誇るその存在を前に人々に灯ってゆく希望。
だがそれに反し、遥に募っていくのは危機感ばかりだった。
「姉さん……!」
ウルトラマンがあの怪獣を倒すために現れたとしたならば、迎えうるのは遥にとって最悪の結末なはずだ。
それだけは絶対に回避しなければならない。その想いに突き動かされた身体は疲労感も忘れ、火蓋が落とされようとするその場へと駆けた。
「これが……」
自らも同等の体躯へと姿を変えつつ、春馬が見やるは共に降り立った巨人―――ウルトラマンエックス。
電子的な光彩を纏う姿はどこかメカニカルであり、その中心で名にも冠しているX字のカラータイマーが輝く。
そのこれまで見てきたウルトラマン達とは異質な姿に、彼が別の世界の戦士であるということを改めて実感する。
『光の国やU40、O-50のウルトラマンでもない……本当に俺達とは違うんだな』
「特別感あってカッコいいだろ……でもまあ、その辺の話はアレが片付いてからにしようぜ」
静かにエックスが視線を向けた先で正反対の騒々しさを纏う巨獣が唸りを上げる。
自分達が出現したことにより目標が変わったか。ともあれ町への侵攻を食い止めるという点では一先ずクリアらしい。
『デマーガ……なのか……?』
「確かに前戦ったのと似てるけど、なんかもっとずんぐりしてたというか…………こっちのがゴツゴツしてんな」
タイガの思考を介し怪獣の情報が伝わる。
溶鉄怪獣デマーガ。肉体の大部分が溶けた鉄で形成された地底怪獣……とのことだが、彼等の言葉の通り眼前で猛る奴は何かが違う。
頭部の角や一直線に並んだ鋭利な背びれという特徴こそ共通しているが、その肩や両腕からはそれらを遥かに凌駕する巨大な刃が伸びている。
「人んとこから盗っていきやがったモン改造しやがって………そのセンスは好きだけどな!」
翔琉の世界で盗まれたスパークドールズという代物がデマーガであった以上何かしら関係があることは確かだがまだ不明瞭な部分は多い。
だがそれでもともかく戦ってみない限りにはわからないと言わんばかりにエックスが突撃。打ち出した拳に続いて高く硬質な音が上がる。
「いっっで……ッ!? そんで熱ッ!?」
その強固な表皮によって弾かれた彼の拳からは焼けるような蒸気が昇っていた。
どうやら肉体の大半が鉄で構成されているというのは伊達ではないらしい。攻撃が通りづらい上にその熱量で逆にダメージを受ける物理攻撃は得策でないか。
なら―――、
『˝スワローバレット˝ッ!!』
瞬時にタイガと思考を共有。十字に組んだ腕から打ち出す光の刃がデマーガへと迫る。
だがそれらは振るわれた両腕の斬撃により容易く打ち砕かれ、それにより生じた熱波が逆に身体を焼き付けてくる。
『やっぱり普通のデマーガじゃないな……恐らくコイツも強化改造を施されてる』
「ヘルベロスの時と同じ……」
ウルトラマンのいない世界に送り込まれる、ウルトラマンをも凌駕しかねない怪獣達。当然この世界の人類に対抗する術はないだろう。
何が目的でこんな行為に及んだのかは定かでないが、ただ一つ確かなのはここで負ければこの世界に、ここで出会った人々に明日はないこと。
その結末だけは阻止しなければならない。それが˝彼女˝に託されたやるべきことであり、自分の願いだから。
「…ねえタイガ、翔琉君。前にデマーガと戦った時って、どう倒した?」
『え、いや俺は訓練学校で習った程度で実際に戦ったことは……』
「俺も教えられる程のモンじゃないぞ。とりあえず殴りまくって倒したし……まあ仲間の力もあったけど」
「じゃあそれでいこう」
「は?」
「俺達も力を合わせようってこと!」
そう言いながら相棒の身体を動かし、今度は自分達がデマーガへと突っ込む。
奴の間合いに入った途端に膨大な熱気が全身を包むが、充満するそれらを切り裂くように放った回し蹴りが横腹を捉えた。
「え~……そんな単純にいく? てか共闘ってそういう意味じゃないの?」
横目で伺った先でエックスが頭を掻く。
続けて吐き出されたため息の後に、その眼力はより力を増した。
「……けどまあ、嫌いじゃないぜそういうとこ!」
タイガが小刻みに連撃を入れる最中、文字通り横から割って入ったエックスのドロップキックがデマーガの側頭部へ炸裂。
高い防御力こそあれどその衝撃までもは受け流し切れないか、雨のように散った火花と共に倒れ込んだ奴の体躯が大地を揺らす。
「よいしょぉッ!」
起き上がり様にデマーガの剣が薙がれるが、その一閃を掻い潜ったエックスにより首元へ叩き込まれるラリアット。
戦闘……というよりは本当に殴りまくる喧嘩に近いスタイルだが、互いの目配せさえ欠かさなければ連携自体は難くない。
『˝ウルトラフリーザー˝ッ!』
立て続けにタイガから冷気が放出され、デマーガの纏う熱気と触れあい蒸発。一面を白煙が覆う。
視界すらも奪う白の世界、全てを染める白の中でも己が光を誇示するのは、虚空に描かれた交差する軌跡だった。
「˝エックスクロスチョップ˝ッ!!」
刻まれたX字の光が着弾に少し遅れ起爆。
規模こそ小範囲なれど爆発は爆発だ。生半可な攻撃は通さない奴にもダメージは入る。
『ッッ―――!』
『ぐあッ……』
とは言え鉄の皮膚の前にはそれも決定打には至らない。
悲鳴を上げながらも堪えたデマーガの尾が空を切る音と共に振り抜かれ、直近のエックスはおろかタイガすら巻き込み薙ぎ払った。
「あっっ……づいなもう! 体温何度あんだテメェインフルとかそういうレベルじゃないだろ! こっちまで熱上がってきたじゃねーか!」
あれだけラッシュを叩き込んだ反動により蓄積された熱とダメージに加え今の一撃。体温はオーバーヒート寸前にまで至らんとする。
そんな熱気と共に上昇してゆく苛立ちを隠すことなく、エックスは奴の背後から両腕を回し―――、
「病人は家帰って……寝とけッ!!」
ふわりと持ち上がったデマーガの体躯が頭から地面と激突する。所謂バックドロップというやつだ。
今度の一撃は流石に応えたか。起き上がりこそしたものの半ばグロッキーな様はまさしく隙だらけと見た。
『一気に決めるぞ!』
「っしゃぁッ!」
好機を逃すまいと両者共にエネルギーを増幅。爆発的な光が集約してゆく。
「˝ザナディウム―――!」
「『˝ストリウム―――!」』
七色の光が舞い、散華した電子の軌跡が夜空を彩る。
人知を超えた存在達が衝突する最中でありながら幻想的な雰囲気を醸した直後、この戦いに終止符を打たんとエネルギーが解放され―――、
「姉さんッッ!!!」
―――真下から上がった叫び声によって妨げられる。
「……?」
「遥君……? どうしてこんなところに……」
ウルトラマンとして強化された視力がデマーガの足元にまで駆けらんとする遥を捉える。
逃げ遅れたのか、はたまた未来同様に梨子を探しているのか……その答えはすぐに判明した。
「はあっ!?」
『…どうした?』
「い、いや……さっきデバイザーで解析かけておいたアイツのデータが出たんだけど……」
遅れて翔琉から上がった驚嘆の声。
その訳を問うたタイガに返ってきた答えは……信じ難いものだった。
「アイツの体内から、人間の生体反応がする……」
『なに……!?』
「…え、じゃあ……」
逃げる気配もなく、足元でデマーガに対し叫び続けている遥の姿に答えを悟る。
デマーガの体内にいるという人間の正体、それは―――、
「梨子さんが怪獣に……?」
どういう経緯があったのかは春馬の知るところではないが、少しでもその可能性が浮上した以上これ以上の攻撃は加えられない。
だがここでデマーガを放置する訳にも……、
(どうすれば……)
纏まらない思考ばかりがぐるぐると回る。
必死の呼び声が何度も木霊する中、それを蹂躙するような咆哮が再度轟いた。
「梨子―ッ! ユリーッ!」
町が焼き付く臭いが漂う中、二人の少女の姿を求め未来は叫び駆ける。
怪獣が放つ熱波が原因か、至る所で起こる自然発火により辺りは今にも火の海と化さんとしている。
もし二人が逃げ遅れこの火に飲まれていたなら……最悪の方向に傾く想像を振り払い未来は何度も叫んだ。
「ッ…! ユリッ!」
紅蓮の中に一ヶ所、不自然に火の手の及んでいない場所にユリの姿を見つけ駆け寄る。
だがそこにいた彼女の姿は、直前まで談笑を交わしていた相墨ユリとはまるで異なる。
「……未来」
黒が翻る。
炎の中で佇む彼女の様は恐怖すら覚えるほどに異質に映った。
「何してんだよこんなところで……ほら、早く避難するぞ。千歌だって―――」
「……未来は」
千歌。
その名に反応するように眼光の質を変えた彼女は、別人のような威圧感を纏って言った。
「未来は知ってたの? 千歌が、スクールアイドルをしようとしてること」
問われた意味がわからなかった。そして同時に恐怖する。
一体どうしてここで、こんな事態の中それを問うのか。熱気に反して冷や汗が伝う。
「そうだけど……今はそんなの関係ないだろ。早く逃げないとここも―――」
「……そう」
直後、迸った闇に身体が浮き上がるのを感じた。
紙のように宙を舞い、地面を転がる。何が起こったのかわからぬままで見上げた先では一転して黒い花弁のような装束姿となったユリが衝突する巨人と巨獣に掌を向けていた。
「あなたにも、まして千歌にも恨みはないけれど……」
底の知れない瞳で渦巻く憎悪と殺意。
放出されたどす黒い波動はタイガ達と対峙する怪獣へと注がれる。
その刹那に膨大な熱波と闇が怪獣を中心に吹き荒れ、二人のウルトラマンを薙ぎ払った。
「…スクールアイドルを生もうとするのなら、消す……それが、私の使命だから」
久々に戦闘パート書いた。楽しい(小学生の感想)
虹エックスもとい翔琉君が所々原典のエックスと異なる設定なので少々苦労しましたが自分なりに彼らしさを出したつもりです
デマーガの正体か怪獣化させられた梨子だと気付いた春馬達ですが、手段も方法も皆無。果たしてどう転ぶのやら……
それでは次回で