ウルトラのキセキ ~One More Sunshine Story~ 作:がじゃまる
ユリによって倒されてしまったウルトラマン達を前に彼等が抱くものは……
「―――聞こえますか! 聞こえますか!?」
「先生! 至急急患の処置を―――」
「先生! 脈拍血圧共に低下しています! 先生!」
「クッソ…………全然手が足りない!」
耳に入ってくるのは焦燥に満ちた音吐や不吉な機械音ばかりだった。
「…翔琉と春馬は?」
「……聞かなくてもわかるだろ」
「……まあ、な…」
息苦しさすらも覚える逼迫した喧騒に包まれる。
怒号に悲鳴、すすり泣く声が満たす光景は、現実のものとは思い難かった。
「……怒ってるか?」
「…それなりに。でもまあ、お前だけでもちゃんと戻ってこれてよかったのかもな」
白い病室の戸枠に背を預けながら、その奥、隅のベッドに寝かされた少女に視線を流す。痛々しい包帯姿のまま目を閉じた彼女を囲うのは幼馴染達と後輩だ。
意識が戻るかわからない。失意の中で未来が聞かされたのは、希望とは程遠い梨子の容態だった。
『―――数時間前、静岡県沼津市に出現した巨大生物は、続けて現れた二体の巨人との戦闘の末に爆散。現在にまで被害が拡大する事態には至っていませんが、毎年現地で開催されている漁港祭と重なったこともあり、周辺家屋の倒壊に加え死傷者も多数いるとの報告が―――』
同室の別患者の流すラジオが不快な触りで耳を撫でる。
事務的に、淡々と羅列される無機質な言霊。
自分は被災してない、所詮は外野で起きた他人事。未来自身ニュース等に何度も感じたことだが、いざ自分がその立場になると気分の良いものではなかった。
『なお巨大生物を倒したと思われる二体の巨人についてですが、こちらはかつてテレビ放送された特撮番組、˝ウルトラマン˝に登場する巨人と酷似しており―――』
「……ホントにいたんだな。ウルトラマンも、怪獣も」
ラジオの句を継ぐように、普段よりも低い響きで陸が零す。
「正直、春馬達の話聞いてもいまいち信じ切れてなかったけど、こう目の前で暴れられるとそうせざるを得ないっつーか…………受け入れるしかないのかもな」
その言葉が向けられているのはウルトラマンの存在だけではない気がした。
迫りくる破滅が回避しようのないものである…………絶念に近い靄は、彼だけでなく、病院全体に充満していた。
「…ユリ」
数刻前の光景を思い起こす。
この町に襲い掛かった厄災、その全ての根源である少女。
もしあの時、未来の声が届いていれば何かが変わったのだろうか。
「………」
いいや、きっと何も成すことなんて出来なかったはずだ。
だってこの世界の日々ノ未来は英雄でも、ましてウルトラマンでも何でもない。どうしようもなく非力な…………ただの高校生なんだ。
「俺は……」
幽霊のような足取りで病室を離れる。
「おい、みら―――」
「ごめん…………ちょっと一人にしてくれ」
親友の声すらも撥ね退けた自分は今きっと―――酷い顔をしているのだろう。
降りしきる雨は、さながら零れ落ちる涙のようで。
打ち付け広がってゆくそれら拭うこともしないまま、未来はずぶ濡れになった身体を堤防まで運んだ。
「……どうすればいいんだよ」
曇天を見上げる。
その中に映る物言わぬ彫像と化した二体の巨人の姿が歪み揺らいで見えるのは、きっと雨粒のせいではないのだろう。
「…俺さ、これでも、結構頑張ったんだよ。俺なりに、普通なりにも何かできないかって……」
置いて行かれるような疎外感、劣等感に身を焦がしながらも、それでも答えを模索しているつもりだった。
春馬達と出会った意味、勇者と呼ばれた所以……そして未来自身の行く末を。
「……でももう、俺がどうしたいのかもわかんねぇよ」
けれど、立ち塞がる現実と虚構はそれすらも許してはくれなくて。
進むことだけに必死になり過ぎた末、いつの間にか歩む方向も、戻る道すらも見失ってしまった。
「教えてくれよ春馬…………俺は一体、どうすればいいんだよ……!」
立たされた断崖の端で、擦れた声がヒーローへと縋る。
でも彼から返る声はなかった。地面を叩く雨音だけがいつまでも耳に障る。
「……あの子はもう、忘れちゃったのかもしれない」
水滴の音に変わって触れたのはそんな声だった。
耳だけじゃない。頭の中にも直接響くような声。
近しいはずなのに随分と遠く感じるようなその感覚は、未来の脳裏にとある少女を呼び起こさせた。
「君は……」
「……夢見る想い………始めは、それだったはずなのに」
麻色の髪と純白を揺らす、赤い靴の彼女。
ウルトラマンに怪獣、そしてこの世界の危機。その全てに未来が触れる切っ掛けとなった、始まりの少女だ。
「……なあ、教えてくれ。君とユリは一体、なんなんだ?」
「……友達…………ううん、それよりももっと、大切な子」
あの時よりも遥かに近くに感じる彼女は、今にも泣き出しそうな顔色で語る。
「追いかけてたんだ。同じ夢を、一緒に」
「君達は……スクールアイドルだった、ってこと?」
「うん…………でも、叶えられなかった」
滲んだ瞳に映る景色は、あの時のユリと同じものなのか。
苦しそうに、心を痛めるように俯いたまま彼女は続ける。
「……そんな時に、私達の世界は滅んだ」
「…え………」
「˝奴等˝が来たの。そしてユリは…………」
あの光景を見た未来には、聞かずともその続きは理解できた。
経緯までもはわからない。けれど事実なのは、ユリが奴等に加担しているということ。
「……一緒に、やってたんだよな……スクールアイドル。なのに、なんであんな……」
向けられた表情は鮮明に焼き付き離れようとしない。
スクールアイドルを消す。本来それが存在しないこの世界においても、ユリは狂気的なまでにその渇きを果たそうとしている。
「……わからない。確かなのはユリのスクールアイドルを消そうとする情動が、奴等のウルトラマンのいない世界を滅ぼそうとする目的に利用されてるってことだけ」
何が彼女をあそこまで歪めてしまったのだろうか。
始めはただの小さな、夢があっただけなはずなのに。
「でも、ユリがあの時の想いを取り戻してくれたら、きっと……」
再び朧気にその姿を翳ませる中、深厚な願いが口にされる。
彼女自身どういう状況にあるのかはわからないが、もうあまり時間も残されていないのが伺える。
「…無責任なのはわかってる。でももう、あなた達しかユリを救えるのは……!」
昔から困った人や頼まれごとを放っておけない性質だった。それが緊急を要すれば猶更だ。
けれども今の未来には彼女の願いを、受け止めることはできなかった。
「……無理だよ」
彼女へ震える声音で返す。
「……確かに、春馬達の世界じゃ日々ノ未来は世界を救った英雄で、沢山の人を助けた勇者なのかもしれない…………けど!」
捲し立てる語彙が強くなる。
歪む表情のまま悲痛な心だけが独り走りし、突き放すように未来は零した。
「……俺はヒーローなんかじゃない……そんなに、強くないんだよ……!」
雫が頬を伝い、雨粒と共に地面を叩く。
幼き日の自分が、春馬に出会い舞い上がっていた頃の自分が今の日々ノ未来を見たらどう思うだろうか。
呆れたと失望されるか、意気地なしと罵られるか…………でも仕方がないじゃないか。
だってこれが紛れもない―――未来自身の現実なのだから。
「……私には、何も言えない」
言い切った末に上げた視界の先にあった彼女の顔は……とても、悲しそうに見えた。
「この答えは、あなた自身が見つけなければいけないことだから……でも、あなたの心を否定するようなことはしないで」
初めて触れたあの日とは反し、揺らぐ彼女の白が黒に溶けてゆく。
「思い出して……あなたの、夢を―――……」
やがて残響していた声すらも翳み、消えた。
一層勢いを増した雨天が冷たく身体を打ち付ける中で見上げた空は暗い。
夜明けはまだ―――遠かった。
ちょいちょいユリの回想で触れていましたが、8兄弟でいう赤い靴の少女に当たる少女――カエデとユリはかつて彼女達の世界でスクールアイドルを志していました。そしてそれがユリの暴走の一端にも……
カエデのビジュアルは↓となります
【挿絵表示】
こちらも蒼人さんに描いて頂きました
ユリ同様、どことなくスクールアイドルをイメージした衣装になっているのがミソです
そんな彼女達の行く末も含め次回をお待ちください