ウルトラのキセキ ~One More Sunshine Story~ 作:がじゃまる
怪獣の出現を前に揺れ動くのは未来だけでなく……?
「……ったく、派手にぶっ壊しやがって」
焦げ付く臭気が未だ残留する、昨日まで賑やかな催しがあったはずの場所。
黒に焼かれ粉砕された一夜限りの城の残骸を握り、陸は沸き立つ感情を言霊として散らせた。
「…………ちったぁ夢見させてくれたっていいじゃんかよ」
怪獣と呼称された巨大生物。その襲撃から一夜が明けた。
ただじっとしていてもどうにもならないと参加した瓦礫の撤去作業だったが、そこで見た景色は心を抉る。
「やっぱりここだった」
「……曜か」
親しんだ気配を感じ取りその名を呼ぶ。
辛気臭い顔ばかりしても仕方ない。せめて自分だけでも前を向くような顔をしていたい。そう言っていたはずの彼女の笑みはどこか悲し気に映った。
「…いいのか? 梨子んとこにいなくて」
「……うん。ずっと私達がいても、家族の人に迷惑だろうし……」
それでもなお笑みを保つ曜はそのまま陸の隣にしゃがみ込み別な破片を手に取る。
殆ど炭と化した中、微かに残る文字は指をなぞらせた途端に崩れてゆく。小さく、一時とは言え形になったはずのそれが壊れて行く様は胸に突き刺さるようだった。
「……やっぱり、諦めきれてないじゃん」
「…………うっせ」
絞り出したような声に、それ以上の苦悶を滲ませて返す。
幼馴染……いや、最早そんな言葉も当て嵌まらない関係が故か。
口にせずとも、伝えずとも互いの考えていることがわかってしまう。本当に面倒くさいものだ。
「嬉しかった? 屋台出せて」
「……そうに決まってんだろ」
聞かずとも知り得ているだろうに、それでも敢えて問いかけてくる彼女の真意を陸は知っている。
何も変わらない。諦めているのはいつだって陸一人だ。
「こんな小っちゃい屋台だったけどさ、それでも俺には自分の店持てたみたいで嬉しかった………夢でも叶った気分だったよ」
料理が好き。既に幼馴染達には認知されている通り、それは紛れもない陸の本心だ。
その道を歩みたいという願望も常の事で、だからこそ漁港組合から屋台の枠を譲って貰った時は心底舞い上がったものだ。
「……けど結局これだよ。なんもかんもぶっ壊されて、零れていった」
無意識に力の籠った手の中で黒化した木片がまた崩れる。
「いつまでもタラタラ未練残してっからこうなんのかもな………こりゃぱっぱと家業継いだ方が―――」
「私は」
心境を代弁するかのように零れ落ち砕けてゆく
その勢いのままに流れ出る無機質な声は、相反するような熱を帯びた声により焼き払われる。
「……私は、諦めてほしくないな」
漲る想いが触れ、熱くなる。
わかっていつつも目を背け続けた。彼女からも、自分からも。引き延ばし続けた返答は時が経つほど難解に膨らんでゆく。
「陸!」
そんな折に駆けてきた親友の存在は救いだったのか。
話題を、視線を逸らすように彼へ顔を向けると、努めて普段通りに振舞う。
「おーう未来。丁度いいとこにきた、ちょっち片付け手伝って―――」
「やっぱりやるしかないんだよ!」
「あ…?」
だが寄せられたのはそんな平静を瓦解させてくるような剣幕で。
自虐を孕んだ、縋るような様は、どこか哀しさすら覚えさせた。
「翔琉達の話だよ。見ただろ? 本当にウルトラマンが存在するのを…………だったら陸だって―――」
「……まーたあの夢のことか」
ちらりと曜を一瞥しつつ小声で返す。
二人のウルトラマンが倒されて以降、翔琉と春馬は一切姿を見せていない。それが何を意味するのかも理解している。
「…悪いけど、今それどころじゃないんだよ」
伸びた手から逃れるように、手当たり次第に瓦礫を抱えては足早に距離を作った。
「……俺にゃ無理だ」
ふと、脳裏を過る˝別の世界の自分˝の姿。
特別な力とか、それ以前に。きっと彼は自分よりも強いのだろう。……理解せずとも変われずにいる。そんなもどかしさも、いつの間にか苦しいものではなくなっていた。
絶望と共に空を覆う˝
文字通りの暗雲が世界を包む中、天を駆け集約してゆく光が瞬いている。
――――『来たぞ遥…』
――――『うん…行こう!』
その真下。降り注ぐ光の柱を受け止めるように手を掲げる二人の少年。
性別も、種族の垣根すらも超え、共に歩んできた全ての者の想いを受けて立ち上がる。
―――『――………―――ッッ!!!』
全てを震わせる響きで˝その名˝を叫ぶ。
途端に舞い降りた光は形を変えて空へと昇り―――顕現した。
赤い大地の巨人と、蒼い海の巨人。
轟音を上げて復活を遂げた二体の˝ウルトラマン˝は、数多の声と共に大空へ飛び立ち―――、
「………ん」
暗い世界から一転、開いた眼に一面の白が映る。いつの間にか寝ていたらしい。
一縷の希望を抱き見上げた先には、未だに瞼を閉じたままの姉の姿があった。
「……」
妙な夢だった。自分がウルトラマンへと変身し世界を救う夢。
未来の話を聞いたからか、はたまた否定した本物のウルトラマンをこの目で見たからか。ともあれ遥の頭は妙な現実逃避に走ってしまっているらしい。
「…馬鹿馬鹿しい」
自分自身に辟易とする。
世界を救う英雄にでもなるつもりなのだろうか。奪って、逃げ続けることしかしない自分が。そんな烏滸がましいこと許されるはずもないのに。
「…あ、起きた」
握る拳に力を込めたその時、不意に背後に気配と声を感じ取り振り返る。
「国木田さん……? それと………」
「…
風に靡くカーテンを背に佇むのは同級生二人。
どうしてここに。その意を問うよりも早く、彼女達は自ら弁を継ぐ。
「勝手に来てごめんね? 遥君、昨日からずっとお姉さんに付き添ってるって聞いたから……」
「心配でたまらない、って感じだったから私が連れてきたのよ。今病院もてんやわんやで検問も何もないしすんなり入れると踏んでたけど、思った通りね」
得意気に語る彼女を花丸が不謹慎ずらと諫める。
見慣れたはずの幼馴染コントも今ばかりはぎこちなく見えた。
「ま、倒れてるんじゃないかって心配してたけど一応大丈夫そうね。ずら丸あやすのも楽じゃないんだから」
「
三人揃って梨子に視線を落とす。
包帯姿のまま目を閉じ横たわる姿は昨夜となんら変わりない。
「……外傷は別に、大したものじゃないけど……何か、精神的な要因が覚醒を邪魔してる…………もしかしたらこのまま目を覚まさないかも、って」
一気に重苦しい空気が充満するのがわかった。軽く花丸を揶揄っていた善子でさえも今は言葉を飲み込んでいる。
「……僕の…せいなんだ…………」
ズシリと圧し掛かってくるような重圧が自然と口を動かす。
「…僕が、姉さんから何もかも奪ったから……」
「遥君…?」
伝えるべきでない。話してはいけないとわかっているのに、一度堰が切れた感情は構わず言葉を羅列した。
「…………逃げてきたんだ、僕。向こうじゃ天才だなんだ色々言われてたけど、それが重くて、全部ほっぽり出して逃げてきた」
自慢じゃないが昔から周りよりも頭がよかった。
夏休みの宿題で提出した自由研究がどこだかの学会の目に付いたのはいつのことだったか。最早覚えてもいないが、それが地獄の始まりだったのは忘れもしない。
若すぎる天才。次世代を担う天才の一角。一部で囁かれ始めたその称号と期待に心を蝕まれ続ける日々。
俗世離れした肩書きに中学では孤立し、いざ君の本領が発揮できると誘われるままに入学した高校からは一月と持たず逃げ出した。時を同じくして騒がれていたもう一人の天才との合同研究とやらがあったらしいが、当時の遥に周りを気にする余裕はもはやなかった。
ただ一つ、ずっと慕ってきた姉の存在を除いて。
「……それで、家族でこっちに越してきたんだ…………姉さんも巻き込んで」
投げ出すように己の過去を吐露した後、眠ったままの姉に懺悔するように零す。
「姉さん、中学の頃にピアノで全国大会に出るくらいでさ、結構注目されてたらしいんだ………だからきっとあのまま続けてたら凄いピアニストになってたはずなのに…………それなのに僕のせいで………」
ピアノのことだけじゃない。学校や友人、東京には姉にとって大切なものが沢山あったはずなのに、全て己の身勝手で奪ってしまった。
それに関して直接梨子が遥を責めたことはない。きっと姉としての優しさだろう。
けれど昨夜、怪獣と化す前の姉に向けられた黒い憎悪は………紛れもなく彼女の心の内にあった感情だ。
「…で、でもそれが原因って決まった訳じゃ……」
「じゃあ他になんだって言うんだよ!」
感情のままに吐き出した後にハッとした。善子だけでなく同室にいた他の患者の視線までもが遥に向いている。
最低だ。更なる痛みが胸を抉った。
「……ごめん。でももう、何にもわからないんだ……」
耐え切れなくなり、また視線を落とす。
「…このままじゃいけないのはわかってるのに、進むのが、変わるのが怖くてずっと逃げてきた。自分からも、姉さんからも、国木田さん達からも……そしたらもう、何も見えなくなった」
視界が橋から滲んでゆく。
もう先が見えない。映るのはいつだって、視界を埋める白だ。
「…もう歩けないよ。進むなんて、僕にはできな―――」
その白を雫が打った時、顔全体を包んだ温もりに言葉を遮られる。
抱かれる形で自らが花丸の腕の中にある。そう気付くのに時間は掛からなかった。
「ずら丸…?」
「…大丈夫だよ」
気恥ずかしさの反面、すっと何かが晴れてゆく感覚がする。
穏やかに囁く彼女の声は、いつになく遥の奥へと浸透してゆく。
「……ごめん。まる達は当事者じゃないから、大丈夫とか、気にしないでとか、軽々しくそんな無責任なこと言っちゃダメだよね」
抱くのはまた、あのシンパシーだ。
触れているのが怖くて、何度も遠ざけたこの熱が、今度は彼女から伝わってくる。
「……でも、まる達は遥君の味方だよ」
見上げれば朱を差した彼女の顔があった。
これまで何度も冷たく接してきたはずなのに、返ってきた熱はいつになく温かく、氷を融解させてしまう。
「……アンタ意外と大胆よね」
「ッッ……!」
割って入った声にようやく彼女の腕の中から解放される。引いてゆく熱に代わって妙な喪失感が込み上げてきた。
「…長居するのもアレだし、ずら丸がオーバーヒートしそうだからそろそろ連れて帰るけど、私も概ね同意よ。ぼっち同士のシンパシーってやつ? まあそういうことだから、また今度ね遥」
呆れたように溜息をついた善子に花丸が連行されてゆく。
背中を戸枠の奥へと消す寸前、こんな独り言を置き去りにしながら。
「ああそれと、アンタがよく一緒にいる日々ノ先輩……だっけ? 今度会ったらお礼言っといてくれない? あの時言い損ねちゃったから」
破壊された町並みを見下ろす。
ここに至るまでに幾度となく見てきた光景のはずだ。今更感じるものなど何もない……そのはずだったのに。
「……」
胸の疼きが止まない。
蠢く度、痛む度に思い起こされるのは……この世界で触れた少年と少女の顔だ。
「……やっぱり、触れるんじゃなかった」
この痛みはきっと己が願いに支障をきたす。これ以上存在してはいけない痛みだ。
だからこの世界ごとそれは忘れ去らなければいけないのに………自分の心はどこかでそれを拒んでいる。
『……舞台は整いましたね』
渦巻くものを抑え込むように胸へ手を当てた時、離れていたはずの声が舞い戻るのを感じ取る。
「……今までどこ行ってたの?」
『なに、少し準備をしていただけですよ。ウルトラマンの存在が気掛かりでしたので………………けれど今となってはその必要もなくなりましたね』
黒いローブをはためかせ、甲冑を纏った˝それ˝は巨人達の彫像を眺め嗤う。
ウルトラマンは既に封じ込めた………もうこの世界に、絶望に抗う術はないということだ。
『始めましょう―――――終わりの
陸の心中と共に遥の過去が明かされる回となりました
陸の方はこのコラボの為だけに作った設定ですが遥君に関しては『大地と海の巨人』にて没になったという設定を引き継いだ形になります(確か)(記憶朧気)
そして遂に始まろうとする最後の進撃
絶望の前に立ち上がるのは一体……?
それでは次回で!